『Epoch』を巡るPhoto Dialogue|松永拓馬 interview

自宅、機材、本、母校、シークレットレイヴ

 

 

松永拓馬。現代的なアンビエント・ミュージックの新鋭としてパンデミック下に登場した彼は、誰しもが内省を深めた2020年代初期を象徴する次世代の音楽家だ。その姿を初披露した相模湖でのエシカルなシークレットレイヴのイメージを持つ人も多いだろう。松永拓馬が描くパーソナルで生々しい世界観には、あやふやのようで時に鋭く映る瞬間がある。まさしくリアル、写実的に軌跡を辿る彼の現在地点はいまどこにあるのだろうか。1st Album『ちがうなにか』から約2年ぶりのリリースとなる本作『Epoch』のリアルを、アートワークを手がけたKenta Yamamotoが撮りおさめた写真を通して紹介する。地元から離れた自宅、機材、お気に入りの本、母校の音楽室などから相模湖でのシークレットレイヴまで。松永拓馬のとある1日を切り取ったフォト・ダイアローグ。

 

Text:yukinoise

Photo:Kenta Yamamoto

Support : Masayuki Okamoto

 

#0 │2022/05/07@相模湖某所

 

 

 

1st Album『ちがうなにか』のリリースパーティーは、自分が生まれ育った地元、藤野で開催することに意味があった。

 

 

#01 │ イン・マイ・ルーム

 

 

 

いま住んでいる家の中。『Epoch』の制作はここかミルくんの家のどちらかだった。小学生の頃やってたバイオリンの音も今回1曲だけ取り入れてる。ライブで実際に演奏するとなるとちょっと面倒。でもバイオリンにマイクやエフェクターを付けたらもっと遊べるかも。

 

#02 │ 若い時にしかヤングな音は出せない

 

 

 

アルバム制作のために、去年他の機材を売ってまで買ったUDO AudioのSUPER6。デザインも90年代チックで手で触れるソフトシンセって感じ。割と新しいメーカーのシンセサイザーで、Juno-106とかをリバイバル的にオマージュしている感じが面白くて今は現行の機材を使って、後々ちょっとクラシックなシンセサイザーを買う方がいいなと思ってる。若い時にしかヤングな音を出せないから。年を重ねれば他にもっといい機材を買えるようになるだろうから、逆に今しか買わないような機材を選びたかった。

 

一方、ミルさんは今作でProphet-10っていうシンセサイザーを使ってる。あっちはアナログでモノラル。俺のはデジタルでステレオって感じで、お互い異なるもの同士で相反する音のうねりや交わりが生まれたのが楽しかった。

 

#03 │ Everyday 正月

 

 

Carsten Nicolaiがデザインした日めくりカレンダーはミルさんからもらった誕生日プレゼント。剥がすがもったいなくて1月1日で止まったまま。Everyday 正月ってことで、めでたくやらせてもらってます。

 

#04 │ はじめてのLP

 

 

今年アンコールプレスされたから、初めて買ってみた坂本龍一の『async』のLP、EP『SAGAMI』の頃から影響を受けてる教科書的な名盤。盤を見開くとアートワークが正方形じゃなくて長方形になるデザインで、サブスクで聴いてるだけじゃ気づけなかった。生産時に排出された二酸化炭素量も坂本龍一の植林プロジェクトから賄われてる作品。ちなみにリスニング環境はまだない。

 

#05 │ Epochの解像度を高める1冊

 

 

この本はやまけん(Kenta Yamamoto)がプレゼントしてくれたもので、大切なことがたくさん書いてある。

*焚いてる人が 燃えてる火

*美しものしかない みにくいものはまよい

*自分であればあるほど 自分はひとだ

*なんという今だ 今こそ永遠

なんてね。

 

#06 │音楽の原体験だった小学校の音楽室にて

 

 

 

小学生の時に獲得した音楽に対する身体性が今の制作にもすごく生きている。小さい時に何に触れてきたかってとても重要で、過去のトラウマとかも含めて、自分を構成する要素というか、制作の源流になってくる。

 

 

銅鑼みたいなタムタムはドイツの職人がこだわって作った打楽器。叩くといろんな振動が同時に起きて、色んな帯域で空間全体を揺らす極上の音が出る。ピアノや鉄琴の他にも、キャッチボールみたいに投げたり転がしたりして音を鳴らすような、身体性を音で拡張させる楽器がたくさんあった。

 

 

#07 │ i_want_

 

 

 

不安定な社会や、広すぎるSNSの反動とかで実際に会えるってことがすごく貴重に感じる。みんなそれぞれのコミュニティを持って、それを大事にするようなムードがある気がして、そういう時代に生まれた『Epoch』のコミュニティは補完関係じゃなく、同じ時間を生きてる中で、リズムがシンクロした点が繋がっていく感じで始まった。今回は自分が思い描いてることがいろんな人のタイミングと重なった結果、『Epoch』という概念が立ち上がっていき、松永拓馬を起点に共鳴していったことが最終的に一つのアルバムという形になった。みんなそれぞれ、日々の暮らしや遊びの中で新しい答えを様々な角度から探す、みたいな。

 

 

だから、完成したアルバムそのものよりかたちになるまでのプロセスが大事だったし、リリースした後もまだ完成してないというか、広がっていく余白がある。余韻や音の波紋が広がるように、ここから始まる新しい流れや、出会いに身を任せたい。

 

 

松永拓馬 – Epoch

Release date : Jan 31 2024

Stream : https://linkco.re/7ZGheQBx

 

Tracklist

1. July

2. Oh No

3. u

4. 森

5. もっと

6. Boys Lost in Acid

7. Owari

8. いつかいま 

 

Written + Produced by Takuma Matsunaga & Miru Shinoda Mixed by Miru Shinoda(1-5,7,8) & Atsu Otaki(6)

Vocal Recording by Atsu Otaki (EVOEL Studio)

Mastered by Wax Alchemy

Art design by Atushi Yamanaka

Artwork by Kenta Yamamoto

category:FEATURE

tags:

RELATED

FEATURE