SPEED interview 前編

水面下で加速する新しいロックの波

 

 

「速さ」をキーワードに掲げ、Us・Waaterと2組のバンドを中心に結成された集団・SPEED。東京のパーティーシーンに突如現れた彼らの存在は、わずか半年のあいだでその名の通り猛スピードで広まっていった。そして先日、新型ウイルス感染予防対策として数々のパーティーが自粛に追い込まれる中、苦渋の末にSPEED初となるオールナイトイベント〈MAX SPEED〉の開催を決行。幸いにもパーティーから罹患者は生じず、娯楽を規制されつつある若者たちに希望を与える一夜となった。

 

その後も全世界的に厳しい状況が続いているが、速さを追求する彼らの勢いが衰えることはない。レーベル〈SPEED〉としてのリリース、Instagramのライブ機能を利用したWaaterの無観客ライブ、S亜TOHをはじめとしたポストコロナ・プロジェクト #2021survive への参加など精力的に活動を広げている。どんな状況下でもとどまることを知らないSPEEDについて、Ken truths(Us)、akiya(Waater / Us)、Sion(Waater)の3人に話を訊いた。今回の前編では、彼らの掲げる「速さ」をルーツとともに紐解いていく。

 

Text by yukinoise

Photo by Yui Nogiwa

 

 

– SPEEDを構成するUs・Waaterの2組についてそれぞれ教えてください。

 

Ken truths (以下:truths):Usはめっちゃ新しいバンド。俺は去年までSUPER SHANGHAI BANDってバンドをやってたけど、解散して音楽やらずにクラブで遊びまくる時期があって、LSDXOXOとか観に行ったりしてた。ナイトライフでインプットしたものをそろそろアウトプットしたいと思ってたくらいに、Waaterが自主企画「Waater Park」をDaydream吉祥寺でやってたんだよね。そこにバンド名もメンバーも決まってないのに出演だけ決まったっていう (笑)。

 

 

akiya:Waaterはどこから話せばいいんだろ、俺がもともとソロでやってたあたりから?

 

truths:そもそもバンド始めようってなったのは?

 

Sion:akiyaが仙台でソロやってて、東京のイベント誘われたときにどうせならバンドでやろうってなって。それで友達同士で始めた。

 

 

akiya:メンバーどうしよってなったけど、手っ取り早く全員幼馴染ですんまり決まったね。

 

truths:Usも近いところからメンバー寄せ集めて、8月にバンドとしてスタートした感じ。最初はとりあえずバンド始めなきゃって焦ってたけど、akiyaとTRASH 新 アイヨシとの3人体制になってからは同期とか使ったりして、今は新しいロックのかたちみたいなのを模索する段階にいる。

 

 

– お互いの出会いはライブまたはパーティーがきっかけだったんですか?

 

truths:instagramを見てたときたまたまSionのアカウントに辿り着いて、写真のセンスがめっちゃ良いなと思って俺からフォローしたのがきっかけ。まだWaaterのSoundCloudは再生回数100回ちょいくらいだったんだけど、初めて聴いたときはマジで衝撃受けた。日本にこんなバンドいたんだ!って。

 

 

Sion:truthsは最初からずっと速い(笑)

 

truths:ちょうど当時はSUPER SHANGHAI BANDをやってたから、メンバーのJackson Kakiに声かけて、イベントに呼んでもらったのが初対面。Waaterはビジュアルもやばいし、ライブ見た瞬間から「こいつらできるな」って思った。そこから自然と普通に遊ぶようにもなったね。

 

akiya:お互い初めて会った時から波長が合ってた。

 

truths:今までもバンドシーンで仲いい友達はいたけど、音楽性を抜きにライブハウス以外で会っても心地良い相手って少なくて。でもWaaterは気づいたら一緒にいるというか、前から知ってたんじゃないかってくらい気が合う。

 

– そんな運命的な出会いから、SPEEDとして活動を始めたのはどうしてですか?

 

truths:Waaterと一緒にイベントやりたいってずっと思ってたんだよね。SUPER SHANGHAI BANDのときから考えてたけど結局できずじまいで。8月にUsがスタートしてから、9月にSoundCloudに曲アップして、そろそろ一緒にできそうな気がして10月に一緒にイベントやったのがSPEEDの始まり。

 

akiya:SPEED前にやったWaater Parkも大きかったというか、ロックバンドの可能性を感じられるすごい日だった。

 

truths:Waater Parkには俺ら以外だとThe Cabins、NEHANN、WOOMANの波長が合うメンツが集まってたし、イケる!って思えた日だな。

 

 

– SPEEDの名前の由来を教えてください。

 

truths:ほかの候補は何があったっけ?

 

Sion:truthsは色々考えてたんだろうけど、「SPEEDで良くね?」って言われた気がする。

 

truths:前からWaaterと動画見たりたんぽぽハウス行ったりして遊んでると「これは速すぎる」ってよく言ってたのが由来。

 

akiya:Waaterの日常的な遊びというか、内輪ノリみたいなのにtruthsがハマっていったね。

 

truths:速いって語感もキャッチーだし自分たちのスタンスも表してるワードだもんね。俺はWaaterが出てきたときから、こいつら速いことやってるなって思ってたし。全員セットアップ着てサングラスかけてシューゲイザーやってるようなバンドっていないじゃん、めっちゃ新しいというか。

 

 

俺もSUPER SHANGHAI BANDの頃から新しいものが好きで、ずっと世界の最先端みたいなのに関心を置いてた。Waaterも同じスタンスだと思うし、そこがマッチして生まれたのがSPEEDかな。新しさを速さってワードに置き換えてると俺は解釈してる。

 

– 普段の日常において、どんなときに速さを感じますか?

 

3人:あらゆるとき(笑)。

 

 

truths:絶妙なフォント見つけて「このフォントは速すぎる」って言ったり。

 

Sion:悪いときも「これはちょっと速すぎる」って使う。

 

akiya:この前のMAX SPEEDで、PsychoheadsのヒトシがTシャツにネクタイを組み合わせてたのは速かった。

 

 

Sion:ネクタイはギリギリイケる速さ。俺がファッションを好きになったあたりの時代では究極にダサいスタイルだったけど。

 

truths:俺らにとっては懐かしいけど、ヒトシにとっては馴染みがないというか、新しいスタイルなんだろうね。 あのダサさが一周して速くてかっこいいものとして解釈できる時代がきてる、それがいい速さだな。

 

Sion:悪い速さっていうか、日本の2006.7年あたりの質感はまだちょっと速すぎる。

 

akiya:たしかに(笑)。でもWaaterはあの辺の時代にもう目を付けてるから。

 

truths:悪い速さっていうのは、遅すぎて速く見えてるだけなんだよね。たとえば、海外で2004年くらいにトレンドだった音楽を日本で2010年になってやってた人ってめっちゃいたじゃん。

 

akiya:でも速すぎるって悪いことじゃないんだよね。俺は褒め言葉として使ってるってか、リスペクトは込めてるしdisの要素はない。

 

truths:dis要素すらも速いって言い換えるとコミカルになるし、すごいピースフルな言葉だね。SPEEDはピースマインドを大事にしてるから。よくSPEEDのイベントでライブ中に激しいモッシュがあるけど、暴力性がすごい低い。ハードコアなモッシュよりか、女の子が入っても全然大丈夫なくらい自然に発生するふれあいみたいな。

 

akiya:俺らのやってる音楽でしかああいうモッシュが起きることあんまりないよね。

 

 

truths:SPEEDのモッシュは、 熱狂を保ちつつ不自然さがないというか、ここで激しくなって盛り上がります!みたいなお決まりごとじゃなくて、「なんかやばくない?」って自然にブチ上がる感じ。

 

Sion:今でこそ速さは自然発生するようになったけど、SPEEDみたいなシーンはずっと作りたいと考えてたな。バンドを始めてから1年くらい、Waaterとして地道にやってきてもどこか違う部分があって。 2019年になったあたりからNEHANNやThe Cabins、Psychoheadsとかのバンドが出てきたのもあって、WaaterだけではできなかったシーンをSPEEDでやっと構築できた。

 

truths:SPEEDも含め、今のシーンにクルー的な存在ってたくさんいるじゃん。 クルーはヒップホップ発祥のムーブメントだけど、それをバンドでもやったほうがいいとずっと思ってたんだよね。でも SUPER SHANGHAI BANDでやろうとしたときは、俺が思うようなかたちにはならなくて。Waaterに出会って、こいつらとならSPEEDとして一緒に面白いシーンを作っていけるって確信した。

 

– 速さに辿り着くまでの道のりは長かったんですね。現在に至るまで受けた影響はありますか?

 

truths:一言では言えないけど、ルーツは全員ロック。The Libertines、The Strokesあたりが根底にある。

 

 

akiya:みんな趣味バラバラだけどその辺は共通してるね。俺は70年代のパンクとかが好きで、中学生の頃Sionとよく話してた。親父がバンドやってたからちっちゃい頃からそういうの聴いたり、Youtubeでライブ映像とか見たりしてた。ああいう熱狂がSPEEDの原動力になってる。

 

Sion:Sex PistolsやThe Clashを1人で聴いてたときは、絶対に俺の周りにこんな音楽聴いてるやついない、日本で俺しかいないって思ってた。けど、試しに話しかけたakiyaは俺以上に知ってた(笑)。

 

truths:俺も中学のときロックなんて聴いてるの俺しかいなかった。最初レッチリから入ってて、GREEN DAYやParamore、ベタにジミヘンやツェッペリンも聴いて、中3になってThe Strokesあたりをめっちゃ聴いてた。友達はヒップホップが好きだったから、Eminemとかおすすめされて聴いてたし、昔からジャンル問わず聴いてたな。

 

 

Sion:周りのやんちゃなヤツらは聴いてたけど、俺はヒップホップは通らなかった。それで遊ばなくなったこともあったし。

 

truths:そんな時代もあったけど、今は音楽のジャンルを意識するよりかは、シーン・場所がどうなるかを想像して聴いてる。たとえば俺らのやってるパーティーも、音楽のジャンルじゃなくて理想の場所を設定して演者を集めるようにしてるし、自分が持ってる知見を総動員した結果がSPEEDだったりする。今の俺らはロック以外も好きだし、トラップやアンビエント、それこそガバだって聴く。

 

 

Sion:昔聴けなかった音楽も今は聴ける。俺はロックが好きというか、アーティストは遠い憧れの存在であってほしかったんだよね。あの頃の俺はヒップホップの存在や歌ってる内容が近すぎて苦手で。でも今はそういう寄り添ってくれる音楽の良さもわかるようになった。

 

truths:ヒップホップは生活の延長線上みたいな感じがしたもんね。ステージに上がった瞬間に人格が変わるようなロックスターの美学に俺らは憧れてたんだと思う。俺は福岡、Waaterは秋田ってつまんない場所の生まれだから。中学時代に1人でロック聴いてたようなやつらのマインドがそういうロックの美学にフィットした感じ。パーティーや場所を作るためにはジャンルレスでありたいけど、自分たちが押し出していきたいのはやっぱりロック。

 

– 一時期に比べ、昨今はロックの熱気が落ち着いているように感じています。現在のシーンでロックを押し出していきたい理由はなんですか?

 

truths:たしかに、今の時代に「何聴いてるの?」って問いに「ロック」って答えるとダサい。だからこそやってるかな。

 

akiya・Sion:速いから(笑)

 

truths:ダサいって言われてるからこそ今やりやすい。ロックは速さで言ったらピカイチでしょ。

 

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