ビットクラッシュのさらなる高みへ至る|Fax Gang interview

Discord・Rate Your Music発、ビットクラッシュ経由、そして未踏の地へ至る道筋

 

 

PK Shellboy率いるHexDコレクティブ・Fax Gangが、待望の2ndアルバム『Dataprism』を発表した。全11曲から成る大作に仕上がった新作には、バーチャルな連帯感のもと同シーンで親交を深めるRat Jesu、Mokshadrippといった面々に加え、日本のとあるSSWの変名・Mx.PurpleHazeと韓国のワンマン・シューゲイズアーティストParannoulが参加し、HexDのさらなる可能性が垣間見える仕上がりとなった。 絶えず流動的に変容を続けるWebミュージックシーンの最前線に立つFax Gangクルーは、今何を見据えているのだろうか?作品の中核から外殻まで、重なり合うレイヤーを紐解くため取材を敢行した。

 

Text : NordOst

 

– ビットクラッシュとリバーブのハーモニー、単なる歪みではない繊細な音像、そして作品全体に流れる美しいメロディーと流れがとても新鮮でした。これまでの作品と制作スタイルはどのように変わりましたか?

 

PK Shellboy(以下、PK):『Dataprism』では、前作『Aethernet』に比べて、意図的にもう少し親しみやすいポップなサウンドを目指しました。EP『FxG3000』のパレットに近いものでありながら、『Aethernet』で培った経験も活かされている。ビットクラッシュサウンドで表現できることの限界に挑戦したかったので、爆撃的な『Aethernet』のよりも歓迎されやすいプロジェクトにしようと思い、作りました。

 

– バンドのニューカマーkimjがプロデュースした「Spiral (Piece)」と「Space Requiem」は、HexD的な過剰な音楽ではなく、引き算の美学で構築されたアンビエント感が印象的な楽曲ですね。kimjについて教えてください。

 

PK:kimjは、実は意外なところからバンドに加わったんです。彼から私たちとの活動に興味を示す文面が届いたのですが、彼が「オーディション」のために送ってきた素材をとても気に入ったので、そのまま参加してもらいました。送ってくれたインストゥルメンタルのうち2曲は、トラックリストの”隙間”を埋めるのに最適だと思いました。それが「Spiral (Pierce)」と「Space Requiem」です。「Spiral」はすぐに完成して、「Space Requiem」に関してはkimjと僕らとの間でもう少しやりとりがありました。『Dataprism』での彼の曲は、よりミニマルなアプローチで、マキシマムなmaknaeslayerのビート、ヘビーでドライヴ感のあるGLACIERbabyのビート、それらのブレイカーとしてうまく機能していて、とても感謝しています。

 

 

– 「No Evil」はミドルテンポのディープな快楽と美しいフロウ、そしてビットクラッシュの要素が溶け合って新たな可能性を生み出していますね。この曲が生まれた背景やインスピレーションについてお聞かせください。

 

PK:「No Evil」は、主に人生における自分の居場所に不満があり、前に進めないということについて描かれています。GLACIERbabyがアルバム制作のかなり早い段階でビートをくれたのですが、それにとても感銘を受けてから、適切なアプローチ方法を思いつくのに数ヶ月かかりました。このインストゥルメンタルの重みを自分一人で担えるとは思えなかったので、Mx.PurpleHazeにヴァースとブリッジを手伝ってもらいました。私は彼女の音楽の信者なので、彼女と一緒に仕事ができることにとてもエキサイトしてますよ。

 

– アルバム『Dataprism』の制作中、音楽以外の創作物からインスピレーションを受けたものはありますか?例えば、アニメ、映画、SNSの投稿、ミーム、漫画、ドラマ、アート、トレーディングカード、おいしい食べ物などなど。なんでもいいです。

 

PK:アルバムのビジュアル・アイデンティティは、人工的な創造物と自然とのクラッシュ、そして捨てられた美学に大きくインスパイアされています。『Chain』(2004年)は、アルバムの仕上げの段階で、GLACIERbabyに勧められて観た映画です。建築の廃墟と人生の漂流体験の描き方は、アルバムのラストに作ったパーツにとても影響を与えてくれました。もうひとつ面白い話をすると、映画『Ruby Sparks』を観た後にインスピレーションを得て、15分で「Sparks」を書いたんです。

 

 

– 例えば、tricot、betcover!、ホロライブ、星街すいせい、など日本のポップカルチャーに親しみがある印象です。普段、海外の文化はどのように吸収しているのでしょうか?

 

 

PK:フィリピン人として、日本のポップカルチャーは非常に多く輸入されてきているのを実感しています。アニメや漫画にハマったのは10代の頃で、Lampやフィッシュマンズや椎名林檎などのアーティストは、私が音楽を始めた頃にとても重要な位置を占めていました。私はどのようなメディアであれ、日本人がメインストリームではないアーティストを積極的にサポートしていることに感心しているんです。フィリピン人として、日本、韓国、アメリカ、その他どこであろうと、常に文化の輸入を受けているので、言語を理解できないアートに対しても常にオープンでありたいと思っています。翻訳というのはとても重要な仕事で、海外メディアを通して文化の違いや共通項を見るのも好きですね。様々な海外メディアを見ながら、視野を広げることが大切だと思います。

 

– 1stアルバム『Aethernet』のリリース以降、Acetantina / Kaizo SlumberやGnb Chillなどの静的なブレイクコアから、bliss3threeなどのアンビエント的なHexD、Material GirlなどのアブストラクトHipHopまで色濃い作品をリリースする〈No Agreements〉と良い関係性を築いている印象があります。レーベルの多彩なリリースには、どのような影響があるのでしょうか?

 

PK:No Agreementsは僕らにとって素晴らしい存在でしかありません。City Light Mosaicはとても役に立ったし、No Agreementsが繋いでくれたアーティストのネットワークは、まるで故郷のように感じられるようになりました。レーベルとそのアーティストが私たちに与えた影響は、音楽的な影響というよりも、その圏内にいる仲間意識のようなものです。レーベルや所属アーティストからの励ましの声はとても心強いし、様々なサウンドがそこに存在すること自体が、私たちにとって刺激的なことなんです。

 

 

– 〈Dismiss Yourself〉や〈Care〉とは、直接のリリースはないものの、これまで関わってきた印象があります。これらの新興レーベルの影響力や、逆にFax Gangがウェブシーンに与える影響力に変化はありましたか?

 

PK:Dismiss Yourselfが最初に『FxG3000』をYouTubeにアップロードしてくれたことは、僕らの最初のトラクションの上昇にとても役立ちましたし、その点でとても感謝しています。Stickiは非常に優れたキュレーターで、Dismiss YourselfやCareからの多くのリリースは、インターネットのサウンドをどんどん前に押し出してくれています。私たちは他のHexDからインスピレーションを受けるのではなく、自分たちが影響を受けたものにFax Gang独自の「HexDスピン」を加えているので、現時点では他のHexDとは別のプールに存在していると考えているんです。影響力については、僕らの影響で “音楽を見る目が変わった” とか、”音楽を作り始めた” というメッセージをいくつかもらったので、インターネットミュージック全体に良い影響を与えることができてるのかなと思っています。

 

How Dismiss Yourself Became a Hub for Internet Weirdness (via Bandcamp Daily)

 

 

– Fax Gangは、Rate Your Musicなどの音楽掲示板の文化や、各地のDiscordサーバーの文化に近いところにあります。そのバックボーンについて詳しくお聞かせください。

 

PK:グループは今でもDiscordサーバーを中心に動いていて、99%非同期的に動いているのは事実です。DiscordやRateYourMusicなど、インターネット上の空間から生まれたグループであることは事実ですが、現時点ではそれらの空間の文化に影響されずに作品を作ろうと思っています。これからも、自分たちの嗜好や経験の成長に合わせて、作りたいものを作っていくつもりですね。

 

– 過去のインタビュー(RYM)で「HexD(Surge)」というカテゴライズへの違和感を語っていましたが、『Dataprism』のリリースを機に、意図的にHexDというジャンルに挑むスタンスにシフトしたのではと感じました。『Fractalize』『Dataprism』と、それぞれのディスコグラフィーの制作・リリースにおいて、どのようにスタンスが変化したのでしょうか?

 

PK:現時点では、これまで作ってきたものはしっかりと「HexD」と呼ばれても違和感がないんです。時間が経てば経つほど、それが明確になりますし、ディスコグラフィーで「ジャンル」をどこに持っていくのかということにも満足しています。『FxG3000』はビットクラッシュサウンドを使った最初の試み、『Aethernet』はその限界に挑戦したもの、『Fractalize』はその制約の中で他人とコラボレーションしようとしたもの、そして『Dataprism』はHexDサウンドを基にした “白鳥の歌” のようなものです。

 

 

– Fax Gangのビットクラッシュ的なアプローチは、HexDが内包するダークで悪魔的なニュアンスやレアアーカイブのオマージュ(10年代のVaporwaveなど)の文脈を凌駕するシューゲイズ的な美学を持っていますね。サウンドデザインのプロセスを進める上で、どのようなイメージを大切にされていますか?

 

PK:先ほども言いましたが、自然と人工物がぶつかり合うイメージはプロジェクト全体のコンセプトとして非常に重要で、13moonsによるアートワークは私たちが目指しているものを非常に見事に捉えてくれました。個人的には、私もmaknaeslayerもあまりビジュアル的な発想は得意ではありません。ビジュアルコンセプトは、GLACIERbabyや過去に所属していたBlacklight、そして今のkimjにお任せしている部分が多いです。HexDの多くがインターネット初期に見えるのとは対照的に、我々はより時代を超えた、時代錯誤なビジュアルスタイルを目指したいと思っています。

 

 

– PK Shellboy、maknaeslayer、GLACIERbaby、kimjと、Fax Gangを母体にしながらも、メンバーそれぞれが他のアーティストやプロデューサーと積極的に活動している印象があります。それぞれの活動についてお聞きしたいのです。

 

PK:maknaeslayerとGLACIERbabyはFax Gangのメインプロジェクトとは別に、いくつかのアーティストのプロデュースをやっていますし、kimjは新しく加わったので、もちろん過去から現在まで多くのアーティストと仕事をこなしてきました。No Agreementsの他にCrash Blossomsというコレクティブにも参加していますし、自分自身でも少しずつ音楽制作を進めています。Fax Gangはタイトなユニットですが、私たちは個々に独立したアーティストでもありますね。

 

– 2022年現在のFax Gangは、メンバー構成の変化などを通じて、大きな変化を遂げているようです。国と国との繋がりをベースにした活動スタイルを維持しながら、さらなる表現を更新していくために大切にしていることは何でしょうか。

 

PK:『Dataprism』の構想を練り、制作を開始するまでの過程は、メンバーの入れ替わりや次の方向性を見極めるために困難を極めました。インストゥルメンタルは『Fractalize』から1年かけてゆっくりと作り上げ、じっくりと書き込んでいきました。kimjが加入することで初めて、このアルバムに全速力で取り組むようになり、その頃から多くのことがうまくいくようになっていきました。

 

– アルバムはリリースされたばかりですね。アルバムに関連した活動や今後の展開はありますか?Fax Gangの今後の展開についてお聞かせください。

 

PK:今のところ、シンプルに実験しているところです。次にどこに行くかはまだわからないけど、音楽を作り続けることは間違いないです。

 

 

 

Fax Gang – Dataprism

Label : No Agreements

Release date : 27 May 2022

CD / Cassette : https://faxgang.bandcamp.com/album/dataprism

Stream : https://fanlink.to/dataprism

 

Tracklist

1. See You Through the Prism

2. Guardian Angel (ft. Rat Jesu & Mokshadripp)

3. Pendulum

4. Sparks

5. Spiral (Pierce)

6. Reprieve

7. No Evil (ft. Mx.PurpleHaze)

8. Flood

9. Space Requiem

10. 90 Degrees

11. Four Walls (ft. Parannoul)

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