谷川浩志(PALETOWN)|インタビュー

PALETOWNにとっての音楽、ローカルの温度感。

 

 

幡ヶ谷の駅から数分歩いた場所にあるのが古着屋PALETOWN。よくファッション誌で紹介されているこの人気店のオーナー谷川浩志は、以前はDJとして三宿Web、渋谷のOrgan barなど東京で毎週のようにDJとして忙しく活動していた。という事実はこれまでファッション誌であまり語られていない。今回のインタビューでは、“現行の音楽を追っている古着屋の人”だからこそのエピソードがふんだんに盛り込まれているのだが、これって日本で活動するインディバンド、アーティスト、業界に関わる人に直接響くのではないだろうか。

 

 

– まずは自身にとって、PALETOWNにとって、音楽はどういう存在ですか?

 

谷川浩志(以下、谷川)– いつも自分にヒントとアイデアをくれます。知らないことしかないし、それに付随するカルチャーや周辺事情も、知れば知るほど楽しいので終わりがなくて大変ですが、そういうのが根底にあって今のお店が出来てる気がするので、手前味噌ですが、やっぱり無くてはならないものです。

 

– お店ではどういう音楽を流していますか?

 

谷川 – 出来るだけ新しいフレッシュな音楽を、日々のテンションでかけています。 例えばこの夏はとても暑かったので、ベルギーのStroomから出てたJason Kolarは涼しくて、かなり流してました。 新しいところでいうと、好きなWoodsistまわりや、Keeled Scales、あとはMississippi RecordsSmithsonian Folkways関連のフォークやソウルのリイシュー・編集盤とか…かなり浅く広く、アンビエント、ダブ、エクスペリメンタルなど…基本的に静かなものが多く、飽きたらGrouperに戻っている気がします。

 

– アメリカでの買い付けの旅を記録したZINEではローカルなライブハウスにも訪れているみたいですが、アメリカに行っているときは音楽に触れる機会は多いですか?

 

谷川 – そういう機会を作っています。基本一日中古着と向き合っていて、あまり楽しみがないので。めちゃくちゃタイトで全然時間ないのですが、現地の友人に聞いたり、事前に調べたり、本当に見たいアーティストだとスケジュールを変えたり、最悪帰国をずらします(笑)本屋でやってたMozart は、その時期にオークランドであった火災の支援金を募るために、自分たちで手書きジャケの7インチを作って、ドネーション形式でのライブを行っていました。

 

 

SmegmaのメンバーがやってるThe Tensesを観たときは、小さいバーのローカルなロケーションでした。 日本ではあまり味わうことの出来ないLAFMS付近の音と独特なパフォーマンスを感じれて、かなり興奮した覚えがあります。

 

 

今年は、劇場で観れた大好きなHand Habitsのソロショーも最高だったし、PowderがオールナイトロングでDJやってたパーティーも少し変わった場所で開催されていて、とても印象的でした。クラブやライブハウスももちろん楽しいのですが、日本ではなかなか観られない家の庭や地下、バンの中、ウエアハウスや工房、無理矢理なところでライブしてるのも、アメリカや海外の醍醐味だと思うので、いろいろ経験してみたいと常々思っています。 そこにいる人の格好とかもよく観察していて、”このダサい服着てるけど、合わせ方めちゃ最高だなぁ〜”とか、”あっこれ(この服)もアリなんだ(笑)”とか。 そういうのが古着の仕入れのアイデアにつながることがとても多いです。 あとは…仕入れ中ほぼ車に乗っているので、ラジオで今のアメリカのメインストリームを聴くのも好きです。Bruno MarsやJustin Beiberを大熱唱(主にハミング)したり、Chance The RapperやWeekndがかかったら、ミックステープ出してからここに来るまですごいアメリカンドリームだよなぁ〜とか、 移動が長いんで、ラジオを聴きながら本当にどうでもいいことをよく考えるし、眠すぎる時はクラブにいると言うていでフォ〜とか言って眠気を覚ましています…。 11〜12月になると、ずっーーーとクリスマスソングがかかっててるチャンネルがあるのですが、それも大好きです。 クリスマスソングのカバーあり過ぎだし、フリーウェイで”恋人たちのクリスマス”をこんなに聴く人生になるなんて、思ってもみませんでした。

 

– アメリカでバンドやミュージシャンと出会うこともあるのですか?

 

谷川 – あります。というか、ライブハウスはもちろん、レーベルオーナーやアーティストの家など、現場に行ってるパターンが多いかも知れません。 日本で新譜のレコードを買うときは、どこのアーティストなのかってのも割と重要で、買付けで行ってる土地だったりすると、タイミングよくライブやってないかな〜。とか、必ず調べます。実際に行ってみてマーチャンを買ったり、その周辺も探ってみたり。例えばLOWER GRAND RADIOをやっているAlex Shenは、彼が参加しているUNITYというバンドのレコードを買って、実際に会いに行って仲良くなりました。

 

 

現在は、Jeffrey Cheung主宰のUnity Pressと本屋の二階スペースをシェアしてラジオストリームをやったり、Marbled EyeとしてDigital Regress Recordsからレコードを出したりしていて、面白い動きをしています。

 

 

先日彼が学生の頃に着ていたというDerby Of San Franciscoのジャケット(サンフランシスコ発祥のメーカーで、ただのおっさんジャケット。最近は人気で、値段もグッと上がっています。)をもらったのですが、こうやって音楽で知り合ったベイエリアの友人にこのジャケットをもらうなんて、何ともリアルで感慨深く、一生手放せない古着になったなぁと思いました。ストーリーのあるところも古着の魅力です!おひとついかがですか?(余談ですいません。)

 

 

ベーグル屋Spielman BaglesのRaf SpielmanがやってるバンドWoolen Menの周辺も、LithicsHoney BucketMope Groovesなどローカル色の強いバンドがいて面白いです。そして、そのそれぞれのバンドメンバーがそのベーグル屋で働いているのですが、スタッフ同士で組まれたバンド・L.O.X.(店の看板メニューの名前。めちゃうまい。)がまた最高なのです。音楽以外の活動もやっている人も多くて、陶芸だったり、絵を描いたり、家具を作ったり…それこそベーグル焼いてたり。もちろんジャケットやマーチャンも自分たちで行っていて、どれもかっこいいし、Spielman Baglesには彼らの周りのローカルなアートがさりげなく飾られています。

 

 

実際ぼくも友人であるDino Mattというセラミックアーティストから、彼らのことや先述のThe Tensesを紹介してもらいました。 そうやって広がって、音楽はもちろん、美味しいメキシカンとか飯屋のこと、おすすめのスリフトやアンティークショップ、おもしろい展示やアートを教えてくれます。古着のディーラーに行くより、レコード屋やライブに行った方が自分的にはアイデアが生まれる気がしています。 英語が話せないのがとても悔しいのですが。

 

 

この無理した笑顔の写真は、レコード屋にMac Demarcoの顔ハメがあって、ネタになるだろうと一人で照れながら店員にお願いして、写真を撮ってもらったときのものです。その後、アポを取っていたLithicsのマーチャンを仕入れに彼らの家に初めて行ったのですが、迎えてくれたのがボーカルのAubreyと、写真を撮ってくれたその店員で、、、なんとメンバーでした(笑)という、とてもローカルな経験もありました…。

 

– アメリカに住みたいと思いますか?

 

谷川 – あまり思いません。日本のご飯大好きです!日本にいるからこそのアメリカへの憧れがあって、それで古着屋をやっているようなものなので住んだらそれが当たり前になって、新鮮さも感覚も何だか違ってくるような気がして。住んでいると毎日スリフトにも行けるから、ビンテージを見つけたときの嬉しさも半減しそうだし、英語がうまく喋れなくて、あくせくしてる状況も(後から考えると)ある意味楽しいので(笑)今は新しい感覚を常に求めに行ってる感じです。一年に4〜5回アメリカに行って、感じたものを店で表現する、というスタンスが自分らしいのかなと思います。初めて会った人に”バディ”や”ボス”って呼ばれるのも、ウインクされるのも、例えばドレッドのUSPSの配達員が、キャリーにすごい小さいサウンドシステムくっつけてめっちゃ小さい音でダブ掛けて配達してたりするような、日本では味わえない非日常の生活に、いつも”うぉ〜”となってたいです。

 

– 日本とアメリカで、何か違いを感じることはありますか?

 

谷川 – 違いというか、現地との温度差がすごいあるなぁと思うときがあります。音楽やファッション、デザイン、飲食、、それ以外にも共通して言えますが、ローカルでやっていることも、どこかにフックアップされて、日本国内だけで大きくなって、SNSのネタになって、一過性のものになってしまったり。もちろんビジネスもあるし、海を越えて来るものだから仕方ないのですが。現地で見ていたり、感じていたりするものだと、個人的には何だかちょっと違う見え方になってしまうことがあるなぁと思うこともあります。店をやる以上、海外で仕入れをする以上、その現地感というか、ローカルの温度は大切にしたいです。”あれは5本だけのリミテッドエディションなんだよ”、”あのTシャツ、SとLが在庫切れ、しかもM、XL一枚ずつしかないんだよ”『、、、、いやいやもう少しがんばって作ってくれよ!』みたいなお決まりのケースも嫌いじゃなくて(笑)お土産みたいな量の仕入れで、そのストーリーを交えて”もうないんすよ”くらいがちょうどいいかなと。そのくらいだから面白いってのもあるし。

 

– 自分以外のお店で共感できるor好きなお店はありますか?

 

谷川 – ポートランドにあるLOWELLというショップ/ギャラリーがとても好きで、たくさん影響を受けました。ローカルのアートやセラミック、メキシコのビンテージフォークアートにジュエリーなど、バラバラだけど、全てLOWELL色になる。友人であり、オーナーMayaのフィルターを介した空間が本当に大好きです。たまに理解に苦しむモノや展示もあるのですが、彼女から仕入れた文脈やまつわるカルチャーを聞いて、”なるほど”となることが多く、いつも自分の感覚を広げてくれます。音楽もそうですが、分からないものが分かっていく感覚ってすごく嬉しくて、またそれを求めて行きたくなる。空間や余白の使い方、ディスプレイも含めて、ぼくにとってパーフェクトで特別なお店です。

 

 

自ら外へ出ずとも、誰でも知らないことを見た気になれるし、古着もレコードも何でも、安く入手することができるようになりました。でもそのお店のその空間で、そのモノに纏わること、仕入れるまでの経緯、紆余曲折ストーリーやバックボーンを聞くこと、知らないことを知ることや、自分のことを分かって提案してくれたり、所謂+αを得られる信頼のあるお店に惹かれるし、自分もそうでありたいと思います。

 

東京で言うと、近所のPaddlers CoffeeCommune、原宿のBIG LOVE RECORDSには同じように、いつも刺激と新しい感覚を頂いています。

 

– PALETOWNではミックステープも制作販売していますが、どういう経緯で始めたのですか?

 

谷川 – Mississippi Recordsのテープシリーズのようなラフな(白のブランクテープにダビングして、普通紙コピーの白黒ジャケ)スタイルに憧れて始めました。長年soundcloudなどのサービスももちろん利用していたのですが、情報が多すぎて、うまく使えなくて。 これ誰だっけ?みたいなのが増えてしまって、離れてしまいました。 それだったら自分が携わって、自分の今聴いている曲の記録だったり、単純に友人たちがどんな音楽を聴いてるんだろうと思ってお願いしたり。数本しかないビンテージのテープを、旅の予定がある友人に渡して、現地で買ったレコードを録音してきて…とか。DJ MIXとはまた違った、そういう音楽の聴き方も楽しいし、何より顔が見えて、話ができるのが一番で。あとは音質とかそういのよりも、”雑さ”の方(急にボリュームが下がったり、曲の途中でテープが終わったり)も、楽しめるタイプなので、パリッとパッケージングされたものよりは、ラフなものの方が好きだったりします。

 

– PALETOWNの今後の目標はありますか?

 

谷川 – やりたいことや、つくりたいものはたくさんあるのですが、目標は特になくて…古着屋じゃない、少し攻めた店をいつかやりたいなぁとふわっと思ってはいます。あとは健康に気をつけることと、アメリカの友人たちが日本でライブしたいとか言ってたりするので、その企画はいつかやってみようかな〜とか思ってるくらいです。古着を売って、そのお金でまた仕入れに行って…自転車操業の現状維持。なので、みなさま宜しくお願いします!

 

 

 

PALETOWN

2-21-10,Nishihara Shibuya-ku,Tokyo,JPN 151-0066

paletown.com

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