2020/01/28
闇とポップに向き合い続ける理由
2019年秋、台風19号の直撃により悪夢のような夜が日本列島を襲った。そんな悪夢から逃れようと誰しもがインターネットにかじりつく中、『合法JK』のミュージックビデオをリリースし、フィメールラッパーとして鮮烈なデビューを果たしたMarukido。中毒性の高いフックと唯一無二の世界観で、彼女はデビューから程なく一気に注目を集めた。その後もHipHopインタビュー番組『ニートtokyo』に出演し、類まれなるキャラクター性を発揮。彼女のエキセントリックなトークに魅了されたリスナーも多いだろう。
令和元年を猛スピードで駆け抜けた彼女の勢いは衰えることなく、初EP『Children’s Story』収録の新曲『Lil 宗教 Jr.』のMVを1月17日に公開した。ニートtokyoのインタビューでも挙がった〈宗教2世〉という自身が抱える苦悩や経験がもととなり生まれた作品だ。日本における新興宗教を取り巻く問題に焦点を当てた本作の客演には、同じく特異なバックグラウンドを持ちながらも映画脚本家・俳優など幅広く活動中の宏洋を起用。それぞれの苦悩と強烈なパワーが交差する本作をリリースしたMarukidoを中心に、客演で参加した宏洋、ビートを手掛けたTRASH 新 アイヨシの3人に話を訊いた。
Text & Photo by yukinoise
– 初EP、そして話題の『Lil 宗教 Jr.』のリリースおめでとうございます。『合法JK』に続きまたも衝撃的な作品を発表されましたが、今回の制作に至ったきっかけを教えてください。
Marukido : 『合法JK』のリリース後、ニートtokyoという番組に出させていただいた際に、自分が宗教2世であることについて話したんですよ。それが思ったより反響があって(笑)視聴回数はもちろん、SNSで「自分も宗教2世なんです」というDMを多くいただきました。宗教2世の問題について声を上げている人は少ないんですけど、実は内々的に悩んでる人も多いんだなと改めて気づかされました。ちょうどその時期くらいに、以前からファンだった宏洋さんからTwitterをフォローバックされて(笑)これはもう宗教2世についての作品を作るしかない!と思い宏洋さんを誘ったところ、快く引き受けてくださいました。
– このお誘いを受けたとき、宏洋さんはどんな気持ちでしたか?
宏洋:Marukidoとは『合法JK』がバズってから知り合ったし、ラップに挑戦したのも今回が初なんです。本業はミュージカルの舞台や映画俳優なんで、新境地というか「大丈夫かな?」とワクワクドキドキしながら取り組みました。ミュージカルだと、ストーリーを説明する歌詞の楽曲を何百回も練習するんですけど、ヒップホップの現場はそれと真逆のような印象を受けました。流れで歌詞が変わっていったり、雰囲気やアドリブ力を求められたりするのが面白かったです。「霊言」とかはっきりと固有名詞を言っちゃっていいんだ!と驚く反面、安心したというか作りやすい部分もありました。声を上げるべきところにはしっかりと上げていく。すべてが新鮮というかとても勉強になりましたね。
– 元々エンターテイナーとして活動されていますが、音楽は初めてだったんですか?
宏洋:いや、学生時代にバンドはやっていたので初めてではなかったです。でも90年代のヴィジュアル系みたいなバンドの後ろベースをやっていたくらいで、ヒップホップは本当に初めての試みでした。冒頭で召霊したLil Peepすら知らなかったです…(笑)
Marukido:Lil Peepを召霊させたのはビートを提供してくれたアイヨシくんのアイデアなんですよ。
– そうなんですね。あのアイデアはどこから降ってきたのでしょうか?
アイヨシ:デモで作業していくうちに話が広がりすぎちゃって、結局また1からビートを作り直す流れになったんですけど「せっかく宏洋さんを起用しているんだし、誰かを召霊させちゃう?」と悪ノリの提案をしちゃって(笑)その流れで「スゥ…Lil Peepです…」って口に出したところから生まれました。
– たしかにビートもLil Peepを彷彿させるエモ・トラップのような印象を受けました。ビートの制作で意識した部分はありますか?
アイヨシ:召霊させたのもあって、Lil Peep『Aquafina』のコード進行を参考にしています。自分が YüksenBuyers Houseというドリームポップ系のバンドをやっているのもあって、そのへんのレトロな音づかいも混ぜ込んでみました。あとはブラックフライデーのセールで手に入れた音源集もあったので、それを触りながらMarukidoの要望を聞きつつ作っていった感じですね。作業が終盤に差し掛かったとき、雰囲気を一気に変えたいとMarukidoが言い出したので後半はガラッと変えてみました。
Marukido:私は宗教2世の苦悩や悲しみについて歌ってますが、宏洋さんのリリックからは強い怒りのエネルギーを感じたんですよ。彼の特殊なバックグランドや境遇をリアルに落とし込むためには、雰囲気を変えていくしかないなって。
アイヨシ:2人のリリックに傾向の違いもあったので、宏洋さんのバースはハードな雰囲気い仕上げています。元々あった仮のビートを後半に使う予定だったんですけど、前半との流れを考えると強引すぎたので、ここは1時間くらいで大枠をガーっと作りました。
– リリース後、各メディアやSNSで話題になったり物議を醸したりと、本作について様々な捉え方をされていますよね。興味深いテーマではありますが、Marukidoさん自身が本作で本当に伝えたいことはなんですか?
Marukido:無宗教と自負する人が多い日本ならではの社会問題というか、宗教ハラスメントについて伝えたかったんです。親が信仰している宗教を強制的に信仰させられるだとか、強引な宗教勧誘などが宗教ハラスメントにあたるのかな。宏洋さんはまさに親子間で宗教ハラスメントを受けていますし。なので、特定の宗教や団体を批判する曲ではないんです…!
宏洋:思いっきり「霊言」とか言っちゃってますけど、あれはあくまでエンタメです。椎名林檎さんが「シドヴィシャス」って歌ってるのと近い感じ(笑)
Marukido:宏洋さんがかつて属されていた宗教を信仰しているラッパーのItaqくんが、この曲にアンサーをくれたんですよ。その際、宗教ハラスメントについて彼と少し話したんです。私たちは信仰を強要された側ですが、彼の場合は信仰していることに対して周囲に悪く言われてしまうようで。信仰しないことを強要するなという彼のフラストレーションと、わたしたちの伝えたいことの本質は『信教の自由』という点で一致しているなって結論に至りました。
– 宗教ハラスメントのように、今の世の中では様々なハラスメントが蔓延しています。Marukidoさんは他にもハラスメントを受けた経験はありますか?
Marukido:最近、リアルハラスメントを受けました(笑)他のラッパーさんとかに「お前みたいにお遊びヒップホップでこっちはラップやってねぇんだよ」「曲が全然リアルじゃない」と言われてしまい、ショックというかモヤモヤすることあって。流行りのトラップにちょっとエッチなMVを載せるようなコンテンツにラップを利用するな!みたいな。でも『合法JK』も『Lil 宗教 Jr.』も私の人生で悩み苦しんだことや問題を題材としてますし、これが私のリアルなんです。この3人だって全然違う人生を歩んでいるし、悩んでることだって違う。人それぞれのリアルがあるのに、なんでそっちのリアルを強要してくるんだろう…って思いました。どのへんがお遊びのように映ってしまっているのかも考えさせられましたね。
アイヨシ:お遊びヒップホップってか、そもそも遊ばないと楽しくなくない?
Marukido:あれは完全にdisとして言われてますね(笑)でも「悪いことをしてお金を稼がなきゃいけないような境遇の中、ラップを使ってちゃんと正攻法でお金を稼いでいく」みたいなスタンスの人にとっては、私はお遊びなのかもしれません。
– 自分なりに問題と向き合っていくという根底の姿勢は彼らと一致するように見えますが、それでもリアルハラスメントを受けたり、物議を醸してしまうのはテーマのチョイスやプロモーションが理由なんでしょうか?
Marukido:PRの仕方は色物だと自覚してます。社会問題を提起していくためには多くの人に知られないといけないので、あえてバズるように仕掛けてますね。だから自然と色物になってしまうのかも。
宏洋:彼女は話題を察知する力があるというか、嗅覚が鋭いんですよ。『合法JK』のように、みんななんとなく知っている問題に対して切り込む人ってあんまりいないじゃないですか。『Lil 宗教 Jr.』では、珍獣みたいな僕を上手く料理してくれたし、自己プロデュース力に溢れているなとは思います。
Marukido:そもそも宗教2世って今の社会ではあまり知られていない問題なんですよね。宏洋さんを知らないリスナーも多かったし。だからこそヒップホップを入り口にして問題に触れてもらおうというか、あえて社会に切り込んでいくようなテーマを意識して選んでいます。
– なるほど。なぜヒップホップを問題提起の場として選んだのですか?
Marukido:言いたいことをしがらみなく言える場としての音楽が、わたしの場合はヒップホップだったんです。宏洋さんがヒップホップで感じた「こんなこと言っちゃっていいんだ」じゃないですけど、自分の言いたいことは100%で発信したくて。「女が音楽語るな」「アイドルでもやってろよ」とdisられてしまうこともありますが、どう言われても自分なりのかたちで問題と向き合っていきたいんです。昔はヒップホップの現場と直接繋がりがないとライブや音源を出すことができなかったと思うんですけど、今はインターネットやSNSで自分の城を築けるじゃないですか。そこで自分の世界を守っていきながらも発信できる時代だからこそ、ヒップホップを選べたのかもしれません。
– ありがとうございます。最後に、Marukidoとしてどのように問題と向き合っていきたいか教えてください。
Marukido:今回のEPのテーマでもあるんですけど、社会の闇や問題に対してあえてポップに向き合っていきたいと思っています。以前、起業のために資金調達しようとした際に、投資家から身体の関係を求められたんですよ。最初はSNSで晒してしまいたいくらい腹が立ったんですけど、ちょっと違うなって思って。怒りを別のかたちで昇華したくて作ったのが『合法JK』で、そこからMarukidoが生まれました。なのでこれからも自分なりの捉え方で問題と向き合いながら、Marukidoとしてリアルを伝えていきたいです。2020年の歴史に残る気持ちでやっていきます!
Marukido – “Children’s Story”
01. Lil 宗教 Jr. (feat. 宏洋)
02. 合法JK
03. 資本主義Workers
04. AV女優
05. ひよこのぬいぐるみ
link : https://linkco.re/DXXXhYbE
〈Marukido info〉
亜
2020/2/7 深夜
VENUE : CIRCUS Tokyo
OPEN・START: 23:00
ADV: 2000 / DOOR: 2500 / U23: 1500
LIVE:
S亜TOH
gato
なかむらみなみ
OKBOY Dogwoods
Menace無
論理
Marukido
DJ:
stei
eitaro sato (indigo la End)
mesugorillachan
nasthug
ALICHANMODE
東京亜種
Clayton Fox
TRASH 新 アイヨシ
VJ:
たすけてセンター街
Flyer:
shun mayama
〈宏洋 info〉
宏洋主演監督作品 映画『グレー・ゾーン』
2020年下半期公開予定 詳細はこちら。
category:FEATURE
tags:Marukido
2022/06/28
MVも公開予定 一児の母となった「Marukido」、ライブ照明エンジニア「あゆ」、藝大首席卒アーティスト「なみちえ」のコラボレーションによる最新シングル「イリーギャル」が6月29日にリリース。同日にはYouTubeにてTovi-shit撮影によるMVが公開。 本作は現代社会を様々な視点から解釈し矛盾や陰陽を楽曲に落とし込んだ作品。トラックメイクはZoomgalsの「GALS」を手掛けたNew K、ジャケットデザインはTempalayのグッズデザインを手がけたIDeeezが担当。オフィシャルグッズショップも開設し、世界観をより広く楽しむ事が出来るようになっている。 Marukido&あゆ&なみちえ – イリーギャル Release date : 29 June 2022 Beat&Mix&Mastering : New K(FUNLETTERS) Artwork : IDeeez Stream : https://linkco.re/qgCquGyG Shop : https://suzuri.jp/illegal_officialgoodsshop
2020/07/10
ビート公募も ミーティング・アプリ「Zoom」をテーマに、自粛期間をアゲる6人のマイク・リレー「Zoom」。ミュージックビデオは 5月20日の公開以降、日本のみならず世界中で話題を集め11万回再生を突破。 7月10日、あっこゴリラ主宰のオンライン配信ライブ「GOOD VIBRATIONS vol.3」に、valknee、田島ハルコ、なみちえ、ASOBOiSM、Marukidoの「Zoom」に参加した面々が出演。今後、サークル「Zoomgals」として活動することを発表した。この”ギャルサークル”は、プロジェクト単位でさまざまなメンバーが参加する活動となり、ファン自身も”Zoomgal”を名乗れるとのこと。 今後アルバム制作を行うにあたって、ビートを公募することも発表。トラックメイカーは下記のメールアドレスにビートを送ってみよう。 Mail : zoomgals2020@gmail.com valknee、田島ハルコ、なみちえ、ASOBOiSM、Marukido、あっこゴリラ – “Zoom” Stream:https://linkco.re/M6CBNN6x
2019/09/10
これまでの自分や環境からの”解放” 2018年11月、EP『Femm』でデビューしたDoveが、待望の2nd EP『Irrational』を発表。9月20日に〈PURE VOYAGE〉からリリースされる新作から先行でタイトル曲が本日公開された。今回は、過去から現在と未来について、また新作『Irrational』について伺った。Doveは9月28日にWWWで開催される「AVYSS 1st Anniversary」が東京での初ライブとなる。 Photo by motoki nakatni – Doveとしての活動はどのように始まったのでしょうか? Dove – Doveはそもそも音楽活動とは関係なく、たまたま入ったリサイクルショップの鏡にタイ語でダヴと発音する文字が貼られていて調べてもそれに意味はなかったんですがダヴを英語表記にした時に「平和の象徴の白い鳩…なりたいなぁ」という単純な理由で名乗り始めたんです。Doveとしてまだ本格的に音楽活動をしていなかった最初の頃は友達の映像を作ったり、ヘアショーのミックスを作ったり、前の形のペフの際にオペラの企画をさせてもらったりと活動に満たない事をいろいろしました。確か、Doveと名乗る少し前にLe Makeupの音楽をイベントで初めて聴き感動して私も音楽を作りたくなったんです。その事を本人に伝えて、好きな音楽の話をしたら盛り上がって「きっと音楽出来ますよ!やりましょう!」と言ってくれたのが音楽を始めるきっかけでした。 – それまで音楽制作は全くされてなかったのですか? Dove – Le Makeupに出会うまでは本格的に音楽活動や制作はした事がなかったです。幼少期の話になるんですが、歌う事は大好きでイーカラを買ってもらって歌っていました。でもそれより自分のアカペラをカセットテープに録音して聴くのが好きでしたね。その頃、合唱団に入っていたんですけどそれは全然楽しくなくて「これを歌いましょう」って言われる事が「歌いたい!」に繋がらなくて通うのが本当に嫌でした(^_^;)学生時代はお母さんがもらってきてくれたキーボードを雰囲気で弾くだけで思うように弾けなくて2、3ヶ月で押入れに入れてしまいました。誘われてバンドもしましたがそれもすぐ消沈してしまって…それ以降も音楽をしたいなと思ってもしようと行動に移すことはなく、ネットサーフィンばかりしてそれまで身近にいた人達が知らないような音楽を探して聴いて時々一人でライブへ行くぐらいしかしていませんでした。 – 改めて1st EP『Femm』について聞かせてくだい。ご自身にとってどのような作品になったでしょうか? Dove – 『Femm』の全曲プロデュースがLe Makeupで一緒に作っていく過程で、曲が育っていくのを感じて私も自分で曲を作ろうとなれた作品です。 形になりリリース出来たことはもちろん嬉しかったんですが、今まで沢山の音楽を聴いてても曲ができる過程に触れたことはなかったのでこの制作がきっかけで音楽の存在がより近いものになったことにも喜びを感じました。 – どのようなプロセスで制作されていったのでしょうか?また、タイトルの意味や、歌詞はどんな内容を表現しているのでしょうか? Dove – 『Femm』の2曲目「Lies」はLe Makeupと出会って一週間とかでデモが出来きました。そこから私も体調を崩したりでタイミングが合わず、半年くらいたった頃イベントの帰りにPHOTON POETRYと電車で一緒になって話してたら仲良くなり、デモを送りつけたら主催イベントに誘ってくれました。それをキッカケに本格的に音楽活動がスタートし、「Femm」や「Nanette」が出来た段階で5曲ほどあったのでEPリリースを決めました。タイトル曲の「Femm」は音が雄大で母性みたいなものに感じたのでFemmeからとりました。「Lies」は浮遊感とか時間が嘘みたいに感じる時があってそれには形がないから感覚を言葉にしました。「Nanette」はLe Makeupがハンナギャツビーのnannetという線引きを性別でするのではなく、人間の多様性と自分のあり方にフューチャーしたスタンダップコメディに感化されて考えたらしいです。私も大好きなショーです。 – 今作『Irrational』は『Femm』をさらに拡張させた世界を展開しているように聴こえました。 Dove – 今作の制作中に起こった自分や周りの環境の様々な出来事に困惑し、そんな中で人に心配や迷惑をかけてしまう自分の存在にも疲れてしまって音楽を作れない状況になっていました。いろんな悲しさが一つの塊だと思っていましたが「たまたま重なってしまった」と消化できてからは一つ一つの問題に自分の感情をまず優先しようと思えて、これからを考えることができました。それから程なくしてLe Makeupとの共作「Angel Diaries」を制作している時に音楽をする事は私の消化方法の一つでそれが生活だと感じ今作の制作をまた進め始めることが出来ました。『Irrational』はこれまでの自分や環境からの”解放”がテーマです。今作はセルフプロデュースをしていて、前作から得たものが自分の中で形にできたという部分では佐久間さんが言われている通り拡張された世界で、『Femm』が壮大だったり捉える部分が大きなイメージだった分『Irrational』は自分の内面に焦点を当てているので違う雰囲気を感じられる作品になったんじゃないかなと思います。 – 理想の未来はどのような世界でしょうか。 Dove – 「怖い、辛い、違う、嫌だ」と伝えるとある人からはネガティブに捉えられる事でも、自分自身はそのままを感じとって認めるということが重要だなと思います。誰もが評価する側、評価される側の時代とかは関係なく、いつの時代もそれぞれの私が私の気持ちを大切に出来てからそこにいられる未来が理想です。
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