読書実録 #1

不定期にお届けするKentaro Mori(世界的なバンド)のコラム。第一回。

 

 

AVYSS編集長から「本とか映画のこと書け」ということだったので、書きます。お付き合いください。

 

 

■7/17

突然だが、恋をしている。

なので、まったく本が読めない。

こないだは1ページ読むのに1時間くらいかかってしまったし、文字がまったく頭に入ってこないし、同じところを何度も読んでいて一向に進まないんです。

では、ごきげんよう。

 

 

と、ここで終わりたいところだが、これではさすがに怒られると思うので、頑張って本を開く。

読めない時は、詩集にかぎる。

ということで、今日は『原民喜全詩集』(岩波文庫)を開いた。

冒頭から困惑している。

たとえば

 

夕ぐれになるまへである、しづかな歌声が廊下の方でする。看護婦が無心に歌ってゐるのだ。夕ぐれになるまへであるから、その歌ごゑは心にこびりつく。

(「夕ぐれになるまへ」)

 

とか

 

おまへは雨戸を少しあけておいてくれというた。おまへは空が見たかつたのだ。うごけないからだゆゑ朝の訪れが待ちどほしかつたのだ。

(「そら」)

 

これは「詩」なのか。

もちろん詩なんだけど、小説のはじまりであってもおかしくない。原民喜の小説は『夏の花』しか読んでいないし、それもよくわからないままに流れて読了してしまった。

しかし、『夏の花』もこの詩も、淡々としたトーンの中に怒りがある、ような気がしている。でももしかしたらそれは、「民喜が原爆被災者である」という知識を持ってしまっていることからぼくが勝手に作り出した物語かもしれない。虚心に読んでいこう。

たった70年ほど前の昭和の作家がこれほどに遠い存在になってしまった。ぼくはこの人のことをまだ何も知らない。

 

 

■7/18

phewとレインコーツのコラボアルバムの先行曲を視聴

 

 

先日のruralでのphewは、本当にすごかった。

3日間のベストアクトだったはずだし、phewはとても謙虚な人なのだと思った。その振る舞いを思い出すだけで、感動して震えてしまう。

「音楽は恐ろしい現実の避難所にはなりませんが、私はこの曲を作っているうちに、この世に生き残るための小さな力を与えると思っていました」

 

今日も今日とて、本が読めない。

ということで、『原民喜全詩集』の続きを。

 

ながあめのあけくれに、わたしはまだたしかあの家のなかで、おまへのことを考えてくらしてゐるらしい。おまへもわたしもうつうつと仄暗い家のなかにとぢこめられたまま。

(「ながあめ」)

 

沢山の姿の中からキリキリと浮び上って来る、あの幼な姿の立派さ。私はもう選択を誤らないであらう。嘗ておまへがそのやうに生きてゐたといふことだけで、私は既に報いられてゐるのだつた。

(「頌」)

 

キリスト教的な、諦念?のようなものもなんとなく感じる。

まだまだ困惑している。

頑ななまでに行替えはないし、短詩でありながら「パンチライン」的なものもなく、「ただそこにある」がある。俳句の趣も感じる。

虚心に読み続けていこう。

 

 

■7/19

食品まつりの新作の先行曲を視聴。

 

 

またまたruralの話になるが、食品さんも素晴らしかった。いつもは「仲のいい友達との楽しい闇鍋パーティー」という感じだけど、あの日はしっかりrural仕様のディープテクノで痺れた。何やってもかっこいい。

 

今日も読めないままに『原民喜全詩集』を。

 

コレガ人間ナノデス

原子爆弾ニ依ル変化ヲゴラン下サイ

肉体ガ恐ロシク膨張シ

男モ女モスベテ一ツノ型ニカヘル

オオ ソノ真黒焦ゲノ滅茶苦茶ノ

爛レタ顔ノムクンダ唇カラ洩レテ来ル声ハ

「助ケテ下サイ」

ト カ細い 静カナ言葉

コレガ コレガ人間ナノデス

人間ノ顔ナノデス

(「コレガ人間ナノデス」)

 

おお、突然来た。背筋を伸ばす。

 

久しぶりにWill Longを聴く。

 

 

イイ。

 

FRUEの第一弾が発表

 

すでにすごいメンツ。去年は行けなかったから、行きたい!!!

 

 

 

■7/22

今日は図書館→古本市→喫茶店→本屋。

最近は図書館で絵本を読む。最初は恥ずかしさがあったが、今ではなんのてらいもなく、周りで子どもが騒いでいる中、堂々と絵本に読みふけることができるようになった。なんなら酒井駒子とか読んで泣いたりもする。

 

古本市では、現代詩文庫の吉岡実と黒田喜夫をゲット。

2週間ぶりの本屋では、リチャード・パワーズ『舞踏会へ向かう三人の農夫 上』(河出文庫)と梯久美子『原民喜 死と愛と孤独の肖像』(岩波新書)をゲット。

気づいたら民喜。民喜に導かれている。

 

『原民喜全詩集』やっと読み終わった。

 

もし妻と死別れたら、一年間だけ生き残ろう、悲しい美しい一冊の詩集を書き残すために・・・・・

 

なんだそれは。ガツーン、というショック。

一九四四年に妻を亡くし、一九五一年に自殺したそうです。

 

川の水は流れてゐる

なんといふこともない

来てみれば

やがて

ひそかに帰りたくなる

(「川」)

 

「なんといふこともない」、この言葉がぴったりな詩人だった。

 

民喜ばっかり読んでると死にたくなってくるので、『ワインズバーグ、オハイオ』(新潮文庫)を読み始める。

 

作家がいた。白い口髭の老人である。ベッドに横たわるのにいつも苦労していた。住んでいる家の窓が高いところにあり、彼は朝目を覚ますときに外の木々が見たいと思った。そこで大工を呼び、窓の高さまでベッドを高くしてもらうことにした。

これに関してはひと悶着あった。南北戦争のときに兵士だった大工は作家の部屋に入って来ると、座り込んで話し始めた。台座を作り、その上にベッドを置いて、高くしたらどうかといった話である。作家は葉巻をそこらに置いてあり、大工はそれを吸った。

 

冒頭からこんな感じ。やさしい。サローヤンを読むときにも感じる、他人へのやさしさを

感じる。

 

 

text by Kentaro Mori(世界的なバンド)

category:COLUMN

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