2019/09/02
シンガーソングライター/シンガートラックメイカーを30組を3回に分けて紹介
かつて宅録と呼ばれたインドア系DIYポップ・ミュージックを指したサブジャンル「ベッドルームポップ」は、今や変節を遂げてオルタナティブ・ポップの新たなトレンドに浮上しつつあります。
近年の様々な音楽トレンドの例に漏れず、SpotifyやYouTubeのリコメンド・アルゴリズムとプレイリストがジャンルの枠組やコミュニティ形成に役割を果たすことで、急速にリスナーの裾野を拡げてきたベッドルームポップ。昨今はやや恣意的に感じられるほど、ジャンルの解釈が拡大されてきています。元来のホームメイド・ミュージックという前提は曖昧になり、Mac DeMarcoやTame Impala以降のサイケポップ(これは比較的従来のイメージに近い)を中心に、DIYなアプローチのソウル・ファンク、インディR&Bやチルトラップの一部など多様なスタイルのアーティストを、「レイドバックした気分とローファイなサウンド」くらいの大枠で統べてしまう便利なワード、最新のベッドルームポップの運用実態はそんなところでしょうか。
そして2017年以降このジャンルの盛り上がりを牽引しているのが、Tyler, The CreatorやKing Kruleを影響源として掲げる、Z世代のラップするシンガーソングライター(あるいはDIYトラックで歌いあげるラッパー)とシンガートラックメイカーたちです。
この夏にはその代表的アーティストであるClairo『Immunity』、Cuco『Para Mi』という両雄のデビュー・アルバムがリリースされ、ベッドルームポップ・ムーブメントも最初のピークを迎えています。
個々のアーティストについて紹介される機会は音楽メディアでも増えてきたように感じますが、まだこの新世代のベッドルームポップを網羅的にまとめたテキストは少なく、とくに日本語の記事はまったく見当たりませんでした…。というけわけで、ここでは著者の私見もたっぷりとなりますが、2019年のベッドルームポップ・シーンの主要キャストとなっているシンガーソングライター/シンガートラックメイカーと、彼らに共振している次世代アーティスト30組を3回に分けて紹介していきます。
Text by Gikyo Nakamura
まず第1回の10組は、USを拠点に活動しているアーティスト編その1です。
Clairo
1998年生まれ。ボストン出身の現在20歳。2017年8月にYouTubeにアップした”Pretty Girl”のバイラルヒットで、一躍ベッドルームポップ界のアイコンに。2018年にTyler, The CreaterやDua Lipaの北米ツアーのオープニングアクトを務め、今年はCoachellaにも出演している。”Flamin Hot Cheetos”のMVにはCuco、Inner Wave、Michael Sayer、Zack Villereなどをカメオ出演させ、昨年のEP『diary 001』ではRejje SnowやSG Lewisとコラボ、今や110万人超のフォロワーを誇るインスタのストーリーで日々おすすめアーティストの楽曲をフックアップするなど、自らシーンの旗手を担ってきた。”Pretty Girl”から2年、8月4日にリリースされた待望のデビュー・アルバム『Immunity』が目下の最新作。
今回紹介するUSシーンのムードについては、どんなテキストで説明するよりも、ClairoやOmar Apolloがサントラに起用されたガールズ・スケーター映画『スケート・キッチン』(’18)が最高のリファレンス。10代の恋愛や友情といった普遍的な青春模様に、LGBTQ、フェミニズム、移民やブラック・ライヴズ・マターといった人種問題への意識など、Z世代アメリカンの象徴的テーマが詰まっています。Clairoが映画のキャストと撮影した”Heaven”のMVも眩しすぎます。
Cuco
ロサンゼルスを拠点に活動するCucoは、メキシコ系アメリカンの21歳。英語とスペイン語のバイリンガル・スタイルで作品を発表し、ここでも紹介するOmar Apollo、Lilbootycallなど筆頭に、Los Retros、VICTOR!といった後継が次々に登場しているチカーノ・ポップ・ミュージックを牽引しているカリスマ。今年7月にリリースされた待望のメジャー・デビュー・アルバム『Para Mi』は、甘口のトラップにレトロスペクティブなサイケ・ポップ、ボッサ・テイストまで、抜群に人懐っこいメロディと洒脱なセンスでまとめあげた快作となりました。
Steve Lacy
カリフォルニア州コンプトン出身、こちらも若干20歳のプロデューサー、Steve Lacy。Odd Future所属のThe Internetの中心メンバーでもあり、Kendrick LamarやVampire Weekendの作品にも参加するなど、今回紹介するアーティストたちの中でも先駆的な存在。今年5月にリリースしたソロ・デビュー・アルバム『Apollo XXI』は、The Internetと共通するオーセンティックでソウルフルな音楽性を、よりメロディアスなソングライティングとローファイなサウンドで聞かせた傑作となっています。
Gus Dapperton
その印象的な髪型とファッションで、i-D、Vogue,、The Fader、Nylonといったメディアを中心にフックアップされてきた、NY在住の現在22歳。ソングライター&シンガーとしての卓越した才能に加え、ウェス・アンダーソン的世界観で映画スターに扮した”World Class Cinema”など、MVに映えるルックスを含めてヒップスターの資質を備えた天才。ティーンに絶大な人気を誇るNetflixドラマ『13の理由 』サウンドトラックにも楽曲提供。7月にはデビュー・アルバム『Where Polly People Go ToRead』がリリースされており、11月には初の来日公演も控えている。
Roy Blair
Odd Futureの影響を受けて本格的なトラックメイキングを開始したという、LA在住の現在22歳。BROCKHAMPTONのフックアップでデビュー以前から話題になっていたけれども、実際にKevin Abstract(BROCKHAMPTON)の評価を決定付けた傑作ソロ・アルバム『Amerikan Boyfriend』(‘16)のインディ・ロック・エッセンスは、彼の関与によるところが大きいはず。その翌年にリリースされた自身のデビュー・アルバム『Cat Heaven』では、カラッとした陽性ギターポップ・サウンドと、瑞々しいシンギング・ラップ・スタイルを融合させたエポックな傑作に。代表曲”PERFUME”のMVではMy Bloody ValentineのTシャツがチラリ。
Omar Apollo
インディアナ州サウスヘヴン出身で現在はLA拠点に活動する22歳。Cucoと同様にメキシコ系アメリカ人で、オルタナティブ・ポップの文脈にもチカーノ・アイデンティティという新風を吹き込む。Neil Youngをフェイバリットに掲げている彼のソングライティングはレイドバックしたR&Bとファンク、フォークが少々。4月にリリースされたセカンドEP『Friends』では、軟弱サイケデリック・ファンク大名曲”Ashamed”、爽快なモダン・ディスコ・ソウル”So Good”というダンサブルな新境地も開拓。さらにファンの裾野を拡げています。
Lilbootycall
テキサス州サンアントニオ出身でやはりメキシコ系アメリカンの22歳。所謂ローファイ・ヒップホップではなく、Lil Yachty系譜のバブルガムなトラップにKAWAIIモードを展開するラッパーたちの出世頭。日本のアニメやゲームといえばスクール・カースト最下層を表す記号としてUS青春映画のオタク役定番だったけれども、エモラップ以降のタームではむしろ必修科目に。果たしてどこまでをベッドルームポップという括りで扱ってよいか難しいところだけれども、ひとまず彼はCucoとKWE$Tを客演に迎えた”777”という完璧な一曲が免罪符です。
Still Woozy
カリフォルニア州オークランド出身のSven Gamskyによるソロ・プロジェクト。5月にリリースされた最新EP『Lately』では、陶酔感たっぷりのサイケデリック・ポップ名曲”Lava”や、Omar Apolloも参加したボサノヴァ・テイストの”Ipanema”、トラップ・ビートとローファイなバンド・サウンドを融合したR&Bチューン”Habit”など、多様なアプローチで名曲を連発。ソフィスティケートされているけれども、MVで見せるコミカルで人懐っこいキャラクターも魅力の脱力系ポップ。人気急上昇中。
UMI
シアトル出身のTierra Umi Wilson、20歳によるプロジェクト。大学に通いながら制作した”Frindzone”や”High School”のMVで展開されるキラキラとした放課後の眩しさに涙。バラッド”Remember Me”のMVは1,000万再生に迫るバイラルヒットでも注目を集めた。Frank OceanやD’angeloをフェイバリットに掲げるソングライティング、ローファイなサウンドと親近感を抱かせるフレンドリーなキャラクターが揃った稀代の才能で、今後発表されるアルバムでブレイクしそうな予感。個人的にはコチラも注目しているDeaton Chris Anthonyと共演した”Sonshine”が目下の最新リリースです。
Zack Villere
現在はLAを拠点に活動する23歳。Tyler, The Creatorの呟き一発でバズった名曲”Cool”のMVに登場する、どうしたって映画『ナポレオン・ダイナマイト』(旧邦題『バス男』)状態のナードで天邪鬼な眼鏡キャラクターはインパクト大。サウンド的にもOFWGKTAと90年代後半のUS宅録インディの間の子のようなバランスで、当時ならGrand Royalとかから出ていそうなオルタナとヒップホップの折衷感覚が絶妙。ベッドルームポップのシーンとも親和性が高いナード・ラッパーTobi Louの昨年アルバムにもフィーチャリングされていました。
category:FEATURE
2019/09/26
シンガーソングライター/シンガートラックメイカーを30組を3回に分けて紹介 第2回は、UKを拠点に活動しているアーティスト編です。USがTyler, The CreatorとOFWGKTA以降のZ世代ならば、こちらの中心となっているのはKing Kruleが牽引するサウス・ロンドンの若者たち。 今回の特集で採用している「レイドバックした気分とローファイなサウンド」というベッドルームポップの解釈を当てはめていくと、日本でも人気のあるTom MischやLoyle Carnerあたりは些か洗練されすぎて、ひとまず選外に。そしてメキシコ系の躍進が重要なファクターとなっているUSシーンほどではないにしろ、こちらもジャマイカやインド、トルコ系など移民2世や3世の活躍は印象的です。イギリスのカラード・ミュージックというとグライムの話題ばかりでしたが、過去40年間もっぱら白人専科だったインディ・ポップのコミニティにも、遂に変革のときが訪れているのかも知れません。 Text by Gikyo Nakamura Rex Orange County UK編の筆頭はRex Orange CountyことAlex O’Connor、現在21歳。King KruleやJamie Isaacを輩出したブリット・スクール出身で、Tyler,The Creatorによる2017年の金字塔アルバム『Flower Boy』にフィーチャリングされたことで脚光を集めた天才SSW。ジャズやR&Bを小気味よくモダンに解釈したブルーアイドソウル・サウンドは、ノスタルジックで親しみやすい印象で、個人的にはKing Kruleのような革新性よりも、ブリット・ポップ〜モッズ・カルチャーの良き継承者という理解。Benny Singsと共作した”Loving is Easy”や出世曲”Sunflower”も捨て難いけれど、9月にリリースされたばかりの最新曲”10/10”が、さらに一皮剥けたエバーグリーン大名曲!10月25日にはニュー・アルバム『Pony』が控えています。 Cosmo Pyke King Kruleと同じくペッカム出身で、ジャマイカ系イギリス人の二世、そしてやはり件のブリット・スクール卒業という出自の21歳。まだ実質はEP『Just Cosmo』(’17)のみしかリリースしていないにも関わらず、ShameやJerkcurbと共にサウス・ロンドン・シーンの市井として注目を集め、チャーミングなルックスも相まって人気沸騰中(日本では音楽誌『NERO』が昨年いち早く表紙に起用)。ガレージ・パンクに、ジャズ、ソウル、ラップのミックスされたKing Krule直系のサウンドだけれども、さらに2トーン・スカ〜レゲエのルードボーイ・エッセンスが利いている。そろそろ新曲を聴かせてほしいところ。 Puma Blue こちらもサウス・ロンドンで活躍する、ブリット・スクール出身組。Puma Blueの音楽はとかくジャズと評されているし、当人の志としてもジャズ・ミュージシャンなのだろうけれども、コンサバなジャズ側の視点から見たならば、これは完全にインディ・ロックの範疇では(技術的な拙ささえも魅力の”ベッドルーム・ジャズ”なんて破綻は許されないでしょう…)。重要なのは、たぶんほとんど20年ぶりに、ヒップな若者たちに「ジャズる気分」が戻ってきたこと。King Kruleの真夜中の色彩よりも淡い、日の出前の束の間に訪れるブルーアワーのように美しく儚い楽曲群。 Yellow Days マンチェスター出身で現在はロンドンで活動する、Yellow DaysことGeorge Van Den Broekは19歳。Mac DeMarcoを影響源としたレイジーでソフト・サイケデリックな音像と、本家以上にブルージーなソングライティングで、早々にフォロワーの域から脱却。2016年に17歳で発表したデビューEP『Harmless Melodies EP』で注目を集めると、翌年のファースト・アルバム『Is Everything Okay In Your World?』で早くもメジャー・デビュー。2019年はCoachellaにも出演し、5月には初の来日公演も果たしている。 Alfie Tampleman こちらもMac DeMarcoやTame Impalaに影響されたという、イングランド東部ベッドフォードシャー出身の若き天才シンガーソングライター。昨年15歳で名門インディ・レーベルChess Clubとサインして以降にリリースされた2枚のEP『Like An Animal』『Sunday Morning Cereal』は、そのまんまMac DeMarcoなフニャフニャのサイケ・ポップもあれば、Rex Orange County路線のソウルフル・ナンバー、90sヒップホップ調のビートを導入したR&Bチューンなど、バラエティ豊か。Dirty Hitからリリースする18歳シンガー、Oscar Langの名曲”Hey”にも客演しており、beabadoobeeらと共に驚異の10代旋風ありそうです。 Rejjie Snow 今回ピックアップしている他のアーティストたちより一世代上の26歳。アイルランドのダブリン出身ですが現在はロンドンを拠点に活動しており、King
2023/11/17
ファウンド・フッテージ・ホラー・ビデオ公開 寿司レストランで出会った二人。Tatiana SchwaningerとGraham Perezによるデトロイト拠点のウィッチ・エレクトロニック・デュオ。Snow Strippersが11月24日に〈Surf Gang〉からリリースするEP『Night Killaz Vol 1』を発表。 20年代のインターネット上で最も秘密された何かの一つ。10年代のウィッチハウスレジェンドと比較されながらも、オリジナル更新を続けてきた。EPからのリードシングル「Just Your Doll」をリリース。ファウンド・フッテージ・ホラー・ビデオを公開。 Snow Strippers – Just Your Doll Label : Surf Gang Release date : November 15 2023 Stream : https://surfgangrecords.ffm.to/justyourdoll
2019/04/11
1. 2018年代 by Daiki Miyama 現代史は10年を単位としたディケイド、つまり年代で区切られ語られることがある。特に音楽やファッションなどのカルチャーはその様式の記号として年代が使われる。このスネアのリバーブは80年代っぽいとか、このスニーカーのハイテク感は90年代っぽいといった具合に。 しかし変化の進みが早く多様な音楽やファッションの様式を10年という単位で区切るのは無理があるように思う。音楽で90年代と言って思い浮かべるのはグランジだろうか、アシッドジャズだろうか、それともドラムンベースだろうか。ファッションにおいてもそうだ。90年代に今につながるハイテクスニーカーの多くが発明されブームになったのは確かだ。ただ 90年代の足元がすべてハイテクスニーカーだったかというと、当然そんなことはなく、ドクターマーチンなどの定番はもちろん、レッドウイングのエンジニアブーツや UGGのムートンブーツなどもブームになりよく履かれていたように思う。 それでも、10年という区切りが有効な分野もある。そのひとつが進みの遅い音楽メディアの物理フォーマットだ。リスナーが音楽を安心して購買し収集できるようにするためには、音楽メディアの物理フォーマットはファッションのトレンドのようにシーズン毎に変わるわけにはいかない。 レコードブームと言われて久しい昨今だが、アメリカに端を発するレコードブームはがいつから起こったかを考えるとそれは 2008年頃であったように思う。アメリカのレコード会社の業界団体であるアメリカレコード協会(RIAA)のデータによると CDの登場により落ち続けたレコードの売上が初めてプラスに転じるのは 2008年からだ。 USでのレコードの売上枚数。濃い青はアルバムとEP、薄い青はシングル盤を示している。これを見ると90年代のレコードはシングルで成り立っていたことがわかる。参照元:https://www.riaa.com/u-s-sales-database/ その 2008年に何が起こったかを振り返ると Captured Tracks、Mexican Summer、Acéphale、Big Love, The Trilogy Tapesや PANなど今に繋がるインディーシーンを作り上げたインディーレーベルがこぞって設立されたのが、この年だということに気づく。その前後も含めると Italians Do It Better、Secred Bones、DAIS、Burgerなどが2007年で一年早く、Posh IsolationやR.I.P Societyが2009年となる。これらのインディーレーベルの主要なメディアがレコードであることを考えると、2008年から続くレコードブームは彼ら新興のインディーレーベルが主導したブームであると言えるのではないだろうか。 また、スマートフォンや音楽関連のサービスを眺めてみると、世界で最初のスマートフォンであるiPhoneが登場したのが 2007年で、日本ではじめて発売されたiPhone 3Gが2008年。対抗する Androidも2008年に登場している。インディーレーベル御用達の Soundcloudと Bandcampができたのは共に 2007年なので、2008年は今に続く環境が一通り揃った年だったとも言える。 本連載『Thinking Framework – 考える枠組み』では、今に続くレコードブーム/インディーシーンの起源である 2008年をひとつの時代の始まりと捉え2008年代と呼ぶことにする。そうすると 2018年は必然的に 2018年代という新しいディケイドの最初の一年ということになり、今年 2019年はそのディケイドの二年目ということになる。 これは自分だけではなく、多くの人に共感してもらえる感覚ではないかと思うのだけどここ1、2年で何かが大きく変わるんじゃないかというゲームチェンジの予兆みたいなものがある。『10年後から振り返ればここが節目だった』本連載では、そういった視点で現在を捉え、ひとつの目として感じたことを伝えていければと思う。今の時点で振り返れば2008年がいろいろな始まりであったように、2018年は今後の 10年の方向性を決定付ける新しいディケイドの始まりとして後年に記憶される年となるような何かを。 Text by Naohiro Nishikawa
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