
2026/01/28
KAMIYAによるDoja Cat来日公演レポート

2025年12月15日、世間がクリスマス・ムードに湧きはじめていたこの日、Doja Catの6年ぶりとなる来日公演「Ma Vie World Tour」がKアリーナ横浜にて開催された。本公演は2025年9月リリースの5thアルバム『Vie』をフィーチャーした世界ツアーの唯一となる日本編で、(世界がより豊かで余裕のあった)80年代のきらびやかな文化にインスパイアされた、ポップに愛を歌う本作の世界観が余す所なく披露される日となった。
前作『Scarlet』ではそれまでのポップス路線を一新、客演を廃しラップに回帰したダークなテイストで衝撃を与えつつ、表現者としての突出した才覚を世に示したDoja Catだったが、『Vie』では改めてセクシーなR&B~ディスコ、メロディックなシンセ・ポップ、そして愛とロマンスへ真っ向から向き合い、堂々と歌い上げるダンサブルなポップ・ラップ路線へと回帰。SoundCloudから世界的スターへと飛躍を遂げた彼女は、紆余曲折を経た今、改めて自身の求められることをやり抜く決断をしたように写った。
それでも元来のガーリーな感性を崩すこともなく、たおやかで強く在るその姿は、確実に世界中の女性をエンパワメントしていることだろう(もちろん、女性に限らずすべてのたおやかな人々が)。当日は率直に言って極上のショー体験で、Kアリーナ中を熱狂の渦に巻き込んでいたと断言できる圧巻のステージングだった。
今回、AVYSSではDoja Catの来日公演のライブレポートをKAMIYAへ依頼。かつてはガールズグループの練習生として活動し、その後インディペンデント領域でいち早くハイパーポップの潮流に合流、現在はXanseiとのユニット・XAMIYAとしても活動する彼女は、さまざまな挫折や屈折を経験しながらも、Keshaによるオープン・バースコンテストで優勝を飾るなど、パフォーマーとしての評価も苦難の末に勝ち取ってきた。率直に、飾らず、思うままに当日の感動と興奮について綴ってもらった。かつてのブログ文化のように。
Report / Photo : KAMIYA
Edit / Introduction : NordOst / 松島広人
「So High」を流しながら、ライブに行く準備を始める。
久しぶりに聴いたこの曲は、いきなり胸の奥を掴んできた。思い出したくないけど、思い出しちゃう。でも、嫌じゃない。
初めてこの曲に出会ったのは高校生の頃。友達とApple Musicのプレイリストをシェアしたとき、上から2番目に入ってたんだっけ。
再生した瞬間、世界が変わった。こんなにセクシーで、可愛くて、胸がきゅんとなる音楽があるんだって。
そこから毎日リピート。
デートに行く前、この曲を聴いて少し背伸びしてた可愛い頃。何者でもなかった私。でも確かに、輝きたかった私。
この曲をきっかけに、Doja Catを知った。可愛いのに強い。セクシーなのに、怒ってる。ラップも歌もできて、全部さらけ出してる。彼女は「こうでなきゃダメ」を全部壊してくれる存在だった。
XG練習生の頃、何曲もカバーした。必死だった。追いつきたかった。自分も、ああなりたかった。メイクする鏡の前。今の私と、過去の私が交互に映る。
ちゃんとやれてる?
間違ってない?
どれが本当の私?
考え出したら止まらない。
そんなとき、いつもDojaのラップが耳を突き刺してくれる。「今でしょ」って、殴られるみたいに。
そうだ、今は今。
私はDojaに会いに行く。過去でも未来でもない。今、この瞬間を生きに行く。私は、今日、輝いていいんだ。
そこからはもう止まらない。Dojaの曲でテンションはブチ上がり! メイクのノリが良くて最高だ。ラップ口ずさみながら、ちょっと強くなった気がする。カラコンは紫。Dojaを意識して。目がきゅるきゅるして、きゅんとする。
メイク完成。牛柄のコートを羽織る。「Mooo!」を流して、気分は最高潮。
自撮りで確認。うん、大丈夫。今日は私、ちゃんと可愛い。私の持ってる中で1番甘くてセクシーな香水をつけて、ウィスキーを一口ぺろり。喉が熱くなる。
よし、行こう。Dojaに会いに行く!!

電車のドアが開く瞬間、「Paint The Town Red」。
乗り込んだ瞬間、現実が歪む。空がピンクに見える。世界が私のものになる……と思ったら、乗り換えで一気に現実。黒い服、無表情、刺さる視線。息が詰まる。
ふん!!!
イヤホンの音量を上げる。
今日は誰にも邪魔させない。私は着たい服を着て、したいメイクをして、行きたい場所へ行く。
それだけでいい。

横浜Kアリーナ。編集担当のNordOstくんと合流。久しぶりだ!! 元気そうで嬉しくなる。フライヤーが可愛すぎて笑う。赤と黒。クリスマスの時期とも重なって更にテンションが上がる。会場はギャルだらけ。ここにいていいんだって思えた。

ホールに入るとR&Bが流れてる、ビビッドピンクのネオンステージ。夢?現実?
オープニングアクトはSAILORR。歌声が優しくセクシーにグルーヴィ。体が勝手に揺れる。S席から見る景色。ありがたい。ダンスしながら歌う姿、リボンだらけの衣装。可愛い。強い。ダンサーと3人とは思えないほど、華やかなステージに胸がぎゅっとなる。
会場が温まっていく。私も、完全に出来上がってる。“最高女”モード。

ぷりぷりお尻を振って去っていく後ろ姿。可愛くて、誇らしくて、泣きそうになる。
ありがとう、SAILORR♡♡

そして、暗転。
シルエット。トランペット。ドラム。心臓がバクバクする。スクリーンに映る、階段を上がるDojaの足。80年代のディスコを想像させる照明。
登場した瞬間、空気が変わった。スタンドマイクを握り、足を大きく開いて歌い出す。全身からエネルギーが伝わってくる。QUEENの登場だ、、、!!
衣装にメイク、全身、ピンク、赤、緑、紫、黄色、ヒョウ柄、ウネウネ、キラキラ、ギラギラ、シマシマを纏ってる。彼女は人間じゃない。祈りそのものだ。そう思った。
1曲目は「Cards」。まさかのこの曲!?
生演奏と、Dojaの体から出る癖のあるセクシーな声。体が勝手に揺れる。スクリーンでも肉眼でも、全部見たい。追いつかない。歌にも動きにも、迷いが一切ない。全部が完成されすぎてて、ただ呆然とさせられる。
そして「Kiss Me More」。
アンセムだ。歌わずにはいられない。コールで会場が一つになる。MCは宇宙語。宇宙語の煽りを会場が追って真似する。Doja Worldすぎる! 意味なんていらない。通じてる。

彼女は色を変える。姿を変える。優しくなって、セクシーになって、怒って、獣になる。そう、女ってこう。ラップが胸に刺さる。「強くあれ」って、私に言ってる気がする。
「Juicy」。お尻を振りながら歌う姿が、あまりにもJuicy。泣く。なんでかわからないけど泣く。意味なんて考える暇ない。意味なんていらない。
そして「Streets」で溶けるように歌い踊る。フロアに入り開脚で歌う。全身が楽器みたい。どっから発声してるんだろう? どんなトレーニングをしてる? 普通ではありえない体力、体幹。プロ。
「Wet Vagina」〜「Demons」で、一気に彼女の表情が変わる。フロアに這いつくばって、吠えて、煽ってくる。怪物のよう。怒ってる。生理の時の私みたい。マイクもスタンドも、床も全部、彼女の体の一部。喰われる、完全に。蜘蛛みたいに手足をつき、舌を出し、マイクスタンドを舐める。彼女に怖いものは無いのか? 何も隠してない。そんな姿から目が離せない。

マイクコードを口にくわえたまま、「Tia Tamera」。怪しげな緑のライトの照明があまりにも似合う。狂ってる。最高。この曲、私もカバーしたけど、思い出す暇もない。これは彼女のもの。頭を振りながら歌う姿、かっこよすぎて笑える。
薔薇を観客投げるDoja! 薔薇が似合いすぎる。薔薇から生まれた薔薇を投げてる。素敵。受け取りたすぎて、届くはずがないのに、手を伸ばしてしまう。今、私はちゃんとここにいる。Dojaを感じてる。歌もラップも、全身に刺さる。痛いくらい! でも最高に気持ちいい!! そのままの姿で生きて歌ってくれてありがとう。
「Boss Bitch」。これもカバーした曲。足音が聞こえてくるんじゃないかと言うくらい、堂々と歩き、飛び跳ねるDoja。泣けてくる。ついて行きます。終盤、彼女は笑う。たくさん笑う。楽しそうに歌って、踊って、観客、光を支配する。風で髪が彼女の顔にかかる。美しい。彼女のために風が吹いてる。
最後は「Say So」。照明はこの日一番色鮮やかに。Doja、コーラス、バンド、全部が弾けて一つになる。ステージも楽器も照明も光も風も観客もみんなが笑ってる。それぞれの形で。
天使と悪魔が喜んで踊ってる宴だ〜! これこそがDivaだ〜!! 心も体も全開放。私も全開放! 祝福だぁ! 楽しすぎる〜!! ありがとう〜!!!

最後まで、彼女はブレなかった。歌い、踊り、変化し続け、生きてる時間も、揺れる時間も、全部、見せてくれた。最初は、一分の隙もなく完成されたステージだと思ってた。
でも違った。彼女のステージは、その瞬間の感情が、そのまま今この場で形になっていくものだった。それが演出だったとしても、私はそう思った。揺れも、荒さも、衝動も、取り繕わない。完璧じゃない姿を、全部見せてくれた。
それこそが、彼女の“完璧”だった。だから、私の心に刺さった。ただ整っているものが、美しいわけじゃない。
生きているものが、美しい。
正直彼女に釘付けで、会場の雰囲気と観客のノリ具合とかはあんまり覚えてない。けれど私は全てを忘れて、ただ今この時間を感じ、体の揺らし、歌い続けた時間だった。彼女が私のハートを掴んで離さなかった。
ライブが終わり、グッズのTシャツを購入して、そのまま着て帰った。その次の日のリハもそのTシャツを着て歌った。Dojaが私にはついているので、今日から私はバリバリ最強ナンバーワン!
たぶん私はこの日を忘れない。忘れていいこと、忘れちゃダメなこと、今年はしっかり整理していきたいのだけど、この日は確実に忘れてはいけない日だ。
彼女のように羽を広げたい。光をみたい。好きという気持ちに自信を持って生きたい。弱さも強さも全部私のもの。他の誰でもない、私は私だ。貫き通すんだ。夢への憧れは止まらない!
この機会をくれたAVYSSチームの皆さんに心からの感謝と祝福を。そして、Dojaありがとうありがとうありがとう、ありがとう!!
ありがとうございました!
category:REPORT
2024/08/28
カンボジア・ミャンマー・ベトナム・台湾・韓国からゲストが参加 2022年からソロアーティストとしての活動をスタートさせたKAMIYAが初のEP『GOODNIGHT BABY』をリリース。カンボジア・ミャンマー・ベトナム・台湾・韓国からそれぞれ一人ずつアーティストが参加。 タイトルにもなった「GOODNIGHT BABY」は、より良い日々になるよう明日へ希望を託し、その日の不満から逃れたいというKAMIYAの願望が込められている。先行リリースされた2曲、城に囚われた大切な人を救うためKAMIYA自身が忍者に扮して救出を試みるというコンセプトの「NINJA feat. Oak Soe Khant」と、自己愛や自尊心を大切にする気持ちをネイルやメイクで表現した「100%NAIL (Remix) feat.ChaCha」のほか、乙女の感情が揺れ動く様や人生の浮き沈みをジェットコースターに例えた「OTOME JETCOASTER feat. Liu Grace」や、”まじでラブい♡””君以外無理””あなたじゃないとダメ”という深い愛情が込められた歌詞が特徴的な「HIMITSUKICHI feat. INHON」収録。 アートワークを手掛けたmoe_magmagには、KAMIYA自身が制作を依頼。アジアから5名ものアーティストが参加した国際的なコラボEPということもあり、世界中のリスナーに作品が届くよう、日本文化の一つである二次元の女の子をイメージしている、とのこと。KAMIYAの考える二次元の可愛いギャル「カワギャルちゃん」が誕生。 KAMIYA – GOODNIGHT BABY Release date : August 28 2024 Stream : https://lnk.to/bpa_GOODNIGHT_BABYPR Tracklist M1:100%NAIL (Remix) feat. ChaCha M2:OTOME JETCOASTER feat. Liu Grace M3:HIMITSUKICHI feat. INHON M4:NINJA feat. Oak Soe Khant M5:GOODNIGHT BABY (Mist Remix)
2024/02/13
3月5日 札幌Plastic Theater 3月5日(火)、札幌・Plastic Theaterにてmostin fantasy主催のイベント<点灯>の第二回目が開催。 昨年woopheadclrms主宰の<Ukiuki Atama>から傑作EPをリリースしたナースのお仕事44クールと、日記的創作の遊園地<Next Year’s Snow>を主宰するOcta Möbius Sheffnerが映像で出演する。 現場では死没、KiRi RosE、御除霊乳房、cvel、本物が出演し、loli主語とtogによるユニットのdrone dogが初めてのVJを担当する。 フライヤーイラストはLunaticBinko。どこか不安を感じてしまう世界観の中に存在する彩度が高いキャラクターのイラストを多数制作している。Windowsのペイントツールから創り出される彼女たちは何を考えて生きているのだろうか。 子どもで居続けたい自分を客観的に見つめているからこそ生まれる苦しさ、子どもの頃の自らの感覚も大人になるべきである痛みも両方を抱えて生きていくアーティスト9組が集結。音楽だけではなく、それに付随する刹那的な衝動も長い間燻らせてきた感情もぜひ現地で見届けてほしい。 開催に際して、出演者の好きな動画で構成されたyoutubeプレイリストも公開されている。 また、本イベントの前日3/4(月)には、同じくPlastic Theaterにて出演者である本物が主催する<大日如来>の第二章が開催される。mostin fantasyと本物に加え、点灯Ⅰにも出演したmaofumin, そしてDOG NOISE, KASAHARACORE with friends, mond_szk, uchuj1n, ひじちゃん, 希死だsorry, EBI, kamisonがDJで出演。 大日如来とは、札幌の若手実力派アーティストが集いそれぞれの境地を目指す究極系リアリティショー。点灯Ⅱと両方参加することで、より深層へと潜ることができるだろう。 あなたは自分をこどもの中に区分して生きていますか?それともおとなのふりをして生きていますか? 最後にこどもの頃のじぶんと対話したのはいつなんだろう。おとなの自分の後ろに隠れて怯えていたり隠れていたりして、自分のことを教えてくれたりなんてことはないのだろうか。純粋無垢なこどもの頃の自分なんてもうどこにもいないのだと思う。 昔の自分はこどもの頃のことを教えてくれなくても、ぼくはこどもの頃の自分の面影を追い続けている。 床に落としてしまい、衝撃で鳴ったメロディを最期に鳴らなくなってしまったオルゴールに物質としての死、壊してしまったこと。もう二度と聴くことのできない悲しみを理解してたくさん泣いたときに口の中がしょっぱかった感覚をずっと忘れられない。 泣いた記憶と楽しかったときの記憶が混ざり合い、ぼんやりとしか思い出せない。考えるだけで泣いてしまいそうになる。 幼少期のうれしい記憶とかなしい記憶、どっちが鮮明なのだろう。 児戯性とは:子供のように朗らかで感情に深みがないこと。小さな子供の感情や行動を思い浮かべる。幼児退行。 客観性はそれを他者の視点から眺めるということ。 大人になるにつれ、子供らしさを捨てて大人としての振る舞いを急に周囲から求められる。 ぼくは大人になっても子供としての自分をどうしてもなくしたくなくて、それが許されないことも全部わかっている。 子供として扱われるべき時期にぼくは小難しいことを考え続けた。大人でも考えないような哲学的なことを。 その結果、ぼくは子供になることができない数年間があった。 今でも子供だと思い込み、そう振舞っているけれどぼくは大人にならなきゃいけないらしい。 そういうくるしみはみんなにあると信じたい。 いまは大人にならなくていいし、子供のような衝動性も音楽も叫びたくなるたくさんの感情も全部を享受したい。 大人になりきれないくるしみも、子供でいたいきもちも全部をたいせつに。割り切れないものも純粋さも痛みも全部抱きしめて。 text by asagi neluna 点灯 2024.3.5(Tue) Open: 19:00, Start: 19:30 ¥2,200 at Plastic Theater ※予約(3/3締切)で1ドリンク無料 ナースのお仕事44クール (video) 死没 drone dog (tog + loli主語, VJ) KiRi RosE 御除霊乳房 cvel Octa Möbius Sheffner (video) 本物 Flyer: LunaticBinko 大日如来 第二章 3/4(月) OPEN 18:00 @札幌 PLASTIC THEATER 入場 1,000円 大日如来は、札幌の若手実力派アーティストが集いそれぞれの境地を目指す究極系リアリティショーです。 主催:C.M.P. CREW 【出演者】 DOG NOISE mostin fantasy KASAHARACORE with friends maofumin mond_szk uchuj1n ひじちゃん 希死だsorry C.M.P.
2025/10/21
ラッパー・igaによるTyler, The Creator来日公演レポート 2025年9月9日・10日に東京・有明アリーナで開催された〈TYLER,THE CREATOR CHROMAKOPIA: THE WORLD TOUR〉。8年ぶりの来日となる本公演は無数の人で溢れかえり、昨年リリースのヘビーな大作『CHROMAKOPIA』を基調としつつ、それとは対照的なテンションの最新作『DON’T TAP THE GLASS』にまつわる演出も入り混じった内容となったようだ。 AVYSSでは本件のライブレポートを、福井出身・現在は東京を拠点とする2005年生まれのラッパー・igaに依頼。2020年代以降の日本を取り巻くオルタナティブなラップシーンにおいて、決してラッパー然としたラッパーではなく、しかしラップへの愛に溢れた弱冠20歳の彼がまっすぐ見つめた、オルタナティヴ・ラップの巨人の姿をここに記録する。 Report / Writing : iga Edit / Introduction : 松島広人 / NordOst 僕が中学2年のころ、『IGOR』というアルバムがリリースされた。 当時は自分でディグして音楽を聴き始めたばかりだったからリリースから多少のずれはあったけど、チェックして衝撃を受けた。『IGOR』収録の「A BOY IS A GUN」にかなりグッときて、何度もリピートして登下校時に聞いていた。当時は音楽すら作り始めていなかったけど、僕が頭の中でやりたいことの先をやられた感触が確かにあって、軽く嫉妬したのを覚えている。 それから6, 7年が経った今考えると、大きな影響を受けているような気もするし、ほとんどないような気もする。けれど、僕はこの日、田舎の地方都市で学生をやっていたころの匂いを少し思い出した。 9月10日水曜日に有明アリーナで開かれた、Tyler, The Creatorの来日公演のレポートをAVYSSに依頼され、西武新宿線から三回も四回も乗り換えて江東区の埋立地に向かった。僕はこういう書き仕事をしたことも無く、ただの若手ラッパーでしかない。だから、レポートというより飾らない素直な感想、って感じにはなると思う。その素直な感想を伝えられるよう頑張ります。 地下鉄丸ノ内線、赤坂見附。名前が渋すぎる。混み合う電車では前の人のルイヴィトンのバッグが足に当たる。銀座から有明アリーナに向かうバス停は長蛇の列だ。満員のバスを何台か見過ごして「無理!」ってなった海外の人たちとタクシーに相乗りして向かう。みんなTylerのファン。 車窓から見える景色が凄い。首都高で遮られる空、埋立地に浮かぶタワーマンション、僕が見覚えのあるものはひとつもなかった。お台場を通る。Normcore Boyzのフッドはこの辺か、羨ましいのか、何なのか。東京は、ここがいい場所なのかすらよくわからないほど、すべてがファストに進む。 ちなみに、スタジアムやアリーナでやってるような、ちゃんとチケットを取って観に行くようなライブはこれが初めてだった。アングラな感じのクラブとかじゃなく、ちゃんとした会場での音楽体験って意味でも初めてのこと。とてもそわそわしてきた、楽しみだ。 そんな東京へのざれごととか、いろいろ、頭の中でぼやいていたら有明アリーナに着いていた。お客さんの層は若い男女が多く、人もかなり入っている様子だった (15000人ほどらしい、凄い)。みんなかなりオシャレ。お酒を頼みに行ったら、DJのasterisk*くんとばったり。彼は1Fの後ろの方の席だったみたいで、Paris, TexasやTylerの姿が全然見えないと嘆いていた。ドリンクの長蛇の列に並んでいる間に、もうParis, Texasが始まってしまう。 急いで席に着く。僕はステージ右上2階の席だった。初めてのS席。会場は既に熱気で溢れかえっていて、Paris, Texasは会場のそういう雰囲気をすでに掴んでいる感じだった。完璧に3人で掛け合うスタイルが気持ちよく、彼らの提示するSWAGがフロアにちゃんと届いていた印象。日本のラップのライブではなかなか見られない、観客とのコール&レスポンスが自然に起きていたのも新鮮だった。会場のボルテージが一気に上がる。いいライブを作るために、Paris, Texasは色々な角度からアプローチしていた。 大きいステージというのもあってメリハリがない少しのっぺりとした音響だったけど、彼らのバイブスの高さを見ているとすぐにそんな懸念は消えていった。30分ほどのパフォーマンスを終え、アカペラしながらParis, Texasの3人は退場していく。素晴らしいオープニングアクトで、この時点でかなり満足感があった。 長い沈黙を経て、いよいよライブがスタート。「スマホいじるな」「座るな」「悪口はNG」の文字がバックグラウンドのモニターに浮かびあがる。ニューアルバムにちなんだ、今日を楽しむためのルール。楽しみ方はこっちが勝手に決めるわ、とか思いつつ、スマホをポッケにしまった。 1曲目は『DON’T TAP THE GLASS』から「Big Poe」。今回、ほとんどの曲がライブセット用に繋がっており、飽きさせないように完璧に組まれていた。この大舞台でも全く緊張など見られないほどラフに、同時にスピットしている。照明も、展開も、観客も、全てを利用してタイラーは空間を作って行く。静と動のコントラストをジャックして、時にはシャウトに近い歌で。既に僕は完璧に掴まれていた。 3曲目、今回のツアーテーマである『CHROMAKOPIA』から「St. Chroma」では冒頭のドラムに合わせて観客が手を叩いて参加する。視認できないほど大きいフロアは真っ赤な照明に包まれた。言葉にならないシャウトからのこの曲のフックを迎える。展開もかなりカオスなものになっているが、今は誰もそんなこと気にしていない。今この場を楽しむことに全員が必死になっているような、体験として持ち帰らないと損や、刮目しとこう、そんな空気。そう思わせるパフォーマンス。 ファッションもかなりヤバい、全身真っ赤。キャリア初期から感じていたスタイリングへのこだわりは今なお健在。Tylerはつんざくようなラップをしながらキャップの角度を何回も変える。オルタナティヴだし同時にユニークさも一目で分かる。個人的に『Flower Boy』『IGOR』以降かなり独自性に磨きがかかっているように見える彼の現在を、存分に感じている。そういえば今回、Tylerのブランド〈Golf Wang〉やマーチなどの物販もやっていたようで、彼のTシャツを着ている人をかなり見かけた。着飾ることへの影響力も半端ない。 少しMCが挟まり、展開的には第二章みたいな流れ。正直ここからは僕はほとんどメモを残せなかった。凄い体験だった。激しいストロボと爆音の最中にいた。彼は王道のヒップホップから少しはみ出したアーティストだと思うが、この日のショーには本質的な意味でのラップの良さ・面白さが詰まっていたように思う。スピットは続く。Tylerは手前に伸びている形のステージを歩いてきて、少し広くなったあたりに座り込んだ。 僕はこのパフォーマンスにかなり感動した。個人的に今回で1番だったかもしれない。優しい旋律の上で、声を駆使して展開を作っている。純粋なラップのみでテンポを刻む。どんどん声量が上がっていき、最後は圧倒的なシャウトで〆 (「Take Your Mask Off」)。テクノっぽいネタと早いビートの上でラップが繰り広げられる(「Stop Playing With Me」)。 手札がありすぎて感動した。もはや手札とか、そういうことではないのかもしれないけど。 この曲が終わると、照明が全部焚かれてかなり明るくなった。「thank you ありがとう」彼の片言の日本語が、妙にまっすぐ響く。古い曲をやるとのことで、過去曲の短いメドレー的な流れが始まった。もはやアンセムな「EARFQUAKE」がかかり、ここ1番の熱気に溢れた。live verとして完成度がかなり高かった。Tylerの独特なパフォーマンスも個人的に好感触で、今回も本人がダンスを披露していた。全体的にリズムキープや、彼が歌う所と、逆にお客さんに歌わせる所の使い分けが完璧だった。センスもあると思うけど、それ以上にキャリアの長さ、積み上げてきたからこそ、の美しさだった。Frank Oceanとの「she」など、昔の曲も披露してくれた。嬉しい。 ステージに寝転がるTylerを、カメラが映画のワンシーンみたいに美しく捉えている。通路に降りてラップしながら会場を駆け回る。みんなとても嬉しそう。お客さんに求める姿勢が良く見られる、マイクを客に向けたり、掛け声で鼓舞したり。「Like Him」がかかると、もうクライマックス。みんなで歌えて良かったな。 個人的に、というか、反応を見てる限り、みんな大好きな「NEW
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