暗闇と至福の間を漂いながら|james Kがアルバム『Friend』を発表

私のブルーを、愛を受け入れる鮮やかな光で照らし出す

 

 

根源的な切迫感、プリズムのように伸縮自在な感覚、異形で直感的、時に墓所のように陰鬱な陶酔感、トリップホップ子守唄の普遍的な恍惚、変容し続けるキャリア。james Kが〈AD 93〉よりアルバム『Friend』のリリースを発表。シングル「Play」のMVを公開。

 

james Kが初めて作品を発表して以来、彼女の紡ぎ出す夢幻的な霧は、現代音楽の風景を揺さぶり、形作ってきた。Kが長年にわたり多くのメディアに波紋を広げるような音と視点を継続的に“ベータ版”として提示してきたことは、決して誇張ではない。その姿勢は、独自のビジョンを貫きながらも、協働や共有された夢想によって特徴づけられている。 ポリクロマティックな過敏さで知られるKの音楽は、ハントロジカルなドリームポップ。Resident AdvisorのKiana Mickles(「RA.2024 ベスト・トラックス」)が評したように、「不安に満ちた心を静めながらも、私たちが口にせずにきた深い根源的な苦悩に鏡を向ける音楽」を生み出している。

 

『Friend』は、james Kが自身の核へと立ち返る作品。各楽曲は、過去・現在・未来に根ざしながらも、それぞれに内在する生々しい感情を圧縮し、完全に具現化された多様な形へと変容していく。Kは個人的な感情をプリズムに通し、それを外へと反射させることで、自身のブルーを、愛を受け入れる鮮やかな光で照らし出す。

 

ニューヨークに生まれ、今も拠点とするKは、都市の絶え間ない進化を音で体現している。それは、人間関係や空間の成長・崩壊・引力と斥力のようでもあり、その交差点には、ホームメイドかつ絶えず変容し続けるDIYレイヴ文化がある。それは地理的境界を超えた生態系であり、james Kという職能の中核であり出発点。彼女がギターと電子音を織り交ぜて生み出す独自のアレンジは、この文化的基盤の上に成り立っている。

 

現実と非現実の断片を繋ぎ合わせること――それこそが彼女の芸術の源泉であり、それはDekmantelSustain ReleaseMutekiii Pointsなど、世界中の思慮深く感情豊かなパフォーマンスに活かされている。彼女の国際的な評価は、同時代のアーティストから音楽界のパイオニアたちまで幅広く共演へと導いてきた。共演者にはJames FerraroRobert Aiki Aubrey LoweMorton SubotnickNick LeonArushi JainMalibuPrioriなどがいる。

 

 

『Friend』はニューヨークとモントリオールのスタジオで制作され、Special Guest DJ、Francis Latrielle、Ben Bondy、Patrick Holland、Hank Jackson、Adam Feingoldといった友人や仲間とのコラボレーションが収録。本作はKのメロディへの執着が前面に出ており、彼女の天上の歌声が際立っている。その歌唱は、Elizabeth Fraserのような“感情に導かれた”ものであり、「解読不能な歌詞の曲線が、恍惚と静かな哀しみの狭間の一瞬を捉える」と評されている。また、繊細に仕上げられたハイファイなサウンドが、夢のようなフロー状態を創出している。

 

ジャンルを横断し、自由に感情を手探りする――その脆さを恐れない姿勢こそ、彼女のシグネチャー。彼女は音楽家同士の新たな会話の基盤を築こうとしている。

 

james Kの多義的な歌詞と豊かな音のプロダクションは、聴き手に“旅としての楽曲”を体験させ、自分自身の解釈へと導く。それは「知ろうとする焦りから解放される」体験であり、「それでも知りたいという欲求に突き動かされる」探求でもある。彼女の作品は無数の引用を散りばめた物語を描き出し、『Friend』の親密な世界に私たちをやさしく包み込む――それは、時代を超越しながらも、明確には定義できない感覚。

 

彼女の煌めくプロダクションと巧妙なソングクラフトは、2000年代初頭のドリームポップやエレクトロニカの面影を漂わせながらも、90年代のトリップホップやドラムンベースといったサブジャンルを広く屈折させて再構成する。Kの美意識は、現在の音楽家やリスナーたちの共有幻想の中にあり、実験音楽の方向性を静かに導いている。

 

Play」の恍惚的なブレイク、「Lung Slide」の滑らかでダブっぽく気体のような質感、「On God」のシューゲイズな揺らぎ、「Doom Bikini」のLSDに浸されたGファンク鬱ポップ――『Friend』は、私たちの世界に一筋の道を示してくれる。このアルバムは無重力のような感覚で進み、K特有の柔らかく包むような語彙の中へと着地する。暗闇と至福の間を、開かれた扉のように漂いながら、『Friend』は最終曲「Collapse (falling forward blissfully all the time)」で集約されていく。

 

 

james K – Friend

Label : AD 93

Release date : September 5th 2025

Pre-order / Stream : https://ad93.lnk.to/Friend

 

Tracklist

1. Days Go By

2. Blinkmoth (July Mix)

3. Doom Bikini

4. Idea.2

5. N’Balmed

6. Rider

7. On God

8. Peel

9. Lude (unwind)

10. Play

11. Lung Slide

12. Hypersoft Lovejinx Junkdream

13. Collapse (falling forward blissfully all the time)

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