オーディオヴィジュアルの新境地を体感|〈AVYSS BOX〉レポート

テクノロジーで拡張、先進性に満ちた音楽×映像のショーケース

 

 

繁華街の喧騒からわずかに距離を置き、新宿御苑の一角に密かに佇む特殊空間スタジオ・BLACKBOX³ 。あらゆるクリエイションに実験性を付加するべく運営されるこの場所で、時代をアップデートする個性のある音楽やカルチャーを日々記録するプラットフォーム・AVYSSとのコラボレーション企画〈AVYSS BOX〉が、6月17日に開催された。

 

本公演ではラッパー・Travis Scottのイメージヴィジュアルやレーベル〈YEAR0001〉のアーティスト・Dark0のの映像作品を手掛ける、フランスのヴィジュアルアーティスト・Sybil Montet aka scryingᵗᵐをVJに迎え、アクトにはAVYSSとも縁ある日本のアップカミングなインディーアーティストを招いた。サウンドが主でもヴィジュアルが主でもない鮮烈な視聴覚体験を提供する実験的な試みながらも、大きな反響を集めた。

 

また、AVYSSのYouTubeチャンネルにて当日のライブアクトの一部がアーカイブビデオとして公開中。本公演に足を運ばなかった方も、映像美と繊細なサウンドの奔流を追体験できる。

 

 

Sybil Montet / scryingᵗᵐ

 

scryingᵗᵐは、フランスのアーティストで3DアニメーターSybil Montetのパフォーマンス名義。彼女の作品は、計算、有機性、ファンタジーの間の共時性を調査しながら、新興テクノロジーの難解な可能性と、権力システム内での手段化を探求している。コンピューターグラフィックスや3Dプリントによる彫刻を通して、架空かつ批評的なエコシステムを構築し、A.I.の実験的応用にも取り組んでいる。Ecole BoulleでHaute Joaillerieを学び、SAE schoolでビデオ編集のBAを取得した後、独学でコンピューターグラフィックスを学び始めた。現在はCGIディレクターとして自身のクリエイティブ・スタジオを運営し、ファッションや音楽業界を中心に活躍している。Sybil Montetは最近、Nasjonalmuseet Oslo (NO), Von Ammon Co gallery Washington DC (USA), Kunstverein Freiburg (DE), Cai Guanshun Cultural Center Beijing (PRC), Zaza Gallery Milan (IT), Exile Gallery, Berlin (DE), Futura art center Prague (CZ) で展示を行っている。また、彼女の作品は、Cura Magazine, Flash Art Italia, Studio Magazine, Coeval Magazine, Numéro Berlinなど様々な出版物で紹介され、プラダ財団ではアートプラクシスとしてCGIについて講義を行った。Sybil Montetの稀有なライブビジュアルパフォーマンスは、没入型SF蜃気楼であり、ハイエモーショナルの漂流と夢のような状態を誘発する。

 

scryingᵗᵐによる空間演出に応えるアクトには、AVYSS主催のイベントのほか国内の各所で活躍するアップカミングな才能を招き開催。サイケデリックトランスからヒップホップ、ゲームミュージックやアンビエントに至るまで、ポップセンスと実験性を併せ持つ多種多様の音楽ジャンルが交差したこともポイントだ。パンデミックの荒波を越え、再び世界各地から来訪するアーティストによる来日公演が盛んに開催されるようになった昨今、あえてヴィジュアル面を国外のゲストに委ねつつサウンド面ではローカルアクトのフックアップを行う姿勢には、AVYSSが2010年代より見据えてきたインディーのその先の姿も感じられた。

 

国内インディーシーンの才能たちと共鳴する鮮烈な映像美

 

オープニングアクトを務めたのは、AVYSSのディレクションのほかエクスペリメンタルな電子音楽家として類を見ない独自の活動をマイペースに続けるCVN。実験精神とポップセンスが溶け合う異形のサウンドを、scryingᵗᵐによる映像演出がトランシーな側面を強固に補うアクトを披露した。実験音楽家として国内外の先鋭的なコミュニティと共感する世界観は、各所との交感を経てより開かれたものとしてポップに昇華しているようだ。

 

 

続くillequalによるDJセットでは、Maltine Recordsからのリリース作などに通底するドライながら感傷的でもあり、時に激情に身を委ねるようなユースの心情を、UKテクノシーン派生のサウンドと巧みなスキルで接続して見せた。BLACKBOX³の全方位型ヴィジュアルに対し、クラブとWebのいずれにも偏らないセレクトで応える切れの良いセットで、イベント序盤のスターターとして場のボルテージを上昇させていく。

 

ラッパーでもシンガーでも無くスタンドアローンに活動する、神秘主義的な美しさを内包したMilkyによるライブセットではとある著名なドラマCD等からのボイス・サンプリングを挿入しつつ、時にダウナーに、時にアッパーに、会場の空気感をコントロールしていく。

 

 

アンビエントやドローン・ミュージックを再解釈し拡張するかのようなW.ANNA.Wによるアクトではトランシーなサウンドスケープに呼応するかのように、scryingᵗᵐが流体的なイメージと奥深い森林のようなヴィジュアルをミックスし、音楽表現への没入感をさらに高めていった。イベント全体に通底するデジタルな質感のなかに潜むある種の有機的なムードも、VJ表現と二人三脚で徐々に顔を見せていくようなグラデーションには、息を呑む美しさがあった。

 

 

中盤に差し掛かり、フィンランドのサイケデリック・サウンドを軸にプレイするトランスDJ・Hënkįのトリッピーなアクトから、ラップゲームの外側で自由闊達に活躍するラッパー・DAFTY RORNのグリッチ感あふれるエネルギッシュなパフォーマンスへとバトンが渡され、スタジオ観覧という隔絶された体験から自然にヴァーチャルなクラブ体験へ移行していく。その推移のなかでも、全面に広がるLEDビジョンに投影された映像が確たる主役として輝き続ける様子は、仮想空間上においても実在するクラブ・ライブハウスでも決して体験できないものだったことは間違いないだろう。

 

 

終盤には宇都宮在住のオルタナティブ電子音楽家・Hitoshi Kojimaによる希少なライブセット、SoundCloud上に出現した”Digicore”ムーブメントに共鳴しつつも自身の道を独り歩む美学を携えたポエトリーラッパー・vqによるライブが披露され、いつしかイベントの色は個々人に広がる青々とした心情を刺すようなムードへと移り変わる。キャリアのなかで後年歌心を育んでいったHitoshi Kojimaの慈愛と哀愁に満ちたサウンドが、vqの表現する葛藤や苦難、そしてその先にある(かもしれない)希望を掴むためのポエトリーラップへとバトンを渡す。各アーティストの珠玉の魅力を自然体のまま切り出したかのような鮮やかな一幕だった。

 

 

 

ラストには国内外の最も新しい音楽シーンにいち早く反応し続けてきたベテランDJ・YONEDAとレールを脱線し続けながら徘徊を続けるNordOst、ピュアな音楽ラバー2名によるユニット・SxC LoserのVGM(ビデオゲーム・ミュージック)をフィーチャーしたアクトが披露され、来たる夏への憧憬を感じさせる幕切れとなった。

 

以上をもって、第一回目となるAVYSS BOXは完結した。日々さまざまなイベント、パーティーへと足繁く通う筆者をもってしても未体験ゾーンとなる一日であり、音楽・空間・映像のいずれかが主となることもなく、あらゆる方面の表現が対等なものとして発露し、それを観客各々が自身の審美眼をフィルターとした上で吸収するという、アートにおける理想的な相互関係が成立していた。日本、ひいては世界的に見ても類を見ない先進性を持つ本イベントの意義が多くの方に伝わる確証がたとえなかったとしても、この先にある(かもしれない)オーディオヴィジュアル表現の未来は明るい。

 

text by NordOst / 松島広人

 

 

AVYSS BOX

日時 6月17日(土)

会場 BLACKBOX³

 

Live Visuals

scryingᵗᵐ

 

ACT(A-Z)

CVN

DAFTY RORN

Hënkį

Hitoshi Kojima

illequal

Milky

SxC Loser (imaginary VGM set)

vq

W.ANNA.W

 

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