Zach Hill & Lucas Abelaがデビューアルバム『Bag of Max Bag of Cass』を発表

音響迷宮建築ノイズ

 

 

Zach Hill & Lucas Abelaによるデビューアルバム『Bag of Max Bag of Cass』が〈Warp Records〉よりリリースされる。収録曲「Combat Boxes」のミュージックビデオが公開。

 

Zach Hillは、HellaやDeath Gripsの創設メンバーとして知られているが、その名声にとどまらず、音楽界において圧倒的な存在感を放つ―速度と構築美を極めたヴィジョナリーなドラマー。

 

Lucas Abelaの表現はフリー・インプロヴィゼーションの世界でもユニークな存在で、増幅されたガラス片から文字通り新たな宇宙を切り拓いていく。

 

ここにあるのは楽曲というよりも広大で質感豊かな音の地平。ノイズは集中と強度を孕んだ音響環境へと変容する。その爆発的な不安定さの中に、意外なほどの静けさが宿る。Zach HillのリズムはLucas Abelaの持続的で破片のような倍音に屈折し、聴く者を絡め取る迷宮のような音響建築を形作っていく。

 

 

Q : どうやって出会ったのですか?

 

Zach : 約15年前、シドニーでデュオによる即興演奏をする直前、数時間前に出会いました。当時、僕はBoredomsのツアーに参加していて、ちょうどオフの日で。Lucasはシドニー在住だったんです。

 

Lucas : 最初は2010年、Boredomsがシドニーを通過したときですね。ZachとHishamが彼らのドラマーをしていて、二人が他のプロジェクトもやっているのを知っていたので、僕が企画していたギグのサイドショーをやらないかと連絡したんです。二人とも乗り気で、Zachが「デュオをやらないか」と提案してきて、もちろん承諾しました。そのときの様子は誰かがYouTubeに投稿しています。それから7年後、僕がアメリカツアーをブッキングしていたときに、サクラメントで演奏できるかZachに聞いたんです。すると彼は「そんなの気にするな、それよりDeath Gripsと一緒に録音しに来い」と言ってくれて。なのでツアーの合間に彼らのスタジオに立ち寄り、即興セットを録音しました。それが最終的に『Year of the Snitch』に収録されました。

 

Q : なぜ一緒にやろうと思ったのですか?

 

Zach : 不快さ……ジュラシックなデジャヴ。

 

Lucas : 僕は長い話をしますね。このプロジェクトは、COVIDの時期に僕の音楽が進化していく中で生まれました。ロックダウンが始まると、ライブ配信で演奏してくれと頼まれるようになりました。でもすぐに、自分のスタイルは画面越しには伝わらないと気づいたんです。僕は基本的に「生」でこそ成り立つアーティストで、ガラスの楽器もその場の空間と一体化して響くことで音が成立する。ロックダウン下ではそれができないので、ガラスの処理方法を再考せざるを得なかったんです。以前からエフェクトを二重に並列して使う実験はしていたのですが、ロックダウン中はすべてのペダルを使える環境だったので、最大6系統を絡ませてみたりしました。ある人から「モジュラーシンセ的にペダルを使ってるね」と言われ、調べてみたら、モジュラー機材は合成音楽用だと勘違いしていただけで、実は何にでも使えると知ったんです。しかもエフェクトチェインとしてはギターペダルよりはるかに優秀だった。それからは、エンベロープ・フォロワーを大量に使えば、自分のダイナミクスでモジュラー環境のほぼ全てをコントロールできると気づきました。つまり、ガラスが同時に音も変調も生み出すという仕組みです。これがポストCOVIDの僕のガラス・リグの基盤になりました。実際、パンデミック前と後で聴き比べれば、音源は同じ「ガラス片」なのにまったく違うことが分かるはずです。そしてあるとき「自分自身を変調するのではなく、他のミュージシャンを使って変調したらどうだろう」と思いついた瞬間、真っ先にZachのことが頭に浮かびました。彼のドラムがリアルタイムで僕のガラス信号を引き裂いていくイメージだけで、計り知れない喜びを感じたんです。

 

Q : 録音の過程と今回のリリースの成り立ちを教えてください。

 

Zach : 2023年10月末、ロサンゼルスのDavid Scott Stoneの自宅スタジオで、2日間にわたって即興のライブ録音をしました。僕はV-Drums(電子ドラム)を演奏し、それを同時にLucasのガラス・セットアップに通しました。その後、僕が生の録音を持ち帰り、2024年の大半をかけて再処理・プロデュースしてアルバムに仕上げたんです。

 

Lucas : その2日間、僕がやったのはこういうことです。Zachの電子ドラムの信号を取り込み、僕が開発したスペクトル・エンベロープ・フォロワーにパッチしました。これは10チャンネルのクロスオーバーを持ち、それぞれがエンベロープ・フォロワーにつながって、合計20の制御電圧を周波数帯ごとに出力する仕組みです。それを、僕のお気に入りのMungo D0G0(ディレイとグラニュラー)の2セットにランダムにパッチし、つまみをいじりながら偶然性に委ねて演奏する。その都度リセットしてまた繰り返す――そうやって『Bag of Max Bag of Cass』は録音されました。実はこの方法での作品は今回が2作目なんです。ロサンゼルスで録音する前に、Zachがステム音源を送ってくれて、それをサンプラーに取り込み、バスドラ・スネア・タム・シンバルをそれぞれエンベロープ・フォロワーに分けて試してみました。さらに「僕のガラス信号でZachのドラムを変調したら面白いかも」と思い、サンプルを極端にスローにしてガラスで再生速度をコントロールしたりもしました。最初はリリースするつもりはなかったんですが、結果をZachに送ったら彼がTikTokで映像を作り始めたので「気に入ってるんだな」と思い、僕のレーベルdualpLOVERから7インチを自主リリースしたんです。面白いことに、その「サンプルの速度を変調する」というアイデアは僕のソロセットにも発展しました。ポップソングのボーカルをスローダウンさせてガラスのカオスと組み合わせるというやり方で、最近はその手法を使ったカバー2枚組アルバムも出しました。

 

 

Zach Hill & Lucas Abela – Bag of Max Bag of Cass

Label : Warp

Release date : October 31, 2025

https://warp.net/bag-of-max-bag-of-cass

 

Tracklist

1. Nephillm P

2. Odlous Again

3. Combat Boxes

4. Hamartia

5. Figment 4

6. Bent on 13

7. Scaredy Cats

8. Divisadero Hero

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