超絶音響 工場労働 記録映画 『人間機械』

各国の映画祭でも多くの賞を受賞している、ラーフル・ジャイン監督デビュー作品『人間機械』とは

 

 

みんな疲れている。毎朝満員の通勤電車に閉じ込められた人々の表情には生気が無い。こんな状況をいつまで続けたらいいんだと思っている人も少なくないだろう。

 

しかし、ラーフル・ジャインという20代の監督が発表したデビュー作品「人間機械」には更に過酷な労働環境の様相が映し出されている。

 

© 2016 JANN PICTURES, PALLAS FILM, IV FILMS LTD

 

インド、ニューデリーに生まれた監督は自身が育ち、幼少期には遊び場として親しんでいたグジャラート州の繊維工場に目を向けた。著しい経済成長を遂げているインドだが、そこには劣悪な環境で働く労働者たちの実態があった。低賃金、長時間労働・・・。グローバル経済に隠されたこの状況の告発をテーマにしたドキュメンタリーである本作だが、その中に別の質感を抱く。

 

冒頭の工場内部に迫っていくステディカムを駆使した魅力的なショット。巨大な機械、そしてその爆音。繊維工場で稼働する機械たちの反復は最新の撮影・音響・編集技術を駆使しどこまでもフェティッシュに描かれる。

 

© 2016 JANN PICTURES, PALLAS FILM, IV FILMS LTD

 

その一方で労働者たちは手際よく手を動かしながらも時折、虚ろな目で今にも眠ってしまいそうな表情を見せている。永遠に続く人力の反復はありえない。だからこそ我々は機械(マシーン)による反復を求める。それはビートの反復するテクノや、音を永遠に引き伸ばしたいという欲求を内包したアンビエント・ドローンミュージックにも通じる。永遠の反復は人類には不可能であるが美しい。

しかしそこは禁断の領域であり、何も手出しができない煉獄のようでもある。

 

© 2016 JANN PICTURES, PALLAS FILM, IV FILMS LTD

 

作中、インタビューに答える労働者が過酷な環境を変えるため、労働組合が成立できない状況を「一人二人が抗っても工場は止まらない。我々が報われるのは死ぬ時だ。」と語っていた。

 

後半、彼らの手によって作り出された繊維製品が“ぼとぼと”と無造作にコンテナに投げ込まれていく。そこに人の血は通っているのだろうか。しかし、そんなことは彼らにとっては関係ない。日々の生活を続けるためにこの環境で働くしかないのだ。人間と機械の悲しみのアンサンブルを劇場で目撃して欲しい。

 

また、pootee氏による動画フライヤーも公開されている。

 

 

Text by Kenji Komine

 

 

 

ラーフル・ジャイン監督『人間機械』(原題:MACHINES)
2016年/インド・ドイツ・フィンランド/DCP/カラー/71分/配給:株式会社アイ・ヴィー・シー

渋谷ユーロペースにて7月公開。全国順次公開予定。

 

公式サイト

http://www.ivc-tokyo.co.jp/ningenkikai/

category:FILM

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