2023/05/24
失意の酒と涙に落ちぶれた司祭のハードボイルド告白録
彫刻家としても知られるラッパーのMeta Flowerが1stアルバム『The Priest』をリリース。LSBOYSからの脱退やメジャーでのリリースを経てリリースされる本作は、yahyelのメンバーとしても知られるMiru Shinodaをエグゼクティブ・プロデューサーに迎えておよそ約一年の時間をかけて制作。本作には他に、ビートメーカーのATSUKI、クラシックピアニストのTsukasa Shiraseが参加。PUNGOをはじめ、裸のラリーズ、腐っていくテレパシーズ(角谷美知夫)、パラダイス・ガラージ(豊田道倫)、ストラーダ、FLYINGRHYTHMSなどでの活動が知られるドラマーの久下恵生も参加している。レコーディングは、EVOELSTUDIOとTsubame Studioで敢行され、ミックスはAtsu Otaki、マスタリングはWax Alchemyがそれぞれ手がけた。
Meta Flowerの1stアルバム『The Priest』は、失意の酒と涙に落ちぶれた司祭のハードボイルドな告白録である。アウグスティヌスの『告白』が天上の神との対話や信仰に収斂していくものであったのに対して、Meta Flowerは徹底して地上にとどまりながら苦悩する。Meta Flowerは彼と交差する人間や人生の悲劇に向き合い、何度も打ち砕かれ、何度も立ち上がる。
近年のMeta Flowerの彫刻作品が、地下での爆発エネルギーを発泡ウレタンに受肉させ地上に引き上げるものであったとすれば、『ThePriest』は肉の苦しみ̶シモーヌ・ヴェイユ風にいえば「重力」と呼べるかもしれない̶を言葉と音響によって地上に屹立させようとする試みである。
「常日頃神を引き摺り降ろす仕事」と啖呵を切る「/////」でアルバムは幕を開ける。変調されたアーメンブレイクを導きの糸にしてブーンバップとベースミュージックの境界をぼやかしながら、Meta Flowerの寄る辺無き心境を投影した日没間際の荒野を疾走する。
続く「Home Sweet Home」ではTsukasa Shiraseの感傷的なピアノとAtsukiによる骨太のビートに寄りかかりながら自らの家族の崩壊を告白し、「Bye Bye Blackbird」ではレイドバックしたビートの上で亡き友に思いを馳せる。この二曲に通底するのは失われてしまったものを悼む喪の感情であるが、Meta Flowerは歯を食いしばりなんとか踏み止まろうとする。一転してアルバムの中間地点となる「FIGARO」では、Meta Flowerが直面したアートシーンの不条理を喜劇として描き出す。
アルバムのアンセムとなるのは、五曲目の「Extreme Love from Northern Tokyo」である。ここでMeta Flowerは人生を一枚の絵画に例えながら、彼が直面した苦しみや情景を噛み締めるように塗布し、その中から一握りの美しさをなんとか抽出しようと試みる。アンドロジナスな質感を帯びたボーカルサンプルが天上からの声であるとするならば、そこに対置されるMeta Flowerのラップは肉の痛みを引き受け、それでも地上でもがこうとする。「生きているそうこの元に光をください」「I don’t wanna dieいっそ消してくれよ俺のMemories渇き」という一連のリリックが示すように、苦しみの渦中においてもあくまで地上にとどまりながら光を見出そうとすることが希求される。これはMetaFlowerの根源的な作家論でもありそれと表裏一体の人生論でもある。「Extreme Love from Northern Tokyo」とは、人生という絵画平面の中に肉の痛みや苦悩を塗りつけ、その中からなんとか一筋の美的なものを見出そうとする実践の宣言である。それは、Meta Flowerのアーティストとしての姿勢の表明なのだ。
そのバトンを引き継いで力強く歩みを進めるかのように「Adult Swim」においては金属の軋みにまで還元されたブーンバップのビートが容赦無く疾駆する。アルバムの大半を占めてきた喪の感情はここにおいて後景化し、現代社会批判が力強くスピットされる。
そしてアルバムは、ドラマーの久下恵生とスタジオで一発録りしたセッションを元に制作された「Rest Haven for Hoes」で終幕をむかえる。暴力という支配的なコミュニケーション手段に対して、詩や美術による表現が対置され、Meta Flowerは自分に言い聞かせるように「居場所あなたがここの」と繰り返す。ヒップホップのループがもつ円環的な時間構造とは異なるあり方で、セッションは静かに熱を帯びていき、オーバーダブされたローズやノイズが交錯しアルバムはやがて閉じられる。
『ThePriest』はヒップホップの鍵概念である「ストリート」を、Meta Flowerというひとりの語り部を通じて、地上での生の苦しみという普遍的な命題に解体した作品である。エグゼクティブ・プロデューサーのMiru Shinodaを筆頭に、久下恵生やTsukasa Shiraseなど、ヒップホップ外部のプレーヤーを迎えて制作された本作は、音響的にもヒップホップの境界線になんとかとどまりながら、あくまでその領野を押し広げようとしている。『The Priest』は異形でありながらも、日本語ラップの可能性を拡張しようとする正統派的なヒップホップ・アルバムである。
Meta Flower – The Priest
Release date : May 24 2023
Stream : https://linkco.re/8MhPAgA0
Tracklist
1, ///// prod. Miru Shinoda
2, Home Sweet Home prod & Mixing. ATSUKI / piano. Tsukasa Shirase
3, Bye Bye Blackbird prod. Miru Shinoda / Guitar & Bass. Miru Shinoda
4, FIGARO prod. Miru Shinoda
5, Extreme Love from Northern Tokyo prod. Miru Shinoda / piano. Tsukasa Shirase
6, Adult Swim prod. Miru Shinoda
7, Rest Haven for Hoes [session] drums. Yoshio Kuge / piano. Tsukasa Shirase prod. Miru Shinoda / Recording. Tsubame Studio
Recording & Mixing. Atsu Otaki / Mastering. Wax Alchemy
Design. Atsushi Yamanaka / Photo. Mumuko
-Disk only Bonus Track
8, Dawn of The Street prod & Mixing. ATSUKI / piano. Tsukasa Shirase chorus. Yuka Miyoshi, Mami Nishimoto,Fuko Mizuno, Yudai Sakai
category:NEWS
tags:Meta Flower
2024/01/30
日常性の中に恍惚や陶酔を宙吊りにしようとする 松永拓馬が2nd アルバム『Epoch』を2024年1月31日にリリースする。本作はyahyelのメンバーとしても知られるMiru Shinodaをプロデューサーに迎えて約一年半の時間をかけて制作。アルバムに登場する大部分の音は、アナログ・シンセサイザーによってゼロから作成され、リアルタイムでの操作に よって録音された。 epochの語源であるギリシャ語のepokhe(= エポケー)は「判断を保留し、一時停止すること、上(epi)に保持すること (ekhein)」を意味するが、『Epoch』はまさしく日常性の中に恍惚や陶酔を宙吊りにしようとする。それは日常であって非日常であり、現実であって夢であり、あるいはそれらのどれでもない。『Epoch』はそれら全ての中にあって宙吊りにされたものであって、それらを往還する松永拓馬の音響的な軌跡。ミックスはMiru ShinodaとAtsu Otaki、マスタリングはWax Alchemyがそれぞれ手がけた。アートワークはKenta Yamamotoが担当し、デザインはAtushi Yamanakaが手がけた。 松永拓馬 – Epoch Release date : Jan 31 2024 Stream : https://linkco.re/7ZGheQBx Tracklist 1. July 2. Oh No 3. u 4. 森 5. もっと 6. Boys Lost in Acid 7. Owari 8. いつかいま Written + Produced by Takuma Matsunaga & Miru Shinoda Mixed by Miru Shinoda(1-5,7,8) & Atsu Otaki(6) Vocal Recording by Atsu Otaki (EVOEL Studio) Mastered by Wax
2020/05/25
篠田ミル、Jan Urila Sasプロデュース 攻撃的かつ陰鬱なサウンドに、自己嫌悪と頽廃をモチーフにした詩世界を特徴とするRinsagaは、10代後半からラップで詞を書くことから音楽を始めたが、就職とともに音楽活動を停止。自己嫌悪の日々の中、2018年にJan Urila Sasと、 2019年にMiru Shinodaと出会い、Rinsagaとしての活動を開始したとのこと。 今回、RinsagaのデビューEP『輪』が、各種配信サイトにてリリース。Miru Shinoda(yahyel)と、Jan Urila Sas(jan and naomi)がプロデューサーを務める本作は、ノイジーで攻撃的な轟音、中毒性に満ちた幻覚的なサウンドによって、 インダストリアル、グランジ、ポストパンク、テクノ、ノイズ、トラップといったRinsagaのルーツやプロデューサーの個性が融合した作品となっている。 Rinsaga – “輪” Release date : May 29 2020 stream : https://linkco.re/dn8HmmDg Tracklist 1.窮奇 (Prod. Miru Shinoda) 2.突破 (Prod. Miru Shinoda) 3.快楽 (Prod. Miru Shinoda) 4.叛キ仔 (Prod. Miru Shinoda) 5.渾沌 (Prod.Jan Urila Sas)
2019/12/28
無限意識 中国拠点のSSW、Lexie Liuは、元々オーディション番組などで広い層に認知されていたが、〈88rising〉からリリースされたシングル「Like A Mercedes」で世界的に注目される存在に。さらに、現在「DAZED China」の映像部門を任されているYUEN HSIEHが手がけたサイバーパンクがテーマになったMVも話題になった。 今年2月にKILLYをゲストに迎えた『2030』(中国国内でリリースされたアルバムの『2029』の海外バージョン?)をリリース。シングルも今年は「Hat Trick」、「好吗,好啦,好吧」、先日の「MANTA」などリリースラッシュとなった。制作に1年半をかけたとされるニューアルバム『META EGO』は、Lexie Liuのなめらかなでドラマチックな旋律はそのままに、より奥行きが増した音の構造、細部まで美しい音の粒子が配置されている。
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5月25日 MORI.MICHI.DISCO.STAGE (遊園地エリア) more
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