空白の時間、瞬間の狂乱|Travis Scott「Circus Maximus」Report by Saren

ラッパー・SarenによるTravis Scott来日公演レポート

 

 

2025年11月8日、Travis Scottが埼玉県所沢市・ベルーナドームにて初の単独来日公演を開催した。Travisは現在、2023年作のアルバム『Utopia』とともに〈Circus Maximus Tour〉と題した大型ツアーを開催中。その日本編となったのが今回の公演だった。

 

1991年にテキサス州ヒューストンで生まれたTravis Scottは、いまや世界でも指折りのラッパーとして知られるスーパースター。ヒップホップのサブジャンルとして誕生したトラップを、ビルボードのチャートを占拠するほどの人気に押し上げた立役者のひとりとして世界中のキッズを虜にし続けている。ファッション・アイコンとしても絶大な支持を受けており、もはや一挙一動すら話題になるほど巨大な存在となった。

 

今回AVYSSでは、そんなTravis Scottの来日公演レポートを不定期連載〈アマルガム論〉も手がけるリリシストなラッパー・Sarenに依頼。ノートに書き殴ったようなラフさをそのままに、話題に事欠かなかった当日の模様を伝えてもらった。

 

Report / Photo : Saren

Edit:NordOst / 松島広人

 


 

時系列が行ったり来たり、今描いてる気持ちと、そのときメモしたもののミックス。

 

Travis Scottという存在を何で知ったかという記憶は曖昧で、たぶん16歳頃のことだったと思う。その頃にはもうアルバムやミックステープを何枚か出してて、既にヒューストンの星って感じだった気がする。ずっと勢いがある印象。Netflixの『LOOK MOM I CAN FLY』(2019)も観てるし、JACKBOYSのノリも好きで、今回このレポートの話が来た瞬間に、絶対JACKBOYSのパーカー着て行こって。あと”ASTROWORLD”が出た頃、この動画好きでよく観てたな。

 

 

 

西武球場前駅へ向かう。途中、新秋津駅から秋津駅への乗り換えで少し歩いた。そこには既に客の匂いがしていて、導かれるように改札を通った。到着して、駅を降りた瞬間から空気が変わっていて、人の流れも匂いも、この日のために集まってきた観客のものになっていた。駅のトイレへ向かうと、男子トイレだけが長蛇の列で、女子トイレはスイスイ。列に並びながら「中でもきっとこうなんだろうな」と思った。

 

 

改札を出るとたくさんの人がいた。ドームの前から最寄りのファミマまで、人でいっぱいだった。電波はめちゃくちゃ悪いし、「開場時間が非常に遅れております」というアナウンスも。ここにいても仕方がないし、お腹も空いてたから一旦隣の駅のマクドナルドで時間を潰した。何年か前にCACTUS JACKとコラボしてたし。

 

 

友だちのWho28もドームに来るらしく、のちに合流。落ち合う直前に電話したけど、電波が悪すぎて宇宙くらいラグあった。目があったとき口の動きとイヤホンから流れてくる声がズレすぎてていっこく堂みたいだった。

 

 

ようやく会場の中へ。入ると一気にワクワク。照明は緑。すでに DJが始まっていて、 Pop Smoke、Fetty Wap、Soulja Boy、Sheck Wes、Migos、21 Savage、Post Malone… とか。特に、Rae Sremmurd – No Typeが流れてきた時はブチ上がった。好きだし懐かしくて「最高!」ってなったのと同時に、2年前とかCircus TokyoでeijinとDJしたとき、おれが”No Type”流して変な空気になった日のことも思い出した。

 

 

何回も”I can’t hear you ”を浴びた。とにかくDJがめちゃ良い!あとめちゃくちゃ喋る。お客さんも歌うし、ステージ付近のエリアでは既にモッシュが起きてるし、水をぶち撒けてる人とかいて大盛り上がり。スクラッチ入れたり飽きないし楽しい!てか上手い!冷静に考えて、大ヒットソングだと異国の地でも自然と合唱が起こるの凄すぎ。

 

そんなことを考えてると、モッシュが段々と落ち着いてきた。そこからすぐ「今、何待ち?」みたいな空白の時間が始まる。DJも終わって、そこからずっと鈴虫の鳴き声だけがする状況。隣の男が貧乏ゆすりを始め、自分もあくびが出る。18時をすぎても鈴虫。携帯のメモを見返したら「田舎の夜か」と書いてあった。

 

 

ようやく微妙な変化が起きる。音の厚みが少し変わった気がして、観客がスマホを掲げ始める。スモークが一気に吹き上がり、ようやく「本当に来る」と分かる。ここまで来たら、2時間押しとかもうどうでもいい。

 

 

Travis が娘と共に登場する。一気に会場のテンションは跳ね上がった。そこからは夢中で食い入るようにただひたすらにTravisを目で追った。

 

ベルーナドームという規模感なのにサブとハイハットの音が全然逃げてなくて凄い。速い曲でも。壮観、感動、圧巻、ラップ力がとんでもない。途中Travisトレセンが始まって、指名された何人かのお客さんがステージに上げられていて羨ましかった。

 

 

“MY EYES”のシンセがマッシブに鳴り響いたとき、めちゃくちゃ沁みたし鳥肌もんというか。あと”RODEO” “DAYS BEFORE RODEO”の曲もやってて嬉しかった。最高。とにかく最高。中盤にKanye(Ye)が来たけど、個人的にはあんまりグッと来なかった。元気がなさそうに見えた。KanyeといるTravisは嬉しそうだった。

 

 

とにかく無駄がない。たぶんフル尺でやった曲、ほとんどない。アンセム”FE!N”を何回も連続でやってるのに一回たりとも最後までやってない。効率とマンキンの鬼。まじアスリートだ。てかスクリーンは基本モノクロで、それもいい。”FE!N”の3回目の終わりぐらいに、セットの丘の一番上のとこで俯いて直立不動。無音で精神統一みたいなのが始まって、何だ?って感じ。

 

そしたら、おれらの頭上を閃光みたいな光が長方形をなぞるようにパパパって走ってもっかい”FE!N”みたいな。カッコ良すぎた。まじかよ!!

 

 

スクリーンに映るTravisを見ると、自分の頭を何度もガンガン叩き、マイク関係なしで咆哮、よくみたら筋肉もアスリートみたいなつき方してる。こいつは自分と自分を観てるみんなのアドレナリンを出すためだけに、自身の肉体と精神を追い込んで最適化させてるんだろうなと思った。自分勝手な解釈だけど、それが2時間押しの疑問を帰結させた。

 

その後”SICKO MODE”や”goosebumps”、ほか2曲ぐらいをやった後、ぬるっと会場を練り歩き出してサインを書きはじめる。なんとなく休憩タイムのムードが流れて、トイレに行く人たちがポツポツと。あ、いや、終わりだ。終わったのか。帰ろう。改めて、外国で演って3万人以上集めるの凄すぎるだろ、カッコいい。

 

 

ライブは静かに終わり、モワッとした熱だけが残ってた。2時間押し、鈴虫の鳴き声と長すぎる待ち時間、モッシュ、”FE!N”の反復、会場内の移動、サインの時間——それらが積み重なって今日の公演の形を成してた。ベルーナドームを出る頃、まだどこかで鈴虫が鳴いている感覚が耳に残っていた。

 

 

Saren – RICK ROSS

Release Date : October 8, 2025

Stream : https://linkco.re/fVHsxV35

 

Tracklist

1. Five Star Freestyle

2. Tiffany

3. B-ambitious

4. Like Swan

5. 8&8..

category:REPORT

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