2019/01/07
集合体としての表現。
2008年頃からDracula Lewisの名義で活動していたイタリアのミラノを拠点にするSimone Trabucchi。Dracula Lewisは初期の作品『Vernasca, Valhalla』以降、オリジナルアルバムと言えるのは2013年の『U$E Your Illu$Ion$』のみ。遅いBPMに変調して、ぐにゃんぐにゃんなったボーカルに気を取られていたが、今聴いてみるとこの頃からSTILLのようなダンスホール/ダブの要素は随所に垣間見える。ドイツの超老舗レーベルCity SlangのサブレーベルであるSouterrain TransmissionsからEP『Permafrost』をリリースするなどもしていたが、Doro Bengala、Sex Boyzなどの別ユニットのリリースを合わせても、作品数はそこまで多くはないSimone Trabucchiがなぜカルトでカリスマな支持を得てきたか。それは彼が主宰するレーベルHundebiss Recordsの活動によるものが大きいはず。Primitive Art、Sewn Leather、JAWS、Chicklette、そしてJames FerraroのDVD、Hype WilliamsのVHSと言った作品もリリースしているHundebissはカセット、レコード、VHS、DVD、デジタルとフォーマットに捉われず、特殊な仕様のジャケット、何よりも一つ一つの作品自体が強い。これはDracula Lewisの作品にも言えるが、インパクトはもちろん、簡単に消費されない強さがある。そしてD/P/I、Helm、Ramzi、JAWS、Sewn Leatherなどが参加した名作『Technical XTC』を最後にDracula Lewisとしての活動を終えた彼が2016年からスタートさせたプロジェクトがSTILLである。2017年にデビュー作『I』はエレクトロニックミュージックのトップレーベルであるベルリンPANからリリース。PANが用意したSTILLの特設サイト、Bill KouligasとInvernomuto(Simone Bertuzzi、Simone Trabucchi)が制作した強烈なアートワークと共に鮮烈すぎるデビューであった。さらに去年はリミックスプロジェクト『I (Remixed)』が同じくPANからリリースされた。今回はSTILLについて、『I』についてなどを、Simone Trabucchiにインタビューを行った。
– どのような子供時代を過ごしましたか?
STILL – 幸せな子ども時代を過ごしたよ。すごく自由に過ごせたし、周りからは愛されていた。山の中にある地元の街や、海のそばのリグーリア海岸でのんびり過ごしていたよ。
– STILLとはどういう意味ですか?
STILL – ST = Simone Trabucchi、ILL = Sick。っていう感じだけど、他にも「it’s me still(まだ僕のままだよ)」とか「I’m still here(僕はまだここにいるよ)」っていう意味のstillでもある。
– どのようにして音楽を作り始めましたか?
STILL – 物心がついてからは、常に音楽をプレイしたいと思っていたんだ。
– STILLのコンセプトを教えてください。
STILL – STILLのコンセプトは、ダブやダンスホールだけじゃなくて、実験的なエレクトロニック・ミュージックに由来するような音楽制作上のあるテクニックに関する個人的解釈なんだ。 すごく違うのに似たような様式を持つこの2つをうまく操り、自分のポジションを見つけ、自分独自の道を辿り、僕と一緒に音楽を作りたいと考えつつ適切な態度を持っている人たち全員が乗れる独自の宇宙船を作ること、それが僕の個人的解釈だ。 僕は、自分の音楽をプラットフォームとして、シンガーが自分のメッセージや、自分の感情を伝えることができると信じている。僕の音楽は、自分たちが共同で創造を行うスペースなんだ。
– Hundebiss Recordsはどのようにスタートさせましたか?
STILL – Hundebissは11年前にスタートしたんだけど、どうやって始めたかさえ覚えていないんだ。Hundebissもやっぱり別のプラットフォームでね。僕は、音楽を集合体の表現として捉えているんだ。 自己中心主義があまり好きじゃなくてね。
– どのようなものに影響を受けますか?
STILL – 大抵はシラフの時に作っているとけど、マリファナを吸うときもある。
– Dracula Lewisは終わったんですか?
STILL – 僕が白髪とかになって歳をとった時に再開すると思う。
– 普段は何をして過ごしてますか?
STILL – 朝起きたら、自分とガールフレンドの朝食を作る。大抵は、ピーナツバタートーストとバナナと紅茶かな。食後に少しエクササイズをしてシャワーを浴びたら、スタジオに行って思いっきり仕事する。エスプレッソを1日に3杯飲んでいるよ。外出はあまり好きじゃないね。目的のある旅行は大好きで、ガールフレンドを愛しているし、自分の人生も愛している、友人たちのことも愛しているよ。
– 『I』と『I (Remixed)』の制作におけるプロセスを教えてください。
STILL – 『I』は、独自の方法でリズムを生み出してみようと思って始めたんだ。ドラムマシンを、曲を「書く」メインソースとして使い、メロディーを作るのではなく、ドラムマシン自体に語らせることにした。『I』は、他のシンセを演奏するために、ドラムマシンをCVの中で使い、すべてが作られた。素晴らしいElinor、Germay、Taiywo、Keidino、偉大なDevon Miles、見事なFreweiniによるボーカルのおかげで、STILLに最終的な形と理想的なエネルギーがもたらされたよ。『I』を出した後は、海外でライブをしたり、少し注目を集めるようになったりしたんだけど、Billがすかさずリミックスの制作を依頼することを提案してきたんだ。BillはNidiaに尋ねて、僕はKelman(Kelma Duran)やJim(Primitive ArtのJim C. Nedd)とか、僕の友人数名に尋ねてみた。その後、僕はArlen(Nyege Nyege / Hakuna Kulala)と出会って、Arlenが僕を2か月間、ウガンダに呼んでくれたんだ。僕がAlrenにリミックスのリリースの準備をしていると話したら、Arlenが僕に「若手のプロデューサーの何人かにステムを渡しても良いかどうか、訊いてくれたんだ。僕は当然、「イエス」と言ったよ。ほんの数か月後、僕はウガンダのカンパラに行ったんだけど、その時に僕はその若いプロデューサーたちと会った。彼らは才能があるだけじゃなくて、すごく素晴らしい人たちだったよ。僕はLow Jackにも声をかけていた。Low Jackはマジで破滅的で斬新なリズムをいくつか作り出しているんだ。他にも、フランスに拠点を置くプロデューサーのE-Unityや、大親友のDuppy Gunにも声をかけて、彼にクレイジーなI Jahbarと一緒に作業してくれるよう具体的に依頼したよ。曲は、ダブの様式に由来しているし、トラックは決して完成形にはならないけれど、それは常に1つのバージョンだし、僕は沢山の多様なスタイルを持つプロデューサーから、沢山のリミックスを作ってもらえることを、ありがたいことだと思っている。おかげで、STILLには大勢の声が一緒に踊っているという理想的な感じが出ているしね。
– PANからリリースはどのように決まったのですか?
STILL – 僕とBill(Bill Kouligas)は、長年の親友だから、共同でこのプロジェクトに取り組むのはいわば当然のことだし、それにこのプロジェクトはすごく美しいものでもあるんだ。
– 今後のプランはありますか?
STILL – 今年、新しいレコードを出すので、期待していてほしい。
– あなたにとってどんな未来が理想ですか?
STILL – 政府も国境もない未来。それが実現すれば、残りは後からついていくだろう。
<原文>
– Please tell me about your childhood.
STILL – It was an happy childhood, I was very free and surrounded by love, passing time between my hometown in the mountains and the riviera ligure, by the sea.
– What does “STILL” mean?
STILL – ST = Simone Trabucchi, ILL = sick. but also still like “it’s me still”, “I’m still here”.
– How did you get into musicmaking?
STILL – Since I have memory I always wanted to play music
– Please tell me the concept of STILL.
STILL – It’s a personal take on certain technique of music production, coming from dub and dancehall but also from experimental electronic music. It’s my personal way to navigate through those two very different but similar tradition, finding my position, following my own path, creating my own spaceship which is open to everyone that wanna join me, with the right attitude. I think at my music as a platform the singer can use to deliver his message or simply his vibe. It’s a space we create together.
– How did you start Hundebiss Records?
STILL – Hundebiss started 11 years ago and I dont even remember how. It’s again another platform. I believe in music as an expression of collectivity. I’m not a big fan of ego-centrism.
– What do you make music under the influence of?
STILL – Most of the time I’m sober, sometimes weed.
– Did the your other project “Dracula Lewis” end?
STILL – I think it will come back when I’m older, with white hair and so on.
– Usually what do you do?
STILL – Wake up, cook breakfast for me and my girlfriend, usually toasted bread with peanut butter and banana and a tea, then doing some exercise, shower, going to the studio and work as much as I can, I drink 3 espresso a day, I dont like to go out much, I love to travel with a purpose, I love my girlfriend, I love my life, I love my friends.
– Please tell me the process of production of “I” and “I (Remixed)”?
STILL – “I” started as an attempt of producing riddims my own way, using my drum machine as a main source of “writing” music, trying to avoid melodies and let the machine speak for themselves, everything it was done using the drum machine in CV to play other synth. The work on vocals was what give to STILL the final shape and the right energy, thanks to the amazing Elinor, Germay, Taiywo & Keidino, the mighty Devon Miles and the wonderful Freweini.
After the record we started to play live internationally and receiving some attentions, Bill immediately suggested to start asking remixes, he asked Nidia, I ask some friends like Kelman and Jim, then I met Arlen (Nyege Nyege / Hakuna Kulala) and he invited me to Uganda for two months, I told him I was working on a remix release and he asked if he can give the stems to some young producers: Slikback and Zilla, and I obviously said yes. I met them only few months later when I went to Kampala and they are not only talented producers but also extraordinary lovely people. I asked also to Low Jack, which is the author of some of the most lethal new riddims around, the french based producer E-Unity and my very god friends Duppy Gun, ask them specifically to work with good old crazyyyy I-Jahbar.
As a music coming from the dub tradition, when a track is never “done” but it’s always a version, I think haveing many remixes from many producers with diffrent styles it’s a blessing. It really gve to STILL the right sense which is a multitude of voices dancing together.
– How did you decide to release it with PAN?
STILL – Me and Bill are good friends since many years, it was kind of natural to work on this project together and it’s also very beautiful
– Do you have any future plans?
STILL – A new record coming out this year, stay tuned.
– What would your ideal future be like?
STILL – No governments & no borders, the rest will follow.
category:FEATURE
tags:Hundebiss Records / Simone Trabucchi / STILL
2021/07/14
PANとHakuna Kulalaのコラボ作品 ベルリン拠点のレーベル〈PAN〉とウガンダはカンパラ拠点の〈Nyege Nyege Tapes〉のサブレーベル〈Hakuna Kulala〉がコラボレーション作品『KIKOMMANDO』のリリースを発表。 今作は、2017年にイタリアの植民地の歴史をテーマにしたデビューアルバム『I』を発表し、変異的なデジタル・ダンスホール表現を確立したSimone TrabucchiことSTILLがトータルプロデュースしたビジュアル・ミックステープ / 書籍で、カンパラ在住のアーティストBlaq Bandana、Ecko Bazz、Biga Yut、Florence、Winnie Lado、Swordman Kitala、Jahcityが参加している。 発表に合わせてEcko Bazzをフィーチャーしたシングル「Ntabala」の映像が公開。「Ntabala」は「戦う、手間をかける」という意味を持ち、諦めないこと、常に自分の人生の目的を信じることを表現している。 『KIKOMMANDO』は、ウガンダのストリートフードであるチコマンドに由来しており、実際のチコマンド同様に栄養価が高く、野心に満ち溢れた作品であるという。2018年東アフリカの夏、カンパラのアーティスト達はSimone Trabucchiと市内のスタジオでコラボレーションをスタートさせた。 トラップ、ドリル、クドゥロ、エレクトロ、スムース・ジャムなど、様々な音楽的影響を受けたカンパラのアーティスト達とSimone Trabucchiによるコラボレーション作品は、無数のスタイルをカンパラシーンの特定部分と結びつけている。ストリートの伝説、Blaq Bandanaが陰鬱なアンビエントの上にラップを乗せ、トランペット奏者でシンガーのFlorenceはアトモスフェリックなムードの中で呪文のようなメロディを並べ、Jahcityのユニークなリリシズムは、伝統音楽やレゲエに対する個人的解釈を展開する。 『KIKOMMANDO』の各曲の映像を集めたビジュアル・ミックステープには、レコーディング・ダイアリーが付属しており、Simone Trabucchiの異質なサウンドパレットを反映し、一冊の本にまとめている。この多面的プロジェクトは、Lamin Fofanaのライナーノーツが「オリジナリティと複雑さ」と表現しているように「不協和音を受け入れる」ことを示している。 ブランドや固定観念に捉われず、新しい表現を創造するための手段として、常にコラボレーションを行ってきたSimone Trabucchiは今作を「対話」であると強調する。「私はシンガーが自信を持てるようなプラットフォームを作ると同時に彼らに挑戦しました。アイデアが加速し、全て自分一人の発明ではないことがわかります。だから『KIKOMMANDO』は私にとって、アルバムではなくミックステープなのです。」と語っている。 VA – KIKOMMANDO feat. Blaq Bandana, Ecko Bazz, Biga Yut, Florence, Winnie Lado, Swordman Kitala, Jahcity Produced by STILL Label : PAN & HAKUNA KULALA Format : Digital / Book Release date : 6 August 2021 Pre-order : https://pan.lnk.to/kikommando Tracklist 01. Blaq Bandana
2018/11/27
Simone TrabbuchiことSTILLのデビュー作『I』のリミックス盤が登場。 STILLことSimone Trabbuchiのダンスホールへの愛はさらに深まったのか。Dracula Lewisを傑作リミックスアルバム『Technical XTC』で終了させたように、今回のリミックスアルバム『I (Remixed)』で彼のダンスホールフェーズは一旦終えるのだろうか。 Dracula Lewisをメインにしながら、Doro Bengala、Sex Boyzなどのプロジェクトを使い分けて活動していたSimone Trabbuchi。彼が主宰するレーベルHundebiss Recordsは、コアなリスナーの信頼度の高さは言うまでもない。 昨年突如として、Simone Trabbuchiは新たなプロジェクトSTILLでベルリンのPANからデビューした。ここにきてまたフレッシュなニュースを与えてくれた彼の新しいアルバム『I』はエレクトロニックダンスホールを彼らしいパンクでもって調理された傑作であった。そして、ダメ押しのように今回リリースされたリミックス盤はSTILL流のダンスホールをリミキサーそれぞれが再解釈した『I』の別バージョンである。 参加アーティストは、年末来日することが決まっているNídia、Hundebissから『1804 KIDS』をリリースしているKelman Duran、Primitive ArtのJim C. Nedd、Low Jack、Slikback、E-Unity、Zilla、そしてDuppy Gun Productionsである。 オーダーはこちらから。
2018/11/27
RiobambaのレーベルAPOCALIPSISよりニューアルバム『13th Month』リリース。 ドミニカ出身でLAを拠点に置くKelman Duranは2017年にSTILLことSimone Trabucchiが主宰するレーベルHundebiss Recordsから『1804 KIDS』をリリースした。Simone Trabucchiのモードと共鳴するようなエレクトロニックダンスホールアルバムでありながら、怪しいサンプリングのループがトリップする隠れた(全然隠れてない?)傑作であった。 前作リリース後も自身のBandcampでカジュアルにEPをリリースしてきたKelman Duranの新作『13th Month』が本日リリース。今作はDiscwomanのメンバーRiobambaが主宰するレーベルAPOCALIPSISからとなる。前作の延長にあると思われるが、さらにスピリチュアルな印象も増している。 https://soundcloud.com/apocalipsistoday/kelman-duran-13th-month-in-3-movements
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レーベル第一弾作品は後日発表
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受け手の自由に寄り添う作品
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