静謐と高揚のダイナミクス|NTsKi One Man Live Report

最新作『Euphoria』の世界観を克明に描いた

 

 

京都を拠点とする音楽家・NTsKiが先日3rdアルバム『Euphoria』を〈Orange Milk〉よりリリース。DJとしても精力的な活動を続けてきた経験の蓄積を活かし、テクノやドラムン・ベース、UKガラージやハードコアを横断した9曲入の作品で、タイトル通り「多幸感」が溢れる内容に仕上げられている。

 

そうしたクラブ・ミュージックのエネルギーを色濃く投影しつつ、自身の持ち味でもある実験性とアンビエンスを織り交ぜ、有機的なサウンドスケープを描いた。NTsKiは〈ishinoko〉に代表されるオーガニックな野外フェス、レイヴでの活動にも意欲的で、そうした体験を通過した感覚が瑞々しく現れた作品だったともいえる。

 

今回AVYSSではNTsKiの最新作『Euphoria』の世界観を克明に描いたリリースパーティーへの取材を敢行。CIRCUS TOKYOのフロアを森林のような装飾で彩り、静謐さと高揚感のダイナミクスを浮き彫りにした没入感あふれる舞台となった。

 

 

Report : NordOst / 松島広人

Photo:toshimura

 


 

 

会場に到着すると、SEのかわりに音楽的な意味でのアンビエントではなく、森のざわめき、川のせせらぎのような環境音がかすかに流れていた。そこでまず、デバイスの画面や雑踏の情報量を洪水のように浴びてきた心身を落ち着かせられた。「セットとセッティング」という概念があるが、まさしく『Euphoria』と本回に向けたチューニングがなされているように思えた。

 

ラウンジからフロアへ降りると鈴の音か鐘の音か、か細くも芯のある音色が耳に入ってくる。観客の階段を駆け下りる音や息づかいが加わり、サウンドスケープが広がっていく。鐘の音を鳴らしていたのはNTsKi本人。環境音から、気づけばリリース・ライブが始まっていた。シームレスな演出に唸りつつ、照明の落とされたフロアの暗がりのなかで没入感に浸る。しかし張り詰めた緊張感はなく、空気が澄んでいくような、研ぎ澄まされていく感覚があった。抜群のセッティングだ。

 

 

ほどなくして登場したのは身体表現者・田村虹賀。NTsKiの棲む森を訪れた精霊のような佇まいで、フロアの暗がりを懐中電灯で照らしてみたり、ステージに広がる草原で眠ってみたり、歌い上げるNTsKiと向き合ってみたりと自由闊達に動き回り、ダンスの枠組みの外側へ飛び出すようなパフォーマンスでライブを彩った。

 

 

 

虹賀がサーチライトのように照らしていくうちに、本日の舞台があらわになっていく。普段の無機質なクラブのステージには芝生や植物が随所に張り巡らされており、森林の奥に広がる湖畔をたまたま訪れたような錯覚を覚えた。

 

イントロパートを経て、アルバムの1曲目を飾る「Mabinogi」がプレイされる。繊細なサウンドスケープと浮遊感を帯びた歌声が広がり、続く「Blackberry」「K」への展開に際してドローン・アンビエントを想起させられる音像が立ち上がる。そこから轟音が広がっていき、サウンドスケープは音楽の形を体得していく。ダイナミクス、抑揚、コントラストの効いた素晴らしい流れだ。

 

 

 

DJ機器やシンセサイザーの奥からNTsKiがステージの前へと移動し、徐々に暗闇が開けていく。サポートメンバーを務めるのはミニマル・メロウというコンセプトからスタートしたバンド・D.A.N.のメンバーとしても知られるJinya Ichikawa。チェロとシンセサイザーを手に、『Euphoria』の世界観をサウンド面から下支えしていた。

 

展開が進むにつれ、NTsKiのユーフォリックな声色が深くリバーブの効いたマイクを媒介に会場へ溶け出す。その過程で声の倍音成分だろうか、イヤホンを通した聴取ではけっして感じられない艶と厚みが広がっていく。CIRCUS TOKYOの売りといえばVOID Acoustics製のパワフルなサウンドシステムだが、こうした力強いクラブ的な音響が繊細さを伴う公演の美しさを補強していたように思える。ライブハウスではなく、クラブやレイヴに軸足を置く彼女ならではの聴取環境へのこだわりが伝わってきた。

 

 

実験音楽とポップスの境界線上に立つような静謐さを帯びた空気が、デコンストラクテッド・クラブとトラップを行き来するかのような「If (Remix)」「Fig」で一転し、流れが変わっていく。艷やかなサブベースの膨らみに虹賀のダンスを越えた身体表現が加わり、人工美と自然美が調和する。植物園を歩いているときのような柔らかい陶酔感に、しばし目を閉じて浸った。

 

 

後半にはCVN、Princess Ketamineとの共作曲「Hikari」や筆者が『Euphoria』収録曲でも殊更に愛聴しているナンバー「246」がプレイされ、観客はおのずとNTsKiと虹賀を囲むようにステージへ近づいていく。全編を通してレフトフィールドなハウス・ミュージックやキッチュで楽しげなUKベース・ミュージックに着想を得たトラックが心地よい。没入することも、ただ踊って楽しむことも、観客各々の感覚に委ねられている。圧倒的な表現を振りかざす力強いライブアクトとは一線を画す、たおやかな表現だ。

 

 

MCとともに、クライマックスでは『Euphoria』収録曲でも殊更レイヴ・ミュージック感覚を強めた「Id (feat. Yem Gel)」「Journey 2 Euphoria (feat. Yem Gel)」「2co1」を立て続けにプレイ。それぞれ現代的なサウンドデザインのドラムン・ベース~ブレイクスやUKハードコア~ハード・トランスを独自解釈したバンガー・トラックとともに、溜め込んだエネルギーを一気に放出していく。

 

ストロボが強烈に明滅する演出、レイヴ・スタブやスーパーソー、ガバキックをふんだんに盛り込んだ攻撃的なサウンドながら、どこか牧歌的な感覚を残していたのが印象深い。多幸感にあふれながらもけっして我を忘れることなく、刹那的ではない連続性をたたえた感覚にNTsKiの表現者としての矜持と心遣いを感じた。クライマックスでは虹賀とNTsKiが向き合い、最前列の観客たちへ存分に愛を送っていた。

 

 

 

 

そうして「NTsKi 3rd Album “Euphoria” Release Party」は終演。灯りがついて現実に戻ったフロアを改めて見渡すと、人工的ながら緑化されきった場内の雰囲気に癒やされる。余韻とともに佇む観客たちは、まるでピクニックの終わりを惜しむような雰囲気だった。どうやら本回の来場者の多くが〈ishinoko〉を経てここにたどり着いたようで、同フェスが多くの人に新しい感動を与えていたことがうかがえる。自分もいつか行ってみたいな、と強く思った。

 

そうした残り香を探してか、終演後ラウンジに上がるとE.O.Uとvqがサブフロアの機材で気ままに遊んでいて、ついもう一杯注文して彼らにとっては珍しいオーガニックなハウスをプレイする様子を楽しんだ。強固な世界観をたたえたワンマン・ライブでありながら、小箱のいいパーティーの終わりごろのような優しい余韻を胸に、会場を後にした。

 

 

 

 

 

2025.10.17 (Fri)

NTsKi 3rd Album “Euphoria” Release Party SETLIST

 

1. Mabinogi

2. Blackberry

3. K

4. ESC

5. If (Remix)

6. Fig(独奏)

7. On Divination in Sleep (Remix)

8. Hikari

9. 246

10. Id

11, Journey 2 Euphoria

12. 2co1

 

Members & Staff :

Vo & Manipulator – NTsKi

Cello & Synth – Jinya Ichikawa (D.A.N.)

Performance – Nizika Tamura

Decoration – Alexander Julian

照明 – 遠藤治郎

音響 – 村越翔太

Venue – CIRCUS TOKYO

 

 

NTsKi 3rd Album “Euphoria” Release Party Kyoto

2025.11.22 (SAT) at West Harlem

OPEN / START 19:30

ADV ¥3000 / DOOR ¥3500

Ticket :

https://t.livepocket.jp/e/20251122ntski-westharlem_kyoto

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