2022/10/03
光
東方シリーズに由来する実況動画の定番「ゆっくりボイス」を歌わせ、無名のホームビデオのパッチワークをミュージックビデオと謳い、意味をなさない文章をTwitterに垂れ流し、”映える”わけでもない拾い画をInstagramに投下する……。2021年に登場した覆面アーティスト・耳中華が表現するのは、インターネット匿名文化の残滓をかき集めたような、ナンセンスなユーモアだ。
しかし、このアーティストは単なる”ネタ枠”に収まらない。作品を見聞きすると、コミカルだと思いきやシリアスな気分になるし、不条理なはずなのに納得させられている。それは、支離滅裂ながら奇妙な親しみを感じさせるリリックセンスと、たしかなメロディメイクの才によるものだろう。いつの間にか私たちの意識を正面突破するような、得体の知れぬ魅力が耳中華にはある。
今回、そんな謎に包まれた耳中華にコンタクトをとり、Discordでのチャットインタビューを敢行した──はたしてマトモな会話が成立するのか、不安で胃を痛めながら……。
text by namahoge
言葉、古い思い出、ユーミン、光
耳中華:はじめましてー
― はじめまして、本日はよろしくお願いします。先日のAVYSS Circleでのビデオ出演、お疲れさまでした。耳中華さんは現場には行かれましたか?
耳中華:いいえ、残念ながら行けませんでした。ありがとうございます。
― お住まいは東京ではないんですか?
耳中華:まあ色々です
― 耳中華さんのMVでは、何度か京急線の映像や発車音が使われていますよね。京急の沿線に住まわれているのかと思ったのですが。
耳中華:結構思い出があるんです
― ……それは突っ込んで聞いても大丈夫ですか?
(約5分の沈黙)
耳中華:いやー迷いました、今日は控えたいなと。
― プライベートな質問を失礼しました。
耳中華:他にもよかったら
― いいんですか(笑)。では年齢も聞いてもいいですか?活動し始めたのは2021年からですよね?
耳中華:平成の最初くらいに生まれましたね。去年からの活動です。
― 音楽を作り始めたきっかけはなんですか?
耳中華:一番正直な場所にいたいって思ったからかな
たぶん最初からそうです
― なるほど……。僕が耳中華さんを知ったのは、TwitterのTLに荒井由実の「ひこうき雲」のカバーが流れてきたことでした。それから昨年10月にはhallycoreさん主催のCICADAでライブデビューをされて。そして早くも二枚目のアルバムを出されるということで、かなり熱心に活動されていますよね。
耳中華:もう本当悩んでる暇もないんです。とにかく急いでる感じ。
気持ちが増えていったんでしょうね
とにかく早く伝えたい感じ。
増えた気持ちが歌うんです
― ??
耳中華:伝えるというか伝えちゃうというか
伝えちゃうの方が近いんですかね
― な、なるほど。伝えちゃう気持ちというものの輪郭が今日のインタビューで見えてくればいいなと思っています。
耳中華:色々聞いてみてもらえると。
― ありがとうございます。ちなみに僕が耳中華さんを知ったきっかけのユーミンについても伺いたいのですが。
耳中華:昔から聴いてます。
コンサートにも何度か行きました。素敵でした。
― 各SNSでも、耳中華さんが唯一フォローしているアカウントは必ずユーミン関連ですよね。徹底されているなと。
耳中華:やっぱり言葉ですよね
― 言葉。もう少し伺えますか?
耳中華:初めて考えましたが好きな言葉が多いからかなーと
― 何か具体的なリリックを挙げていただいてもいいですか?
(約3分の沈黙)
耳中華:選べなかったw
多いわ
― わかりました(笑)。でも、耳中華さんの言葉選びは非常にユニークですよね。
耳中華:ありがとうございます。
こだわってます。
― 言葉選びってどのようにされていますか? 「納豆」とか「金子」とか、なんでもアリだけどすごく身近なワードチョイスですよね。
耳中華:古い思い出から使わせてもらってます。
まだ泣いてた頃の自分を思い出します。
これ全部が語るんです
― 過去の自分が憑依してリリックを書いている、みたいな感覚ですか?
耳中華:言葉に景色を借りてくる感じです
― 景色に言葉を、ではなく、言葉に景色を、ですか?
耳中華:言葉がみんなに景色を貸す感じ?
― なるほど……? たとえばですが「損」に出てくる「ジュース飲む光」という言葉はどういう発想から生まれましたか?
耳中華:光もジュース飲めば笑うから
― w
耳中華:本当そんな感じです
― 「光」は耳中華さんの頻出ワードですよね。アルバムタイトルからして必ず「光」が入っている。
耳中華:はい
― 「光」へのこだわりについて教えていただけますか?
耳中華:こだわりというか理由になっちゃいますけど
いつまでも光ってる未来にいたいからですかね
― 光ってる未来、というと字面通り明るい未来、みたいなことですか?
耳中華:光っていっても色々あるから難しいですけど
それだけではないかな
それもあるし他にもある
― そうではない場合というのは?
耳中華:明るくて沈む未来です
― ふむ……
耳中華:でもやっぱ悲しみのない未来は絶対明るい
― 悲しみのない明るい未来を目指して歌詞を書いている?
耳中華:そういう風にしたいって思います。
本当思う
輝ける未来を絶対作りたい
― めちゃくちゃ強い意志。
耳中華:光は本当大事です
とにかく光が目立つ未来にいたい。
― 最近身の回りで「光」を感じる出来事はありましたか?
耳中華:光のおかげで『笑う光』を作れたので、これがまた誰かの光になるのかなと。これが長く続いていく光なのかなと
― 光……。
耳中華:そうです
ゆっくりボイス、ニコ生、MIDI、光
― 「ゆっくりボイス」を使う手法についても伺いたいです。まず、どうしてゆっくりボイスを使おうと思ったんですか?
耳中華:一番落ち着くんです。
本当暖かい声です。
表情がよく見えます。
泣きそうになるんです
― ある種、一番表情が見えないタイプの音声のようにも思えますが。
耳中華:生まれてから初めて聞いた日本語合成音声ですけど、それからずっと好きですね。
― 「ゆっくり実況」などはよく見るんですか?
耳中華:実況はあまり観てませんが、昔ニコニコ生放送で配信をしていたことがあるので、毎日のようにゆっくりで読み上げられるコメントを聞いてました。
本当青春です。
― そうだったんですか! 何の配信をしていたんですか?
耳中華:マインクラフトをやってました。
― 意外にもポップな。
耳中華:みんなと遊べて本当楽しかった。
― それからご自身の音楽に使おうと思ったのは、どういう経緯がありましたか?
耳中華:好きな声が歌ってくれるところを見てみたかったです
基本歌わせるときは一文字ずつファイルを取り込んでそれぞれ音程を変えてます。
― かなり手間をかけていらっしゃる……。さまざまボーカロイドの選択肢があるのに、「声が好き」の一点でその手間を惜しまないと。
耳中華:合成音声は何でも喋らせられるのが面白い
― 実際、大変ではないですか?
耳中華:面倒だったりするけど歌ってくれた時の感動は大きいです
僕の曲からゆっくりの声に興味を持ってくれる人もいて本当嬉しいです
― そうなんですか?
耳中華:友人にAlexander Panosという音楽家がいるんだけど、彼から「この声を出すソフトを教えてほしい」って言われて。
― え、Alexander Panos? 友達なんですか?
耳中華:僕もよく使っている「MYukkuriVoice」というソフトを教えました。使いやすいです。
数日後に彼から「MYukkuriVoice」を使ったデモ曲が送られてきて、本当嬉しかった。
― デモが送られてきた?
耳中華:インタビュー用に事前に許可を得ておいたので、前に彼が送ってくれたデモをどうぞー
https://drive.google.com/file/d/19D3i1PegEdwyyLABsQGciRTpcxAX6ZOa/view?usp=sharing
― 今聴きます!!
耳中華:ゆっくりは英語を読んでくれないので、書いた英詩を機械翻訳で日本語にしたと言ってました。
― 聞きました……すごい。。。。。。。。。
耳中華:この曲は本当素晴らしいですよね。素晴らしい音楽家で、影響を受けてます。
― いやあ、、びっくりです。。。。最近新譜も出ていましたけど、いつかゆっくりボイスの新作が出るかもしれない。
耳中華:本当素晴らしいです
― ちなみに「SofTalk」ではなく「MYukkuriVoice」なんですね。
耳中華:これが一番便利でした
ファイルをドラッグアンドドロップですぐ取り込めて。
― なるほど、便利なツールがあったんですね。
耳中華:開発者さんには本当感謝です。本当素晴らしいです。
― あと、ゆっくりボイスの表現について、僕の考えも言わせてください。
耳中華:はい
― そもそもゆっくりボイスって言語伝達のためのツールじゃないですか。任意の言葉を一意に発音させるっていう。たとえば「こんにちは」と言わせたければ1パターンの「こんにちは」しか出力されない。そこに振れ幅はありませんね。でも、耳中華さんの場合、その出力に音高をつけて歌わせるというところに、歌と言葉の対応関係を批評するようなスタンスを感じるんです。実際に例を挙げると、『笑う光』の「また」という曲に顕著です。平坦な発音で出力された「また会えたら」の1ワードしか使っていないのに、音高が変化したりハーモニーが加えられたりすることで、一言ではあらわせないような、ムードやニュアンスに富んだ表現になっている。つまり、言葉を歌に昇華するというのは、一意の言葉に、多義的な解釈の道筋を拓くことにほかならないと思うんです。どうでしょう、耳中華さんはどうお考えですか?
耳中華:言葉はもう歌だ
― !!???
耳中華:言葉はもう歌だ
― つまり、どういうことでしょう?
耳中華:言葉はもう歌だ
― …………では、続いてトラックについて伺います。基本的にベタ打ちのMIDIで構成されていますが、何かこだわりがあってのことなんですか?
耳中華:音楽の技術にはあんまり興味がなくて
考えるより向こうにある気持ちを掴んでいく感じです。
― なるほど…? 耳中華さんの作曲プロセスはどういう流れなんですか?
耳中華:作曲プロセスというよりは、もう歌ってる感じですね。
言葉がずっとあるからもうそれで歌ってる感じ
本当そんな感じです
― 言葉に合わせて音楽(トラック)が作られていくという感じでしょうか?
耳中華:作られていくというよりは、言葉にくっついてる感じですね。
言葉にくっついてきちゃうから失くせなかった
― 言葉がなによりも先にあると。
耳中華:そして気持ちがあるから言葉がある。
気持ちは光にもなる。
― 光……!
耳中華:はい。
― ちなみに音楽に関して、他のアーティストで「光」を感じる人はいますか?
耳中華:光っていっても色々あるから難しいけど
トモさんとか結構好きです
― なるほど……大変失礼ながら存じ上げない方でした。
耳中華:特定の場所っていうか光ってます
あとはInstagramの広告で知りましたが、KISUMIさんとかもよく聴きます
― なるほど……
耳中華:ぜひ
ホームビデオ、TikTok、光、旬の魚
― 耳中華さんの作る映像について、『笑う光』も『光のお店』も、正体不明のホームビデオ、ダンス動画、CG、不動産の紹介動画……などなど、得体のしれない(かつ妙に親しみのある)動画のコラージュになっていますね。まず、どういう意図でこういった動画をセレクトしていますか?
耳中華:匂いがわかるからでしょうか
知らないけど思い出す感じ
― そもそもどうやって集めてくるんですか?
耳中華:YouTubeをよく観ます
― YouTubeでどうやって検索すれば出てくるんでしょう?
耳中華:思った言葉を入れればその時同じ言葉を思ってた人の動画が観れる
― なるほど……。セレクトした映像と耳中華さんのリリックの対応関係についても聞きたいのですが、一見して関係ないようにも思えるんですよね。
耳中華:共通点はないと思ってたけどよく見てみたら影の形だけ似てるような感じです
― 影の形、というと?
耳中華:角度が変わると同じ形の影になったりする
簡単には見えないけどそういう共通点があるのかなと
例えば、「レモン」と「洗濯機」だったらどっちも買えるとか
― レモンと洗濯機…?
耳中華:「レモン」と「洗濯機」には共通点がないように見えるけど、どちらも買えるから実はそういう共通点はあるっていう
他の共通点でいうとどっちも結構硬いとか
― それを言ってしまったら、なんでもアリになってしまいませんか……?
耳中華:それの究極のパズルみたいな感じです
本当の共通点を繋げていった果てで自分の心が浮き彫りになるんです
さっきのはヒントの共通点で、全部突き詰めていけば心の別の場所に正解の共通点がある
― なるほど……。映像に関して僕が好きなのは『笑う光』の「進化」でマダムたちが踊っているところです。「気になる日にしよう ごめんが言える日にしよう」というリリックとの共通点について、何かヒントでいいので教えていただけませんか?
耳中華:心の温度に触れたときの喉の感じとか
― ……むしろ分からなくなってきたかもしれません、、
耳中華:それぞれの思い出にもよると思うのでしょうがないかもです。
― フォローありがとうございます、、。あと、リリックのフォントがデフォルトのゴシック体になっていますよね。それについてもこだわりはありますか?
耳中華:馴染みがありますよね
あれがいいです
― 馴染みがあることが重要なポイントであると。
耳中華:色々思い出せるから
― ふむ……。そのように映像とリリックと思い出をリンクさせて創作されている中で、最近のTikTokバズについてはどう考えていますか? 「テント買おうと思った」がひそかにバズっていますよね。ある意味、耳中華さんが映像に込めた意図が無視されている状況でもありますが。
耳中華:みんな見つけたっていうか思い出した感じがします。
@kus4nagi_
― それはポジティブな感情ですか? 実際、TikTokバズを嫌がるアーティストは少なくありません。
耳中華:動画を見に来てくれる人が増えて嬉しいです
「テント買おうと思った」が使われている『光のお店』はもう一万五千回ほど再生されました。
YouTubeですね。
― 本家にちゃんと流れてきているんですね。でもなんで耳中華さんが発見されたのでしょう? TikTok文化圏とはかなり遠いところにいるように思います。
耳中華:光ったら目立ったのかな、と
光った→目立った
― 光……!!
耳中華:はい
― 耳中華さんもTikTokを見ることはありますか?
耳中華:YouTubeしか観ません
― なるほど。ご自身の楽曲が使われているTikTok動画は見ましたか?
耳中華:少しだけ観てみましたが色々な人が色々な動画に使ってました
― 理想的な使われ方ってありますか?
耳中華:光になるって信じきれるならなんでも。
― 光……!!! やはりなによりも光が重要なんですね。
耳中華:まあ
― では最後に。耳中華さんが今後活動していく中で、どのようになっていたら「光ってるな」と思いますか?
耳中華:少し変わる
― 少し……変わる??
耳中華:結局転んだりはするけど、その後次第ですね
― なるほど……最終的に成りたい像のイメージはありますか?
耳中華:高評価
― 高評価・・・
耳中華:はい
― 高評価になれそうですか?
耳中華:相当
― なるほど……では、本日はありがとうございました! もし何か言い残したことなどあれば。
耳中華:[cc05aebf57cbef9a.xls]
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1v_-LShKuckguXE2UWN0k9gih-hcZ6z0E/edit
(※上記URLは、送られてきたExcelファイルを筆者のGoogle Driveに追加したもの)
― 魚???
耳中華 – 笑う光
Release date : 1st October 2022
Stream : https://linkco.re/MCedXXBp
category:FEATURE
tags:耳中華
2020/08/21
収益は寄付へ 上海のエレクトロニック・ミュージックシーンをリードするレーベル/コレクティブ〈Genome 6.66Mbp〉からブートレグリミックス、エディット、ブレンドをコンパイルした『Club Shanzai Bootleg Compilation』がリリース。 今作にはTzusing、Howie Lee、GG Lobster、Dirty K、Kelvin T、Ao Wu、Jaya、ASJ、Kilo Veeなどが参加。〈Genome 6.66Mbp〉、〈Absurd TRAX〉、〈FunctionLab〉、中華圏から世界へ発信し、国際的に活躍するアーティストで構成され、28曲入りの中にはLim BizkitやMigosなどの楽曲のエディットも収録。 尚、今作はレーベルのBandcampで、購入者が値段を決めるname your priceで購入可能。収益はレバノンの為の支援活動を行うImpact Lebanonや、アメリカの大量投獄を減少させるために活動するthe National Bail Fund Network (USA)に送られる。また、レーベルは直接の寄付も推奨している。 VA – Club Shanzai Bootleg Compilation Label : Genome 6.66Mbp Bandcamp : https://genome666mbp.bandcamp.com/album/club-shanzai-bootleg-compilation Tracklist 1. Charity Ssb & Swimful – Plastic Organ 2. shushu – So Sick of Lif3 3. RVE – 虫草FIRE Edit 4. XDD – LilBlackDizzeeKidXCX6Truth 5. GRRL VS 大悲咒
2018/06/18
イベントスペース+ギャラリー+バー「TWLV」。 2010年前後、東京ではCuz Me Painというインディーのレーベル・コミュニティが存在していた。海外のインディーシーンと同じ方向を向いて、同じ水準の楽曲をレコードやカセットでリリースしていたアーティスト発の東京のレーベルはその当時は他になかったはずだ。とまぁ、、Cuz Me Painの活動や歴史に関しては語ることが多過ぎるので、いずれAVYSS的に良い形でCuz Me Painの企画を行うことにします。今回はCuz Me Pain発足メンバーの1人であるTSKKA(ツッカ)こと塚野目圭輔が、地元札幌でイベントスペース+ギャラリー+バーの「TWLV」をオープンさせたので、お店についてメールインタビューを行った。 – ツッカさん、お久しぶりです。早速ですが、TWLVの立ち上げの流れを教えてください。 塚野目 – 2012年に東京から札幌に戻ってきてからは、仕事しながらバンド・DJをやったりイベントのオーガナイズもしてたんですが、2015年くらいにこういった店舗モデルがあるのを知って、だんだん気になり始めて。 以前からカルチャーに関わる何かで仕事に出来ればっていう気持ちもあったんで、 そこから決心をして事業計画を練りながら、資金を貯めて、物件を探し始めました。 で、3年かけて無事に丁度良い物件も見つかり融資も降りたんで、2ヶ月前の2018年4月にオープン出来ました。 – TWLVって名前はどのような意味があるんですか? 塚野目 – twelveをギュッと縮めた造語です。意味は特になく数字にしたかったので、自分の誕生月(12月)から選んだんですよね。 読み方はトゥエルヴです。 文字に起こした時の並びと、言葉に発した時の語感が気に入って決めました。 – 数年前、東京で自身もアーティストとして、バンドのAAPSやソロで活動していましたが、あの頃を振りかえってみてどうですか?札幌に戻って音楽との向き合い方は変わりました? 塚野目 – あの時は海外から常に新しく刺激的なカルチャーのトレンドが生まれて、それを必死に追いかけながら服やレコードを買ったり、作る曲や自分のスタイルに落とし込んでました。それがとにかく楽しかったと思います。自分が知らないだけかもしれませんが、以前に比べ現在はあまり夢中になるモノが少なくて、レコードも買う頻度は減っていて、spotifyが便利なので、お店のBGMも含め良く使ってます。 – ツッカさんから見た札幌のシーンは率直にどう感じますか? 塚野目 – 日本って海外から流れてきたトレンドをまず東京がキャッチして、それから地方っていう順番でカルチャーやシーンって流れてると思うんですよ。なので前述したように海外が盛り上がってないと、地方も盛り上がるのは難しいのかなって。もちろんネットが発達したこともあるので、自分が札幌で活動していた20代のときより、海外のインディーシーンに影響を受けたバンドやアーティストがたくさんいたりして、面白いと思います。YOU SAID SOMTHING、The Cynical Store、GOTOUとか。TWLVを通じてなにかサポート出来れば嬉しいですね。 – ところで、最近何聴いてるんですか? 塚野目 – Délicieuse Musiqueというフランスのメディアに好きなのが多くてDJやBGM用で掘る時はそこで探したり、あとはDavid Dean Burkhartさんがおすすめする音楽を聴いてますが、曲単位で聴いてる感じで、特定のアーティスト・レーベルが好きっていうのはここしばらくない気がします。それ以外はメジャー・インディー・国内・海外問わず、気になったものをチェックしてます。 – 今後のTWLVはどういった展開をしていきたいですか? 塚野目 – まずはオルタナティブスペースとして、ライブパフォーマンスやアートギャラリー等の機会をどんどん増やしていきたいのと、札幌国際芸術祭も数年に一度開催があるので、それにもなにかお手伝いしたいです。とにかく札幌のカルチャーが少しでも成長出来るように、お役に立てれば嬉しいので、ここでなにかをやりたいと思ってくれる人が増えれば本望です! – ありがとうございます。また遊びに行きますね。
2019/09/10
これまでの自分や環境からの”解放” 2018年11月、EP『Femm』でデビューしたDoveが、待望の2nd EP『Irrational』を発表。9月20日に〈PURE VOYAGE〉からリリースされる新作から先行でタイトル曲が本日公開された。今回は、過去から現在と未来について、また新作『Irrational』について伺った。Doveは9月28日にWWWで開催される「AVYSS 1st Anniversary」が東京での初ライブとなる。 Photo by motoki nakatni – Doveとしての活動はどのように始まったのでしょうか? Dove – Doveはそもそも音楽活動とは関係なく、たまたま入ったリサイクルショップの鏡にタイ語でダヴと発音する文字が貼られていて調べてもそれに意味はなかったんですがダヴを英語表記にした時に「平和の象徴の白い鳩…なりたいなぁ」という単純な理由で名乗り始めたんです。Doveとしてまだ本格的に音楽活動をしていなかった最初の頃は友達の映像を作ったり、ヘアショーのミックスを作ったり、前の形のペフの際にオペラの企画をさせてもらったりと活動に満たない事をいろいろしました。確か、Doveと名乗る少し前にLe Makeupの音楽をイベントで初めて聴き感動して私も音楽を作りたくなったんです。その事を本人に伝えて、好きな音楽の話をしたら盛り上がって「きっと音楽出来ますよ!やりましょう!」と言ってくれたのが音楽を始めるきっかけでした。 – それまで音楽制作は全くされてなかったのですか? Dove – Le Makeupに出会うまでは本格的に音楽活動や制作はした事がなかったです。幼少期の話になるんですが、歌う事は大好きでイーカラを買ってもらって歌っていました。でもそれより自分のアカペラをカセットテープに録音して聴くのが好きでしたね。その頃、合唱団に入っていたんですけどそれは全然楽しくなくて「これを歌いましょう」って言われる事が「歌いたい!」に繋がらなくて通うのが本当に嫌でした(^_^;)学生時代はお母さんがもらってきてくれたキーボードを雰囲気で弾くだけで思うように弾けなくて2、3ヶ月で押入れに入れてしまいました。誘われてバンドもしましたがそれもすぐ消沈してしまって…それ以降も音楽をしたいなと思ってもしようと行動に移すことはなく、ネットサーフィンばかりしてそれまで身近にいた人達が知らないような音楽を探して聴いて時々一人でライブへ行くぐらいしかしていませんでした。 – 改めて1st EP『Femm』について聞かせてくだい。ご自身にとってどのような作品になったでしょうか? Dove – 『Femm』の全曲プロデュースがLe Makeupで一緒に作っていく過程で、曲が育っていくのを感じて私も自分で曲を作ろうとなれた作品です。 形になりリリース出来たことはもちろん嬉しかったんですが、今まで沢山の音楽を聴いてても曲ができる過程に触れたことはなかったのでこの制作がきっかけで音楽の存在がより近いものになったことにも喜びを感じました。 – どのようなプロセスで制作されていったのでしょうか?また、タイトルの意味や、歌詞はどんな内容を表現しているのでしょうか? Dove – 『Femm』の2曲目「Lies」はLe Makeupと出会って一週間とかでデモが出来きました。そこから私も体調を崩したりでタイミングが合わず、半年くらいたった頃イベントの帰りにPHOTON POETRYと電車で一緒になって話してたら仲良くなり、デモを送りつけたら主催イベントに誘ってくれました。それをキッカケに本格的に音楽活動がスタートし、「Femm」や「Nanette」が出来た段階で5曲ほどあったのでEPリリースを決めました。タイトル曲の「Femm」は音が雄大で母性みたいなものに感じたのでFemmeからとりました。「Lies」は浮遊感とか時間が嘘みたいに感じる時があってそれには形がないから感覚を言葉にしました。「Nanette」はLe Makeupがハンナギャツビーのnannetという線引きを性別でするのではなく、人間の多様性と自分のあり方にフューチャーしたスタンダップコメディに感化されて考えたらしいです。私も大好きなショーです。 – 今作『Irrational』は『Femm』をさらに拡張させた世界を展開しているように聴こえました。 Dove – 今作の制作中に起こった自分や周りの環境の様々な出来事に困惑し、そんな中で人に心配や迷惑をかけてしまう自分の存在にも疲れてしまって音楽を作れない状況になっていました。いろんな悲しさが一つの塊だと思っていましたが「たまたま重なってしまった」と消化できてからは一つ一つの問題に自分の感情をまず優先しようと思えて、これからを考えることができました。それから程なくしてLe Makeupとの共作「Angel Diaries」を制作している時に音楽をする事は私の消化方法の一つでそれが生活だと感じ今作の制作をまた進め始めることが出来ました。『Irrational』はこれまでの自分や環境からの”解放”がテーマです。今作はセルフプロデュースをしていて、前作から得たものが自分の中で形にできたという部分では佐久間さんが言われている通り拡張された世界で、『Femm』が壮大だったり捉える部分が大きなイメージだった分『Irrational』は自分の内面に焦点を当てているので違う雰囲気を感じられる作品になったんじゃないかなと思います。 – 理想の未来はどのような世界でしょうか。 Dove – 「怖い、辛い、違う、嫌だ」と伝えるとある人からはネガティブに捉えられる事でも、自分自身はそのままを感じとって認めるということが重要だなと思います。誰もが評価する側、評価される側の時代とかは関係なく、いつの時代もそれぞれの私が私の気持ちを大切に出来てからそこにいられる未来が理想です。
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