2019/11/18
ハードコアを愛するレイバーたちの楽園
2019年10月26日、オランダ・ユトレヒトにて世界最大級のハードコアフェス〈Thunderdome〉が開催された。ハードコアテクノ発祥の地であるオランダに、世界中から約5万人ものレイバーが集い、轟音と感動に心を震わせた。ほとばしるハードコアの饗宴を捉えたレポートを写真とともにお届けする。
Text & Photo by yukinoise
本フェスは1992年から始まり、20年目となる2012年を区切りに一度活動を休止した。その後、25年目にあたる2017年に活動を再開し、今もなおハードコアの歴史に名を残し続けている。27年目となるこの日は、ハードコア界のレジェンドたちが集結したメインフロアから、オールドスクールへのリスペクトを掲げたフロア、インダストリアルな楽曲が流れるフロア、スピードと強さだけを極めたフロアなど多彩なフロアが用意された。各フロアのテーマや詳細に関しては、YouTube上にて事前に公開されている。
会場内には歴代のフライヤー、レイバーのユニフォームともされるトラックスーツの数々が展示された。その他にもタトゥーや理髪ブース、華やかにきらめくスリルライドなど多彩なアトラクションが設けられている。飲食や物販はもちろん、これらのアトラクションはThunderdome専用のトークンで利用可能。トークンは会場内の専用ブースで現金と引き換えられる。ここはもはやフェスではなく、テーマパークというべきだろう。豪華絢爛に彩られた会場は、ハードコアを愛するレイバーたちの楽園と化していた。
従来のフェスともっとも異なる点は、とにかく踊りやすさに特化しているという点だ。通常、にぎわいを見せるフェスであると、観客同士がおしくらまんじゅうのように身を寄せあわざるを得ないことがある。どれだけ盛り上がっても、高揚感や情熱を最大限に表現できるほどのスペースを確保するのは難しい。一方、今回のThunderdomeでは巨大なコンベンションホールを貸し切っており、レイバーそれぞれがのびのびと踊ることができるほどのスペースがしっかりと確保されていた。Angerfistなどの名だなるアーティストが並ぶメインフロアには大量のレイバーが押し寄せたが、それでもある程度の踊れる余裕があったのは衝撃的だった。
また、入場前には入念なボディチェックが行われた。スタッフに不必要と判断されたカバンや大きめの上着は備え付けのロッカーにしまうよう指示される。これも踊りやすさのひとつだ。ハードコアの祭典で余計な荷物を背負う必要はない。
Milenium Hardcoreを中心としたフロア・ HEROES OF HARDCOREでは、往年のハードコアファンからフレッシュなレイバーまで老若男女が熱狂した。三連符が続く力強いサウンドと、レイバーたちのHakkenによる振動がフロア全体を奮い立たせる。午前2時、Endymionのプレイでは、多くのレイバーたちが汗ばんだ身体を寄せ合いながら四肢を振り上げた。ステージ裏でキックとともに燃え盛る炎にも負けぬほど、フロアの盛り上がりは最高潮に達していた。
ちょうどそのとき、熱が立ち込めるフロアの最前列で狂ったように踊り続ける青年のそばに、ドラッグを求め話しかけようとするジャンキーが現れた。彼女は物欲しそうに青年を見つめながら踊る。そんな彼女に目も向けず、ドラッグではたどり着けないレベルの絶頂を全身で表現するように踊り続ける青年。そのパワーにうろたえたジャンキーは、話しかけるのを諦め、踊りながら引き下がっていった。ガバキックが鳴り響く中、それぞれのコアが無数に交差していく。こんな映画のワンシーンのような光景が見られるのもレイヴの醍醐味のひとつかもしれない。
中でも一番の熱気を感じたのは、およそbpm200〜2000ほどの楽曲をテーマとしたフロア・Tunnel of Terror。朝6時にもかかわらず、武骨なテントのような作りのフロアに、変態すぎるほど速い音を求める熱狂的なレイバーたちが集結した。
早朝の疲れも眠気も吹っ飛ばす勢いのプレイでフロアを沸かせたのは、オランダ・ルーワルデン出身のDJ・Noisekick。エルフを模したマスクを被り、スピード感溢れるプレイする姿はまさにモンスターそのもの。速すぎるがゆえ踊ることすらできず、苦渋の表情を浮かべる者や、呆然と立ち尽くしてしまう者もいた。スモークと光のヴェールに包まれ、妖しげに揺らめくNoisekickの影は、彼を悪魔にも神様のようにも見せた。
朝8時。大量のゴミが散らばるフロアの中、興奮さめやらぬレイバーたちはまだ踊り続けていた。会場からユトレヒト中央駅まで繋がる道なりですら、祭りの後の静けさを感じさせぬほどの盛り上がりを見せている。強烈な余韻に浸るかのように踊り続ける姿は、レイヴとしてのあるべき姿を示しているようだ。オランダの冷たい風と燦々と降り注ぐ朝日が痛いほど染みる中「Never Ending Thunderdome‼︎」と笑い合うレイバーたちの瞳は、あの夜見た無数に飛び交うレーザーよりも光輝いていた。
今回のThunderdomeの様子は、公式ホームページとInstagram上にて公開されている。現在、アンセムを手かげたDitherのライブ映像もYouTubeにアップされているので要チェックだ。
また、これまでのThunderdomeの歴史を振り返るドキュメンタリー映画の上映も決定している。残念なことに、日本での上映はないようだが、トレーラー映像はYouTubeにて視聴可能。ハードコアの生きる伝説を、しかとその目に焼き付けてほしい。
category:FEATURE
2019/10/24
ロシア・ウクライナ新世代10組を紹介 2005年にYouTubeが設立され、10年後の2015年にはサブスクリプションの音楽ストリーミングサービスが開始し、2019年の今では、誰もが指先ひとつで世界中の新しい音楽にいつでも触れられる時代になりました。同時に日々新しい作品がインターネット上に登場するようにもなり、世界中でアンセムやトレンドは猛スピードで更新されていきます。そんな中、世界でも勢いを増しているロシア・ウクライナの最新若手アーティストをAVYSSよりお届け。ロックバンドからレイヴユニットまで多種多様なジャンルのアーティスト厳選10組を紹介します。 Text by yukinoise ПОШЛАЯ МОЛЛИ 弱冠22歳のフロントマン、Kirill Bledny率いるウクライナ・キエフのポップパンクバンド。2017年頃から活動を開始し、約2年後の今ではキエフの若者が大熱狂するほどのバンドに急成長しました。2000年代のUSロックバンドを彷彿させる軽快かつ疾走感溢れるサウンドに、AK-47を片手に暴走するMVが絶妙にマッチしています。USのMindless Self Indulgenceに大きな影響を受けギターを持ち始めたと現地メディアのインタビューでも話しており、これからのバンドシーンを担っていくスターとしても注目度が高まっています。自身がロシア周辺の音楽に興味を持つきっかけにもなったバンドなので、ロシア・ウクライナのサウンドシーン入門編としてもぴったりのアーティストです。 НЕРВЫ こちらもウクライナ・キエフを中心に幅広く活動するオルタナティヴロックバンド、НЕРВЫ。少年心をギターで突き刺してくるような骨太な王道ロックサウンドで、最近のキッズからかつて同じようにグランジキッズだった大人まで魅了する彼らは、メンバーの激しい入れ替わりを経て、めでたく2020年に活動10周年を迎えます。近隣のモスクワやサンクトペテルブルクでも積極的にツアーを敢行するなど、彼らの勢いは留まることを知りません。最近リリースされた新曲『ΩЗАЖИГАЛКИ』のMVには先ほど紹介したПОШЛАЯ МОЛЛИのKirilも出演中。 кис-кис кис-кисはサンクトペテルブルク出身の2人組ガールズロックユニット。2018年頃から活動を始め、キュートかつ力強い作品を多くリリースし、瞬く間に人気を博しました。ピンクと赤毛の組み合わせやファッション、MVの世界観までとすべてがおしゃれなふたり。ファッショナブルなルックスとは対照的に、ダウナーでナイーブなティーンの心情を映し出したリリックを叫ぶ姿はガールズロックの枠を飛び越えるほど魅力的。激しい性差別や同性愛に厳しいロシアで活動する中、彼女たちはアーティストとして性差別の解消・LGBTを支持し、現地メディアのインタビューでこう答えています。「Поедем по Невскому на огромной розовой вагине. Или даже на розовом танке! – 大きなピンク色のアソコでネフスキー大通りをドライブしよう。 またはピンク色の戦車でも!」 ФРЕНДЗОНА メンバーを架空のキャラクターに見立てた世界観で活動するФРЕНДЗОНАは、ロシアのポップパンクグループ。鮮やかなブルーヘアーとアニメキャラのようなルックスを持つボーカル・МЭЙБИ БЭЙБИ 、ワニの衣装がトレードマークのラッパー・Кроки Бойなど個性豊かなメンバーが揃っています。トラップやパンクをポップに混ぜ込んだサウンド、刺激的なリリックでティーンエイジャーからの人気を博し、ロシアのソーシャルメディア『VK.com』でのフォロワーはすでに45万人を突破。その一方、 モスクワ当局は彼らの作品は子どもに悪影響を及ぼす可能性があると指摘。ライブ作品の内容を一部変更することによりツアーのキャンセルを免れましたが、この事態を受けた彼らのマネージャーは「ロシアにはティーンの現実を反映しているだけのパンクグループより深刻な問題がある」と語っています。 Ploho ロシア・ノヴォシビルスク発のニューウェイブ・ポストパンクバンド、Pholo。2013年頃から活動を開始し、今年2019年には通算4枚目となるアルバム『Пыль』をリリース。渋くてセクシーな歌声に、物憂げな雰囲気が漂うサウンドの組み合わせが最高に気持ちいい。ゴシックかつローファイなのにこんなに踊りやすくていいんでしょうか。いいんです!そんな彼らは2017年にリトアニアの映画監督・ユルギス・マトゥリャビカスが描くサスペンスドラマ作品『Isaac』に出演するなど幅広く活動しています。 Shortparis なんとメンバー全員坊主頭!という目を惹くルックスと、英語・ロシア語・フランス語の三ヵ国語を交えた楽曲が特徴的なインディーロックバンドです。ロシア・サンクトペテルブルク出身ですが、ロシアだけに限らずヨーロッパでも高い評価を得ており、今年2019年にはイギリスのフェス・The Great Escape Festivalにも出演。ロシアの歴史的背景、文化についての現代的な解釈やメッセージ性に富んでいる彼らの作品からは、ダークでありながらも力強い意志が感じられます。ヨーロッパとアジア、どちらにも国境を面するロシアならではの世界観がこちらのMVにぎゅっと詰まっています。 СБПЧ СамоеБольшоеПростоеЧислоことСБПЧは、ジャーナリストのKirill Ivanovを中心としたロシア・サンクトペテルブルクを拠点に活動するグループ。ヒップホップ、アンビエント、エレクトロニカからIDMまでジャンルという枠を飛び越えたサウンドが特徴的。2007年頃に活動を開始してから、独創性溢れるサウンドとユニークな世界観でロシア中の賞賛を獲得しました。今年2019年にはモスクワで開催されたRed Bull Music Festivalにておよそ24時間にもわたるプレイを披露したとか。今後も目が離せないアーティストです。 Russian Village Boys なんてド直球すぎるタイトルなんでしょう。こちらの作品をリリースした彼らは、ロシア・サンクトペテルブルク出身の3人組レイヴユニット・Russian Village Boys。どの作品でもとにかく踊りまくる、暴れる、踊りまくるとわんぱくなグループです。ガバやレイヴ文化に強い影響を受けており、2018年には『LOVE NETHERLANDS』というまたもド直球なシングルをリリースするほど。その1年後である今年2019年には、念願叶ってオランダ・アムステルダムで初ライブを敢行し、大盛況だったそう。 ДЕТИ RAVE ロシア語で子どもを意味するДЕТИことIlya Burkovは、ロシア・モスクワ出身のニュー・ロシアン・レイヴアーティスト。ロシアン・アンダーグラウンドシーンの中で1番スピード感溢れるIlyaは1994年生まれの現在25歳。2018年より活動を開始し、約1年ですでに3枚のアルバムをリリース。軽快で駆け抜けるような仕上がりとなっているこちらのMVの楽曲は最新アルバム『ФАЯ』に収録されています。その他にも日本のアニメネタをサンプリングしたタイトルと同名の楽曲『ФАЯ』などキャッチーでハードに踊れる一作となっています。 GSPD 最後を飾るのは、ハードベース生まれの地であるロシアが産んだハードベース×ヒップホップアーティストのGSPD。アルコールを片手に、全身adidasでハードベースを踊る姿はまさにGopnik(主に25歳以下を指すロシアのステレオタイプなヤンキー、サブカル的若者)そのもの。Gopnikのあいだでミームとして大流行したハードベースは未だに人気のようです。クレイジーでウォッカのように強く、エネルギッシュなサウンドが魅力的な彼ですが、最近ではドラッグを風刺した楽曲が公共機関の要請によりロシアのYouTubeから消されてしまう事態になったとか。
2019/12/20
後日配信リリース バンクーバーを拠点にするJulian BriggsことBaby Blueは、x/oやJS Aureliusらと共にエレクトロニック/エクスペリメンタルのシーンにおいて、注目の新興コレクティブ〈s.M.i.L.e.〉のメンバー。2016年にNYの〈PTP (Purple Tape Pedigree)〉から『Void Gate』を、今年に入り〈Ascetic House〉からデビューアルバム『Death of Euphoria』をリリースしている。 今回新曲「There Must Be More To Life」をサプライズリリース。現在Soundcloudで公開されているが、後日Spotifyなどでも配信されるとのこと。写真とマスタリングはugentが担当。また、先日フランスの〈ParkingStone〉からリリースされた3部作コンピレーションの第1弾『Dandelion1』にもAbyss X、Chino Amobi、CORIN、Crystallmess、Ziúr、IVVVOなど共にBaby Blueは「0d」という楽曲で参加している。
2020/01/06
1月1日リリース Photo by: Frederike Wetzels 昨年5月にはアジアツアー敢行し、来日公演も行ったコンポーザー / エンジニアReba FayのプロジェクトSwan Meat。台北のDJ / プロデューサーSonia Calico、Organ TapesやDJHをゲストに迎えたEP『SCUM』をリリースしているNunu、〈Danse Noire〉のGIL、ケルンのプロデューサーDENZXLが参加したリミックスEP『TAME : REMIXED』を先日リリースしたばかりだが、今回は2017年から2019年の間に発表されたシングルなどをコンパイルした『The Singles: 2017-2019』を元旦に配信リリース。 今作にはbandcampやSoundcloud等で発表されたシングルやEPの曲が13曲収録。また、Swan Meatは2月に〈Infinite Machine〉から新作EP『FLESHWORLD』のリリースも控えている。 Swan Meat – “The Singles: 2017-2019” 01. Throat 02. Devious 03. Blood Echo/Wraith 04. Cream 05. Mute 06. Tame 07. The Crucible/Candyland 08. Waxx Poem 09. Requiem Torso 10. All Dogs Go to Heaven 11. Satan’s Preset 12. My Tumor is My Ghost Producer, She Loves Psychic Toms 13. Render/Trigger
レーベル第一弾作品は後日発表
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受け手の自由に寄り添う作品
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