MIRA新伝統がSubtext Recordingsより1st EP『Noumenal Eggs』を発表

Ziúrリミックス収録

 

photo by さようならアーティスト

 

ポスト・ヒューマン的リアリティは、必ずしも煌々と輝くディストピアやサイバーパンクな夢物語ではない。それは、人知れずネオンが宣伝を続ける静まり返った渋谷の路地裏や、燃やされたプラスチックが溶け固まりできた小石が海岸を覆う神奈川のエコ・トランスレイヴかもしれない。東京を拠点に活躍する MIRA新伝統の二人が最新EP『Noumenal Eggs』のインスピレーションを得たのはそんな情景の数々からだ。この作品は、倒錯した不協和音と進化し続けるテクスチャーから成り立つ、探索的で歪曲した音響的複合物の発掘作業である。

 

Honami HiguchiとRaphael Lerayの最新作は、性的虐待やトラウマの身体的および心理的な影響を題材とした『TORQUE』(2019) に続くリリースとなる。約20分間の短編映画とサウンドトラックからなる『TORQUE』は、 舞踊家のHonamiが演じる性暴力やセックスワークの経験との対峙と、フランス出身の音楽家であるRaphaelによるアンビエント楽曲からなる1時間のパフォーマンスを再構成したものである。Honamiが自身の人間性と相反する業界の動因と折り合いをつけながらも、暴力やそれによってもたらされたアイデンティティの喪失に耐えてきた姿を描いている。

 

『TORQUE』がHonamiの過去の傷や現在に及ぶ重い鬱症状を癒す手助けとなったのに対し、『Noumenal Eggs』は他者性と消費経済における単なる資源としての身体という痛ましいテーマを、ポスト・キャピタロセン(資本新世)という広義の文脈へ導いている。”Howling Machines” では、ドゥルーズとガタリの「欲望する機械」が、Raphaelが作り上げた蛇のように蠢く破壊音を通じて鳴り響く。また”Hosting of Inorganic Demon” では、Honamiの絶叫がパンデミック時代に廃墟と化した商業ビルを訪れたときのような非現実感を伴って反響する。このトラックは、イラン出身の哲学者レザ・ネガレスタニが描く、生物のような地域や悪魔のような天然資源が独自の統治機関として存在するセオリー・フィクションの奇妙で不気味な世界から着想を得て制作された。

 

FMとウェーブテーブル合成を主に使用し作られた”Chronosis “のひび割れるような雑音は、MIRA新伝統が「逆行するくぐもった空間感覚」と呼ぶリバーブのように、時時間が圧縮される感覚を模倣している。対をなすトラックとしてZiúrが手掛けた”Disembodiment” のリミックスも収録。SOPHIEの触覚的なテクスチャーとジェンダー規範的なボーカルの影響を感じさせるこの曲では、Raphaelが高音を歌い上げ、Honamiが低音の唸り声を響かせる。Coil、Psychic TV、Markus Popp、そしてノーウェイブのアイコンであるイクエ・モリらの影響も微かに感じられる。

 

カバーイメージは、スイス出身のアーティストMaya Hottarekが手掛け、Joelle Neuenschwanderが撮影した。つややかな釉薬に覆われたエイリアングリーンの彫刻は、人間の知覚では捉えることができない物体を彷彿させる。未知の形状は、文化理論家であり、k-punkの名でも知られる故マーク・フィッシャーが定義したようにオルタナティブな未来と想像を超えた新しい自然を示唆している。フィッシャーは述べている。「私たちは、まだ存在せず、どのように、どんなものになるのか分からないものを生み出さなければならない」、と。

 

 

MIRA新伝統 – Noumenal Eggs

Label : Subtext Recordings

Release date : 17 June 2022

Pre-order : https://mirashindento.bandcamp.com/album/noumenal-eggs

 

Tracklist

1. Hosting of an Inorganic Demon

2. Disembodiment

3. Noumenal Eggs

4. Chronosis

5. Howling Machines

6. Disembodiment (Ziúr Remix)

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