「30 BEST BEDROOM POP ARTIST 2019」Vol.2 UK編

シンガーソングライター/シンガートラックメイカーを30組を3回に分けて紹介

 

 

第2回は、UKを拠点に活動しているアーティスト編です。USがTyler, The CreatorとOFWGKTA以降のZ世代ならば、こちらの中心となっているのはKing Kruleが牽引するサウス・ロンドンの若者たち。

 

今回の特集で採用している「レイドバックした気分とローファイなサウンド」というベッドルームポップの解釈を当てはめていくと、日本でも人気のあるTom MischやLoyle Carnerあたりは些か洗練されすぎて、ひとまず選外に。そしてメキシコ系の躍進が重要なファクターとなっているUSシーンほどではないにしろ、こちらもジャマイカやインド、トルコ系など移民2世や3世の活躍は印象的です。イギリスのカラード・ミュージックというとグライムの話題ばかりでしたが、過去40年間もっぱら白人専科だったインディ・ポップのコミニティにも、遂に変革のときが訪れているのかも知れません。

 

Text by Gikyo Nakamura

 

 

 

Rex Orange County

UK編の筆頭はRex Orange CountyことAlex O’Connor現在21歳。King KruleやJamie Isaacを輩出したブリット・スクール出身で、Tyler,The Creatorによる2017年の金字塔アルバム『Flower Boy』にフィーチャリングされたことで脚光を集めた天才SSW。ジャズやR&Bを小気味よくモダンに解釈したブルーアイドソウル・サウンドは、ノスタルジックで親しみやすい印象で、個人的にはKing Kruleのような革新性よりも、ブリット・ポップ〜モッズ・カルチャーの良き継承者という理解。Benny Singsと共作した”Loving is Easy”や出世曲”Sunflower”も捨て難いけれど、9月にリリースされたばかりの最新曲”10/10”が、さらに一皮剥けたエバーグリーン大名曲!10月25日にはニュー・アルバム『Pony』が控えています。

 

 

Cosmo Pyke

King Kruleと同じくペッカム出身で、ジャマイカ系イギリス人の二世、そしてやはり件のブリット・スクール卒業という出自の21歳。まだ実質はEP『Just Cosmo』(’17)のみしかリリースしていないにも関わらず、ShameやJerkcurbと共にサウス・ロンドン・シーンの市井として注目を集め、チャーミングなルックスも相まって人気沸騰中(日本では音楽誌『NERO』が昨年いち早く表紙に起用)。ガレージ・パンクに、ジャズ、ソウル、ラップのミックスされたKing Krule直系のサウンドだけれども、さらに2トーン・スカ〜レゲエのルードボーイ・エッセンスが利いている。そろそろ新曲を聴かせてほしいところ。

 

 

Puma Blue

こちらもサウス・ロンドンで活躍する、ブリット・スクール出身組。Puma Blueの音楽はとかくジャズと評されているし、当人の志としてもジャズ・ミュージシャンなのだろうけれども、コンサバなジャズ側の視点から見たならば、これは完全にインディ・ロックの範疇では(技術的な拙ささえも魅力の”ベッドルーム・ジャズ”なんて破綻は許されないでしょう…)。重要なのは、たぶんほとんど20年ぶりに、ヒップな若者たちに「ジャズる気分」が戻ってきたこと。King Kruleの真夜中の色彩よりも淡い、日の出前の束の間に訪れるブルーアワーのように美しく儚い楽曲群。

 

 

Yellow Days

マンチェスター出身で現在はロンドンで活動する、Yellow DaysことGeorge Van Den Broekは19歳。Mac DeMarcoを影響源としたレイジーでソフト・サイケデリックな音像と、本家以上にブルージーなソングライティングで、早々にフォロワーの域から脱却。2016年に17歳で発表したデビューEP『Harmless Melodies EP』で注目を集めると、翌年のファースト・アルバム『Is Everything Okay In Your World?』で早くもメジャー・デビュー。2019年はCoachellaにも出演し、5月には初の来日公演も果たしている。

 

 

Alfie Tampleman

こちらもMac DeMarcoやTame Impalaに影響されたという、イングランド東部ベッドフォードシャー出身の若き天才シンガーソングライター。昨年15歳で名門インディ・レーベルChess Clubとサインして以降にリリースされた2枚のEP『Like An Animal』『Sunday Morning Cereal』は、そのまんまMac DeMarcoなフニャフニャのサイケ・ポップもあれば、Rex Orange County路線のソウルフル・ナンバー、90sヒップホップ調のビートを導入したR&Bチューンなど、バラエティ豊か。Dirty Hitからリリースする18歳シンガー、Oscar Langの名曲”Hey”にも客演しており、beabadoobeeらと共に驚異の10代旋風ありそうです。

 

 

Rejjie Snow

今回ピックアップしている他のアーティストたちより一世代上の26歳。アイルランドのダブリン出身ですが現在はロンドンを拠点に活動しており、King Kruleや同窓のLoyle Cornarとの共演などラッパーとして今日の流れを牽引してきた一人。2018年の『Dear Annie』は、フレンチ・プロデューサーLewis OfManを起用したラウンジ・エッセンスや、お花畑の少女ジャケットなど、既成のジャジー・ヒップホップ像では説明のつかないピースフル&サニーな世界観を展開し、Tyler,The Creator『Flower Boy』のアンサーとしてピックしないわけにはいかない重要作。9月の初来日公演の後には、落書き逮捕で日本のメディアにも売名。

 

 

Bakar

グライムのトップスターSkeptaやOFF-WHITEのVirgil Abloh、ブリットポップ御大Sir Elton Johnまで賛辞を贈っている、Bakar。北ロンドンのカムデンで生まれ育ったという彼は、Bombay Bicycle ClubやKing Kruleのギターリフをループさせた簡素なトラックにラップを乗せ、Soundcloudにポストしたところから音楽キャリアをスタートさせ、たったの3年でグライムとロックをつなぐ次代のホープに。2018年のデビュー・アルバム『BADKID』収録の”All In”や”Big Dreams”、最新EP『Will You Be My Yellow?』のリード曲”Hell n Back”などが目下の代表曲です。

 

 

Jimothy

JimothyもしくはJimothy Lacoste、JimothyFromThe70sなどの名義で活動している、こちらもカムデン出身の20歳。Roy Purdyのロンドン版!? カラフルなスキニー・パンツとサングラス、ローファイ&ファニーなトラックにお気楽な歌詞のラップ、フニャフニャのダンスで臨む主戦場はYouTube(つまりイギリスのユーチューバー)。最初のバイラル・ヒットとなった”Getting busy!”や全身バーバリーでキメた”Getting Burberry Socks”など、とにかくキャッチーでユーモアに溢れる英国ポップ趣味な名曲を連発中。Dazedがユースカルチャーを担っていく次世代のクリエイターを選出するDazed100の2018年にも選ばれていました。

 

 

Lava La Rue

Little SimzやMahaliaなど女性ラッパーもタレント豊富な今日のUKヒップホップ・シーンですが、このベッドルームポップ特集の文脈で推したいのがウェスト・ロンドン出身のLava La Rue。10代の頃に友人たちと結成したクリエイティブ集団Nine8を率いて、音楽制作は元より、MVやグッズまでクルー内でDIY。Erykah BaduやThree Six Mafiaなどをフェイバリットに挙げている通り、ジャジーな90年代ヒップホップ/R&Bとサウスを今風に甦らせたサウンドがバッチリ。9月にリリースされた最新EP『Stiches』も高評価を得ていますが、まずは日本でMV撮影された2018年の”WIDDIT”をチェックしてみてください。

 

 

Easy Life

最後にひとつだけ例外的にバンド事例を。レスター出身のEasy Lifeは、Chance The RapperやMac Millerにも通じるノスタルジックな雰囲気のヒップホップをバンド編成で展開している5人組。Arctic Monkeysを引き合いに紹介されたりもしていますが、Jamie TやRat Boyも然り、英国ならではのガレージ・パンク×ラップの伝統芸を受け継ぐ存在。ただ素晴らしいことに彼らほど暑苦しくないし、むしろLily Allenの初期のような陽性なポップさが際立ちます。名門インディ・レーベルChess Clubを経て、2019年はメジャー移籍。ここではローファイ感覚のしっかりと残ったデビュー曲”Pockets”のMVを掲載しておきます。

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