傷跡ひとつひとつが柔らかいまま|yeuleが『softscars』で描く物語

人生を回想して見えた深層心理作品

 

 

シンガポール出身で現在はロサンゼルスを拠点に活動しているNat Ćmiel(ナット・チミエル)によるプロジェクト。yeule(ユール)が自身にとって3作目、〈Ninja Tune〉契約後初となるアルバム『softscars』を9月22日にリリースする。現在アルバムからは「sulky baby」「dazies」「fish in the pool」「ghosts」の4曲が公開されている。

 

 

 

 

 

6歳の時に両親に連れられたピアノ教室でクラシック音楽を学び始めたyeuleは、次第にレッスンを受けなくなり独学でギターやドラムの演奏を始め、やがて好きだったゲームの世界や楽曲の魅力にのめり込んでいった。ファイナルファンタジーのキャラクターを由来とするyeuleという名を自らに付け、2014年にセルフタイトルEP『Yeule』でデビューして以来、幽玄で幻想的なサウンドやロンドンでファッションを学び身につけたユニークなアート感覚が熱烈な支持を集め、カルト的な人気を獲得していく。

 

ノンバイナリーであるyeuleが抱える葛藤・苦悩や、オンライン上の人間関係に依存していた経験、その後現実社会と向き合うことで発見した新たな自分など、様々な感情を投影した歌詞の内容も、yeuleというアーティストを独自の存在たらしめている大きな魅力の一つと言える。壊れたコンピューターコードやエラーメッセージをテーマにした2022年リリースの前作『Glitch Princess』は、バーチャルとリアル双方で発生する様々なエラーやバグをノイズやファンタジックな音色を使い表現し、Charli XCXやCaroline Polachekなどのプロデュースを手がけてきたDanny L Harleなどと共に作り上げた。その世界観とプロダクションは高く評価され、表現者としての覚醒の瞬間が収められた会心作と言える内容だった。

 

そこから約1年という短い期間を経て早くも届けられた最新アルバム『softscars』は、パンデミック期間中の混乱で人との繋がりが断絶され、親しい友人をオーバードーズで亡くすなど心に大きな傷を負ったyeuleが、自らと向き合いこれまでの人生を回想し、幼少期の自分と対話することで見えてきた深層心理を描いた作品となっている。

 

yeuleは今作について、「傷跡というメタファーを使ってそれぞれの曲を表現した。傷跡ひとつひとつが柔らかいまま」「心理的トラウマであろうと肉体的な傷であろうと、時間が傷跡を完全に治すことはない。痛みがなくなった後も、傷跡は残る。私の先祖たちが経験して受け継がれてきたことを感じるの。トラウマは消えない。私の人生にはいつも腐敗や歪みがあって、いつも悪いものや醜いものもあった。だから傷跡は、私が守られていることや、私自身を守るべきことを思い出させてくれる」と語り、苦しみや悲しみ、痛みなど過去の様々な経験により生まれた傷跡こそが自分自身を形成する大切な要素になっているということを鋭く大胆な視点で描いている。

 

My Bloody ValentineやYo La Tengo、Slowdiveなどのバンドに大きな影響を受けたというyeuleのギターサウンドへの愛や熱が今作のサウンド面でのキーとなっていて、重たく難解な内容が多い楽曲に寄り添いながらその想いをエモーショナルに浄化させるポジティブなバイブスが作品全体を包んでいる。アコースティックな質感も交えた歪みの効いたシューゲイズサウンドと近未来感漂うサイバーなエレクトロサウンドが同居した響きは、どこか懐かしく得も言われぬカタルシスを生み出している。

 

プロデュースはyeule自身に加え、yeuleと度々コラボしている「シンガポールのアンビエント・ボーイ」と称されるKin Leonnが全編に渡り携わっており、さらにYve Tumor、Willow、Poppy、YUNGBLUDなどをプロデュースしているギタリストChris Greatti、そして前作アルバムに引き続きMura Masaがプロディースおよびギターやベース、ドラムの演奏でも参加。2017年にはLLLLとコラボシングル「Memories」をリリース、前作『Glitch Princess』にはTohjiが参加、その他過去作品には日本のアニメや駅のホームの音声を使用するなど、日本との繋がりもyeuleの作品を形成してきた要素の一つだったが、今作でも岩井俊二監督の2004年公開映画『花とアリス』のサウンドトラック収録曲「fish in the pool」をカバーしている。

 

「私たちはいつも沈黙させられ、この世界のあらゆるものから見放されているように感じる。これを着るな、あれをするなと人はいつも言う。でもあなたがそれを障壁と思わなくなったとき、あなたの生涯は花開く気がする。」

 

yeuleは常にアウトサイダーとして現実世界を生き抜き戦ってきた。

 

アルバム『softscars』は922日にCDLP、デジタル/ストリーミング配信でリリース。LPはマーブル・グレイ・ヴァイナルの通常盤と、ホワイト・アンド・ブルー・スプラッター・ヴァイナルの限定盤の2形態で発売。

 

 

 

yeule – softscars

Label : Ninja Tune

Release date : September 22 2023

imagery : Neil Krug

painted text and original drawings : Nat Ćmiel

 

Pre-order / Pre-save

https://yeule.lnk.to/softscarsAN

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13594

 

Tracklist

1. x w x

2. sulky baby

3. softscars

4. 4ui12

5. ghosts

6. dazies

7. fish in the pool

8. software update

9. inferno

10. bloodbunny

11. cyber meat

12. aphex twin flame

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