LISACHRIS Interview

自分である為の表現と理想の在り方へ。

 

 

Interviewed by 小野田雄

 

LISACHRISのこれまでの活動をざっくりと振り返ると、2016年末にビートメイカーとして所属していたYENTOWNを脱退し、ソロでの音楽活動に専念。その成果は、ゲストを迎えず、トラックメイカーとしての可能性を一人で突き詰めた2018年4月のファーストEP『ARIAKE』とそのトラックにラッパーをフィーチャーしたり、リミキサーが手を加えた同年10月のEP『ARIAGAIN』という形で発表されましたが、今回完成した初のフルアルバム『Akasaka』までの流れは以前から考えられていたんですか?

 

LISACHRIS – 『ARIAGAIN』に関しては、『ARIAKE』を作っていた時から考えていたんですけど、その2作から今回のアルバムへの流れは全く考えていなくて。『ARIAGAIN』の制作を進めながら取り掛かっていた次の作品がアルバムに発展していった感じなんです。というのも私はアルバムを出そうと思って曲作りをしているというより、その時々の記録して曲作りをしていて。今回の作品に関しては、古くは2017年、一番最近のものだと2018年の年末までの曲が入っていて、つまり、このアルバムは私にとって過去2年の記録なんです。

 

– では、LISACHRISにとって、その2年はどういう期間でした?

 

LISACHRIS – 『ARIAKE』までは、仕事をしつつ、遊びつつ、音楽制作をしていた時期の記録、それ以降の曲は仕事を辞めて、音楽に専念して作ったもの。いま振り返ると本当に孤独な作業で、自分がとことん試されましたね。

 

– 音楽に専念するようになってから、一日をどう過ごしていたんですか?

 

LISACHRIS – 昼くらいに起きたら、まず、ヨガをして自分を整えて、食事をした後、公園に行って陽を浴び、その後、音楽制作に没頭するというルーティーンを毎日続けていました。音楽制作は本当の自分を出す勝負なので、制作中、自分が出せたなという手応えを感じたら、30分くらい寝て、また起きて制作に向かうという繰り返しを明け方近くまで続けるっていう。

 

– LISACHRISはラッパーにビートを提供するプロデューサーでもありますが、ご自分の作品を作る時と制作のモードは一緒なのか、それとも大きく違うものなのか。

 

LISACHRIS – 提供曲に関して、その方向性を決めるのはラッパーやシンガーなので、私が作っている段階では何かを意図することはなく、何も考えず、手を動かして形にしているんですよ。それに対して、自分の作品は“みんなに聴いてもらうにはどうしたらいいんだろう?”ということを考えますし、今回の作品に関しては、“今の自分を表現したい”と思って制作に臨んでいましたね。

 

– 今の自分とは?

 

LISACHRIS – 振り返ると『ARIAKE』の頃は精神的に子供だったというか、その頃と比べると、人との関係を通して、自分が分かってきて、今は自立した気持ちというか、そういう自分を愛せるようになったんです。

 

– まず、今回の作品が以前と大きく違うところは、かつてはインストゥルメンタルを指向していたLISACHRISが初めて自ら歌い、ラップしているところ。その変化はどのようにもたらされたんでしょう?

 

LISACHRIS – 一人で制作していると、3、4日、人と喋らないということが普通にあって。だから、“よし、歌おう”と思ったわけではなく、自然とマイクに向かってしまった感じなんです。あまりに喋らないと喋りたくなるというか、自然と発声したくなるものなんだなって(笑)。そして、もちろん、日々を過ごすなかで、世の中に対して言いたいことがあったというか、自分が理想とする世界になったらいいなという思いが強かったから、思わず歌ってしまったのかなって。その最中は何も考えず、声を出すのが楽しくて、夢中になって取り組んでいたんですけど、全ての作業が終わった今、当時のことを振り返ると、そういうことだったんじゃないかなって思いますね。

 

– さらに、全てを一人で完結させた『ARIAKE』からリミキサーやラッパーが加わった『ARIAGAIN』、そして、今回はもっと踏み込んで、楽曲制作の段階からゲストや色んなスタッフが関わった作品になっていますよね。

 

LISACHRIS – そうですね。人が関わるようになったのは、一人の作業があまりに寂しすぎたんですよ(笑)。でも、寂しいなんて言ってられないなと思って、寂しいんだったら、自分から働きかけて仲間を作ればいいじゃないって。そういう側面もありましたし、音楽が自分のライフワークになったわけだから、その仕事を色んな人と楽しもうと思ったんです。以前はプロデューサーに強い憧れを持っていたので、全てを自分でコントロールして、ヤバいインストゥルメンタルを作りたいと思っていたんですけど、考え方が変わったことで、“私はひとりでやるのよ!”っていう過剰なこだわりがなくなりましたし、人と一緒に曲を作ることで、自分一人では出てこないものが生まれることや自分のヴァイブスを分かってくれる人がいるということに感動しましたね。

 

– 今回、楽曲のあちこちに散りばめられているギターは、ロックバンド、Yüksen Buyers HouseのTaiki Aiyoshiくんによるものなんですよね?

 

LISACHRIS – はい。彼は私の曲を好きで聴いてくれていてたみたいで、初めて会った時に“ギターを入れることがあったら、絶対、俺を使ってください”って言ってくれて。当初は曲を作っている時に自分が弾いて欲しいフレーズやイメージがあって、その通りに弾いてもらっていたんですけど、途中からトラックに合わせて、アドリブで弾いてもらったプレイが素晴らしいことに気づいて、自分の音ばかりを押しつけるより、彼から生まれたアイデアを聴いた方がいいと思ったし、一人のヴァイブスより二人のヴァイブスを入れたら曲が化けるんじゃないかなって考えるようになったんです。

 

– Instagramでご自身もギターを手にしている写真を見かけたんですが……。

 

LISACHRIS – あ、そうそう。まだ単音しか弾けないんですけど、自分で弾いたフレーズも使ってますね。Taikiのギターを聴いているうちに、自分はやっぱりギターの音が好きなんだなって思いましたし、今一番やりたいのはギターですね。子供の頃、ピアノとサックスを弾いていたことがあるんですけど、次の作品では、コードを覚えて、もっとギターが弾けるようになったら、作品も進化するだろうし、ライブもやりやすくなるんじゃないかなって。

 

– どういったライブを想定しているんですか?

 

LISACHRIS – ギター、ベース、キーボード、ドラムからなるバンド編成で、私は歌とサンプラー、ゆくゆくはギターを弾きたいと思ってます。今のマネージメント事務所に入ってから環境ががらっと変わって、バンドセットでライブをやっているRyohuDYGLだったり、周りにバンドをやってる人たちが増えたことが大きくて。私もライブを通じて、今以上に音楽を楽しみたいし、誰かと合奏したいなって思うようになったんです。

 

– 今回の曲作りにおいて、ライブも念頭にあったんですか?

 

LISACHRIS – そうですね。ビートに関しては、“この曲はこういう曲ですよ”ということを伝える羅針盤であって、ドラムで再現することは全く考えなかったんですけど、ギターを入れたのもライブが念頭にあってのことですし、ベースもライブの生演奏で再現できそうな音を意識することが多かったです。一つの集大成として3/30に行うアルバムリリース記念ライブにてバンドセットを披露したいと思ってます。

 

– 楽曲制作に関して、『ARIAKE』の時は、例えば、デートの時に見た風景やその時の感情を音色やフレーズ、展開を通じて、インストゥルメンタルに投影していたそうですが、その作り方に変化はありましたか?

 

LISACHRIS – いや、そこは変わってないです。例えば、1曲目の“MYCHY MAUS”はタイトルそのままにミッキーマウスの曲なんですけど、曲中でどんどん展開していく構成は、ミッキーマウスの古いアニメの展開の早さをイメージしましたし、冒頭の怪しいパートはディズニーランド特有のトリッピーなムードを自分なりに変換したものだったりして。2曲目の“paisen”は、トラックに関していうと、ロカビリーをイメージしたものなんですよ。ドラムもベースもすごい気に入ったものが出来たので、ここに歌を入れようと思って、あれこれ考えているなかで、“先輩”っていう発想は日本ならではのもので、考えれば考えるほど面白いし、自分も誰かの先輩になるんだろうなって。だから、そんな自分へのエールでもあり、私だけじゃなく、みんなにも先輩がいるし、誰かの先輩になるじゃないですか。だから、みんなにも向けた曲になっていますね。

 

– そして、今回のアルバムには“Katari”と題された3曲のインタールードが収録されていますが、曲名に番号が振られていますけど、番号順には並んでいませんよね。

 

LISACHRIS – どうして、そうなっているのかは内緒ですなんですけど(笑)、話が前後する映画『スターウォーズ』シリーズをイメージしたもらえればと思います。

 

– 続く“ame”“ashra”2曲にはUCARY & THE VALENTINEをフィーチャーしていますが、彼女が参加することになった経緯は?

 

LISACHRIS – UCARYは、3、4年前にNeoL編集長の桑原さんに紹介してもらって、そこから少しずつ会うようになり、2017年にReebokの広告仕事で2人で一緒に”6.2次元”という曲を作ったのが最初です。そして、今回の2曲に関しては、ヴォーカルチューンをイメージして私一人で作っていた曲で、サビは出来ていたんですけど、その頃、歌い始めたばかりで、サビ以外のメロディがなかなか思い浮かばなかったので、UCARYに“一緒にやってくれない?”とお願いして、2人の間でデータを何往復かやり取りして完成させたんですけど、ずっと曲作りをしているだけあって、彼女の作業スピードが速くて、さすがだなと思いましたし、彼女が作ってくれたメロディを軸に、新しいメロディと歌詞が思い浮かんで、私にとってはかなり刺激的なコラボレーションになりました。この2曲はLISACHRISのなかでのアニメの主題歌を意識して作ったものなんですけど、“ame”は“それは本来のあなた、私じゃないな”と思う出来事が重なって、そういう気持ちを浄化するために作った曲で、“ashra”では人とのお別れした時に感じたこと、もっと気を遣わずに叱って欲しかったなという気持ちを歌いました。どちらも歌に濃密な感情やメッセージが感じられる曲になったと思いますね。

 

– 7曲目の“Offline”はオリエンタルでトリッピーなインストゥルメンタルですが、タイトルは携帯やパソコンで浸食された日常を示唆しているようで何やら意味深そうですね。

 

LISACHRIS – アルバムを作り終えた後、気づいたんですけど、この曲は“ame”とテーマが近くて、画面のなかの自分は本当の自分じゃないでしょって。例えば、ライブに行っても、めっちゃ盛り上がってる瞬間なのに、みんな、カメラを頭上に上げて、写真を撮ったり、動画を撮っているのが当たり前になっていて、それって、本当にライブを見てるのかなって。まぁ、そんなものなのかもしれないなと思ったり、いや、そんなものじゃなくね?とも思ったり。あと、電車もそうですよね。車内の7割くらいの人が携帯を見ていて、現実はもっと広いのに、携帯画面がその人の世界になってしまっているような気がして。去年、下半期はそういうことを考えて、かなり病んだんですけど、本来の現実や自分を取り戻して欲しいというのがこのアルバムにおけるメッセージですね。

 

– 8曲目のサワゴゼでは、昨年リリースしたアルバム『KESHIKI』にLISACHRISがビートを提供していたラッパーの5lackをフィーチャーしていますね。

 

LISACHRIS – そうですね。今回、福岡のレーベル、OILWORKS Rec.から作品を出すことになったのも(本作のアートワークを手がけるOILWORKS主宰の)POPYOILさんと福岡で会ったからですし、5lackさんと会ったのも福岡の現場だったんです。その時に「トラックちょうだいって言われて」作り貯めていたトラックをお渡ししたら、『KESHIKI』で使ってくれて。サワゴゼに関しては、アルバムを作っている最中に気分転換でビートを作っていたら、スタッフから“5lackさんに参加してもらったら?”って言われて、それはいいアイデアだなって。5lackさんは、すごいグサッと来るというか、みんなが心の奥底で思っていながら、言葉にしなかったことをラップしますし、それでいつつ、テキトーなところがみんなを救ってる人ですよね。今回、私がラップすることになったのも5lackさんの提案なんですよ。それによって新たな道が開かれたので、そういう意味でもめちゃ感謝してますね。

 

– 今回、ビートメイカーとして認識されていたLISACHRISが初めて歌ったり、ラップしたりしていて、多くのリスナーが驚くと思うんですけど、マイクを握った経緯はあくまで自然な流れだったんですね。初めて、ラップしてみていかがでしたか?

 

LISACHRIS – ラッパーの声の出し方は、自分のなかの(“イケてる”、“かっこいい”を意味する)SWAGを絞り出して、それを肯定することなんだと再認識しましたね。ビートを提供するうえで、そういう認識に立つことで、より良いものが生まれるんじゃないかなって思いますし、今後はビートを提供するだけじゃなく、提供されたいなって(笑)。

 

– そう考えると、この作品は、その表現領域がビートにとどまらず、楽器を弾いたり、バンドをやったり、歌ったり、ラップをしたり、もっと広い意味でのアートを指向するきっかけとなったアルバムだ、と。

 

LISACHRIS – そうですね。音楽は自分の天職だと思ってますし、才能や可能性があるんだったら、それを生かさなきゃ損だなって考えられるようになりましたね。

 

– そして、ギターとボーカルを活かした“Electro Fujikoはアルバム本編を締め括るに相応しいメロウな楽曲になっています。

 

LISACHRIS – 『ARIAKE』制作時、“ru a samurai”は石川五右衛門、“Lupin”はタイトルそのままにルパンだったり、ルパン三世に出てくるキャラクターをモチーフにした曲をそれぞれ作っていたんですけど、途中で挫折したんですね。この曲はその流れを汲んだもので、峰不二子がモチーフになっているんです。この曲でアルバム本編が終わって、アルバムのインストと(OILWORKS主宰の)Olive Oilさんによる“サワゴゼ”のリミックスはボーナストラック的な位置づけなんですけど、私はインストがすごい好きだし、このインストを使って誰かラップなり、歌なりを乗せてくれないかなという期待を込めて、インストを収録することにしたんです。

 

– インストはビートメイカーらしくもありますし、このインストを使って、リスナーがリアクション出来るという意味で、LISACHRISの今の開かれたモードを象徴しているかのようでもありますよね。そして、このアルバムは、かつて所属していたYENTOWNのプロデューサー、Chaki Zuluが作品をまとめるためのサウンド・ディレクション、ミックス、マスタリングを手がけていますが、どういった理由から彼にお願いしたんでしょうか?

 

LISACHRIS – より多くの人に聴いてもらえるように、プロ中のプロであるChakiさんにお願いしました。曲の長さを短くしたり、ビートの組み方を助言してもらったり、ミックス、マスタリングを通じて、今の音にしてもらったり、キラキラさせてもらったり。そして、もちろん、Chakiさんとの作業を通じて、色んなことを学びたかったということもあります。

 

– そうやって作り上げた今回のアルバムはポップスからアッパーなラップチューン、メロウな楽曲まで、ビートもジャンルを超えて色んなタイプがありますし、ご自身で歌い、ラップし、ライブを想定して、生楽器を入れたりと、現在、想像しうる色んな可能性をアーティストとして切り開いた作品になっています。その音楽性に関して、一言では形容しがたくもありますが、現行トレンドの模倣ではなく、果敢にオリジナリティを模索しているところにLISACHRISの志の高さを感じました。

 

LISACHRIS – ありがとうございます。私には流行りを真似する意味が全く分からない。模倣だけはやりたくなかったし、あくまで自分というジャンルを広げていきたかったんです。私が子供の頃から大好きなクイーンも色んなことをやっててオリジナルな存在ですし、ここ最近だとOGRE YOU ASSHOLEに食らいましたね。まず、歌詞がヤバかったし、お客さんのアティチュードも含めて、ライブもヤバくて、彼らのようなワン&オンリーな在り方が今の私にとっての理想なんですよ。あとは私が私であるために作ったこのアルバムを自由に楽しんで欲しいですね。特にビートには私らしさがあると思うので、それを感じてもらえたらうれしいです。

 

 

 

2019.03.30.(sat)

Venue CIRCUS TOKYO

OPEN&START 17:00 / CLOSE 21:00

ADV 2,800 / DOOR 3,400

 

ACT:

LISACHRIS (Elto Klinhersz Band Set)

Olive Oil (OILWORKS)

dosing (Crew set)

TAITAN MAN(Dos Monos) & GUCCIGANG ((株)十六小節)

 

VJ:

POPYOIL (OILWORKS)

 

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