2022/09/05
家族の歴史を辿り、真の個人史を成立させる
匿名性の高い“存在”が画面に佇んでいるような作風で知られるアーティスト、オートモアイがTAV GALLERYにて個展「名前を忘れることで距離をとっていた」を開催する。
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オートモアイは匿名性の高いアーティストである。筆者も未だに、彼なのか、彼女なのか、そもそも”ヒト”であるのかも疑問なところである。現に私は呼び名から文章上の名称まで気を遣ってしまっているし、手に汗が滲みPCのキーボードに垂れそうになるほどの抑圧的な緊張感の中でこの文章を執筆している。勿論、私はオートモアイのステートメントの執筆を許された関係性にあり、オートモアイの仕事を深く知る人間の一人である筈なのだが、不思議な事に、未だに同氏の顔を思い出すことが出来なかった。
この文章は「永続的な退屈(Permanent boredom,2019)」と名付けられた旧テナントのTAV GALLERYで開催された展覧会と地続きの文脈をもつ。Permanent Boredomはインターネットプロバイダが恒久性をもつ限りにおいて、オートモアイの仕事とイメージとしての”AUTOMOAI”は不死になり得ることを語った。「名前を忘れることで距離を取っていた」と題されたこの展覧会では、創作されたイメージとしての名と、伝承として与えられた名の距離、またその差異から生じた「語られることのなかった時間と実存」にふれ、何故オートモアイが不死の空間から、有限であるこの時間軸まで降り立ったのかを説明するプロセスである。
今現在、政治的な理由に基づき、Googleから事実的に追放された中国通信機器メーカーの華為技術(ファーウェイ)のタブレットには加入者識別カード(SIMカード)を2枚差し込むことができる。それは私、と編集可能な私、の二つの個人を持ち合わせる事が可能となる近未来的なユーザービリティへの応答であったし、当時筆者はこの話を聞いて興奮を覚えた記憶がある。しかしながら、一個人が複数の人格を有することなど、人間が人間であるための諸原則を裏切っているとも捉えることが可能で、ましてやSNSネイティブ世代以外にこの可能性が享受されることはまだしばらくはないように思われる。問題は編集されたイメージとしての名と、家族から伝承された名が分裂して同時に存在し得ることであって、この距離から生じる語られることのない個人の歴史が、唯一、同一性を保持していたといった点に於いて正しかった事にある。
オートモアイが忘れていたのは、両親の名である。生まれてから実の母を、文字通りに「母」と呼び続けたという。時に臍の緒が知覚する母の存在は”愛”を理解させてくれるものであったし「母」の名と彼女が辿ってきた歴史を認識することは自分の歴史が彼女から地続きに引き継がれる事を証明していた。その歴史は、繁殖と命名によって伝承され死によって途絶える。死を知覚することこそが、恐らく覆してはならない人間の諸原則であり、本展の狙いはオートモアイが現実の死を直視することと、伝承された名と、イメージとして創作された名の距離を縮め、実の血縁関係にあった家族の歴史を辿ることによって、真の個人史を成立させることにある。
筆者もまた、オートモアイの名を忘れることで距離を取っていたのかもしれない。現実に生きるオートモアイにまた会いに行きたいと思う。当展は前期と後期で作品の入れ替えが行われる。地続きな物語が展開された大型キャンバスによるTAV GALLERYでは約3年ぶりの個展となるオートモアイの個展「名前を忘れることで距離をとっていた」にぜひ、ご注目いただきたい。
– 佐藤栄祐
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名称:オートモアイ 個展「名前を忘れることで距離をとっていた」
会期:2022年9月16日(金)- 10月8日(土)
会場:TAV GALLERY(東京都港区西麻布2-7-5 ハウス西麻布4F)[080-1231-1112]
時間:13:00 – 20:00
休廊:日、月
レセプションパーティ:2022年9月16日(金)19:00 – 21:00
category:NEWS
tags:オートモアイ
2021/02/04
新惑星「TOI 1338 b」 1月30日、早朝のアテネで、満月を見ようとして足を滑らして亡くなったアーティスト/プロデューサーのSOPHIEの名前を、2019年に発見された新しい惑星「TOI-1338 b」に付けようとする署名がスタートした。すでにCharli XCXなどがSNSでシェアをしており、署名は3万人を超えている。 SOPHIEのファンであるChristian Arroyoが立ち上げたこの署名には正式にNASAに提出される予定だ。署名を立ち上げた理由として、LGBTQIA+コミュニティに与えてきた影響に敬意を表して、SOPHIEの名前を永久に残していきたい、それにより彼女の影響力が今後も残っていくことを願っているようだ。さらに、2018年にリリースされたSOPHIEの唯一のフルアルバム『Oil of Every Pearl’s Un-Insides』のカバーアートと、NASAが公開している「TOI 1338 b」の表面が酷似していることも理由の一つにあるとのこと。 署名ページには「SOPHIEは、LGBTQIA+のコミュニティに大きなインスピレーションを与えてくれた影響力のあるシンガー、ソングライター、プロデューサーでした。彼女のメッセージ、行動、音楽は、多くのLGBTQIA+の人々に永続的な印象を残しました。彼女は常に本当の自分を表現していて、彼女がすることすべてに共感していました。」と記されている。 署名:https://www.change.org/p/nasa-nasa-name-toi-1338-in-honor-of-sophie 惑星「TOI 1338 b」は、2019年夏にメリーランド州にあるNASAゴダード宇宙飛行センターにて、当時高校生のインターンだったWolf Cukierによって発見された。インターンシップを始めてから3日目で発見するという快挙だった。NASAの系外惑星探査衛星「TESS」によって探知されたこの惑星は、地球から1300光年離れた星系に存在している。2つの星を周回しており、大きさは土星と海王星の中間くらいで、地球のおよそ7倍のサイズであるとのこと。
2020/01/09
1月17日リリース 昨年9月に、アルコールと複数の薬物を混合したことによる副作用が原因により突然の死を遂げた26歳のラッパーMac Miller。 今回、instagramでMac Millerの家族がニューアルバム『Circles』を1月17日にリリースすることを発表した。本作は2018年にリリースされたアルバム『Swimming』のコンパニオンアルバムとして制作途中だったものを、Mac Miller死後にプロデューサーのJon Brionが完成させたアルバムである。instagramには家族による声明文も掲載されており、本作をリリースすることがMac Millerにとって重要なことだということと、Jon Brionへの感謝の言葉が記載されている。 https://www.instagram.com/p/B7EIkpkpHpA/
2020/07/28
本日リリース 昨年、2013年の悲劇のリーク事件を乗り越え、世界に一歩踏み出した天才Jai Paulと弟のA. K. Paulが運営するレーベル〈Paul Institute〉の動きが慌ただしくなるようだ。 まずはA. K. Paulのニューシングル「Be Honest」が本日リリースされた。A. K. PaulことAnup Kumar Paulは、エンジニア、プロデューサーとしても活躍するアーティスト。Jai Paulの「BTSTU (Edit)」や「Jasmine (demo)」の制作にも関わり、Sam Smithの楽曲も手がけている。今作も、プリンスと比較されすぎたJai Paul同様にその研ぎ澄まされたセンスが凝縮されている。 A. K. Paul – “Be Honest” Label : Paul Institute Release date : July 27 2020
出会いからEP『Soul Kiss』に至るまで
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18年の歴史を紐解く more