
2025/11/20
最新作『Euphoria』の世界観を克明に描いた

京都を拠点とする音楽家・NTsKiが先日3rdアルバム『Euphoria』を〈Orange Milk〉よりリリース。DJとしても精力的な活動を続けてきた経験の蓄積を活かし、テクノやドラムン・ベース、UKガラージやハードコアを横断した9曲入の作品で、タイトル通り「多幸感」が溢れる内容に仕上げられている。
そうしたクラブ・ミュージックのエネルギーを色濃く投影しつつ、自身の持ち味でもある実験性とアンビエンスを織り交ぜ、有機的なサウンドスケープを描いた。NTsKiは〈ishinoko〉に代表されるオーガニックな野外フェス、レイヴでの活動にも意欲的で、そうした体験を通過した感覚が瑞々しく現れた作品だったともいえる。
今回AVYSSではNTsKiの最新作『Euphoria』の世界観を克明に描いたリリースパーティーへの取材を敢行。CIRCUS TOKYOのフロアを森林のような装飾で彩り、静謐さと高揚感のダイナミクスを浮き彫りにした没入感あふれる舞台となった。
Report : NordOst / 松島広人
Photo:toshimura
会場に到着すると、SEのかわりに音楽的な意味でのアンビエントではなく、森のざわめき、川のせせらぎのような環境音がかすかに流れていた。そこでまず、デバイスの画面や雑踏の情報量を洪水のように浴びてきた心身を落ち着かせられた。「セットとセッティング」という概念があるが、まさしく『Euphoria』と本回に向けたチューニングがなされているように思えた。
ラウンジからフロアへ降りると鈴の音か鐘の音か、か細くも芯のある音色が耳に入ってくる。観客の階段を駆け下りる音や息づかいが加わり、サウンドスケープが広がっていく。鐘の音を鳴らしていたのはNTsKi本人。環境音から、気づけばリリース・ライブが始まっていた。シームレスな演出に唸りつつ、照明の落とされたフロアの暗がりのなかで没入感に浸る。しかし張り詰めた緊張感はなく、空気が澄んでいくような、研ぎ澄まされていく感覚があった。抜群のセッティングだ。

ほどなくして登場したのは身体表現者・田村虹賀。NTsKiの棲む森を訪れた精霊のような佇まいで、フロアの暗がりを懐中電灯で照らしてみたり、ステージに広がる草原で眠ってみたり、歌い上げるNTsKiと向き合ってみたりと自由闊達に動き回り、ダンスの枠組みの外側へ飛び出すようなパフォーマンスでライブを彩った。


虹賀がサーチライトのように照らしていくうちに、本日の舞台があらわになっていく。普段の無機質なクラブのステージには芝生や植物が随所に張り巡らされており、森林の奥に広がる湖畔をたまたま訪れたような錯覚を覚えた。
イントロパートを経て、アルバムの1曲目を飾る「Mabinogi」がプレイされる。繊細なサウンドスケープと浮遊感を帯びた歌声が広がり、続く「Blackberry」「K」への展開に際してドローン・アンビエントを想起させられる音像が立ち上がる。そこから轟音が広がっていき、サウンドスケープは音楽の形を体得していく。ダイナミクス、抑揚、コントラストの効いた素晴らしい流れだ。


DJ機器やシンセサイザーの奥からNTsKiがステージの前へと移動し、徐々に暗闇が開けていく。サポートメンバーを務めるのはミニマル・メロウというコンセプトからスタートしたバンド・D.A.N.のメンバーとしても知られるJinya Ichikawa。チェロとシンセサイザーを手に、『Euphoria』の世界観をサウンド面から下支えしていた。
展開が進むにつれ、NTsKiのユーフォリックな声色が深くリバーブの効いたマイクを媒介に会場へ溶け出す。その過程で声の倍音成分だろうか、イヤホンを通した聴取ではけっして感じられない艶と厚みが広がっていく。CIRCUS TOKYOの売りといえばVOID Acoustics製のパワフルなサウンドシステムだが、こうした力強いクラブ的な音響が繊細さを伴う公演の美しさを補強していたように思える。ライブハウスではなく、クラブやレイヴに軸足を置く彼女ならではの聴取環境へのこだわりが伝わってきた。

実験音楽とポップスの境界線上に立つような静謐さを帯びた空気が、デコンストラクテッド・クラブとトラップを行き来するかのような「If (Remix)」「Fig」で一転し、流れが変わっていく。艷やかなサブベースの膨らみに虹賀のダンスを越えた身体表現が加わり、人工美と自然美が調和する。植物園を歩いているときのような柔らかい陶酔感に、しばし目を閉じて浸った。
後半にはCVN、Princess Ketamineとの共作曲「Hikari」や筆者が『Euphoria』収録曲でも殊更に愛聴しているナンバー「246」がプレイされ、観客はおのずとNTsKiと虹賀を囲むようにステージへ近づいていく。全編を通してレフトフィールドなハウス・ミュージックやキッチュで楽しげなUKベース・ミュージックに着想を得たトラックが心地よい。没入することも、ただ踊って楽しむことも、観客各々の感覚に委ねられている。圧倒的な表現を振りかざす力強いライブアクトとは一線を画す、たおやかな表現だ。
MCとともに、クライマックスでは『Euphoria』収録曲でも殊更レイヴ・ミュージック感覚を強めた「Id (feat. Yem Gel)」「Journey 2 Euphoria (feat. Yem Gel)」「2co1」を立て続けにプレイ。それぞれ現代的なサウンドデザインのドラムン・ベース~ブレイクスやUKハードコア~ハード・トランスを独自解釈したバンガー・トラックとともに、溜め込んだエネルギーを一気に放出していく。
ストロボが強烈に明滅する演出、レイヴ・スタブやスーパーソー、ガバキックをふんだんに盛り込んだ攻撃的なサウンドながら、どこか牧歌的な感覚を残していたのが印象深い。多幸感にあふれながらもけっして我を忘れることなく、刹那的ではない連続性をたたえた感覚にNTsKiの表現者としての矜持と心遣いを感じた。クライマックスでは虹賀とNTsKiが向き合い、最前列の観客たちへ存分に愛を送っていた。



そうして「NTsKi 3rd Album “Euphoria” Release Party」は終演。灯りがついて現実に戻ったフロアを改めて見渡すと、人工的ながら緑化されきった場内の雰囲気に癒やされる。余韻とともに佇む観客たちは、まるでピクニックの終わりを惜しむような雰囲気だった。どうやら本回の来場者の多くが〈ishinoko〉を経てここにたどり着いたようで、同フェスが多くの人に新しい感動を与えていたことがうかがえる。自分もいつか行ってみたいな、と強く思った。
そうした残り香を探してか、終演後ラウンジに上がるとE.O.Uとvqがサブフロアの機材で気ままに遊んでいて、ついもう一杯注文して彼らにとっては珍しいオーガニックなハウスをプレイする様子を楽しんだ。強固な世界観をたたえたワンマン・ライブでありながら、小箱のいいパーティーの終わりごろのような優しい余韻を胸に、会場を後にした。




2025.10.17 (Fri)
NTsKi 3rd Album “Euphoria” Release Party SETLIST
1. Mabinogi
2. Blackberry
3. K
4. ESC
5. If (Remix)
6. Fig(独奏)
7. On Divination in Sleep (Remix)
8. Hikari
9. 246
10. Id
11, Journey 2 Euphoria
12. 2co1
Members & Staff :
Vo & Manipulator – NTsKi
Cello & Synth – Jinya Ichikawa (D.A.N.)
Performance – Nizika Tamura
Decoration – Alexander Julian
照明 – 遠藤治郎
音響 – 村越翔太
Venue – CIRCUS TOKYO

NTsKi 3rd Album “Euphoria” Release Party Kyoto
2025.11.22 (SAT) at West Harlem
OPEN / START 19:30
ADV ¥3000 / DOOR ¥3500
Ticket :
category:REPORT
tags:NTsKi
2021/06/18
三次元の概念を超越した世界へ誘う 京都を拠点に活動するアーティスト、ミュージシャン、NTsKi(読: エヌ・ティー・エス・ケー・アイ)。活動を始めた2017年以降、ジャンルを問わず多様な音楽性が混在するトラックを制作し、これまでにも数々のシングル曲をリリースしてきた。そんなNTsKiがキャリアの<始点>として提示するファーストアルバム『Orca』を、インディペンデント・シーンを牽引し続けてきた米オハイオのレーベル〈Orange Milk〉よりリリースすることが決定。カセットとレコードに特化し、CDを取り扱わない〈Orange Milk〉に代わり、国内盤CDは〈EM Records〉から発売され、アルバムはダブルネームでのリリースとなる。 新曲「Kung-Fu」 : https://smarturl.it/kungfu-ntski アルバムからのファーストシングル「Kung-Fu」も公開。イギリス在住当時、NTsKiが作曲した曲をロンドンを拠点に活動するミュージシャン/ヴィジュアル・アーティストのYem Gelが編曲した楽曲。生命、大地、水をイメージして制作されたといい、中国の打楽器の音やシャチの鳴き声のサンプリングが使用されたトラックは、アブストラクトでありながらも生命の息吹の生々しさや草木の芽吹きのような瑞々しさをも感じさせ、NTsKiの特徴的な儚くも美しい歌声が異国を飛び越え異世界へ連れていく。 自然に対する畏怖の意味を込めて付けられたというアルバム・タイトル『Orca』。SNSなどでの発信からもNTsKiがイルカを好むことは察するが、シャチについてはただ好きだというものではなく、愛すると同時に恐ろしさを感じずにはいられないのだという。 「恐ろしいと感じ抱く畏怖の念はまた、想像や体験を超越した素晴らしい何かに出会ったときに感じる心情でもある。人の手が加わっていない大自然の美しさや夢のような景色を前に畏敬の念に打たれる。その感動の前では日常の焦りからも解放される。無限に広がる大地を、また大きな身体を持つシャチを前にして、時間は無限にあるのだと感じてしまう。」 リミックスを含めた全11曲を通して、時間の流れる方向や我々人間が今存在している場所、三次元の概念を超越した世界へ誘い、夢か現か記憶か憧れか、聴く者に新しくも懐かしい気持ちをもたらす、そんなファーストアルバムが完成した。アルバム・アートワークはKeith Rankinによるもの。ミックスは日本のヒップ・ホップ・シーンで絶大な信頼を誇るプロデューサー/エンジニアのThe Anticipation Illicit Tsuboi (RDS Toritsudai) が担当し、マスタリングはRadiohead、Justin Timberlake、Britney Spears、Yoko Onoなど名だたるアーティストの作品を手がけてきたレジェンド、Rick Essig (REM Sound) が担当している。 NTsKi – Orca Label : Orange Milk / EM Records Format : デジタル配信各種/CD (EM Records)、レコード/カセットテープ (Orange Milk) Release date : 2021年8月6日 ※レコードのみ9月中旬リリース予定 [CD] ●カタログ番号 EM1199CD ●JAN コード 4560283211990 ●フォーマット CD 12P ブック封入 帯付 特殊アルミ 着紙使用 ●定価 2,300 円 税別 + 装丁デザイン Keith Rankin (Orange Milk Records) + 歌詞掲載 Tracklist 1. Orca 2. On Divination in
2020/11/11
11月18日リリース 今年5月にDYGL下中とのコラボレーション・シングル「Heaven」をリリースしてから約半年、11月18日に自身のレーベル〈Amino Acid〉より東京を拠点にサウンドプロデューサーとして活躍しているsteiを迎えたダブルタイトルシングル「Father / Divine」のリリースを発表。 NTsKiのライヴでの共演などかねてから親交のあった二人がコラボし、NTsKiの美声と切ないメロディが印象的な前作から一転、怒りすらも感じるエナジェティックな「Father」、日本語ラップが際立つ「Divine」、UKドリル/トラップ/グライムなどの影響も感じられるトラックが完成。さらに東京拠点のアーティストCemeteryによる「Divine」のリミックスも収録される。アーティストとのコラボ作品や自身のライヴなどで披露されてきた中で定評を得ているNTsKiのラップだが、全面的にラップが展開されている楽曲はこれまで公式リリースされておらず、この度の新曲リリースはファン待望と言える。 また、昨年末から進められ、パンデミックの真っ只中に未来を繋ぐクリエイティビティの種としてリリースされたCVNキュレーションの次世代コンピレーション『S.D.S =零=』のリリースパーティー・プログラムとして、先日EM Records、AVYSS GAZE、WWWのコラボレーションにより開催されたライヴのアーカイブ映像が公開された。真っ白な衣装に身を包み演奏するNTsKiとゲストのYosuke Shimonaka (DYGL) は必見。 NTsKi – “Father / Divine” Label : Amino Acid Release date : 18 November 2020 Tracklist 1 Father 2 Divine 3 Divine (Cemetery Remix)
2025/10/17
Orange Milkより3rdアルバム『Euphoria』リリース NTsKiが3作目のアルバム『Euphoria』をアメリカ・オハイオのレーベル〈Orange Milk〉よりリリース。 アンビエントを軸に、テクノ、ドラムンベース、UKガラージ、ハードコアといった様々なジャンルとビートが交差し、新たなサウンドスケープを描き出す。森の静寂とダンスフロアの熱気が交錯する空間に、NTsKi特有の浮遊感のある歌声が響き、繊細な音響と実験的で身体的なリズムが共存し、抽象的でありながら情緒に満ちた音の景色を提示する。今作では日本、イギリス、アメリカ、オーストラリア、イタリアのアーティストとのコラボレーションを実現。DJとしてもアーティストとしても国境を越えて活動を広げてきたNTsKiが、『Euphoria』への旅へと誘う。 また、イタリア・ベネチアを拠点に活動するヴィジュアルアーティスト/プロデューサー/ボーカリストのPrincess Ketamine、トラックメイカー/プロデューサーでAVYSSを主宰するCVN、NTsKiによるコラボレーション楽曲「Hikari」のミュージックビデオも公開。ニューヨークで撮影された映像にはPrincess KetamineとNTsKiが出演し、都市の光と記憶をモチーフに、儚くも美しい時間の断片を描き出している。アートワーク / CGはPrincess Ketamine、映像のディレクションはNTsKi本人が手掛けた。 NTsKi – Euphoria Label : Orange Milk Release date : October 17, 2025 Stream : https://linkco.re/sFNY8gTR Tracklist 1. Mabinogi 2. Blackberry w/ Yem Gel 3. ESC (feat. Chloe Kae) 4. K 5. Hikari w/ CVN, Princess Ketamine 6. 246 7. Id w/ Yem Gel 8. Journey 2 Euphoria w/ Yem Gel 9. 2co1 Tokyo 2025.10.17 (FRI) at Circus Tokyo OPEN 18:30 / START 19:30 ADV ¥3000
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4thアルバム『Reflect』リリース
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1/23 DAY & NIGHT / 渋谷 5会場・7フロア使用
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