山縣瑠衣の個展「Measure Your Pixel」開催

画素の迷彩に隠された現代の風景を描く

 

 

山縣瑠衣は、ある種の虚構である「地図」──すなわち、俯瞰的な視点から平面上に表現された世界──に着目し、デジタル時代の「風景」にアプローチする作家である。現代における視覚体験の「遠隔性」や「表層性」をテーマとした昨年5月のグループ展「Vantage Point」に続く今回の個展では、とくに航空写真や衛星画像によるマッピング技術の「地上解像度」に着想を得た作品を発表する。

 

デジタル画像の「地図」は、上空から見た世界の写し絵というよりは、パースペクティブによる歪みを解消するため、いくつもの写真を接合した「モザイク画」である。そこでは地形が本来もっている丸みや凹凸が捨象されるだけでなく、その場所に立っている私たちの存在までもが消去されている。というのも、空撮画像の精度は、GSD(ground sample distance)という、となり合うピクセル間の地上における距離によって表されるが、画素とは、それ以上、分解ないし分析できない単位であるため、およそ真上から見た人体が収まる0.5m四方よりも大きい場合、そこから個人情報を読み取ることはできない。私たちは常に、はるか頭上に浮かぶ人工衛星の監視に晒されている一方で、むしろ画素という「屋根」によってカムフラージュされているとすれば、現代における「風景画」とは、ピクセルに埋没した光景を再構築することなのかもしれない。

 

山縣瑠衣の作品に見られる地形を表現したような凸凹は、まっ白なメディウムで形成されたものであり、絵具の厚みではない。その上にエアブラシとアクリル絵具を使って描かれる表層的なイメージは「奥行き」──すなわちイリュージョン──を拒否する。油絵具は、その地で実際に見た、自然光に照らされた景色を、それこそリアルに再現することには適しているかもしれないが、遠く離れた、デジタル画像でしか見ることのない地の風景を描くことについては別の方法が適しているとも考えられる。この国で「美術」という概念が成立する過程で一般的になった「絵画」に対し、今では小学校の科目名に残るくらいで、ほとんど使われなくなった「図画」という言葉は、真の意味で平面の──あるいは図的な──表現の途絶を物語っているようにも思われる。文字よりも古くからあると言われる「地図」から現代の「風景画」を構想する山縣瑠衣の制作は、いわゆる「絵画史」とは別の、ありえたかもしれないイメージの系譜に接続する可能性を秘めている。

 

飯盛 希

 

 

名称:山縣瑠衣 個展「Measure your pixel 」

会期:2023年9月15日(金)- 10月1日(日)

会場:TAV GALLERY(東京都港区西麻布2-7-5 ハウス西麻布4F)[080-1231-1112]

時間:13:00 – 20:00

休廊:月、火

レセプションパーティ:2023915日(金)19:00 – 21:00

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