2020/11/13
音楽の原体験を自身の美学で再解釈した作品
Text by yukinoise
現代の鬼才音楽家、Oneohtrix Point Neverことダニエル・ロパティンの最新作『Magic Oneohtrix Point Never』。昨今の世界的なパンデミックの影響下で彼が今回、自己内省とキャリアの総括として生み出した本作のコンセプトは〈架空のラジオ〉だ。 機械的にでっちあげられたこのラジオには、パーソナリティやDJ、番組表といったものは存在しない。人間味を失ったヴォーカルと無機質な電子音のコラージュが織りなすBGMと、OPNという周波数にチューニングされた音楽の原体験がただそこにある。
OPNの原点であり本作のインスピレーションとなったのは、若き日の彼がBGM代わりに聴いていたボストンのソフトロックのラジオ番組〈Magic106.7〉とのこと。それがもしウイルスに罹り変化したら…とロックダウン中に思いついた彼は、自身の制作活動における無数のエッセンスをシニカルに切り取りコラージュしては、彼ならでは独自のフィルターを通すかのようにエフェクトをかけ、OPN色に染まった架空のラジオを作り上げた。まるで様々なラジオをエアチェックしてはオリジナルのミックステープを作っていた幼少期の頃のように。
番組のジングル的な立ち位置の〈Cross Talk〉シリーズ、天気番組を思わせる〈The Whether Channnel〉などがいわゆるラジオっぽさを演出しながらも、〈Bow Ecco〉〈Tales From The Trash Stratum〉〈Imago〉といった楽曲が断続的に並ぶことで、虚空の日常を飾るBGMの異物感はさらに度を増してゆく。その一方で耳を惹くのは〈Long Road Home〉〈I Don’t Love Me Anymore〉〈No Nightmares〉といったキャッチーな歌モノ。客演を起用するようになった前作〈Age of〉に続き、本作にはThe WeekendやArcaなどといった豪華なアーティストらが参加している。だが、そんな燦燦たるゲストヴォーカルらをもサウンドを構成する一部として飲み込んでしまうのがOPNだ。肉体を捨てた機械的な声は電子音の洪水に溶け込み、混沌の中でキャッチーさを醸し出しながらも彼の壮大なインナースペースへと誘う無数の音のひとつに成り果ててしまう。
アンビエント、ニューエイジやヒーリングミュージックとも言い難い脱構築的なサウンドは、OPNの手によってそれら特有のスピリチュアルな質感を失い、代わりにざらついたノイズと共に消え去った幻想を見せるかのようなメロディーを奏で続ける。耳馴染みの良いヒーリングミュージック、ときにはギターやチェロにも似た弦楽器が生む甘美なメロディーにゲームの効果音や何かしらのシグナルを発する電子音、鳥のさえずりのような私たちの日常に潜むノイズたちの雑踏。これらが入り乱れるトラックはすべてサンプリングとプログラミングで構成されているだけあってか、新鮮でありながらもどこかノスタルジックでもあり、デジャヴのような感覚をも引き起こす。初めて耳にしたはずなのになんだかずっと前から知ってもいたような。所詮後付けでしかないとわかってはいるけど、この奇妙な旋律のあちらこちらに散りばめられたノイズの刺激に思わず脳が反応してしまう。音に関する記憶の断片でつぎはぎしたまがいものの郷愁を道標に、OPNの実体を辿ろうと思いを巡らせるたびにこんな疑問を投げかけられたような気がした。音と音楽の違いとは一体?
時計の秒針が繰り返す一定のリズム、古びた室外機のモーター音、窓の外に響く雨のしたたり、金属が擦れ合う音に重なる電車の振動。世で一般的に”音楽”と評されるものを享受するだけでなく、自ら耳にした音のかけらをつなぎ合わせたハーモニーに楽しさを覚えはじめたのはいつのことだったのだろう。自分の中で音が音楽に変わっていった、あのときめきの瞬間。かつて自分にも、誰しもにあった音楽の原体験がOPNが紡ぐ音の連なりを伝って甦ってくる。音を楽しむという字を書くように、たとえ雑音であろうともそこに楽しさや面白さを見出したのなら、もうそれはすでに音楽なのかもしれない。OPNが音楽の原体験を自身の美学で再解釈した本作は、彼自身はもちろんのこと聴き手にも原点回帰を試みさせ、これまで無意識的にあった音楽への価値観に問いかけながらそれぞれのアンサーへと導く、新たな音楽体験の機会を与えているようにも思えた。
OPN自らがヴォーカルを務める〈Lost But Never Alone〉で、ノイズが漂う甘美なソフトロックサウンドの中で歌う彼はこう繰り返す。” I’m lost but never alone. ” – 迷子でももうひとりぼっちじゃない、と。内向的な性格で孤独だった自分と外の世界をつないでいた音楽やラジオというツールを題材に、現在の彼はこれまでの自身を築き上げてきた内なる世界へとつなげていった。架空のラジオを模した楽曲群を介し展開されるOPNの実体、そこには彼ひとりだけなく、OPNそして聴き手たちにある数々の豊かな音楽の原体験が広がっていたのだった。
Oneohtrix Point Never – “Magic Oneohtrix Point Never”
Label : Warp
Release date : October 30 2020
Tracklist
01. Cross Talk I
02. Auto & Allo
03. Long Road Home
04. Cross Talk II
05. I Don’t Love Me Anymore
06. Bow Ecco
07. The Whether Channel
08. No Nightmares
09. Cross Talk III
10. Tales From The Trash Stratum
11. Answering Machine
12. Imago
13. Cross Talk IV / Radio Lonelys
14. Lost But Never Alone
15. Shifting
16. Wave Idea
17. Nothing’s Special
18. Ambien1 (Bonus Track for Japan)
国内盤CD
国内盤特典:ボーナストラック追加収録 / 解説書封入
BRC-659 ¥2,200+税
国内盤CD+Tシャツ
BRC-659T ¥6,000+税
輸入盤CD WARPCD318
限定輸入盤2LP+DL WARPLP318Y (クリア・イエロー・ヴァイナル)
通常輸入盤2LP+DL WARPLP318 (ブラック・ヴァイナル)
BEATINK限定 輸入盤2LP+DL WARPLP318O (クリア・オレンジ・ヴァイナル)
BEAINK限定 カセットテープ WARPMC318
BEATINK.COM (CD/CD+T-Shirts/LP):
http://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11445
BEATINK.COM (限定LP/カセット):
category:FEATURE
2020/09/24
10月30日リリース Oneohtrix Point Neverことダニエル・ロパティンが、現代の最も重要なプロデューサーの一人であることに異論を唱える人間がいるだろうか。自身の作品では刺激的なヴィジョンとサウンドをアルバムごとに提示し、また、様々なアーティストの転機作や代表作にプロデューサーとして関わってきたロパティンだが、2020年もその勢いは衰えることがない。まず、カンヌ・サウンドトラック賞にも輝いた映画『Good Time』でコラボレートしたジョシュ&ベニー・サフディ監督の新作『Uncut Gems』の音楽を手がけ、ダニエル・ロパティン名義でより構築的で洗練された楽曲を提示したサウンドトラックをリリース。また、同作に出演していたThe Weekndの最新作『After Hours』において、シングル「Scared to Live」の作曲に参加、ほか2曲でプロデュースを務め、作品の方向性を決定づけることになった。さらには、R&Bとチェンバー・ポップとインディ・ロックを自在に行き来する才能、Moses Sumneyの2枚組大作『Græ』 の12曲で作曲およびプロデュースを担当し、重要な役割を果たしている。そんなロパティンのコア・プロジェクトであるOPNの原点の振り返りであり、集大成であり、同時に最新型となるのが〈Warp〉からの4作目のセルフ・タイトル・アルバム、『Magic Oneohtrix Point Never』。セルフ・タイトルと言っても冒頭に“Magic”とつけられているのは、もともとOneohtrix Point Neverというアーティスト名が、ボストンのソフト・ロックのラジオ局である〈Magic 106.7〉を聞き間違えて言葉遊びでつけられたことに由来している。 本作の出発点は、リサイクルショップで大量に購入したニューエイジのカセットテープを使ってコラージュを作っていたロパティンが、OPNの名前の起源について考えたことにあったという。それはもともと、ラジオ局の名前が内蔵されたものであったのだと。そこから着想を得て、『Magic Oneohtrix Point Never』はひとつのラジオ局を聴く体験を模したものになっている。朝に始まり夜通し続いて終わるラジオの放送区分を思わせる構成で、朝の挨拶で始まり、中盤はポップ音楽の断片が挿入され、終わりにかけてよりディープな展開へと至る。だがそこにはOPNらしくエラーや異物感がふんだんに含まれており、たとえばアメリカの古いFMのジングルやDJの決め台詞のサンプルがニューエイジの自己啓発の文句とぶつかり、ダークなユーモア感覚を生み出している。ニューエイジを脱構築したサンプル・コラージュの傑作『Replica』のような展開、〈Warp〉での初作にしてOPNの名前を広く知らしめた『R Plus Seven』における静謐な旋律、『Returnal』の強力なノイズ、『Garden Of Delete』や『Age Of』でのポップ・ミュージックへの意識的な接近、あるいは映画音楽の仕事を思わせる交響曲的な構築といったこれまでのOPNの音楽的要素を自在に行き来しながら、架空のラジオ局というコンセプトのもとそれらは奇妙に統合されている。 強烈なインパクトを持つアートワークを手がけたのは、ロパティンとはノイズ・シーンでの関わりから古くからの友人だったというRobert Beatty。Tame Impalaの『Currents』やケシャの『Rainbow』などサイケデリックなアートワークで知られる彼とOPNとの共作となっている。 世界的なパンデミックという奇妙な事態に世界が飲みこまれ、多くのひとが外部との接点をインターネット以外に失うなか、ロパティンはニューエイジとソフト・ロックが流れる偽のラジオ放送『Magic Oneohtrix Point Never』を通して、変わらず現代を鋭く批評しているのである。 収録曲「Cross Talk I」「Auto & Allo」「Long Road Home」の3曲を一挙解禁するシングル・パッケージ『Drive Time Suite』もアルバム発表に合わせて公開。 Oneohtrix Point Never最新アルバム『Magic Oneohtrix Point Never』は、10月30日 (金) 世界同時リリース。国内盤CDにはボーナストラック「Ambien1」が追加収録され、解説書が封入される。また数量限定でTシャツ付セットの発売も決定。アナログ盤は、通常のブラック・ヴァイナルに加え、限定フォーマットとしてクリア・イエロー・ヴァイナルと、BIG LOVE限定のクリア・ヴァイナル、さらにBeatink.com限定のクリア・オレンジ・ヴァイナル、そしてレア化必至のカセットテープも発売される。 Oneohtrix Point Never – “Magic Oneohtrix Point Never” Label : Warp Release
2021/09/14
アート、映画、アニメーションにまたがる16の映像 Oneohtrix Point Neverの最新アルバム『Magic Oneohtrix Point Never』のリリース一周年を記念し、初回生産限定コレクターズ・エディションBlu-ray盤を10月29日に発売することが決定。 Dolby Atmos®(ドルビーアトモス)による空間オーディオ対応の音源は、昨年アルバムのミックス作業期間に考案・制作されたもので、音楽を手がけた映画『Uncut Gems』、『Good Time』以外で、OPNがこの没入型オーディオ技術を取り入れた作品を発表するのが今回が初めてとなる。 オリジナルのステレオミックスとDolby Atmosミックスのアルバム全編に加え、このBlu-ray盤には、OPN自らによる「Lost But Never Alone」のリミックスとPC Music主宰のA. G. Cookによる同じく「Lost But Never Alone」のリミックス、ネオ・フラメンコアイコンRosaliaをフィーチャーした「Nothing’s Special」、そして本日公開されたElizabeth Fraser(Cocteau Twins)との「Tales From The Trash Stratum」の4曲がボーナストラックとして収録。 さらにオーディオヴィジュアルの観点からOPNのキャリアを総括するような16本のミュージックビデオも収録。MVは、映画監督のSafdie brothers、現代アーティストのTakeshi MurataやNate Boyceらが監督し、俳優のRobert PattinsonやVal Kilmer、さらにIggy Popまで登場する。Four Tetが1時間におよぶリミックスを手がけ、ブルータリズム建築の名作として知られるロンドンのバービカン・センターをミュージックビデオにフィーチャーした「Sticky Drama」も収録。OPNは映像に対するこだわりにも定評があり、2016年にはLAのハマー美術館でもOPNの映像作品が展示されている。また本Blu-ray盤のメニュー画面は『Magic Oneohtrix Point Never』のアートワークも手がけたRobert Beattyが担当している。 また今回のBlu-ray盤のリリースに合わせ、Dolby Atmosヴァージョンの音源のストリーミングもスタートする。 ——————- Oneohtrix Point Never – Magic Oneohtrix Point Never (Blu-ray Edition) Label : Warp Records / Beat Records Release
2023/09/26
2/28 東京 2/29 大阪 Oneohtrix Point Neverのニューアルバム『Again』の発売が9月29日に控える中、来日公演が決定。日本で最新ライブセットが世界初披露される。 テンションにテンションを重ねた解放感とイマジネーションを拡張する世界観、息をのむ美しさ。名作『R plus Seven』を壮大なスケールにアップデート。バラバラに散らばった断片たちが、時間を逆流し緻密且つ巨大な美しいアートピースを完成させるさま、カオスからコスモスへ、聴く者たちをカタルシスへ導く逆流アートの到達点がここに誕生。 電子音楽、ヴェイパーウェイブ、ノイズ、アンビエント、コラージュ、カットアップ、ミュージック・コンクレート、当初はマニアックな実験音楽やサブカルチャーのカリスマだったOneohtrix Point Neverことダニエル・ロパティンは、自身の作品のみならず、音楽プロデューサーとしてアノーニやザ・ウィークエンドを手がけ、映画『Good Time』(2017)ではカンヌ映画祭最優秀サウンドトラック賞を受賞するなど活躍の場をひろげて来た。2021年にはザ・ウィークエンドによるスーパーボウル・ハーフタイムショーの音楽監督を務め、シャネル 2021/22年 メティエダールコレクションショーでも音楽とパフォーマンスを担当。世界チャート1位を獲得したザ・ウィークエンドの『Dawn FM』では、エグゼクティブ・プロデューサーを務め、アルバム収録曲の大半で演奏も行っている。 今週明らかとなる最新作『Again』をひっさげたOPNの最新のライブセットが、ここ日本を皮切りに、ソウル、ベルリン、マンチェスター、ロンドン、パリ、ニューヨークという世界の主要都市をツアーすることが発表。妥協なき美意識にもとづくその高い芸術性で、今や音楽カルチャーのあらゆる分野で引く手あまたの、現代を代表する音楽家、作曲家、プロデューサーとなったOPNことダニエル・ロパティンが魅せるライブ・パフォーマンス。 公演詳細 >>> https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13709 ONEOHTRIX POINT NEVER JAPAN TOUR 出演:ONEOHTRIX POINT NEVER(サポートアクト:TBC) [東京] 公演日:2024年2月28日(水) 会場:EX THEATRE OPEN:18:00 START : 19:00 チケット料金:前売 1階スタンディング¥8,000(税込) 2階指定席¥8,000(税込) *1ドリンク別途 特記: 別途1ドリンク代 ※未就学児童入場不可 [大阪] 公演日:2024年2月29日(木) 会場:梅田CLUB QUATTRO OPEN:18:00 START : 19:00 チケット料金:前売¥8,000(税込) オールスタンディング / 1ドリンク別途 特記: 別途1ドリンク代 ※未就学児童入場不可 企画・制作 BEATINK INFO BEATINK / E-mail: info@beatink.com 【TICKET INFO】 ★ビートインク主催者WEB先行:9/29(金)10:00~ [TOKYO] https://beatink.zaiko.io/e/opn2024tokyo [OSAKA] https://beatink.zaiko.io/e/opn2024osaka [東京] イープラス最速先行受付:10/3(火)12:00~10/9(月)23:59 [ https://eplus.jp/opn-2024/ ] 一般発売:10/21(土)~ イープラス、LAWSON、BEATINK [大阪] イープラス最速先行受付:10/3(火)12:00~10/9(月)23:59 [ https://eplus.jp/opn-2024/ ] 一般発売:10/21(土)~ イープラス、LAWSON、チケットぴあ、BEATINK Oneohtrix Point Never – Again Label : Warp Records / Beat
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