電子音楽界、最果てのオーソリティ|リヴァイヴァルを迎えるAutechreについて

2026年2月に再来日を果たすAutechreについて、特別コラム

 

 

もはや電子音楽界における新たなる伝説として世界各地のユースから当時のリアルタイム世代まで、時代を超えて絶大な指示を集める存在となったAutechre。2026年2月4日・5日には待望の再来日を東京・大阪の2会場で果たす。そこで今回、AVYSSでは長年にわたりAutechreを敬愛するプロモーター/クラバーの解放新平 (melting bot / WWWβ)氏に、20年におよぶAutechreの変遷について特別寄稿を依頼した。

 

Text : 解放新平 (melting bot / WWWβ)

Edit / Introduction : NordOst / 松島広人

 


 

人生を変えた一枚のチケットがある。一生超えることはないであろう聴覚と身体の超絶体験、その植え付けられた快楽の記憶を辿り、20年以上毎週クラブに行き続けてはただただ音のテクスチャ、リズム、モードにひたすら向き合うだけの音楽人生。その根源にAutechre (オウテカ)のライブがある。

 

殊更ダンス・ミュージックという点におけるリベラル (自由)なテクノ性、音楽ジャンルで言うならばフットワーク、創造・破壊・再生がサイクルするハードコアな超越主義、近いアーティストで言えばその超越 (ハイパー)を体現する¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$UやE.O.U、これまで自分が関わってきた事柄の全てに直結している、いや、し過ぎているのかもしれない。Autechreにはそれくらい影響を受けている。

 

かつてWWWβで¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uと一緒に開催していたレギュラー・パーティ『TRNS』 (トランス)にて披露されたAutechreオンリーのDJセットが、AVYSSにZone Unknown  (¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$U主宰のイベント)のミックスとしてアーカイブされている。

 

 

時は2005416日土曜日。当時UKのリヴァプールに留学していた僕は、電車で1時間ほどにある隣町のマンチェスターのZooに初めてAutechreを観に行った(※冒頭のチケット画像の公演)。

 

ある種のフリージャズのように高速&前衛化に磨きがかかったAutechre中期の8枚目に当たるアルバム『Untilted』のツアーの一環で、僕はその時のチケットを未だ忘れられずに持っている。ちょうど前日にグラスゴーで行われたライブ音源が上がっていて、彼らの基礎でもあるエレクトロを下地とした凄まじい音のせめぎあい、Autechreファンの間でも絶賛されている貴重なセットだ。

 

 

当時は今みたいに電子音楽やダンス・ミュージックの文脈の知識も見識もなく、誰がオープンなのかも分からず、バイアスもない、ある種ピュアな状態で待ち構えていた。真っ暗になることも知らずにフロアにいると、消灯して間も無くどこからともなく音が四方八方から殴りかかってきた。突然のことだった。

 

無我夢中で暗闇から繰り出されるリズムを追っているうちに方向感覚は薄れ、リズムの濁流に呑まれて行く、踊るといよりひたすら音に乱打されながら字の如くぶっ飛ばされた。その快感は、ハードコア系のライブでモッシュでもみくちゃにされる高揚感にも似ていた。

 

余韻に浸りながら次のDJ Rob Hall (WARP含むレーベル・コレクティヴ〈GESCOM〉を率いるAutechreのマイメン)に打ちのめされ、よく分かっていなかったがAutechreのルーツであるデトロイト系のエレクトロだったという朧げな音像が記憶の奥底に残っている。完全に覚醒した翌日以降、”テクノ”に紐づくイベントとリリースを検索し、欧州の電子音楽系のフェスやレイヴへ繰り出し、帰国後はそうした体験を元に〈melting bot〉として流通&レーベル、プロモーター、エージェント、そして長年イベント活動の拠点となっているベニュー (WWWβ)の仕事に携わることとなる、エンドレスなクラブ・ライフが始まった。

 

更に振り返ると、Autechre初期の名作と言われる94年の『Amber』が入り口となり電子音楽にのめり込んでいった当時の00年代中期、Aphex TwinFour Tet、Björk、Boards Of Canada、池田亮司、ClarkMark FellJan JelinekVladislav DelayPole率いるレーベル~ScapeRicardo Villalobos……などなど、雑誌で言えばFADER、サウンド&レコーディング、remix (現ele-king)を読みつつ、クラブ・ミュージック、実験音楽、アンビエント、そしてインディにまで連なるエレクトロニカと言われる00年代オルタナティブのムーヴメントの渦中にいた。

 

http://faderbyheadz.com/fader/fader08.html

 

00年代はラップトップが爆発的に普及した頃で、サンプリング・テクノロジーの向上によって宅録が飛躍的に多様化したこの時代の音楽が、当時の文化を参照した20年代のY2Kリヴァイバルとも密接に繋がっていることを、2021年あたりから現場を通じてユースから発せられるサウンド、ビジュアル、ファッションの一部から感じていた。

 

その流れでE.O.Uのリリパとしても開催したリスニング・イベント『PERSOANL CLUβ』のためにその時の当事者として語れるY2Kエレクトロニカのプレイリストを作成したので一聴いただきたい。ちなみにここに並べられている多くの音源は、Autechreの来日ツアーの主催である〈BEATINK〉がリリースのプロモーションや流通を手がけている。〈BEATINK〉はフジロックの立ち上げから90年代よりフェスを含む数々の来日イベントやリリースを手掛け、洋楽を軸とした日本の電子音楽シーンのパイオニアでもある。

 

 

話をAutechreに戻す。ざっくり振り返ると、Rob BrownSean Boothによる電子デュオ・Autechreは1987年にマンチェスターで結成、1991年からライブ版も合わせると30作品以上のリリースを重ねる電子音楽界の大御所である。

 

90年代前期のデビュー当初は同期であるAphex Twinも引き合いに出される「IDM」と呼ばれたマシーナリーなブレイクビーツに傾倒し、彼らのルーツにあるヒップホップやデトロイト・テクノからの影響が色濃く投影されていた。90年代後期からはテクノロジーの進化と共にグリッチーなデジタル・サウンドへと先鋭化し、中期の00年代にはグラニュラー的な分解と抽象化が進み、更に10年代では音源が引き伸ばされるように長尺化していき、20年代には原点回帰の流れも垣間見せつつ、作品はよりライブ形態へと変化を遂げている。

 

そして、2025年のAutechreは活動38年目にして未だかつてないほど権威化され、リヴァイヴァル期を迎えた。その結果、史上最大規模で行われるAutechreUSツアーは全公演ソールドアウトを果たし、新たなリスナー層を確実に増やしている。今年WWWで開催されソールドアウトしたJan Jelinekの来日イベントでもY2K時期の電子音楽再興の波を小さいながらも実感した。ここ日本でもAutechreの新境地が見れることは間違いないだろう。

 

 

Autechreのライブは、ほぼインプロヴィゼーション(即興演奏)のセッションのように聞こえるが、音の一音一音を注意深く追うと周期的に訪れる何かしらの法則を感じられ、ここにダンス・ミュージックとしての旨みがある。照明という演出をしない、携帯は論外、バーや非常灯の照明すらも許さず、場内を真っ暗にして音だけに集中させる彼らのライブは、誰も真似できない空間として神格化されている。一方で、ビジュアル表現は盟友の〈THE DESIGNERS REPUBLIC〉と共に最先端のグラフィックやその時代を反映したアイデア (自身のDisocgsのページをハックするなど)を駆使しながら、作品のアートワークやミュージック・ビデオに注ぎ込まれて来た。

 

https://www.thedesignersrepublic.com/autechre

 

 

 

展開はあっても曲、照明、ドロップといった誘導が一切なく、よりライブ的な構築で長尺化して行くAutechreのオーディオ・ダンス・ミュージックは、全てが短尺化する消費の時代に対し逆行している面白さもあるが、ただただ彼らの音楽への強固な姿勢が変わらないだけなのかもしれない。

 

時代は巡り、新しい世代が電子音楽界の権威として再発見するリヴァイヴァル期へ到達したAutechreの現在を、改めて最新ライブで感じてみたい。開催は2026年2月。

 

 

 

autechre.

japan.

twentytwentysix.

support act – kohei matsunaga

 

tokyo 2026/2/4 (wed) ZEPP Divercity

osaka 2026/2/5 (thu) Yogibo META VALLEY <<< SOLD OUT!

 

open 18:00 / start 19:00

前売:8,800円 (税込 / 別途1ドリンク代)※未就学児童入場不可

チケット:https://linktr.ee/autechre2026

 

東京:1F スタンディング/  2F 指定席

大阪:オールスタンディング

 

注意事項:

※演出上、オウテカのショーはピッチブラック(完全消灯)・ライブとなります。開演前にスマートフォンなどの電子機器の電源をオフにし、お近くの出口を確認の上、自身の立ち位置を確保し、オウテカ演奏時の入退場は極力お控えください。非常時は係員の指示に従ってください。

 

公演詳細: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15141

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Text : 解放新平 (melting bot / WWWβ)

Edit / Introduction : NordOst / 松島広人

 


 

人生を変えた一枚のチケットがある。一生超えることはないであろう聴覚と身体の超絶体験、その植え付けられた快楽の記憶を辿り、20年以上毎週クラブに行き続けてはただただ音のテクスチャ、リズム、モードにひたすら向き合うだけの音楽人生。その根源にAutechre (オウテカ)のライブがある。

 

殊更ダンス・ミュージックという点におけるリベラル (自由)なテクノ性、音楽ジャンルで言うならばフットワーク、創造・破壊・再生がサイクルするハードコアな超越主義、近いアーティストで言えばその超越 (ハイパー)を体現する¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$UやE.O.U、これまで自分が関わってきた事柄の全てに直結している、いや、し過ぎているのかもしれない。Autechreにはそれくらい影響を受けている。

 

かつてWWWβで¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uと一緒に開催していたレギュラー・パーティ『TRNS』 (トランス)にて披露されたAutechreオンリーのDJセットが、AVYSSにZone Unknown  (¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$U主宰のイベント)のミックスとしてアーカイブされている。

 

 

時は2005416日土曜日。当時UKのリヴァプールに留学していた僕は、電車で1時間ほどにある隣町のマンチェスターのZooに初めてAutechreを観に行った(※冒頭のチケット画像の公演)。

 

ある種のフリージャズのように高速&前衛化に磨きがかかったAutechre中期の8枚目に当たるアルバム『Untilted』のツアーの一環で、僕はその時のチケットを未だ忘れられずに持っている。ちょうど前日にグラスゴーで行われたライブ音源が上がっていて、彼らの基礎でもあるエレクトロを下地とした凄まじい音のせめぎあい、Autechreファンの間でも絶賛されている貴重なセットだ。

 

 

当時は今みたいに電子音楽やダンス・ミュージックの文脈の知識も見識もなく、誰がオープンなのかも分からず、バイアスもない、ある種ピュアな状態で待ち構えていた。真っ暗になることも知らずにフロアにいると、消灯して間も無くどこからともなく音が四方八方から殴りかかってきた。突然のことだった。

 

無我夢中で暗闇から繰り出されるリズムを追っているうちに方向感覚は薄れ、リズムの濁流に呑まれて行く、踊るといよりひたすら音に乱打されながら字の如くぶっ飛ばされた。その快感は、ハードコア系のライブでモッシュでもみくちゃにされる高揚感にも似ていた。

 

余韻に浸りながら次のDJ Rob Hall (WARP含むレーベル・コレクティヴ〈GESCOM〉を率いるAutechreのマイメン)に打ちのめされ、よく分かっていなかったがAutechreのルーツであるデトロイト系のエレクトロだったという朧げな音像が記憶の奥底に残っている。完全に覚醒した翌日以降、”テクノ”に紐づくイベントとリリースを検索し、欧州の電子音楽系のフェスやレイヴへ繰り出し、帰国後はそうした体験を元に〈melting bot〉として流通&レーベル、プロモーター、エージェント、そして長年イベント活動の拠点となっているベニュー (WWWβ)の仕事に携わることとなる、エンドレスなクラブ・ライフが始まった。

 

更に振り返ると、Autechre初期の名作と言われる94年の『Amber』が入り口となり電子音楽にのめり込んでいった当時の00年代中期、Aphex TwinFour Tet、Björk、Boards Of Canada、池田亮司、ClarkMark FellJan JelinekVladislav DelayPole率いるレーベル~ScapeRicardo Villalobos……などなど、雑誌で言えばFADER、サウンド&レコーディング、remix (現ele-king)を読みつつ、クラブ・ミュージック、実験音楽、アンビエント、そしてインディにまで連なるエレクトロニカと言われる00年代オルタナティブのムーヴメントの渦中にいた。

 

http://faderbyheadz.com/fader/fader08.html

 

00年代はラップトップが爆発的に普及した頃で、サンプリング・テクノロジーの向上によって宅録が飛躍的に多様化したこの時代の音楽が、当時の文化を参照した20年代のY2Kリヴァイバルとも密接に繋がっていることを、2021年あたりから現場を通じてユースから発せられるサウンド、ビジュアル、ファッションの一部から感じていた。

 

その流れでE.O.Uのリリパとしても開催したリスニング・イベント『PERSOANL CLUβ』のためにその時の当事者として語れるY2Kエレクトロニカのプレイリストを作成したので一聴いただきたい。ちなみにここに並べられている多くの音源は、Autechreの来日ツアーの主催である〈BEATINK〉がリリースのプロモーションや流通を手がけている。〈BEATINK〉はフジロックの立ち上げから90年代よりフェスを含む数々の来日イベントやリリースを手掛け、洋楽を軸とした日本の電子音楽シーンのパイオニアでもある。

 

 

話をAutechreに戻す。ざっくり振り返ると、Rob BrownSean Boothによる電子デュオ・Autechreは1987年にマンチェスターで結成、1991年からライブ版も合わせると30作品以上のリリースを重ねる電子音楽界の大御所である。

 

90年代前期のデビュー当初は同期であるAphex Twinも引き合いに出される「IDM」と呼ばれたマシーナリーなブレイクビーツに傾倒し、彼らのルーツにあるヒップホップやデトロイト・テクノからの影響が色濃く投影されていた。90年代後期からはテクノロジーの進化と共にグリッチーなデジタル・サウンドへと先鋭化し、中期の00年代にはグラニュラー的な分解と抽象化が進み、更に10年代では音源が引き伸ばされるように長尺化していき、20年代には原点回帰の流れも垣間見せつつ、作品はよりライブ形態へと変化を遂げている。

 

そして、2025年のAutechreは活動38年目にして未だかつてないほど権威化され、リヴァイヴァル期を迎えた。その結果、史上最大規模で行われるAutechreUSツアーは全公演ソールドアウトを果たし、新たなリスナー層を確実に増やしている。今年WWWで開催されソールドアウトしたJan Jelinekの来日イベントでもY2K時期の電子音楽再興の波を小さいながらも実感した。ここ日本でもAutechreの新境地が見れることは間違いないだろう。

 

 

Autechreのライブは、ほぼインプロヴィゼーション(即興演奏)のセッションのように聞こえるが、音の一音一音を注意深く追うと周期的に訪れる何かしらの法則を感じられ、ここにダンス・ミュージックとしての旨みがある。照明という演出をしない、携帯は論外、バーや非常灯の照明すらも許さず、場内を真っ暗にして音だけに集中させる彼らのライブは、誰も真似できない空間として神格化されている。一方で、ビジュアル表現は盟友の〈THE DESIGNERS REPUBLIC〉と共に最先端のグラフィックやその時代を反映したアイデア (自身のDisocgsのページをハックするなど)を駆使しながら、作品のアートワークやミュージック・ビデオに注ぎ込まれて来た。

 

https://www.thedesignersrepublic.com/autechre

 

 

 

展開はあっても曲、照明、ドロップといった誘導が一切なく、よりライブ的な構築で長尺化して行くAutechreのオーディオ・ダンス・ミュージックは、全てが短尺化する消費の時代に対し逆行している面白さもあるが、ただただ彼らの音楽への強固な姿勢が変わらないだけなのかもしれない。

 

時代は巡り、新しい世代が電子音楽界の権威として再発見するリヴァイヴァル期へ到達したAutechreの現在を、改めて最新ライブで感じてみたい。開催は2026年2月。

 

 

 

autechre.

japan.

twentytwentysix.

support act – kohei matsunaga

 

tokyo 2026/2/4 (wed) ZEPP Divercity

osaka 2026/2/5 (thu) Yogibo META VALLEY <<< SOLD OUT!

 

open 18:00 / start 19:00

前売:8,800円 (税込 / 別途1ドリンク代)※未就学児童入場不可

チケット:https://linktr.ee/autechre2026

 

東京:1F スタンディング/  2F 指定席

大阪:オールスタンディング

 

注意事項:

※演出上、オウテカのショーはピッチブラック(完全消灯)・ライブとなります。開演前にスマートフォンなどの電子機器の電源をオフにし、お近くの出口を確認の上、自身の立ち位置を確保し、オウテカ演奏時の入退場は極力お控えください。非常時は係員の指示に従ってください。

 

公演詳細: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15141

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