2024/11/15
受け手の自由に寄り添う作品
2022年の夏の始めごろ、野崎りこんは「終わらない夏」をテーマにした3年ぶりの新作『We Are Alive EP』を発表した。当時のインタビュー(https://avyss-magazine.com/2022/07/08/36667/)で溌剌と語られたのは、それまでの自身のモードを一新しつつ、目まぐるしく移り変わるシーンとは関係なく自分だけができるラップを突き詰めよう、という前向きな意志だった。
しかし、その後ふたたび野崎りこんは沈黙し、際限なく加速を続けるインターネット上の消費サイクルや変化からは距離を置いた。そして(オフライン・モードという意味での)隠遁生活を送っていた野崎りこんは、2024年の夏の終わりごろに2年ぶりの新作EP『群像』のリリースとともにカムバックを果たした。
あくまでも自身の速度やスタイルを失わず、オンライン上にもオフライン上にも偏らない座標で孤を貫き続ける”異端児”ラッパーに、AVYSSは2年ぶりのインタビューを敢行した。
Interview&Text:NordOst
──ちょうど2年ぶりぐらいのインタビューになりますね。その後いかがでしたか? 2022年から2024年の間、トレンドはものすごいスピードで変化していきましたし、社会的な変化や事件がいくつも発生しました。その間「野崎りこん」としてどう過ごしていたかから、まず伺えればと思います。
野崎りこん(以下、野崎):実は去年の春頃から鬱病になってしまいまして。それでしばらく音楽を聴いたり、やったりすることができなくなってしまって、音楽シーン自体から遠ざかっていたところはありますね。変化みたいなことには、ちょっと疎くなってしまったかも。
──僕にも経験があります。とても大変だったかと思います。では、どちらかといえば自分と向き合う期間としてこの2年を過ごしていたという。
野崎:そうかもしれないですね。
──パンデミックも抜けてもう少し社会も明るくなるのかな、と思いきや震災や戦争で時代の空気もダークな感じになっている懸念もありますが、この不穏さと野崎さんの表現の主柱になっている90年代後半~ゼロ年代前半の薄暗さにはちょっと重なるところもある気がします。
野崎:たしかにそうですね。社会的なあれこれも、ただただ見ててしんどいなと思っていて。具体的にどれがというよりは、世界のムード自体がしんどい状況が続いてて、もしかするとそれにも心が引っ張られていたのかも。
──インターネット的にも低浮上気味だったのかなと思いますが、今は復調に向かっている気配もあります。そうなったきっかけはなんだったんでしょうか?
野崎:しっかり休むことにしてから、少しずつ自分の時間を持てるようになったっていうのが大きかったと思います。以前は好きだったものにすら触れられなくなりはしたんですけど、歌詞だけはなんとか書けてたんですよ。制作途中で調子を崩してしまったんですが、『群像』だけは絶対に作り切ろう、と目標にしてて。結果的にこれを作ることが立ち直るきっかけになったのかもしれないです。
──そうして時間をかけて制作していったEPのなかには、制作年の異なる楽曲が入っているということですね。
野崎:最初の方に完成したのがテレマビ(Telematic Visions)さんがビートを提供してくれた「予感」や髭さん(FUNKY鬚HANK)を客演に迎えた「Marble」だったと思います。最後に作ったのが、nyamuraさんをフィーチャリングした「天国はまだ遠く」ですかね。あとはだいたい時系列順で出来上がっていきました。
──『群像』は新旧さまざまシーンからゲストが入り交じっている点も特徴的ですが、こうしたメンバーを起用した理由が気になるところです。
野崎:元・電波少女のFUNKY鬚HANKさんを「Marble」でお誘いしたのは、ビートを聴いたときに髭さんの声が自然と聴こえてきたような感覚があったからで。ずっと昔から一緒になにかやりたいとは思い続けてたので、今回本当に久しぶりに連絡を取ってお願いしました。テレマビさんやtoulaviさんに関してはもともとファンというか、ずっと聞いてて。前作の時点からお願いしたいなとは思ってて、念願叶い今回お願いしました。nyamuraさんは、「7月、天使との邂逅とその記録」という彼女の曲のリリックにかなり衝撃を受けた覚えがあって、今回のEPにも通ずるところを感じてオファーさせていただきました。
──3曲目の「Over Night feat. lIlI」には客演にlIlIさんを迎え、プロデュースにはJinmenusagiさんの別名義LEEYVNGがクレジットされています。
野崎:あれは2015年ぐらいからあったビートなんですよね。Jinmenusagiさんの『ジメサギ』というアルバムの初回特典に入ってたインストで、今回それをちょっと使わせていただけないですか、とお願いしたら快諾してもらって。ある種ルーツに立ち返ったようなところがあるかもしれないです。lIlIさんは、僕がライブに誘ってもらったことがあって、その時期から交流が始まっていった中でオファーをさせていただきました。
──「天国はまだ遠く」にはnyamuraさんのポエトリー・リーディングが入っていたりして幻想的な雰囲気もありつつ、リリックでは野崎さん自身の切実な心情が吐露されたりしていて。そうしたコントラストも踏まえた人選だったんでしょうか。
野崎:おっしゃる通りですね。この曲は主人公を自分にしようって決めてたので、どうしても重くはなるじゃないですか。そこを、nyamuraさんのリアルでも幻想的でもポップでもあるスタイルでより物語的にしてもらえたら、とお願いしました。
──リリックに「庵野秀明」っていう引用があったと思うんですけど、まさに庵野秀明的なディレクションを感じた、というか。代表作の『Air/まごころを、君に』では実写の生々しい表現にトライしたり、自身への攻撃的なメッセージもすべて引っくるめて自己をさらけ出す表現にまで踏み切ったりしていたと思いますが、本作にもそういった踏み込んでいく姿勢が見られたと思います。タイトル通り群像劇的ですし。
野崎:そうですね、庵野秀明にはやっぱり影響を受けてますし。それで言うと、『We Are Alive EP』では統一感をもって制作を進めてたのに対し、『群像』はバランス感は無視して、生まれたものをそのまま並べた感じのEPなんですよね。ある意味では一番剥き出しの野崎りこんっぽい表現に無意識的になっていったような感じもします。
──であると、青少年期に目にした原風景的な描写が多くて、しかもさまざまな視点が交差している、というのも、むしろこれまでのディスコグラフィに立ち返ったような感じもします。
野崎:その通りですね(笑)。たとえばM2.「予感」の主人公がM4.「運命論」の2ヴァース目で再登場したりとか。
──前作『We Are Alive EP』では冴島さなぎという架空の存在が存在感を放っていたのに対し、今作『群像』ではあくまでもオムニバスな作品に仕上げられていると。
野崎:何曲かを横断するようにいろんな人の視点が交差しつつ、最後の「天国はまだ遠く」だけは100%自分の視点で歌った、という感じです。
──たとえるなら『世にも奇妙な物語』のタモリがストーリーテラーの役割を果たしつつ、最後は自身もなにかに巻き込まれてしまう、という定番の流れのような構造がある、というか。そうした作品の狙いはやはり全編通して聴くことで初めて気づけたりもするので、それもいまの潮流とは異なる取り組みかも、と感じます。
野崎:自分もNordOstさんもそうだと思うんですけど、やっぱり年代的にアルバムとかを通して聴いてきたので、自作もしっかり塊として受け止めてほしいなという狙いがあって。沈んでいた時期の自分から出てきたものを剥き出しで表現しつつ、流れやまとまりはちょっと意識しました。
──アートワークの写真はquoposkさんという方によるものですが、これも話し合ったりして決めたものなんでしょうか。
野崎:それはもうこちらで勝手に。もともとquoposkさんがツイッターに上げている写真とかのファンで、とくにいいなと思うものをピックアップしてて、それを「今回使わせてもらえませんか」と伺ったところ快諾いただきました。
──quoposkさんの写真の、どういうところに惹かれましたか?
野崎:静けさですかね。街や学校とか、人が集まるところが切り取られているけど、そこには人がいなくて。その静けさに安心感みたいなものを覚えました。
──ある種の「静謐さ」みたいなものも本作のキーになっていそうですね。人の不在に寂しさとともに安らぎを覚える、というのはどのような人にも覚えがある体験かなと思います。ちなみに、音楽に限らず、今回支えてくれた人はほかにいらっしゃいましたか?
野崎:音楽的なところでは、今回新しくミックスを□□□(クチロロ)の三浦康嗣さんにお願いしたんですけど、ものすごく自分の声の特性とかを汲んでもらえて今まで以上の聴こえ方になりましたね。何パターンも提案してもらったなかで自分の声質の特性も伝えてもらって、たとえば低い中に高い音も混じっていて倍音的な鳴り方をする、とか。
──マスタリングも塩田浩 (SALT FIELD MASTERING)さんにお願いされていて、ハイファイでクリアじゃないけど今までとちょっと違う、ローファイなのにリッチな質感になっているような気がしました。そういうことも、この作品を年代やトレンド、ムードから切り離して独立させている要素なのかも、と。
野崎:たしかにそれは大きいかもしれないです。ネットラップという、言ってしまえば初期衝動的な音楽をサウンドデザイン的なところではリッチに仕上げる、というのはそんなにない試みかなと思うので。
──自分の魅力を自分の知らない知識で解析されると面白いですよね。それはある種の批評行為を受け止める、ということでもありますし。
野崎:面白いですね。それに、どういう形でも自分の作ったものを誰かが聞いてくれるってことで初めて成り立つんだな、という感じのことも改めて認識できました。
──本作のなかで野崎さんがとくに気に入っているトラックはどの曲になりますか?
野崎:4曲目の「運命論 (Prod. by ORKL)」ですかね。前作からお願いしているORKLさんのビートの質感だったり、思春期のドロドロした感情を込めたリリックだったり。
──ビートの質感も現行のアンダーグラウンドの流れとは異なっていて、逆説的にオルタナティヴを感じさせる作風に感じました。
野崎:ORKLさんには前作から関わってもらっていて、「ルックバックFreestyle」では実はサンプルを指定して、マイナーなアニソンの一部を使ってもらったりしています。
──今回で言うとなにかORKLさんに特別な発注はされたんでしょうか。
野崎:サンプルソースなどの指定はしてないんですけど、今回は風景画を送って「こういうイメージの曲を作りたい」とお願いしました。
──その風景画の作品名が気になります。有名な絵画なんでしょうか?
野崎:いえ、Pixivにあった『雪が降ってきた』という2007年ごろの古い絵です。陸橋に雪が降りはじめた様子を描いたもので、薄暗いけど冷たくはないような雰囲気に惹かれました。一時期、Pixivとかで風景画を集めてたんですよ。そのなかで不思議と印象に残っていたのがこの作品で、そこから個人的な体験や空想などを膨らませてEPの構想に繋げていきました。
https://www.pixiv.net/artworks/248759
──なるほど! 美少女ゲームのシーケンス感もあって、朴訥としたいい絵ですね。ローファイな質感もこの頃のWebの絵という感じで。自分も日課のようにさまざまなイラストをPixivで漁ることがあるんですが、あれも歴史あるプラットフォームなので、インターネット的なトレンドやタイム感が作品の年代ともリンクしているような気がしていて。とくに、ゼロ年代ごろのサービス初期に投稿されたものは、まだSNS的な価値観と接続されていないからか、作家ごとのプリミティブな美意識や素直な飾らない表現の形が冷凍保存されているようにも思えます。
野崎:スクリーンウィンドウやキャラクターの代わりに自分のリリックや楽曲の登場人物が乗ってくるようなイメージですね(笑)。群像劇がコンセプトっていうのと、現代に暮らす人たちの葛藤っていうのが全体的なテーマにあって、たとえば疲れて家に帰ってるとき、ふと見上げたら映るような景色という感じで。
──この絵をリファレンスとして指定する、という動き方ひとつとっても、時代のトレンドや消費サイクルに迎合するわけでもなく、遠ざかるわけでもない、シンプルにご自身のルーツに立ち返って作品のコアの部分に肉付けをしていったような雰囲気を感じます。
野崎:そうですね。あと、中学生のころに読んでた『BLOODLINK』(2001、山下卓)というライトノベルがあるんですけど、それも風景描写が冬っぽい感じで、ずっと頭に残ってて。それと、『テイルズ オブ レジェンディア』(2005、NAMCO)ってゲームの「蛍火」という挿入歌も冬の情景描写が素敵で。夏の終わりにリリースした作品ではあるんですが、冬の空気感みたいなものが着想源になってます。
──『雪が降ってきた』、『BLOODLINK』、そして『テイルズ オブ レジェンディア』が最新作『群像』を構成する核の一部という。HACCANさんという絵師の挿絵もすごくいい質感ですね。ぎりぎりリバイバルの対象になってない年代の画風というか。コロナ前夜ごろからゼロ年代リバイバルがメインストリーム化するぐらい加熱していきましたが、野崎さん的にはやはり2010年代にギリギリいかない時期の創作物が印象に残ってるんでしょうか?
野崎:そうかも。一番多感な時期だったというか、だいたい18歳ごろのことだったので。
──逆に最近は自分たちの好きな質感のものが氾濫しすぎていて、逆に不安になるような状況が続いてますよね。『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』の平成版みたいな状況に陥りつつあるような気さえしますが、そういった流れについてはどう受け止めていますか?
野崎:自分もかなり今の作品より昔の作品を掘り返すようなことが増えてしまって。精神的に難しい状況だったのもあったんですが、気づいたらあんなに憎悪していた”懐古厨”に自分がなりつつあるような……(笑)。
──音楽的にはどうですか? やはりゼロ年代~10年代ごろの作品を振り返ってみたりしたんでしょうか。
野崎:GARNET CROWの1stアルバムや2ndアルバムが中学生ぐらいのころすごく好きで、改めて聴き返してみたことがリファレンスになってるかもしれないです。あとはLOVE PSYCHEDELICOとかも。ポップスだけどオルタナティヴなバンドサウンドでもあるような感じのものですね。
──じゃあ、それを自分の”ネットラップ以降のヒップホップ”というスタイルに落とし込んだような感覚なんでしょうか。TSUTAYAのあの匂いがフラッシュバックするような気配もして、聴いていると同時代をともにした人に共通するちょっと変わったノスタルジアも感じられる気がします。逆に、より近い電子音楽やヒップホップなどは聴いたりしていましたか?
野崎:自分のやっていることに近いものだと、ROOODIMENTSというグループの「Snooze Night」って曲をめちゃくちゃ聴いてました。これは2年前とかに出たトラックなんですけど、トラップでもブーンバップでもなく、どちらかというとダブに近くてちょっと懐かしさもあるような不思議な質感で、今回のEPで目指したい方向と近かったです。
──たしかに、今作は客演こそフレッシュな面々が目立つもののトラップでもブーンバップでもなく、いわゆる”ハイパー”とも距離がある独特なバランスで成立していますよね。いい意味で時代性を消去しにかかっているような。
野崎:時代が云々というよりは”野崎りこんっぽさ”を煮詰めていったようなイメージですかね。古い新しいとかっていう軸ではないところで自分は自分なんです、と提示するような感覚で。
──「野崎りこん」としての出発点はネットラップではあるけど、そこでも異端児とされた、というバランス感が出てるのかなと。やはり重要なシーンでしたか?
野崎:そうですね、ネットラップは大きいです。前のインタビューだとニコラップ以降の流れにちょっと限界を感じてしまって一旦離れたと話してたと思うんですけど、やっぱりルーツとしては大きくて。自然にそのままの自分を出すと、ああなるのかな。自分と向き合う時間が増えてやっぱりそういう結論に至りましたね。
──2年ぐらいかけて『群像』を作り込むなかでいろんなことがあったと思うんですけど、印象的なエピソードは挙げられますか?
野崎:自分と向き合うのはともかく手癖で作らないよう気をつけてはいましたね。今回新しい試みとして、きだはしやっていう長年の友人でもあるラッパーにマニピュレーターだけでなくメンターもお願いしたんですよ。
──プロデューサーではなくメンター! 面白い試みです。
野崎:たとえば歌詞が数パターン思い浮かんでるときとか、自分の中ではどれでいくか7割ぐらいは決まってるんですけど、最後の一押しが欲しいなっていうときに思いついてるパターンを全部送ってどれがいいと思うか聞いてみるとか。そうすると「やっぱそれだよね」と同じ解答が返ってきたり、アドバイスをもらえたり。かなり助けられました。
──DIY規模で活動しているアーティストは、作品の良し悪しをすべて自分で決めていくじゃないですか。その声を他者に求めたっていうのは、復調のきっかけにもなった大きな変化なのでは? と思います。
野崎:そうかもしれないです。でも、やっぱり信頼できる人じゃないとっていうのもあって、長年の付き合いのあるきだはしや君にお願いしたって感じです。セラピー的でしたね、かなり。
──ChatGPTでは絶対にできないことですよね(笑)。自分も経験があるのですが、一度鬱状態に転落してからまた動きはじめるまでの間で一番大変なのって、最初の一歩目じゃないですか。坂道を自転車で進むときのペダルの重さと同じで、並大抵のことではなかったと思います。そういう動きを支えてくれる存在として、メンターのきだはしやさんには助けられたのかなと。
野崎:本当にそうですね。面白かったのが、(制作上での)意見がほとんど割れなかったんですよ。「ああ、僕は間違ってなかったんだな」って思えて本当に助かりました。他者とのつながりの大事さにも改めて気づけたというか、どんな関係性でもよくて、誰でもいいから信頼できる誰かと繋がることが一番結果的に自分を良くする方法なんだろうなっていう。なので閉じこもりつつも、閉じすぎない作品にできたかなと思います。今回に限らずなんですけど、なるべく間口を広げて誰も置いていかないような作品を作りたい、っていうのはずっとあります。あまり閉じた表現はしたくなくて。
──本作がどういう人に届いてほしいか、という自分の気持ちをあえて言葉にするなら、それはどのような人々に向けた、どんな表現になると思いますか?
野崎:どの曲が、とかはないんですけど、とにかく生きづらいと感じている人に聴いてほしいですね。みんな生きづらさを抱えていると思うので、そうなるたびに聴いて腑に落ちてもらえれば、と思ってます。受け手の自由に寄り添うような作品になれれば。
──『群像』の制作を経て、改めてフラットな状態に戻ってこれたような感覚もあると思います。ライブはまだ難しいのかもしれませんが、客演に前向きだったりと人と作っていく意欲は高そうですよね。作り終わった今、これからやっていきたいような表現などはありますか?
野崎:ライブはまだまだ出来ないなと思うんですが、客演や共作みたいなことは積極的にやっていきたいです。化学反応を起こしたいなっていう気持ちがあって、そうすると自分にとっても相手にとっても何かが生まれるのかなと。あと、今度はもう少しコンスタントにシングルとかを出していきたいなと考えてます。EPやアルバムを作ろうとすると、自分はどうしても時間をかけてしまうので。つらい世の中なんで、とにかく生き残っていければなと思うばかりです。音楽は続けていきたいし。
野崎りこん – 群像
Label : Ourlanguage / SPACE SHOWER MUSIC
Release date : August 21 2024
Format : CD / Digital
Tracklist
1. 手 (Prod. by Eva Half)
2. 予感 (Prod. by Telematic Visions)
3. Over Night feat. lIlI (Prod. by LEEYVNG)
4. 運命論 (Prod. by ORKL)
5. n月 (Prod. by toulavi)
6. marble feat. FUNKY鬚HANK (Prod. by Saint Mike & 80root)
7. 天国はまだ遠く feat. nyamura (Prod. by hiiro)
Written by 野崎りこん
Mixed by 三浦康嗣
Mastered by 塩田浩 (SALT FIELD MASTERING)
Cover photography: quoposk
category:FEATURE
tags:野崎りこん
2024/08/21
都市生活者のライフタイムミュージック 都市生活者のリアルな声を届けるラッパー野崎りこんのEP『群像』がリリース。現代をタフに生きる苦悩と美しさを描いたライフタイムミュージック。 目まぐるしく移り変わるシーンを横目に自分らしさを貫く野崎りこんが、新たな境地を示す作品を完成させた。「群像劇」をコンセプトに、コロナ禍を乗り越えた後も続く生きづらさや過酷な状況に直面する都市生活者たちの日々の葛藤を丁寧な視線で描き出す。 ゲストにはJinmenusagiことLEEYVNGに加え、Telematic Visions、lIlI、toulavi、nyamura。オールドファンには嬉しい元・電波少女のFUNKY鬚HANKが参加。マスタリングは塩田浩、ミックスは□□□の三浦康嗣が全曲担当。 EP発売日である本日「marble feat. FUNKY鬚HANK」MV公開。監督はtohji、ART-SCHOOL、Age Factory、For Tracy Hyde、Mega Shinnosukeなどの作品で知られるlilsomが手掛けた。 野崎りこん – 群像 Label : Ourlanguage / SPACE SHOWER MUSIC Release date : August 21 2024 Format : CD / Digital https://ssm.lnk.to/gunzo Tracklist 1. 手 (Prod. by Eva Half) 2. 予感 (Prod. by Telematic Visions) 3. Over Night feat. lIlI (Prod. by LEEYVNG) 4. 運命論 (Prod. by ORKL) 5. n月 (Prod. by toulavi) 6. marble feat. FUNKY鬚HANK (Prod. by
2022/07/08
本当の意味でのインターネット・ラップミュージック ネットラップを経由して孤高の表現を続ける野崎りこんが、”終わらない夏”をテーマに3年ぶりとなる新作『We Are Alive EP』をリリースした。パンデミック以降、際限なく加速し続ける消費サイクルの濁流を横目に、自身のペースを崩さず虎視眈々と積み上げたコンセプチュアルなEP。その背景にあったもの、葛藤と実験、ゼロ年代への憧憬、新たな境地に達したセカイ、そして未来についてをWebの異端児が語る。 text:NordOst ――『We Are Alive EP』リリースおめでとうございます。3年という長い期間を経て、どのようにEPを作り上げていったのでしょうか? 野崎りこん(以下、野崎):本来、時間をかけるつもりは無かったんですが、コンセプトが固まりきらなくて。楽曲のアイデアやストックは多数あっても、それらがまとまった全体像が見えてこなかったので、一旦仕切り直しをしたんです。 ――楽曲という点が、1本の線へと繋がっていかなかった、といったイメージでしょうか。 野崎:バラバラだったものを、ゼロから方向性を再考したり、組み直したり。その過程で、いくつかの曲に”夏”という共通項が浮かび上がっていったので、そのイメージをもとに1本の作品として作り上げていった感じですね。 ――『「プールに金魚を放して一緒に泳げば楽しいと思った。」 feat. 加奈子』は2012年に起こった”中学生金魚事件”が着想源になっていると思われます。その事件をもとに作られた『そうして私たちはプールに金魚を、』という短編映画もあり。 野崎:そうですね。EPの収録曲の中では一番古いもので、このあたりのエッセンスを叩き台として作品全体の方向性が固まっていったような感じです。ちなみに、全体的なコンセプトはタイトル通りで、つまりは「僕らはみんな生きている」ってことなんですよね。制作中にコロナ禍に突入してしまって、その真っ只中で結果的に色々なことが変わっていく過程が反映されているような形にはなったんですけど。 ――10年代の空気感と2020年以降一変した雰囲気が同居している折衷感は、逆に今すごく新鮮に映りました。よくない言い方かもしれませんが、これまで野崎さんの軸にあった”ルサンチマン感”を残しつつも、より開かれた表現に転化しているような印象を受けて。 野崎:以前は皮肉だったり卑屈な表現が多かったんですが、この状況を受けて考え方は大きく変わりました。そういう表現は一切やめよう、と思うようになっていきました。”ふとした時に観返す映画”みたいな、もっと明るくなれる、楽しくなれるようなものを作ろう、という気持ちで。自嘲的なメッセージを意識的に排除してみた結果が『We Are Alive EP』ですね。そういうマインドは全く無くなったというわけではないんですけど、それを今、音楽で表現したくはないな、って。 ――EPの客演にはe5(Dr.Anon)、Nosgovと今まで以上にフレッシュなアーティストを迎えていますが、どういった経緯で起用されたのでしょうか。旧作でも一貫して、早期に若手をフックアップするような形で個性的な人選をされている印象です。 野崎:客演をお願いする際は基本的に「自分が今聴いているアーティストを説明したい」という意図から、その時その時のテーマや雰囲気に合わせて選出しています。若手のフックアップというよりむしろ「新しい音楽を作っている人たちと一緒にやらせてもらう」みたいな気持ちで……(笑)。一方で、「野崎りこんってこういうアーティストだよね」みたいな感じで、イメージが形式化していくことを避けるため、異なった方向性のアーティストとコラボしたいという考えもあります。あとは、自分の作品を好きでいてくれる人々に驚きを与えたり、シンプルに魅力的だと感じたアーティストをより多くの人とシェアしたいな、という気持ちが大きいです。 ――たとえば旧作に登場した「冴島さなぎ」という架空のキャラクターへ本作で具体的な肉付けがなされ、客演の一人として加わっていることも、以前からの変化のひとつなんでしょうか。彼女がどのように作品の中で生きていて欲しいと思ったのか、非常に気になっていて。 野崎:まず最初に「架空のアーティストのCMスポットが、急に挿入される」というアイデアが生まれて、そのアイデアと、以前から自分のリリックの中だけで存在していた冴島さなぎというキャラクターと結びつけたらよりキャッチーなものにできるのではないかと考えました。『We Are Alive EP』のテーマを伝えるガイドのような役割を持たせるために、スキットを表題曲にしてみたり。「50077 gecs feat. 冴島さなぎ」のリリックにも、本作のコンセプトを込めました。 ――VHSのアニメや映画をレンタルすると、昔はよくプロモーション映像が挿入されたりしていましたよね。あるいは、YouTubeに勝手にアップロードされている昔の音楽番組っぽさみたいなザッピング感があって。あえて流れを断ち切り違和感を与えるような構成が、逆説的にEP全体に強い統一感をもたらしているように感じました。 野崎:分断した流れから新たな流れを生み出すような仕掛けは意識しましたね。スキットが折り返し地点になるような感じを意識して。そこからパッと明るく開けた「50077 gecs」が入ってくる、という感じで。 ――たしかに、1~3曲目と冴島さなぎの2曲、そして後半の3曲は絶妙に異なるカラーで、8曲入のEPに3層構造のようなレイヤーを感じます。 野崎:特に意識したのが、「自分で繰り返し聴いて楽しめる作品になっているか」という点で。そういう意味では、比較的新しく出来た「ルックバックfreestyle」や「MEMORIES」は、全体のバランスを整える役割を持っていたりしますね。 ――近年、「激情から生まれるエネルギー」をそのままパッケージングしたような衝動性に溢れる作品も目立ちますが、あくまでも野崎さんは冷静なプロデューサー目線から本作を作っていた、と。 野崎:長く聴けるような作品を追求するとなると、やっぱり全体像から細部を整えていくようなやり方がフィットして。コンセプチュアルであること自体を楽しめるのが理想的で、パーツ単位から作品を組み上げるような形を意識しました。 ――EPに先立ちリリースされた「ラブ&ポップ」は単独のシングル作品として区分けされていますが、あえて収録せず独立させたのもそういった意図からなのでしょうか。先ほど「マイナスな表現を意図的に排除する」と仰っていましたが、この楽曲は以前までの野崎さんの雰囲気と、今のバイブスの中間にあるような印象を受けました。 野崎:そうです。ちょうどこの曲が分水嶺みたいな感じですね。これも本当はEPのために作った曲だったんですが、サウンドの質感がコンセプトとそぐわないように感じてしまって。ただ、リリックで伝えたいことはEPの世界観の延長線上にはありますね。だからシングルとして分離させました。EPのジャケットや曲とも繋がる「プール」というキーワードが登場したり、EPの外伝的な役割を与えました。アニメのOVA版とか、前日譚とかみたいなイメージですね(笑)。 ――新作のリファレンスについても伺いたいです。前作『Love Sweet Dream LP』からシングル「ラブ&ポップ」、そして『We Are Alive EP』へと繋がっていった3年間で、どのように音楽を聴いていましたか? 野崎:trash angelsとか、LOWPOPLTD.など、新しい表現に取り組んでいるアーティストがたくさん生まれていく流れをSoundCloudで観測していましたね。その他には、EPの質感とはちょっと逸れるんですが、ずっと好きなJPEGMAFIAの作品だったり、Travis Scott『Astro World』とかKanye West『Life Of Pablo』など。ちょっと前の作品ですが、トレンドは横目でチラ見しつつも、自分らしく好きな表現を参照してます。どれもコンセプチュアルで斬新なことが刺激的だったので、そういった表現に取り組むきっかけにはなりました。コラージュっぽい作品になったのもJPEGMAFIAや『Life Of Pablo』、『Astro World』からの影響ですね。 ――音楽以外にはどんなコンテンツがリファレンスとなっているんでしょうか?そこはかとなくセカイ系的なイメージを想起させられたりと、聴けば聴くほど面白さが浮かんでくるのが新作の良さだな、と思い。 野崎:音楽以外のリファレンスも今回は多かったですね。収録曲の中では「summer haze」あたりのリリックに顕著に出ているのですが、「イリヤの空、UFOの夏」とか「おねがいツインズ」、「シュタインズ・ゲート」、「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!」など複数の作品を下地に、それらの要素をコラージュ的に重ねていった感じで。 ――庵野秀明が90年代にエヴァでやったような制作手法に近いものを感じますね。大量の好きなものをパーツとして並べて、それを自身の感覚で組み上げて新しいものを創り上げるような。 野崎:情報の過積載のような方法をとったのは、個々の作品を深く知らなくても、それぞれの持つイメージを並べることで見えてくる共通項が浮き彫りになるのが面白いからですね。そもそも、僕自身ひとつの作品を深堀りしたり、厳格にコンテンツと向き合ったりするというより、その作品の世界観、空気感を楽しむというタイプで。だからザッピング的な感覚があるのかも。自分が深く知らないからこそ、イメージしか知らない人にも言葉で説明しづらい質感やイメージを共有できるだろうな、と思ってます。「なんとなく」みたいな感覚って大事だと思ってて。 ――インターネット・ミーム的な価値観ですよね。野崎さんには最初期から一貫して、いわゆる特定の物事に精通したオタク像ではなく、ひたすらWeb上で雑食にトピックを吸収していくスタンスが見受けられますが、これってdiscordなどに通底する、今のネット感覚に近いところがあるというか。 野崎:インターネット・ミームの感覚は正にそうですね。TumblrとかPinterest。4chanのノリというか。制作が終わってから後追いで知ったんですが、Liminal Spaceやアネモイアといった概念も自分のやりたい表現にピッタリ当てはまっていて。存在しないノスタルジーを追いかける感覚なんでしょうか、完成後にそういったムーブメントをチェックして、「自分がWe Are Aliveでやりたかったことって、これだな」と思いましたね。 ――答えにくい質問かもしれませんが、「ネットラップ」的シーンから足を伸ばして以降の活動や、その中での葛藤・新たな発見・心境やムードの変化などはあったんでしょうか。 野崎:うーん…そうですね、ニコラップの規模感に限界を感じてしまった、というのはあるかもしれません。なので「一歩離れてやってみよう」と決めたものの…やっぱりそこがホームだったので、そこから離れたことで家なき子状態になってしまいました。自分はオタクと自称できるほどディープなオタクでもなく「インターネット人間」といった感じなので、ネットにもリアルにも居場所が無くなった感じでしたね。「どこで表現していけばいいのかな?」と一時的が悩んでたんですけど、OMSB君のフックアップや電波少女との繋がりが、僕を繋ぎ止めてくれた糸ですね。 ――同じスタンスや出自で今のようなスタイルの表現を続けていること自体、他にほとんど類を見ない感じですよね。”異端児”としばしば評されるように、孤軍奮闘を続けられているように見えます。 野崎:異端児というのも、自分から言い始めたわけじゃないので小っ恥ずかしい感じですが…(笑)。本来、日本語ラップの本流に馴染めなかったはみ出しものが集まっていたネットラップのシーンから、更にはみ出してしまったのが僕なので。ただ、自分がやっているような表現こそ、本当の意味で「インターネットのラップミュージック」なんじゃないかな?とは思っています。 ――正にそう思います「サブカル系」という言葉のニュアンスが変質していった感じと近いですよね。前作『Love Sweet Dream LP』では、やはりそういった疑問をぶつける意識があったんでしょうか。 野崎:そうですね。だからこそ、前作でネガティブな表現はやり尽くした感じもあって。暗い感情を出し切ったから、今新しいムードに前向きになれた、というのはあるかもしれないです。一回振り切れたことで、卑屈さを出さずとも自然と自分の強みや魅力が出せるな、と。今までは何もかもすべてさらけ出すような表現一辺倒だったんですけど、「何でもかんでも言っちゃうのが必ずしも良いというわけじゃないな」…と。だから「野崎りこん」は、そういう意味ではもう既に成仏してるのかもしれないですね(笑)。 ――旧作のタイトルはゲームの「LSD」の引用だったり、いわゆる「Y2K」的な物事にいち早く反応していたようにも思われます。「時代が追いついてきた」ような形になりましたが、そういったゼロ年代文化リバイバルというトレンドにはどのような感情を抱きましたか? 野崎:単純に嬉しかったですね。自分がずっと好きな時代が90年代の後半からゼロ年代にかけてだったので、それらが再評価される流れが来たのは。それに、今まで全く通じなかった作品の話がドンドン出来るようになったのも嬉しくて。どんどん好きなものをシェアできるようになりましたね。「serial experiments lain」なんかの話も、一昔前だったらまず通用しなかったですよね。もはやインターネット的カルチャーの象徴的存在になっていってるのは新鮮な感覚です。 ――ゼロ年代リバイバルとインターネットの新たな盛り上がりは、人々が内に籠るようになった2020年代ならではの流れと密接に関係していると考えているんですが、コロナ禍以降ご自身の中でどんな変化が生まれましたか? 野崎:脱・ネガティブ以外で言うと、むしろ良いインプット期間としてマイペースにゆっくり過ごせましたね。世間は目まぐるしく変わっていたかもしれないですが、自分の周りはむしろ停滞していったような印象です。ラップシーンの流れも緩やかになったので、逆に好きなことをしっかり掘り下げる時間が作れました。あと、VTuberにハマって…(笑)。 ――VTuberは新しいカルチャーですよね。僕は最初期に少し追いかけていた程度でしたが、最近サロメお嬢様(壱百満天原サロメ)にまんまとドハマりしちゃいました…。可処分時間がドンドン奪われるコンテンツでもありますよね。 野崎:お嬢様、良いですよね〜!逆に僕はVTuberのおかげでパンデミック以降の精神的ダメージを受けなかったんじゃないかなとは思ってます。最初は宝鐘マリンとか兎田ぺこらとか、ホロライブ周辺のVにハマっていたんですが、だんだんスキャンダルなどでドロドロした感じになったのがしんどくて、一回観れなくなり…。その後、月ノ美兎の過去動画を経てにじさんじ周辺をチェックするようになりましたね。周央サンゴのスペイン村のやつとか、最高でした。人によって色んな楽しみ方があると思うんですが、僕は深夜ラジオ文化っぽいなと思って見ていて。 ――なるほど。たしかに言われてみると、ゼロ年代の声優ラジオカルチャーに近い雰囲気があるように思えます。めちゃくちゃ納得しました…。 野崎:正に声優ラジオノリですよね。癒やしとして楽しめる感じがありがたいですね…。 ――あくまでもキャラクターのロールプレイとして配信をするアカウントや、「中の人」感をあえて前面に出すようなアカウントもあって、一枚岩じゃないことはニコラップ期の表現とも重なりますよね。 野崎:ホロライブがちょっと生々しさが出てしまったりはしましたけど、基本的にそういった要素をカットしてうっすらとした繋がりを与えてくれる、というのが良いですね。 ――すみません、脱線してしまいましたが…こういうコンテンツも後年”20年代カルチャー”として総括されそうな気がします。100 gecsの引用も作品に見られましたが、いわゆるhyperpop以降のムーブメントはどのように見ていますか? 野崎:エモとかオルタナティブロックが再び盛り上がっている流れには注目していますね。Apple MusicのStation機能で知らない音楽をドンドン聴いていってた中で見つけたSoccer Mommyとか、 CVN:横から失礼します。野崎さんから反応いただいたAVYSSのコンテンツの中に、「これに反応してくれるんだ」と思えるものも多くて。韓国のAsian GlowやParannoulの周辺は5th wave emoと言われているんですが、「リリィ・シュシュのすべて」にインスパイアされた作品が生まれたりと、野崎さんの世界観とも呼応するような感覚はあるんでしょうか。 野崎:新しいものを模索する中ではAVYSSのキュレーションもチェックしてます。新作の中だと「GTA’s Easter Eggs and Some Nostalgia」にはリリィ・シュシュのイメージを込めていて。これもParannoulなど、海外のアーティストの斬新な解釈に感化されてのことですね。やっぱり、ゼロ年代カルチャーを参照する人が僕以外に増えたのは嬉しいな…と。 ――hyperpopというジャンルが登場し、即座にクリシェ化してしまったように消費サイクルのスピードが際限なく加速してしまっている現状がありますが、そこに思うことは? 野崎:うーん…例えるなら「大縄跳びに入れない」って感じですね…(笑)。Hyperpop自体には共感してましたけど、自分のペースを崩さずに合流することができず。今はもう下火になってしまいましたよね…。あとは、安易に取り入れてもEPの世界観が崩れるな、と思って。消費サイクルの速さ自体には必ず面白いものが生まれるので肯定的には捉えていますが、自分はスローペースなのでそこに引っ張られないようにしています。 ――ライブや次作の構想などは既にあるんでしょうか。 野崎:新作には以前よりハイペースに取り組むつもりです。今回のEPでは「ラップ」があまりやり切れなかったので、次はそこに照準を合わせていって、HIPHOPとしての強度が高いものを作りたいです。 ――ちなみに、今後もし共演できるとしたら、どんなアーティストに声をかけたいですか? 野崎:めちゃくちゃ理想…というか夢みたいなことを言えば、米津玄師、Mura
2024/07/10
現代をタフに生きる苦悩と美しさ コロナ禍を乗り越え、都市生活者のリアルな声を届けるラッパー野崎りこんによる新しいEP。現代をタフに生きる苦悩と美しさを描いたライフタイムミュージック。 目まぐるしく移り変わるシーンを横目に自分らしさを貫く野崎りこん。「群像劇」をコンセプトに、コロナ禍を乗り越えた後も続く生きづらさや過酷な状況に直面する都市生活者たちの日々の葛藤を丁寧な視線で描き出した本作は、現代を生きる私たちに寄り添うライフタイムミュージック。このEPを通じて混沌の中で懸命に生きる人々のリアルな声を届ける。 「群像」には時代をタフに生きることの苦悩や美しさが詰まっており、その複雑な感情や煮詰まった状況に対する鋭い観察眼とリリックが、リスナーに深い共感とインスピレーションを与える。彼自身のユニークな視点と音楽性を最大限に活かしたコンセプチュアルな作品。 ゲストアーティストにはJinmenusagiことLEEYVNG、新世代ネットミュージックのクリエイターTelematic Visions、lIlI、toulavi、nyamura。オールドネットラップファンには嬉しい元・電波少女メンバーのFUNKY鬚HANKが参加。マスタリングは塩田浩、ミックスは□□□の三浦康嗣が全曲担当し。発売日にはMVも公開予定。 CD版がリリースも決定しており、本日7月10日からレーベル公式通販による本人直筆サイン入り限定CDの予約も始まっている。 [サイン入りCD] 野崎りこん – 群像 (+特典ステッカー) https://thanksgiving.thebase.in/items/88175615 野崎りこん – 群像 Label : Ourlanguage / SPACE SHOWER MUSIC Release date : August 21 2024 Format : CD / Digital Tracklist 1. 手 (Prod. by Eva Half) 2. 予感 (Prod. by Telematic Visions) 3. Over Night feat. lIlI (Prod. by LEEYVNG) 4. 運命論 (Prod. by ORKL) 5. n月 (Prod. by toulavi) 6. marble feat. FUNKY鬚HANK (Prod. by Saint Mike
レーベル第一弾作品は後日発表
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受け手の自由に寄り添う作品
2022年の夏の始めごろ、野崎りこんは「終わらない夏」をテーマにした3年ぶりの新作『We Are Alive EP』を発表した。当時のインタビュー(https://avyss-magazine.com/2022/07/08/36667/)で溌剌と語られたのは、それまでの自身のモードを一新しつつ、目まぐるしく移り変わるシーンとは関係なく自分だけができるラップを突き詰めよう、という前向きな意志だった。
しかし、その後ふたたび野崎りこんは沈黙し、際限なく加速を続けるインターネット上の消費サイクルや変化からは距離を置いた。そして(オフライン・モードという意味での)隠遁生活を送っていた野崎りこんは、2024年の夏の終わりごろに2年ぶりの新作EP『群像』のリリースとともにカムバックを果たした。
あくまでも自身の速度やスタイルを失わず、オンライン上にもオフライン上にも偏らない座標で孤を貫き続ける”異端児”ラッパーに、AVYSSは2年ぶりのインタビューを敢行した。
Interview&Text:NordOst
──ちょうど2年ぶりぐらいのインタビューになりますね。その後いかがでしたか? 2022年から2024年の間、トレンドはものすごいスピードで変化していきましたし、社会的な変化や事件がいくつも発生しました。その間「野崎りこん」としてどう過ごしていたかから、まず伺えればと思います。
野崎りこん(以下、野崎):実は去年の春頃から鬱病になってしまいまして。それでしばらく音楽を聴いたり、やったりすることができなくなってしまって、音楽シーン自体から遠ざかっていたところはありますね。変化みたいなことには、ちょっと疎くなってしまったかも。
──僕にも経験があります。とても大変だったかと思います。では、どちらかといえば自分と向き合う期間としてこの2年を過ごしていたという。
野崎:そうかもしれないですね。
──パンデミックも抜けてもう少し社会も明るくなるのかな、と思いきや震災や戦争で時代の空気もダークな感じになっている懸念もありますが、この不穏さと野崎さんの表現の主柱になっている90年代後半~ゼロ年代前半の薄暗さにはちょっと重なるところもある気がします。
野崎:たしかにそうですね。社会的なあれこれも、ただただ見ててしんどいなと思っていて。具体的にどれがというよりは、世界のムード自体がしんどい状況が続いてて、もしかするとそれにも心が引っ張られていたのかも。
──インターネット的にも低浮上気味だったのかなと思いますが、今は復調に向かっている気配もあります。そうなったきっかけはなんだったんでしょうか?
野崎:しっかり休むことにしてから、少しずつ自分の時間を持てるようになったっていうのが大きかったと思います。以前は好きだったものにすら触れられなくなりはしたんですけど、歌詞だけはなんとか書けてたんですよ。制作途中で調子を崩してしまったんですが、『群像』だけは絶対に作り切ろう、と目標にしてて。結果的にこれを作ることが立ち直るきっかけになったのかもしれないです。
──そうして時間をかけて制作していったEPのなかには、制作年の異なる楽曲が入っているということですね。
野崎:最初の方に完成したのがテレマビ(Telematic Visions)さんがビートを提供してくれた「予感」や髭さん(FUNKY鬚HANK)を客演に迎えた「Marble」だったと思います。最後に作ったのが、nyamuraさんをフィーチャリングした「天国はまだ遠く」ですかね。あとはだいたい時系列順で出来上がっていきました。
──『群像』は新旧さまざまシーンからゲストが入り交じっている点も特徴的ですが、こうしたメンバーを起用した理由が気になるところです。
野崎:元・電波少女のFUNKY鬚HANKさんを「Marble」でお誘いしたのは、ビートを聴いたときに髭さんの声が自然と聴こえてきたような感覚があったからで。ずっと昔から一緒になにかやりたいとは思い続けてたので、今回本当に久しぶりに連絡を取ってお願いしました。テレマビさんやtoulaviさんに関してはもともとファンというか、ずっと聞いてて。前作の時点からお願いしたいなとは思ってて、念願叶い今回お願いしました。nyamuraさんは、「7月、天使との邂逅とその記録」という彼女の曲のリリックにかなり衝撃を受けた覚えがあって、今回のEPにも通ずるところを感じてオファーさせていただきました。
──3曲目の「Over Night feat. lIlI」には客演にlIlIさんを迎え、プロデュースにはJinmenusagiさんの別名義LEEYVNGがクレジットされています。
野崎:あれは2015年ぐらいからあったビートなんですよね。Jinmenusagiさんの『ジメサギ』というアルバムの初回特典に入ってたインストで、今回それをちょっと使わせていただけないですか、とお願いしたら快諾してもらって。ある種ルーツに立ち返ったようなところがあるかもしれないです。lIlIさんは、僕がライブに誘ってもらったことがあって、その時期から交流が始まっていった中でオファーをさせていただきました。
──「天国はまだ遠く」にはnyamuraさんのポエトリー・リーディングが入っていたりして幻想的な雰囲気もありつつ、リリックでは野崎さん自身の切実な心情が吐露されたりしていて。そうしたコントラストも踏まえた人選だったんでしょうか。
野崎:おっしゃる通りですね。この曲は主人公を自分にしようって決めてたので、どうしても重くはなるじゃないですか。そこを、nyamuraさんのリアルでも幻想的でもポップでもあるスタイルでより物語的にしてもらえたら、とお願いしました。
──リリックに「庵野秀明」っていう引用があったと思うんですけど、まさに庵野秀明的なディレクションを感じた、というか。代表作の『Air/まごころを、君に』では実写の生々しい表現にトライしたり、自身への攻撃的なメッセージもすべて引っくるめて自己をさらけ出す表現にまで踏み切ったりしていたと思いますが、本作にもそういった踏み込んでいく姿勢が見られたと思います。タイトル通り群像劇的ですし。
野崎:そうですね、庵野秀明にはやっぱり影響を受けてますし。それで言うと、『We Are Alive EP』では統一感をもって制作を進めてたのに対し、『群像』はバランス感は無視して、生まれたものをそのまま並べた感じのEPなんですよね。ある意味では一番剥き出しの野崎りこんっぽい表現に無意識的になっていったような感じもします。
──であると、青少年期に目にした原風景的な描写が多くて、しかもさまざまな視点が交差している、というのも、むしろこれまでのディスコグラフィに立ち返ったような感じもします。
野崎:その通りですね(笑)。たとえばM2.「予感」の主人公がM4.「運命論」の2ヴァース目で再登場したりとか。
──前作『We Are Alive EP』では冴島さなぎという架空の存在が存在感を放っていたのに対し、今作『群像』ではあくまでもオムニバスな作品に仕上げられていると。
野崎:何曲かを横断するようにいろんな人の視点が交差しつつ、最後の「天国はまだ遠く」だけは100%自分の視点で歌った、という感じです。
──たとえるなら『世にも奇妙な物語』のタモリがストーリーテラーの役割を果たしつつ、最後は自身もなにかに巻き込まれてしまう、という定番の流れのような構造がある、というか。そうした作品の狙いはやはり全編通して聴くことで初めて気づけたりもするので、それもいまの潮流とは異なる取り組みかも、と感じます。
野崎:自分もNordOstさんもそうだと思うんですけど、やっぱり年代的にアルバムとかを通して聴いてきたので、自作もしっかり塊として受け止めてほしいなという狙いがあって。沈んでいた時期の自分から出てきたものを剥き出しで表現しつつ、流れやまとまりはちょっと意識しました。
──アートワークの写真はquoposkさんという方によるものですが、これも話し合ったりして決めたものなんでしょうか。
野崎:それはもうこちらで勝手に。もともとquoposkさんがツイッターに上げている写真とかのファンで、とくにいいなと思うものをピックアップしてて、それを「今回使わせてもらえませんか」と伺ったところ快諾いただきました。
──quoposkさんの写真の、どういうところに惹かれましたか?
野崎:静けさですかね。街や学校とか、人が集まるところが切り取られているけど、そこには人がいなくて。その静けさに安心感みたいなものを覚えました。
──ある種の「静謐さ」みたいなものも本作のキーになっていそうですね。人の不在に寂しさとともに安らぎを覚える、というのはどのような人にも覚えがある体験かなと思います。ちなみに、音楽に限らず、今回支えてくれた人はほかにいらっしゃいましたか?
野崎:音楽的なところでは、今回新しくミックスを□□□(クチロロ)の三浦康嗣さんにお願いしたんですけど、ものすごく自分の声の特性とかを汲んでもらえて今まで以上の聴こえ方になりましたね。何パターンも提案してもらったなかで自分の声質の特性も伝えてもらって、たとえば低い中に高い音も混じっていて倍音的な鳴り方をする、とか。
──マスタリングも塩田浩 (SALT FIELD MASTERING)さんにお願いされていて、ハイファイでクリアじゃないけど今までとちょっと違う、ローファイなのにリッチな質感になっているような気がしました。そういうことも、この作品を年代やトレンド、ムードから切り離して独立させている要素なのかも、と。
野崎:たしかにそれは大きいかもしれないです。ネットラップという、言ってしまえば初期衝動的な音楽をサウンドデザイン的なところではリッチに仕上げる、というのはそんなにない試みかなと思うので。
──自分の魅力を自分の知らない知識で解析されると面白いですよね。それはある種の批評行為を受け止める、ということでもありますし。
野崎:面白いですね。それに、どういう形でも自分の作ったものを誰かが聞いてくれるってことで初めて成り立つんだな、という感じのことも改めて認識できました。
──本作のなかで野崎さんがとくに気に入っているトラックはどの曲になりますか?
野崎:4曲目の「運命論 (Prod. by ORKL)」ですかね。前作からお願いしているORKLさんのビートの質感だったり、思春期のドロドロした感情を込めたリリックだったり。
──ビートの質感も現行のアンダーグラウンドの流れとは異なっていて、逆説的にオルタナティヴを感じさせる作風に感じました。
野崎:ORKLさんには前作から関わってもらっていて、「ルックバックFreestyle」では実はサンプルを指定して、マイナーなアニソンの一部を使ってもらったりしています。
──今回で言うとなにかORKLさんに特別な発注はされたんでしょうか。
野崎:サンプルソースなどの指定はしてないんですけど、今回は風景画を送って「こういうイメージの曲を作りたい」とお願いしました。
──その風景画の作品名が気になります。有名な絵画なんでしょうか?
野崎:いえ、Pixivにあった『雪が降ってきた』という2007年ごろの古い絵です。陸橋に雪が降りはじめた様子を描いたもので、薄暗いけど冷たくはないような雰囲気に惹かれました。一時期、Pixivとかで風景画を集めてたんですよ。そのなかで不思議と印象に残っていたのがこの作品で、そこから個人的な体験や空想などを膨らませてEPの構想に繋げていきました。
https://www.pixiv.net/artworks/248759
──なるほど! 美少女ゲームのシーケンス感もあって、朴訥としたいい絵ですね。ローファイな質感もこの頃のWebの絵という感じで。自分も日課のようにさまざまなイラストをPixivで漁ることがあるんですが、あれも歴史あるプラットフォームなので、インターネット的なトレンドやタイム感が作品の年代ともリンクしているような気がしていて。とくに、ゼロ年代ごろのサービス初期に投稿されたものは、まだSNS的な価値観と接続されていないからか、作家ごとのプリミティブな美意識や素直な飾らない表現の形が冷凍保存されているようにも思えます。
野崎:スクリーンウィンドウやキャラクターの代わりに自分のリリックや楽曲の登場人物が乗ってくるようなイメージですね(笑)。群像劇がコンセプトっていうのと、現代に暮らす人たちの葛藤っていうのが全体的なテーマにあって、たとえば疲れて家に帰ってるとき、ふと見上げたら映るような景色という感じで。
──この絵をリファレンスとして指定する、という動き方ひとつとっても、時代のトレンドや消費サイクルに迎合するわけでもなく、遠ざかるわけでもない、シンプルにご自身のルーツに立ち返って作品のコアの部分に肉付けをしていったような雰囲気を感じます。
野崎:そうですね。あと、中学生のころに読んでた『BLOODLINK』(2001、山下卓)というライトノベルがあるんですけど、それも風景描写が冬っぽい感じで、ずっと頭に残ってて。それと、『テイルズ オブ レジェンディア』(2005、NAMCO)ってゲームの「蛍火」という挿入歌も冬の情景描写が素敵で。夏の終わりにリリースした作品ではあるんですが、冬の空気感みたいなものが着想源になってます。
──『雪が降ってきた』、『BLOODLINK』、そして『テイルズ オブ レジェンディア』が最新作『群像』を構成する核の一部という。HACCANさんという絵師の挿絵もすごくいい質感ですね。ぎりぎりリバイバルの対象になってない年代の画風というか。コロナ前夜ごろからゼロ年代リバイバルがメインストリーム化するぐらい加熱していきましたが、野崎さん的にはやはり2010年代にギリギリいかない時期の創作物が印象に残ってるんでしょうか?
野崎:そうかも。一番多感な時期だったというか、だいたい18歳ごろのことだったので。
──逆に最近は自分たちの好きな質感のものが氾濫しすぎていて、逆に不安になるような状況が続いてますよね。『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』の平成版みたいな状況に陥りつつあるような気さえしますが、そういった流れについてはどう受け止めていますか?
野崎:自分もかなり今の作品より昔の作品を掘り返すようなことが増えてしまって。精神的に難しい状況だったのもあったんですが、気づいたらあんなに憎悪していた”懐古厨”に自分がなりつつあるような……(笑)。
──音楽的にはどうですか? やはりゼロ年代~10年代ごろの作品を振り返ってみたりしたんでしょうか。
野崎:GARNET CROWの1stアルバムや2ndアルバムが中学生ぐらいのころすごく好きで、改めて聴き返してみたことがリファレンスになってるかもしれないです。あとはLOVE PSYCHEDELICOとかも。ポップスだけどオルタナティヴなバンドサウンドでもあるような感じのものですね。
──じゃあ、それを自分の”ネットラップ以降のヒップホップ”というスタイルに落とし込んだような感覚なんでしょうか。TSUTAYAのあの匂いがフラッシュバックするような気配もして、聴いていると同時代をともにした人に共通するちょっと変わったノスタルジアも感じられる気がします。逆に、より近い電子音楽やヒップホップなどは聴いたりしていましたか?
野崎:自分のやっていることに近いものだと、ROOODIMENTSというグループの「Snooze Night」って曲をめちゃくちゃ聴いてました。これは2年前とかに出たトラックなんですけど、トラップでもブーンバップでもなく、どちらかというとダブに近くてちょっと懐かしさもあるような不思議な質感で、今回のEPで目指したい方向と近かったです。
──たしかに、今作は客演こそフレッシュな面々が目立つもののトラップでもブーンバップでもなく、いわゆる”ハイパー”とも距離がある独特なバランスで成立していますよね。いい意味で時代性を消去しにかかっているような。
野崎:時代が云々というよりは”野崎りこんっぽさ”を煮詰めていったようなイメージですかね。古い新しいとかっていう軸ではないところで自分は自分なんです、と提示するような感覚で。
──「野崎りこん」としての出発点はネットラップではあるけど、そこでも異端児とされた、というバランス感が出てるのかなと。やはり重要なシーンでしたか?
野崎:そうですね、ネットラップは大きいです。前のインタビューだとニコラップ以降の流れにちょっと限界を感じてしまって一旦離れたと話してたと思うんですけど、やっぱりルーツとしては大きくて。自然にそのままの自分を出すと、ああなるのかな。自分と向き合う時間が増えてやっぱりそういう結論に至りましたね。
──2年ぐらいかけて『群像』を作り込むなかでいろんなことがあったと思うんですけど、印象的なエピソードは挙げられますか?
野崎:自分と向き合うのはともかく手癖で作らないよう気をつけてはいましたね。今回新しい試みとして、きだはしやっていう長年の友人でもあるラッパーにマニピュレーターだけでなくメンターもお願いしたんですよ。
──プロデューサーではなくメンター! 面白い試みです。
野崎:たとえば歌詞が数パターン思い浮かんでるときとか、自分の中ではどれでいくか7割ぐらいは決まってるんですけど、最後の一押しが欲しいなっていうときに思いついてるパターンを全部送ってどれがいいと思うか聞いてみるとか。そうすると「やっぱそれだよね」と同じ解答が返ってきたり、アドバイスをもらえたり。かなり助けられました。
──DIY規模で活動しているアーティストは、作品の良し悪しをすべて自分で決めていくじゃないですか。その声を他者に求めたっていうのは、復調のきっかけにもなった大きな変化なのでは? と思います。
野崎:そうかもしれないです。でも、やっぱり信頼できる人じゃないとっていうのもあって、長年の付き合いのあるきだはしや君にお願いしたって感じです。セラピー的でしたね、かなり。
──ChatGPTでは絶対にできないことですよね(笑)。自分も経験があるのですが、一度鬱状態に転落してからまた動きはじめるまでの間で一番大変なのって、最初の一歩目じゃないですか。坂道を自転車で進むときのペダルの重さと同じで、並大抵のことではなかったと思います。そういう動きを支えてくれる存在として、メンターのきだはしやさんには助けられたのかなと。
野崎:本当にそうですね。面白かったのが、(制作上での)意見がほとんど割れなかったんですよ。「ああ、僕は間違ってなかったんだな」って思えて本当に助かりました。他者とのつながりの大事さにも改めて気づけたというか、どんな関係性でもよくて、誰でもいいから信頼できる誰かと繋がることが一番結果的に自分を良くする方法なんだろうなっていう。なので閉じこもりつつも、閉じすぎない作品にできたかなと思います。今回に限らずなんですけど、なるべく間口を広げて誰も置いていかないような作品を作りたい、っていうのはずっとあります。あまり閉じた表現はしたくなくて。
──本作がどういう人に届いてほしいか、という自分の気持ちをあえて言葉にするなら、それはどのような人々に向けた、どんな表現になると思いますか?
野崎:どの曲が、とかはないんですけど、とにかく生きづらいと感じている人に聴いてほしいですね。みんな生きづらさを抱えていると思うので、そうなるたびに聴いて腑に落ちてもらえれば、と思ってます。受け手の自由に寄り添うような作品になれれば。
──『群像』の制作を経て、改めてフラットな状態に戻ってこれたような感覚もあると思います。ライブはまだ難しいのかもしれませんが、客演に前向きだったりと人と作っていく意欲は高そうですよね。作り終わった今、これからやっていきたいような表現などはありますか?
野崎:ライブはまだまだ出来ないなと思うんですが、客演や共作みたいなことは積極的にやっていきたいです。化学反応を起こしたいなっていう気持ちがあって、そうすると自分にとっても相手にとっても何かが生まれるのかなと。あと、今度はもう少しコンスタントにシングルとかを出していきたいなと考えてます。EPやアルバムを作ろうとすると、自分はどうしても時間をかけてしまうので。つらい世の中なんで、とにかく生き残っていければなと思うばかりです。音楽は続けていきたいし。
野崎りこん – 群像
Label : Ourlanguage / SPACE SHOWER MUSIC
Release date : August 21 2024
Format : CD / Digital
Tracklist
1. 手 (Prod. by Eva Half)
2. 予感 (Prod. by Telematic Visions)
3. Over Night feat. lIlI (Prod. by LEEYVNG)
4. 運命論 (Prod. by ORKL)
5. n月 (Prod. by toulavi)
6. marble feat. FUNKY鬚HANK (Prod. by Saint Mike & 80root)
7. 天国はまだ遠く feat. nyamura (Prod. by hiiro)
Written by 野崎りこん
Mixed by 三浦康嗣
Mastered by 塩田浩 (SALT FIELD MASTERING)
Cover photography: quoposk
SoundCloud発、中国ラップスター more