音楽の作り方も作りたい|Hyu interview

迷宮作品群を解読するコンピレーション

 

 

「今、目の前の面白いことをなにかの手段だと考える人が多いでしょ? でも結局、人間って死ぬわけで。目的やコスパを突き詰めると虚しくなる。だから無目的で、いかに目の前のことに夢中になれるか?が重要で。音楽を作ることもそうで」。

 

これは雑談中のHyuの言葉。今作の、好奇心溢れるミュータントな作家性を表す至言かもしれない。

 

Hyuがアルバム『Inaudible Works 1994-2008』をリリースする。Hyuは、90年代の最後に竹村延和によって運営されたレーベル、Childiscからの2枚のアルバムで知られた大阪出身のアーティスト。今回、大阪のエム・レコードからリリースされる本作は、未発表の新曲と既発曲のリワークによって構成された全15曲(LP版は、はっぴいえんど「風をあつめて」のカバーを収録し全16曲)。

 

ポップもノイズもドローンも、とジャンル不問は当たり前。いわく「音楽の作り方も作りたい」。あらためてエレクトロニック・ミュージックと書いて、「遊び」の延長にある実験とひらめきの冒険だと読み替えてみたい。

 

Text : Yusuke Nakamura

 

ーー今作『Inaudible Works 1994-2008』、初期の楽曲はHyuさんが20代の頃に制作されたものですよね?

 

Hyu:一番古い曲は94年なので19歳の頃かな。

 

ーーそれ以前の音楽活動としてはバンドを組まれていたり?

 

Hyu:大学時代はスカムというかノイズのようなバンドをやってましたね。10人くらいのメンバーで。大名行列というバンド。(難波のライブハウス)BEARSに出たり。

 

ーーバンドは高校生の頃から?

 

Hyu:いや、高校はバレー部だったんで。当時、高校生がやる音楽ってボウイとかB’zで。自分とは合わない感じで。大学で軽音部に入るんですけど、そこでも音楽の話ができる人はいなくて。最初は孤独やったな(笑)。自分はエイフェックス・ツインとかを聴いてましたね。シンセが好きで。

 

ーーシンセサイザーに目覚めたのはどんなきっかけで?

 

Hyu:子どもの頃に親がYMOをリビングで流していたので興味を持って。シンセはどんな音でも作れる楽器だと教えてもらったけど、よく分からない謎の機械という感じで。

 

ーーよく分からない、というのは?

 

Hyu:子どもの頃は、YMOのような音楽も人が作っている、ってことがあんまり分かってなかったんですね。それから興味を持って、高2の時にバイトしてシンセを買って。大学時代はスカムのバンドをやりつつ、シンセを触って曲を作ったりしてました。

 

ーー今作『Inaudible Works 1994-2008』、アルバムとしては『Randam Walkers’s Delight』(2002年)以来のリリースとなります。きっかけはレーベル、エム・レコードからオファーがあって?

 

Hyu:そうですね。今になってそんなことがあるんだ、と驚きました。良い機会をいただきましたね。

 

ーー(同席していた)エム・レコードの江村さんは今回なぜHyuさんの作品をリリースしようと?

 

江村:ただ、リリースしたかったから。

 

Hyu:(笑)いい答えですね。山に登りたいから登るみたいな。

 

江村:(笑)Hyuさんのことは、Childiscからのアルバムやコンピ『Sortie』(1998年)で知って。

 

Hyu:(『Sortie』は)ビーイング系のレーベルからリリースされたコンピで。半野(喜弘)さんや和泉(希洋志)さんが入っていて。

 

ーーStyling Recordからのコンピレーションで、松岡成久さんやサイケアウツも収録されていますね。

 

Hyu:松岡さんは今なにをされているんでしょうか。気になりますね。

 

 

ーー今作『Inaudible Works 1994-2008』は既発曲と未発表曲が再構成された編集盤で、未発表曲集とベスト盤の中間のような雰囲気とセルフライナーノーツに書かれています。

 

Hyu:まぁ、供養みたいなもので(笑)。自分の昔の曲を自分で供養するような感じで。(未発表の楽曲は)大阪の実家に録り溜めていたDAT20本くらいあって、それを元に。

 

ーー再編集する際は懐かしい気持ちになったり?

 

Hyu:懐かしい、というより、もう忘れている曲も結構ありましたね。でも聴いていると、ああ、こういうことを考えて作ってたなと思い出したり。

 

ーー振り返ると、どんな考えで制作していましたか?

 

Hyu:まず強い目的意識があったわけではなくて。自分が作った音に、さらに音を足していったり。それをぐるぐると繰り返している感じですね。飽きたら終わり。自分のアイデアを試すように作っていたので、なにかの音楽を参照としていないですよね。

 

ーー始めから型に嵌らないものを、と?

 

Hyu:要はパーソナルなもので。音楽って何かしらの作り方があるんですよね。ロックならロックらしいコード進行があって、というような。レゲエが好きだからレゲエを作る、というような人は多いと思いますけど、そういう感じでは作ってない。

 

ーーヒップホップのトラックはまずビートから作る、のような?

 

Hyu:そうですね。そんなセオリー通りに音楽を作るのはつまらない、とずっと考えていて。

 

ーーライナーノーツには音楽も作りたいが、音楽の作り方も作りたいと。そう考えられたのはなぜでしょう?

 

Hyu:うーん、なんだろうな。音楽の裏にある法則自体を自分で作ってみたくて。自分なりの音楽理論、制作方法を追求していたような気がします。

 

ーーでは今作はHyuさんの当時の実験結果がまとめられた作品?

 

Hyu:そうですね。実験というと言葉は堅いけど、遊びと悪ふざけ(笑)の間くらいじゃないかな。(今作に収録された楽曲は)江村さんに選曲してもらったんですが、そのままだとすごく長くなってしまうので、短く編集して。それでやっと聴けるようなものになった感じで。それが良かったですね。

 

 

ーー今作は楽曲タイトルの付け方も特徴的ですね。1曲目は「五度圏のゲーデル、エッシャー、バッハ」。

 

Hyu:今回、既発の英語タイトルの曲も、新しく日本語のタイトルを付けてみました。『ゲーデル、エッシャー、バッハ』という、ゲーデルの思想が一般向けに分かりやすく書かれた本があるんですが、それがまたよく分からない本で。面白いんですけど。「五度圏のゲーデル~」はゲーデルの再帰性に興味があって。

 

ーー音楽で再帰性を試みる?

 

Hyu:だいたいの音楽には中心となる調があって、転調しても最後には戻ってくる。でも、主たるキーがなくて、どのキーも同じ関係で、ずっーと周り続けていたらどうなるのか? シェーンベルクと同じような考え方かもしれませんが、十二音技法は自分としてはあんまり面白いとは思っていなくて。「五度圏のゲーデル~」は音楽として聴けるけど、よく聴けば変、というようなものを考えていて。バッハのフーガを自分なりに拡張してみた感じで。

 

 

ーー今作には、微分音や倍音に基づいて制作された楽曲も収録されています。「WigWig」や「ぎゃ・ダイナモ・ジェネレータ」は倍音に魅せられて?

 

Hyu:「WigWig」は倍音のファンクみたいな。「ぎゃ・ダイナモ・ジェネレータ」は倍音のドローンのような曲で。友達に20回くらいコーラスを歌ってもらって、そこにサインウェーブを入れたり、いろんな音を組み合わせて。倍音だけで作曲したらどうなるか?という試みで。ラ・モンテ・ヤングみたいなものかな。楽譜にしたら、Cの音がずーっと鳴っているだけ。虚無ですよ(笑)。「みなれぬものたち」は倍音と基音の区別を無くすと、どうなるのか?を試した曲ですね。

 

ーー「みなれぬものたち」(「INDiRECT」。1998年リリースのコンピレーション『Childisc Vol.2 AO』収録)は当時、ジム・オルークがをダビングして周りに配っていたという。

 

Hyu:勝手に配ってくれてたみたいですね。竹村さん経由で知ってくれたのかなと思いますね。

 

 

ーー「奇妙な雷竹の舞」はライナーノーツで平均律を拡張、あるいは破壊したいと。とはいえ現代音楽みたいな辛気臭いのがイヤ、ポップで可愛い音楽が好きと。この考え方はHyuさんの作曲の肝のような気がしますね。

 

Hyu:「奇妙な雷竹の舞」はチャールズ・アイヴズとかダリウス・ミヨーのような多調で、キーがCのものと、キーがAのものが一緒になっているんですね。例えば、CとC♯の間の音を使っているんですよね。多調なんだけど、少しずらしたものを使っていたり。そんなに複雑なことはやっていないんですけど、曲の中にもうひとつ曲があるみたいな。要は、倍音の曲も含めて、西洋の音楽のシステムでは採譜不可能なことをずっとやっているんですね。

 

 

ーーそれはエイフェックス・ツインのような、いわば奇妙だけれど美しい、そんな音楽からの影響でしょうか?

 

Hyu:エイフェックスからは、通常の音楽からかなり逸脱したことをやる遊び心というか、その姿勢に影響を受けましたね。どこまでも果てしなく、訳の分からんことをやってもいいんだ、という。音をそのまま模倣する気持ちはなかったですけどね。

 

ーーLP版には、はっぴいえんど「風をあつめて」のカバーも収録されています。

 

Hyu:単に細野さんが好きだったので作ってみたという感じですね。まぁ習作という感じで。

 

ーー「風をあつめて」と同じく、「Robotomy Man」「離散とグリッドのインベンション」はボーカロイドの元祖、と言えそうなVocalWriterのソフトが使用されています。

 

Hyu:初期のVocal Writerのぎこちなさがが面白くて。

 

ーー初期の人声合成技術の歪さや無感情な声の面白さ?

 

Hyu:そうですね。人間の脳って、人間検出機のような機能があって。例えば、風が吹いてなにかが揺れているだけなのに、そこに人の気配を感じ取ってしまうような。それはアニミズムの森羅万象に魂が宿る、というところにつながるのかもしれませんが。音もそうで基本波形にフィルターをかけただけで人の声に聞こえるのが面白くて。

 

ーーそれをひとつのアイデアとして?

 

Hyu:人間なのか、よく分からない声でポップスを作るとどうなるだろう?という試みで。今で言うとボカロPみたいな感じかもしれないですね。

 

ーー「どんな音でも二度くり返すと音楽に聞こえる」はタイトルが示唆的というかシニカルで。

 

 

Hyu:規則性が生まれて、脳が音楽と感じる。それが面白いなと。

 

ーーあと、某バンドへのボツになったリミックスを元にした楽曲も今作には収録されていますね。

 

Hyu:ノイズを入れたらボツに(笑)。分かってないな(笑)と。

 

ーーアートワークは虚木へず、という方の作品ですね。

 

Hyu:毎年、東京のいろんな美大が集まって行われる卒業展に友達と行ってるんですけど、そこで出合った方の作品ですね。

 

ーーイラストのコラージュのような? Hyuさんの音楽と共通しているようでもあります。

 

Hyu:自分で描いたパーツを貼り合わせて切り絵のように成り立ってる作品で。違うコンテクストのものがいろいろと混じっていて面白いなと。縮尺が違うものが入っていたり、色遣いも良いなと思って。漫画家の林田球が好きだったんですが、虚木さんも好きだったみたいで。『ドロヘドロ』という作品がNetflixでアニメ化した時はびっくりしましたけどね。

 

 

ーーあらためて、今作を聴いていると、インターネットがなかった時代の音楽への向き合い方が思い出されるようで。渾然一体というか、今思えば当たり前のクリエイティブというか。90年代の大阪ならでは、なのかもしれませんが。

 

Hyu:たしかに、あの時代の大阪は先カンブリア時代のような(笑)。むちゃくちゃでしたね。

 

ーーエレクトロニカという言葉でカテゴライズされる少し前の頃ですね。

 

Hyu:ジャンル名もそうですが、言葉は大雑把がゆえに機能するものなので、それが利点でもあるし、ダメなところでもある。ジャンル名が付いて単純化されると、こぼれ落ちていくものがあるわけで。

 

ーー混沌の豊かさというか。それが整備されフォーマット化すると途端にシラける?

 

Hyu:自分が作っていた頃はエレクトロニカという言葉はなかったし、もちろんそれを作ろうとも思っていなかったわけで。エレクトロニカというジャンルができてから、エレクトロニカを作ろう、という人たちが入ってきて、急に面白くなくなってきた感じはありますね。

 

ーー言葉といえば、HyuさんはYouTubeで小説家の円城塔について語っていましたね。驚きました。

 

Hyu:円城塔はすごく好きで。技巧的な文体で変なこと書くので、訳が分からな過ぎて。SFと文芸を一緒にやってると言われてる。変わったものが好きな人には勧めるんですけど、みんな挫折してる。でも、なにを言っているのか?が理解できると面白くなってくる。突然、扉が開くように。一種の宇宙論というか。ぶっとんでて。ゲーデルと円城塔は再帰性というところでは一緒だと思ってます。

 

ーー今、その円城塔など、新たなアイデアやインスピレーションから音楽を作ろうとは?

 

Hyu:今は東京に住んでいて、周りに音楽を作る人が多い場所でもあるので、誰かとやってみたい気持ちもあります。自分ひとりでやっていると飽きがくる。自分でひとりでできることはいろいろやってみた、ということもあって。今作には、人と一緒にやってる曲もあるんですけど、やってるとすぐに終わってしまう(笑)。継続して誰かと音楽を作ることをやってみたいですけどね。

 

ーー今作にコメントを寄せている、Childiscのレーベルメイトsuppa micro panchopさんやグーテフォルクの西山豊乃さんとは現在も交流はありますか?

 

Hyu:会いますね。飲んだくれてるだけですけど(笑)。スッパさんはよくライブをやっているので。幡ヶ谷のForestlimitに見に行ったり。Forestlimit、いろんな人が来てて面白い空間ですね。

 

ーーでは今作をリリースしてライブをするような計画は?

 

Hyu:今作はライブで再現できないので、もしやるとしても誰かとぜんぜん違う形でやることになると思いますね。

 

 

Hyu – Inaudible Works 1994-2008

Label:エム・レコード

Release date:February 16 2024

 

CD版:https://emrecords.shop-pro.jp/?pid=178689221

LP版:https://emrecords.shop-pro.jp/?pid=178689112

Bandcamp:https://emrecords.bandcamp.com/album/inaudible-works-1994-2008

 

Side A

1. 五度圏のゲーデル、エッシャー、バッハ [2:31]

2. 奇妙な雷竹の舞 [5:42]

3. 茄夢 [4:58]

4. WigWig [4:44]

5. みなれぬものたち [3:22]

 

Side B

1. ぎゃ・ダイナモ・ジェネレータ [17:28]

2. どんな音でも二度繰り返すと音楽に聞こえる [3:34]

 

Side C

1. Robotomy Mam [2:24]

2. 離散とグリッドのインベンション [4:17]

3. 風をあつめて [2:39]

4. 猫屋オドレミ [6:36]

5. 7Upとガラパゴスポップ [4:40]

 

Side D

1. ガムランに憧れて [5:34]

2. 帰ってきたすごいヨッパライ [3:16]

3. 1000万年後の子供たち [6:10]

4. 音の散逸構造 [6:00]

 

※LP版は、はっぴいえんどのカバー「風をあつめて」を収録し全15曲。

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