Oneohtrix Point Never『Magic Oneohtrix Point Never』review

音楽の原体験を自身の美学で再解釈した作品

 

 

Text by yukinoise

 

現代の鬼才音楽家、Oneohtrix Point Neverことダニエル・ロパティンの最新作『Magic Oneohtrix Point Never』。昨今の世界的なパンデミックの影響下で彼が今回、自己内省とキャリアの総括として生み出した本作のコンセプトは〈架空のラジオ〉だ。 機械的にでっちあげられたこのラジオには、パーソナリティやDJ、番組表といったものは存在しない。人間味を失ったヴォーカルと無機質な電子音のコラージュが織りなすBGMと、OPNという周波数にチューニングされた音楽の原体験がただそこにある。

 

OPNの原点であり本作のインスピレーションとなったのは、若き日の彼がBGM代わりに聴いていたボストンのソフトロックのラジオ番組〈Magic106.7〉とのこと。それがもしウイルスに罹り変化したら…とロックダウン中に思いついた彼は、自身の制作活動における無数のエッセンスをシニカルに切り取りコラージュしては、彼ならでは独自のフィルターを通すかのようにエフェクトをかけ、OPN色に染まった架空のラジオを作り上げた。まるで様々なラジオをエアチェックしてはオリジナルのミックステープを作っていた幼少期の頃のように。

 

 

番組のジングル的な立ち位置の〈Cross Talk〉シリーズ、天気番組を思わせる〈The Whether Channnel〉などがいわゆるラジオっぽさを演出しながらも、〈Bow Ecco〉〈Tales From The Trash Stratum〉〈Imago〉といった楽曲が断続的に並ぶことで、虚空の日常を飾るBGMの異物感はさらに度を増してゆく。その一方で耳を惹くのは〈Long Road Home〉〈I Don’t Love Me Anymore〉〈No Nightmares〉といったキャッチーな歌モノ。客演を起用するようになった前作〈Age of〉に続き、本作にはThe WeekendやArcaなどといった豪華なアーティストらが参加している。だが、そんな燦燦たるゲストヴォーカルらをもサウンドを構成する一部として飲み込んでしまうのがOPNだ。肉体を捨てた機械的な声は電子音の洪水に溶け込み、混沌の中でキャッチーさを醸し出しながらも彼の壮大なインナースペースへと誘う無数の音のひとつに成り果ててしまう。

 

アンビエント、ニューエイジやヒーリングミュージックとも言い難い脱構築的なサウンドは、OPNの手によってそれら特有のスピリチュアルな質感を失い、代わりにざらついたノイズと共に消え去った幻想を見せるかのようなメロディーを奏で続ける。耳馴染みの良いヒーリングミュージック、ときにはギターやチェロにも似た弦楽器が生む甘美なメロディーにゲームの効果音や何かしらのシグナルを発する電子音、鳥のさえずりのような私たちの日常に潜むノイズたちの雑踏。これらが入り乱れるトラックはすべてサンプリングとプログラミングで構成されているだけあってか、新鮮でありながらもどこかノスタルジックでもあり、デジャヴのような感覚をも引き起こす。初めて耳にしたはずなのになんだかずっと前から知ってもいたような。所詮後付けでしかないとわかってはいるけど、この奇妙な旋律のあちらこちらに散りばめられたノイズの刺激に思わず脳が反応してしまう。音に関する記憶の断片でつぎはぎしたまがいものの郷愁を道標に、OPNの実体を辿ろうと思いを巡らせるたびにこんな疑問を投げかけられたような気がした。音と音楽の違いとは一体?

 

 

時計の秒針が繰り返す一定のリズム、古びた室外機のモーター音、窓の外に響く雨のしたたり、金属が擦れ合う音に重なる電車の振動。世で一般的に”音楽”と評されるものを享受するだけでなく、自ら耳にした音のかけらをつなぎ合わせたハーモニーに楽しさを覚えはじめたのはいつのことだったのだろう。自分の中で音が音楽に変わっていった、あのときめきの瞬間。かつて自分にも、誰しもにあった音楽の原体験がOPNが紡ぐ音の連なりを伝って甦ってくる。音を楽しむという字を書くように、たとえ雑音であろうともそこに楽しさや面白さを見出したのなら、もうそれはすでに音楽なのかもしれない。OPNが音楽の原体験を自身の美学で再解釈した本作は、彼自身はもちろんのこと聴き手にも原点回帰を試みさせ、これまで無意識的にあった音楽への価値観に問いかけながらそれぞれのアンサーへと導く、新たな音楽体験の機会を与えているようにも思えた。

 

OPN自らがヴォーカルを務める〈Lost But Never Alone〉で、ノイズが漂う甘美なソフトロックサウンドの中で歌う彼はこう繰り返す。” I’m lost but never alone. ” – 迷子でももうひとりぼっちじゃない、と。内向的な性格で孤独だった自分と外の世界をつないでいた音楽やラジオというツールを題材に、現在の彼はこれまでの自身を築き上げてきた内なる世界へとつなげていった。架空のラジオを模した楽曲群を介し展開されるOPNの実体、そこには彼ひとりだけなく、OPNそして聴き手たちにある数々の豊かな音楽の原体験が広がっていたのだった。

 

 

 

Oneohtrix Point Never – “Magic Oneohtrix Point Never”

Label : Warp

Release date : October 30 2020

 

Tracklist

01. Cross Talk I

02. Auto & Allo

03. Long Road Home

04. Cross Talk II

05. I Don’t Love Me Anymore

06. Bow Ecco

07. The Whether Channel

08. No Nightmares

09. Cross Talk III

10. Tales From The Trash Stratum

11. Answering Machine

12. Imago

13. Cross Talk IV / Radio Lonelys

14. Lost But Never Alone

15. Shifting

16. Wave Idea

17. Nothing’s Special

18. Ambien1 (Bonus Track for Japan)

 

国内盤CD

国内盤特典:ボーナストラック追加収録 / 解説書封入

BRC-659 ¥2,200+税

国内盤CD+Tシャツ

BRC-659T ¥6,000+税

 

輸入盤CD WARPCD318

限定輸入盤2LP+DL WARPLP318Y (クリア・イエロー・ヴァイナル)

通常輸入盤2LP+DL WARPLP318 (ブラック・ヴァイナル)

BEATINK限定 輸入盤2LP+DL WARPLP318O (クリア・オレンジ・ヴァイナル)

BEAINK限定 カセットテープ WARPMC318

 

BEATINK.COM (CD/CD+T-Shirts/LP):

http://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11445

BEATINK.COM (限定LP/カセット):

http://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11446

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