虚構の輝きと平凡な日常のコントラスト|Mechatok interview

AVYSSからMechatokへ12の質問

 

 

きらびやかなステージから自宅に帰ると、待ち受けるのは終わりのないリール動画のスクロールやSNSのタイムライン確認。オフの時間にもデバイスから洪水のような情報が押し寄せてきて、無意識のままでは心休まる時間を確保するのは難しい。絶え間ない情報の刺激に当てられるのは苦痛ではあれど快楽的でもあり、そこには「空虚な心地よさ」という相反する感覚が存在する。

 

ドイツのプロデューサー・Mechatokが10年超のキャリアのなかではじめてリリースした1stアルバム『Wild Awake』は、そういった生活のコントラストを巧みに切り取り作品として昇華したような一枚だった。クラブ・ミュージック的でありながらその本質はベッドルーム・ポップに近く、ハレの日よりもケの日々にフィットするような作品であり、一見するとCharli XCX『brat』的に見えるがその実はOklou『choke enough』のようなアルバムに近いフィーリングだ。

 

今回、AVYSSからMechatokへ12の質問を共有。「無人の駅で、壊れたiPhoneでK-POPを聴こうとするような作品」と語る最新作『Wild Awake』にまつわる話題を中心に対話を試みた。

 

 

Question / Text : NordOst / 松島広人

 


 

Q1:エレクトロニック・ミュージックへ興味を抱くようになったきっかけや、今の音楽観に結びついているような原体験を教えてください。

 

Mechatok「いちばん最初にエレクトロ・ミュージックに触れたのは、父さんの車の後部座席でDaft Punkの“One More Time”を聴いた時だね。あの曲がきっかけで、エレクトロ・ミュージックにハマったと思う。今の音楽観にも結びついているよ」

 

 

Q2:幼少期から楽器に触れ、音楽制作に向き合っていたそうですが、今のキャリアに至るまでにどのような心境の変化がありましたか?

 

Mechatok「曲作りやプロデュースの仕方をガラッと変えたことはないね。プラグインもそんなに使わないし、高い機材も持っていないんだ(笑)。むしろこの数年は、ソングライティングや作詞のワードセンスを磨くことに集中してきた。その方がもっと繊細なニュアンスのある音楽を作れるようになる、と思ったからね」

 

Q3:これまで〈Year0001〉、 〈STAYCORE〉、 〈Presto!?〉、〈Yegorka〉という幅広いレーベルと関わってきて、今回は〈Young〉から新作を発表しました。これらのレーベルについての印象などをお聞かせください。

 

Mechatok「〈Presto!?〉と〈Yegorka〉は、自分が参加しているコレクティブという感じで捉えているよ。このレーベルのアーティストたちとは、音の作り方や考え方の部分ですごく共通するものがあると思ってる。一方で〈Young〉は、もっと大きくて幅広いプラットフォームという感じ。僕の音楽が、今はより幅広いリスナーに届いていると実感しているよ」

 

Q4:長いキャリアの中でさまざまなアプローチを取っているあなたが、なぜ今のタイミングでデビュー・アルバムの発表に至ったのか、エピソードを教えてください。

 

Mechatok「アルバムの曲を書き始める前に、アーティストとしての活動の幅を広げようとしてたんだ。アート・インスタレーションをやったり、サウンドトラックを作ったり、「Natural Mind」というイベントのシリーズを始めたりね。そういうプロジェクトは、ある意味このアルバムのためのリサーチのような感じだった。あれこれと手を広げたあとで、「そろそろ集中してこの新しい経験やアイデアをアルバムに注ぎ込む時が来たかも」と思ったんだ」

 

Q5:新作『Wide Awake』はエレクトロ/エレクトロクラッシュを新しい視点で見つめ直しつつ、さまざまなジャンルの要素が散りばめられたような内容に感じました。今のスタイルを形成するに至った理由や影響源を教えてください。

 

Mechatok「これまでの作品では、あえて自分に制限を設けて、すごくクリアで1本筋の通った表現を心掛けてきたんだ。でも、今回のアルバムでは、色々な影響をそのまま音楽に反映させることにした。具体的にすべて挙げるのは難しいけれど、強いて言えばDr. DreやDaft Punk、それにロンドンでの生活。この3つが大きいと思う」

 

 

 

Q6:待望の1stアルバムとなった『Wide Awake』に込めた思いや制作背景、リファレンスとなったモチーフなどについて教えてください。

 

Mechatok「このアルバムの核になっているのは、平凡でちょっと退屈な日常の体験と、オンライン・コンテンツやエンタメ製品とのキラキラした世界とのコントラストなんだ。たとえば、無人の駅で、壊れたiPhoneでK-POPを聴こうとする……そんなイメージに近いものを表現したかったんだよね」

 

 

Q7:『Wide Awake』にはさまざまなアーティストを客演として招いています。これらの人々に声をかけた理由や背景、エピソードを教えてください。

 

Mechatok「実はアルバムに参加してくれているアーティストのほとんどは、僕の友人なんだ。曲はそれぞれとのセッションから生まれたもので、彼らのアルバム用にやったものもあれば、ただ一緒になんとなくジャム・セッションをやったりしているうちに形になったものもあるよ」

 

Q8:『Wide Awake』収録曲の中で、個人的なフェイバリットは挙げられますか?

 

Mechatok「最近よく聴いているのは“House of Glass”かな」

 

 

Q9:Drain Gangのメンバーと深い親交を結んでいるように思います。彼らと接することでどのようなインスピレーションを受けていますか?

 

Mechatok「Ecco2kからは、アルバムを視覚と音によるアート作品(オーディオ・ヴィジュアル・アート)として捉える方法を学んだよ。Bladeeからは、力を抜いて自由にアイデアを生み出すやり方を教わったね」

 

 

Q10:Tohjiとの共作「200」など、本作では日本のアーティストもフィーチャーしていますが、日本の音楽シーンや文化についてどのような印象を持っていますか?

 

Mechatok「日本はとても素晴らしいと思う。Tohjiには、すごく大切な存在だという印象を抱いているよ。いつも新しくてクレイジーな音を追求していて、本当にリスペクトしているんだ。それに、彼のパーティ〈u-ha〉は、自分が東京でプレイした中でも最高のショーのひとつだったね」

 

 

Q11:『Wide Awake』はアルゴリズムやデジタル過剰刺激によって形作られた現代における、「アイデンティティ」「本物らしさ」「表現」といったテーマを探求するための作品であることが明かされています。際限なく加速する消費サイクルなど、現代の病理ともいえるこの流れについてどう考えていますか?

 

Mechatok「まあ、そういうものだろうね。これが病気なのか、それともただ今の現実の在り方なのかはよく分からない。でも、その中に何か詩的なものや、美しさを見つけようとはしているよ」

 

Q12:パンデミックを挟み、2020年代という時代は過去との大きな分岐を感じさせるように思います。今、そしてこれから求められるのはどのようなサウンドだと思いますか?

 

Mechatok「生のままのストレートで、短くてフィルターのかかっていないものを好んでいる気がするね。でも、ちょっと反射的になり過ぎている感じもする。自分としては、やっぱりじっくりと考えられていて、繊細な音楽を作っていきたいんだ」

 

 

Mechatok – Wide Awake

Label : Young / Beat Records

Release date : Aug 8 2025 (Digital & Stream) / Sep 5 2025(CD & LP)

Stream : https://mechatok.y-r.co/wideawake

Buy : https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15143

 

Tracklist

01. You Don’t Exist

02. Don’t Say No – Mechatok & f5ve

03. Expression On Your Face – Mechatok, Bladee & Ecco2k

04. Everything

05. Virus Freestyle

06. 200 – Mechatok & Tohji

07. Addiction

08. House Of Glass

09. She’s A Director – Mechatok & Isabella Lovestory

10. When You Left

11. Sunkiss

category:FEATURE

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2025/10/02

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ドイツのプロデューサー・Mechatokが10年超のキャリアのなかではじめてリリースした1stアルバム『Wild Awake』は、そういった生活のコントラストを巧みに切り取り作品として昇華したような一枚だった。クラブ・ミュージック的でありながらその本質はベッドルーム・ポップに近く、ハレの日よりもケの日々にフィットするような作品であり、一見するとCharli XCX『brat』的に見えるがその実はOklou『choke enough』のようなアルバムに近いフィーリングだ。

 

今回、AVYSSからMechatokへ12の質問を共有。「無人の駅で、壊れたiPhoneでK-POPを聴こうとするような作品」と語る最新作『Wild Awake』にまつわる話題を中心に対話を試みた。

 

 

Question / Text : NordOst / 松島広人

 


 

Q1:エレクトロニック・ミュージックへ興味を抱くようになったきっかけや、今の音楽観に結びついているような原体験を教えてください。

 

Mechatok「いちばん最初にエレクトロ・ミュージックに触れたのは、父さんの車の後部座席でDaft Punkの“One More Time”を聴いた時だね。あの曲がきっかけで、エレクトロ・ミュージックにハマったと思う。今の音楽観にも結びついているよ」

 

 

Q2:幼少期から楽器に触れ、音楽制作に向き合っていたそうですが、今のキャリアに至るまでにどのような心境の変化がありましたか?

 

Mechatok「曲作りやプロデュースの仕方をガラッと変えたことはないね。プラグインもそんなに使わないし、高い機材も持っていないんだ(笑)。むしろこの数年は、ソングライティングや作詞のワードセンスを磨くことに集中してきた。その方がもっと繊細なニュアンスのある音楽を作れるようになる、と思ったからね」

 

Q3:これまで〈Year0001〉、 〈STAYCORE〉、 〈Presto!?〉、〈Yegorka〉という幅広いレーベルと関わってきて、今回は〈Young〉から新作を発表しました。これらのレーベルについての印象などをお聞かせください。

 

Mechatok「〈Presto!?〉と〈Yegorka〉は、自分が参加しているコレクティブという感じで捉えているよ。このレーベルのアーティストたちとは、音の作り方や考え方の部分ですごく共通するものがあると思ってる。一方で〈Young〉は、もっと大きくて幅広いプラットフォームという感じ。僕の音楽が、今はより幅広いリスナーに届いていると実感しているよ」

 

Q4:長いキャリアの中でさまざまなアプローチを取っているあなたが、なぜ今のタイミングでデビュー・アルバムの発表に至ったのか、エピソードを教えてください。

 

Mechatok「アルバムの曲を書き始める前に、アーティストとしての活動の幅を広げようとしてたんだ。アート・インスタレーションをやったり、サウンドトラックを作ったり、「Natural Mind」というイベントのシリーズを始めたりね。そういうプロジェクトは、ある意味このアルバムのためのリサーチのような感じだった。あれこれと手を広げたあとで、「そろそろ集中してこの新しい経験やアイデアをアルバムに注ぎ込む時が来たかも」と思ったんだ」

 

Q5:新作『Wide Awake』はエレクトロ/エレクトロクラッシュを新しい視点で見つめ直しつつ、さまざまなジャンルの要素が散りばめられたような内容に感じました。今のスタイルを形成するに至った理由や影響源を教えてください。

 

Mechatok「これまでの作品では、あえて自分に制限を設けて、すごくクリアで1本筋の通った表現を心掛けてきたんだ。でも、今回のアルバムでは、色々な影響をそのまま音楽に反映させることにした。具体的にすべて挙げるのは難しいけれど、強いて言えばDr. DreやDaft Punk、それにロンドンでの生活。この3つが大きいと思う」

 

 

 

Q6:待望の1stアルバムとなった『Wide Awake』に込めた思いや制作背景、リファレンスとなったモチーフなどについて教えてください。

 

Mechatok「このアルバムの核になっているのは、平凡でちょっと退屈な日常の体験と、オンライン・コンテンツやエンタメ製品とのキラキラした世界とのコントラストなんだ。たとえば、無人の駅で、壊れたiPhoneでK-POPを聴こうとする……そんなイメージに近いものを表現したかったんだよね」

 

 

Q7:『Wide Awake』にはさまざまなアーティストを客演として招いています。これらの人々に声をかけた理由や背景、エピソードを教えてください。

 

Mechatok「実はアルバムに参加してくれているアーティストのほとんどは、僕の友人なんだ。曲はそれぞれとのセッションから生まれたもので、彼らのアルバム用にやったものもあれば、ただ一緒になんとなくジャム・セッションをやったりしているうちに形になったものもあるよ」

 

Q8:『Wide Awake』収録曲の中で、個人的なフェイバリットは挙げられますか?

 

Mechatok「最近よく聴いているのは“House of Glass”かな」

 

 

Q9:Drain Gangのメンバーと深い親交を結んでいるように思います。彼らと接することでどのようなインスピレーションを受けていますか?

 

Mechatok「Ecco2kからは、アルバムを視覚と音によるアート作品(オーディオ・ヴィジュアル・アート)として捉える方法を学んだよ。Bladeeからは、力を抜いて自由にアイデアを生み出すやり方を教わったね」

 

 

Q10:Tohjiとの共作「200」など、本作では日本のアーティストもフィーチャーしていますが、日本の音楽シーンや文化についてどのような印象を持っていますか?

 

Mechatok「日本はとても素晴らしいと思う。Tohjiには、すごく大切な存在だという印象を抱いているよ。いつも新しくてクレイジーな音を追求していて、本当にリスペクトしているんだ。それに、彼のパーティ〈u-ha〉は、自分が東京でプレイした中でも最高のショーのひとつだったね」

 

 

Q11:『Wide Awake』はアルゴリズムやデジタル過剰刺激によって形作られた現代における、「アイデンティティ」「本物らしさ」「表現」といったテーマを探求するための作品であることが明かされています。際限なく加速する消費サイクルなど、現代の病理ともいえるこの流れについてどう考えていますか?

 

Mechatok「まあ、そういうものだろうね。これが病気なのか、それともただ今の現実の在り方なのかはよく分からない。でも、その中に何か詩的なものや、美しさを見つけようとはしているよ」

 

Q12:パンデミックを挟み、2020年代という時代は過去との大きな分岐を感じさせるように思います。今、そしてこれから求められるのはどのようなサウンドだと思いますか?

 

Mechatok「生のままのストレートで、短くてフィルターのかかっていないものを好んでいる気がするね。でも、ちょっと反射的になり過ぎている感じもする。自分としては、やっぱりじっくりと考えられていて、繊細な音楽を作っていきたいんだ」

 

 

Mechatok – Wide Awake

Label : Young / Beat Records

Release date : Aug 8 2025 (Digital & Stream) / Sep 5 2025(CD & LP)

Stream : https://mechatok.y-r.co/wideawake

Buy : https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15143

 

Tracklist

01. You Don’t Exist

02. Don’t Say No – Mechatok & f5ve

03. Expression On Your Face – Mechatok, Bladee & Ecco2k

04. Everything

05. Virus Freestyle

06. 200 – Mechatok & Tohji

07. Addiction

08. House Of Glass

09. She’s A Director – Mechatok & Isabella Lovestory

10. When You Left

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