DYGL interview

結成10年を迎えて共有されるバンドの現行ムード

 

 

ポップパンクやUSポップスなどの要素を取り入れ、オープンにピュアに自由に表現された前作『A Daze In A Haze』から約1年ぶり、初のセルフレコーディングで制作された4thアルバム『Thirst』についてDYGLのメンバー(諸事情により嘉本不在)に伺った。バンド結成から10年という節目を迎えても失われることのない探究心と情熱と連帯から生み出された『Thirst』は、DYGLにとって新たな出発地点となる。

 

photo by domu

 

– AVYSS Circleの出演ありがとうございました。と言ってももう2ヶ月以上は経ってるんですけど。

 

下中 – もうそんな経つんですね。

 

– THREEでライブするのは久々だったんじゃないですか?

 

秋山 – そうですね、何年ぶりだろ?ってレベルですね。そもそもコロナでやってなかったのもあって4年以上ぶり?

 

– 僕がTHREEでみんなのライブ観たのってCONDOMINIMUMとかかもです。

 

下中 – それ、めちゃくちゃ前すね(笑)

 

秋山 – あの時期よくTHREEでやってたよね。

 

– ライブの後はみんなどうしてたんですか?秋山くんとは不思議なメンバーでファミマの前で飲んでたね。

 

秋山 – ですね。食品まつりさん、Lil Soft Tennis君、uamiさんもいました。

 

下中 – 僕はしばらく残って、Ultrafogさんと久しぶりに話せてよかったです。

 

加地 – 誰観たとかは覚えてないんですけど、僕はSPREAD行ってました。その後に秋山達がいるとこにすれ違ってみたいな感じだったかな。

 

– 楽しんでもらえてたら良かったです。今日は4作目のアルバム『Thirst』のことを教えて欲しいなと思いまして、ひとまず率直にどんな作品になりました?

 

秋山 – 言葉で説明すると色々な言い方あると思うんですけど、「好きな音楽」が出来たなって感じです。自分達じゃなくて他のバンドが出しててもリスナーとして聴きたいと思うようなアルバムになったかなと。

 

加地 – これまでで一番インディである意味オルタナだなって感じますね。

 

下中 – 普段聴いてるものが直接反映された感覚は今までの作品よりも強いです。

 

– アルバムの制作期間に聴いていた音楽はどんなものだったんですか?

 

秋山 – 個人的にはAlex G、PinkPantheressはよく聴いてましたね。

 

加地 – 僕はSlow Pulp、Deb Never、Tirzah、Wednesdayかな。

 

下中 – 僕はDIIVの『Deceiver』ってアルバムだけ。

 

秋山 – だけ?(笑)

 

下中 – 最初のDIIVのエッセンスはあえて入れないようにしてて。『Deceiver』は少しシューゲイズぽくなってるんですよね。あとは加地くんと同じでSlow Pulp、あとAlex Gの新しいアルバムに入ってる「Runner」の出だしのギターの音。あの音がレコーディング中に聴いて衝撃的に良い音で楽しかったですね。それとあとJay Som、Bachelor (Jay SomとPalehoundのデュオ)、あとスロウコアのDusterとか、あと前作から引き続きでSoccer Mommyもめっちゃ聴いてた。

 

– DIIVだけじゃないやん。

 

秋山 –  今それぞれ挙げた作品はわりとみんなが共通して聴いてるアーティストが多いですね。その先を説明すると曲は最初に書いた人がリードしてディレクションする形になってるので、各々感じ方のベクトルは違う形でスタートしている感じです。

 

– それを全体としてまとめていくようなすり合わせはどうすんですか?

 

下中 – 言葉ですり合わせするよりは、、

 

加地 – フレーズごとかな?あとデモが何曲もある中で、どの曲を選ぶのかとかで全体のムードが決まっていく感じですかね。

 

秋山 -「 今回はこういうテーマだから、これに寄せていこう」って感じじゃなくて、一個一個の細かい作業をみんなで進めていく中で一つのムードを形成していく感じです。

 

加地 – ライブやってても、サードの中でもこの曲気分だよねって話がちょくちょく出たりとかして、自分達の曲からも少なからず影響受けてるような感じもします。

 

– 制作期間に限らず普段からメンバー間でムードの共有がされてるってことですね。

 

秋山 – 個人的にアルバム作り出す前に思ってたのは新しい時代におけるミクスチャーがやりたいって思ってて。メタルとラップを掛け合わせる当時のものではなく、例えばKing Kruleがジャズとヒップホップとインディロックを混ぜてて、Alex Gにもフォークとラップとインディがあってみたいに、自分達になりにそれができたらいいなとはなんとなく思ってました。

 

– ギターロックが戻ってきた印象も少なからずあります。

 

下中 – 俺はいつもギターの気分ですけどね。

 

秋山 – サードではそれまでのDYGLがやらなそうなこと、だけどリスナーとしては好きだよなってポップパンクやUSのポップスをあえて持ってきてて、そのときはそれも気分だったわけで。ファーストとセカンドを終えて、次どうしようってなってたときにサードで肩の荷が降りたというか、少しリラックスできていて、その上で改めて自然体で取り組んだら今回のアルバムのようになったって感じです。今思うと、サードはある種スピンオフ的作品でもあって、コロナ禍を経て一回立ち止まって面白いことやりたいなって取り組んだ作品で、今回の4作目が今後のムードにも良い影響を与えるような一枚目のアルバムになるかもしれないです。

 

 

– なるほど。今作で個人的にすごくフィットする部分があってですね、あの、えーっと、emoが、、

 

一同 – 爆笑

 

– エモを発見しまして。最後の曲とかまさに。

 

秋山 – そこ突っ込んでもらえるのは嬉しいです(笑)

 

– 「Phosphorescent / Never Wait」は、作曲した秋山くんがそういうのを聴いてたってことなの?

 

秋山 – これまでもインディの枠の中から偶然観測されるエモ寄りのバンドを聴いたりとかはあったんですが。今回Under My Skinという曲のビデオを撮ってくれたkohepiっていう沖縄の友人がいて、彼の影響はけっこう大きくて。インディロックとは違う枠組みで音楽の話をできる人と過ごせたのは良かったですね。その流れから改めてエモを意識するようになって、Ykiki Beatをやってた頃に知人にもらったCap’n JazzのCDを思い出して聴き直したらめっちゃ気分と合致して。でも、定期的にみんなの中で(エモの)話することあるよね?

 

下中 – 音楽的に直接繋がりないけど、エモとの親和性があるインディ/オルタナが好きだったから違和感ないけど、個人的にその部分をこのアルバムで出そうって感じではなかったですね。

 

– 個人的にミッドウェストエモは自分の帰るところの一つだったりするし、AVYSS CircleでDYGLと同じステージに出演したバンドの中に(ミッドウェストエモの影響を受けている)FUJIもいたり、新しい文脈の中にもその芽がありつつ、繋がりを感じられて嬉しかったです。

 

秋山 – それでいうと、このアルバムの制作期間中かその少し前に、横浜にANORAK!ってバンドのライブを観に行って、それがめちゃくちゃ良くて。彼らもいろんな音楽を聴いてるし、エモで括るのも違うかもですが、そこで得た感覚も影響としてあるのかなって。

 

– あと歌詞の内容は変化してきていますか?

 

秋山 – Ykiki Beatも入れたら5枚アルバムを作ってて、英語で歌詞書くことは今でも探りながらやってる状態ではあるんですけど、制作を重ねていく度にどうやったら自分の言葉になるのか、技術面で余裕が出来てきたのもあって、その分だけ自分の感情や心をもっと表現できるようになってきたかなってのは今回特に感じましたね。

 

– 今作の歌詞で印象に残ってる曲はあります?

 

秋山 – けっこう気に入ってる曲は多いんですが、「Loaded Gun」とかナラティブな感じ、余白を残しながら自分が感じてきた孤独やヒリヒリした感情を絵を描くみたいに書けたと思います。曲中に救いはないんですけど、だからこそそんな気分に寄り添えるかなと。「The Philosophy of the Earth」は全く逆で、完全に肯定的です。こういう極端にネガティブだったり、またはその逆だったり、そういうのはあまり書いたことなくて。これまでは全体を見て、どっちもある、みたいな感覚の曲が多かったので、その2曲はかなり印象にあります。

 

 

– 今回は初セルフレコーディングだったんですよね。

 

秋山 – そうですね、エンジニアもいなくて、自分たちでアンプにマイク立てて、Logicに音入れて、最終的にミックスの半分とマスタリング以降はStephanie Lozaさんにお願いしました。Warehouse Tracksの山口さん経由で、エンジニアはいないけど場所として貸してくれるっていうスタジオを紹介してもらえたのが発端ですね。レンタルもしつつ機材は基本自分たちで揃えて、あとは実験しながら作業してって流れです。

 

– 苦労したんじゃないですか?

 

加地 – 苦労したことしかないですね。スケジュールの進行も際限がないので、そのコントロールをどうやってすればいいんだろうとか。あとライン録音ってある程度のクオリティが宅録とかでも出来るんですけど、マイク録りってほんとに知識がいるんだなって感じました。

 

下中 – すごくベーシックを貫いてやってて、それでも良い音は録れたので、トライ&エラーで進めたのは良い経験になったし、楽しかったし、新しいスタート地点に立てた感覚はありました。個人的に大変だったのはデータのやりとりで、それも初めてだったのでファイル形式間違えないようにとか、始まりと終わりフェードかけてって、色々とそっちに時間かかっちゃうのがなんか切なくて。

 

秋山 – 今日はスタジオに誰がいて誰がいないとかも違うから、どのデータが最新なのかがわかんなくなっちゃったりして、だからほとんど同じプロジェクトなのに念の為にバックアップとったりして、今回のレコーディングで溜まったファイル見たら2TBぐらいいきそうになってました。データ管理はほんと難しかった。

 

下中 – 良い方法知ってる人いたら教えて欲しいです。まぁエンジニアさんつけるのが一番早いけど(笑)

 

 

– クレジット見たら、かなり細かい分担作業になってますね。

 

秋山 – それこそギターで言ったら「Road」「I Wish I Could Feel」「Your Life」「Dazzling」は、僕は全く弾いてないし、あとミックスエンジニアはつけたってさっき言ったんですけど、僕らがレコーディング期間を延長しすぎたせいで、ミックスエンジニアのスケジュール的に全部お任せできなくなってきて、各メンバー自身でもかなりの曲数をミックスしました。

 

– 楽器を使用する生演奏についてもですが、ロックバンドというフォーマットを続けてることに対して聞きたいけど、この質問はすごく聞かれてるかも。。

 

下中 – それ欠かさず聞かれるなぁ。インタビューだけじゃなくて、音楽好きな人と話してても聞かれますね。まぁなんていうか演奏してて、お互いが変わってきてるのを感じるんですよね。スタジオ入ってるとそれがすごい速さで伝わってくる。この人こんなフレーズ弾いたっけ?こんな音出してたっけ?とか、お互いへの刺激が年々増えていってマンネリしない、個々が探究心を持ってるんで、そういうところはバンドの醍醐味かなって思います。僕は楽器抜きで音源のやりとりだけで音楽を作っていくのは出来ないし、直接的で速いコミュニケーションはバンドでしかなかなかできないかなと。

 

秋山 -「ロックがヒップホップに取って代わられている現状について」の質問が他のインタビューとかでもありますね。それはジャンルとしての切り口で話したりするんですけど、今下中が言ったみたいに他人と演奏する(曲を作る)良さはありますよね。退屈しないですし、自分が思いつかないアイデアが出てくるのもいいし。ラッパーでもプロデューサーでも1人で音楽やってる人はフィーチャリングとかってその感覚と近い感じでもあると思うんですけど、バンドは楽器を使いながら同じ人の変化を見ていける、そしてその中で作品が生まれていくところはバンドにしかないものなのかもしれないですね。

 

加地 – やっぱりいろんなライブ観てても、生演奏っていうのが今でも好きだな思うし、それが自分のバンドを続けるモチベーションになってる気がします。

 

下中 – シンプルに演奏出来るのが楽しいし、しかも人と一緒にやるのはもっと楽しい。

 

– でも、さっき秋山くんが言ってた「ロックがヒップホップに取って代わられている現状について」ってロックとヒップホップのジャンルを対比する話題は個人的にもう古いと思うんです。

 

一同 – おお(笑)

 

秋山 – インタビュアーさん側から先にその質問を否定してきたのは初めてかもです(笑)自分はリスナーとしてポップスもロックもヒップホップも好きだし、自分の表現としてはロックの存在は絶対に一番大きいんですけど、何かの音楽を聴いて最高だなって気持ちなるときってロック以外のときも全然あるわけで、「ロック対ヒップホップ」みたいな単純な構造で考えること自体が古く感じちゃいますね。アウトプットがロックの人がヒップホップ入れたり、ヒップホップの人がロックを入れたり、そういう色んな切り口があるだろうけど、DYGLとしては楽器を使ってバンドとして面白い表現を続けていけたら、それが何と呼ばれてもいいかなって思います。

 

 

– 最後に、最後にもう一つ、トピックとしてDYGL結成して10年周年です。

 

秋山 – いよいよ僕らと佐久間さんの関係も10年に突入です。祝いましょう。

 

– 何を祝うの(笑) 10年は振り返るには時間がないんですが、こないだ札幌行ったときにTSKKAさん (ex-AAPS, ex-Cuz Me Pain)通して出会ったVOLZOIも10年代インディ(Captured Tracksとか)にインスパイアを受けたサウンドだったし、もちろんVOLZOIだけじゃないけど、肌感では10年代(インディ)をフレッシュに見つめ直せる感覚はもうあるし、それを踏まえてDYGLがアップデートを続ける作品を聴いてみると感慨深いものがあります。

 

秋山 – 10年…時期によって色々な変遷があって、課題も変わっていったし、でも今の音楽的にリラックスしたバンドの姿勢は、バンド結成当初の頃に近い感じでやれてて、かつ音楽性は当時よりもずっとアップデートしてるし、自分たちのやりたいことも出来ることも、向かいたい方向も見えてる。その時々では思えなかったことも、ちゃんと繋がってここまで来れてる感じがします。全てポジティブに捉えながらインタビューに答えられる日が来るなんて思えないぐらいのときもあったし、そもそも一つのバンドが10年も続いてることもびっくりですね。気持ちだけじゃなくて、生活のこととか、色んな理由で辞めないといけなくなるバンドもいるだろうし、それでも僕らは続けられてるってのは嬉しいですね。今は必要がなければ、わざわざ過去を振り返る暇もないぐらいずっと前向けてるから幸せです。

 

 

DYGL – Thirst

Label : Hard Enough

Format : CD / Digital

Release date : December 9th 2022

 

Tracklist

1. Your Life

2. Under My Skin *2022.11.16 wed 解禁

3. I Wish I Could Feel *2022.10.5 wed 解禁

4. Road

5. Sandalwood

6. Loaded Gun

7. Salvation

8. Dazzling

9. Euphoria

10. The Philosophy of the Earth

11. Phosphorescent / Never Wait

 

 

DYGL JAPAN TOUR

1/20 Fri 東京・O-EAST

1/21 Sat 京都・METRO

1/22 Sun 神戸・Varit

1/24 Tue 高松・TOONICE

1/25 Wed 岡山・EBISU YA PRO

1/27 Fri 広島・セカンドクラッチ

1/28 Sat 熊本・NAVARO

1/29 Sun 福岡・BEATSTATION

2/3 Fri 仙台・RENSA

2/5 Sun 札幌・SPiCE

2/9 Thu 名古屋・ELL

2/10 Fri 大阪・クアトロ

 

DYGL US TOUR in March

3/15 Wed SXSW in Austin, TX

3/16 Thu SXSW in Austin, TX

3/17 Fri SXSW in Austin, TX

3/18 Sat SXSW in Austin, TX

3/21 Tue The Coast in Fort Collins

3/22 Wed The DLC in Salt Lake City, UT

3/24 Fri Treefort Fest 2023 in Boise, ID

3/25 Sat Vera in Seattle, WA

3/27 Mon Polaris Hall in Portland, OR

3/29 Wed Cafe Du Nord in San Francisco, CA

3/30 Thu Wayfarer in Costa Mesa

3/31 Fri Lodge Room in Los Angeles, CA

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