
2025/12/25
活動最初期からバズまで、未来電波基地の本質に迫る

鬱木ゆうと による宅録ソロプロジェクト、未来電波基地。どこか怪しげな気配を纏った本プロジェクトは、2011年に「Fuck you Nakamura , I hate you」を動画サイトへ投稿して以降、『船橋INCIDENT』(2012年)から『init』(2024年)に至るまで、数多の作品を発表してきた。
「インターネットグランジ」を掲げ、ダウナーで鬱屈としたギターサウンド、ボイスチェンジャーによって加工された歌声、そして秀逸なメロディ・センスと宅録ならではの質感が織りなす無二の音楽性によってリスナーの心を掴み、宅録オルタナティブ・シーンを中心にカルト的な支持を獲得してきた。
そんな未来電波基地が、2024年末、突如として世界規模の注目を集める。Spotifyでの月間リスナー数は100万人を超え、ビルボード・チャートにも名を連ねるなど、これまでの活動からは想像もつかないかたちでの “バズ” が発生した。
今回のインタビューでは、熱心な未来電波基地リスナーでもあるボカロP / 宅録音楽家のyaginiwaが聞き手を担当。音楽ルーツから制作環境やエピソード、そしてバズについてやその心境にも焦点を当てながら、未来電波基地の本質に迫った。
Text : yaginiwa
──はじめに自己紹介をお願いします。
鬱木:宅録 / DTMで曲を作っている未来電波基地です。
──お名前の由来は?
鬱木:特に意味はないんですよね。当時住んでた船橋を歩きながらふと「未来電波基地」って思いついた感じです。もっというと、当時笹口騒音の太平洋不知火楽団ってバンドを聴いてたんですよ。それで漢字がいいなと思っていて。でも漢字を使うと古臭くなっちゃうじゃないですか。だからもっと未来を感じるような名前がいいなと思って、この名義を思いつきました。
──活動開始当初の動機とか目標はありましたか?
鬱木:うーん、特にないです。もともとボカロで始めたんですよ。当時VOCAROCK(ボカロック)っていうロック曲だけを集めたボカロ・コンピとかが普通に発売されたりしていて。なので自分もボーカロイドでロックの曲を作っていつかそういうCD に入りたいなとか思いながらやってたけど、結局叶いませんでしたね。
──作曲のスタートはボカロなんですね。
鬱木:もっと遡ると、高校生の時に携帯でメロディーを作る機能があったんですよ。それが作曲の始まりかな。
──それはアプリとかじゃなくて? 名前とかは覚えてますか?
鬱木:たぶん名前とかはないと思います。アプリとかではなく着メロを作る機能が当時ガラケーに入ってたんですよ。それで自分で着メロを作り始めたのが作曲の始まりです。
──リスナーとしては、いつ頃どういった音楽から触れられましたか?
鬱木:最初はやっぱりJ-POPですね。小学生の時は19とか聴いてました。
──それは自然と流れてきた音楽を聴いていたという感じですか?
鬱木:そうですね。
──自分から能動的にハマった音楽はありますか?
鬱木:大きなきっかけは、ラジオを聴き始めた時期があって、ラジオ経由でTHE BACK HORNとかART-SCHOOLとかを聴き始めるんですよ。それが前のめりに音楽にハマっていったきっかけかもしれないですね。そのあと大学時代はNUMBER GIRLを聴き始めましたね。そこからNUMBER GIRLが影響を受けたSonic YouthとかPixiesとかを聴いて、90年代のオルタナを漁っていきました。
──ヒップホップもお好きな印象があります。
鬱木:ヒップホップは高校時代にRIP SLYMEとかを聴いてたんですよ。その後BUDDHA BRANDを知って、BUDDHA BRANDを聴いたときに一気に自分の音楽の幅が広がりました。曲のグルーヴとか、スネアの音の気持ちよさとか、キックの気持ちよさとか。そこからジャズとかファンクとかを聴くようになって、ヒップホップも海外のものも聴くようになりました。
──BUDDHA BRANDをきっかけに音楽の幅が広がったと。
鬱木:あ、それと一個思い出したのが、当時たしか中学生、地元・福岡の田舎に住んでた時に、おばあちゃんが1人でやってる薬局みたいなところに行ったんですよ。そこで有線のラジオからBlack Machineの「How Gee」って曲が流れてきて。その曲は福岡ではCMで使われているので「CMの曲だ」と思って聴いていたら、普段は30秒とかで終わる曲がフルで流れて「こんなかっこいい曲が存在するんだ」って衝撃を受けたんですよね。ヒップホップの原体験はそれかもしれないですね。
──印象的なエピソードですね。音楽以外だと熱中していたことはありますか?
鬱木:ひとつは読書ですよね。本を読むのが大好きで。もっと遡れば、友達と一緒にゲームを作ったりしましたね。『RPGツクール』っていう「ゲームを作れるゲーム」があるんですけど、それを友達と一緒にずっとやっていました。
──ゲームもルーツとして大きいのでしょうか。好きな作品はありますか?
鬱木:いや、別にゲームが自分の創作に影響を与えたとは思ってないんですけど、そのときから「自分オリジナルのものを作るのが好き」というのはあったかもしれないですね。作品で言うと『ファイナルファンタジーX』が好きです。でも高校に上がったあたりでゲームは辞めたんですよね。大好きなんですけど、時間が過ぎるだけで何にも自分のためになってないなと思って。それで何か違う趣味を見つけようと思って本屋で本を買って読んだら「こんなに楽しいんだ」って気づいて、そこからめっちゃ本を読み始めたというのはありますね。
──本で言うと入り口は?
鬱木:入り口は江戸川乱歩です。ミステリーとして面白くて。昔の作家ですし古い雰囲気とかも好きで読んでましたね。
──たとえばフィルムカメラでの撮影もよくされている印象がありますが、古いものがお好きなのでしょうか?
鬱木:いや、古いものが好きってわけではないと思いますね。自分のこだわりが強くて、たぶん「こういうものが好き」っていうのが確固としてあるんですよね。それにフィルムカメラとか読書の嗜好が強く現れてるんじゃないですかね。
──特定のジャンルが好きというよりも、断片的な関心が混ざり合ってご自身の嗜好が形作られている、という感覚でしょうか。
鬱木:かもしれないですね。最近だと森博嗣という作家が一番好きなんですけど、世界観も近未来的ですし、未来をテーマにした作品が多いので。
──アートワークもご自身で制作されていると思うのですが、その影響元についてはいかがでしょうか?
鬱木:アートワークの影響は、ひとつはカナダのCrystal Castlesっていうデュオがいるんですけど、2枚目のアルバム『(II)』のジャケットを、たしか船橋に住んでいた時にタワーレコードで見かけて衝撃を受けました。あとUnknown Mortal Orchestraが好きなんですけど、ジャケットも好みで。余計な文字が入っていなくて写真だけで表してるのがシンプルでいいなって思った記憶がありますね。
──音楽制作の話に戻りますが、音楽制作にはどういったきっかけ、タイミングで取り掛かることが多いですか?
鬱木:気持ちが今作りたいってなった時に。特に何かがあるわけではなく、その時々って感じですかね。
──音楽を作る上で「伝えたいこと」とかはありますか?
鬱木:ないんですよね。単純に曲を作るのが楽しいから。自然と自分がかっこいいと思うものを作ってるだけかな。歌詞に関しては特に伝えたいこととかないんで。本当に語呂合わせというか。基本意味がないと思ってるんですよ。歌詞。出てきた言葉を繋いでるだけって感じです。
──自分の好きなことをやり続けているという感じでしょうか?
鬱木:まさに。
──未来電波基地としての初投稿楽曲はどの曲ですか?
鬱木:「Fuck you Nakamura , I hate you」ですね。
──大好きな曲です。タイトルにも出てくる「Nakamura」って実在する人物なのでしょうか?
鬱木:実在しますね。でも具体的には内緒にしてるんですよね。直接会った人にだけ話してます。ただ、この前久しぶりにNakamuraの名前を検索すると、研究者になっていました。
──DAWで作り始めた頃の制作環境はどんな感じでしたか?
鬱木:最初は3000円ぐらいのオーディオ・インターフェイスとギターのエフェクト・ソフトが一緒についてるやつを買って、それでボーカロイドの曲を作ったりしてました。そこからもっといろんなギター・サウンドを出したいとなって、LINE6の「POD X3」を買いました。それを今でもずっと使ってます。
──あのサウンドはPOD X3で作ってるんですね。
鬱木:ギターは最初はエピフォンのレスポール。次にエピフォンのウィルシャーに変えてそれをずっと弾いてますね。DAWはCakewalk Sonarです。Sonar LEっていう機能制限された無料版を、DTMを始めた当初からずっと使ってます。
──すごい。無料版で作ってるんですね。ボーカルの機材についてはいかがですか?あの声はどうやって作っているのでしょうか?
鬱木:これも無料のプラグインでRoveeっていうのがあって、最初はそれを使ってましたね。で、途中からはTC HELICON「VoiceLive Play」というボーカルチェンジが入っているハードウェアの機材を使ってます。
──ご自身の作品の中で、特に思い入れのある作品はありますか?
鬱木:『Therapy』ですね。名盤を作ろうと思って作ったアルバムなんですよ。だからジャケットも自分が写ってるものを使いました。一つ覚えてるエピソードが、未来電波基地のリスナーに会社を経営しているポール・ピューっていうアメリカ人がいるんですけど、 当時そいつが「『Therapy』聴いたけどいいアルバムだね」ってメッセージ送ってくれて。 それに対して僕が「マスターピースを作ろうと思ったんだよね」って返したら「マスターピースっていうのは自分で作るものじゃなくて時代が評価するものだよ」って返ってきたんですよね。そしたらその一週間後、またポール・ピューから連絡が来て「このアルバムもう何回もループしてるけど、マスターピースだよ」って言ってくれて。それがすごい印象に残ってるエピソードですね。
──それこそ『Therapy』は「さよならクロステック」が収録されている、今のバズにつながってるアルバムですもんね。
鬱木:あの曲がバズるとは思ってなかったですね。
──「さよならクロステック」の制作秘話はありますか? アルバムの中盤のインスト曲だと思うのですが、はじめはどういう意図で制作されたとか。
鬱木:『Therapy』は2018年リリースなんですけど、この大元ができたのはもっと前なんですよね。たぶん2013年ぐらいにもう原型ができてたんじゃないかな。たしか当時何か落ち込むことがあって、その気持ちを発散させるために曲を作ろうと思って作ったっていうのは明確に覚えてます。
──じゃあアルバムのために作ったというよりも、独立した曲として元々あったものなんですね。
鬱木:そうですね。で、2018年に『Therapy』を作る時に「この曲を入れよう」って。最初は歌を入れるつもりだったんですよ。ただあんまりいい感じにならなくて、「もうインストでいいや」ってなってインストにしたんですよね。今思えばインストにしてよかったなって思いますね。歌入ってたらこんなバズってないと思います。
──バズについて深掘りしたいのですが、バズが始まった時期とかって覚えておられますか?
鬱木: 2024年の年末、12月ぐらいから「さよならクロステック」がえらく再生され始めたんですよ。そのまま2025年に入っても一定の再生数を維持したままずっと続いてるって感じです。
──きっかけとかって具体的にはわかったりしますか?
鬱木:それがわからないんですよね。ただ僕が分析するに、 Z世代って未来に対して希望を持っていなかったり、日々陰鬱な気持ちで過ごしていると思っていて。その時代のムードにマッチしたんだと思いますね。
──リスナー層は海外が中心ですか?
鬱木:むしろ海外でしかバズってないですね。日本のリスナーはそんなに増えてないと思います。直近の地域で見ると人口分布からアメリカ、中国が多いんですよね。アメリカと中国で40%ぐらい。あとはイギリス、ブラジル、カナダ、ドイツ、メキシコ、ポーランド、オーストラリア、フィリピン。もう今言ったのはもう全部毎月20万再生超えてる。だからもう地域関係なく世界中ですよね。
──本当に世界中ですね。
鬱木:Z世代の悲観的なムードにマッチしちゃったってことだと分析してます。
──そこから「Unslept」のリリースをきっかけにバズがさらに加速していったと思うのですが、「Unslept」は「さよならクロステック」の流れを踏襲した楽曲、いわばシリーズ2のような位置づけだったのでしょうか。また、制作時のエピソードがあれば教えてください。
鬱木:まさにシリーズ2のつもりで作りました。曲のキーは違うけど、基本的に「さよならクロステック」のギターコードを逆に弾いて作ったって感じです。
──バズに対する心境はいかがですか? 素直に嬉しい?
鬱木:嬉しいですね。ただそれが正当な評価とは思ってなくて、ぶっちゃけ過大評価されてるんですよ、僕は。「さよならクロステック」と「Unslept」が2曲バズっただけの人間なんで。Spotifyの再生数って見れるじゃないですか。それを見れば明らかで、やっぱり2曲バズってるだけで、他の曲はそんなに再生されてないんですよ。 なので、この状況はもちろん嬉しいけど「過大評価されてるな」って思ってるので、次はアルバムというパッケージで出して、ちゃんとアルバムとして評価されるものをリリースするのが課題だと思ってますね。
──生活面での変化はいかがですか?
鬱木:仕事を辞めましたね。
──仕事を辞めることによって、創作への向き合い方や生活に対する心境の変化はありましたか?
鬱木:それが、モチベーションが下がったんですよ。なんかあんまり頑張ろうみたいな気持ちじゃなくなって。なんでしょうね、なんか怠けちゃってるんで。いかに自分のモチベーションを上げてまた真剣に作曲に向き合うかっていうことを今は考えています。
──余裕ができると逆に気持ちが向かなくなる、みたいな。
鬱木:高いリゾートホテルに泊まって、高いコース料理を食べたりもしたんですよ。 それが創作のインスピレーションになるかなと思って。そしたら特にやる気が湧くでもなく、ただの贅沢だなみたいな感じで、逆に冷めた感じですね。 やっぱそれよりも最近は、「音楽で成果を出してます」もしくは「めっちゃバズりました」みたいな、自分と同じような立場の人と会って喋ることの方がむしろ刺激になって、自分のモチベーションが上がるのかなと思ってます。
──会ってみたい人、やってみたい仕事などはありますか?
鬱木:やってみたい仕事は楽曲提供ですかね。最近楽曲提供の仕事をひとつしてるんですよ。それはすごく楽しくて。なのでジャンル問わずそういう仕事をしたいなと思っています。
──個人的には「さよならクロステック」のようなインスト曲の上にラッパーをフィーチャーした楽曲とかも聴いてみたいです。
鬱木:海外のラッパーとかミュージシャンから「歌を乗せたい」とか「歌を乗せたけど聴いてみて」っていうのもよく来るんですよ。「コラボしてくれないか」っていうのもしょっちゅうDMで来るんですけど、良いものはほとんどないですね。センスある人じゃないと一緒にやりたくないかなっていう感じです。
──ちなみに、今活動してるラッパーで注目してたり一緒にやってみたい人はいますか?
鬱木:好きなラッパーはいるんですけど、それと自分の曲が合うかっていうとまた別の話なんで。あ、思い出した。swettyって知ってます? 最近Elle Teresaとコラボしたりしてました。声がかっこいいんですよね。swettyに「Unslept」の上でラップとか歌乗せてほしいなって思いますけど。まあでも僕がこんなこと言うのもおこがましいんですけどね。
──実現したら最高ですね。最後に今後の展望についてお伺いしたいです。先ほどおっしゃっていた「アルバムとして評価されるものを出す」ところが第一でしょうか。その後はその次に考えるみたいな?
鬱木:そうですね。まあでも今までも何か目標を決めてやってきたとかじゃないんで、もう楽しいことを続けてたら、気づいたらこうなってたって感じで。これからもこの感じで続けられたらいいなと思ってます。
category:FEATURE
tags:未来電波基地
2025/03/27
AVYSSからRojuuへ13の質問 コロナ禍にはスペイン圏におけるハイパーポップ~デジコア以降のアンダーグラウンド・シーンを牽引し、HIPHOPにとどまらず絵画や漫画といったビジュアル表現も気ままに行うマルチアーティスト・Rojuu。極東のここ日本ではあまり知られていないものの、スペイン~ラテンアメリカ文化圏で圧倒的な支持を誇る。 2003年3月にスペイン北東のカタルーニャ州で映画監督の母と俳優/劇作家の父の間に生まれ、10歳の頃よりYoutuberとして活動、15歳からはラップを主とした音楽活動を #Shadowpop というオリジナルの定義とともにスタート。大手レーベルに属することなくインディペンデントな活動を続けつつも、ロラパルーザやソナーといった大規模音楽フェスへの出演経験も持つ。 2023年に「Sonia Lagoon × A/V/Y/S/S MASSACRE」にてアルゼンチンのSaramalacaraとともに初来日した際には、配信チャンネルに通常時の数十倍もの視聴者が集い、オンラインとオフラインで異なりつつも重なり合う熱狂を巻き起こした。 今回AVYSSでは、そんな(日本語圏においてのみ)知られざるスター・Rojuuに13の質問を送った。日本文化への愛、東京で過ごして感じたこと、スパニッシュ・オルタナティブと日本のシーンの違い、主催パーティー〈Starina Club〉について、#Shadowpopとクラウド・ラップとハイパーポップ、Vex Veilや日本の友人たちとの出会い、そして未来? 日本語圏初のインタビュー。 Question & Text : NordOst / Hiroto Matsushima Q1. あなたが日本のポップ・カルチャーやサブカルチャーについて興味を持ったのはいつごろからですか? きっかけも含め教えてください。 Rojuu:僕はスペイン北東のカタルーニャで育ったんだけど、テレビではカタルーニャ語のキッズ向けチャンネルが定番で、いつも観てた。そこでは『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』『犬夜叉』『名探偵コナン』『忍者ハットリくん』『Dr.スランプ(アラレちゃん)』とか、たくさんのアニメが放送されてて、それを観て育ったのが日本の文化やアートにハマるキッカケだった。 6歳の誕生日に、父が初めて買ってくれたマンガが『ソウルイーター』の1巻と『ワンピース』の1巻。最初に読んだのは『ソウルイーター』だったけど、『ワンピース』を手に取った瞬間……もう終わり(笑)。完全にハマっちゃって、それがきっかけでマンガの世界にどっぷり浸かるようになって、今でもずっと大ファン。それで日本語の勉強も始めたんだよね。 あと、忘れちゃいけないのが『千と千尋の神隠し』と『となりのトトロ』。子どものころの思い出の映画で、『千と千尋』は今でも一番好き。 Q2. あなたは東京に2023年、そして2024〜2025年と、2度にわたり長期滞在しています。その理由を教えてください。 Rojuu:もう、とにかく東京が好きだから。ハマってる(笑)。街全体がクリエイティブの塊って感じで、ストリート・サイン(タギング)から店のマスコット、広告まで、どこを見てもアートであふれてる。東京にいると、デザインそのものが息づいてるように感じる。そういう環境に浸った後に帰国すると、すごくアイデアが湧いて創作がしやすくなるし。 それに、東京は僕にとってすごく居心地がいい場所だから。みんな他人のことを気にしないし、自分も気にしなくていい。街の作りもすごく計算されていて、どんな些細なものにもちゃんと意味があって、完璧に機能してるのが好き。たとえば自転車に乗って一日中街を走り回るだけでも楽しいし、気持ちがいい。 東京は「流行の先を行く」街じゃなくて、「流行を作る」街でもあると思う。新しいものがただ届くんじゃなくて、ここで生まれてる。毎回訪れるたびに、新しい刺激を受けてるんだ。 Q3. スペインを離れて東京で過ごす中で、何か気づいたことや感じたことがあれば教えてください。 Rojuu:スペインを離れて日本で過ごすのは、自分自身を見つめ直すような体験だった。東京のような大都市でひとりになると、必然的に自分と向き合う時間が増える。僕は独りの時間がないとダメなタイプなんだけど、東京で過ごすことで「自分だけの空間」をしっかり確保できた。それまでの自分を外側から見て、まったく新しい視点で理解するような感覚だった。 東京は、いつも何かクレイジーなことが起こっているような場所だと思う。そのエネルギーの中で、決して落ち着きはしないけど、自分の中にただ閉じこもって動き続けた──最終的に納得のいくアップデートを自分が遂げるまで。 Q4. ハイパーポップやクラブカルチャーに限らず、スペインのオルタナティブな音楽文化の魅力や特徴について教えてください。 Rojuu:スペインと日本のオルタナティブの大きな違いは、「どれだけメインストリームに浸透するか」かな。スペインでは、オルタナティブなシーンから出てきたアーティストが、最終的に業界のトップアーティストになることがよくある。そうするとスペイン国内だけじゃなく、ラテン・アメリカやアメリカでも有名になる。つまり、スペインのアンダーグラウンドは、ずっとアンダーグラウンドでいるわけじゃない。 一方、日本には海外でブレイクするオルタナティブなアーティストが、そんなに多くない気がする。人口はスペインよりずっと多いのにね。音楽の広がり方が違うのは、やっぱりスペインの音楽がラテン・アメリカ全体のバックアップを受けているからかも。それは英語圏のアーティストも同じだよね。 Q5. 今、スペイン周辺の音楽シーンで注目しているアーティストは? Rojuu:今のスペインのアンダーグラウンド&メインストリームのオルタナ・シーンは、めちゃくちゃ鋭くてカッコいいんだけど、同時に似たような音楽で溢れてきてて、ちょっと飽和気味かも。だからこそ、今このシーンにいるのはすごく面白いタイミングでもあるかな。 同世代のアーティストがどんどん出てくるけど、僕はもうベテランみたいな気分。『ロード・オブ・ザ・リング』 のガンダルフみたいな……いや、それも悪くないかな(笑)。昔から木みたいになりたかったし。 今注目してるのは、Granuxi、Mejiias、R8venge、Tarchiかな。それから、アルゼンチンのPILFクルーにもリスペクトを送りたい。Stiffy、Agusfortnite2008、Zell、Turrobaby。みんなとんでもない才能を持ってると思う。 Q6. スペインのオルタナティブな音楽文化やクラブカルチャーは、東京とはどんな違いがあると思いますか? Rojuu:東京の方が圧倒的にイベントの数が多くて、いろんなジャンルやサブカルチャーが共存している感じがする。どんなスタイルでも、自分に合うイベントを見つけやすいよね。 スペインは東京ほどイベントの数は多くないけど、その分個々の規模が大きかったり、クオリティが高かったりする。どっちがいいとかじゃなくて、結局のところ自分が何を求めてるか次第だと思うな。 Q7. 先日、東京のクラブ・新宿SPACEでパーティーシリーズ「Starina Club」が初のアジア編を開催しました。あなたの主催する「Starina Club」とはどのようなパーティーなのでしょうか? Rojuu:「Starina Club」は、もともとバルセロナで始めたパーティーで、コミュニティを作るためのものだった。暗い美学を持つ僕たち世代が、自分たちの居場所だとリアルに感じられる空間を作りたかったんだ。僕たちはみんなネットの中で育って、同じような価値観を持ってる。だから、そういう人たちが集まって「ここが自分の場所だ」と思えるパーティーをやるのは、自然な流れだった。 パーティーが成長するにつれて、僕らは独自の要素を加えていったんだけど、その中でも特に特徴的なのがタロット風のカード。これは僕が描いたイラストで、イベント中に配られるんだけど、それぞれのカードには特別な「力」がある。例えば、無料ドリンクがもらえたり、VIPエリアに入れたりね(笑)。 この投稿をInstagramで見る STARINA(@starinaclub)がシェアした投稿 このカードを渡すのが「死神(La Muerte)」と呼ばれるキャラクターで、全身白い衣装を着て、杖を持ってる。夜の間に5回だけ現れて、それぞれのカードを「ふさわしい持ち主」に渡すんだ。ランダムじゃなくて、たとえば「悪魔(Demon)」のカードはその夜一番ぶっ飛んでる人へ、「隠者(Hermit)」のカードは一番静かに楽しんでる人へ、みたいな感じでね。 バルセロナで「Starina Club」の形をしっかり固めたら、次は世界に展開していきたいなと思って。でも、ただ安易に拡げるんじゃなくて、本質を失わずに届けたかったんだ。 Q8. 東京で「Starina Club」を開催して、どんなことを感じましたか? Rojuu:あの夜はマジで魔法みたいだった! 初めて東京に来てクラブを回ったときに観たDJたちが本当に衝撃的で、「この人たちをブッキングしたい」ってずっと思ってて。それが、今回の東京版「Starina Club」でついに実現したんだ。 ラインナップは完璧だったし、何より、東京のクラブカルチャーと僕らの世界観がしっかり交わったのを感じられたのが最高だった。 この投稿をInstagramで見る STARINA(@starinaclub)がシェアした投稿 Starina Club東京編で配布されたカード(悪魔) Q9. 〈Starina Club〉の東京編では、日本のユニット・Vex Veilとのコラボレーションも披露されました。彼らとはどのように知り合い、楽曲「Angels Playstation」を制作したのでしょうか? エピソードなどがあれば教えてください。 Rojuu:Vex Veilとは2023年の終わり頃に出会ったんだけど、彼らのライブを初めて見たとき、マジで言葉を失った。ちょうど友達のパートナーが紹介してくれて、それから何度か一緒に遊ぶようになったんだ。それである日、Vexのふたりが「一緒にやろう」って誘ってくれて、僕は即OKして。彼らのサウンドは本当に天才的だし、ずっとファンだったからね。 面白かったのは、実は楽曲を作る前に、もうMVの撮影を始めてたこと(笑)。その時点ではまだビートしか出来てなくて、撮影は原宿の近くの公園でやった。僕のボーカルは、2024年の中頃にバルセロナで録音した(しかもスマホで)。 それからしばらくMVの話を聞かなくて、「まぁ、そのうち完成するだろうな〜」くらいに思ってたんだけど、ある日ついにYouTubeで公開されて。で、友達のリノ (BASiRiNO)と一緒に観てたんだけど……僕のシーン、いつまで経っても一切出てこなくて(笑)。マジで爆笑した。まあ、結果的に完璧だったからいいかな! Q10. 自身の音楽を「#Shadowpop」と定義されていますが、特に「悲しさ」や「儚さ」、「神聖さ」を感じさせる要素が強いように思います。楽曲制作の際に意識していることはありますか? Rojuu:僕にとって、悲しみは果てしなく広がる大きな海みたいなもの。静かだけど、深い海。その海辺に立ったり、少し泳いだりすると、空にゲートが開くんだ。そこからアイデアの世界へと繋がって、概念が降り注いでくる。それがインスピレーションの源になるんだ。魂と心がシンクロして、才能と結びつき、想像したものを現実に落とし込める。 Shadowpopは、その創造の最もクリアな形。悲しみの中に飛び込んで、それを自分のツールで装飾していく。それが僕のアート。 Q11. 「#Shadowpop」の音楽性は、近年のクラウドラップのリバイバルとも関係が深いように感じます。この流れをどのように捉えていますか? Rojuu:クラウドラップは僕らの「父」みたいな存在。僕らは「インターネットの子ども」なんだ。 クラウドラップのオリジネーターたちは、アナログからデジタル世界に移行する過程で生まれて、それまでのヒップホップ・カルチャーとデジタルを融合させた。でも僕たちは、すでに両方が存在する世界で育った。だから、クラウドラップは僕たちにとって「最初からそこにあったもの」なんだよね。 結局、創作っていうのは、いろんなものをミックスすること。今の世代はクラウドラップにインターネットのカオスなshitpostっぽい美学をぶち込んで、感情や悲しみ、ミームなんかを全部混ぜた、巨大なごった煮みたいな音楽を作ってる。クラウドラップの本質は残ってるけど、新しい世代がそこに全く違う雰囲気を吹き込んでるんだ。 Q12. ハイパーポップ以降のスペイン語圏のオルタナティブ音楽シーンにおいて、あなたは先駆者的な存在とも言われています。このことについて、どう考えていますか? Rojuu:僕、ずっとただのYouTubeオタクだったんだよね。漫画、クリーピーパスタ、ゲーム、Lil Uzi Vertとか……ほんとにネットの世界で育った。だから、音楽を作るのもただ楽しくてやってただけで、深く考えてたわけじゃなかった。心の中にあるものを形にする手段としてね。 コロナのロックダウンで、みんな家に閉じこもることになって、急に新しい趣味を始める人が増えた。でも僕にとっては(音楽は)ずっとやってきたことだったから、気づいたら「なんか知らない人たちが僕の音楽を聴いてくれてるな?」みたいな感じになってて。たぶん、みんな自分と近いものを感じてくれたんだと思う。 でも、そしたらいつの間にか「ハイパーポップ」ってラベルを貼られてた(笑)。最初は別に気にしてなかったんだけど、実際のところ、僕のルーツはSOPHIEやCharli XCXじゃない。彼女たちの音楽は好きだけど、僕はYung LeanとかCecilio G.で育ったんだよね。だから、僕のスタイルは #Shadowpop ってことにしようと思って。 そもそもハイパーポップって、もともとクィアカルチャーと深く結びついたムーブメントで、僕らとはまたちょっと違うところから来てるよね? でも、スペイン語圏では僕らの音楽が「ハイパーポップ」として広まっちゃったから、それはそれで受け入れることにした。 たとえば #WhiteDoraemon を僕がリリースしたとき、これを人々がどう定義するかなんて考えていなかったし、別に今も気にしない。結局、ジャンルとか定義って後からついてくるものだし、僕はただ自分が好きな音楽を作ってるだけ。もし何年後かに僕らの音楽が別の名前で呼ばれるようになってても、それが誰かの楽しみになるなら、それでいいと思ってる。あるいは、僕らは「スペイン語の疑似ハイパーポップ」の古い開拓者みたいな存在で終わるのかもしれないけど、まあ、どうでもいいかな——僕は隠者みたいなものだから(笑)。 Q13.
2025/11/12
12月に東京大阪を回るジャパンツアー開催 インターネットが限界まで肥大化し、死と再生を繰り返す現代。現実と虚構の輪郭はゆっくりと溶け、私たちはその中で生きている。 Machine Girl の最新アルバム『PsychoWarrior: MG Ultra X』は、そんな時代における人間の意識の中枢を覗くデジタル・サイコスリラー・サウンドトラック。 彼らはこのアルバムを携え、12月にジャパンツアーを開催する(12月2日東京、12月3日大阪)。終わりなきワールドツアーの只中で、中心人物のMatt Stephensonに、Machine Girlとしてこの作品が生まれた背景、そして “サイコであること” の意味を聞いた。 ──今回のアルバムの『PsychoWarrior: MG Ultra X』というタイトルには、どんな意味やイメージを込めていますか? Machine Girl : 『PsychoWarrior: MG Ultra X』では、死んだインターネット時代のためのアーキタイプ(元型)を作りたくて。インターネットという無限の鏡張りの家のような場所で作り上げられ、そしてその邪悪なサイキックな力と戦う兵士、というイメージですね。 ──(Machine Girlの中心人物の)Matt Stephensonは、集合的無意識やアーキタイプ、シャドウセルフの概念からインスピレーションを受けたと語っています。これを音楽として表現する際に意識したことは何ですか? Machine Girl : 主に歌詞を通してですが、曲の土台そのものにもそういった要素が反映されていると思っていて、アルバムの中に多様なスタイルや態度の曲があるのは、それぞれが異なるアーキタイプ的視点を表しているからだと考えています。 ──現代社会や文化の心理的な課題(SNSやテクノロジーによる影響など)を、アルバムでどのように反映させましたか? Machine Girl : ネット文化や、私たちのスマホ/SNS中毒の頭の中と同じように、めちゃくちゃ散らかっていて、ADHDのような感じが全体にありますね。 ──このアルバムはこれまでのMachine Girl作品と比べて、どのような「変化」があると感じていますか? Machine Girl : 明らかなのは、Lucyがギターで参加していることや、音楽をプロデューサー作品として考えるのではなく、バンドのように作っている点です。 ──ARG/拡張された物語性について。音楽以外のメディアを取り入れることで、アルバム体験はどのように変化すると考えていますか? Machine Girl : ARGを追ってくれたファンの方には、この曲たちが頭の中でARGで展開されたストーリーのサウンドトラックのように感じてもらえたら嬉しいです。決して歌詞自体がARGについて書かれているわけではありません。実際、ARGの内容はPsychowarriorを完成させた後に作りました。それでも、このアルバムを「まだ存在しないARG映画のOST」として想像するのは楽しいと思います…(まだですが!) ──サウンド面では、これまで以上に多層的でダイナミックな印象があります。制作の出発点や意図したサウンドの方向性について教えてください。 Machine Girl : このアルバムは、数年前のデモを最後まで何度も調整・再構築した曲と、『We Don’t Give a Fuck』のようにほぼ一晩で作った新曲のミックスなんです。正直、古いデモを再構築するよりも、新しく一から作る方が好みでした。すぐにビジョンを固めて、最後まで迷わず作り切れるから。 ──制作過程で印象的だったエピソードがあれば教えてください。 Machine Girl : 『We Don’t Give a Fuck』はすごく誇りに思っている曲です。一晩でゼロから作り上げたから。作る前から明確なビジョンがあって、その日に「この曲を今夜作る」と決めて、実際に作り切った。夜更けに1人で狂ったように作業している時間がすごく楽しかった。これからもまたこういう作り方をしていきたいですね。 ──ライブ・ギタリストとしてサポートしていた Lucy Caputi が正式加入し、トリオになりました。どのような経緯だったのでしょう? Machine Girl : Lucy とは何年も前から
2023/12/11
インターネットがおきあがり、こちらをみている インターネット音楽をフィーチャーしたライブ&DJイベント「Internethood 2」が表参道WALL&WALLで2024年1月13日(土)に開催。 ライブアクトは、韓国より来日するボカロP/トラックメイカーのcoa whiteをはじめ、原口沙輔、okudakun、utumiyqcom、KAIRUI feat.π、yuigotというラインナップ。また、〈Maltine Records〉主宰のtomadによるhyperpop setのほか、aosushi、hallycore、fogsettingsとDJ陣が出演。 本イベントは、2023年1月に開催された「internethood」の続編として、ライターのnamahogeがオーガナイズするイベント。はてしなく流転し合成されるインターネット空間を足場に活動するアーティストらをブッキングした。また、バックアップには同開場で不定期に開催されるライブイベント〈HOMEWORK PROGRAM〉が参加している。チケットはZAIKOにて絶賛販売中。 – Internethood 2 2024年1月13日 (土) 表参道WALL&WALL 開場 / 開演 17:00 出演者: coa white 原口沙輔 okudakun utumiyqcom KAIRUI feat.π yuigot tomad (hyperpop set) aosushi hallycore fogsettings 【チケット情報】 前売入場券:¥3,000 +1drink ¥700 <販売期間:12/11 18:00〜1/12 23:59> 当日入場券:¥4,000 +1drink ¥700 <販売期間:1/13 17:00〜> チケット購入URL: https://wallwall.zaiko.io/item/361433 WALL&WALLイベントページURL: http://wallwall.tokyo/schedule/20240113_internethood2/
活動最初期からバズまで、未来電波基地の本質に迫る

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「インターネットグランジ」を掲げ、ダウナーで鬱屈としたギターサウンド、ボイスチェンジャーによって加工された歌声、そして秀逸なメロディ・センスと宅録ならではの質感が織りなす無二の音楽性によってリスナーの心を掴み、宅録オルタナティブ・シーンを中心にカルト的な支持を獲得してきた。
そんな未来電波基地が、2024年末、突如として世界規模の注目を集める。Spotifyでの月間リスナー数は100万人を超え、ビルボード・チャートにも名を連ねるなど、これまでの活動からは想像もつかないかたちでの “バズ” が発生した。
今回のインタビューでは、熱心な未来電波基地リスナーでもあるボカロP / 宅録音楽家のyaginiwaが聞き手を担当。音楽ルーツから制作環境やエピソード、そしてバズについてやその心境にも焦点を当てながら、未来電波基地の本質に迫った。
Text : yaginiwa
──はじめに自己紹介をお願いします。
鬱木:宅録 / DTMで曲を作っている未来電波基地です。
──お名前の由来は?
鬱木:特に意味はないんですよね。当時住んでた船橋を歩きながらふと「未来電波基地」って思いついた感じです。もっというと、当時笹口騒音の太平洋不知火楽団ってバンドを聴いてたんですよ。それで漢字がいいなと思っていて。でも漢字を使うと古臭くなっちゃうじゃないですか。だからもっと未来を感じるような名前がいいなと思って、この名義を思いつきました。
──活動開始当初の動機とか目標はありましたか?
鬱木:うーん、特にないです。もともとボカロで始めたんですよ。当時VOCAROCK(ボカロック)っていうロック曲だけを集めたボカロ・コンピとかが普通に発売されたりしていて。なので自分もボーカロイドでロックの曲を作っていつかそういうCD に入りたいなとか思いながらやってたけど、結局叶いませんでしたね。
──作曲のスタートはボカロなんですね。
鬱木:もっと遡ると、高校生の時に携帯でメロディーを作る機能があったんですよ。それが作曲の始まりかな。
──それはアプリとかじゃなくて? 名前とかは覚えてますか?
鬱木:たぶん名前とかはないと思います。アプリとかではなく着メロを作る機能が当時ガラケーに入ってたんですよ。それで自分で着メロを作り始めたのが作曲の始まりです。
──リスナーとしては、いつ頃どういった音楽から触れられましたか?
鬱木:最初はやっぱりJ-POPですね。小学生の時は19とか聴いてました。
──それは自然と流れてきた音楽を聴いていたという感じですか?
鬱木:そうですね。
──自分から能動的にハマった音楽はありますか?
鬱木:大きなきっかけは、ラジオを聴き始めた時期があって、ラジオ経由でTHE BACK HORNとかART-SCHOOLとかを聴き始めるんですよ。それが前のめりに音楽にハマっていったきっかけかもしれないですね。そのあと大学時代はNUMBER GIRLを聴き始めましたね。そこからNUMBER GIRLが影響を受けたSonic YouthとかPixiesとかを聴いて、90年代のオルタナを漁っていきました。
──ヒップホップもお好きな印象があります。
鬱木:ヒップホップは高校時代にRIP SLYMEとかを聴いてたんですよ。その後BUDDHA BRANDを知って、BUDDHA BRANDを聴いたときに一気に自分の音楽の幅が広がりました。曲のグルーヴとか、スネアの音の気持ちよさとか、キックの気持ちよさとか。そこからジャズとかファンクとかを聴くようになって、ヒップホップも海外のものも聴くようになりました。
──BUDDHA BRANDをきっかけに音楽の幅が広がったと。
鬱木:あ、それと一個思い出したのが、当時たしか中学生、地元・福岡の田舎に住んでた時に、おばあちゃんが1人でやってる薬局みたいなところに行ったんですよ。そこで有線のラジオからBlack Machineの「How Gee」って曲が流れてきて。その曲は福岡ではCMで使われているので「CMの曲だ」と思って聴いていたら、普段は30秒とかで終わる曲がフルで流れて「こんなかっこいい曲が存在するんだ」って衝撃を受けたんですよね。ヒップホップの原体験はそれかもしれないですね。
──印象的なエピソードですね。音楽以外だと熱中していたことはありますか?
鬱木:ひとつは読書ですよね。本を読むのが大好きで。もっと遡れば、友達と一緒にゲームを作ったりしましたね。『RPGツクール』っていう「ゲームを作れるゲーム」があるんですけど、それを友達と一緒にずっとやっていました。
──ゲームもルーツとして大きいのでしょうか。好きな作品はありますか?
鬱木:いや、別にゲームが自分の創作に影響を与えたとは思ってないんですけど、そのときから「自分オリジナルのものを作るのが好き」というのはあったかもしれないですね。作品で言うと『ファイナルファンタジーX』が好きです。でも高校に上がったあたりでゲームは辞めたんですよね。大好きなんですけど、時間が過ぎるだけで何にも自分のためになってないなと思って。それで何か違う趣味を見つけようと思って本屋で本を買って読んだら「こんなに楽しいんだ」って気づいて、そこからめっちゃ本を読み始めたというのはありますね。
──本で言うと入り口は?
鬱木:入り口は江戸川乱歩です。ミステリーとして面白くて。昔の作家ですし古い雰囲気とかも好きで読んでましたね。
──たとえばフィルムカメラでの撮影もよくされている印象がありますが、古いものがお好きなのでしょうか?
鬱木:いや、古いものが好きってわけではないと思いますね。自分のこだわりが強くて、たぶん「こういうものが好き」っていうのが確固としてあるんですよね。それにフィルムカメラとか読書の嗜好が強く現れてるんじゃないですかね。
──特定のジャンルが好きというよりも、断片的な関心が混ざり合ってご自身の嗜好が形作られている、という感覚でしょうか。
鬱木:かもしれないですね。最近だと森博嗣という作家が一番好きなんですけど、世界観も近未来的ですし、未来をテーマにした作品が多いので。
──アートワークもご自身で制作されていると思うのですが、その影響元についてはいかがでしょうか?
鬱木:アートワークの影響は、ひとつはカナダのCrystal Castlesっていうデュオがいるんですけど、2枚目のアルバム『(II)』のジャケットを、たしか船橋に住んでいた時にタワーレコードで見かけて衝撃を受けました。あとUnknown Mortal Orchestraが好きなんですけど、ジャケットも好みで。余計な文字が入っていなくて写真だけで表してるのがシンプルでいいなって思った記憶がありますね。
──音楽制作の話に戻りますが、音楽制作にはどういったきっかけ、タイミングで取り掛かることが多いですか?
鬱木:気持ちが今作りたいってなった時に。特に何かがあるわけではなく、その時々って感じですかね。
──音楽を作る上で「伝えたいこと」とかはありますか?
鬱木:ないんですよね。単純に曲を作るのが楽しいから。自然と自分がかっこいいと思うものを作ってるだけかな。歌詞に関しては特に伝えたいこととかないんで。本当に語呂合わせというか。基本意味がないと思ってるんですよ。歌詞。出てきた言葉を繋いでるだけって感じです。
──自分の好きなことをやり続けているという感じでしょうか?
鬱木:まさに。
──未来電波基地としての初投稿楽曲はどの曲ですか?
鬱木:「Fuck you Nakamura , I hate you」ですね。
──大好きな曲です。タイトルにも出てくる「Nakamura」って実在する人物なのでしょうか?
鬱木:実在しますね。でも具体的には内緒にしてるんですよね。直接会った人にだけ話してます。ただ、この前久しぶりにNakamuraの名前を検索すると、研究者になっていました。
──DAWで作り始めた頃の制作環境はどんな感じでしたか?
鬱木:最初は3000円ぐらいのオーディオ・インターフェイスとギターのエフェクト・ソフトが一緒についてるやつを買って、それでボーカロイドの曲を作ったりしてました。そこからもっといろんなギター・サウンドを出したいとなって、LINE6の「POD X3」を買いました。それを今でもずっと使ってます。
──あのサウンドはPOD X3で作ってるんですね。
鬱木:ギターは最初はエピフォンのレスポール。次にエピフォンのウィルシャーに変えてそれをずっと弾いてますね。DAWはCakewalk Sonarです。Sonar LEっていう機能制限された無料版を、DTMを始めた当初からずっと使ってます。
──すごい。無料版で作ってるんですね。ボーカルの機材についてはいかがですか?あの声はどうやって作っているのでしょうか?
鬱木:これも無料のプラグインでRoveeっていうのがあって、最初はそれを使ってましたね。で、途中からはTC HELICON「VoiceLive Play」というボーカルチェンジが入っているハードウェアの機材を使ってます。
──ご自身の作品の中で、特に思い入れのある作品はありますか?
鬱木:『Therapy』ですね。名盤を作ろうと思って作ったアルバムなんですよ。だからジャケットも自分が写ってるものを使いました。一つ覚えてるエピソードが、未来電波基地のリスナーに会社を経営しているポール・ピューっていうアメリカ人がいるんですけど、 当時そいつが「『Therapy』聴いたけどいいアルバムだね」ってメッセージ送ってくれて。 それに対して僕が「マスターピースを作ろうと思ったんだよね」って返したら「マスターピースっていうのは自分で作るものじゃなくて時代が評価するものだよ」って返ってきたんですよね。そしたらその一週間後、またポール・ピューから連絡が来て「このアルバムもう何回もループしてるけど、マスターピースだよ」って言ってくれて。それがすごい印象に残ってるエピソードですね。
──それこそ『Therapy』は「さよならクロステック」が収録されている、今のバズにつながってるアルバムですもんね。
鬱木:あの曲がバズるとは思ってなかったですね。
──「さよならクロステック」の制作秘話はありますか? アルバムの中盤のインスト曲だと思うのですが、はじめはどういう意図で制作されたとか。
鬱木:『Therapy』は2018年リリースなんですけど、この大元ができたのはもっと前なんですよね。たぶん2013年ぐらいにもう原型ができてたんじゃないかな。たしか当時何か落ち込むことがあって、その気持ちを発散させるために曲を作ろうと思って作ったっていうのは明確に覚えてます。
──じゃあアルバムのために作ったというよりも、独立した曲として元々あったものなんですね。
鬱木:そうですね。で、2018年に『Therapy』を作る時に「この曲を入れよう」って。最初は歌を入れるつもりだったんですよ。ただあんまりいい感じにならなくて、「もうインストでいいや」ってなってインストにしたんですよね。今思えばインストにしてよかったなって思いますね。歌入ってたらこんなバズってないと思います。
──バズについて深掘りしたいのですが、バズが始まった時期とかって覚えておられますか?
鬱木: 2024年の年末、12月ぐらいから「さよならクロステック」がえらく再生され始めたんですよ。そのまま2025年に入っても一定の再生数を維持したままずっと続いてるって感じです。
──きっかけとかって具体的にはわかったりしますか?
鬱木:それがわからないんですよね。ただ僕が分析するに、 Z世代って未来に対して希望を持っていなかったり、日々陰鬱な気持ちで過ごしていると思っていて。その時代のムードにマッチしたんだと思いますね。
──リスナー層は海外が中心ですか?
鬱木:むしろ海外でしかバズってないですね。日本のリスナーはそんなに増えてないと思います。直近の地域で見ると人口分布からアメリカ、中国が多いんですよね。アメリカと中国で40%ぐらい。あとはイギリス、ブラジル、カナダ、ドイツ、メキシコ、ポーランド、オーストラリア、フィリピン。もう今言ったのはもう全部毎月20万再生超えてる。だからもう地域関係なく世界中ですよね。
──本当に世界中ですね。
鬱木:Z世代の悲観的なムードにマッチしちゃったってことだと分析してます。
──そこから「Unslept」のリリースをきっかけにバズがさらに加速していったと思うのですが、「Unslept」は「さよならクロステック」の流れを踏襲した楽曲、いわばシリーズ2のような位置づけだったのでしょうか。また、制作時のエピソードがあれば教えてください。
鬱木:まさにシリーズ2のつもりで作りました。曲のキーは違うけど、基本的に「さよならクロステック」のギターコードを逆に弾いて作ったって感じです。
──バズに対する心境はいかがですか? 素直に嬉しい?
鬱木:嬉しいですね。ただそれが正当な評価とは思ってなくて、ぶっちゃけ過大評価されてるんですよ、僕は。「さよならクロステック」と「Unslept」が2曲バズっただけの人間なんで。Spotifyの再生数って見れるじゃないですか。それを見れば明らかで、やっぱり2曲バズってるだけで、他の曲はそんなに再生されてないんですよ。 なので、この状況はもちろん嬉しいけど「過大評価されてるな」って思ってるので、次はアルバムというパッケージで出して、ちゃんとアルバムとして評価されるものをリリースするのが課題だと思ってますね。
──生活面での変化はいかがですか?
鬱木:仕事を辞めましたね。
──仕事を辞めることによって、創作への向き合い方や生活に対する心境の変化はありましたか?
鬱木:それが、モチベーションが下がったんですよ。なんかあんまり頑張ろうみたいな気持ちじゃなくなって。なんでしょうね、なんか怠けちゃってるんで。いかに自分のモチベーションを上げてまた真剣に作曲に向き合うかっていうことを今は考えています。
──余裕ができると逆に気持ちが向かなくなる、みたいな。
鬱木:高いリゾートホテルに泊まって、高いコース料理を食べたりもしたんですよ。 それが創作のインスピレーションになるかなと思って。そしたら特にやる気が湧くでもなく、ただの贅沢だなみたいな感じで、逆に冷めた感じですね。 やっぱそれよりも最近は、「音楽で成果を出してます」もしくは「めっちゃバズりました」みたいな、自分と同じような立場の人と会って喋ることの方がむしろ刺激になって、自分のモチベーションが上がるのかなと思ってます。
──会ってみたい人、やってみたい仕事などはありますか?
鬱木:やってみたい仕事は楽曲提供ですかね。最近楽曲提供の仕事をひとつしてるんですよ。それはすごく楽しくて。なのでジャンル問わずそういう仕事をしたいなと思っています。
──個人的には「さよならクロステック」のようなインスト曲の上にラッパーをフィーチャーした楽曲とかも聴いてみたいです。
鬱木:海外のラッパーとかミュージシャンから「歌を乗せたい」とか「歌を乗せたけど聴いてみて」っていうのもよく来るんですよ。「コラボしてくれないか」っていうのもしょっちゅうDMで来るんですけど、良いものはほとんどないですね。センスある人じゃないと一緒にやりたくないかなっていう感じです。
──ちなみに、今活動してるラッパーで注目してたり一緒にやってみたい人はいますか?
鬱木:好きなラッパーはいるんですけど、それと自分の曲が合うかっていうとまた別の話なんで。あ、思い出した。swettyって知ってます? 最近Elle Teresaとコラボしたりしてました。声がかっこいいんですよね。swettyに「Unslept」の上でラップとか歌乗せてほしいなって思いますけど。まあでも僕がこんなこと言うのもおこがましいんですけどね。
──実現したら最高ですね。最後に今後の展望についてお伺いしたいです。先ほどおっしゃっていた「アルバムとして評価されるものを出す」ところが第一でしょうか。その後はその次に考えるみたいな?
鬱木:そうですね。まあでも今までも何か目標を決めてやってきたとかじゃないんで、もう楽しいことを続けてたら、気づいたらこうなってたって感じで。これからもこの感じで続けられたらいいなと思ってます。
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