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パソコン音楽クラブ × リョウコ2000 interview 前編

私生活のムードからモードを鳴らす

 

 

パソコン音楽クラブは3rdアルバム『See-Voice』で、誰もが自己内省を余儀なくされた日常の中に潜むミニマムなノスタルジーを奥ゆかしいソフトなサウンドに委ね描いた。パソコン音楽クラブのこれまでの作品群にはコンセプチュアルな情景が取り巻いているが、本作は近年のパンデミックの影響下における彼らの内面、閉塞感から一歩踏み出すかのような心模様がささやかに紡がれている。

 

先日リリースされたリミックス・リワーク集『See-Voice Remixes & Reworks』ではオリジナル曲に参加したボーカリストのリワークに加え、川辺素(ミツメ)、Aiobahn、ind_fris、リョウコ2000といったパソコン音楽クラブとシンパシーを感じるアーティストらが参加し、さらなる視点から心理的な像が結ばれた。今回、リミックス・リワーク集のリリースに際し公開された解説サイト上にて「完成前からリミックスを頼みたい」とパソコン音楽クラブからラブコールを受けていたリョウコ2000との対談インタビューが実現。昨今の私生活に漂うムードから両ユニットのコアとなる音楽性についてまで、日本の若手電子音楽家ユニット同士がゆるく深く語り合った。

 

Text by yukinoise

 

『See-Voice Remixes & Reworks』のリリースおめでとうございます。今回はリミックスに参加したリョウコ2000との対談ですが、制作のどの段階で彼らにリミックスをお願いしたいと思いましたか?

 

西山(以下:西):See-Voiceの制作中にリョウコ2000のEP『Travel Guide』がリリースされて、僕と柴田くんがすごい共感したんですよね。曲を聴いたときに立ち上がってくる音の質感や匂い、雰囲気とかが現に自分たちがやりたかったものに通ずる部分があったり、彼らのモードにシンパシーを感じたんです。『See-Voice』収録曲の『海鳴り』は手法的にも近いものがあって、ぜひリョウコ2000が触ったサウンドを聴いてみたいなと思ってリミックスをお願いしました。

 

noripi(以下:n):自分たちも『See-Voice』を聴いて共感する部分があったのでリミックスをお願いされて素直に嬉しかったです。

 

お互い共感しあう作品だったということですが、どのようなところに共感しましたか?

 

n:作った側だからこそわかる部分かもしれないけど、2021年のムード感ですかね。

 

西:コロナ禍を音楽で表現したいわけじゃなくても、コロナ禍で暮らしたり制作をしている以上いまの状況やムードが自然と作品のモードに反映されてしまう気がしてて。僕らは淡々と自粛生活を過ごしていく中で世の中に対して何か発信するなら、コロナ禍で感じた抑圧や大変さではなく、柴田くんや自分自身に内省を投げかけて深みに入っていく作品を作ろうと思いました。リョウコ2000も同じようなアプローチでアルバムを作ってるなという印象を受けましたし、そういう作品が身近なところにはあまりないように感じたんです。

 

柴田(以下:柴):実は最初『See-Voice』のアートワークを『Travel Guide』やリョウコ2000のアーティスト画像を手掛けてるイラストレーターの竹浪さんに頼もうとしてたんですよね。制作を進めていくうちに水族館の建物のイメージがしっくりきて、僕らのアートワークは水族館の写真に決まりましたが、竹浪さんのイラストにあるフワッとした感じや言葉にできない感情を音楽でやりたいんだろうなというところに僕はシンパシーを感じました。ピアノ男さんがラジオ〈アフター6ジャンクション〉への出演時に『Travel Guide』について「心の旅行」って話してたじゃないですか、あの感じです。

 

ピアノ男(以下:ピ):このタイトルを名付けたのはnoripiなのでどういう意味なのかは本当のところわからないけど、個人的にはこのトラベルは実際の旅行じゃないんです。制作時は緊急事態宣言も出ててどこにも行けるような状況じゃなかったので、心の中への旅行のような意味づけですね。

 

n:EP自体には明確なテーマはないんですが、去年のはじめに自分の親が亡くなってしまって急遽実家に帰省していたんですがその移動の新幹線に乗ってる時にタイトルとトラック名が全部思いついてそれを使用してますね。個人的ではありますが自分の親に少なからず向けてるところもあります。あとコロナ禍の真っ只中なのでこのEPを聞いてどこか遠くへ意識を飛ばして欲しいみたいな気持ちもあります。

 

西:『See-Voice』のタイトルやテーマになっている海もまさに似たような意味づけなんですよ。コロナ禍で旅行にも行けないから海にでも行ってしんどいことから解放されたいなって願望や、エスケーピズムとはちょっと違う内的な感情のメタファーが海や水みたいなものでして。アルバムを通して自分たちの内省や曲ごとの変化を出しつつ、14曲を聴き終えた頃には聴く前より少し自分のマインドが変化しているなって感じを伝えられたらと思いました。『Travel Guide』の旅行感もきっとパソコン音楽クラブが『See-Voice』でやりたかったことと同じベクトルを偶然にも向いてる気がします。

 

偶然にも近しいムードを感じ取っていたんですね。両者の作品はコロナ禍に対するメッセージ性は前に出てないものの、自己内省的なテーマが強くありコロナ禍が避けても通れぬ道だった印象を受けました。実際、自粛生活や制作中にどのような過ごし方をしていたか知りたいです。

 

:僕はネットカフェばっか行ってました。家にいても気が滅入るだけなので、近所の漫画喫茶でNANAや東京リベンジャーズ、鬼滅の刃とかを全巻読んだりしてましたね。流行りもんなだけあってそりゃ面白いわって思いながら過ごしてました。音楽面だと、ここ1年は激しい音楽をあまり聴かなくなったなと。

 

n:僕もそうで、クラブで聴きたい音楽を家では聴かないようになりましたね。嫌じゃないんだけどクラブミュージックはクラブで聴きたいというような住み分けが自然とできてしまって。

 

西:僕はそれが加速しすぎて、家でモニタースピーカーでちゃんと音楽聴こうとするのがしんどくなってきました。最近買ったAppleのHomePodってスピーカーで適当に聴くのがちょうどいい。『See-Voice』や自分で作った曲をそれで聴くと、遠くから流れてくる余韻みたいな聴き方ができて楽です。

 

:コロナ禍で在宅ワークしてるとしんどいし、しんどい時に激しい音楽なんて聴けるわけがないから自然と耳にするサウンドはそうなっていくよね。去年は特に久石譲の作品とかをよく聴いてました。

 

西:僕らも電子音楽ってよりかは宅録系やこれベース入ってるのかな?ってくらいのスカスカな音楽を聴いてた気がします。マスタリングされてないんじゃないかってレベルに音圧がしっかり上がってないようなコンピレーションとか。

 

:特に制作中は久石譲やゴンチチ、あと服部克久の音楽畑とかイージーリスニングが生活にフィットしてた。そういうモードや余韻がアルバムに反映されてると思います。

 

n:新譜ももちろん追ってたけど、中高生のころ聴いていた作品を振り返ってもう一度聴き直すことをしてました。元々好きだった分素直にいいなと感じるだろうし、今の価値観で聴いたらどうなるんだろうなって思ってハマったのが中谷美紀の『私生活』。

 

:あれは最高ですね、前noripiにオススメされて久々に聴いたらめっちゃ良かったですね。

 

n:去年からいまに至っても空気感を引きずってる。他にもサニーデイサービスみたいなバンド、クラブミュージック以外のサウンドから影響を受けました。唯一クラブ的な影響があるとしたらThe ChameleonのLinksやGood Looking Recordsとかかな。

 

西:電子音楽やクラブミュージック以外がリファレンスになってるのもお互い一緒ですよね。僕らも制作中はSKETCH SHOWや戸田誠司のソロ作品、柴田くんが勧めてくれたムーンライダーズの鈴木さんが主宰してた水族館レーベルの若手宅録家コンピとかで。イージーリスニングではないけど軽いリズムマシンの上でギターが鳴ってるような音源やMio Fouも聴いてました。電子音楽じゃないところからリバーブの感じを感じを勝手に電子音楽的に捉えて聴いてみたり、自分たちの制作において打ち込みで再現してみたり。生活にフィットする感じが本当に感動的で、まさに私生活ってフィールがありました。

 

:私生活で気になったんですけど、noripiさんの生活リズムって普段どんな感じなんですか?

 

西:確かにTwitter見てると朝めっちゃ早い生活してるよね。

 

n:多分ショートスリーパーなんだと思う、ここ3-4年は2時間の睡眠を3セットくらい繰り返してる感じ。なんでこんな生活リズムになったかわからないけどこれが一番落ち着くんですよね。

 

:どういう環境下でそのセットをしてるんですか?ベッドで?

 

n:寝袋で寝てます…。

 

(一同大爆笑)

 

西:なんで寝袋になったんですか?

 

n:断捨離にハマってた時期があって、全部捨てちゃおうってモードになってベッドまで捨てました。でも僕ミニマリストではないんですよ、頭をもっとクリアにしたかっただけで。

 

西:収集してた雑誌を断捨離してるとは話に聞いてたけども、ベッドまで捨ててるとは。

 

:なるほど、部屋にダンプデータが多かったってことですかね。僕も家にベッドがなくてソファベッドで寝てるから同じく2時間くらいで起きちゃうのはわかる。noripiさんも僕みたいに睡眠環境が普通とは違うタイプなんだろうなって思ってたんで、謎がいま解けました。ピアノ男さんは?

 

:普通にベッドです、寝袋は身体痛くなるでしょ。

 

私生活を含め近いムードを感じ取ってるだけあって、今回の制作にあたって影響を受けたサウンドの雰囲気もリンクする点が多かったんですね。他にも同世代でユニットとして活動されていたりとパソコン音楽クラブとリョウコ2000は重なる点があると思うのですが、両者の音楽的なルーツなどは異なるところにありますよね?

 

n:ルーツでいうとハードコアが2人の基本にありますね。リョウコ2000も当初はいわゆるクラブ的なハードコアやブレイクコア、ガバをやっていくはずだったんですがいまは見え始めたいろんな音楽を自分たちのやれる範囲で取り組んでいます。

 

:やっぱりハードコアが大きなルーツとなっているけど、僕もnoripiも相当いろんなジャンルの音楽を聴いてきたつもりではあるのでその幅広さも僕らのコアになっている。だから1作目と2作目ではサウンドが全然違いますし、それって触れてきた音楽の幅広さがないとできないことだと思いますね。

 

ハードコアを軸にしつつなかなかの幅広さがあるところがリョウコ2000の特徴だと思います。普段どのように音楽をディグっているんでしょうか?

 

n:コロナ禍になる前はBandcampを中心にディグっていて、コロナ以降はあまり良くないかもしれませんがYouTubeにフルアルバムを違法アップロードしているチャンネルから探したりしてます。中谷美紀の「私生活」との出会いもYouTubeで、そういうチャンネルはチャンネルごとに色が違っていたり自分の中にない要素まで行き届くようなコンテンツが多くて。最近はYouTubeチャンネルから探すことが多いです。

 

 

西:YouTubeは場合によってはサブスクの限界を超えてきてますよね、中谷美紀は「私生活」だけ配信されてないし僕が聴いていたMio Fouもサブスクにはない。YouTubeの外国人のディガーのチャンネルとかはAIのサジェストよりもっと人間の有機的なセレクトがあるし、サブスクのサジェスト機能だけじゃたどり着けない領域まで探せる。

 

:色が強いチャンネルを見てると友達がたくさんCDを貸してくれたような気分になりますね。

 

:僕は検索大好きなので、AIが気に入りそうなのを出してくれるよりかは友達のBandcampやTwitterのいいね欄から目ぼしいものを見つけて、関連ワードをどんどん調べていってます。友達のCD棚を勝手に漁ってる感覚に近い。

 

:パソコン音楽クラブのルーツはなんだろう…僕自身は音楽じゃなくて「ぼくのなつやすみ2」ってゲームが好きで、小学生の頃は将来これを作れたらいいなって思ってました。あれってストーリーはあるけどどちらかと言えば雰囲気のゲームで、いま音楽やってるのも雰囲気が作りたくてやってる感じです。打ち込みかつ2人だったらバンドよりも雰囲気作りができるなと思って。そういう話を西山くんとよくしてます。

 

西:ジャンルとかで音楽を理解してるんじゃなく、いろいろなものを聴いてそこから共通点を勝手に見出してその雰囲気の集合体から曲を作ってる気がしますね。イージーリスニングや宅録系のリバーブの感じを思い込みで電子音楽っぽくしたりしちゃっても、それを認めてくれるのが柴田くん。他のアーティストやちゃんとDJやってる人から見たら怒られそうだけど、パソコン音楽クラブはジャンルに根差しすぎすお互い自由にのびのびやれてるところがコアになってるかも。

 

:自分たちのフィール、モードでやってる感じですね。人が作品から何かを感じるときって、どうしてそういう感覚が立ち上がったのかを直線的に説明するのはあまりにパーソナルすぎて大変なんじゃないのかと思っていて。そのパーソナル具合を紐解いて行って音楽を作るとなると、どうしても音楽性みたいなものの幅は広くなってしまう。音から立ち上がってくる匂いや共通項で語りたい。

 

西:でもパソコン音楽クラブのテクノ感は柴田くんが作ってるよね。DJツール的なテクノってよりかもっとリスニングに接近した中域多めの、TRANSONIC RECORDSっぽさやフュージョン感あるような打ち込み要素が入ってくるジャパニーズテクノ。それからパソコン音楽クラブはいい意味でジャンルの意味やテクスチャーの解釈を勘違いしているような音楽を意識的にやっています、そういうアーティストがいてもいいと思うんです。

 

後編へ続く

 

 

パソコン音楽クラブ プレイリスト

 

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