2019/09/26
シンガーソングライター/シンガートラックメイカーを30組を3回に分けて紹介
第2回は、UKを拠点に活動しているアーティスト編です。USがTyler, The CreatorとOFWGKTA以降のZ世代ならば、こちらの中心となっているのはKing Kruleが牽引するサウス・ロンドンの若者たち。
今回の特集で採用している「レイドバックした気分とローファイなサウンド」というベッドルームポップの解釈を当てはめていくと、日本でも人気のあるTom MischやLoyle Carnerあたりは些か洗練されすぎて、ひとまず選外に。そしてメキシコ系の躍進が重要なファクターとなっているUSシーンほどではないにしろ、こちらもジャマイカやインド、トルコ系など移民2世や3世の活躍は印象的です。イギリスのカラード・ミュージックというとグライムの話題ばかりでしたが、過去40年間もっぱら白人専科だったインディ・ポップのコミニティにも、遂に変革のときが訪れているのかも知れません。
Text by Gikyo Nakamura
Rex Orange County
UK編の筆頭はRex Orange CountyことAlex O’Connor、現在21歳。King KruleやJamie Isaacを輩出したブリット・スクール出身で、Tyler,The Creatorによる2017年の金字塔アルバム『Flower Boy』にフィーチャリングされたことで脚光を集めた天才SSW。ジャズやR&Bを小気味よくモダンに解釈したブルーアイドソウル・サウンドは、ノスタルジックで親しみやすい印象で、個人的にはKing Kruleのような革新性よりも、ブリット・ポップ〜モッズ・カルチャーの良き継承者という理解。Benny Singsと共作した”Loving is Easy”や出世曲”Sunflower”も捨て難いけれど、9月にリリースされたばかりの最新曲”10/10”が、さらに一皮剥けたエバーグリーン大名曲!10月25日にはニュー・アルバム『Pony』が控えています。
Cosmo Pyke
King Kruleと同じくペッカム出身で、ジャマイカ系イギリス人の二世、そしてやはり件のブリット・スクール卒業という出自の21歳。まだ実質はEP『Just Cosmo』(’17)のみしかリリースしていないにも関わらず、ShameやJerkcurbと共にサウス・ロンドン・シーンの市井として注目を集め、チャーミングなルックスも相まって人気沸騰中(日本では音楽誌『NERO』が昨年いち早く表紙に起用)。ガレージ・パンクに、ジャズ、ソウル、ラップのミックスされたKing Krule直系のサウンドだけれども、さらに2トーン・スカ〜レゲエのルードボーイ・エッセンスが利いている。そろそろ新曲を聴かせてほしいところ。
Puma Blue
こちらもサウス・ロンドンで活躍する、ブリット・スクール出身組。Puma Blueの音楽はとかくジャズと評されているし、当人の志としてもジャズ・ミュージシャンなのだろうけれども、コンサバなジャズ側の視点から見たならば、これは完全にインディ・ロックの範疇では(技術的な拙ささえも魅力の”ベッドルーム・ジャズ”なんて破綻は許されないでしょう…)。重要なのは、たぶんほとんど20年ぶりに、ヒップな若者たちに「ジャズる気分」が戻ってきたこと。King Kruleの真夜中の色彩よりも淡い、日の出前の束の間に訪れるブルーアワーのように美しく儚い楽曲群。
Yellow Days
マンチェスター出身で現在はロンドンで活動する、Yellow DaysことGeorge Van Den Broekは19歳。Mac DeMarcoを影響源としたレイジーでソフト・サイケデリックな音像と、本家以上にブルージーなソングライティングで、早々にフォロワーの域から脱却。2016年に17歳で発表したデビューEP『Harmless Melodies EP』で注目を集めると、翌年のファースト・アルバム『Is Everything Okay In Your World?』で早くもメジャー・デビュー。2019年はCoachellaにも出演し、5月には初の来日公演も果たしている。
Alfie Tampleman
こちらもMac DeMarcoやTame Impalaに影響されたという、イングランド東部ベッドフォードシャー出身の若き天才シンガーソングライター。昨年15歳で名門インディ・レーベルChess Clubとサインして以降にリリースされた2枚のEP『Like An Animal』『Sunday Morning Cereal』は、そのまんまMac DeMarcoなフニャフニャのサイケ・ポップもあれば、Rex Orange County路線のソウルフル・ナンバー、90sヒップホップ調のビートを導入したR&Bチューンなど、バラエティ豊か。Dirty Hitからリリースする18歳シンガー、Oscar Langの名曲”Hey”にも客演しており、beabadoobeeらと共に驚異の10代旋風ありそうです。
Rejjie Snow
今回ピックアップしている他のアーティストたちより一世代上の26歳。アイルランドのダブリン出身ですが現在はロンドンを拠点に活動しており、King Kruleや同窓のLoyle Cornarとの共演などラッパーとして今日の流れを牽引してきた一人。2018年の『Dear Annie』は、フレンチ・プロデューサーLewis OfManを起用したラウンジ・エッセンスや、お花畑の少女ジャケットなど、既成のジャジー・ヒップホップ像では説明のつかないピースフル&サニーな世界観を展開し、Tyler,The Creator『Flower Boy』のアンサーとしてピックしないわけにはいかない重要作。9月の初来日公演の後には、落書き逮捕で日本のメディアにも売名。
Bakar
グライムのトップスターSkeptaやOFF-WHITEのVirgil Abloh、ブリットポップ御大Sir Elton Johnまで賛辞を贈っている、Bakar。北ロンドンのカムデンで生まれ育ったという彼は、Bombay Bicycle ClubやKing Kruleのギターリフをループさせた簡素なトラックにラップを乗せ、Soundcloudにポストしたところから音楽キャリアをスタートさせ、たったの3年でグライムとロックをつなぐ次代のホープに。2018年のデビュー・アルバム『BADKID』収録の”All In”や”Big Dreams”、最新EP『Will You Be My Yellow?』のリード曲”Hell n Back”などが目下の代表曲です。
Jimothy
JimothyもしくはJimothy Lacoste、JimothyFromThe70sなどの名義で活動している、こちらもカムデン出身の20歳。Roy Purdyのロンドン版!? カラフルなスキニー・パンツとサングラス、ローファイ&ファニーなトラックにお気楽な歌詞のラップ、フニャフニャのダンスで臨む主戦場はYouTube(つまりイギリスのユーチューバー)。最初のバイラル・ヒットとなった”Getting busy!”や全身バーバリーでキメた”Getting Burberry Socks”など、とにかくキャッチーでユーモアに溢れる英国ポップ趣味な名曲を連発中。Dazedがユースカルチャーを担っていく次世代のクリエイターを選出するDazed100の2018年にも選ばれていました。
Lava La Rue
Little SimzやMahaliaなど女性ラッパーもタレント豊富な今日のUKヒップホップ・シーンですが、このベッドルームポップ特集の文脈で推したいのがウェスト・ロンドン出身のLava La Rue。10代の頃に友人たちと結成したクリエイティブ集団Nine8を率いて、音楽制作は元より、MVやグッズまでクルー内でDIY。Erykah BaduやThree Six Mafiaなどをフェイバリットに挙げている通り、ジャジーな90年代ヒップホップ/R&Bとサウスを今風に甦らせたサウンドがバッチリ。9月にリリースされた最新EP『Stiches』も高評価を得ていますが、まずは日本でMV撮影された2018年の”WIDDIT”をチェックしてみてください。
Easy Life
最後にひとつだけ例外的にバンド事例を。レスター出身のEasy Lifeは、Chance The RapperやMac Millerにも通じるノスタルジックな雰囲気のヒップホップをバンド編成で展開している5人組。Arctic Monkeysを引き合いに紹介されたりもしていますが、Jamie TやRat Boyも然り、英国ならではのガレージ・パンク×ラップの伝統芸を受け継ぐ存在。ただ素晴らしいことに彼らほど暑苦しくないし、むしろLily Allenの初期のような陽性なポップさが際立ちます。名門インディ・レーベルChess Clubを経て、2019年はメジャー移籍。ここではローファイ感覚のしっかりと残ったデビュー曲”Pockets”のMVを掲載しておきます。
category:FEATURE
2019/09/02
シンガーソングライター/シンガートラックメイカーを30組を3回に分けて紹介 かつて宅録と呼ばれたインドア系DIYポップ・ミュージックを指したサブジャンル「ベッドルームポップ」は、今や変節を遂げてオルタナティブ・ポップの新たなトレンドに浮上しつつあります。 近年の様々な音楽トレンドの例に漏れず、SpotifyやYouTubeのリコメンド・アルゴリズムとプレイリストがジャンルの枠組やコミュニティ形成に役割を果たすことで、急速にリスナーの裾野を拡げてきたベッドルームポップ。昨今はやや恣意的に感じられるほど、ジャンルの解釈が拡大されてきています。元来のホームメイド・ミュージックという前提は曖昧になり、Mac DeMarcoやTame Impala以降のサイケポップ(これは比較的従来のイメージに近い)を中心に、DIYなアプローチのソウル・ファンク、インディR&Bやチルトラップの一部など多様なスタイルのアーティストを、「レイドバックした気分とローファイなサウンド」くらいの大枠で統べてしまう便利なワード、最新のベッドルームポップの運用実態はそんなところでしょうか。 そして2017年以降このジャンルの盛り上がりを牽引しているのが、Tyler, The CreatorやKing Kruleを影響源として掲げる、Z世代のラップするシンガーソングライター(あるいはDIYトラックで歌いあげるラッパー)とシンガートラックメイカーたちです。 この夏にはその代表的アーティストであるClairo『Immunity』、Cuco『Para Mi』という両雄のデビュー・アルバムがリリースされ、ベッドルームポップ・ムーブメントも最初のピークを迎えています。 個々のアーティストについて紹介される機会は音楽メディアでも増えてきたように感じますが、まだこの新世代のベッドルームポップを網羅的にまとめたテキストは少なく、とくに日本語の記事はまったく見当たりませんでした…。というけわけで、ここでは著者の私見もたっぷりとなりますが、2019年のベッドルームポップ・シーンの主要キャストとなっているシンガーソングライター/シンガートラックメイカーと、彼らに共振している次世代アーティスト30組を3回に分けて紹介していきます。 Text by Gikyo Nakamura まず第1回の10組は、USを拠点に活動しているアーティスト編その1です。 Clairo 1998年生まれ。ボストン出身の現在20歳。2017年8月にYouTubeにアップした”Pretty Girl”のバイラルヒットで、一躍ベッドルームポップ界のアイコンに。2018年にTyler, The CreaterやDua Lipaの北米ツアーのオープニングアクトを務め、今年はCoachellaにも出演している。”Flamin Hot Cheetos”のMVにはCuco、Inner Wave、Michael Sayer、Zack Villereなどをカメオ出演させ、昨年のEP『diary 001』ではRejje SnowやSG Lewisとコラボ、今や110万人超のフォロワーを誇るインスタのストーリーで日々おすすめアーティストの楽曲をフックアップするなど、自らシーンの旗手を担ってきた。”Pretty Girl”から2年、8月4日にリリースされた待望のデビュー・アルバム『Immunity』が目下の最新作。 今回紹介するUSシーンのムードについては、どんなテキストで説明するよりも、ClairoやOmar Apolloがサントラに起用されたガールズ・スケーター映画『スケート・キッチン』(’18)が最高のリファレンス。10代の恋愛や友情といった普遍的な青春模様に、LGBTQ、フェミニズム、移民やブラック・ライヴズ・マターといった人種問題への意識など、Z世代アメリカンの象徴的テーマが詰まっています。Clairoが映画のキャストと撮影した”Heaven”のMVも眩しすぎます。 Cuco ロサンゼルスを拠点に活動するCucoは、メキシコ系アメリカンの21歳。英語とスペイン語のバイリンガル・スタイルで作品を発表し、ここでも紹介するOmar Apollo、Lilbootycallなど筆頭に、Los Retros、VICTOR!といった後継が次々に登場しているチカーノ・ポップ・ミュージックを牽引しているカリスマ。今年7月にリリースされた待望のメジャー・デビュー・アルバム『Para Mi』は、甘口のトラップにレトロスペクティブなサイケ・ポップ、ボッサ・テイストまで、抜群に人懐っこいメロディと洒脱なセンスでまとめあげた快作となりました。 Steve Lacy カリフォルニア州コンプトン出身、こちらも若干20歳のプロデューサー、Steve Lacy。Odd Future所属のThe Internetの中心メンバーでもあり、Kendrick LamarやVampire Weekendの作品にも参加するなど、今回紹介するアーティストたちの中でも先駆的な存在。今年5月にリリースしたソロ・デビュー・アルバム『Apollo XXI』は、The Internetと共通するオーセンティックでソウルフルな音楽性を、よりメロディアスなソングライティングとローファイなサウンドで聞かせた傑作となっています。 Gus Dapperton その印象的な髪型とファッションで、i-D、Vogue,、The Fader、Nylonといったメディアを中心にフックアップされてきた、NY在住の現在22歳。ソングライター&シンガーとしての卓越した才能に加え、ウェス・アンダーソン的世界観で映画スターに扮した”World Class Cinema”など、MVに映えるルックスを含めてヒップスターの資質を備えた天才。ティーンに絶大な人気を誇るNetflixドラマ『13の理由 』サウンドトラックにも楽曲提供。7月にはデビュー・アルバム『Where Polly People Go ToRead』がリリースされており、11月には初の来日公演も控えている。 Roy Blair Odd Futureの影響を受けて本格的なトラックメイキングを開始したという、LA在住の現在22歳。BROCKHAMPTONのフックアップでデビュー以前から話題になっていたけれども、実際にKevin Abstract(BROCKHAMPTON)の評価を決定付けた傑作ソロ・アルバム『Amerikan Boyfriend』(‘16)のインディ・ロック・エッセンスは、彼の関与によるところが大きいはず。その翌年にリリースされた自身のデビュー・アルバム『Cat Heaven』では、カラッとした陽性ギターポップ・サウンドと、瑞々しいシンギング・ラップ・スタイルを融合させたエポックな傑作に。代表曲”PERFUME”のMVではMy Bloody ValentineのTシャツがチラリ。 Omar Apollo インディアナ州サウスヘヴン出身で現在はLA拠点に活動する22歳。Cucoと同様にメキシコ系アメリカ人で、オルタナティブ・ポップの文脈にもチカーノ・アイデンティティという新風を吹き込む。Neil Youngをフェイバリットに掲げている彼のソングライティングはレイドバックしたR&Bとファンク、フォークが少々。4月にリリースされたセカンドEP『Friends』では、軟弱サイケデリック・ファンク大名曲”Ashamed”、爽快なモダン・ディスコ・ソウル”So Good”というダンサブルな新境地も開拓。さらにファンの裾野を拡げています。 Lilbootycall テキサス州サンアントニオ出身でやはりメキシコ系アメリカンの22歳。所謂ローファイ・ヒップホップではなく、Lil Yachty系譜のバブルガムなトラップにKAWAIIモードを展開するラッパーたちの出世頭。日本のアニメやゲームといえばスクール・カースト最下層を表す記号としてUS青春映画のオタク役定番だったけれども、エモラップ以降のタームではむしろ必修科目に。果たしてどこまでをベッドルームポップという括りで扱ってよいか難しいところだけれども、ひとまず彼はCucoとKWE$Tを客演に迎えた”777”という完璧な一曲が免罪符です。 Still
2022/05/25
エジプトクラブシーン最先端 ZULI & Ramaによるプラットフォーム〈irsh〉よりコンピレーションアルバム第2弾『did You mean: irish vol.2』がリリースされる。 〈irsh〉はZULIとRamaが、カイロの友人や仲間のアーティスト、そして街を行き交う人々をジャムるために招待するビデオシリーズとしてスタート。しかし、シリーズ開始直後にCovid-19パンデミックが発生し、集会が禁止されたため、シリーズはコンピレーション形式に移行することになった。 『did you mean irish: vol.2』は、vol.1に続き、ダンスフロア向けの音楽とリスニング向けの音楽の間の領域を探求している。エジプト出身のAshrar、Asyouti、Islam Elnabawi、Seleemのデビュー曲や、Yaseenとパレスチナ出身のラッパーDaknの初共演、ABADIRがZULIと3Phazに制作を依頼したグライムのインスト曲「Kabbut」などが収録されている。KIKのIsmael、レバノンの電子音楽家Liliane Chlela、マルチアーティストOmar El Sadek(QoW名義)、Postdrone、0N4B(OnsyとABADIRのコラボ)、lTFL、1127、El Kontessaなどが参加。 VA – did you mean: irish vol. 2 Label : irsh Artwork/Poster Design by Yazan El Zubi Release date : 8 July 2022 Pre-order : https://irshcairo.bandcamp.com/album/did-you-mean-irish-vol-2 Tracklist 1. Yaseen – Siteh ft Dakn 2. Ismael – Faster 3. ABADIR – Kabbut ft ZULI & 3Phaz 4. Ashrar – Granulosis 5.
2024/11/14
11/30 WWWβ KOMAoto: club(JP) とデンマーク・コペンハーゲンの音楽レーベルREAL LIVEの共催イベント「REALKOMA vol.2 – Shibuya Arc」が11月30日に渋谷WWWβで開催。 このイベントは9月にイギリス、マンチェスターで行われた「REALKOMA」の続編であり、ダークをテーマにLIVEパフォーマンスとDJプレイが繰り広げられる。ライブでは中国から世界のアンダーグラウンドシーンに大きな影響あたえたラッパーBloodz Boiがemo ambient setを披露する。また、先月ファーストアルバム『Collector』をリリースし海外から評価を受けるNumber collectorが出演。 REALKOMA vol.2 -Shibuya Arc Date: 2024年11月30日(土) Time: 23:30 OPEN Location: WWWβ Ticket: https://t.livepocket.jp/e/t7d76 LIVE: Bloodz Boi (emo ambient set) Number collector DJ: Azrel Franarchy illequal Lil farm ミシャグジ ???(応募者の中から1名) ・注意事項 入場には写真付き身分証が必要です。 20歳未満の方の入場はできません。 入場時にdrink ticketを1枚購入していただく必要があります。
受け手の自由に寄り添う作品
more
SoundCloud発、中国ラップスター more
東京・大阪を回るジャパンツアー開催
more