2018/11/28
Teen Runnings、Young Agings、Sauna Cool、金子尚太の現在。
金子尚太は、2010年に自身のプロジェクト/バンドFriendsとしてカセットEP『Young Days Forever』でデビュー。後にTeen Runningsと改名し、京都のレーベルSecond Royalから2012年に『Let’s Get Together Again』、2014年に『NOW』という、2枚のアルバムをリリースした。その後、自身が主宰するレーベルSauna Coolの活動を始めるが、2016年にTeen Runningsが一旦終了し、カナダへ移住、さらに現在は地元神戸に移ったようだ。今回は11/28にSauna Coolからリリースされる金子の別名義Young Agingsの作品のことを中心にメールインタビューを行った。Cuz Me Pain周辺、Hotel Mexico、möscow çlub、SUPER VHS、といった名前が並ぶシーンの中に存在し、現在のDYGLやTAWINGSといったバンドまで続く日本のインディ(インディーズという意味ではない)シーンの文脈に名を残している金子の活動や作品。そんな文脈なんか知らなくても、現行の日本のインディは楽しめる。楽しめるけど、知っているとそういった音楽を楽しむ生活が少しだけ豊かになる気がするのだが、どうだろう。
– 元気ですか?
金子尚太(以下、金子) – 元気ではない時の方が多いです。
– なぜこのタイミングでTeen Runningsではなく、Young Agingsの作品をリリースしようと思ったのですか?
金子 – 東京、カナダを経て地元の神戸に帰ってきて、何か外から見える動きが必要だなと思ったのですが、カナダで作ったTeen Runningsの新しい曲はまだまだリリースできる段階ではないですし、Teen Runningsの新しいモードについて考えて、それにとらわれすぎることがあって、一旦、頭をリセットするためにYoung Agingsの曲をサラッと作ってみようと思いました。リリースしたいアーティストがほとんどいないのと、Young Agingsをいつかリリースしたいという考えがタイミングよくハマってリリースに至りました。
– そもそもTeen RunningsとYoung Agingsの違いや、すみ分けを教えてください。
金子 – Young Agingsは遊びのプロジェクトみたいなものですね。はじまりは2012年頃にSUPER VHSの入岡くんと「日本のアーティストであまり良いのいないね」と話していて、そこから遊びでFANTASINGという架空のレーベルを作って入岡くんのTALONと一緒にスプリットを発表していました。ほとんど誰も聴いていませんでしたが。あと、先ほど書いたことと関連しますが、Teen Runningsは色々考えてメロディー、コード進行、リズムが被らないように悩みながら作っているのに対して、Young Agingsは降りてきたメロディーを出来るだけ考えずにアレンジも適当でやっています。自分の中では頭のリセットや息抜きで楽しんで作っているので、コード進行などの手癖はかなり出ていると思います。また、自分の目指すTeen Runningsの音が変わっていっているので、カナダで作ったTeen Runningsの新しい曲のデモを聴いてもらえると、音の違いはかなりハッキリ出ていますね。
– 今作にも収録されている『Stars』のクリスマス感好きです。すみません、ただの感想です。
金子 – ありがとうございます。あれはFANTASINGのクリスマスEPに入っていたものの再録なのですが、Bメロは完全にSerena Maneeshの『Sapphire Eyes』をリファレンスにしたほぼパクリのメロディーなのですが、あとで聞き返してみたらThe Christmas Songという超有名な歌のメロディーとも似ていて・・・。手癖とかで曲を作っていると、直近の記憶から出てしまうことがたまにありますね。今回は2つの曲と被っているので逆転無罪かなと思って開き直っています。
– 今回のEP『Before I Go』はUSオルタナギターロック的な印象が少しありました。コンセプトはありますか?特に『You』に関しては良い意味で日本の叙情的なメロディーラインもアクセントになっています。
金子 – Young Agingsのコンセプトはシューゲイザーのような音楽をガレージのバンドの構成で演奏するというもので、シンプルでいてドラマティックな感じだと自分では思っています。でもおそらく直接影響を受けているものは20歳ぐらいの時によく聴いていたKyteやAlbum Leafなどのエレクトロニカやポストロックですね。You Found Meはその頃に作った曲ですし。あとはThe Get Up Kids、Jimmy Eat Worldなどのエモコアな空気ですね。日本のHusking Beeも入るかもしれませんね。音的にあまり無いものだと思っていたので、USオルタナと聞いて「なるほど、そう聴こえるのか」と思いました。『You』が日本的に聴こえるのはメロディーの起伏が激しいからだと思います。日本語詞も乗りやすいかなと。My Little Loverの『Destiny』や『Now And Then』のゴシックな曲が好きなので、その影響もかなり出ていると思います。
– 日本語詞に挑戦しようとは考えていたりしますか?
金子 – そうですね。近い将来、日本語詞で何かやろうとは思っています。また別名義にしますが。自分の曲は英語詞が乗りやすいメロディーなので英語で歌っています。それでも毎回母国語ではない英語で詞を作っていると、行き詰まったときに本当に時間がかかってしまって。今回の詞の内容は我ながらうまく表現できたと思っていますが、英語である以上、表現が直接伝わらないのがもどかしいなと思って、ますます日本語でやることへの興味が湧いてきましたね。
– 最近どんな音楽聴いていますか?
金子 – 恥ずかしいですが、Young Agingsをまとめた音源にしたかったので、出来上がった音源を聴いて自己肯定感を高めています。日常的には、移動中に聴くもの、お店で流すもの、ジョギング中に聴くものでだいぶ変わってくるのですが、新しいのをちょっとずつではなく、耳馴染みの良いものを回しながらよく聴く感じです。お店だと最近はJerry Paper、Dent May、Happynessとか、バラバラですがメロディーがあってうるさくない感じで。片付けの時は今年出たArctic Monkeysの新譜をよく流していました。これはリリース当時観終わったばかりのオルタードカーボンというNetflixのドラマのゴスな空気感とぴったりはまって。リズムのノリがすごくいいアルバムですよ。誰も聴いてくれませんが。ジョギング中だとSoundcloudにあるRoss From Friendsのmixとか90年代ジャパニーズヒップホップのmixとか、あとはメロコアで疾走感を演出しますね。Teen RunningsのリファレンスになるものもたまにYouTubeとかで掘ります。
– やはり90sメロコアからの影響は強いのですか?オススメのバンド教えてください。
金子 – そうですね。10代の頃に聴いていたのですが、その頃のものはずっと聴いていますね。とにかく良いメロディーにこだわるという点ではそうかもしれないですね。あと疾走感とか潔さ。Suicide Machinesのベースラインはめちゃくちゃ影響受けましたし、Useless IDの日本的メロディーはめっちゃハマりましたし、Alkaline Trioのゴスだけど3rdのジャンル分けしづらいメロディーラインが最近好きですし4th、5thのドラマチックな感じも好きですね。今回の作品の曲でメロコア界の異端児Bracketの曲をリファレンスにしたものもあります。他にもオススメはあるのですが、今も当時も「メロコア=ダサい」という考えは根強いので肩身が狭く「これかっこいいから聴いて」なんて言ったことなくて・・・。ただ、本当にダサいのもあって、メロコアとかパンクのジャンルは入りはじめにダサいバンドやアルバムを選んでしまうと嫌いになってしまうので、オススメは僕に直接聞いていただければ良いの教えますので。
– 今挙げてもらったバンドだとSuicide Machines以外は90年代から現在もまだ活動していますよね。ジャンルやシーンは違えど、海外のバンドは長く続けていける土壌があって羨ましいですね。
金子 – 本当にそうですよね。ローカルの繋がりもあると思いますが、自分のように世界のどこかで今も聴き続けている人がいるというのがすごく大きいんだと思います。だからこそ、自分も流行りはしなくてもいいので、長く聴き続けられるクオリティのものをアーティストとしてもレーベルとしても出し続けたいと思っています。
– 時系列を遡りますが、2016年Teen Runningsの日本での活動を一旦終えました。なぜですか?
金子 – 2010年ぐらいからやってきて、ある程度日本の業界のシステムみたいなのが分かって、2014年にリリースした『NOW』がウケなければ地元に帰ろうと思っていました。周りや業界のウケはよかったと思いますが、やはり横の繋がりが少なかったので、フェスなどほとんど呼ばれず今まで通りの活動に戻って。でも『NOW』のジャケットをせっかく永井博さんに描いてもらったのだから辞めるのはもったいないな、と思い、来日時に交流したTOPSの話を聞いて、じゃあ最後にカナダに行ってみようと思いました。
– その後、カナダに短期間移住しましたが、カナダでの生活はどうでしたか?何か得たものはありますか?
金子 – 9月から行ったのですが、3月ぐらいまで外が寒すぎてほとんど出られず、ほぼ部屋で曲を作るだけの生活でしたね。暖かくなりはじめた4月からライブに誘われて、それを観た人がまたライブに誘ってくれたり、気に入って2回ライブ観にきてくれた人がいたり。ライブは3〜4回やって、友達の友達に9月のライブを誘われたのですが8月に帰ることになっていたので、それは断りました。音楽に対する自分の限界が見えたような気がしていたし、たとえばカナダの日本食レストランで働いたりしてまで続けるのは違うなと思っていたので。生活に関しては、冬は寒すぎてイベントをやってない時期もありましたが、アメリカのバンドのライブを1000円とかでたくさん観れたのは大きかったです。色々あったのですが、やはりモントリオールに住んでいる人たち、街や公園などの空気感、夜の街の感じなど、言葉では説明できない部分で得られるものがたくさんありましたね。僕自身「せっかく来たのだから有意義に過ごそう」と考えていたのですが、日本での生活のように無為に過ごした日々も自分の中に何かを残していったんだなと実感します。これは実際に体験してみないと理解しづらいかなと思います。
– 以前AVYSSでArbutus RecordsのファウンダーであるSebastian Cowanのインタビューを行ってもらったのですが、Arbutus周辺と親交があったんですか?
金子 – そうですね。先に書いたTOPSの来日時に、無理やりイベントをねじ込ませてもらって、そのときにマネージャーって人に連絡したらそれがセバスチャンで、『NOW』の音源を送って「TOPSと共演させてくれ」って書いたら音源を気に入ってくれて。TOPSは来日時に原宿を案内して、カナダに行った時も初ライブを観に来てくれたりハウスパーティーに呼んでくれたり、他にもありましたが色々よくしてもらいました。セバスチャンの弟でBlue Hawaiiのアレックスも、Arbutusのスタッフもよくしてくれましたね。みんな本当にいい人でしたよ。
– 年上の女性から好かれるタイプじゃないですか?
金子 – いきなり何なんですか。女性とふれあう機会が少ないので分からないです。
– すみません。
金子 – そういう話、嫌いじゃないですよ。
– 現在Sauna Cool、Teen Runnings共に動き始めていますが、今後も継続的に活動していくのですか?
金子 – 一応そのつもりです。Sauna Coolは常にアーティストを探していますね。カセットリリースでハードルは下がりましたし、figureやYoung Agingsのようなプロジェクトをリリースすることで、ジャンルの幅も広げられたと思います。地元の神戸や関西のアーティストもできればリリースしていきたいですね。一緒にイベントもやりたいですし。Teen Runningsはひとまずカナダで作った曲たちを成仏させたいので、来年夏頃にリリースできたらな、と思っています。あ、自分は曲をリリースすることを成仏させることだと思っています。なんていうか、曲って自分の記憶の断片なので、「こんなことありましたよ〜」って空中に骨か何かを撒くイメージなんですよ。それを成仏というのか分からないのですが。話が逸れましたが、それ以降は未定で、他にやりたい音楽があるのでそちらに振れていくかもしれませんが、またTeen Runningsで作りたくなる時が来たら作ると思います。
– Sauna CoolのfigureのカセットEP『Parakalein』について聞かせてください。figureは決して活動的なプロジェクトではありませんが、なぜリリースに至ったんでしょうか。
金子 – 東京、カナダを経て地元の神戸に帰ってきて、サウナクールの活動をもっと活発にしようと思って、それでもアクティブでないアーティストはCDリリースしないことになっていて、それだとリリースのペースがかなり遅くなる。レーベルのお手伝いをしてくれているディスクユニオンの担当の方に相談したところ、カセットという形で僕個人での販売ということなら大丈夫と教えていただき、それからアーティスト探しを進めていました。自分の知り合いの中には良い音楽をしていても認知されていない人がいて、今こそリリースを進めるときだなと思いました。figureの長谷部さんは元々顔見知りの関係でfigureというプロジェクトも知っていて、改めてSoundcloudの音源を聴いたときに「リズムが気になるけど、整理すればかなり良くなる」というイメージが湧いたので声をかけさせていただきました。
– それでリズムは整理されたんですか?
金子 – そうですね。ミックスを担当してくださったHARVARDのヤック(植田康文)さんの細かな作業によって整理されました。僕は「インディだからインディな感じでいい」みたいなのはあまり好きではなくて、何がきっかけで誰に聴かれるか分からないので、広く長く聴かれるようにそういうのに耐えうる音源を出したいと思っています。今の時代、どのバンドも音が綺麗ですし何の問題もないのですが、僕らの世代はローファイが流行った時期と被っているので、その辺の認識が甘いんですよね。
– あなたはUSインディシーンが大きく動き始めた2009年、2010年以降の日本で、Cuz Me Pain、Hotel Mexico、または『Ç86』に収録されているアーティスト共に海外のシーンと同水準で共振していました。あの頃を振り返ってみてどうですか?振り返りたくないですか?
金子 – Cuz Me PainやHotel Mexicoの活動を近くで見ていて、アティテュードや音楽面で優れているものがあっても、日本でやっていくには横の繋がりや大人の力、その他様々な条件が揃わなければどうにもならないと、そのとき思い知りましたね。当時のインディーで誰もなし得ていなかったHotel Mexicoや佐久間さんのプロジェクトJesse Ruinsの海外リリースも日本のメディアは見て見ぬ振りで、全てが盛り上がっていく条件が揃っていたはずなのに決定打がなく、徐々に忘れ去られていったように思います。インターネット系の人たちと違い、SNSへの接し方もクールな印象があるので、その辺も遠因としてあったのかもしれませんね。
– 日本の土壌を少しは耕したかもしれませんが、確かに”大人の力”と呼ばれるものは皆無だった気がします。レコード会社やメディアを含めて、アーティストをサポートする側が新しい音楽やシーンを知らないことが多いですかね。
金子 – そうですね。海外だと、そのクールな感じに、耳の早い大人が気づいてすぐに接触すると思うのですが、日本だとやはりそういうわけにはいかないですからね。個人的には、その教訓を生かして、レーベルをやるときにはかなりポップな印象や姿勢でいることに努めていますね。
– サウナクールミニを始めた経緯について聞かせてください。いつも店頭にいるのですか?というか何屋ですか?
金子 – 母親が副業でやっていた飲食店がありまして。いつもお客さんがほとんど入っていなくて勿体ないなとは思っていて。カナダから帰国後ぼんやりと「いつか自分の好きなものに囲まれた店をやりたいな」と考えていたので、ダメ元で言ったら「じゃあやってみな」と言われたので始めました。居抜きなのでほとんど費用はかかっていません。1人でやっているのでいつも店にいます。一応、たこ焼きなどを扱った飲食店、というかカナダで見た「軽く食べられるファストフード」的なものを目指しています。居心地の良さに定評がありますが、信用がないので普段地元のお客さんは来ませんね。全く。その分、レーベルでのやりとりなどができる余裕はありますが。。悲しいので会う人みんなに「来年には雑貨屋になる」と宣言していますが、実際、年明け前後で通販の物販を増やしたいと思っています。
– お店兼事務所みたいな感じですね。サウナクールミニでは何が人気商品ですか?
金子 – 牛スジが入っているたこ焼きの評判がめっちゃいいです。自分でも割とこだわったと思いますが、それでも驚いています。これがあるので雑貨屋になるのが少し勿体ないかなと思っています。
– 雑貨に牛スジ入れるのはどうですか?
金子 – インタビュアーとしての姿勢を問いたいですね。
– すみません。最近ブチ上がった出来事は何ですか?
金子 – ライブで東京に行ったのですが、毎日バンドメンバーと何かしら遊んでいて楽しかったですね。神戸に帰って来て、人の来ない自分の店にいて結構落ち込んだので、あの時は躁状態だったんだと思います。「ダンシングベイビーのモノマネやって!」 って言われて、やりましたからね。躁じゃないとやらないでしょ。ダンシングベイビーのモノマネなんて。
– 理想の未来を教えてください。
金子 – 個人的には、自分が儲けて、普段お世話になっている人たちに恩返ししたり、借金返したり、レコーディング機材揃えたり、海外旅行に行きたいですね。ただ、自分の人生にことごとく裏切られ続けているので、あんまり夢を見ずにダメだったらダメでもういいです。どうせいつか死にますし、下手すればこのインタビューの文言を送信した直後に死ぬ可能性もあるのですから、人に迷惑かけながら生きたいように生きて、もうダメだと思ったらカジュアルに死ぬぐらい人生軽くてもいいかなと思っています。世の中的には、良い音楽や作品を作っている人たちが煩わしいことを考えずに作品に打ち込める環境ができるようになっていってほしいですね。
『Before I Go』の詳細はこちらから。
実店舗での取り扱い:
Jet Set Records(京都/東京)
PALETOWN(東京)
waltz(東京)
Fastcut Records(大阪)
サウナクールミニ(兵庫)
デジタル音源の取り扱い:
bandcamp(https://saunacool.bandcamp.com)
category:FEATURE
tags:Teen Runnings / Young Agings / 金子尚太
2018/10/09
GrimesやTOPSなど輩出したArbutusファウンダーのSebastian Cowanインタビュー。 Grimes、TOPS(前身のSilly Kissers時代から)、Sean Nicholas Savage、Blue Hawaii、Tonstartssbandht、Braidsなど錚々たるアーテイストを輩出したカナダはモントリオールを拠点に置くインディレーベルArbutus Records。1年、数ヶ月単位でトレンドが入れ替わり、浮き沈みの激しい音楽業界でクローズするレーベルも多い中、なぜArbutusは10年もレーベルを続けてこられたのか。今回のインタビューを読むと、ArbutusのファウンダーがSebastian Cowanだったからこそ、ここまで続いているのではという印象を受ける。まずはアーティストとレーベルの信頼関係を重要視している点は、日本も見習うべきかもしれない。今回のインタビュアーはSebastianと以前から交流があるTeen Runnings/Sauna Coolの金子が担当している。 – モントリオールのレーベルとしてやりづらさを感じることはある? Sebastian Cowan(以下、Sebastian) – モントリオールが好きだよ。ロンドンにも数年住んでいたことがあって、あそこは音楽業界と密接に関わるにはいいところだと思う。ただ、アーティストやミュージシャンとより近く深い関係を築くことができるという点ではモントリオールの方がいいかな。音楽業界で働いてる身とはいえ、仕事の関係者よりもアーティストとより一緒に時間を過ごしたいのが本音かな。 – モントリオールとロンドンの大きな違いは? Sebastian – ロンドンは、同じ業界にいて、どのバンドも業界関係者も高いレベルにあって、とても刺激を受けた。逆にモントリオールは庶民的でDIYな感じが強いかな。 – レーベルのアーティストはどうやって探している? Sebastian – ほとんど友達からの紹介で。 – 誰かアジアのアーティストは知ってる?アジアの音楽シーンやアーティストに興味をもったり調べたりしたこととかは? Sebastian – アジアのアーティストにはすごく興味があるんだけど、なにしろ行ったことがないから情報を仕入れることができなくて・・・。いつかArbutusのバンドとツアーでアジアを回りたいな。 – これまでArbutusのバンドは日本によく来ているのにセバスチャンはどうして来ないの?忙しすぎて来れない? Sebastian – 飛行機代が高いから!バンドはライブで飛行機代をまかなうことができるけど、僕には一銭も入ってこないから僕は全額支払わないといけないし・・・。 – 日本では一切なかったんだけど、僕がモントリオールに住んでいた頃、Arbutusが主催するイベントが、ジェンダーやジェントリフィケーションの問題があると地元の人にFacebook上で言われて、中止になったことがあったよね。レーベルオーナー、イベントのオーガナイザーとしてどうやってそういった問題に対処すべきか聞きたい。 Sebastian – そういう問題はいつも気をつけて意識を向けるようにしている。「人は常に学んでいる」と知ることが大事だと思う。 https://www.instagram.com/p/BoFSCn8H2iw/?taken-by=arbutusrecords レーベル10周年の記念パーティーは所属アーティストなどに加え、Marie Davidsonも出演。 – 日本のメジャーレーベルがアーティストに月に何十曲も作らせてる(※諸説あります)とは前から言われていて、でもそれってアーティストに対する敬意が全くなくておかしいと思うし、業界やレーベルはアーティストの創造性を尊重すべきだと本当に思う。Arbutusには色があると思うけど、色が違うからと言って、上がってきた曲を修正させたり却下したこととかってある? Sebastian – それはおかしいね。僕には全く想像できない。Arbutusでは自分はアーティストのためにいることを心がけている。彼らがやりたいことなら、それが何であっても手助けするのがレーベルかな。 – ということは、バンドの新曲に「ノー」といったことはない?時々?(笑) Sebastian – アーティストを信じているのなら、サポートに徹するべきかと。 – 日本では大きなレーベルと契約することがいまだに最終地点だけど、他の国ではMac DeMarcoのように世界的に有名になっても当初のレーベルにとどまるアーティストがいるよね。それはプロモーション費用がなくても大きなレーベルと競合できるある程度の環境があるのかなと思う。つまり、ArbutusのBraidsがJunoアワードで賞をとったように、音だけがしっかり評価されているということ? Sebastian – 確かに大きいレーベルにはより予算があるけど、レーベルのディストリビューションとプロモーションに基本的な水準があれば、バンドのキャリアは(レーベルではなく)作品の出来次第で決まる。作ったレコードがどれだけ良いか、そして今世の中に求められてるものかどうかってこと。 – 印税はどうしてる? Sebastian – レーベルとアーティストで純利益を折半している。ビジネスにおいて道徳的にもっとも正しいとされている割合だね。 – 日本では、音楽はアートというよりエンタメとしてみられているけど、カナダやアメリカではみんな音楽をアートとしてみていると個人的に思う。業界の人間としてそれはどう感じる? Sebastian – 北米では音楽は確かにアートとしてみられているね。アートとエンタメの違いは、後者は商業的、ということだと思う。音楽ももちろん売買されて金銭のやりとりがあるから商業的と言えるんだけど。アートと商業の交わる部分というのはいつもやっかいで、多くの西洋人アーティストが日々取り組み続けている難問でもあるんだよ。 – 日本ではインターネットやSNSが力を持っていて、リスナーやオーガナイザーはYouTubeの再生回数やツイッターのフォロワーなどの数字を気にして、それをアーティストの良し悪しの判断基準にしている。カナダも似たような感じ? Sebastian – カナダでも同じだと思う。僕自身は音楽面だけを見てやっているつもり。好きか嫌いか。でも多くの人にとっては音楽が多すぎて聴けないから、曲を聴く代わりに数字で判断するのがラクなことが多いんじゃないかな。 – 音楽のトレンドは常に変化しているけど、モントリオールは独特の雰囲気があって、Arbutusはトレンドなんて気にしていないように見えるんだけど、流行りの曲とかって聴く? Sebastian – 流行りの音楽も沢山好きなのはあるけど、Top 40 Radioのほとんどの曲は好きじゃない。大体いつも1、2曲は本当にいいのがあるけど、ほとんどはうっとおしいと感じるな。 – トレンドは気にする?それともArbutusがいつかトレンドを作ってやると思ってる? Sebastian
2019/07/24
「最高の夏休み」 Teen Runnings、約5年ぶりのニューアルバム『Hot Air』が本日リリース。合わせてリリースパーティーが9月15日に、Super VHSとpool$ideを迎えて幡ヶ谷Forestlimitにて開催することも発表された。早速、新作『Hot Air』について、金子尚太に話を聞いた。 – アルバムリリースおめでとうございます。気分はどうですか? 金子尚太(以下、金子) – なんとも言えないですね。音源のマスタリング完了後も特典のデザインやアー写撮影とPV撮影の編集など自分1人でやっているものがあり、まだ気が休まらない日々です。それと、とても変わったアルバムを作ってしまったので、リスナーの反応が全く予想できず、不安ですね。前回までのように一石を投じてやるぞ!みたいな気概もないですし、聴いてて気持ちいいって思ってもらえたらいいなあ、と感じるのみです。 – サウナクールミニの調子はどうですか?牛すじ売れてますか? 金子 – 味はご好評いただいていますが、売れているとは言えないですね。なのでレーベルのマーチャンダイズで何とかなればと日々頑張っています。今回のリリースもその宣伝になればいいかな、と。もう何のためにやっているか分からない状況ではありますね(笑) – Young Agingsのリリースもありましたが、Teen Runningsとしては5年ぶりとなります。まさかアルバムがまた出るとは思いませんでした。収録曲は新曲ですか? 金子 – 2017年にカナダから帰国直後は本当に何もしていなかったのですが、翌年3月から店を始めて営業、運営や諸々のデザインや、デザインの依頼をもらったり、ライブをしたりと思ったより忙しかったのかもしれません。そろそろリリースしないとまた来年になってしまうと思って急いでまとめましたところもありますが、地元の神戸でお店をしていて、店内でもそうですが、外のイベントに顔を出したときに何をやっている人かというのを説明する必要があって・・・。説明してもリリースはかなり前で、過去にやっていただけと思われるのもなんなので、もっと広く知ってもらうために新しいものを出そうと思いました。曲はカナダに行く前後の2016〜2017年に作った曲が8曲、今年に入ってから作った曲が3曲です。カナダは寒いので基本的に部屋で曲作りをしていたのですが、数曲作ったところで限界がきたというか、やりたいことができてしまって完全に煮詰まりました。思うに、曲を作る人にとって大まかに「自分のルーツにある曲 / 今の気分の曲 / 作りたい曲 / 作れる曲」のレイヤーがあって、そこのバランスが難しくなりました。作りたい曲のアイデアだけが溜まって、それを完結させる才能や技術がなく、作りかけでボツにした曲がかなりありました。ただ春になってライブが決まって、こういう曲がやりたいな、という気持ちができてから作ることができた曲もあって・・・。今年に入って、リリースの気持ちも持ちつつですが、ライブが決まってからすぐに作れた曲もあり、やはり自分のモチベーションはライブによって生まれているのだな、と思いました。「Smart Disc Promotion」はボツになった下地を取り出してライブに向けて諦めずに新たな気持ちで作って上手くいったと思う曲ですね。そうやって作ることで、忘れかけていた「ライブでやりたい曲」という項目が出現したので、これからのライブのたびに「こういう曲を組み込んだらかっこいいかもな」というイメージを持つようにしたいと思いますね。また、今回はあまり苦労を感じさせずサラッと出した感じにしたいと思ったので、リッチな感じを抑えめということで、ボーカルはできるだけエフェクトを抑えて、ミックスもヤックさんにステムを投げてお任せしました。 – カナダ移住前の発表では帰国後は日本での活動は行わないともありましたが、レーベルやサイドプロジェクトも含め、かなり活発に動いてる印象です。 金子 – そうですね。自分の音楽やバンド活動に色々限界を感じていて、その時はTeen Runningsとしての音楽をやめるつもりで最後のチャンスとしてカナダに行きましたし、実はカナダ含む海外でのリリースも見据えていました。バンドも組みたかったんです。カナダでの初めてのライブで一緒になった女性のガレージバンドの人たちから「ツアーをするんだったら私たちがバンドをするからね」といってもらえたのですが、もうその頃には色々諦めかけていましたね。実はそのバンドにいたのが、すでに大きめに活動していたCommon Hollyや、最近サドルクリークとサインしたAda Leaが所属していて、長く居れば可能性は転がっていたのだと思いますが、働いてどうにか食いつなぐという強い気持ちは持てませんでした。結局日本に帰ることになった時に、知り合いの音楽家の方を頼って作曲家として何かやりたいな、と思ったのですが、こちらから連絡をしたお二方どちらからも良いお返事はいただけず、事務所などに送るようにロック調のデモ曲を男女分2曲作ったのですが、女性ボーカルを入れられないことに気づき諦めました。コンペのサイトもゴミのような案件が多く、すぐに見るのをやめました。話を戻しまして・・・、Teen Runningsのカナダでのライブは好評でしたし、やっぱりリリースしたいな、という気持ちを持ちつつ過ごしていたら、ライブのお誘いが入って「じゃあやろうか」と東京のメンバーとやりとりして、ほとんど友人の企画のライブでしたが、去年今年と精力的でしたね。カラオケセットも含めるとかなり多いですね。レーベルの活動は、サウナクールミニという、レーベル名を冠したお店を出した以上、動きを出したかったのと、本当にリリースしたいアーティストが見つかったので引き続き動けたらな、と。サイドプロジェクトのYoung Agingsは、息抜きや自分のできることを知るうえで今回のアルバムを作るために必要なプロセスだったと思います。 – カラオケセットについて聞かせてください。始めたきっかけや、バンドセットの違いなど。ステージ毎にあえて分けているのでしょうか?またお客さんの反応などどうでしょう。 金子 – カラオケセットは、聞こえは悪いですが単にトラックに合わせて僕が歌うソロのセットです。カナダで作った曲を披露するためのセットですね。バンドメンバーが東京なので、東京近郊でバンドとしての演奏をオファーいただいた場合は前作までの曲をバンドセットでやっていました。カナダではバンドを組めなかったので、iPhoneから流したトラックに合わせて歌うという手しかなく不安で、仲良くしていたArbutus Recordsのセバスチャンに「どうなのかな」と聞いたところ「うちのSean Nicholas Savageもギター1本持ったり持たなかったりでトラックに合わせて歌うだけのスタイルだし大丈夫だよ」と言われたので自信をもってライブに臨みました。カナダでの反応は本当によかったのですが、日本ではあまりないスタイルですし、僕の慣れないパフォーマンスからか好感触は得られなかったというか、日本では、安くないお金を払ってライブを観るため、お客さんの求めるハードルが高かったり、既に知っている音源をライブで聴く、アーティストというアイコンを目視する、という目的をもって観に来るような気がして、それだと全て新曲の聴き慣れないものを見慣れない人が披露している姿は理解されづらいだろうなと気づき、やはり音源は出さないとなという気持ちが強くなりましたね。今後はカラオケセット中心でフットワーク軽くやろうと思いますし、音源は少しずつアレンジしていきたいです。あと先ほど音源を聴いていて気づいたのですが、1曲ヤックさんに送る際にミュートしていて送り忘れたトラックがあり、自分で音源確認するときに気にならなかったのでほとんど問題ないレベルですが、ライブではそういった音も足したりアップデートして、音源とは少し違った感じにしようと思うので、ぜひ観ていただきたいなと思います。 – 90sメロコアを下地にしたインディロックという路線が少なからずあったと思うのですが、今作はかなり新機軸を感じます。 金子 – 1stは当時流行っていた60年代ビーチポップ、2ndは80〜90年代ときて、今回は90年代後半から00年代前半の、今聴くとダサい感じが僕の気分になりました。カナダに行く前からその辺のダサいものを聴いていましたね。 – 具体的に聴いていた曲など教えてください。 金子 – Lyte Funkie OnesやToy-Box、Steriogram、Smash Mouthはよく聴いていました。その他YouTubeで90年代のボーカルグループの曲を漁ったり・・・。それをそのままはできないので、そのダサい精神を楽曲に落とし込んだつもりです。 – ギター主体の曲が減ったのは理由がありますか? 金子 – いま誰もやっていないことをやろうというコンセプトというか気持ちがいつもあるので、今回はヒップホップのビートにミニマムな音、バンドで演奏するとしてギターは最小限でビートやパーカッションが飽和しているポップなもの、そしてBPMが遅いアルバムを作ろうと思いました。一番はじめに作った「Hair Wax 95」は典型で、かなりバンドサウンドを意識していますが、徐々にギターを使う頻度は減っていきましたね。初めはギターロックレコーディングがめんどくさかったりで。 – 「いま誰もやっていないことをやろうという」というコンセプトについて、詳しく解説してもらえますか。 金子 – 先にも述べた「作りたい曲」というのは「自分が好きな曲 / 自分が聴きたい曲」に分けられると思っていて、アーティストは「自分が聴きたい曲」を作るべきだと思っていて。「好きな曲」だと必然的に何かに似通ってしまうし、アートとしては二番煎じになるんです。ただ、「自分が聴きたい曲」というのは「好きな曲」に自分なりの要素を足したり引いたりしたものなんですよね。チャーハンという完成されたものに醤油かける人いるじゃないですか?ああいう感じですかね。違うか。とにかく、誰かが既にやっている、または流行っていることで評価されるのはアイコンとして確立されている人で、そこが弱い自分がやっても仕方がないので出来る限り新しいことに挑戦したいという気持ちは常に持っています。あと、今回のアルバム単位の音楽的なコンセプトとしては前の質問の通りなのですが、イメージ的なコンセプトの年代が自分が多感な時期と重なったので、「自分の最高の夏休み」という根底にあるものに加えて、初めてインターネットに触れたときのこと、夏休みの朝9時半からのアニメ(関西地区限定)やゲーム、特にスーパーマリオRPGやファイナルファンタジー、聖剣伝説レジェンドオブマナ、カプコンのV.Sシリーズ、ドリームキャストのシェンムーやパワーストーン2で遊んだこと、iMacやWiLLブランドが出てきたころのような、社会やプロダクトにまだ”遊び”があった頃のことなど、幸せだった頃の感覚を思い出しながら能天気なものを作ろうと思いました。また、感覚的なことですが、はじめにタイトルをざっと10曲分ほど決めて、そこから連想する音楽を頭の中で流したり、Tumblrの好きな画像を眺めたり、北野作品の夏をテーマにした映画を観たり思い出したりして音が降りてくるのを待ったりもしました。ただ、そこにBPM、ビート、少ない音数など縛りを多くすることで自分の首を絞めてしまって、それでスランプに陥りましたね。何を作っても僕の色は出ていると言われることもあるのですが、今回のアルバムで自分のスタイルをなんとなく分かってもらったうえで、次回からはできるだけ自然体でやりたいです。 –
2019/05/22
7月24日、Sauna Coolからリリース。 金子尚太によるプロジェクトTeen Runnings、5年ぶりのニューアルバム『Hot Air』が自身の主宰するレーベル〈Sauna Cool〉からリリースされる。 アートワークを永井博が担当したことでも話題になった前作『Now』から5年、最近ではサイドプロジェクトYoung Agingsとしてのリリース、〈Sauna Cool〉のレーベル運営、謎ショップ〈サウナクールミニ〉の店主など、様々な顔を持つ金子のメインプロジェクトTeen Runnings待望の新作は、「より軽く、聴きやすい」音楽を目指した、とのこと。カナダ滞在中、そして2019年に入ってからの5年間で作られた、90sから00sの雰囲気を携えたミニマムな楽曲で構成。ミックスは前回に引き続きHARVARDの植田康文、ジャケットアートワークにはオーストラリア人クリエイターANDYPANTS、ジャケット、ブックレットデザインはYYOKKE(WOOMAN)が担当している。 先行で収録曲「Hair Wax 95」が公開。アルバム『Hot Air』は、7月24日リリース。 Teen Runnings – “Hot Air” 01. Hair Wax 95 02. New Power 03. Eagles 04. Dream Life 05. Smart Disc Promotion 06. Feeling Happy 07. Super Relax 08. My Car 09. Baby G 10. Seatown Punk 11. Plaza
受け手の自由に寄り添う作品
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SoundCloud発、中国ラップスター more
東京・大阪を回るジャパンツアー開催
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