世界に伝播するインターネット・グランジ|未来電波基地 interview

活動最初期からバズまで、未来電波基地の本質に迫る

 

 

鬱木ゆうと による宅録ソロプロジェクト、未来電波基地。どこか怪しげな気配を纏った本プロジェクトは、2011年に「Fuck you Nakamura , I hate you」を動画サイトへ投稿して以降、『船橋INCIDENT』(2012年)から『init』(2024年)に至るまで、数多の作品を発表してきた。

 

「インターネットグランジ」を掲げ、ダウナーで鬱屈としたギターサウンド、ボイスチェンジャーによって加工された歌声、そして秀逸なメロディ・センスと宅録ならではの質感が織りなす無二の音楽性によってリスナーの心を掴み、宅録オルタナティブ・シーンを中心にカルト的な支持を獲得してきた。

 

そんな未来電波基地が、2024年末、突如として世界規模の注目を集める。Spotifyでの月間リスナー数は100万人を超え、ビルボード・チャートにも名を連ねるなど、これまでの活動からは想像もつかないかたちでの “バズ” が発生した。

 

今回のインタビューでは、熱心な未来電波基地リスナーでもあるボカロP / 宅録音楽家のyaginiwaが聞き手を担当。音楽ルーツから制作環境やエピソード、そしてバズについてやその心境にも焦点を当てながら、未来電波基地の本質に迫った。

 

Text : yaginiwa

 

 

──はじめに自己紹介をお願いします。

 

鬱木:宅録 / DTMで曲を作っている未来電波基地です。

 

──お名前の由来は?

 

鬱木:特に意味はないんですよね。当時住んでた船橋を歩きながらふと「未来電波基地」って思いついた感じです。もっというと、当時笹口騒音の太平洋不知火楽団ってバンドを聴いてたんですよ。それで漢字がいいなと思っていて。でも漢字を使うと古臭くなっちゃうじゃないですか。だからもっと未来を感じるような名前がいいなと思って、この名義を思いつきました。

 

 

──活動開始当初の動機とか目標はありましたか?

 

鬱木:うーん、特にないです。もともとボカロで始めたんですよ。当時VOCAROCK(ボカロック)っていうロック曲だけを集めたボカロ・コンピとかが普通に発売されたりしていて。なので自分もボーカロイドでロックの曲を作っていつかそういうCD に入りたいなとか思いながらやってたけど、結局叶いませんでしたね。

 

──作曲のスタートはボカロなんですね。

 

鬱木:もっと遡ると、高校生の時に携帯でメロディーを作る機能があったんですよ。それが作曲の始まりかな。

 

──それはアプリとかじゃなくて? 名前とかは覚えてますか?

 

鬱木:たぶん名前とかはないと思います。アプリとかではなく着メロを作る機能が当時ガラケーに入ってたんですよ。それで自分で着メロを作り始めたのが作曲の始まりです。

 

──リスナーとしては、いつ頃どういった音楽から触れられましたか?

 

鬱木:最初はやっぱりJ-POPですね。小学生の時は19とか聴いてました。

 

──それは自然と流れてきた音楽を聴いていたという感じですか?

 

鬱木:そうですね。

 

──自分から能動的にハマった音楽はありますか?

 

鬱木:大きなきっかけは、ラジオを聴き始めた時期があって、ラジオ経由でTHE BACK HORNとかART-SCHOOLとかを聴き始めるんですよ。それが前のめりに音楽にハマっていったきっかけかもしれないですね。そのあと大学時代はNUMBER GIRLを聴き始めましたね。そこからNUMBER GIRLが影響を受けたSonic YouthとかPixiesとかを聴いて、90年代のオルタナを漁っていきました。

 

──ヒップホップもお好きな印象があります。

 

鬱木:ヒップホップは高校時代にRIP SLYMEとかを聴いてたんですよ。その後BUDDHA BRANDを知って、BUDDHA BRANDを聴いたときに一気に自分の音楽の幅が広がりました。曲のグルーヴとか、スネアの音の気持ちよさとか、キックの気持ちよさとか。そこからジャズとかファンクとかを聴くようになって、ヒップホップも海外のものも聴くようになりました。

 

──BUDDHA BRANDをきっかけに音楽の幅が広がったと。

 

鬱木:あ、それと一個思い出したのが、当時たしか中学生、地元・福岡の田舎に住んでた時に、おばあちゃんが1人でやってる薬局みたいなところに行ったんですよ。そこで有線のラジオからBlack Machineの「How Gee」って曲が流れてきて。その曲は福岡ではCMで使われているので「CMの曲だ」と思って聴いていたら、普段は30秒とかで終わる曲がフルで流れて「こんなかっこいい曲が存在するんだ」って衝撃を受けたんですよね。ヒップホップの原体験はそれかもしれないですね。

 

──印象的なエピソードですね。音楽以外だと熱中していたことはありますか?

 

鬱木:ひとつは読書ですよね。本を読むのが大好きで。もっと遡れば、友達と一緒にゲームを作ったりしましたね。『RPGツクール』っていう「ゲームを作れるゲーム」があるんですけど、それを友達と一緒にずっとやっていました。

 

──ゲームもルーツとして大きいのでしょうか。好きな作品はありますか?

 

鬱木:いや、別にゲームが自分の創作に影響を与えたとは思ってないんですけど、そのときから「自分オリジナルのものを作るのが好き」というのはあったかもしれないですね。作品で言うと『ファイナルファンタジーX』が好きです。でも高校に上がったあたりでゲームは辞めたんですよね。大好きなんですけど、時間が過ぎるだけで何にも自分のためになってないなと思って。それで何か違う趣味を見つけようと思って本屋で本を買って読んだら「こんなに楽しいんだ」って気づいて、そこからめっちゃ本を読み始めたというのはありますね。

 

──本で言うと入り口は?

 

鬱木:入り口は江戸川乱歩です。ミステリーとして面白くて。昔の作家ですし古い雰囲気とかも好きで読んでましたね。

 

──たとえばフィルムカメラでの撮影もよくされている印象がありますが、古いものがお好きなのでしょうか?

 

鬱木:いや、古いものが好きってわけではないと思いますね。自分のこだわりが強くて、たぶん「こういうものが好き」っていうのが確固としてあるんですよね。それにフィルムカメラとか読書の嗜好が強く現れてるんじゃないですかね。

 

──特定のジャンルが好きというよりも、断片的な関心が混ざり合ってご自身の嗜好が形作られている、という感覚でしょうか。

 

鬱木:かもしれないですね。最近だと森博嗣という作家が一番好きなんですけど、世界観も近未来的ですし、未来をテーマにした作品が多いので。

 

──アートワークもご自身で制作されていると思うのですが、その影響元についてはいかがでしょうか?

 

鬱木:アートワークの影響は、ひとつはカナダのCrystal Castlesっていうデュオがいるんですけど、2枚目のアルバム『(II)』のジャケットを、たしか船橋に住んでいた時にタワーレコードで見かけて衝撃を受けました。あとUnknown Mortal Orchestraが好きなんですけど、ジャケットも好みで。余計な文字が入っていなくて写真だけで表してるのがシンプルでいいなって思った記憶がありますね。

 

 

──音楽制作の話に戻りますが、音楽制作にはどういったきっかけ、タイミングで取り掛かることが多いですか?

 

鬱木:気持ちが今作りたいってなった時に。特に何かがあるわけではなく、その時々って感じですかね。

 

──音楽を作る上で「伝えたいこと」とかはありますか?

 

鬱木:ないんですよね。単純に曲を作るのが楽しいから。自然と自分がかっこいいと思うものを作ってるだけかな。歌詞に関しては特に伝えたいこととかないんで。本当に語呂合わせというか。基本意味がないと思ってるんですよ。歌詞。出てきた言葉を繋いでるだけって感じです。

 

──自分の好きなことをやり続けているという感じでしょうか?

 

鬱木:まさに。

 

 

──未来電波基地としての初投稿楽曲はどの曲ですか?

 

鬱木:「Fuck you Nakamura , I hate you」ですね。

 

──大好きな曲です。タイトルにも出てくる「Nakamura」って実在する人物なのでしょうか?

 

鬱木:実在しますね。でも具体的には内緒にしてるんですよね。直接会った人にだけ話してます。ただ、この前久しぶりにNakamuraの名前を検索すると、研究者になっていました。

 

──DAWで作り始めた頃の制作環境はどんな感じでしたか?

 

鬱木:最初は3000円ぐらいのオーディオ・インターフェイスとギターのエフェクト・ソフトが一緒についてるやつを買って、それでボーカロイドの曲を作ったりしてました。そこからもっといろんなギター・サウンドを出したいとなって、LINE6の「POD X3」を買いました。それを今でもずっと使ってます。

 

──あのサウンドはPOD X3で作ってるんですね。

 

鬱木:ギターは最初はエピフォンのレスポール。次にエピフォンのウィルシャーに変えてそれをずっと弾いてますね。DAWはCakewalk Sonarです。Sonar LEっていう機能制限された無料版を、DTMを始めた当初からずっと使ってます。

 

──すごい。無料版で作ってるんですね。ボーカルの機材についてはいかがですか?あの声はどうやって作っているのでしょうか? 

 

鬱木:これも無料のプラグインでRoveeっていうのがあって、最初はそれを使ってましたね。で、途中からはTC HELICON「VoiceLive Play」というボーカルチェンジが入っているハードウェアの機材を使ってます。

 

──ご自身の作品の中で、特に思い入れのある作品はありますか?

 

鬱木:『Therapy』ですね。名盤を作ろうと思って作ったアルバムなんですよ。だからジャケットも自分が写ってるものを使いました。一つ覚えてるエピソードが、未来電波基地のリスナーに会社を経営しているポール・ピューっていうアメリカ人がいるんですけど、 当時そいつが「『Therapy』聴いたけどいいアルバムだね」ってメッセージ送ってくれて。 それに対して僕が「マスターピースを作ろうと思ったんだよね」って返したら「マスターピースっていうのは自分で作るものじゃなくて時代が評価するものだよ」って返ってきたんですよね。そしたらその一週間後、またポール・ピューから連絡が来て「このアルバムもう何回もループしてるけど、マスターピースだよ」って言ってくれて。それがすごい印象に残ってるエピソードですね。 

 

 

──それこそ『Therapy』は「さよならクロステック」が収録されている、今のバズにつながってるアルバムですもんね。

 

鬱木:あの曲がバズるとは思ってなかったですね。

 

──「さよならクロステック」の制作秘話はありますか? アルバムの中盤のインスト曲だと思うのですが、はじめはどういう意図で制作されたとか。

 

鬱木:『Therapy』は2018年リリースなんですけど、この大元ができたのはもっと前なんですよね。たぶん2013年ぐらいにもう原型ができてたんじゃないかな。たしか当時何か落ち込むことがあって、その気持ちを発散させるために曲を作ろうと思って作ったっていうのは明確に覚えてます。

 

──じゃあアルバムのために作ったというよりも、独立した曲として元々あったものなんですね。

 

鬱木:そうですね。で、2018年に『Therapy』を作る時に「この曲を入れよう」って。最初は歌を入れるつもりだったんですよ。ただあんまりいい感じにならなくて、「もうインストでいいや」ってなってインストにしたんですよね。今思えばインストにしてよかったなって思いますね。歌入ってたらこんなバズってないと思います。

 

──バズについて深掘りしたいのですが、バズが始まった時期とかって覚えておられますか?

 

鬱木: 2024年の年末、12月ぐらいから「さよならクロステック」がえらく再生され始めたんですよ。そのまま2025年に入っても一定の再生数を維持したままずっと続いてるって感じです。

 

──きっかけとかって具体的にはわかったりしますか?

 

鬱木:それがわからないんですよね。ただ僕が分析するに、 Z世代って未来に対して希望を持っていなかったり、日々陰鬱な気持ちで過ごしていると思っていて。その時代のムードにマッチしたんだと思いますね。 

 

──リスナー層は海外が中心ですか?

 

鬱木:むしろ海外でしかバズってないですね。日本のリスナーはそんなに増えてないと思います。直近の地域で見ると人口分布からアメリカ、中国が多いんですよね。アメリカと中国で40%ぐらい。あとはイギリス、ブラジル、カナダ、ドイツ、メキシコ、ポーランド、オーストラリア、フィリピン。もう今言ったのはもう全部毎月20万再生超えてる。だからもう地域関係なく世界中ですよね。

 

──本当に世界中ですね。

 

鬱木:Z世代の悲観的なムードにマッチしちゃったってことだと分析してます。

 

 

──そこから「Unslept」のリリースをきっかけにバズがさらに加速していったと思うのですが、「Unslept」は「さよならクロステック」の流れを踏襲した楽曲、いわばシリーズ2のような位置づけだったのでしょうか。また、制作時のエピソードがあれば教えてください。

 

鬱木:まさにシリーズ2のつもりで作りました。曲のキーは違うけど、基本的に「さよならクロステック」のギターコードを逆に弾いて作ったって感じです。

 

──バズに対する心境はいかがですか? 素直に嬉しい?

 

鬱木:嬉しいですね。ただそれが正当な評価とは思ってなくて、ぶっちゃけ過大評価されてるんですよ、僕は。「さよならクロステック」「Unslept」が2曲バズっただけの人間なんで。Spotifyの再生数って見れるじゃないですか。それを見れば明らかで、やっぱり2曲バズってるだけで、他の曲はそんなに再生されてないんですよ。 なので、この状況はもちろん嬉しいけど「過大評価されてるな」って思ってるので、次はアルバムというパッケージで出して、ちゃんとアルバムとして評価されるものをリリースするのが課題だと思ってますね。 

 

──生活面での変化はいかがですか?

 

鬱木:仕事を辞めましたね。

 

──仕事を辞めることによって、創作への向き合い方や生活に対する心境の変化はありましたか?

 

鬱木:それが、モチベーションが下がったんですよ。なんかあんまり頑張ろうみたいな気持ちじゃなくなって。なんでしょうね、なんか怠けちゃってるんで。いかに自分のモチベーションを上げてまた真剣に作曲に向き合うかっていうことを今は考えています。

 

──余裕ができると逆に気持ちが向かなくなる、みたいな。

 

鬱木:高いリゾートホテルに泊まって、高いコース料理を食べたりもしたんですよ。 それが創作のインスピレーションになるかなと思って。そしたら特にやる気が湧くでもなく、ただの贅沢だなみたいな感じで、逆に冷めた感じですね。 やっぱそれよりも最近は、「音楽で成果を出してます」もしくは「めっちゃバズりました」みたいな、自分と同じような立場の人と会って喋ることの方がむしろ刺激になって、自分のモチベーションが上がるのかなと思ってます。 

 

──会ってみたい人、やってみたい仕事などはありますか?

 

鬱木:やってみたい仕事は楽曲提供ですかね。最近楽曲提供の仕事をひとつしてるんですよ。それはすごく楽しくて。なのでジャンル問わずそういう仕事をしたいなと思っています。

 

──個人的には「さよならクロステック」のようなインスト曲の上にラッパーをフィーチャーした楽曲とかも聴いてみたいです。

 

鬱木:海外のラッパーとかミュージシャンから「歌を乗せたい」とか「歌を乗せたけど聴いてみて」っていうのもよく来るんですよ。「コラボしてくれないか」っていうのもしょっちゅうDMで来るんですけど、良いものはほとんどないですね。センスある人じゃないと一緒にやりたくないかなっていう感じです。

 

──ちなみに、今活動してるラッパーで注目してたり一緒にやってみたい人はいますか?

 

鬱木:好きなラッパーはいるんですけど、それと自分の曲が合うかっていうとまた別の話なんで。あ、思い出した。swettyって知ってます? 最近Elle Teresaとコラボしたりしてました。声がかっこいいんですよね。swettyに「Unslept」の上でラップとか歌乗せてほしいなって思いますけど。まあでも僕がこんなこと言うのもおこがましいんですけどね。

 

 

──実現したら最高ですね。最後に今後の展望についてお伺いしたいです。先ほどおっしゃっていた「アルバムとして評価されるものを出す」ところが第一でしょうか。その後はその次に考えるみたいな?

 

鬱木:そうですね。まあでも今までも何か目標を決めてやってきたとかじゃないんで、もう楽しいことを続けてたら、気づいたらこうなってたって感じで。これからもこの感じで続けられたらいいなと思ってます。

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2025/12/25

世界に伝播するインターネット・グランジ|未来電波基地 interview

活動最初期からバズまで、未来電波基地の本質に迫る

 

 

鬱木ゆうと による宅録ソロプロジェクト、未来電波基地。どこか怪しげな気配を纏った本プロジェクトは、2011年に「Fuck you Nakamura , I hate you」を動画サイトへ投稿して以降、『船橋INCIDENT』(2012年)から『init』(2024年)に至るまで、数多の作品を発表してきた。

 

「インターネットグランジ」を掲げ、ダウナーで鬱屈としたギターサウンド、ボイスチェンジャーによって加工された歌声、そして秀逸なメロディ・センスと宅録ならではの質感が織りなす無二の音楽性によってリスナーの心を掴み、宅録オルタナティブ・シーンを中心にカルト的な支持を獲得してきた。

 

そんな未来電波基地が、2024年末、突如として世界規模の注目を集める。Spotifyでの月間リスナー数は100万人を超え、ビルボード・チャートにも名を連ねるなど、これまでの活動からは想像もつかないかたちでの “バズ” が発生した。

 

今回のインタビューでは、熱心な未来電波基地リスナーでもあるボカロP / 宅録音楽家のyaginiwaが聞き手を担当。音楽ルーツから制作環境やエピソード、そしてバズについてやその心境にも焦点を当てながら、未来電波基地の本質に迫った。

 

Text : yaginiwa

 

 

──はじめに自己紹介をお願いします。

 

鬱木:宅録 / DTMで曲を作っている未来電波基地です。

 

──お名前の由来は?

 

鬱木:特に意味はないんですよね。当時住んでた船橋を歩きながらふと「未来電波基地」って思いついた感じです。もっというと、当時笹口騒音の太平洋不知火楽団ってバンドを聴いてたんですよ。それで漢字がいいなと思っていて。でも漢字を使うと古臭くなっちゃうじゃないですか。だからもっと未来を感じるような名前がいいなと思って、この名義を思いつきました。

 

 

──活動開始当初の動機とか目標はありましたか?

 

鬱木:うーん、特にないです。もともとボカロで始めたんですよ。当時VOCAROCK(ボカロック)っていうロック曲だけを集めたボカロ・コンピとかが普通に発売されたりしていて。なので自分もボーカロイドでロックの曲を作っていつかそういうCD に入りたいなとか思いながらやってたけど、結局叶いませんでしたね。

 

──作曲のスタートはボカロなんですね。

 

鬱木:もっと遡ると、高校生の時に携帯でメロディーを作る機能があったんですよ。それが作曲の始まりかな。

 

──それはアプリとかじゃなくて? 名前とかは覚えてますか?

 

鬱木:たぶん名前とかはないと思います。アプリとかではなく着メロを作る機能が当時ガラケーに入ってたんですよ。それで自分で着メロを作り始めたのが作曲の始まりです。

 

──リスナーとしては、いつ頃どういった音楽から触れられましたか?

 

鬱木:最初はやっぱりJ-POPですね。小学生の時は19とか聴いてました。

 

──それは自然と流れてきた音楽を聴いていたという感じですか?

 

鬱木:そうですね。

 

──自分から能動的にハマった音楽はありますか?

 

鬱木:大きなきっかけは、ラジオを聴き始めた時期があって、ラジオ経由でTHE BACK HORNとかART-SCHOOLとかを聴き始めるんですよ。それが前のめりに音楽にハマっていったきっかけかもしれないですね。そのあと大学時代はNUMBER GIRLを聴き始めましたね。そこからNUMBER GIRLが影響を受けたSonic YouthとかPixiesとかを聴いて、90年代のオルタナを漁っていきました。

 

──ヒップホップもお好きな印象があります。

 

鬱木:ヒップホップは高校時代にRIP SLYMEとかを聴いてたんですよ。その後BUDDHA BRANDを知って、BUDDHA BRANDを聴いたときに一気に自分の音楽の幅が広がりました。曲のグルーヴとか、スネアの音の気持ちよさとか、キックの気持ちよさとか。そこからジャズとかファンクとかを聴くようになって、ヒップホップも海外のものも聴くようになりました。

 

──BUDDHA BRANDをきっかけに音楽の幅が広がったと。

 

鬱木:あ、それと一個思い出したのが、当時たしか中学生、地元・福岡の田舎に住んでた時に、おばあちゃんが1人でやってる薬局みたいなところに行ったんですよ。そこで有線のラジオからBlack Machineの「How Gee」って曲が流れてきて。その曲は福岡ではCMで使われているので「CMの曲だ」と思って聴いていたら、普段は30秒とかで終わる曲がフルで流れて「こんなかっこいい曲が存在するんだ」って衝撃を受けたんですよね。ヒップホップの原体験はそれかもしれないですね。

 

──印象的なエピソードですね。音楽以外だと熱中していたことはありますか?

 

鬱木:ひとつは読書ですよね。本を読むのが大好きで。もっと遡れば、友達と一緒にゲームを作ったりしましたね。『RPGツクール』っていう「ゲームを作れるゲーム」があるんですけど、それを友達と一緒にずっとやっていました。

 

──ゲームもルーツとして大きいのでしょうか。好きな作品はありますか?

 

鬱木:いや、別にゲームが自分の創作に影響を与えたとは思ってないんですけど、そのときから「自分オリジナルのものを作るのが好き」というのはあったかもしれないですね。作品で言うと『ファイナルファンタジーX』が好きです。でも高校に上がったあたりでゲームは辞めたんですよね。大好きなんですけど、時間が過ぎるだけで何にも自分のためになってないなと思って。それで何か違う趣味を見つけようと思って本屋で本を買って読んだら「こんなに楽しいんだ」って気づいて、そこからめっちゃ本を読み始めたというのはありますね。

 

──本で言うと入り口は?

 

鬱木:入り口は江戸川乱歩です。ミステリーとして面白くて。昔の作家ですし古い雰囲気とかも好きで読んでましたね。

 

──たとえばフィルムカメラでの撮影もよくされている印象がありますが、古いものがお好きなのでしょうか?

 

鬱木:いや、古いものが好きってわけではないと思いますね。自分のこだわりが強くて、たぶん「こういうものが好き」っていうのが確固としてあるんですよね。それにフィルムカメラとか読書の嗜好が強く現れてるんじゃないですかね。

 

──特定のジャンルが好きというよりも、断片的な関心が混ざり合ってご自身の嗜好が形作られている、という感覚でしょうか。

 

鬱木:かもしれないですね。最近だと森博嗣という作家が一番好きなんですけど、世界観も近未来的ですし、未来をテーマにした作品が多いので。

 

──アートワークもご自身で制作されていると思うのですが、その影響元についてはいかがでしょうか?

 

鬱木:アートワークの影響は、ひとつはカナダのCrystal Castlesっていうデュオがいるんですけど、2枚目のアルバム『(II)』のジャケットを、たしか船橋に住んでいた時にタワーレコードで見かけて衝撃を受けました。あとUnknown Mortal Orchestraが好きなんですけど、ジャケットも好みで。余計な文字が入っていなくて写真だけで表してるのがシンプルでいいなって思った記憶がありますね。

 

 

──音楽制作の話に戻りますが、音楽制作にはどういったきっかけ、タイミングで取り掛かることが多いですか?

 

鬱木:気持ちが今作りたいってなった時に。特に何かがあるわけではなく、その時々って感じですかね。

 

──音楽を作る上で「伝えたいこと」とかはありますか?

 

鬱木:ないんですよね。単純に曲を作るのが楽しいから。自然と自分がかっこいいと思うものを作ってるだけかな。歌詞に関しては特に伝えたいこととかないんで。本当に語呂合わせというか。基本意味がないと思ってるんですよ。歌詞。出てきた言葉を繋いでるだけって感じです。

 

──自分の好きなことをやり続けているという感じでしょうか?

 

鬱木:まさに。

 

 

──未来電波基地としての初投稿楽曲はどの曲ですか?

 

鬱木:「Fuck you Nakamura , I hate you」ですね。

 

──大好きな曲です。タイトルにも出てくる「Nakamura」って実在する人物なのでしょうか?

 

鬱木:実在しますね。でも具体的には内緒にしてるんですよね。直接会った人にだけ話してます。ただ、この前久しぶりにNakamuraの名前を検索すると、研究者になっていました。

 

──DAWで作り始めた頃の制作環境はどんな感じでしたか?

 

鬱木:最初は3000円ぐらいのオーディオ・インターフェイスとギターのエフェクト・ソフトが一緒についてるやつを買って、それでボーカロイドの曲を作ったりしてました。そこからもっといろんなギター・サウンドを出したいとなって、LINE6の「POD X3」を買いました。それを今でもずっと使ってます。

 

──あのサウンドはPOD X3で作ってるんですね。

 

鬱木:ギターは最初はエピフォンのレスポール。次にエピフォンのウィルシャーに変えてそれをずっと弾いてますね。DAWはCakewalk Sonarです。Sonar LEっていう機能制限された無料版を、DTMを始めた当初からずっと使ってます。

 

──すごい。無料版で作ってるんですね。ボーカルの機材についてはいかがですか?あの声はどうやって作っているのでしょうか? 

 

鬱木:これも無料のプラグインでRoveeっていうのがあって、最初はそれを使ってましたね。で、途中からはTC HELICON「VoiceLive Play」というボーカルチェンジが入っているハードウェアの機材を使ってます。

 

──ご自身の作品の中で、特に思い入れのある作品はありますか?

 

鬱木:『Therapy』ですね。名盤を作ろうと思って作ったアルバムなんですよ。だからジャケットも自分が写ってるものを使いました。一つ覚えてるエピソードが、未来電波基地のリスナーに会社を経営しているポール・ピューっていうアメリカ人がいるんですけど、 当時そいつが「『Therapy』聴いたけどいいアルバムだね」ってメッセージ送ってくれて。 それに対して僕が「マスターピースを作ろうと思ったんだよね」って返したら「マスターピースっていうのは自分で作るものじゃなくて時代が評価するものだよ」って返ってきたんですよね。そしたらその一週間後、またポール・ピューから連絡が来て「このアルバムもう何回もループしてるけど、マスターピースだよ」って言ってくれて。それがすごい印象に残ってるエピソードですね。 

 

 

──それこそ『Therapy』は「さよならクロステック」が収録されている、今のバズにつながってるアルバムですもんね。

 

鬱木:あの曲がバズるとは思ってなかったですね。

 

──「さよならクロステック」の制作秘話はありますか? アルバムの中盤のインスト曲だと思うのですが、はじめはどういう意図で制作されたとか。

 

鬱木:『Therapy』は2018年リリースなんですけど、この大元ができたのはもっと前なんですよね。たぶん2013年ぐらいにもう原型ができてたんじゃないかな。たしか当時何か落ち込むことがあって、その気持ちを発散させるために曲を作ろうと思って作ったっていうのは明確に覚えてます。

 

──じゃあアルバムのために作ったというよりも、独立した曲として元々あったものなんですね。

 

鬱木:そうですね。で、2018年に『Therapy』を作る時に「この曲を入れよう」って。最初は歌を入れるつもりだったんですよ。ただあんまりいい感じにならなくて、「もうインストでいいや」ってなってインストにしたんですよね。今思えばインストにしてよかったなって思いますね。歌入ってたらこんなバズってないと思います。

 

──バズについて深掘りしたいのですが、バズが始まった時期とかって覚えておられますか?

 

鬱木: 2024年の年末、12月ぐらいから「さよならクロステック」がえらく再生され始めたんですよ。そのまま2025年に入っても一定の再生数を維持したままずっと続いてるって感じです。

 

──きっかけとかって具体的にはわかったりしますか?

 

鬱木:それがわからないんですよね。ただ僕が分析するに、 Z世代って未来に対して希望を持っていなかったり、日々陰鬱な気持ちで過ごしていると思っていて。その時代のムードにマッチしたんだと思いますね。 

 

──リスナー層は海外が中心ですか?

 

鬱木:むしろ海外でしかバズってないですね。日本のリスナーはそんなに増えてないと思います。直近の地域で見ると人口分布からアメリカ、中国が多いんですよね。アメリカと中国で40%ぐらい。あとはイギリス、ブラジル、カナダ、ドイツ、メキシコ、ポーランド、オーストラリア、フィリピン。もう今言ったのはもう全部毎月20万再生超えてる。だからもう地域関係なく世界中ですよね。

 

──本当に世界中ですね。

 

鬱木:Z世代の悲観的なムードにマッチしちゃったってことだと分析してます。

 

 

──そこから「Unslept」のリリースをきっかけにバズがさらに加速していったと思うのですが、「Unslept」は「さよならクロステック」の流れを踏襲した楽曲、いわばシリーズ2のような位置づけだったのでしょうか。また、制作時のエピソードがあれば教えてください。

 

鬱木:まさにシリーズ2のつもりで作りました。曲のキーは違うけど、基本的に「さよならクロステック」のギターコードを逆に弾いて作ったって感じです。

 

──バズに対する心境はいかがですか? 素直に嬉しい?

 

鬱木:嬉しいですね。ただそれが正当な評価とは思ってなくて、ぶっちゃけ過大評価されてるんですよ、僕は。「さよならクロステック」「Unslept」が2曲バズっただけの人間なんで。Spotifyの再生数って見れるじゃないですか。それを見れば明らかで、やっぱり2曲バズってるだけで、他の曲はそんなに再生されてないんですよ。 なので、この状況はもちろん嬉しいけど「過大評価されてるな」って思ってるので、次はアルバムというパッケージで出して、ちゃんとアルバムとして評価されるものをリリースするのが課題だと思ってますね。 

 

──生活面での変化はいかがですか?

 

鬱木:仕事を辞めましたね。

 

──仕事を辞めることによって、創作への向き合い方や生活に対する心境の変化はありましたか?

 

鬱木:それが、モチベーションが下がったんですよ。なんかあんまり頑張ろうみたいな気持ちじゃなくなって。なんでしょうね、なんか怠けちゃってるんで。いかに自分のモチベーションを上げてまた真剣に作曲に向き合うかっていうことを今は考えています。

 

──余裕ができると逆に気持ちが向かなくなる、みたいな。

 

鬱木:高いリゾートホテルに泊まって、高いコース料理を食べたりもしたんですよ。 それが創作のインスピレーションになるかなと思って。そしたら特にやる気が湧くでもなく、ただの贅沢だなみたいな感じで、逆に冷めた感じですね。 やっぱそれよりも最近は、「音楽で成果を出してます」もしくは「めっちゃバズりました」みたいな、自分と同じような立場の人と会って喋ることの方がむしろ刺激になって、自分のモチベーションが上がるのかなと思ってます。 

 

──会ってみたい人、やってみたい仕事などはありますか?

 

鬱木:やってみたい仕事は楽曲提供ですかね。最近楽曲提供の仕事をひとつしてるんですよ。それはすごく楽しくて。なのでジャンル問わずそういう仕事をしたいなと思っています。

 

──個人的には「さよならクロステック」のようなインスト曲の上にラッパーをフィーチャーした楽曲とかも聴いてみたいです。

 

鬱木:海外のラッパーとかミュージシャンから「歌を乗せたい」とか「歌を乗せたけど聴いてみて」っていうのもよく来るんですよ。「コラボしてくれないか」っていうのもしょっちゅうDMで来るんですけど、良いものはほとんどないですね。センスある人じゃないと一緒にやりたくないかなっていう感じです。

 

──ちなみに、今活動してるラッパーで注目してたり一緒にやってみたい人はいますか?

 

鬱木:好きなラッパーはいるんですけど、それと自分の曲が合うかっていうとまた別の話なんで。あ、思い出した。swettyって知ってます? 最近Elle Teresaとコラボしたりしてました。声がかっこいいんですよね。swettyに「Unslept」の上でラップとか歌乗せてほしいなって思いますけど。まあでも僕がこんなこと言うのもおこがましいんですけどね。

 

 

──実現したら最高ですね。最後に今後の展望についてお伺いしたいです。先ほどおっしゃっていた「アルバムとして評価されるものを出す」ところが第一でしょうか。その後はその次に考えるみたいな?

 

鬱木:そうですね。まあでも今までも何か目標を決めてやってきたとかじゃないんで、もう楽しいことを続けてたら、気づいたらこうなってたって感じで。これからもこの感じで続けられたらいいなと思ってます。

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