生きづらさを抱える人のために|野崎りこん『群像』interview

受け手の自由に寄り添う作品

 

 

2022年の夏の始めごろ、野崎りこんは「終わらない夏」をテーマにした3年ぶりの新作『We Are Alive EP』を発表した。当時のインタビュー(https://avyss-magazine.com/2022/07/08/36667/)で溌剌と語られたのは、それまでの自身のモードを一新しつつ、目まぐるしく移り変わるシーンとは関係なく自分だけができるラップを突き詰めよう、という前向きな意志だった。

 

しかし、その後ふたたび野崎りこんは沈黙し、際限なく加速を続けるインターネット上の消費サイクルや変化からは距離を置いた。そして(オフライン・モードという意味での)隠遁生活を送っていた野崎りこんは、2024年の夏の終わりごろに2年ぶりの新作EP『群像』のリリースとともにカムバックを果たした。

 

あくまでも自身の速度やスタイルを失わず、オンライン上にもオフライン上にも偏らない座標で孤を貫き続ける”異端児”ラッパーに、AVYSSは2年ぶりのインタビューを敢行した。

 

Interview&Text:NordOst

 

 

──ちょうど2年ぶりぐらいのインタビューになりますね。その後いかがでしたか? 2022年から2024年の間、トレンドはものすごいスピードで変化していきましたし、社会的な変化や事件がいくつも発生しました。その間「野崎りこん」としてどう過ごしていたかから、まず伺えればと思います。

 

野崎りこん(以下、野崎):実は去年の春頃から鬱病になってしまいまして。それでしばらく音楽を聴いたり、やったりすることができなくなってしまって、音楽シーン自体から遠ざかっていたところはありますね。変化みたいなことには、ちょっと疎くなってしまったかも。

 

──僕にも経験があります。とても大変だったかと思います。では、どちらかといえば自分と向き合う期間としてこの2年を過ごしていたという。

 

野崎:そうかもしれないですね。

 

──パンデミックも抜けてもう少し社会も明るくなるのかな、と思いきや震災や戦争で時代の空気もダークな感じになっている懸念もありますが、この不穏さと野崎さんの表現の主柱になっている90年代後半~ゼロ年代前半の薄暗さにはちょっと重なるところもある気がします。

 

野崎:たしかにそうですね。社会的なあれこれも、ただただ見ててしんどいなと思っていて。具体的にどれがというよりは、世界のムード自体がしんどい状況が続いてて、もしかするとそれにも心が引っ張られていたのかも。

 

──インターネット的にも低浮上気味だったのかなと思いますが、今は復調に向かっている気配もあります。そうなったきっかけはなんだったんでしょうか?

 

野崎:しっかり休むことにしてから、少しずつ自分の時間を持てるようになったっていうのが大きかったと思います。以前は好きだったものにすら触れられなくなりはしたんですけど、歌詞だけはなんとか書けてたんですよ。制作途中で調子を崩してしまったんですが、『群像』だけは絶対に作り切ろう、と目標にしてて。結果的にこれを作ることが立ち直るきっかけになったのかもしれないです。

 

──そうして時間をかけて制作していったEPのなかには、制作年の異なる楽曲が入っているということですね。

 

野崎:最初の方に完成したのがテレマビ(Telematic Visions)さんがビートを提供してくれた「予感」や髭さん(FUNKY鬚HANK)を客演に迎えた「Marble」だったと思います。最後に作ったのが、nyamuraさんをフィーチャリングした「天国はまだ遠く」ですかね。あとはだいたい時系列順で出来上がっていきました。

 

──『群像』は新旧さまざまシーンからゲストが入り交じっている点も特徴的ですが、こうしたメンバーを起用した理由が気になるところです。

 

野崎:元・電波少女のFUNKY鬚HANKさんを「Marble」でお誘いしたのは、ビートを聴いたときに髭さんの声が自然と聴こえてきたような感覚があったからで。ずっと昔から一緒になにかやりたいとは思い続けてたので、今回本当に久しぶりに連絡を取ってお願いしました。テレマビさんやtoulaviさんに関してはもともとファンというか、ずっと聞いてて。前作の時点からお願いしたいなとは思ってて、念願叶い今回お願いしました。nyamuraさんは、「7月、天使との邂逅とその記録」という彼女の曲のリリックにかなり衝撃を受けた覚えがあって、今回のEPにも通ずるところを感じてオファーさせていただきました。

 

 

──3曲目の「Over Night feat. lIlI」には客演にlIlIさんを迎え、プロデュースにはJinmenusagiさんの別名義LEEYVNGがクレジットされています。

 

野崎:あれは2015年ぐらいからあったビートなんですよね。Jinmenusagiさんの『ジメサギ』というアルバムの初回特典に入ってたインストで、今回それをちょっと使わせていただけないですか、とお願いしたら快諾してもらって。ある種ルーツに立ち返ったようなところがあるかもしれないです。lIlIさんは、僕がライブに誘ってもらったことがあって、その時期から交流が始まっていった中でオファーをさせていただきました。

 

──「天国はまだ遠く」にはnyamuraさんのポエトリー・リーディングが入っていたりして幻想的な雰囲気もありつつ、リリックでは野崎さん自身の切実な心情が吐露されたりしていて。そうしたコントラストも踏まえた人選だったんでしょうか。

 

野崎:おっしゃる通りですね。この曲は主人公を自分にしようって決めてたので、どうしても重くはなるじゃないですか。そこを、nyamuraさんのリアルでも幻想的でもポップでもあるスタイルでより物語的にしてもらえたら、とお願いしました。

 

──リリックに「庵野秀明」っていう引用があったと思うんですけど、まさに庵野秀明的なディレクションを感じた、というか。代表作の『Air/まごころを、君に』では実写の生々しい表現にトライしたり、自身への攻撃的なメッセージもすべて引っくるめて自己をさらけ出す表現にまで踏み切ったりしていたと思いますが、本作にもそういった踏み込んでいく姿勢が見られたと思います。タイトル通り群像劇的ですし。

 

野崎:そうですね、庵野秀明にはやっぱり影響を受けてますし。それで言うと、『We Are Alive EP』では統一感をもって制作を進めてたのに対し、『群像』はバランス感は無視して、生まれたものをそのまま並べた感じのEPなんですよね。ある意味では一番剥き出しの野崎りこんっぽい表現に無意識的になっていったような感じもします。

 

──であると、青少年期に目にした原風景的な描写が多くて、しかもさまざまな視点が交差している、というのも、むしろこれまでのディスコグラフィに立ち返ったような感じもします。

 

野崎:その通りですね(笑)。たとえばM2.「予感」の主人公がM4.「運命論」の2ヴァース目で再登場したりとか。

 

 

 

──前作『We Are Alive EP』では冴島さなぎという架空の存在が存在感を放っていたのに対し、今作『群像』ではあくまでもオムニバスな作品に仕上げられていると。

 

野崎:何曲かを横断するようにいろんな人の視点が交差しつつ、最後の「天国はまだ遠く」だけは100%自分の視点で歌った、という感じです。

 

──たとえるなら『世にも奇妙な物語』のタモリがストーリーテラーの役割を果たしつつ、最後は自身もなにかに巻き込まれてしまう、という定番の流れのような構造がある、というか。そうした作品の狙いはやはり全編通して聴くことで初めて気づけたりもするので、それもいまの潮流とは異なる取り組みかも、と感じます。

 

野崎:自分もNordOstさんもそうだと思うんですけど、やっぱり年代的にアルバムとかを通して聴いてきたので、自作もしっかり塊として受け止めてほしいなという狙いがあって。沈んでいた時期の自分から出てきたものを剥き出しで表現しつつ、流れやまとまりはちょっと意識しました。

 

──アートワークの写真はquoposkさんという方によるものですが、これも話し合ったりして決めたものなんでしょうか。

 

野崎:それはもうこちらで勝手に。もともとquoposkさんがツイッターに上げている写真とかのファンで、とくにいいなと思うものをピックアップしてて、それを「今回使わせてもらえませんか」と伺ったところ快諾いただきました。

 

──quoposkさんの写真の、どういうところに惹かれましたか?

 

野崎:静けさですかね。街や学校とか、人が集まるところが切り取られているけど、そこには人がいなくて。その静けさに安心感みたいなものを覚えました。

 

──ある種の「静謐さ」みたいなものも本作のキーになっていそうですね。人の不在に寂しさとともに安らぎを覚える、というのはどのような人にも覚えがある体験かなと思います。ちなみに、音楽に限らず、今回支えてくれた人はほかにいらっしゃいましたか?

 

野崎:音楽的なところでは、今回新しくミックスを□□□(クチロロ)の三浦康嗣さんにお願いしたんですけど、ものすごく自分の声の特性とかを汲んでもらえて今まで以上の聴こえ方になりましたね。何パターンも提案してもらったなかで自分の声質の特性も伝えてもらって、たとえば低い中に高い音も混じっていて倍音的な鳴り方をする、とか。

 

──マスタリングも塩田浩 (SALT FIELD MASTERING)さんにお願いされていて、ハイファイでクリアじゃないけど今までとちょっと違う、ローファイなのにリッチな質感になっているような気がしました。そういうことも、この作品を年代やトレンド、ムードから切り離して独立させている要素なのかも、と。

 

野崎:たしかにそれは大きいかもしれないです。ネットラップという、言ってしまえば初期衝動的な音楽をサウンドデザイン的なところではリッチに仕上げる、というのはそんなにない試みかなと思うので。

 

──自分の魅力を自分の知らない知識で解析されると面白いですよね。それはある種の批評行為を受け止める、ということでもありますし。

 

野崎:面白いですね。それに、どういう形でも自分の作ったものを誰かが聞いてくれるってことで初めて成り立つんだな、という感じのことも改めて認識できました。

 

──本作のなかで野崎さんがとくに気に入っているトラックはどの曲になりますか?

 

野崎:4曲目の「運命論 (Prod. by ORKL)」ですかね。前作からお願いしているORKLさんのビートの質感だったり、思春期のドロドロした感情を込めたリリックだったり。

 

 

──ビートの質感も現行のアンダーグラウンドの流れとは異なっていて、逆説的にオルタナティヴを感じさせる作風に感じました。

 

野崎:ORKLさんには前作から関わってもらっていて、「ルックバックFreestyle」では実はサンプルを指定して、マイナーなアニソンの一部を使ってもらったりしています。

 

──今回で言うとなにかORKLさんに特別な発注はされたんでしょうか。

 

野崎:サンプルソースなどの指定はしてないんですけど、今回は風景画を送って「こういうイメージの曲を作りたい」とお願いしました。

 

──その風景画の作品名が気になります。有名な絵画なんでしょうか?

 

野崎:いえ、Pixivにあった『雪が降ってきた』という2007年ごろの古い絵です。陸橋に雪が降りはじめた様子を描いたもので、薄暗いけど冷たくはないような雰囲気に惹かれました。一時期、Pixivとかで風景画を集めてたんですよ。そのなかで不思議と印象に残っていたのがこの作品で、そこから個人的な体験や空想などを膨らませてEPの構想に繋げていきました。

 

https://www.pixiv.net/artworks/248759

 

──なるほど! 美少女ゲームのシーケンス感もあって、朴訥としたいい絵ですね。ローファイな質感もこの頃のWebの絵という感じで。自分も日課のようにさまざまなイラストをPixivで漁ることがあるんですが、あれも歴史あるプラットフォームなので、インターネット的なトレンドやタイム感が作品の年代ともリンクしているような気がしていて。とくに、ゼロ年代ごろのサービス初期に投稿されたものは、まだSNS的な価値観と接続されていないからか、作家ごとのプリミティブな美意識や素直な飾らない表現の形が冷凍保存されているようにも思えます。

 

野崎:スクリーンウィンドウやキャラクターの代わりに自分のリリックや楽曲の登場人物が乗ってくるようなイメージですね(笑)。群像劇がコンセプトっていうのと、現代に暮らす人たちの葛藤っていうのが全体的なテーマにあって、たとえば疲れて家に帰ってるとき、ふと見上げたら映るような景色という感じで。

 

──この絵をリファレンスとして指定する、という動き方ひとつとっても、時代のトレンドや消費サイクルに迎合するわけでもなく、遠ざかるわけでもない、シンプルにご自身のルーツに立ち返って作品のコアの部分に肉付けをしていったような雰囲気を感じます。

 

野崎:そうですね。あと、中学生のころに読んでた『BLOODLINK』(2001、山下卓)というライトノベルがあるんですけど、それも風景描写が冬っぽい感じで、ずっと頭に残ってて。それと、『テイルズ オブ レジェンディア』(2005、NAMCO)ってゲームの「蛍火」という挿入歌も冬の情景描写が素敵で。夏の終わりにリリースした作品ではあるんですが、冬の空気感みたいなものが着想源になってます。

 

──『雪が降ってきた』、『BLOODLINK』、そして『テイルズ オブ レジェンディア』が最新作『群像』を構成する核の一部という。HACCANさんという絵師の挿絵もすごくいい質感ですね。ぎりぎりリバイバルの対象になってない年代の画風というか。コロナ前夜ごろからゼロ年代リバイバルがメインストリーム化するぐらい加熱していきましたが、野崎さん的にはやはり2010年代にギリギリいかない時期の創作物が印象に残ってるんでしょうか?

 

野崎:そうかも。一番多感な時期だったというか、だいたい18歳ごろのことだったので。

 

──逆に最近は自分たちの好きな質感のものが氾濫しすぎていて、逆に不安になるような状況が続いてますよね。『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』の平成版みたいな状況に陥りつつあるような気さえしますが、そういった流れについてはどう受け止めていますか?

 

野崎:自分もかなり今の作品より昔の作品を掘り返すようなことが増えてしまって。精神的に難しい状況だったのもあったんですが、気づいたらあんなに憎悪していた”懐古厨”に自分がなりつつあるような……(笑)。

 

──音楽的にはどうですか? やはりゼロ年代~10年代ごろの作品を振り返ってみたりしたんでしょうか。

 

野崎:GARNET CROWの1stアルバムや2ndアルバムが中学生ぐらいのころすごく好きで、改めて聴き返してみたことがリファレンスになってるかもしれないです。あとはLOVE PSYCHEDELICOとかも。ポップスだけどオルタナティヴなバンドサウンドでもあるような感じのものですね。

 

──じゃあ、それを自分の”ネットラップ以降のヒップホップ”というスタイルに落とし込んだような感覚なんでしょうか。TSUTAYAのあの匂いがフラッシュバックするような気配もして、聴いていると同時代をともにした人に共通するちょっと変わったノスタルジアも感じられる気がします。逆に、より近い電子音楽やヒップホップなどは聴いたりしていましたか?

 

野崎:自分のやっていることに近いものだと、ROOODIMENTSというグループの「Snooze Night」って曲をめちゃくちゃ聴いてました。これは2年前とかに出たトラックなんですけど、トラップでもブーンバップでもなく、どちらかというとダブに近くてちょっと懐かしさもあるような不思議な質感で、今回のEPで目指したい方向と近かったです。

 

 

──たしかに、今作は客演こそフレッシュな面々が目立つもののトラップでもブーンバップでもなく、いわゆる”ハイパー”とも距離がある独特なバランスで成立していますよね。いい意味で時代性を消去しにかかっているような。

 

野崎:時代が云々というよりは”野崎りこんっぽさ”を煮詰めていったようなイメージですかね。古い新しいとかっていう軸ではないところで自分は自分なんです、と提示するような感覚で。

 

──「野崎りこん」としての出発点はネットラップではあるけど、そこでも異端児とされた、というバランス感が出てるのかなと。やはり重要なシーンでしたか?

 

野崎:そうですね、ネットラップは大きいです。前のインタビューだとニコラップ以降の流れにちょっと限界を感じてしまって一旦離れたと話してたと思うんですけど、やっぱりルーツとしては大きくて。自然にそのままの自分を出すと、ああなるのかな。自分と向き合う時間が増えてやっぱりそういう結論に至りましたね。

 

──2年ぐらいかけて『群像』を作り込むなかでいろんなことがあったと思うんですけど、印象的なエピソードは挙げられますか?

 

野崎:自分と向き合うのはともかく手癖で作らないよう気をつけてはいましたね。今回新しい試みとして、きだはしやっていう長年の友人でもあるラッパーにマニピュレーターだけでなくメンターもお願いしたんですよ。

 

──プロデューサーではなくメンター! 面白い試みです。

 

野崎:たとえば歌詞が数パターン思い浮かんでるときとか、自分の中ではどれでいくか7割ぐらいは決まってるんですけど、最後の一押しが欲しいなっていうときに思いついてるパターンを全部送ってどれがいいと思うか聞いてみるとか。そうすると「やっぱそれだよね」と同じ解答が返ってきたり、アドバイスをもらえたり。かなり助けられました。

 

──DIY規模で活動しているアーティストは、作品の良し悪しをすべて自分で決めていくじゃないですか。その声を他者に求めたっていうのは、復調のきっかけにもなった大きな変化なのでは? と思います。

 

野崎:そうかもしれないです。でも、やっぱり信頼できる人じゃないとっていうのもあって、長年の付き合いのあるきだはしや君にお願いしたって感じです。セラピー的でしたね、かなり。

 

──ChatGPTでは絶対にできないことですよね(笑)。自分も経験があるのですが、一度鬱状態に転落してからまた動きはじめるまでの間で一番大変なのって、最初の一歩目じゃないですか。坂道を自転車で進むときのペダルの重さと同じで、並大抵のことではなかったと思います。そういう動きを支えてくれる存在として、メンターのきだはしやさんには助けられたのかなと。

 

野崎:本当にそうですね。面白かったのが、(制作上での)意見がほとんど割れなかったんですよ。「ああ、僕は間違ってなかったんだな」って思えて本当に助かりました。他者とのつながりの大事さにも改めて気づけたというか、どんな関係性でもよくて、誰でもいいから信頼できる誰かと繋がることが一番結果的に自分を良くする方法なんだろうなっていう。なので閉じこもりつつも、閉じすぎない作品にできたかなと思います。今回に限らずなんですけど、なるべく間口を広げて誰も置いていかないような作品を作りたい、っていうのはずっとあります。あまり閉じた表現はしたくなくて。

 

──本作がどういう人に届いてほしいか、という自分の気持ちをあえて言葉にするなら、それはどのような人々に向けた、どんな表現になると思いますか?

 

野崎:どの曲が、とかはないんですけど、とにかく生きづらいと感じている人に聴いてほしいですね。みんな生きづらさを抱えていると思うので、そうなるたびに聴いて腑に落ちてもらえれば、と思ってます。受け手の自由に寄り添うような作品になれれば。

 

──『群像』の制作を経て、改めてフラットな状態に戻ってこれたような感覚もあると思います。ライブはまだ難しいのかもしれませんが、客演に前向きだったりと人と作っていく意欲は高そうですよね。作り終わった今、これからやっていきたいような表現などはありますか?

 

野崎:ライブはまだまだ出来ないなと思うんですが、客演や共作みたいなことは積極的にやっていきたいです。化学反応を起こしたいなっていう気持ちがあって、そうすると自分にとっても相手にとっても何かが生まれるのかなと。あと、今度はもう少しコンスタントにシングルとかを出していきたいなと考えてます。EPやアルバムを作ろうとすると、自分はどうしても時間をかけてしまうので。つらい世の中なんで、とにかく生き残っていければなと思うばかりです。音楽は続けていきたいし。

 

 

野崎りこん – 群像

Label : Ourlanguage / SPACE SHOWER MUSIC

Release date : August 21 2024

Format : CD / Digital

https://ssm.lnk.to/gunzo

 

Tracklist

1. 手 (Prod. by Eva Half)

2. 予感 (Prod. by Telematic Visions)

3. Over Night feat. lIlI (Prod. by LEEYVNG)

4. 運命論 (Prod. by ORKL)

5. n月 (Prod. by toulavi)

6. marble feat. FUNKY鬚HANK (Prod. by Saint Mike & 80root)

7. 天国はまだ遠く feat. nyamura (Prod. by hiiro)

 

Written by 野崎りこん

Mixed by 三浦康嗣

Mastered by 塩田浩 (SALT FIELD MASTERING)

Cover photography: quoposk

category:FEATURE

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受け手の自由に寄り添う作品

 

 

2022年の夏の始めごろ、野崎りこんは「終わらない夏」をテーマにした3年ぶりの新作『We Are Alive EP』を発表した。当時のインタビュー(https://avyss-magazine.com/2022/07/08/36667/)で溌剌と語られたのは、それまでの自身のモードを一新しつつ、目まぐるしく移り変わるシーンとは関係なく自分だけができるラップを突き詰めよう、という前向きな意志だった。

 

しかし、その後ふたたび野崎りこんは沈黙し、際限なく加速を続けるインターネット上の消費サイクルや変化からは距離を置いた。そして(オフライン・モードという意味での)隠遁生活を送っていた野崎りこんは、2024年の夏の終わりごろに2年ぶりの新作EP『群像』のリリースとともにカムバックを果たした。

 

あくまでも自身の速度やスタイルを失わず、オンライン上にもオフライン上にも偏らない座標で孤を貫き続ける”異端児”ラッパーに、AVYSSは2年ぶりのインタビューを敢行した。

 

Interview&Text:NordOst

 

 

──ちょうど2年ぶりぐらいのインタビューになりますね。その後いかがでしたか? 2022年から2024年の間、トレンドはものすごいスピードで変化していきましたし、社会的な変化や事件がいくつも発生しました。その間「野崎りこん」としてどう過ごしていたかから、まず伺えればと思います。

 

野崎りこん(以下、野崎):実は去年の春頃から鬱病になってしまいまして。それでしばらく音楽を聴いたり、やったりすることができなくなってしまって、音楽シーン自体から遠ざかっていたところはありますね。変化みたいなことには、ちょっと疎くなってしまったかも。

 

──僕にも経験があります。とても大変だったかと思います。では、どちらかといえば自分と向き合う期間としてこの2年を過ごしていたという。

 

野崎:そうかもしれないですね。

 

──パンデミックも抜けてもう少し社会も明るくなるのかな、と思いきや震災や戦争で時代の空気もダークな感じになっている懸念もありますが、この不穏さと野崎さんの表現の主柱になっている90年代後半~ゼロ年代前半の薄暗さにはちょっと重なるところもある気がします。

 

野崎:たしかにそうですね。社会的なあれこれも、ただただ見ててしんどいなと思っていて。具体的にどれがというよりは、世界のムード自体がしんどい状況が続いてて、もしかするとそれにも心が引っ張られていたのかも。

 

──インターネット的にも低浮上気味だったのかなと思いますが、今は復調に向かっている気配もあります。そうなったきっかけはなんだったんでしょうか?

 

野崎:しっかり休むことにしてから、少しずつ自分の時間を持てるようになったっていうのが大きかったと思います。以前は好きだったものにすら触れられなくなりはしたんですけど、歌詞だけはなんとか書けてたんですよ。制作途中で調子を崩してしまったんですが、『群像』だけは絶対に作り切ろう、と目標にしてて。結果的にこれを作ることが立ち直るきっかけになったのかもしれないです。

 

──そうして時間をかけて制作していったEPのなかには、制作年の異なる楽曲が入っているということですね。

 

野崎:最初の方に完成したのがテレマビ(Telematic Visions)さんがビートを提供してくれた「予感」や髭さん(FUNKY鬚HANK)を客演に迎えた「Marble」だったと思います。最後に作ったのが、nyamuraさんをフィーチャリングした「天国はまだ遠く」ですかね。あとはだいたい時系列順で出来上がっていきました。

 

──『群像』は新旧さまざまシーンからゲストが入り交じっている点も特徴的ですが、こうしたメンバーを起用した理由が気になるところです。

 

野崎:元・電波少女のFUNKY鬚HANKさんを「Marble」でお誘いしたのは、ビートを聴いたときに髭さんの声が自然と聴こえてきたような感覚があったからで。ずっと昔から一緒になにかやりたいとは思い続けてたので、今回本当に久しぶりに連絡を取ってお願いしました。テレマビさんやtoulaviさんに関してはもともとファンというか、ずっと聞いてて。前作の時点からお願いしたいなとは思ってて、念願叶い今回お願いしました。nyamuraさんは、「7月、天使との邂逅とその記録」という彼女の曲のリリックにかなり衝撃を受けた覚えがあって、今回のEPにも通ずるところを感じてオファーさせていただきました。

 

 

──3曲目の「Over Night feat. lIlI」には客演にlIlIさんを迎え、プロデュースにはJinmenusagiさんの別名義LEEYVNGがクレジットされています。

 

野崎:あれは2015年ぐらいからあったビートなんですよね。Jinmenusagiさんの『ジメサギ』というアルバムの初回特典に入ってたインストで、今回それをちょっと使わせていただけないですか、とお願いしたら快諾してもらって。ある種ルーツに立ち返ったようなところがあるかもしれないです。lIlIさんは、僕がライブに誘ってもらったことがあって、その時期から交流が始まっていった中でオファーをさせていただきました。

 

──「天国はまだ遠く」にはnyamuraさんのポエトリー・リーディングが入っていたりして幻想的な雰囲気もありつつ、リリックでは野崎さん自身の切実な心情が吐露されたりしていて。そうしたコントラストも踏まえた人選だったんでしょうか。

 

野崎:おっしゃる通りですね。この曲は主人公を自分にしようって決めてたので、どうしても重くはなるじゃないですか。そこを、nyamuraさんのリアルでも幻想的でもポップでもあるスタイルでより物語的にしてもらえたら、とお願いしました。

 

──リリックに「庵野秀明」っていう引用があったと思うんですけど、まさに庵野秀明的なディレクションを感じた、というか。代表作の『Air/まごころを、君に』では実写の生々しい表現にトライしたり、自身への攻撃的なメッセージもすべて引っくるめて自己をさらけ出す表現にまで踏み切ったりしていたと思いますが、本作にもそういった踏み込んでいく姿勢が見られたと思います。タイトル通り群像劇的ですし。

 

野崎:そうですね、庵野秀明にはやっぱり影響を受けてますし。それで言うと、『We Are Alive EP』では統一感をもって制作を進めてたのに対し、『群像』はバランス感は無視して、生まれたものをそのまま並べた感じのEPなんですよね。ある意味では一番剥き出しの野崎りこんっぽい表現に無意識的になっていったような感じもします。

 

──であると、青少年期に目にした原風景的な描写が多くて、しかもさまざまな視点が交差している、というのも、むしろこれまでのディスコグラフィに立ち返ったような感じもします。

 

野崎:その通りですね(笑)。たとえばM2.「予感」の主人公がM4.「運命論」の2ヴァース目で再登場したりとか。

 

 

 

──前作『We Are Alive EP』では冴島さなぎという架空の存在が存在感を放っていたのに対し、今作『群像』ではあくまでもオムニバスな作品に仕上げられていると。

 

野崎:何曲かを横断するようにいろんな人の視点が交差しつつ、最後の「天国はまだ遠く」だけは100%自分の視点で歌った、という感じです。

 

──たとえるなら『世にも奇妙な物語』のタモリがストーリーテラーの役割を果たしつつ、最後は自身もなにかに巻き込まれてしまう、という定番の流れのような構造がある、というか。そうした作品の狙いはやはり全編通して聴くことで初めて気づけたりもするので、それもいまの潮流とは異なる取り組みかも、と感じます。

 

野崎:自分もNordOstさんもそうだと思うんですけど、やっぱり年代的にアルバムとかを通して聴いてきたので、自作もしっかり塊として受け止めてほしいなという狙いがあって。沈んでいた時期の自分から出てきたものを剥き出しで表現しつつ、流れやまとまりはちょっと意識しました。

 

──アートワークの写真はquoposkさんという方によるものですが、これも話し合ったりして決めたものなんでしょうか。

 

野崎:それはもうこちらで勝手に。もともとquoposkさんがツイッターに上げている写真とかのファンで、とくにいいなと思うものをピックアップしてて、それを「今回使わせてもらえませんか」と伺ったところ快諾いただきました。

 

──quoposkさんの写真の、どういうところに惹かれましたか?

 

野崎:静けさですかね。街や学校とか、人が集まるところが切り取られているけど、そこには人がいなくて。その静けさに安心感みたいなものを覚えました。

 

──ある種の「静謐さ」みたいなものも本作のキーになっていそうですね。人の不在に寂しさとともに安らぎを覚える、というのはどのような人にも覚えがある体験かなと思います。ちなみに、音楽に限らず、今回支えてくれた人はほかにいらっしゃいましたか?

 

野崎:音楽的なところでは、今回新しくミックスを□□□(クチロロ)の三浦康嗣さんにお願いしたんですけど、ものすごく自分の声の特性とかを汲んでもらえて今まで以上の聴こえ方になりましたね。何パターンも提案してもらったなかで自分の声質の特性も伝えてもらって、たとえば低い中に高い音も混じっていて倍音的な鳴り方をする、とか。

 

──マスタリングも塩田浩 (SALT FIELD MASTERING)さんにお願いされていて、ハイファイでクリアじゃないけど今までとちょっと違う、ローファイなのにリッチな質感になっているような気がしました。そういうことも、この作品を年代やトレンド、ムードから切り離して独立させている要素なのかも、と。

 

野崎:たしかにそれは大きいかもしれないです。ネットラップという、言ってしまえば初期衝動的な音楽をサウンドデザイン的なところではリッチに仕上げる、というのはそんなにない試みかなと思うので。

 

──自分の魅力を自分の知らない知識で解析されると面白いですよね。それはある種の批評行為を受け止める、ということでもありますし。

 

野崎:面白いですね。それに、どういう形でも自分の作ったものを誰かが聞いてくれるってことで初めて成り立つんだな、という感じのことも改めて認識できました。

 

──本作のなかで野崎さんがとくに気に入っているトラックはどの曲になりますか?

 

野崎:4曲目の「運命論 (Prod. by ORKL)」ですかね。前作からお願いしているORKLさんのビートの質感だったり、思春期のドロドロした感情を込めたリリックだったり。

 

 

──ビートの質感も現行のアンダーグラウンドの流れとは異なっていて、逆説的にオルタナティヴを感じさせる作風に感じました。

 

野崎:ORKLさんには前作から関わってもらっていて、「ルックバックFreestyle」では実はサンプルを指定して、マイナーなアニソンの一部を使ってもらったりしています。

 

──今回で言うとなにかORKLさんに特別な発注はされたんでしょうか。

 

野崎:サンプルソースなどの指定はしてないんですけど、今回は風景画を送って「こういうイメージの曲を作りたい」とお願いしました。

 

──その風景画の作品名が気になります。有名な絵画なんでしょうか?

 

野崎:いえ、Pixivにあった『雪が降ってきた』という2007年ごろの古い絵です。陸橋に雪が降りはじめた様子を描いたもので、薄暗いけど冷たくはないような雰囲気に惹かれました。一時期、Pixivとかで風景画を集めてたんですよ。そのなかで不思議と印象に残っていたのがこの作品で、そこから個人的な体験や空想などを膨らませてEPの構想に繋げていきました。

 

https://www.pixiv.net/artworks/248759

 

──なるほど! 美少女ゲームのシーケンス感もあって、朴訥としたいい絵ですね。ローファイな質感もこの頃のWebの絵という感じで。自分も日課のようにさまざまなイラストをPixivで漁ることがあるんですが、あれも歴史あるプラットフォームなので、インターネット的なトレンドやタイム感が作品の年代ともリンクしているような気がしていて。とくに、ゼロ年代ごろのサービス初期に投稿されたものは、まだSNS的な価値観と接続されていないからか、作家ごとのプリミティブな美意識や素直な飾らない表現の形が冷凍保存されているようにも思えます。

 

野崎:スクリーンウィンドウやキャラクターの代わりに自分のリリックや楽曲の登場人物が乗ってくるようなイメージですね(笑)。群像劇がコンセプトっていうのと、現代に暮らす人たちの葛藤っていうのが全体的なテーマにあって、たとえば疲れて家に帰ってるとき、ふと見上げたら映るような景色という感じで。

 

──この絵をリファレンスとして指定する、という動き方ひとつとっても、時代のトレンドや消費サイクルに迎合するわけでもなく、遠ざかるわけでもない、シンプルにご自身のルーツに立ち返って作品のコアの部分に肉付けをしていったような雰囲気を感じます。

 

野崎:そうですね。あと、中学生のころに読んでた『BLOODLINK』(2001、山下卓)というライトノベルがあるんですけど、それも風景描写が冬っぽい感じで、ずっと頭に残ってて。それと、『テイルズ オブ レジェンディア』(2005、NAMCO)ってゲームの「蛍火」という挿入歌も冬の情景描写が素敵で。夏の終わりにリリースした作品ではあるんですが、冬の空気感みたいなものが着想源になってます。

 

──『雪が降ってきた』、『BLOODLINK』、そして『テイルズ オブ レジェンディア』が最新作『群像』を構成する核の一部という。HACCANさんという絵師の挿絵もすごくいい質感ですね。ぎりぎりリバイバルの対象になってない年代の画風というか。コロナ前夜ごろからゼロ年代リバイバルがメインストリーム化するぐらい加熱していきましたが、野崎さん的にはやはり2010年代にギリギリいかない時期の創作物が印象に残ってるんでしょうか?

 

野崎:そうかも。一番多感な時期だったというか、だいたい18歳ごろのことだったので。

 

──逆に最近は自分たちの好きな質感のものが氾濫しすぎていて、逆に不安になるような状況が続いてますよね。『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』の平成版みたいな状況に陥りつつあるような気さえしますが、そういった流れについてはどう受け止めていますか?

 

野崎:自分もかなり今の作品より昔の作品を掘り返すようなことが増えてしまって。精神的に難しい状況だったのもあったんですが、気づいたらあんなに憎悪していた”懐古厨”に自分がなりつつあるような……(笑)。

 

──音楽的にはどうですか? やはりゼロ年代~10年代ごろの作品を振り返ってみたりしたんでしょうか。

 

野崎:GARNET CROWの1stアルバムや2ndアルバムが中学生ぐらいのころすごく好きで、改めて聴き返してみたことがリファレンスになってるかもしれないです。あとはLOVE PSYCHEDELICOとかも。ポップスだけどオルタナティヴなバンドサウンドでもあるような感じのものですね。

 

──じゃあ、それを自分の”ネットラップ以降のヒップホップ”というスタイルに落とし込んだような感覚なんでしょうか。TSUTAYAのあの匂いがフラッシュバックするような気配もして、聴いていると同時代をともにした人に共通するちょっと変わったノスタルジアも感じられる気がします。逆に、より近い電子音楽やヒップホップなどは聴いたりしていましたか?

 

野崎:自分のやっていることに近いものだと、ROOODIMENTSというグループの「Snooze Night」って曲をめちゃくちゃ聴いてました。これは2年前とかに出たトラックなんですけど、トラップでもブーンバップでもなく、どちらかというとダブに近くてちょっと懐かしさもあるような不思議な質感で、今回のEPで目指したい方向と近かったです。

 

 

──たしかに、今作は客演こそフレッシュな面々が目立つもののトラップでもブーンバップでもなく、いわゆる”ハイパー”とも距離がある独特なバランスで成立していますよね。いい意味で時代性を消去しにかかっているような。

 

野崎:時代が云々というよりは”野崎りこんっぽさ”を煮詰めていったようなイメージですかね。古い新しいとかっていう軸ではないところで自分は自分なんです、と提示するような感覚で。

 

──「野崎りこん」としての出発点はネットラップではあるけど、そこでも異端児とされた、というバランス感が出てるのかなと。やはり重要なシーンでしたか?

 

野崎:そうですね、ネットラップは大きいです。前のインタビューだとニコラップ以降の流れにちょっと限界を感じてしまって一旦離れたと話してたと思うんですけど、やっぱりルーツとしては大きくて。自然にそのままの自分を出すと、ああなるのかな。自分と向き合う時間が増えてやっぱりそういう結論に至りましたね。

 

──2年ぐらいかけて『群像』を作り込むなかでいろんなことがあったと思うんですけど、印象的なエピソードは挙げられますか?

 

野崎:自分と向き合うのはともかく手癖で作らないよう気をつけてはいましたね。今回新しい試みとして、きだはしやっていう長年の友人でもあるラッパーにマニピュレーターだけでなくメンターもお願いしたんですよ。

 

──プロデューサーではなくメンター! 面白い試みです。

 

野崎:たとえば歌詞が数パターン思い浮かんでるときとか、自分の中ではどれでいくか7割ぐらいは決まってるんですけど、最後の一押しが欲しいなっていうときに思いついてるパターンを全部送ってどれがいいと思うか聞いてみるとか。そうすると「やっぱそれだよね」と同じ解答が返ってきたり、アドバイスをもらえたり。かなり助けられました。

 

──DIY規模で活動しているアーティストは、作品の良し悪しをすべて自分で決めていくじゃないですか。その声を他者に求めたっていうのは、復調のきっかけにもなった大きな変化なのでは? と思います。

 

野崎:そうかもしれないです。でも、やっぱり信頼できる人じゃないとっていうのもあって、長年の付き合いのあるきだはしや君にお願いしたって感じです。セラピー的でしたね、かなり。

 

──ChatGPTでは絶対にできないことですよね(笑)。自分も経験があるのですが、一度鬱状態に転落してからまた動きはじめるまでの間で一番大変なのって、最初の一歩目じゃないですか。坂道を自転車で進むときのペダルの重さと同じで、並大抵のことではなかったと思います。そういう動きを支えてくれる存在として、メンターのきだはしやさんには助けられたのかなと。

 

野崎:本当にそうですね。面白かったのが、(制作上での)意見がほとんど割れなかったんですよ。「ああ、僕は間違ってなかったんだな」って思えて本当に助かりました。他者とのつながりの大事さにも改めて気づけたというか、どんな関係性でもよくて、誰でもいいから信頼できる誰かと繋がることが一番結果的に自分を良くする方法なんだろうなっていう。なので閉じこもりつつも、閉じすぎない作品にできたかなと思います。今回に限らずなんですけど、なるべく間口を広げて誰も置いていかないような作品を作りたい、っていうのはずっとあります。あまり閉じた表現はしたくなくて。

 

──本作がどういう人に届いてほしいか、という自分の気持ちをあえて言葉にするなら、それはどのような人々に向けた、どんな表現になると思いますか?

 

野崎:どの曲が、とかはないんですけど、とにかく生きづらいと感じている人に聴いてほしいですね。みんな生きづらさを抱えていると思うので、そうなるたびに聴いて腑に落ちてもらえれば、と思ってます。受け手の自由に寄り添うような作品になれれば。

 

──『群像』の制作を経て、改めてフラットな状態に戻ってこれたような感覚もあると思います。ライブはまだ難しいのかもしれませんが、客演に前向きだったりと人と作っていく意欲は高そうですよね。作り終わった今、これからやっていきたいような表現などはありますか?

 

野崎:ライブはまだまだ出来ないなと思うんですが、客演や共作みたいなことは積極的にやっていきたいです。化学反応を起こしたいなっていう気持ちがあって、そうすると自分にとっても相手にとっても何かが生まれるのかなと。あと、今度はもう少しコンスタントにシングルとかを出していきたいなと考えてます。EPやアルバムを作ろうとすると、自分はどうしても時間をかけてしまうので。つらい世の中なんで、とにかく生き残っていければなと思うばかりです。音楽は続けていきたいし。

 

 

野崎りこん – 群像

Label : Ourlanguage / SPACE SHOWER MUSIC

Release date : August 21 2024

Format : CD / Digital

https://ssm.lnk.to/gunzo

 

Tracklist

1. 手 (Prod. by Eva Half)

2. 予感 (Prod. by Telematic Visions)

3. Over Night feat. lIlI (Prod. by LEEYVNG)

4. 運命論 (Prod. by ORKL)

5. n月 (Prod. by toulavi)

6. marble feat. FUNKY鬚HANK (Prod. by Saint Mike & 80root)

7. 天国はまだ遠く feat. nyamura (Prod. by hiiro)

 

Written by 野崎りこん

Mixed by 三浦康嗣

Mastered by 塩田浩 (SALT FIELD MASTERING)

Cover photography: quoposk

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