
2025/12/03
ラッパー・SarenによるTravis Scott来日公演レポート

2025年11月8日、Travis Scottが埼玉県所沢市・ベルーナドームにて初の単独来日公演を開催した。Travisは現在、2023年作のアルバム『Utopia』とともに〈Circus Maximus Tour〉と題した大型ツアーを開催中。その日本編となったのが今回の公演だった。
1991年にテキサス州ヒューストンで生まれたTravis Scottは、いまや世界でも指折りのラッパーとして知られるスーパースター。ヒップホップのサブジャンルとして誕生したトラップを、ビルボードのチャートを占拠するほどの人気に押し上げた立役者のひとりとして世界中のキッズを虜にし続けている。ファッション・アイコンとしても絶大な支持を受けており、もはや一挙一動すら話題になるほど巨大な存在となった。
今回AVYSSでは、そんなTravis Scottの来日公演レポートを不定期連載〈アマルガム論〉も手がけるリリシストなラッパー・Sarenに依頼。ノートに書き殴ったようなラフさをそのままに、話題に事欠かなかった当日の模様を伝えてもらった。
Report / Photo : Saren
Edit:NordOst / 松島広人
時系列が行ったり来たり、今描いてる気持ちと、そのときメモしたもののミックス。
Travis Scottという存在を何で知ったかという記憶は曖昧で、たぶん16歳頃のことだったと思う。その頃にはもうアルバムやミックステープを何枚か出してて、既にヒューストンの星って感じだった気がする。ずっと勢いがある印象。Netflixの『LOOK MOM I CAN FLY』(2019)も観てるし、JACKBOYSのノリも好きで、今回このレポートの話が来た瞬間に、絶対JACKBOYSのパーカー着て行こって。あと”ASTROWORLD”が出た頃、この動画好きでよく観てたな。
西武球場前駅へ向かう。途中、新秋津駅から秋津駅への乗り換えで少し歩いた。そこには既に客の匂いがしていて、導かれるように改札を通った。到着して、駅を降りた瞬間から空気が変わっていて、人の流れも匂いも、この日のために集まってきた観客のものになっていた。駅のトイレへ向かうと、男子トイレだけが長蛇の列で、女子トイレはスイスイ。列に並びながら「中でもきっとこうなんだろうな」と思った。

改札を出るとたくさんの人がいた。ドームの前から最寄りのファミマまで、人でいっぱいだった。電波はめちゃくちゃ悪いし、「開場時間が非常に遅れております」というアナウンスも。ここにいても仕方がないし、お腹も空いてたから一旦隣の駅のマクドナルドで時間を潰した。何年か前にCACTUS JACKとコラボしてたし。

友だちのWho28もドームに来るらしく、のちに合流。落ち合う直前に電話したけど、電波が悪すぎて宇宙くらいラグあった。目があったとき口の動きとイヤホンから流れてくる声がズレすぎてていっこく堂みたいだった。

ようやく会場の中へ。入ると一気にワクワク。照明は緑。すでに DJが始まっていて、 Pop Smoke、Fetty Wap、Soulja Boy、Sheck Wes、Migos、21 Savage、Post Malone… とか。特に、Rae Sremmurd – No Typeが流れてきた時はブチ上がった。好きだし懐かしくて「最高!」ってなったのと同時に、2年前とかCircus TokyoでeijinとDJしたとき、おれが”No Type”流して変な空気になった日のことも思い出した。
何回も”I can’t hear you ”を浴びた。とにかくDJがめちゃ良い!あとめちゃくちゃ喋る。お客さんも歌うし、ステージ付近のエリアでは既にモッシュが起きてるし、水をぶち撒けてる人とかいて大盛り上がり。スクラッチ入れたり飽きないし楽しい!てか上手い!冷静に考えて、大ヒットソングだと異国の地でも自然と合唱が起こるの凄すぎ。
そんなことを考えてると、モッシュが段々と落ち着いてきた。そこからすぐ「今、何待ち?」みたいな空白の時間が始まる。DJも終わって、そこからずっと鈴虫の鳴き声だけがする状況。隣の男が貧乏ゆすりを始め、自分もあくびが出る。18時をすぎても鈴虫。携帯のメモを見返したら「田舎の夜か」と書いてあった。

ようやく微妙な変化が起きる。音の厚みが少し変わった気がして、観客がスマホを掲げ始める。スモークが一気に吹き上がり、ようやく「本当に来る」と分かる。ここまで来たら、2時間押しとかもうどうでもいい。

Travis が娘と共に登場する。一気に会場のテンションは跳ね上がった。そこからは夢中で食い入るようにただひたすらにTravisを目で追った。
ベルーナドームという規模感なのにサブとハイハットの音が全然逃げてなくて凄い。速い曲でも。壮観、感動、圧巻、ラップ力がとんでもない。途中Travisトレセンが始まって、指名された何人かのお客さんがステージに上げられていて羨ましかった。

“MY EYES”のシンセがマッシブに鳴り響いたとき、めちゃくちゃ沁みたし鳥肌もんというか。あと”RODEO” “DAYS BEFORE RODEO”の曲もやってて嬉しかった。最高。とにかく最高。中盤にKanye(Ye)が来たけど、個人的にはあんまりグッと来なかった。元気がなさそうに見えた。KanyeといるTravisは嬉しそうだった。

とにかく無駄がない。たぶんフル尺でやった曲、ほとんどない。アンセム”FE!N”を何回も連続でやってるのに一回たりとも最後までやってない。効率とマンキンの鬼。まじアスリートだ。てかスクリーンは基本モノクロで、それもいい。”FE!N”の3回目の終わりぐらいに、セットの丘の一番上のとこで俯いて直立不動。無音で精神統一みたいなのが始まって、何だ?って感じ。
そしたら、おれらの頭上を閃光みたいな光が長方形をなぞるようにパパパって走ってもっかい”FE!N”みたいな。カッコ良すぎた。まじかよ!!

スクリーンに映るTravisを見ると、自分の頭を何度もガンガン叩き、マイク関係なしで咆哮、よくみたら筋肉もアスリートみたいなつき方してる。こいつは自分と自分を観てるみんなのアドレナリンを出すためだけに、自身の肉体と精神を追い込んで最適化させてるんだろうなと思った。自分勝手な解釈だけど、それが2時間押しの疑問を帰結させた。
その後”SICKO MODE”や”goosebumps”、ほか2曲ぐらいをやった後、ぬるっと会場を練り歩き出してサインを書きはじめる。なんとなく休憩タイムのムードが流れて、トイレに行く人たちがポツポツと。あ、いや、終わりだ。終わったのか。帰ろう。改めて、外国で演って3万人以上集めるの凄すぎるだろ、カッコいい。

ライブは静かに終わり、モワッとした熱だけが残ってた。2時間押し、鈴虫の鳴き声と長すぎる待ち時間、モッシュ、”FE!N”の反復、会場内の移動、サインの時間——それらが積み重なって今日の公演の形を成してた。ベルーナドームを出る頃、まだどこかで鈴虫が鳴いている感覚が耳に残っていた。

Saren – RICK ROSS
Release Date : October 8, 2025
Stream : https://linkco.re/fVHsxV35
Tracklist
1. Five Star Freestyle
2. Tiffany
3. B-ambitious
4. Like Swan
5. 8&8..
category:REPORT
tags:Saren / Travis Scott
2024/08/28
「8&8..」のMV公開 MIX/マスタリングエンジニアとして活躍する傍ら、自身もラッパー/プロデューサー/DJとして多角的に活動する音楽家・Sarenがシングル『Five Star Freestyle / 8&8..』をリリース。アートワークはHajime Matsuoが手掛けた。 「Five Star Freestyle」はクラウドラップやpluggnbの気怠さ、レゲトンの輪郭を巧みに抽出したダウナーなラップソング。明確に愛を歌うでもなく、世界にアゲインストするでもなく、自身の心象風景を日記のようにリリックに記録しマンブルラップの不明瞭さで覆った。同曲のMVは8月21日より先行公開中。ディレクションはアートワークと同じくHajime Matsuoが手掛けた。 「8&8..」も前述の「Five Star Freestyle」と同じく、日記のようなテイストでSarenが巡った日々の記憶と感傷をリリックに封じ込めたダウナーなナンバー。ビートを構成するのは自身の持ち味でもあるストリートな力強さと内省的なアンビエンスが同居した緻密な音の粒の数々であり、アッパーに突き抜けはしないものの奥底に揺るがない強さを感じさせるトラックとなった。同曲のMVも本日19時より公開中。 一対となる二曲のいずれにおいても、Sarenは記憶それ自体ではなく「思い出し方」に焦点を当てた。Thugを軸とするHIPHOPの美学から飛び出しつつも、その単語に含まれるHugを大切にしているとのこと。 Saren – Five Star Freestyle / 8&8.. Release Date : August 28th, 2024 Stream : https://linkco.re/YCFdDvPF Tracklist 1. Five Star Freestyle 2. 8&8..
2023/06/16
ルーズに清廉、腰パンでアンビエンス 謎多きベッドルーム・SSW、Sarenが1stシングル「なつのほしのうた」をリリース。アートワークは〈CHAVURL〉の活動でも知られるeijinが85%ほど仕立て、残る15%をSarenが担当。 「なつのほしのうた」は、静/興奮の両面を感じさせるトランシーなサウンドに、不器用さと繊細さを織り交ぜたフロウが溶け合う、夏の一夜をモチーフとした美しい一曲。脳裏に焼き付くようなSupersawの奔流は、自由奔放かつファンタジックに叙事的なイメージを表現する”狂詩曲 / ラプソディ”としても咀嚼できる。 寡黙さと清廉なパーソナリティを保ちながら昨年末にリリースされた「オレンジレンジ (Tohji,ry0n4,Yoyou,Gummyboy,lil soft tennis,saren)」でのスピット、先日開催された〈chavrulove〉でのアクト等で確かな存在感を示すSaren。当人曰く「腰パンでアンビエンスを追求するみたいな」ラフさと美しさを折衷するスタンスが、クラウド・ラップ以降のポップスの新たな在り方を提案。 Saren – なつのほしのうた Release date : June 16 2023 Stream: https://linkco.re/ff4t57Cn
2023/12/20
ルーズさと清廉さを兼ね備えた美学 Mix/マスタリングエンジニアとしても各所で活躍するSSWのSarenが、2ndシングル「serenade」をリリース。アートワークはKazuma Watanabe(みんなのきもち)が49%、Sarenが51%を手掛けた合作デザイン。プロデュース、MIX、マスタリングはすべてSaren自身によるもの。リリースはMaphie・shshinozakiを中心に活動中のコレクティブ・Forum Radioがサポート。また、ギターとしてSarenの盟友でもあるaryy (HEAVEN)が参加している。 本作は言葉では言い表せない感情や断片的な記憶に焦点を当てた最小限のリリックと、クラウドラップを通過したアンビエンス解釈に基づくサウンドメイキングで構成された楽曲。サブベースの皮膜で包み隠されたメッセージには、ルーズさと清廉さを兼ね備えた本人の美学が染み渡っている。 多くのアーティストのサウンドデザインに携わるSarenの広範にわたる音楽愛を重層的なコンテキストに込めた、12月の空に捧ぐささやかなセレナーデ。 Saren – serenade Release date : 2023.12.20 (Wed) Stream : https://linkco.re/NcpagncP
MC兼ゲームマスター徳利からのメッセージも
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No Busesなど4組が追加
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4thアルバム『Reflect』リリース
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