2022/10/13
神々の山嶺へと続くルートを開拓する
2022年現在から遡ること10年前、VaporwaveやSeapunkといったインターネット発の音楽がハッシュタグと共にアンダーグラウンドを賑わせた2012年、”それ”は突如としてインド/ネパールの山岳地帯から隕石のごとく現れた。いや、”それ”こと謎に包まれた呪術的サウンド・ゴルジェは足元に転がる石のように、我々を取り囲む自然にそびえ立つ山のように、いつからかすでに存在していたのかもしれない。当時、ゴルジェの存在に気づき始めた音楽家やリスナーたちは「#ゴルい」を携えインターネットに山脈を見出し、新たな道筋を歩むようになった。そもそもゴルジェとは、といった問いへの正解はまたひとつとして同じ石や山がないように明確には存在しないが、満たすべき条件はただ3つ。
「1. Use Toms(タムを使え)/ 2. Say It “Gorge”(それをゴルジェと呼べ)/ 3.Don’t Say It “Art” (それをアートと呼ぶな)」ー Gorge Public License by DJ Nanga
上記をもとに、険しい山岳に挑むクライマーのような強固たる精神性をかたち作るゴルジェの探求者こと、ブーティストたちはこの10年のあいだどこまで高みを目指していったのだろうか。「The Summit of the Gods」を今年リリースした北九州のブーティスト・Kazuki Kogaに、ゴルジェの原体験と現在地点を語ってもらった。
Text : yukinoise
Photo : abelest
– 早速ですが、ゴルジェとはどういった音楽ジャンルですか?
Kazuki Koga(以下:Koga):ゴルジェはインド/ネパールの山岳地帯で生まれたとされるタム(ドラムセットのスナッピーがない中型の太鼓をさす)を基調としたビートによる、呪術的なグルーヴを特徴とした音楽と言われています。またクライミング・カルチャーと深い関わりを持っていて、ジャンル名は登山用語の「ゴルジュ」からとられたと言われています。日本ではゴルジェ専門レーベル・GORGE.INが始動し、コンピレーションアルバム「Gorge Out Tokyo 2012」がリリースされた2012年がゴルジェのゼロ地点とされることが多いですね。
– Kogaさんがゴルジェに出会ったのも2012年頃ですか?
Koga:2012年頃はゴルジェのことはTwitterで見かけたことがあってなんとなくワードだけは知っていたけど、自分がゴルジェをやり始めたのは2013年の春くらい。ゴルジェと同時期にJUKE/FOOTWORKが日本で注目されたこともあって当時は「GORGE VS JUKE」と銘打たれたイベントが開催されたり、「SHIN-JUKE」というJUKE/FOOTWORKのイベントに日本ゴルジェの祖であるhanaliが出演したりゴルジュークと呼ばれるハイブリットなサブジャンルが提唱されたりと両ジャンルの交流が盛んでした。2013年の4月にDOMMUNEで配信された〈「The Mystery of GORGE/BROADJ♯856」〜ゴルジェ、この呪術的NU GROOVEの神秘…〉という特番を観たのが自分にとってちゃんとしたゴルジェとの遭遇でした。その時まで自分が知っていたどんな音楽とも違っていて、それでいて知れば知るほど一向に実態が掴めない特異な音楽。この特番を観て衝撃を受け、その日のうちにゴルジェを始めました。この特番はそれまで東京近郊と一部ネットでしか知られてなかったゴルジェが日本全国に広まるきっかけになり、その現象は2nd G-SHOCKと呼ばれたりしました。すぐに”Climbing For Gorge”という曲を作ってSoundCloudにアップしたら(現在は削除済)、GORGE.INがTwitterで拡散してくれてたのもあり、今まで箸にも棒にもかからなかった自分の音楽をたくさんの人が聴いてくれたのが嬉しくて完全に味をしめてしまいました。それからはゴルジェの真理に近づくべく、またクライミングカルチャーの理解なくしてゴルジェブーティストは名乗れないと思いクライマーのインタビューや自叙伝を読み漁ったり、実際にボルダリングを始めてみたりと自分自身もゴルくなっていきました。GORGE.INがPinterest上で運営しているRoots Gorge Archiveというアカウントも「何を以ってゴルジェとするか」の理解に役立ちました。
※Roots Gorgeとはゴルジェが電子音楽のサブジャンルとして提唱されるより以前にゴルジェに接近していた、または接触していたとみられる音楽。
https://www.pinterest.ca/oiplabel/roots-gorge-archives/
– なんと、ゴルジェを知ったその日のうちに始めたんですね…!ゴルジェのどのようなところに感動しましたか?
Koga:「自由さ」ですね。とにかく新しいことがしたかったんです。当時はテクノをやっていたのですが、テクノのようなリズムパターンやBPMがある程度決まっていて様式美が強調されているジャンルの中で新しいものを提案する難しさにすごく行き詰まっていたんです。例えばどれだけ頭を捻ってビートを作りあげたところでそこに四つ打ちのキックを置いてしまえば、それは結局既存のテクノの大きな枠組みの一部にしかすぎず、こんなことを繰り返していても革命的に新しく面白いものなんて一生作れないんじゃないかと感じていました。一方ゴルジェには、リズムパターンやBPMの制約は一切ない。ルールはGPL(Gorge Public License)にて制定されている「タムを使うこと」「それをゴルジェと呼ぶこと」「それをアートと呼ばないこと」の3つだけ。これなら既存の音楽をどんどん脱構築してそこにタムを加えればどんな制約からも開放された全く新しいものが作れると思いました。またどんなに突飛な音楽を作ったとしても、タムさえ入ってればゴルジェというジャンルとして無理矢理着地させられるということは、今言ったことと矛盾しますが実は安心でもありました。
– ゴルジェを構成するのは音楽だけでなく、山やクライミングも大きな要素になりますよね。
Koga:「ロッククライミングの美的・精神的・身体的昇華を伝え、神々の山嶺へと続くルートを開拓する。」と自分のバイオグラフィーに書いてあるように、ゴルジェには岩の硬さや山の荘厳さ、美しくも時に無慈悲な自然、そしてクライミング自体の音像化という目的もあります。正味な話、命の危険を冒して過酷な環境下で巨大な岩や山によじ登るなんて何の意味があるかわかりませんよね?ましてや現代で未登頂の岩や山なんてほぼなくて、だからってわざわざ難しいルートを見つけてきて登ったり、その過程で数えきれないクライマー達が死んでる。それでも彼らを突き動かすものは一体何なのか。そこにゴルジェの真理があると思ったんですね。クライミングは壮大で崇高で勇敢な行為に見えますが、実際はドロドロとした怨念にも似た情熱でグチャグチャになりながら生きるために登るという行為だと思います。俺がやりたいゴルジェは、そんなクライマーの生き様を擬似体験させられるような体験型の音響表現です。
– 2022年現在、ゴルジェが生まれてからちょうど10周年を迎えました。この節目を祝うべく5月にはDOMMUNEで「GORGE I/O DOMMUNE 2022」が配信されたのもあり、改めて盛り上がりを見せていますよね。それまでの間、ゴルジェのシーンはどのような動きがありましたか?
Koga:先述のように2nd G-SHOCK以降、北海道から沖縄まで全国でゴルジェを始める人が増えてリリースも増え、2015年までは毎年DOMMUNEで特番が配信されたり地方でJUKE VS GORGEが開催されたりとだんだんと盛り上がっていきました。山の日に開催されるフルゴルジェイベント〈yamanohi.club〉は現在もほぼ毎年開催されています。しかし2015年以降はネット上では一時期に比べ静かになっていた時期もありました。当時のゴルジェは謎に包まれていてジャンルの定義もはっきりしてなかったし、「#ゴルい」というハッシュタグが独り歩きしてしまった結果、解釈が広がりすぎてよく分からないまま離れていったリスナーもいるのかもしれません。
– 「#ゴルい」がミーム化して流行が終わったというか、ゴルジェがリスナー層の間でジャンルとして確立される前に消費されてしまったような印象もあります。インターネットから盛り上がった音楽でもありますし、自由で規則性がないところも相まって離れてしまった人もいそうですね。
Koga:今になっての気づきですが、ゴルジェは他のサブジャンルのように「拡大」することで発展していくのではなく、「拡散」していくことで発展する音楽だと思うんですよ。「広がる」という点では同じなんですが広がり方の性質が違うんです。だからSNS上で本質をすっ飛ばして何でもかんでも「#ゴルい」の解釈を拡げていくと、それぞれの「#ゴルい」の間に差異が生じます。そこでその隙間を埋めようとすると本質がぼやけてしまってよくわからなくなってしまうと思うんです。対して今もずっと活動を続けてるIndus Bonzeさんの「妖怪」「呪い」、TEACHIさんの「島ゴルジェ」、Drastik Adhisive Forceさんの「スラブ」なんかは「#ゴルい」の本質からそれぞれちゃんと地続きで、突き詰めれば突き詰めるほどそれぞれ鋭利になり、そして散らばっていく。それぞれに差異はあるようで実はないんです。そして、疎になればなるほどゴルジェはその本質を発揮するんです。だから流行っぽく「ゴルジェ終わった」とか「ゴルジェとかあったな」とか言われちゃうんですけど、盛り下がってるように見えれば見えるほど実は盛り上がっているんですよね。俺たちは勝手にずっと自分の山を登っていてひたすら加速し続けているんです。それにhanaliさんはよく「ゴルジェは100年単位での流行を追う」と言います。数年単位での浮き沈みなんて1000年先を見てるゴルジェにとってはほんの些細なことなんです。
– 動かざること山のごとし、ですね。100年単位で考えたら今の10周年もまだまだゴルジェ初期段階ですし、またここから新たな動きが生まれる予感がします。
Koga:「どうやらゴルジェという音楽があるらしい」「インド・ネパールの山岳地帯発祥の音楽らしい」ゴルジェは伝承によって広く知られていきました。ここからはゴルジェという現象がどのようにして伝承されたのか、過去10年間の舞台裏にも言及されていくのではと見てます。個人的にはここがゴルジェの本当に面白いところだと感じていて、このことが知られるとゴルジェの見方がまたガラリと変わると思います。また言葉や文化と同じく、伝承されていく過程で転がったり削れたり拡散していったりと姿かたちがローリングストーン(ゴルい)のように変わっていくだろうから、その様を見届けるのもすごく楽しみにしてます。
– どのような進化を遂げるのか100年後が待ち遠しいです。先日、ゴルジェ発祥の地がネパールではなく日本であることがブーティストのIndus Bonzeさんよりネタバラしされましたが、こちらはゴルジェシーン全体で以前から予定されていたことですか?
Koga:5月のDOMMUNE「GORGE I/O DOMMUNE 2022」の際に、出演者全員がスーツを着て発祥に関する謝罪会見から始めようかと冗談を言ってた程度には予定してました。結局DOMMUNEの番組では言わなかったのですが、後日TwitterでIndus Bonzeさんがネタバラししてから一気に注目が集まりましたね。Bandcampからゴルジェの記事も出たし、10周年で何かしらの大きな力が働いていたのかな。
https://daily.bandcamp.com/lists/gorge-music-feature
– Bandcampの記事内でも、ゴルジェが再び盛り上がったのはKogaさんの「Instinctive Plagiarism」がキーであると掲載されてましたよね。
Koga:それは嬉しいですね。でも自分の作品はきっかけのほんの一つにすぎないですよ。Indus Bonzeさんの日々弛まぬ普及活動やTEACHIさんの密な海外のブーティストとのコミュニケーション、hanaliさんの動かざること山の如しなブレなさ、皆が地道に活動してきたからこそ今があると感じています。
– 塵も積もれば山となるように今日までの強固なシーンが築かれてきたんですね。ゴルジェに目覚める前は、どのように音楽と触れてきたのでしょうか?
Koga:音楽の原体験はL’Arc〜en〜Ciel(笑)。恥ずかしいから言いたくないんですけど。小学生のときに知ってからファンクラブに入るほど好きになって、将来は音楽をやりたいなとぼんやり考えるようになったのかな。中学生の頃はNu Metalを聴いたり、ギターを始めてバンドを組んだりして、17歳で北九州市から福岡市に引っ越してから10代のうちは年上の人たちと真剣にバンドをやったりしました。だけど、巷でよく言われるようなバンドの化学反応なんて起きなかったんですよね。それで複数人で音楽をやるのってなんて難しいんだと挫折してしまいました。当時のドラマーの勧めでビッグビートをよく聴いてたんですがそれ以前からインダストリアルや電子音が入ったバンドを好んで聴いてたことから電子音楽に興味を持つようになって、Aphex Twinなどソロの電子音楽家を知ったのをきっかけに「これなら1人でも音楽活動できる」と20歳過ぎてから本格的に電子音楽を始めました。ずっとバンドをやってたから機材を買って制作してもなかなかうまくいかなかったけど、電子音楽のことをもっと深く知るためにクラブに行ったりDJをやるようになり、クラブミュージックのことがわかっていくうちにテクノに的を絞って曲を作るようになりました。
– 様々な音楽ルーツを経てゴルジェに辿り着いたんですね。ゴルジェに出会ってからはずっとゴルジェを中心に活動されていたんですか?
Koga:ずっと完全にゴルジェです。カンゴール。ゴルジェを始めたのと同時期くらいにArcaやOneohtrix Point Neverを狂ったように聴いてたんですよね。立体的なサウンドデザインやDAW上のグリッドから解放された自由で生き物のように動き回る作風はものすごくイノベーティブに感じて影響を受けました。ゴルジェをやっていくうちにクライミングの精神的な部分に興味を持って、初期は実直にゴルジェを解釈する方向だったのが2015年くらいからはその影響下でポスト・ゴルジェ化というか、タムを使わずにどこまでゴルくできるかを追求し始めました。ゴルジェはタムでなくてもタムっぽければ何でも良かったりするので。「タム待ち」という文化も当時はあったし。カナダのモントリオールへの移住と重なる時期でもありました。
– モントリオールに移住したきっかけは何だったのでしょうか?
Koga:海外に移住する計画はゴルジェを始める前からあって、このまま日本でダラダラ音楽を続けていくより思い切って全部環境を変えて自分の音楽がどう変わるか試してみたい、海外で揉まれたりいっそ音楽をやめたくなるくらい喰らいたいと思って。元々はイギリスに行こうと思ってたけどYMSの抽選に漏れてしまい、しょうがないから抽選なんてないカナダに決めました。どこの都市に行くか調べてたら、どうやらモントリオールって街が変わってて面白そうだなと。当時まだ数少なかった在モントリオール日本人のブログとかチェックして情報を集めたり、何人かの信頼してるミュージシャンの先輩に意見を聴いたりしながら決めました。フランス語圏の都市だし英語も喋れなかったからハードルが高そうだったけど、渡航前日に在モントリオール日本人ミュージシャンとSNSを通じて知り合ったことですぐに現地の音楽シーンに入れたし、住んで1〜2ヶ月くらいにショーで演奏したのがきっかけでどんどん友達も増えていきました。
– モントリオールでのライブの反応はいかがでしたか?
Koga:良かったです。ゴルジェやっててよかったと思いました。あっちの人ってとにかく感想を言ってくれるんですよ。演奏終わるとすぐに話しかけてくれて本当に思ってるのかわかんないけど「こんなすごいの初めて見た!」とか言ってくれる。当時はアジア人のミュージシャンが少なかったし珍しかったんでしょうね。ゴルジェのことを説明したり、仲良い人たちにはゴルジェの真実をこっそり話したり。モントリオールの人たちは最初壁があるように感じるけど、仲良くなると家族のように接してくれて。家族みたいな友達がたくさん出来たし、一年の半分が冬で死ぬほど寒いけど街もきれいで大好きになったから最初は一年だけの予定が3年半居座ってしまいました。
– モントリオールに住んでいた当時、現地にはどんなシーンがあったか教えてください。
Koga:自分が入ってくる前はポストロックとかノイズ/ドローンが人気だったようで、バンドから電子音楽まで多種多様なシーンがありました。Godspeed You! Black Emperor、Tim Hecker、Marie Davidsonなんかもモントリオール出身。Grimesも人気になったのはモントリオールに住んでた頃だったり。倉庫や空きビルの一室のようなDIY的なベニューでやっているイベントによく遊びに行ってました。平日のドローンやノイズなんかの日本じゃ絶対客入らないようなイベントでもおしゃれな若者が遊んでいたのを覚えています。ギャラリーや美術館も多いし映画祭もあるし夏は街のど真ん中で毎週フェス開催してるし。文化的でリベラルな人が多い都市でした。日本でもやってるMutekもモントリオールの街中でやってるフェス。あっちのミュージシャンではJesse Osborne-LanthierやBataille Solaire、Pierre Guerineau (Feu St-Antoine)、susy.technology、J. Ka Chingとか仲良かったですよ。NYのDasychiraやQUALIATIK、オハイオのv1984、カナダ・バンクーバーのCityなんかとも交流がありました。自分の中でゴルジェ以前/以降も大きな出来事だけど、モントリオール以前/以降もかなり大きい。
– モントリオールでの生活もゴルジェに次ぐ人生の転機だったんですね。
Koga:日本に住んでたら中々体験できないような強烈な体験をたくさんしました。言語も文化も全く異なる場所に自分の身を置いて生活することは、まるで大人のまま子供に戻ったみたいでとにかく新鮮でした。ハンバーガー1つ買うのですら最初は一苦労だったし、毎日が挑戦でした。モントリオールはバイリンガルが多い都市なんで俺は基本的に英語だけ話してました。金が勿体なくて語学学校に通いたくなかったのでルームメイトとか同僚とか友達とか自分の周りの人たちの会話から学んでました。これがまた強烈で、段々その人達のパーソナリティが英語を通して自分の中に入ってくる感覚を覚えるんです。恋人や親しい友人の口癖が自分に移るようなものに近いですけど、もっと強烈。たまに自分自身が一体誰なのかわかんなくなりそうになるんです。新しい自分が人によって形成されていく感覚。
– 現地シーンとの交流を経て音楽性もアップデートされましたか?
Koga:一番変わったのはライブですかね。とにかくライブに力を入れてました。モントリオールのベニューは日本ほど設備が整ってなかったから、音は悪いし、まともな照明・効果の設備もない。限られた状況下でどうすれば良いパフォーマンスができるか追求したり、どんな状況でも対応出来るようにシステムから見直したりしました。自分の曲をDJのように即興で組み合わせる現在のライブセットのスタイルの原型ができたのもモントリオールにいた2017年くらい。俺の曲作りはアルバムのようなまとまった作品を作るためと言うよりはライブで演奏するために作ってるので、ライブのスタイルが変化してからはよりツール色の強い曲を作るようになったんですけど、そういった曲を並べてEPやアルバムとしてパッケージしようとしてもどうしてもピンとこなくて、ある程度曲がまとまった作品は去年の”Instinctive Plagiarism”まで6年くらい出せませんでした。
– モントリオールから日本帰国後の作品となると「Instinctive Plagiarism」や「The Summit of the Gods」をリリースされています。どちらも20年代以降の作品ですが、移住経験だけでなく近年におけるコロナ禍などの影響も反映されているのでしょうか。
Koga:2015年の”The Salathé Wall”から”Instinctive Plagiarism”まで6年くらいまとまった作品が出せなかったんですが、まあそれでもライブが出来ればいいと思ってたけど、コロナ禍でいよいよ演奏する機会がなくなるとあまりにやることがないんで2016年から2021年夏までに作った曲でEPとアルバムを作りました。2015年以降ポスト・ゴルジェ化が加速していってタムを使うような直接的なゴルジェの表現を避けたり、それに伴ってダンス要素を廃したりたんです。それも数年やってきてそろそろ区切りをつけたいと感じてたのでそういった思いもあります。最近はそれを踏まえてゴルジェの原点に戻ってタムを強調したダンスミュージックを作りたい気分です。それもダンスする機会がめっきり減ったコロナ禍の影響かもしれませんね。それと最近は家でドローンやアンビエントを聴くことがものすごく増えました。家で音楽作ってる時以外の生活してる時間は大体YouTubeやNTSでドローンかアンビエント流しています。でも全く真剣には聴いてないです。意識しなくてもそこに在る、程度の音楽が心地いいっていうか、音楽聴きたくない時に聴く音楽っていうか、間を埋めてくれるっていうか。よくわからないけどすごくしっくりくるのでドローン/アンビエントの作品も作ってみたいですね。結局過激な作品になるだろうけど。岡本太郎じゃないけど、「うまくあってはならない。きれいであってはならない。ここちよくあってはならない。」を地で行く強烈な作品を作りたいのはずっと変わらないです。
– 実際、先日行われたリリースパーティーでのライブではさまざまなオーディエンスが爆発的な盛り上がりを見せてましたね。帰国後はアルバムリリースのほか、クリスチャンになられていたそうですが、信仰するようになったきっかけについて教えてください。
Koga:2020年の末くらいから当時親しかった人の紹介で、NPO法人「抱樸(旧北九州ホームレス支援機構)」を運営している東八幡キリスト教会に足を運ぶようになりました。モントリオールでは、冬はホームレスが凍えないよう地下鉄の駅で保護したり炊き出しをしたりと行政が手厚い福祉支援を行ってたのに対し、日本では自己責任論的にホームレスを排除しようとすることに帰国してから疑問を持っていたんです。しかもその矛先はいわゆる「普通」のレールから外れた中卒でフラフラしてる自分のような人間にも向けられていることも知ってましたし、実際大人になっていく過程で嫌というほど味わってきました。教会に通いだしてすぐ、抱樸の「どんな人も見捨てない」行動理念が聖書やキリスト教に基づいていることがわかってキリスト教に興味を持ちました。クリスチャンになろうと決意したのはちょうどアルバムが完成した2021年夏から秋頃、今後の自分の人生にすごく悩んでた時で、ある主日礼拝での宣教を思い出したことがきっかけでした。
– どのような宣教の言葉ですか?
Koga:その時の宣教は新約聖書のルカによる福音書第8章22節以下の箇所で、弟子とともに湖を渡るイエスは舟の上で眠っており、突風に遭った弟子たちはイエスを起こし助けを求める。弟子の足元で眠っていたイエスは起き上がり風と荒波を叱ると静まって凪になった。そしてイエスは弟子に向かって「あなたがたの信仰はどこにあるのか。」と言われた。という話なんですが、これはどんな苦難や試練に見舞われようとも、恵みや救いというものは私たちの足元で寝ている、追い求めるものではなく実は最初からずっとすぐ隣にあるものだということを説いた話なんです。このことを思い出した時、ふと自分にとっての恵みや救いも自分の足元にあるんだから、仮に今は苦しくとも、きっとこの苦難が自分の内に働いて未来の糧になっていくのではないかと思えるようになりました。客観的に見れば「ものは考えよう」なのかもしれませんが、まずそういう発想に至れないくらい周りが見えてないのが自分のような本当に救いを求めてる人たちです。一人では絶対に気付けなかったけど教会に出会えたことで知れて良かったと思ったからその気持ちを証するため、しんどい時や迷った時にまたいつでもここに戻って、初心に帰れる場所にするためにバプテスマ(洗礼)を受けようと思いました。
– バプテスマ(洗礼)を受け、一個人としても音楽家としても大きな変化は生まれましたか?
Koga:教会の奥田牧師は「クリスチャンになったからといって何かが変わったり、幸せになったりはしない。なんならもっと苦しくなってしまう。」と言います。キリスト教はご利益宗教ではないので信仰したところで金持ちになったり、病気が治ったりなんかしないんですよ。自分を取り巻く状況は相変わらずで、毎日苦しいのは当たり前なんですが、後ろ盾ができたというか「まあ神様がうまいことやってくれんだろ。」と何事もつまらないことで迷ったり悩んだりすることは減ったと思います。ライブも思い切りの良い演奏ができるようになった気がします。一昨年から小倉でpastelと共同経営しているDJ BAR HIVEや自分の生活と音楽活動全てがリンクした気がするし、ミュージシャンとして、クラブの経営者として、そして一人の人間として自分がどう動くべきかの狙いが定まってきたなという実感があります。多分自分の足元でずっと寝てた救いや恵みとが何なのかがわかったからかな。
– 現在の活動以外にも、DJ BAR HIVEをはじめ、出身地の福岡・北九州で長く音楽活動されていますよね。ローカルで活動するメリットやこだわりなどはあるのでしょうか。
Koga:正直地方に住むメリットって首都圏と比べて生活にかかるコストが少ないくらいしかないかもしれません。特に俺は地元である北九州が大っ嫌いだったので。今は好きですけどね。日本でも海外でも地方都市で活動し続けているのは大都市に住むことに魅力を感じないのと、どこにいたってやることは変わらないってことをわかってるからです。働いて作品作って演奏する。それだけでしょう?本当にいいもの作ってちゃんとアウトプットしてたら絶対に広がっていくのもわかってるし。華やかな大都市圏なら仲間も見つけやすいしチャンスも掴みやすいと思った若い子が東京とかに憧れちゃう気持ちもわかります。でも地方でもヤバいものを作ることは十分可能だと思います。長く活動を続けてると東京に憧れて移住しても日々の生活に忙殺されて辞めていった人を沢山見てきてすごく勿体ないなと思ってました。ずっと続けてたら良くなってたかもしれないのに。だから自分が地方に居ながらもブチ上がっていくところを見せることができたら地方の若い人にも希望を与えることができるんじゃないかと思います。地味でも長く続けてたら段々と研ぎ澄まされてちゃんとヤバいものが作れると思うしそれを実践してる人たちはすでに地方にたくさんいますよね。
– 先日行われたリリースパーティーも福岡のローカルコレクティブ・0fficeが主催してましたが、普段はどのような活動をされているコレクティブですか?
Koga:0fficeは福岡市を拠点に活動するオーディオ/ヴィジュアルコレクティブでDJのHinako Takada、VJのchanomaを中心に2015年より活動を開始しました。DJ、VJ、トラックメイカーの他に写真家、3Dモデラー、ウェブデザイナー、空間デザイナー、美術家、大工、住職、庭師、PAなどマルチなタレントが参加しています。基本的な活動はクラブや山の中でイベントを開催したりキャンプしたり釣りをしたりしてます。今ちょうど新しいプロジェクトに取り掛かっていて、展示やポップアップ、ちょっとした配信もできるスタジオやアトリエ、アーティストインレジデンスとして活用できるクリエイティブスペースを作ろうとしています。運営にかかる費用をクラウドファンディングで集めたいと思ってるのでぜひサポートしていただきたいです!帰国して以来0fficeの一員として活動してきて、これからは自分らより若い世代を巻き込んで更に新しいことや面白いことをしていきたいと思っています。
– ローカルシーンもゴルジェもこれからどんな未来を描いていくのか楽しみです。最後に、今後の活動や展望があれば教えてください。
Koga:ゴルジェブーティストとして、HIVEのcoオーナーとして、0fficeの一員として自分がいいと思うものをひたすら追求し続けていきたいと思います。登山家の何がカッコいいかって、彼らには山と自分自身しかないんです。他にはなんにもない。ひたすら自分の理想とする登攀を実現するため日々実践し、技術も精度も鋭さもどんどん増していってやがて狂気をまとった獣のようになる。俺もそういう生き方をしたいです。ゴルい!
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Gorge Playlist by Kazuki Koga
0ffice
10/23(sun)
18:00-25:00
at Kieth Flack
Advance:2000+1d
On the day:2500+1d
Release Live : Hitomi Moriwaki
Guest: Rosa(ririn yu rusty/Osaka)
DJ/LIVE: スポーツガーデンひ, lilog, Kazuki Koga, Kukiya Kiya, qoonel, Yuki Hata,uami,JanSport
VJ: chanoma, hamasu, syk
category:FEATURE
tags:Kazuki Koga
2022/05/13
BBBBBBB、没 aka NGS、hanali、uami出演 福岡県出身の電子音楽家、ゴルジェ探求家Kazuki Kogaの最新アルバム『The Summit Of The Gods』のリリースを祝して、Kieth Flackにて「0ffice」が開催。 ゲストにBBBBBBB、没 aka NGS、hanali、uamiを迎えて開催される本イベント。神々の山嶺の先に何が見えるのか、山に捧げる人間の生き様を見届ける。 0ffice -Kazuki Koga “The Summit Of The Gods” album launch- 2022.06.12(sun) at Kieth Flack 1F+2F 18:00-25:00 ADV:¥2400+1d DAY:¥2900+1d BEFORE20:00:¥2000+1d Special Guest: BBBBBBB, 没 aka NGS, hanali, uami DJ/LIVE: Hinako Takada, YY, HIRO))), スポーツガーデンひ, Lil 涙, QOONEL, Kazuki Koga, washio, Shiori Kaneko, Lilog, yamasaki, Kathmandu Sound VJ: HAMASU, SYK, 茶の間 FOOD: “YES”ケバブれすとらん SHOP: 万力商店
2021/12/05
“GORGEとは只の紛い物である” 福岡県出身の電子音楽家Kazuki Kogaが4曲入りの新作EP『Instinctive Plagiarism』をリリース。 ロッククライミング/登山の電子音楽的解釈として知られているGORGE。インド/ネパールの山岳地帯で生まれ日本で発展したと伝えられているが、その実体は独自の暗号と伝説によって漠然と定義されているだけである。その目的はロッククライミングの美的・精神的・身体的昇華を伝え、神々の山嶺へと続くルートを開拓することにある。 “Instinctive Plagiarism”は盗用・流用・改竄をテーマにGORGEが電子音楽のサブジャンルとして提唱されるより以前にGORGEに接近していた、または接触していたとみられる音楽(Roots GORGE)を恣意的に再構築することを目的として制作された。サンプリングでもリミックスでもトリビュートでも、オマージュでもパロディでもない。GORGEとは只の紛い物である。 過去に登攀されたルートをフリーソロにて挑む。 Kazuki Koga – Instinctive Plagiarism Label : Virgin Babylon Records Release date : 4 December 2021 Buy : virginbabylonrecords.bandcamp.com/album/instinctive-plagiarism Tracklist 01.HIMARAYAN GIANT 02.Annapurna –अन्नपूर्ण– 03.Vertical Alpinism 04.Harder Than It Appears MUSIC by Kazuki Koga ART WORK by Ryohei Sasaki
2022/01/17
GORGEを脱構築する 福岡県出身の電子音楽家Kazuki Kogaが新作アルバム『The Summit Of The Gods』のリリースを発表。 Kazuki Kogaは2015年から2018年までモントリオールを拠点に活動し、現在は北九州市を拠点に活動している。ロッククライミング/登山の電子音楽的解釈として知られているGORGE。インド/ネパールの山岳地帯で生まれ日本で発展したと伝えられているが、その実体は独自の暗号と伝説によって曖昧に定義されている。その目的はロッククライミングの美的・精神的・身体的昇華を伝え、神々の山嶺へと続くルートを開拓することである。 『The Summit Of The Gods』はKazuki Kogaが2015年から実践している”GORGEを脱構築する”という個人的なプロジェクトの集大成であり、その精神とアイデアは従来のGORGEに対して明らかにポスト構造主義的である。“タムを用いた呪術的なグルーヴ”というGORGEの伝統を脱構築し、前衛音楽の技法を積極的に取り入れることで岩や山の険しさ・極限行の厳しさ、クライマー(とりわけソロ・クライマー) の精神・生き様を”体験”に近いかたちで音楽に昇華する。絶え間なく起こり続ける過剰な変化と無調和はまさに彼独自の極限登攀である。 — 作者ステイトメント: 神々の山嶺に想いを馳せる “The Summit Of The Gods”によせて なぜ人は山を登るのか、なぜ依存症に陥った者の如くより多くの危険を、 より恐怖を感じるこ とを求め続けているのか。 ただ高いところによじ登って、そんなことに何の意味があるのだろうか。 命を賭してまで臨むその山嶺(いただき)には一体何があるのだろうか。 世界に冠たる有名な登山家ラインホルト・メスナーはインタビューでこう述べている。 「わたしは、また登る。登り続けずにはいられないのだ。̶̶̶死と隣り合わせにいるとき、奇妙な音、現象、そして幻覚を感じ始める。すると新たな側面がそっとわたしの前に姿を現 し、死の予感がまったく新しい生のヴィジョンへと化していくのである。」 彼らは何よりも生を愛している。彼らは生の欠如に過ぎない見かけの安らかさを愛することはできない。存在するだけでは満足できない。彼らは生きたいのだ。だから、登る。登り続けずにはいられない。 彼らの心理や生き様を音楽に昇華するべく2015年に”Alleingehen2.0”と”The Salathé Wall” という2枚のアルバムを作った。今作“The Summit Of The Gods”はその2枚のアルバムと地続きにあり、約6年間ひたすら取り組んできたこのテーマの集大成とも言えるかもしれない。 タイトルは夢枕獏の小説「神々の山嶺」の英題をそのまま拝借した。メスナーのことばと並ん でクライマーの精神を読み解く上でとても大きな影響を受けた作品だからだ。 絶え間なく起こり続ける過剰な変化と無調和の向こうに神々の山嶺を、人生を山に捧げる人間 の生き様を感じてほしい。 — Kazuki Koga – The Summit Of The Gods Label : Virgin Babylon Records Release date : 29 January 2022 Artwork : Ryohei Sasaki Tracklist 01 S.L.A.B. 02 Absolute Strength Of Will
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