2020/11/11
3rd EP『Diary』より
ギャルサーZoomgalsのメンバーとしても活動するラッパー valkneeが、9⽉に発表した3rd EP『Diary』に収録の「FAKE BALENCIAGA」を、Maltine RecordsからデビューEPをリリースし、注⽬を集めるピアノ男とnoripiによる高速変造RAVEユニット「RYOKO 2000」がリミックス。
ハードコアリミックスと謳いつつも展開の緩急と、冒頭と中盤のサンプリングが特徴的なある意味ドラマチックな楽曲。尚、リミックスのリリースは今後も継続予定とのこと。ジャンルを超えたアーティストとvalkneeとのコラボレーションに要注⽬。
valknee – “FAKE BALENCIAGA (RYOKO2000 SWEET 16 BLUES mix)”
Release date : 11 November 2020
Stream : https://linkco.re/msnqQFRF
category:NEWS
2020/03/23
HARDCORE WILL NEVER DIE 2019年は「FREE RAVE」、「ADM1317」、WWWのニューイヤーパーティー「INTO THE 2020」、AVYSSの一周年記念パーティーなど、様々なパーティーに出演し、フロアに熱狂と混沌をもたらしたピアノ男とnoripiによる高速変造RAVEユニット”リョウコ2000″。TohjiとgummyboyらによるMall Boyzの楽曲「Mallin’」のリミックスも話題になり、今年1月には待望のデビューEP『Parasitic Dominator』を〈Maltine Records〉からリリース。そんなリョウコ2000の2人に、過去の個人活動からリョウコ2000結成経緯、さらにデビューEPについてメールインタビューを行なった。 – リョウコ2000の活動がスタートする以前から2人はそれぞれ個人で活動してますが、どのような活動を行なっていたんでしょうか? ピアノ男:中学生の頃はニコニコ動画でMAD動画を作っていました。その流れで、ナードコアテクノという日本発のムーヴメントをベースに、いわゆる「ネタモノ」と呼ばれてしまうようなガバ・ジャングル・トランスなどを作り、ライブをして、別名義でガバより極端に高速な「スピードコア」のレーベルに所属して曲をリリースしたり、徒党を組んでインドネシアの高速ダンスミュージック「FUNKOT」の制作・DJもしてきました。触れてきたジャンルがジャンルだけに、学校には音楽の趣味が合う人が全くいなかったので、宣教師のノリでクラブだけではなくライブハウスやスーパーの駐車場でもライブをしてきました。 noripi:一番最初は高校生くらいの時に「epepe」と言う名前でノイズをやってました。クリスチャンマークレーが大好きでレコードプレイヤーをギターみたいに背負ってノイズを搔き鳴らしたり、箸にコンタクトマイク付けてその音にエフェクトかけてご飯を食べる。みたいな足立智美さんに影響受けたインスタレーション的な事とか毎回ライブ内容を変えて地元の青森のライブハウスでやってたんですけど、ほとんど地元の人に相手にされてませんでしたね…。もう一つの今はもう色々事情があって使用できなくなった名義の方は、2015年の秋くらいに当時epepeの活動が若干マンネリ化してて、何か新しい事を始めようと思って始めたのが色々事情があって使用できなくなった名義ですね。あとその当時onomatopeeeさんみたいなスカム的なブレイクコア、ハードコアな人があんまり最近見かけないなと思っていて、今またやり始めたら面白いんじゃないかと思ったのがキッカケで始めました。その後noripiに名義が変わります – 2人の音楽的ルーツについて聞きたいのですが、例えばnoripiだとハードコアやノイズに精通していますよね。 ピアノ男:MAD動画やおもしろフラッシュが好きだったので、そこで使われていた音楽から広がっていきました。MAD動画では音ゲーの曲が使われていることが多く、ガバなどは音ゲー経由で知りました。それから、2009年頃にラジオで知ったのをきっかけにインドネシア・タイ・マレーシア・香港・台湾などアジア各国の土着のダンスミュージックを狂ったように収集するようになりました。出不精ゆえ、まだ現地には行ったことがないのですが…。また、中二病の特性でしょうか、皆が怪訝な顔をしそうなものが好きだったので、日本のスカムミュージックからも強く影響を受けていて、壊れたウクレレを買ったり〈Maltine Records〉に喧嘩を売るネットレーベルを運営したりしてスベっていました。 noripi:中学の部活の先輩で音楽に詳しい人がいて、ジョンゾーンが運営してる〈Tzadik Records〉のCDを大量に持ってて、Fred Frithとか巻上公一、Derek Bailey、Marc Ribotとか貸してもらったり、Merzbow、非常階段、暴力温泉芸者、MASONNA(山崎マゾ)とかノイズミュージックを彼から教えてもらいました。彼とは今音信不通なんですけど、それまでバンドにしか興味がなかった自分にインプロ、現代音楽、ジャズとか幅広く教えてくれた大切な人です。この時に教えてもらったものが今の僕の土台になってます。あとは家から自転車で行ける範囲内に古本屋がいくつかあって、今はもう潰れてしまったお店なんですけど、そこにBURST、STUDIO VOICE、宝島、クイックジャパン、鬼畜系、FOOL’S MATE、DOLLとかのカルチャー、音楽誌のバックナンバーが大量にあったのでひたすら立ち読みしては、高校に上がるまで携帯電話とかPCを持ってなかったので最寄り駅にPCレンタルスペースみたいなのがあったので、古本屋で見た面白そうなバンドとかキーワードを検索して視聴するのが日課でした。あと日本のポップスが一番日常的に聴いていて、どうしても年代的に90年代後半から00年代頭にかけてのポップスに聞きがちになってしまいますが、自分のトラックやmixでどうしても拭いきれないナード感はここから来ているものだと思います。 – 2人は出会いや結成に至った経緯はどのような感じでしたか? ピアノ男:2016年ぐらいに初めてクラブイベントで会ったのですが、一回抱擁を交わしただけで特に何も喋らなかったのを覚えてます。その後しばらくは実にくだらないツイートを飛ばし合ってたようです。ネット弁慶ですね。その後、何故だったのかは忘れたのですが、2人でスプリットアルバムを作りまして、その後2人セットでのイベント出演オファーが来まして、どちらも色々良い塩梅に事が運んだので、名前をつけ継続してユニットを続けていく流れになったんだったと思います。 noripi:元々僕がファンで一方的に聴いてて、一緒に何かやり始めたのは2018年の春に〈M3〉でスプリットCD(『体験版』)を出すのがキッカケですね。その後、僕が毎年夏にasiaで呼ばれてたイベントがあって、毎年僕と僕が今一緒に出たいDJ、トラックメイカーの人と組んで出演するのが恒例行事になってて、その時はユニット名はなかったんですけど今のリョウコ2000の原型ができた感じですね。イベントの時ピアノ男がめちゃくちゃ楽しそうで終わった後に「なんかめっちゃ泣きそうになった」って言われたのがすごいジーンときたのを覚えてます。あとその年の大晦日のナードコアの夜明けにお互い出演オファーが来てて、もうここで声かけなかったら今後誰ともユニット組んだりすることないだろうなと思ってピアノ男を誘ってリョウコ2000が結成された感じです。 – リョウコ2000という名前の由来は? noripi:僕が広末涼子が好きなのとピアノ男が米倉涼子が好きなので「リョウコ」で、あとはBUDDHA BRANDの「大怪我3000」とかゲームのシンプル2000シリーズとか団地レコードのユミコ2000などの4桁数字を最後にくっつけるのが縁起が良いかなと思って「リョウコ2000」になりました。イベントに出るギリギリまで名前が決まってなかったので何も案がなかったらguchonさんの案の「キタノ&タケシ」になってたと思います。 – リョウコ2000にガバのイメージを持つ人は多いと思うのですが、結成当初からガバでいこうみたいな感じだったんですか? ピアノ男:二人ともガバは好きだし、特に私はガバばかり作っていたため、ガバの要素が入ることは暗黙に確定していたと考えられます。しかし、初ライブの時からガバ・オンリーではなかったように思います。例えばADM1317でのMIXでは、ガバはほぼ使っていません。むしろ、最近は我々にガバというイメージだけがつくことを塩梅良く避ける術を模索している面があるかもしれません。ガバといったジャンル名で我々をカテゴライズすることは便利な場合が多く、自分も無意識のうちに多用してしまっていると思います。しかし、私もnoripiもガバ以外のバックグラウンドを持っているし、ガバとしての特徴を持った音楽だけをずっと聴いたり演じたりしていたいわけではないです。ガバという区画だけに我々を収容したくはないかもしれませんね。激しいからバテやすいですし。 noripi:当初はナードなネタにガバ、ジャングル、レイヴ、ブレイクコアなど混ぜ込んだものをやれたらと思ってやり始めました。個人の時も二人の時もなのですがガバ、ジャングル、ブレイクコア、ハードコアは自分たちのルーツでもあるのでそこから極端に離れる事は無いと思いますが、別にそれをメインにやりたい訳では無いですね。最近はイベントとかでいかにガバから離れた所からガバの流れに持っていく過程に興味がありますね。 – リョウコ2000と個人でのDJは、明確に違うものや意識することはありますか? ピアノ男:自分ひとりの時は、他者のことはあまり考えず、自己の内界に潜ってその時に聴きたい音楽や展開を構築しています。ただ全く他者のことを考えないわけではなく、場に居る人々に突然の戸惑いを与えられたらいいなと思って、”外し”や”崩し”、”ふざけ”のエッセンスを加えるようにも心がけているというか、手癖でそうしています。なぜ戸惑いを与えたいかというと、当時バンドを組んでカッコつけた音楽をやっていた人達やその取り巻きに対する私怨が高校生の時に醸成されて、ああいう奴らをシバいたりたいという思いを未だに心の奥底で持っているからかもしれません。ただバンド全体が嫌いというわけではなく、グラインドコアとかよく聴きますけどね。リョウコ2000のほうでは、リョウコとして表現したいことをなるべく汲み取りつつ、イベントの趣旨・雰囲気にも沿うよう、ふざけを適度に抑制・アレンジしています。つまり、リョウコの時のほうは相対的に社会性があるし他者に対するLOVEがあるかもしれません。しらんけど。 noripi:個人の時は自分が今気になる音楽を少しずつ実験的に自分のルーツに織り交ぜつつ、イベントのテーマを見ながらやってる感じです。二人の時はリョウコ2000はピアノ男がキーマンだと勝手に思ってるので、個人で実験的にやってきたものをピアノ男の良さを薄めずにどれだけ織り交ぜて行けるかを考えてやってます。出来ているかは定かですが…。 https://soundcloud.com/ryoko2000/mall-boyz-mallin-ryoko2000-mallin-fantasy-mix – 昨年はMall Boyz「Mallin’」のリミックスも話題になり、Mall Boyzのライブでもリミックスが使用されていましたが、フィードバックはどうでしたか? ピアノ男:音楽の趣味嗜好的に意外な人から「リョウコ2000って知り合い?」と聞かれた、という報告をいくらか聞きます。ガバマニアだけじゃなく、潜在的にはガバが好きなはずだけどガバを知らないというような人にもリーチしたいと昔から思っていたので、素直に嬉しいです。 noripi:今まで僕たちを絶対知らなかったであろう高校生くらいの子たちが結構聞いていてくれたのが素直に嬉しかったですね。 – 今年1月にリリースされたEP『Parasitic Dominator』はどういった経緯で〈Maltine Records〉からリリースされたんですか? ピアノ男:ふざけた音楽ばかり作っていた自分ですが、攻殻機動隊SACを観たのをきっかけに、シリアスな曲を作りたいという気持ちが湧き、そのことをツイートした時がありました。それを見たtomad氏から「シリアスな感じのを出すならマルチネから出しませんか?」と連絡がきました。丁度その頃、noripiとリョウコ2000オリジナルの曲を作りたいという話をしていたので、リョウコ2000でリリースする流れになりました。なぜそのような連絡がきたのかは分かりません。10年近く前にMaltineイベントに出ていたので、接点はありましたが。Maltineは昔はガバやブレイクコアもリリースしていたのですが、最近はそういったリリースがなかったので、狂いを求めてたんじゃないかと勝手に推測しています。 – ガバキックへのこだわりが強いとお聞きしたのですが、今回のEPに使用されているキックもご自身で生成されているんですか? ピアノ男:全てピアノ男製です。このEPを作るにあたり、新規性のあるガバを作ることを意識しました。ですが、私は現行のガバよりも90年代のガバが好きです。そこで、90年代のガバに一旦立ち戻ってブランチを切り、90年代のガバの好きな要素を保ちつつ、他の様々な音楽に寄生しながら現代に向かって変化していったガバをイメージしました。そのためには、やはりガバの素材集などに入っている既存のキックではなく、自分で作る必要があると考えたのです。ガバキックの音色にもそれぞれ向き不向きの曲調がありますから。でも、さほどこだわりは強くないです。曲のテクスチャに合えば何でもいいです。 – ohianaさんが手がけたジャケットも素晴らしいですが、内容を通してイメージのやり取りも行われたんですか?また、手を繋いでるのはリョウコ2000の2人という認識でいいですか? noripi:元々が僕が一方的におひアナさんのファンで、個人で何か作品を制作したらおひアナさんにオファーしようと考えてたのですがなかなか機会がなくて、今回のEPのお誘いが来た時に曲の構成よりも真っ先に絶対に〈Maltine records〉でおひアナさんのジャケットが見たい!と思ってジャケット制作をお願いした感じです。ジャケットはEPのデモを聞いてもらいつつ、山塚アイさんと大竹伸朗さんの「ドンケデリコ」のポップだけど凶悪なコラージュ感にメタルロゴを混ぜたら面白いのではないかとなり、このジャケットになった感じです。 – いつかリョウコ2000がガバをやめる日が来ると思いますか?不安に思いますか? ピアノ男:制作し演じる上では、むしろそのようなカテゴリの柵を取り払って混沌の中に立ち戻り、そのとき表現したい事物や構築したい空気感に合わせて、使用すべき音楽を掘り起こしたいのです。ですが、ガバには我々が好きな要素が多く含まれていることは事実なので、ガバと名乗らずともそのエッセンスは我々のカラーとして残り続けるかもしれません。不安といえば、冬の時代でしょうか。AIやVRが熱いブームと冬の時代を繰り返してきたように、ガバも我々自身もそういった時代を繰り返す可能性はあります。事実、ガバも私も冬の時代はありました。その時々の評価や景気なんぞに左右はされないぞ、と考えているつもりですが、それでもどこか自分でも察知しづらい次元に不安が漂い続ける気がします。ただとにかく柔軟に生存して、コアの灯火だけは絶やさないようにしていきたいものです。 – これまでリョウコ2000の活動を通して印象的だった出来事はありますか? ピアノ男:年越しはいつも実家で家族みんな寝てる中、一人チャットサイトで「あけおめw」とか言ってたので、リョウコ2000の活動で初めて年末年始の渋谷を経験したのですが、人々の元気さに驚きました。あと初日の出後の渋谷のゲボの多さ。もしかしたら渋谷の日常なのかもしれないし、東京に限った話でないかもしれないが、ああいった状態に対して感覚が麻痺してはいけない。 noripi:結局その人には会いませんでしたが出番終わりに僕にプレゼントを渡したいと言う謎のおばさんがピアノ男に尋ねてたみたいで無茶苦茶怖かったです。 – 2人にとってガバとは。 リョウコ2000:HARDCORE WILL NEVER DIE リョウコ2000 – Parasitic Dominator Label : Maltine Records Release date : 20 January 2020 Artwork : ohiana Download : http://maltinerecords.cs8.biz/177.html
2020/01/20
アートワークはohiana それぞれがソロでも活躍するピアノ男とnoripiによる高速変造RAVEユニット”リョウコ2000″がデビューEP『Parasitic Dominator』を本日リリース。 昨年は「FREE RAVE」、「ADM1317」、WWWのニューイヤーパーティー「INTO THE 2020」、AVYSSの一周年記念パーティーなど、様々なパーティーに引っ張りだこだったリョウコ2000。TohjiとgummyboyらによるMall Boyzの楽曲「Mallin’」のリミックスも話題になり、ついに〈Maltine Records〉からリリースされたオリジナル全5曲を収録した本作のアートワークは彼らとも親交が深いohianaが担当。 「やっぱりガバ!いつだってガバ!案の定ガバ!」 Download : http://maltinerecords.cs8.biz/177.html https://soundcloud.com/maltine-record/sets/maru-177-ryoko2000/
2022/03/01
私生活のムードからモードを鳴らす パソコン音楽クラブは3rdアルバム『See-Voice』で、誰もが自己内省を余儀なくされた日常の中に潜むミニマムなノスタルジーを奥ゆかしいソフトなサウンドに委ね描いた。パソコン音楽クラブのこれまでの作品群にはコンセプチュアルな情景が取り巻いているが、本作は近年のパンデミックの影響下における彼らの内面、閉塞感から一歩踏み出すかのような心模様がささやかに紡がれている。 先日リリースされたリミックス・リワーク集『See-Voice Remixes & Reworks』ではオリジナル曲に参加したボーカリストのリワークに加え、川辺素(ミツメ)、Aiobahn、ind_fris、リョウコ2000といったパソコン音楽クラブとシンパシーを感じるアーティストらが参加し、さらなる視点から心理的な像が結ばれた。今回、リミックス・リワーク集のリリースに際し公開された解説サイト上にて「完成前からリミックスを頼みたい」とパソコン音楽クラブからラブコールを受けていたリョウコ2000との対談インタビューが実現。昨今の私生活に漂うムードから両ユニットのコアとなる音楽性についてまで、日本の若手電子音楽家ユニット同士がゆるく深く語り合った。 Text by yukinoise 『See-Voice Remixes & Reworks』のリリースおめでとうございます。今回はリミックスに参加したリョウコ2000との対談ですが、制作のどの段階で彼らにリミックスをお願いしたいと思いましたか? 西山(以下:西):See-Voiceの制作中にリョウコ2000のEP『Travel Guide』がリリースされて、僕と柴田くんがすごい共感したんですよね。曲を聴いたときに立ち上がってくる音の質感や匂い、雰囲気とかが現に自分たちがやりたかったものに通ずる部分があったり、彼らのモードにシンパシーを感じたんです。『See-Voice』収録曲の『海鳴り』は手法的にも近いものがあって、ぜひリョウコ2000が触ったサウンドを聴いてみたいなと思ってリミックスをお願いしました。 noripi(以下:n):自分たちも『See-Voice』を聴いて共感する部分があったのでリミックスをお願いされて素直に嬉しかったです。 お互い共感しあう作品だったということですが、どのようなところに共感しましたか? n:作った側だからこそわかる部分かもしれないけど、2021年のムード感ですかね。 西:コロナ禍を音楽で表現したいわけじゃなくても、コロナ禍で暮らしたり制作をしている以上いまの状況やムードが自然と作品のモードに反映されてしまう気がしてて。僕らは淡々と自粛生活を過ごしていく中で世の中に対して何か発信するなら、コロナ禍で感じた抑圧や大変さではなく、柴田くんや自分自身に内省を投げかけて深みに入っていく作品を作ろうと思いました。リョウコ2000も同じようなアプローチでアルバムを作ってるなという印象を受けましたし、そういう作品が身近なところにはあまりないように感じたんです。 柴田(以下:柴):実は最初『See-Voice』のアートワークを『Travel Guide』やリョウコ2000のアーティスト画像を手掛けてるイラストレーターの竹浪さんに頼もうとしてたんですよね。制作を進めていくうちに水族館の建物のイメージがしっくりきて、僕らのアートワークは水族館の写真に決まりましたが、竹浪さんのイラストにあるフワッとした感じや言葉にできない感情を音楽でやりたいんだろうなというところに僕はシンパシーを感じました。ピアノ男さんがラジオ〈アフター6ジャンクション〉への出演時に『Travel Guide』について「心の旅行」って話してたじゃないですか、あの感じです。 ピアノ男(以下:ピ):このタイトルを名付けたのはnoripiなのでどういう意味なのかは本当のところわからないけど、個人的にはこのトラベルは実際の旅行じゃないんです。制作時は緊急事態宣言も出ててどこにも行けるような状況じゃなかったので、心の中への旅行のような意味づけですね。 n:EP自体には明確なテーマはないんですが、去年のはじめに自分の親が亡くなってしまって急遽実家に帰省していたんですがその移動の新幹線に乗ってる時にタイトルとトラック名が全部思いついてそれを使用してますね。個人的ではありますが自分の親に少なからず向けてるところもあります。あとコロナ禍の真っ只中なのでこのEPを聞いてどこか遠くへ意識を飛ばして欲しいみたいな気持ちもあります。 西:『See-Voice』のタイトルやテーマになっている海もまさに似たような意味づけなんですよ。コロナ禍で旅行にも行けないから海にでも行ってしんどいことから解放されたいなって願望や、エスケーピズムとはちょっと違う内的な感情のメタファーが海や水みたいなものでして。アルバムを通して自分たちの内省や曲ごとの変化を出しつつ、14曲を聴き終えた頃には聴く前より少し自分のマインドが変化しているなって感じを伝えられたらと思いました。『Travel Guide』の旅行感もきっとパソコン音楽クラブが『See-Voice』でやりたかったことと同じベクトルを偶然にも向いてる気がします。 偶然にも近しいムードを感じ取っていたんですね。両者の作品はコロナ禍に対するメッセージ性は前に出てないものの、自己内省的なテーマが強くありコロナ禍が避けても通れぬ道だった印象を受けました。実際、自粛生活や制作中にどのような過ごし方をしていたか知りたいです。 柴:僕はネットカフェばっか行ってました。家にいても気が滅入るだけなので、近所の漫画喫茶でNANAや東京リベンジャーズ、鬼滅の刃とかを全巻読んだりしてましたね。流行りもんなだけあってそりゃ面白いわって思いながら過ごしてました。音楽面だと、ここ1年は激しい音楽をあまり聴かなくなったなと。 n:僕もそうで、クラブで聴きたい音楽を家では聴かないようになりましたね。嫌じゃないんだけどクラブミュージックはクラブで聴きたいというような住み分けが自然とできてしまって。 西:僕はそれが加速しすぎて、家でモニタースピーカーでちゃんと音楽聴こうとするのがしんどくなってきました。最近買ったAppleのHomePodってスピーカーで適当に聴くのがちょうどいい。『See-Voice』や自分で作った曲をそれで聴くと、遠くから流れてくる余韻みたいな聴き方ができて楽です。 ピ:コロナ禍で在宅ワークしてるとしんどいし、しんどい時に激しい音楽なんて聴けるわけがないから自然と耳にするサウンドはそうなっていくよね。去年は特に久石譲の作品とかをよく聴いてました。 西:僕らも電子音楽ってよりかは宅録系やこれベース入ってるのかな?ってくらいのスカスカな音楽を聴いてた気がします。マスタリングされてないんじゃないかってレベルに音圧がしっかり上がってないようなコンピレーションとか。 柴:特に制作中は久石譲やゴンチチ、あと服部克久の音楽畑とかイージーリスニングが生活にフィットしてた。そういうモードや余韻がアルバムに反映されてると思います。 n:新譜ももちろん追ってたけど、中高生のころ聴いていた作品を振り返ってもう一度聴き直すことをしてました。元々好きだった分素直にいいなと感じるだろうし、今の価値観で聴いたらどうなるんだろうなって思ってハマったのが中谷美紀の『私生活』。 柴:あれは最高ですね、前noripiにオススメされて久々に聴いたらめっちゃ良かったですね。 n:去年からいまに至っても空気感を引きずってる。他にもサニーデイサービスみたいなバンド、クラブミュージック以外のサウンドから影響を受けました。唯一クラブ的な影響があるとしたらThe ChameleonのLinksやGood Looking Recordsとかかな。 西:電子音楽やクラブミュージック以外がリファレンスになってるのもお互い一緒ですよね。僕らも制作中はSKETCH SHOWや戸田誠司のソロ作品、柴田くんが勧めてくれたムーンライダーズの鈴木さんが主宰してた水族館レーベルの若手宅録家コンピとかで。イージーリスニングではないけど軽いリズムマシンの上でギターが鳴ってるような音源やMio Fouも聴いてました。電子音楽じゃないところからリバーブの感じを感じを勝手に電子音楽的に捉えて聴いてみたり、自分たちの制作において打ち込みで再現してみたり。生活にフィットする感じが本当に感動的で、まさに私生活ってフィールがありました。 柴:私生活で気になったんですけど、noripiさんの生活リズムって普段どんな感じなんですか? 西:確かにTwitter見てると朝めっちゃ早い生活してるよね。 n:多分ショートスリーパーなんだと思う、ここ3-4年は2時間の睡眠を3セットくらい繰り返してる感じ。なんでこんな生活リズムになったかわからないけどこれが一番落ち着くんですよね。 柴:どういう環境下でそのセットをしてるんですか?ベッドで? n:寝袋で寝てます…。 (一同大爆笑) 西:なんで寝袋になったんですか? n:断捨離にハマってた時期があって、全部捨てちゃおうってモードになってベッドまで捨てました。でも僕ミニマリストではないんですよ、頭をもっとクリアにしたかっただけで。 西:収集してた雑誌を断捨離してるとは話に聞いてたけども、ベッドまで捨ててるとは。 柴:なるほど、部屋にダンプデータが多かったってことですかね。僕も家にベッドがなくてソファベッドで寝てるから同じく2時間くらいで起きちゃうのはわかる。noripiさんも僕みたいに睡眠環境が普通とは違うタイプなんだろうなって思ってたんで、謎がいま解けました。ピアノ男さんは? ピ:普通にベッドです、寝袋は身体痛くなるでしょ。 私生活を含め近いムードを感じ取ってるだけあって、今回の制作にあたって影響を受けたサウンドの雰囲気もリンクする点が多かったんですね。他にも同世代でユニットとして活動されていたりとパソコン音楽クラブとリョウコ2000は重なる点があると思うのですが、両者の音楽的なルーツなどは異なるところにありますよね? n:ルーツでいうとハードコアが2人の基本にありますね。リョウコ2000も当初はいわゆるクラブ的なハードコアやブレイクコア、ガバをやっていくはずだったんですがいまは見え始めたいろんな音楽を自分たちのやれる範囲で取り組んでいます。 ピ:やっぱりハードコアが大きなルーツとなっているけど、僕もnoripiも相当いろんなジャンルの音楽を聴いてきたつもりではあるのでその幅広さも僕らのコアになっている。だから1作目と2作目ではサウンドが全然違いますし、それって触れてきた音楽の幅広さがないとできないことだと思いますね。 ハードコアを軸にしつつなかなかの幅広さがあるところがリョウコ2000の特徴だと思います。普段どのように音楽をディグっているんでしょうか? n:コロナ禍になる前はBandcampを中心にディグっていて、コロナ以降はあまり良くないかもしれませんがYouTubeにフルアルバムを違法アップロードしているチャンネルから探したりしてます。中谷美紀の「私生活」との出会いもYouTubeで、そういうチャンネルはチャンネルごとに色が違っていたり自分の中にない要素まで行き届くようなコンテンツが多くて。最近はYouTubeチャンネルから探すことが多いです。 西:YouTubeは場合によってはサブスクの限界を超えてきてますよね、中谷美紀は「私生活」だけ配信されてないし僕が聴いていたMio Fouもサブスクにはない。YouTubeの外国人のディガーのチャンネルとかはAIのサジェストよりもっと人間の有機的なセレクトがあるし、サブスクのサジェスト機能だけじゃたどり着けない領域まで探せる。 柴:色が強いチャンネルを見てると友達がたくさんCDを貸してくれたような気分になりますね。 ピ:僕は検索大好きなので、AIが気に入りそうなのを出してくれるよりかは友達のBandcampやTwitterのいいね欄から目ぼしいものを見つけて、関連ワードをどんどん調べていってます。友達のCD棚を勝手に漁ってる感覚に近い。 柴:パソコン音楽クラブのルーツはなんだろう…僕自身は音楽じゃなくて「ぼくのなつやすみ2」ってゲームが好きで、小学生の頃は将来これを作れたらいいなって思ってました。あれってストーリーはあるけどどちらかと言えば雰囲気のゲームで、いま音楽やってるのも雰囲気が作りたくてやってる感じです。打ち込みかつ2人だったらバンドよりも雰囲気作りができるなと思って。そういう話を西山くんとよくしてます。 西:ジャンルとかで音楽を理解してるんじゃなく、いろいろなものを聴いてそこから共通点を勝手に見出してその雰囲気の集合体から曲を作ってる気がしますね。イージーリスニングや宅録系のリバーブの感じを思い込みで電子音楽っぽくしたりしちゃっても、それを認めてくれるのが柴田くん。他のアーティストやちゃんとDJやってる人から見たら怒られそうだけど、パソコン音楽クラブはジャンルに根差しすぎすお互い自由にのびのびやれてるところがコアになってるかも。 柴:自分たちのフィール、モードでやってる感じですね。人が作品から何かを感じるときって、どうしてそういう感覚が立ち上がったのかを直線的に説明するのはあまりにパーソナルすぎて大変なんじゃないのかと思っていて。そのパーソナル具合を紐解いて行って音楽を作るとなると、どうしても音楽性みたいなものの幅は広くなってしまう。音から立ち上がってくる匂いや共通項で語りたい。 西:でもパソコン音楽クラブのテクノ感は柴田くんが作ってるよね。DJツール的なテクノってよりかもっとリスニングに接近した中域多めの、TRANSONIC RECORDSっぽさやフュージョン感あるような打ち込み要素が入ってくるジャパニーズテクノ。それからパソコン音楽クラブはいい意味でジャンルの意味やテクスチャーの解釈を勘違いしているような音楽を意識的にやっています、そういうアーティストがいてもいいと思うんです。 後編へ続く — パソコン音楽クラブ プレイリスト
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