ルッキズムの問題に切り込む 高橋鮎子の個展「Kalavinka」開催

服飾や美容の歴史を参照した新作を発表

 

 

この度、TAV GALLERY において、服飾史を参照しながら、ファッションと身体の規準との関係に言及する作品を通してルッキズムの問題にとりくむアーティスト・高橋鮎子の個展「Kalavinka」を10月14日から28日までの日程で開催します。

 

高橋鮎子はこれまでに、平均的ないし標準的な身体として偶像化されているトルソをモチーフとした絵画や、三途の川のほとりにあり、亡者から剥ぎ取った衣服を枝にかけ、その垂れ具合で生前の罪の重さを計るとされる「衣領樹」を模した立体作品、あるいは、他人の目に苛まれる地獄を描いたサルトルの戯曲「出口なし」を下敷きとしたインスタレーションなど、さまざまな形式の作品を発表してきました。

 

今回の個展では、スカーフやネックレスなどの首飾りに着想を得た新作を中心に発表します。首飾りは、首に装着することで体の前面の中心に呈示しやすく、アクセサリーのなかでも最もバラエティーに富んでいます。現代においては装身具として用いられることがほとんどですが、古来よりその用途は様々であり、獲物の骨牙をつなぎあわせることで狩猟の技量を誇示するものや、富ないし権力の象徴であるもの、宗教的あるいは呪術的な意味が込められたものなど、きわめて多義的なモチーフであると言えます。

 

真珠養殖の普及に成功した実業家・御木本幸吉は、「世界中の女の首を真珠で締めてみせる」と豪語したといいます。その野望はむしろ、真珠の養殖化によって、従来ほとんどペルシャ湾産に限られていた天然真珠産業が打撃を受け、油田開発に舵を切ったことから、石油の時代が到来したと言われているように、思いもよらぬ歴史的な展開に帰結しました。

 

複雑なコンテクストをもつ頸飾のなかでも、スカーフは特に奇妙な発展を遂げています。近年、エルメスの開発した「ハンギング・システム」が人口に膾炙し、スカーフを壁に吊り下げて飾るカルチャーが広がりを見せています。額縁をつける「邪道」なディスプレイ方法も流行し、新しいかたちの――しかし、きわめて規格化された――絵画として進化しているとも言えます。

 

壁飾りとしてのスカーフは、鹿頭の剥製に代表される「ハンティング・トロフィー」にも似ています。本来であれば首に巻きつけて使用するはずのスカーフが、広げられた状態で吊り下げられている光景は、見せしめに磔にされた晒し者、あるいは、切り開かれて吊されている屠殺された牛の姿を想わせ、凄惨に映るかもしれません。

 

展覧会タイトルの「Kalavinka」(カラヴィンカ)は、梵語で「美しい声」を意味し、仏教における極楽浄土に住む半人半鳥の生物「迦陵頻伽」(かりょうびんが)に由来します。その美麗さに魅惑され、多くのひとが耽溺する美容やファッションの世界ですが、そこは果てしない執着の地獄とも言えるでしょう。文化や慣習のなかで当たり前のように行われていることに対し、批判的なまなざしを投げかけ、その滑稽さや残酷さを呈示してみせる高橋鮎子の作品に是非ご注目ください。

 

飯盛 希

 

 

開催概要

名称:高橋鮎子 個展「Kalavinka」

会期:2022年10月14日(金)- 10月29日(土)

会場:TAV GALLERY(東京都港区西麻布2-7-5 ハウス西麻布4F)[080-1231-1112]

時間:13:00 – 20:00

休廊:日、月

レセプションパーティ:2022年10月14日(金)18:00 – 20:00

Webhttp://tavgallery.com/kalavinka/

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