2022/03/01
私生活のムードからモードを鳴らす
パソコン音楽クラブは3rdアルバム『See-Voice』で、誰もが自己内省を余儀なくされた日常の中に潜むミニマムなノスタルジーを奥ゆかしいソフトなサウンドに委ね描いた。パソコン音楽クラブのこれまでの作品群にはコンセプチュアルな情景が取り巻いているが、本作は近年のパンデミックの影響下における彼らの内面、閉塞感から一歩踏み出すかのような心模様がささやかに紡がれている。
先日リリースされたリミックス・リワーク集『See-Voice Remixes & Reworks』ではオリジナル曲に参加したボーカリストのリワークに加え、川辺素(ミツメ)、Aiobahn、ind_fris、リョウコ2000といったパソコン音楽クラブとシンパシーを感じるアーティストらが参加し、さらなる視点から心理的な像が結ばれた。今回、リミックス・リワーク集のリリースに際し公開された解説サイト上にて「完成前からリミックスを頼みたい」とパソコン音楽クラブからラブコールを受けていたリョウコ2000との対談インタビューが実現。昨今の私生活に漂うムードから両ユニットのコアとなる音楽性についてまで、日本の若手電子音楽家ユニット同士がゆるく深く語り合った。
Text by yukinoise
『See-Voice Remixes & Reworks』のリリースおめでとうございます。今回はリミックスに参加したリョウコ2000との対談ですが、制作のどの段階で彼らにリミックスをお願いしたいと思いましたか?
西山(以下:西):See-Voiceの制作中にリョウコ2000のEP『Travel Guide』がリリースされて、僕と柴田くんがすごい共感したんですよね。曲を聴いたときに立ち上がってくる音の質感や匂い、雰囲気とかが現に自分たちがやりたかったものに通ずる部分があったり、彼らのモードにシンパシーを感じたんです。『See-Voice』収録曲の『海鳴り』は手法的にも近いものがあって、ぜひリョウコ2000が触ったサウンドを聴いてみたいなと思ってリミックスをお願いしました。
noripi(以下:n):自分たちも『See-Voice』を聴いて共感する部分があったのでリミックスをお願いされて素直に嬉しかったです。
お互い共感しあう作品だったということですが、どのようなところに共感しましたか?
n:作った側だからこそわかる部分かもしれないけど、2021年のムード感ですかね。
西:コロナ禍を音楽で表現したいわけじゃなくても、コロナ禍で暮らしたり制作をしている以上いまの状況やムードが自然と作品のモードに反映されてしまう気がしてて。僕らは淡々と自粛生活を過ごしていく中で世の中に対して何か発信するなら、コロナ禍で感じた抑圧や大変さではなく、柴田くんや自分自身に内省を投げかけて深みに入っていく作品を作ろうと思いました。リョウコ2000も同じようなアプローチでアルバムを作ってるなという印象を受けましたし、そういう作品が身近なところにはあまりないように感じたんです。
柴田(以下:柴):実は最初『See-Voice』のアートワークを『Travel Guide』やリョウコ2000のアーティスト画像を手掛けてるイラストレーターの竹浪さんに頼もうとしてたんですよね。制作を進めていくうちに水族館の建物のイメージがしっくりきて、僕らのアートワークは水族館の写真に決まりましたが、竹浪さんのイラストにあるフワッとした感じや言葉にできない感情を音楽でやりたいんだろうなというところに僕はシンパシーを感じました。ピアノ男さんがラジオ〈アフター6ジャンクション〉への出演時に『Travel Guide』について「心の旅行」って話してたじゃないですか、あの感じです。
ピアノ男(以下:ピ):このタイトルを名付けたのはnoripiなのでどういう意味なのかは本当のところわからないけど、個人的にはこのトラベルは実際の旅行じゃないんです。制作時は緊急事態宣言も出ててどこにも行けるような状況じゃなかったので、心の中への旅行のような意味づけですね。
n:EP自体には明確なテーマはないんですが、去年のはじめに自分の親が亡くなってしまって急遽実家に帰省していたんですがその移動の新幹線に乗ってる時にタイトルとトラック名が全部思いついてそれを使用してますね。個人的ではありますが自分の親に少なからず向けてるところもあります。あとコロナ禍の真っ只中なのでこのEPを聞いてどこか遠くへ意識を飛ばして欲しいみたいな気持ちもあります。
西:『See-Voice』のタイトルやテーマになっている海もまさに似たような意味づけなんですよ。コロナ禍で旅行にも行けないから海にでも行ってしんどいことから解放されたいなって願望や、エスケーピズムとはちょっと違う内的な感情のメタファーが海や水みたいなものでして。アルバムを通して自分たちの内省や曲ごとの変化を出しつつ、14曲を聴き終えた頃には聴く前より少し自分のマインドが変化しているなって感じを伝えられたらと思いました。『Travel Guide』の旅行感もきっとパソコン音楽クラブが『See-Voice』でやりたかったことと同じベクトルを偶然にも向いてる気がします。
偶然にも近しいムードを感じ取っていたんですね。両者の作品はコロナ禍に対するメッセージ性は前に出てないものの、自己内省的なテーマが強くありコロナ禍が避けても通れぬ道だった印象を受けました。実際、自粛生活や制作中にどのような過ごし方をしていたか知りたいです。
柴:僕はネットカフェばっか行ってました。家にいても気が滅入るだけなので、近所の漫画喫茶でNANAや東京リベンジャーズ、鬼滅の刃とかを全巻読んだりしてましたね。流行りもんなだけあってそりゃ面白いわって思いながら過ごしてました。音楽面だと、ここ1年は激しい音楽をあまり聴かなくなったなと。
n:僕もそうで、クラブで聴きたい音楽を家では聴かないようになりましたね。嫌じゃないんだけどクラブミュージックはクラブで聴きたいというような住み分けが自然とできてしまって。
西:僕はそれが加速しすぎて、家でモニタースピーカーでちゃんと音楽聴こうとするのがしんどくなってきました。最近買ったAppleのHomePodってスピーカーで適当に聴くのがちょうどいい。『See-Voice』や自分で作った曲をそれで聴くと、遠くから流れてくる余韻みたいな聴き方ができて楽です。
ピ:コロナ禍で在宅ワークしてるとしんどいし、しんどい時に激しい音楽なんて聴けるわけがないから自然と耳にするサウンドはそうなっていくよね。去年は特に久石譲の作品とかをよく聴いてました。
西:僕らも電子音楽ってよりかは宅録系やこれベース入ってるのかな?ってくらいのスカスカな音楽を聴いてた気がします。マスタリングされてないんじゃないかってレベルに音圧がしっかり上がってないようなコンピレーションとか。
柴:特に制作中は久石譲やゴンチチ、あと服部克久の音楽畑とかイージーリスニングが生活にフィットしてた。そういうモードや余韻がアルバムに反映されてると思います。
n:新譜ももちろん追ってたけど、中高生のころ聴いていた作品を振り返ってもう一度聴き直すことをしてました。元々好きだった分素直にいいなと感じるだろうし、今の価値観で聴いたらどうなるんだろうなって思ってハマったのが中谷美紀の『私生活』。
柴:あれは最高ですね、前noripiにオススメされて久々に聴いたらめっちゃ良かったですね。
n:去年からいまに至っても空気感を引きずってる。他にもサニーデイサービスみたいなバンド、クラブミュージック以外のサウンドから影響を受けました。唯一クラブ的な影響があるとしたらThe ChameleonのLinksやGood Looking Recordsとかかな。
西:電子音楽やクラブミュージック以外がリファレンスになってるのもお互い一緒ですよね。僕らも制作中はSKETCH SHOWや戸田誠司のソロ作品、柴田くんが勧めてくれたムーンライダーズの鈴木さんが主宰してた水族館レーベルの若手宅録家コンピとかで。イージーリスニングではないけど軽いリズムマシンの上でギターが鳴ってるような音源やMio Fouも聴いてました。電子音楽じゃないところからリバーブの感じを感じを勝手に電子音楽的に捉えて聴いてみたり、自分たちの制作において打ち込みで再現してみたり。生活にフィットする感じが本当に感動的で、まさに私生活ってフィールがありました。
柴:私生活で気になったんですけど、noripiさんの生活リズムって普段どんな感じなんですか?
西:確かにTwitter見てると朝めっちゃ早い生活してるよね。
n:多分ショートスリーパーなんだと思う、ここ3-4年は2時間の睡眠を3セットくらい繰り返してる感じ。なんでこんな生活リズムになったかわからないけどこれが一番落ち着くんですよね。
柴:どういう環境下でそのセットをしてるんですか?ベッドで?
n:寝袋で寝てます…。
(一同大爆笑)
西:なんで寝袋になったんですか?
n:断捨離にハマってた時期があって、全部捨てちゃおうってモードになってベッドまで捨てました。でも僕ミニマリストではないんですよ、頭をもっとクリアにしたかっただけで。
西:収集してた雑誌を断捨離してるとは話に聞いてたけども、ベッドまで捨ててるとは。
柴:なるほど、部屋にダンプデータが多かったってことですかね。僕も家にベッドがなくてソファベッドで寝てるから同じく2時間くらいで起きちゃうのはわかる。noripiさんも僕みたいに睡眠環境が普通とは違うタイプなんだろうなって思ってたんで、謎がいま解けました。ピアノ男さんは?
ピ:普通にベッドです、寝袋は身体痛くなるでしょ。
私生活を含め近いムードを感じ取ってるだけあって、今回の制作にあたって影響を受けたサウンドの雰囲気もリンクする点が多かったんですね。他にも同世代でユニットとして活動されていたりとパソコン音楽クラブとリョウコ2000は重なる点があると思うのですが、両者の音楽的なルーツなどは異なるところにありますよね?
n:ルーツでいうとハードコアが2人の基本にありますね。リョウコ2000も当初はいわゆるクラブ的なハードコアやブレイクコア、ガバをやっていくはずだったんですがいまは見え始めたいろんな音楽を自分たちのやれる範囲で取り組んでいます。
ピ:やっぱりハードコアが大きなルーツとなっているけど、僕もnoripiも相当いろんなジャンルの音楽を聴いてきたつもりではあるのでその幅広さも僕らのコアになっている。だから1作目と2作目ではサウンドが全然違いますし、それって触れてきた音楽の幅広さがないとできないことだと思いますね。
ハードコアを軸にしつつなかなかの幅広さがあるところがリョウコ2000の特徴だと思います。普段どのように音楽をディグっているんでしょうか?
n:コロナ禍になる前はBandcampを中心にディグっていて、コロナ以降はあまり良くないかもしれませんがYouTubeにフルアルバムを違法アップロードしているチャンネルから探したりしてます。中谷美紀の「私生活」との出会いもYouTubeで、そういうチャンネルはチャンネルごとに色が違っていたり自分の中にない要素まで行き届くようなコンテンツが多くて。最近はYouTubeチャンネルから探すことが多いです。
西:YouTubeは場合によってはサブスクの限界を超えてきてますよね、中谷美紀は「私生活」だけ配信されてないし僕が聴いていたMio Fouもサブスクにはない。YouTubeの外国人のディガーのチャンネルとかはAIのサジェストよりもっと人間の有機的なセレクトがあるし、サブスクのサジェスト機能だけじゃたどり着けない領域まで探せる。
柴:色が強いチャンネルを見てると友達がたくさんCDを貸してくれたような気分になりますね。
ピ:僕は検索大好きなので、AIが気に入りそうなのを出してくれるよりかは友達のBandcampやTwitterのいいね欄から目ぼしいものを見つけて、関連ワードをどんどん調べていってます。友達のCD棚を勝手に漁ってる感覚に近い。
柴:パソコン音楽クラブのルーツはなんだろう…僕自身は音楽じゃなくて「ぼくのなつやすみ2」ってゲームが好きで、小学生の頃は将来これを作れたらいいなって思ってました。あれってストーリーはあるけどどちらかと言えば雰囲気のゲームで、いま音楽やってるのも雰囲気が作りたくてやってる感じです。打ち込みかつ2人だったらバンドよりも雰囲気作りができるなと思って。そういう話を西山くんとよくしてます。
西:ジャンルとかで音楽を理解してるんじゃなく、いろいろなものを聴いてそこから共通点を勝手に見出してその雰囲気の集合体から曲を作ってる気がしますね。イージーリスニングや宅録系のリバーブの感じを思い込みで電子音楽っぽくしたりしちゃっても、それを認めてくれるのが柴田くん。他のアーティストやちゃんとDJやってる人から見たら怒られそうだけど、パソコン音楽クラブはジャンルに根差しすぎすお互い自由にのびのびやれてるところがコアになってるかも。
柴:自分たちのフィール、モードでやってる感じですね。人が作品から何かを感じるときって、どうしてそういう感覚が立ち上がったのかを直線的に説明するのはあまりにパーソナルすぎて大変なんじゃないのかと思っていて。そのパーソナル具合を紐解いて行って音楽を作るとなると、どうしても音楽性みたいなものの幅は広くなってしまう。音から立ち上がってくる匂いや共通項で語りたい。
西:でもパソコン音楽クラブのテクノ感は柴田くんが作ってるよね。DJツール的なテクノってよりかもっとリスニングに接近した中域多めの、TRANSONIC RECORDSっぽさやフュージョン感あるような打ち込み要素が入ってくるジャパニーズテクノ。それからパソコン音楽クラブはいい意味でジャンルの意味やテクスチャーの解釈を勘違いしているような音楽を意識的にやっています、そういうアーティストがいてもいいと思うんです。
後編へ続く
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パソコン音楽クラブ プレイリスト
category:FEATURE
2022/03/08
私生活のムードからモードを鳴らす パソコン音楽クラブは3rdアルバム『See-Voice』で、誰もが自己内省を余儀なくされた日常の中に潜むミニマムなノスタルジーを奥ゆかしいソフトなサウンドに委ね描いた。パソコン音楽クラブのこれまでの作品群にはコンセプチュアルな情景が取り巻いているが、本作は近年のパンデミックの影響下における彼らの内面、閉塞感から一歩踏み出すかのような心模様がささやかに紡がれている。 先日リリースされたリミックス・リワーク集『See-Voice Remixes & Reworks』ではオリジナル曲に参加したボーカリストのリワークに加え、川辺素(ミツメ)、Aiobahn、ind_fris、リョウコ2000といったパソコン音楽クラブとシンパシーを感じるアーティストらが参加し、さらなる視点から心理的な像が結ばれた。今回、リミックス・リワーク集のリリースに際し公開された解説サイト上にて「完成前からリミックスを頼みたい」とパソコン音楽クラブからラブコールを受けていたリョウコ2000との対談インタビューが実現。後編では、前編に引き続き若手電子音楽家ユニット同士ならではのしみじみとしたトークが繰り広げられた。インタビューに際し、前編ではパソコン音楽クラブがキュレーションを務めたオリジナルプレイリストも公開中。後編はリョウコ2000がキュレーションを務めており、両記事と併せて要チェックだ。 Text by yukinoise パソコン音楽クラブもリョウコ2000も、独自の音楽性が幅広いからこそできる遊び心のある音づかいをしてるなという印象です。ユニットとして活動している同士信頼関係やフィールの共有がしっかりできているのが理由だと思ったのですが、普段ユニットとしてはどのようなスタイルで制作のやりとりをされていますか? 西:そこは興味ありますね、僕らとリョウコ2000はお互い住んでる場所が西と東で離れてるし。コロナ前から遠距離で曲を作ってるのも一緒だし、二人組で音楽をやってるユニットも知り合いでは彼らしかいないから、リョウコ2000が出てきた時近い境遇のアーティストがいるとなって嬉しかったのを覚えてます。どっちかが骨組みやコンセプトを提案して、そこから制作に入る感じですか? ピ:今回のEPに関しては、自分が別のプロジェクトで作りためていた曲がnoripiのムードにフィットしたところから始まりました。そこからプロジェクトファイルをTwitterのDMで送って、noripiが弄ったデータが返ってきてパスを弄って送って…ってやりとりの繰り返し。 西:コンセプトアルバムになると大変じゃないですか?たとえば『Travel Guide』は後付けだったにしろひとつ大きなテーマがあるアルバムなわけで、パスを投げ合いながら全体のトーンを決めたりお互いのすり合わせをしたりするじゃないですか。僕らはお互いのトーンや世界観を近寄った状態にしてからそれぞれ作っていくので、リョウコ2000が1曲ずつじゃなくてEPとして全体を完成させるまでが気になります。 n:パソコン音楽クラブは目的があってから詰めていく感じなんだろうけど、僕とピアノ男はムードやトーンはぼんやりあっても意図的に言ってない節があって。こういう方向性にして欲しいって言うと自分の作業を分担させてしまうだけになりそうだから、それは絶対にしたくない。最終的にふたつが合体しちゃってるのが理想だと思ってます。2人のムードからモードへ解像度や理解度が完全にマッチしてないと解釈もできないだろうから、意図的に言わずいつの間にかチューニングが合ってる状態にしたいんです。よほどじゃない限り自分からは理想を言わないようにしてるけど、なんやかんや言わずともお互いのモードが完成されていくから良い関係だと感じますね。 西:それはやっぱりお互いの信頼関係ありきですね。 柴:僕たちはよく殺し合いみたいになってますから。 西:そんなことないでしょ(笑)。僕たちの場合は、柴田くんがいっぱい説明してくれようとするけど彼は言葉で伝えるより音楽で伝える方が得意な人で。何言ってるかわからないところを音から頑張って紐解いていってます。それでも限界があるし僕の理解が甘い部分もあるがゆえに抽象度が高くなっちゃうこともある、 柴:そのズレが面白いんだけどね、お互い話し合っていてなんだこれ…?って行き詰まるとseaketaさんが助けてくれる。 西:seaketaさんは物を喩えるのがうまいというか、そこから喩える?って変な形容で物を説明してくれるんですよ。それが妙にフィットする。 柴:彼から返ってきた適当な大喜利が意外と的を得ていたり、問題解決の突破口となることがあって。 これまでseaketaさんに喩えられたことや真理でフィットしたことは何がありますか? 柴:『See-Voice』を聴いてもらった際、これはうわごとだって言われました。うわごとって別に人には聞かせるほどまでもないようなことで、このアルバムで行われていることは「朝起きて適当に時間を過ごしてて、やっとカーテンを開けてみるか…」くらいの内容って言われたんですけど、すごい的確でわかりやすかったです。 西:関係性がなかったら一見悪口みたいな喩えなんですけど、そういうのも遠慮せず言ってくれるのが良いところなんですよね。ひとりひとりが成長するドラマを作ってるんじゃなく、朝目が覚めて真っ暗な状態からカーテンを開けてみるようなちょっとしたことしかしてないけど光が入って物の見え方が違くなったり変化が起きたりするってことを、seaketaさんは説明したかったんだと思います。他にも2人で散歩しているときに「このアルバムは外見はすっごいウェルカムな感じででっかい家に招かれて入ってみたら、ちっちゃい部屋に閉じ込められてずっとうわごとを聞かされてるみたい」って言われたのを覚えてます、こういう喩えを聞くと自分たちでより整理できるようになるので重要な役割を担っているなと。 一見大喜利のようですが、現代詩のようなポエティックさもある喩えですね。 西:個人名やジャンル名で語ったり、歴史的な文脈をしっかり理解した人から批評されるより抽象度が高くてロマンチックな、リリカルな表現で喩えてくれた方がしっくりきます。だからseaketaさんのおかげで曖昧な状態でも作業できてるなとも感じます。 柴:そういえば、僕たちは昔のハードシンセを使って音楽を作るのがコンセプトなんですけど、リョウコ2000は具体的に何を使って制作してるか知りたいです。いろんな話してても意外とそういうのって聞く機会なくて、使ってるソフトやプラグインとか。 ピ:2人ともソフトはAbleton Liveで、プラグインはそんな面白いモノは使ってないです。共通して使ってるのはM1のVSTとSpire。あとは内臓のプラグインやサンプルとか誰もが使ってるようなモノなんで、パソコン音楽クラブみたいに面白い機材は特に。 柴:それが面白い。みんなが使ってるような機材、作ってるような音楽はあるけどリョウコ2000みたいな作風はあんまりいないから。身近な道具の使い方がうまくて面白いんですね。あと他にも聞きたいことがあって、普段お二人は何を食べてますか?ピアノ男さんもnoripiさんにも食べ物のイメージがあまりなくて。謎です。 ピアノ男さんは〈AVYSS ENCOUNTERS 2021〉で音楽ではなく食品をチョイスしてましたよね? ピ:そういえばそうでしたね、何あげてたかな…? 柴:Y1000挙げてましたよ、ヤクルトの最強版みたいなやつ。 西:あれ良いらしいですね、疲労に効いて世の中がパッと明るくなったように感じるんでしょ? ピ:効果の程はわからんけども、Y1000を飲むと朝が始まったなって感じはします。 柴:Y1000飲んだらめちゃくちゃ眠くなりません?睡眠状態がよくなりそうだから僕は寝る前に飲んでます。 ピ:最近だとアボカドをよく食べてます、包丁をやっと手に入れたのでとにかくきりまくってる。どうせ使わないと思ったから調理道具を学生時代の研究室に寄贈しちゃったので、ずっと家に調理道具がなかったんですけど最近また揃えて。ピーマンとかも食べてますね。 柴:noripiさんは何食べてます?一番想像つかない。 n:スーパーのお惣菜とかかなぁ。おじいちゃんおばあちゃんが好きそうなひじきとか入ってる3パックのやつと、安くなってるお弁当を一緒に買ったりしてます。 西:卯の花とか食べてそうですね。 n:落ち着いた食べ物を食べてるかも、湯豆腐とか。 柴:なるほど、西山さんも想像つかないなー。 西:僕はなんでも食べてますよ、柴田くんが一番気持ち悪い食生活してるって。野菜とか全然食べないし。 柴:野菜は全然食べないですね、僕はスーパーで買ったマグロの切り身を丼にしたり豚肉を煮込んでポン酢つけて「酸っぱ!」ってなりながら食べてます。 それぞれの食生活はなかなか聞く機会ないですね。では、リョウコ2000からパソコン音楽クラブの気になるところや知りたいところはありますか? ピ:現段階で今年はどういう作品を作っていきたいか、構想はすでにあるのか知りたいですね。 西:それは僕たちもリョウコ2000に聞いてみたいと思ってました。正直、リリース後くらいからもう『See-Voice』みたいな作品は作りたくないなと考えていて。何故かというとコロナ禍のムードの中で自分と向き合ってモードを作るって結構しんどいんですよ。今年やるとしたらファンキーなモノを作りたいと柴田くんと話してました。今回内省的な作品はやれたんで、それは一回置いといて次は楽しくなれるような音楽を作りたい気持ちがあります。ただこの先もコロナ禍がどうなるかわからないから、自分の中にあるモードがどうなるかもわからない。 柴:楽しい音楽をやりたいよね、最近もどんよりしてるから自分を明るく保ちたい。 西:ここ2年は何事にも真剣に向き合わなきゃいけないムードだったから、ひょうきんさやジョークみたいな成分が世の中にも自分にも足りてなくて。こんな変な名前でユニットやってるのにガチになってるのもバカバカしくなる瞬間もあるからこそ、ジョーク性を取り戻していきたいです。リョウコ2000はどう? ピ:自分はまだEPを全然聴けるテンションではあるけども、次何やりたいかって聞かれたらファーストはアゲでセカンドはダウナーだったし、メンタル的な側面にはあえてフォーカスしないでもっと違うところにフォーカスして作りたいなとは思ってます。でもそれが何かはまだ見つかってない。 西:パソコン音楽クラブもファーストから4作目になるにつれだんだんとアルバムの中の登場人物が3人、2人そして独りになり…とどんどん減っちゃって、そろそろこれ以上減ったら何もない音になりそう。こういう時代だからこそもう少し人の数が増えた作品にもしたいですね。 柴:もうね、残された道がパーティーかお葬式しかない。まあお葬式もパーティーですけど。パソコン音楽クラブの『Night Flow』ってアルバムは友達と歩いてるような温度感なのに、『See-Voice』は30手前の大人が部屋で1人カーテンをちょっと開けて、外が明るいことに4時間くらいかけて気付くようなアルバムだし。こうなると次はもうパーティーか、もしくは心不全で死ぬお葬式みたいなアルバムしか作れないような気もします。だったらもう少し楽しい感情を表現したいなって西山くんと話しました。 西:去年の暮れ、2022年は楽しい音楽が増えるんじゃないかって自分たち以外のアーティストに対しても感じてたんですよ。実際もうそういうムードもあるのかなって。でも同時にコロナ禍は予想がつかない流れにもなってきてるから、すごい不思議な走り出しをしているなと実感してます。 柴:パソコン音楽クラブの場合、自分たちのムードが定まってきたら音源出すぞ!って決めてモードに入ってから音楽を作るんですけど、リョウコ2000は普段どういうタイミングで制作に入ってますか?音楽を作りたくなるトリガーって何かあるんでしょうか。 n:ぼんやりとでも自分が思い描いているモノがあったら骨組み的なのを渡して、お互いの体調や健康面を見ながら徐々に進めてます。楽曲制作を生活の中心に置いてないから、生活がある上での趣味の延長線上でやれるように無理してはやらないって決めてますね。そうじゃないと楽しめなくなるし、だめになりそうなときは何もしないで作れるモードなときがあれば進めてます。 ピ:何がトリガーになってるかはわからないけど、1〜2ヶ月くらい曲を作らないで遊び尽くしてたらいつの間にか曲を作ってる瞬間とかもある。周期的な話なのかなとも思いますね。 柴:自分たちのバイオリズムに曲を作りたくなる波があって、その波に乗ってる感じですかね。僕は自分からDAWを触ることが減っちゃって、イッ!って拒否反応出ちゃうときもあります。 西:柴田くんそんなに強いられて曲作ったりしてないでしょ(笑)。僕はこの前ライブの延期が決まった瞬間には次のEPの曲作ってましたよ、なんかもう忘れよう!ってテンションになって。 柴:すごいな、自分はDAW見てるとExcel見てるような気持ちになったりする。昔はDTMを趣味や遊びの一環としてやれてたけど、趣味の範疇をちょいちょい超えてくることがあるからイッ!ってなっちゃう。 西:作りたくないときは2週間くらいDAW触らないこともあるよ。僕らは聴かせたり一緒にやったりする相手がいるからDTMやれてるのかも。リョウコ2000はそれぞれでも曲を出してるけど、2人で出すときはどういうマインドでやってます? n:前までは自分で曲も作りつつイベントに出たりしてたけど、ちょっと苦しくなっちゃって完全に今はリョウコ2000だけで曲を作って活動してます。それがリョウコ2000を始めた理由でもあって。でも最近は1人でももっとやりたいなと思い始めて触ったりもしてますね。 柴:じゃあお互いのモードが重なったら曲を作ったりリミックスをしたりしてる感じですかね。リョウコ2000とnoripi、epepeでは作風違うしなぁ。 西:意外とユニットでやってる人って少ないよね。僕は3人で活動するとなるとストレスになるときもありそうだなって思ってて。昔バンドやってたから分かるんですけど、2人から3人になると多数決が生まれて民主主義的になる、1人が妥協しなきゃいけない可能性が出ちゃうんですよね。だけど2人だったら相手のことよく分かっていたら上手くいくし、お互いが合意したり譲歩しあったりしない限り何も決められないから、誰かが納得いかないまま進むことはないので仲良い人同士でユニットをやるならストレスがそんなにないのかなって。2人でやれてることに助けられることも結構多いです。 逆にユニットだからこそしんどいことや、活動する上で難しいことはありますか? 西:移動。お互い住んでる場所が離れてるからライブも大変だし、スタジオ入るにも交通費や移動時間が物凄いかかっちゃう。 柴:普段リモートでやりとりしてて、ちょっと一緒に作業画面見たいなーって気軽にできないところとか。 西:それはユニットだからってよりか僕らが遠距離だからって話でもあるけどね。ユニットとしてだと、話し合って進めたり決めたりしないといけないから、フットワークは1人に比べて確実に重くなります。他のプロデューサーやアーティストと話してると、よく2人でできますよねって言われることもありますが、僕らは1人でやるより2人でやる方が楽なんです。3人は難しいけど2人なら大丈夫、その微妙な加減やバランスのいいとこ取りがパソコン音楽クラブでは実現できているんだと思います。 n:リョウコ2000だとやっぱり2人のチューニングを合わせるのが強いて言えば難しいところ。ピアノ男が一緒にやる上でしんどくない相手だからこそやれてます。 ピ:せやねぇ。2人でやることに関してしんどいって思ったことはないかな。 柴:そういう信頼関係やチューニング、気持ちの周期が合わなかったら長く続けられないですよね。お互い半年くらいで辞めてそう。 西:柴田くんが僕と長く一緒に音楽やれてるのも謎やな、柴田くんて相手を選ぶの難しい人だと思うんで。 柴:そうなの!? 西:一緒に音楽をやろうってなったとしてもダルいわってなりそうやもん。偶然バンドをやってるときなし崩し的に始まったからユニットでやれてるけど、手と手を取り合って結成しましょうとは絶対にならなかったと思う。僕や柴田くんみたいな人間が2人もいたらゾッとします。偶然にしろパソコン音楽クラブがやれてるのは運が良かった。 柴:確かに、自分と似た人が2人もいたら嫌だな。ユニットをやれてるのも活動を続けていくにあたって、人生の中で音楽制作の比率や熱量がどれだけ占めてるかってのも重要になると思うんです。お互い近い割合じゃないと続かないかなって、音楽に人生をどれだけ懸けてるかみたいな。 西:人生で何かしたいなっていうのはあったけど、僕も柴田くんも別に音楽じゃなくても良かったはずなんですよ。たまたま身近にあっただけで、全てを捧げるほど音楽の比率が人生を占めてなかったんで。そういう相手だとお互いついていけてなかっただろうな。 柴:日によっては音楽に賭けてみてもいいけど、その波が一緒じゃないとね。 西:全てを音楽に捧げてしまう方より、人生でいろいろ楽しみながら調子良くて余裕のあるときに音楽を作るって方が継続性も高いからね。いつまで音楽をやるかっていう将来性の一致も大事だと思います。世の中には悪魔に魂を売って若くして天才となる道もあるかもですが、死ぬまでボチボチやっていくのもありなんじゃないかなと。 柴:自分たちのペースが崩れ過ぎると音楽嫌いになりそう。 西:ライフワーク的にボチボチ続けられたらいいですね、健康にやりたい。こう言うとやる気ないヤツらに聞こえるかもしれないけど、上を目指すのと同じくらい現状維持って大変なんじゃないかなとも感じます。同じ高さで飛び続けるキツさを、コロナ禍になってから実感させられた人も多いんじゃないかな。どれだけ頑張れど環境や外部要因が変化したら現状維持だけでも難しい、でも活動していくうちに長く続けていきたいなとも思うようになりました。リョウコ2000との出会いもそうですし活動を通じてたくさんのアーティストや音楽に出会えたから、結成から6年でこれだけいろいろあったならこの先60年くらい続けて行ったらもっと面白いことがあるんじゃないかなって。パソコン音楽クラブとしても伝説的な作品を作るんじゃなく、いろいろな出会いや体験を楽しみながらコンスタントに作品を作って活動を継続できたら嬉しいです。 リョウコ2000もこの先コンスタントに活動を継続していきたいですか? n:僕らは本当にのんびりやっていければそれでいいです。リョウコ2000として作品を出すごとにやり切っちゃうというか、ユニットでも個人でもイベントやリリースごとに完結してしまうことが多くて。だから今できることをやるしかなくて長いスパンでは考えてないけど、何か続けられることがあればいいなとは思います。 ピ:死なない程度に無茶をせずやりたいですね。無茶すればそれだけ良いこともあるだろうけど同時にしんどいこともあるじゃないですか。僕らはやっぱり冒険するのが得意じゃないんで、日々の小さな喜びを噛み締めてやっていきたいです。 西:生活を維持しながら自分のやりたいものを作れたらいいですよね。いま音楽をやってる若い人たちにとってはすでに当たり前の感覚になってるのかもしれないけど、学生の時出てたライブハウスとかでは仕事しながら音楽やるだなんてダメ、本気でやるなら正社員なんかならずに頑張れみたいな風潮があったのを覚えてます。リョウコ2000はまさに生活の中でやりたいことがあったら作りましょう、しんどくなったら休みましょうって感じで、健全で理想的な活動の仕方だと思います。 ピ:リョウコ2000とパソコン音楽クラブの違う点って、音楽を専業にしてるかしていないかってところですよね。僕らは別の仕事をしながら音楽をやってるけどおふたりは音楽が仕事になっていて。音楽を専業にした瞬間の覚悟ってどんなものでした? 西:覚悟なぁ…僕も柴田くんも覚悟なんてありませんでしたよね_?ピアノ男とnoripiがちゃんと仕事しながら音楽やれてるのって、それができる人だからなんですよ。柴田くんなんか音楽以外は無理だわって人だもん(笑) 柴:覚悟じゃなくてただ音楽しかできなかったんですよ。それしか選択肢がなくて、働くのはダメだこりゃって感じでした。 西:僕は無理したらまだ社会性があるように見せられたけど無理するのはやっぱり身体に悪かった。音楽を仕事にできたのは運が良かっただけで、覚悟なんてなかったです(笑)。リョウコ2000は最近調子はどうなんですか? n:浮き沈みはありますけどメンタルはアガってはいるつもり。 ピ:僕はアゲでもサゲでもない状態。 柴:僕はアガるようなおまじないみたいなのを生活の中に作りたいですね。ピアノ男にY1000も教えてもらったし、まずは睡眠の質を良くして景気をアゲていきたい。 世の中の風向きがアゲじゃない分、せめて自分たちからアガっていくしかないですもんね。では最後になりますが、パソコン音楽クラブとリョウコ2000の今後の展望について教えてください。 n:もっと無意味で記憶に残らない作品やイベントとかができたらいいですね。豊田道倫さんを聴いたときのような、強烈的に癖があって記憶に残るはずのに聴き終えた頃には考えてたこと全部忘れてる感じの。昨日買った新譜みたいな気持ちでいたいんだと思います。 ピ:なんでここに自分たちがいるのか謎なところに楽曲提供をしたり、効果音を作ったりもしたいですね。僕とnoripiの共通点が音楽だから音楽で表現してるけど、それ以外にもいろいろやってみたい。 西:僕は柴田くんとYouTubeとかやってみたいです。古着屋行って柴田くんにぴったり似合う衣装を探したりしたい。 柴:何やりたいかな…しゃぶしゃぶ食べ放題とか行きたいな。コロナ禍が落ち着いたらみんなでバイキングに行きましょう。 — リョウコ2000 プレイリスト
2020/03/23
HARDCORE WILL NEVER DIE 2019年は「FREE RAVE」、「ADM1317」、WWWのニューイヤーパーティー「INTO THE 2020」、AVYSSの一周年記念パーティーなど、様々なパーティーに出演し、フロアに熱狂と混沌をもたらしたピアノ男とnoripiによる高速変造RAVEユニット”リョウコ2000″。TohjiとgummyboyらによるMall Boyzの楽曲「Mallin’」のリミックスも話題になり、今年1月には待望のデビューEP『Parasitic Dominator』を〈Maltine Records〉からリリース。そんなリョウコ2000の2人に、過去の個人活動からリョウコ2000結成経緯、さらにデビューEPについてメールインタビューを行なった。 – リョウコ2000の活動がスタートする以前から2人はそれぞれ個人で活動してますが、どのような活動を行なっていたんでしょうか? ピアノ男:中学生の頃はニコニコ動画でMAD動画を作っていました。その流れで、ナードコアテクノという日本発のムーヴメントをベースに、いわゆる「ネタモノ」と呼ばれてしまうようなガバ・ジャングル・トランスなどを作り、ライブをして、別名義でガバより極端に高速な「スピードコア」のレーベルに所属して曲をリリースしたり、徒党を組んでインドネシアの高速ダンスミュージック「FUNKOT」の制作・DJもしてきました。触れてきたジャンルがジャンルだけに、学校には音楽の趣味が合う人が全くいなかったので、宣教師のノリでクラブだけではなくライブハウスやスーパーの駐車場でもライブをしてきました。 noripi:一番最初は高校生くらいの時に「epepe」と言う名前でノイズをやってました。クリスチャンマークレーが大好きでレコードプレイヤーをギターみたいに背負ってノイズを搔き鳴らしたり、箸にコンタクトマイク付けてその音にエフェクトかけてご飯を食べる。みたいな足立智美さんに影響受けたインスタレーション的な事とか毎回ライブ内容を変えて地元の青森のライブハウスでやってたんですけど、ほとんど地元の人に相手にされてませんでしたね…。もう一つの今はもう色々事情があって使用できなくなった名義の方は、2015年の秋くらいに当時epepeの活動が若干マンネリ化してて、何か新しい事を始めようと思って始めたのが色々事情があって使用できなくなった名義ですね。あとその当時onomatopeeeさんみたいなスカム的なブレイクコア、ハードコアな人があんまり最近見かけないなと思っていて、今またやり始めたら面白いんじゃないかと思ったのがキッカケで始めました。その後noripiに名義が変わります – 2人の音楽的ルーツについて聞きたいのですが、例えばnoripiだとハードコアやノイズに精通していますよね。 ピアノ男:MAD動画やおもしろフラッシュが好きだったので、そこで使われていた音楽から広がっていきました。MAD動画では音ゲーの曲が使われていることが多く、ガバなどは音ゲー経由で知りました。それから、2009年頃にラジオで知ったのをきっかけにインドネシア・タイ・マレーシア・香港・台湾などアジア各国の土着のダンスミュージックを狂ったように収集するようになりました。出不精ゆえ、まだ現地には行ったことがないのですが…。また、中二病の特性でしょうか、皆が怪訝な顔をしそうなものが好きだったので、日本のスカムミュージックからも強く影響を受けていて、壊れたウクレレを買ったり〈Maltine Records〉に喧嘩を売るネットレーベルを運営したりしてスベっていました。 noripi:中学の部活の先輩で音楽に詳しい人がいて、ジョンゾーンが運営してる〈Tzadik Records〉のCDを大量に持ってて、Fred Frithとか巻上公一、Derek Bailey、Marc Ribotとか貸してもらったり、Merzbow、非常階段、暴力温泉芸者、MASONNA(山崎マゾ)とかノイズミュージックを彼から教えてもらいました。彼とは今音信不通なんですけど、それまでバンドにしか興味がなかった自分にインプロ、現代音楽、ジャズとか幅広く教えてくれた大切な人です。この時に教えてもらったものが今の僕の土台になってます。あとは家から自転車で行ける範囲内に古本屋がいくつかあって、今はもう潰れてしまったお店なんですけど、そこにBURST、STUDIO VOICE、宝島、クイックジャパン、鬼畜系、FOOL’S MATE、DOLLとかのカルチャー、音楽誌のバックナンバーが大量にあったのでひたすら立ち読みしては、高校に上がるまで携帯電話とかPCを持ってなかったので最寄り駅にPCレンタルスペースみたいなのがあったので、古本屋で見た面白そうなバンドとかキーワードを検索して視聴するのが日課でした。あと日本のポップスが一番日常的に聴いていて、どうしても年代的に90年代後半から00年代頭にかけてのポップスに聞きがちになってしまいますが、自分のトラックやmixでどうしても拭いきれないナード感はここから来ているものだと思います。 – 2人は出会いや結成に至った経緯はどのような感じでしたか? ピアノ男:2016年ぐらいに初めてクラブイベントで会ったのですが、一回抱擁を交わしただけで特に何も喋らなかったのを覚えてます。その後しばらくは実にくだらないツイートを飛ばし合ってたようです。ネット弁慶ですね。その後、何故だったのかは忘れたのですが、2人でスプリットアルバムを作りまして、その後2人セットでのイベント出演オファーが来まして、どちらも色々良い塩梅に事が運んだので、名前をつけ継続してユニットを続けていく流れになったんだったと思います。 noripi:元々僕がファンで一方的に聴いてて、一緒に何かやり始めたのは2018年の春に〈M3〉でスプリットCD(『体験版』)を出すのがキッカケですね。その後、僕が毎年夏にasiaで呼ばれてたイベントがあって、毎年僕と僕が今一緒に出たいDJ、トラックメイカーの人と組んで出演するのが恒例行事になってて、その時はユニット名はなかったんですけど今のリョウコ2000の原型ができた感じですね。イベントの時ピアノ男がめちゃくちゃ楽しそうで終わった後に「なんかめっちゃ泣きそうになった」って言われたのがすごいジーンときたのを覚えてます。あとその年の大晦日のナードコアの夜明けにお互い出演オファーが来てて、もうここで声かけなかったら今後誰ともユニット組んだりすることないだろうなと思ってピアノ男を誘ってリョウコ2000が結成された感じです。 – リョウコ2000という名前の由来は? noripi:僕が広末涼子が好きなのとピアノ男が米倉涼子が好きなので「リョウコ」で、あとはBUDDHA BRANDの「大怪我3000」とかゲームのシンプル2000シリーズとか団地レコードのユミコ2000などの4桁数字を最後にくっつけるのが縁起が良いかなと思って「リョウコ2000」になりました。イベントに出るギリギリまで名前が決まってなかったので何も案がなかったらguchonさんの案の「キタノ&タケシ」になってたと思います。 – リョウコ2000にガバのイメージを持つ人は多いと思うのですが、結成当初からガバでいこうみたいな感じだったんですか? ピアノ男:二人ともガバは好きだし、特に私はガバばかり作っていたため、ガバの要素が入ることは暗黙に確定していたと考えられます。しかし、初ライブの時からガバ・オンリーではなかったように思います。例えばADM1317でのMIXでは、ガバはほぼ使っていません。むしろ、最近は我々にガバというイメージだけがつくことを塩梅良く避ける術を模索している面があるかもしれません。ガバといったジャンル名で我々をカテゴライズすることは便利な場合が多く、自分も無意識のうちに多用してしまっていると思います。しかし、私もnoripiもガバ以外のバックグラウンドを持っているし、ガバとしての特徴を持った音楽だけをずっと聴いたり演じたりしていたいわけではないです。ガバという区画だけに我々を収容したくはないかもしれませんね。激しいからバテやすいですし。 noripi:当初はナードなネタにガバ、ジャングル、レイヴ、ブレイクコアなど混ぜ込んだものをやれたらと思ってやり始めました。個人の時も二人の時もなのですがガバ、ジャングル、ブレイクコア、ハードコアは自分たちのルーツでもあるのでそこから極端に離れる事は無いと思いますが、別にそれをメインにやりたい訳では無いですね。最近はイベントとかでいかにガバから離れた所からガバの流れに持っていく過程に興味がありますね。 – リョウコ2000と個人でのDJは、明確に違うものや意識することはありますか? ピアノ男:自分ひとりの時は、他者のことはあまり考えず、自己の内界に潜ってその時に聴きたい音楽や展開を構築しています。ただ全く他者のことを考えないわけではなく、場に居る人々に突然の戸惑いを与えられたらいいなと思って、”外し”や”崩し”、”ふざけ”のエッセンスを加えるようにも心がけているというか、手癖でそうしています。なぜ戸惑いを与えたいかというと、当時バンドを組んでカッコつけた音楽をやっていた人達やその取り巻きに対する私怨が高校生の時に醸成されて、ああいう奴らをシバいたりたいという思いを未だに心の奥底で持っているからかもしれません。ただバンド全体が嫌いというわけではなく、グラインドコアとかよく聴きますけどね。リョウコ2000のほうでは、リョウコとして表現したいことをなるべく汲み取りつつ、イベントの趣旨・雰囲気にも沿うよう、ふざけを適度に抑制・アレンジしています。つまり、リョウコの時のほうは相対的に社会性があるし他者に対するLOVEがあるかもしれません。しらんけど。 noripi:個人の時は自分が今気になる音楽を少しずつ実験的に自分のルーツに織り交ぜつつ、イベントのテーマを見ながらやってる感じです。二人の時はリョウコ2000はピアノ男がキーマンだと勝手に思ってるので、個人で実験的にやってきたものをピアノ男の良さを薄めずにどれだけ織り交ぜて行けるかを考えてやってます。出来ているかは定かですが…。 https://soundcloud.com/ryoko2000/mall-boyz-mallin-ryoko2000-mallin-fantasy-mix – 昨年はMall Boyz「Mallin’」のリミックスも話題になり、Mall Boyzのライブでもリミックスが使用されていましたが、フィードバックはどうでしたか? ピアノ男:音楽の趣味嗜好的に意外な人から「リョウコ2000って知り合い?」と聞かれた、という報告をいくらか聞きます。ガバマニアだけじゃなく、潜在的にはガバが好きなはずだけどガバを知らないというような人にもリーチしたいと昔から思っていたので、素直に嬉しいです。 noripi:今まで僕たちを絶対知らなかったであろう高校生くらいの子たちが結構聞いていてくれたのが素直に嬉しかったですね。 – 今年1月にリリースされたEP『Parasitic Dominator』はどういった経緯で〈Maltine Records〉からリリースされたんですか? ピアノ男:ふざけた音楽ばかり作っていた自分ですが、攻殻機動隊SACを観たのをきっかけに、シリアスな曲を作りたいという気持ちが湧き、そのことをツイートした時がありました。それを見たtomad氏から「シリアスな感じのを出すならマルチネから出しませんか?」と連絡がきました。丁度その頃、noripiとリョウコ2000オリジナルの曲を作りたいという話をしていたので、リョウコ2000でリリースする流れになりました。なぜそのような連絡がきたのかは分かりません。10年近く前にMaltineイベントに出ていたので、接点はありましたが。Maltineは昔はガバやブレイクコアもリリースしていたのですが、最近はそういったリリースがなかったので、狂いを求めてたんじゃないかと勝手に推測しています。 – ガバキックへのこだわりが強いとお聞きしたのですが、今回のEPに使用されているキックもご自身で生成されているんですか? ピアノ男:全てピアノ男製です。このEPを作るにあたり、新規性のあるガバを作ることを意識しました。ですが、私は現行のガバよりも90年代のガバが好きです。そこで、90年代のガバに一旦立ち戻ってブランチを切り、90年代のガバの好きな要素を保ちつつ、他の様々な音楽に寄生しながら現代に向かって変化していったガバをイメージしました。そのためには、やはりガバの素材集などに入っている既存のキックではなく、自分で作る必要があると考えたのです。ガバキックの音色にもそれぞれ向き不向きの曲調がありますから。でも、さほどこだわりは強くないです。曲のテクスチャに合えば何でもいいです。 – ohianaさんが手がけたジャケットも素晴らしいですが、内容を通してイメージのやり取りも行われたんですか?また、手を繋いでるのはリョウコ2000の2人という認識でいいですか? noripi:元々が僕が一方的におひアナさんのファンで、個人で何か作品を制作したらおひアナさんにオファーしようと考えてたのですがなかなか機会がなくて、今回のEPのお誘いが来た時に曲の構成よりも真っ先に絶対に〈Maltine records〉でおひアナさんのジャケットが見たい!と思ってジャケット制作をお願いした感じです。ジャケットはEPのデモを聞いてもらいつつ、山塚アイさんと大竹伸朗さんの「ドンケデリコ」のポップだけど凶悪なコラージュ感にメタルロゴを混ぜたら面白いのではないかとなり、このジャケットになった感じです。 – いつかリョウコ2000がガバをやめる日が来ると思いますか?不安に思いますか? ピアノ男:制作し演じる上では、むしろそのようなカテゴリの柵を取り払って混沌の中に立ち戻り、そのとき表現したい事物や構築したい空気感に合わせて、使用すべき音楽を掘り起こしたいのです。ですが、ガバには我々が好きな要素が多く含まれていることは事実なので、ガバと名乗らずともそのエッセンスは我々のカラーとして残り続けるかもしれません。不安といえば、冬の時代でしょうか。AIやVRが熱いブームと冬の時代を繰り返してきたように、ガバも我々自身もそういった時代を繰り返す可能性はあります。事実、ガバも私も冬の時代はありました。その時々の評価や景気なんぞに左右はされないぞ、と考えているつもりですが、それでもどこか自分でも察知しづらい次元に不安が漂い続ける気がします。ただとにかく柔軟に生存して、コアの灯火だけは絶やさないようにしていきたいものです。 – これまでリョウコ2000の活動を通して印象的だった出来事はありますか? ピアノ男:年越しはいつも実家で家族みんな寝てる中、一人チャットサイトで「あけおめw」とか言ってたので、リョウコ2000の活動で初めて年末年始の渋谷を経験したのですが、人々の元気さに驚きました。あと初日の出後の渋谷のゲボの多さ。もしかしたら渋谷の日常なのかもしれないし、東京に限った話でないかもしれないが、ああいった状態に対して感覚が麻痺してはいけない。 noripi:結局その人には会いませんでしたが出番終わりに僕にプレゼントを渡したいと言う謎のおばさんがピアノ男に尋ねてたみたいで無茶苦茶怖かったです。 – 2人にとってガバとは。 リョウコ2000:HARDCORE WILL NEVER DIE リョウコ2000 – Parasitic Dominator Label : Maltine Records Release date : 20 January 2020 Artwork : ohiana Download : http://maltinerecords.cs8.biz/177.html
2020/01/20
アートワークはohiana それぞれがソロでも活躍するピアノ男とnoripiによる高速変造RAVEユニット”リョウコ2000″がデビューEP『Parasitic Dominator』を本日リリース。 昨年は「FREE RAVE」、「ADM1317」、WWWのニューイヤーパーティー「INTO THE 2020」、AVYSSの一周年記念パーティーなど、様々なパーティーに引っ張りだこだったリョウコ2000。TohjiとgummyboyらによるMall Boyzの楽曲「Mallin’」のリミックスも話題になり、ついに〈Maltine Records〉からリリースされたオリジナル全5曲を収録した本作のアートワークは彼らとも親交が深いohianaが担当。 「やっぱりガバ!いつだってガバ!案の定ガバ!」 Download : http://maltinerecords.cs8.biz/177.html https://soundcloud.com/maltine-record/sets/maru-177-ryoko2000/
レーベル第一弾作品は後日発表
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