2020/09/24
10月30日リリース
Oneohtrix Point Neverことダニエル・ロパティンが、現代の最も重要なプロデューサーの一人であることに異論を唱える人間がいるだろうか。自身の作品では刺激的なヴィジョンとサウンドをアルバムごとに提示し、また、様々なアーティストの転機作や代表作にプロデューサーとして関わってきたロパティンだが、2020年もその勢いは衰えることがない。まず、カンヌ・サウンドトラック賞にも輝いた映画『Good Time』でコラボレートしたジョシュ&ベニー・サフディ監督の新作『Uncut Gems』の音楽を手がけ、ダニエル・ロパティン名義でより構築的で洗練された楽曲を提示したサウンドトラックをリリース。また、同作に出演していたThe Weekndの最新作『After Hours』において、シングル「Scared to Live」の作曲に参加、ほか2曲でプロデュースを務め、作品の方向性を決定づけることになった。さらには、R&Bとチェンバー・ポップとインディ・ロックを自在に行き来する才能、Moses Sumneyの2枚組大作『Græ』 の12曲で作曲およびプロデュースを担当し、重要な役割を果たしている。そんなロパティンのコア・プロジェクトであるOPNの原点の振り返りであり、集大成であり、同時に最新型となるのが〈Warp〉からの4作目のセルフ・タイトル・アルバム、『Magic Oneohtrix Point Never』。セルフ・タイトルと言っても冒頭に“Magic”とつけられているのは、もともとOneohtrix Point Neverというアーティスト名が、ボストンのソフト・ロックのラジオ局である〈Magic 106.7〉を聞き間違えて言葉遊びでつけられたことに由来している。
本作の出発点は、リサイクルショップで大量に購入したニューエイジのカセットテープを使ってコラージュを作っていたロパティンが、OPNの名前の起源について考えたことにあったという。それはもともと、ラジオ局の名前が内蔵されたものであったのだと。そこから着想を得て、『Magic Oneohtrix Point Never』はひとつのラジオ局を聴く体験を模したものになっている。朝に始まり夜通し続いて終わるラジオの放送区分を思わせる構成で、朝の挨拶で始まり、中盤はポップ音楽の断片が挿入され、終わりにかけてよりディープな展開へと至る。だがそこにはOPNらしくエラーや異物感がふんだんに含まれており、たとえばアメリカの古いFMのジングルやDJの決め台詞のサンプルがニューエイジの自己啓発の文句とぶつかり、ダークなユーモア感覚を生み出している。ニューエイジを脱構築したサンプル・コラージュの傑作『Replica』のような展開、〈Warp〉での初作にしてOPNの名前を広く知らしめた『R Plus Seven』における静謐な旋律、『Returnal』の強力なノイズ、『Garden Of Delete』や『Age Of』でのポップ・ミュージックへの意識的な接近、あるいは映画音楽の仕事を思わせる交響曲的な構築といったこれまでのOPNの音楽的要素を自在に行き来しながら、架空のラジオ局というコンセプトのもとそれらは奇妙に統合されている。
強烈なインパクトを持つアートワークを手がけたのは、ロパティンとはノイズ・シーンでの関わりから古くからの友人だったというRobert Beatty。Tame Impalaの『Currents』やケシャの『Rainbow』などサイケデリックなアートワークで知られる彼とOPNとの共作となっている。
世界的なパンデミックという奇妙な事態に世界が飲みこまれ、多くのひとが外部との接点をインターネット以外に失うなか、ロパティンはニューエイジとソフト・ロックが流れる偽のラジオ放送『Magic Oneohtrix Point Never』を通して、変わらず現代を鋭く批評しているのである。
収録曲「Cross Talk I」「Auto & Allo」「Long Road Home」の3曲を一挙解禁するシングル・パッケージ『Drive Time Suite』もアルバム発表に合わせて公開。
Oneohtrix Point Never最新アルバム『Magic Oneohtrix Point Never』は、10月30日 (金) 世界同時リリース。国内盤CDにはボーナストラック「Ambien1」が追加収録され、解説書が封入される。また数量限定でTシャツ付セットの発売も決定。アナログ盤は、通常のブラック・ヴァイナルに加え、限定フォーマットとしてクリア・イエロー・ヴァイナルと、BIG LOVE限定のクリア・ヴァイナル、さらにBeatink.com限定のクリア・オレンジ・ヴァイナル、そしてレア化必至のカセットテープも発売される。
Oneohtrix Point Never – “Magic Oneohtrix Point Never”
Label : Warp
Release date : October 30 2020
Tracklist
01. Cross Talk I
02. Auto & Allo
03. Long Road Home
04. Cross Talk II
05. I Don’t Love Me Anymore
06. Bow Ecco
07. The Whether Channel
08. No Nightmares
09. Cross Talk III
10. Tales From The Trash Stratum
11. Answering Machine
12. Imago
13. Cross Talk IV / Radio Lonelys
14. Lost But Never Alone
15. Shifting
16. Wave Idea
17. Nothing’s Special
18. Ambien1 (Bonus Track for Japan)
国内盤CD
国内盤特典:ボーナストラック追加収録 / 解説書封入
BRC-659 ¥2,200+税
国内盤CD+Tシャツ
BRC-659T ¥6,000+税
輸入盤CD WARPCD318
限定輸入盤2LP+DL WARPLP318Y (クリア・イエロー・ヴァイナル)
通常輸入盤2LP+DL WARPLP318 (ブラック・ヴァイナル)
BEATINK限定 輸入盤2LP+DL WARPLP318O (クリア・オレンジ・ヴァイナル)
BEAINK限定 カセットテープ WARPMC318
BEATINK.COM (CD/CD+T-Shirts/LP):
http://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11445
BEATINK.COM (限定LP/カセット):
category:NEWS
2020/11/13
音楽の原体験を自身の美学で再解釈した作品 Text by yukinoise 現代の鬼才音楽家、Oneohtrix Point Neverことダニエル・ロパティンの最新作『Magic Oneohtrix Point Never』。昨今の世界的なパンデミックの影響下で彼が今回、自己内省とキャリアの総括として生み出した本作のコンセプトは〈架空のラジオ〉だ。 機械的にでっちあげられたこのラジオには、パーソナリティやDJ、番組表といったものは存在しない。人間味を失ったヴォーカルと無機質な電子音のコラージュが織りなすBGMと、OPNという周波数にチューニングされた音楽の原体験がただそこにある。 OPNの原点であり本作のインスピレーションとなったのは、若き日の彼がBGM代わりに聴いていたボストンのソフトロックのラジオ番組〈Magic106.7〉とのこと。それがもしウイルスに罹り変化したら…とロックダウン中に思いついた彼は、自身の制作活動における無数のエッセンスをシニカルに切り取りコラージュしては、彼ならでは独自のフィルターを通すかのようにエフェクトをかけ、OPN色に染まった架空のラジオを作り上げた。まるで様々なラジオをエアチェックしてはオリジナルのミックステープを作っていた幼少期の頃のように。 番組のジングル的な立ち位置の〈Cross Talk〉シリーズ、天気番組を思わせる〈The Whether Channnel〉などがいわゆるラジオっぽさを演出しながらも、〈Bow Ecco〉〈Tales From The Trash Stratum〉〈Imago〉といった楽曲が断続的に並ぶことで、虚空の日常を飾るBGMの異物感はさらに度を増してゆく。その一方で耳を惹くのは〈Long Road Home〉〈I Don’t Love Me Anymore〉〈No Nightmares〉といったキャッチーな歌モノ。客演を起用するようになった前作〈Age of〉に続き、本作にはThe WeekendやArcaなどといった豪華なアーティストらが参加している。だが、そんな燦燦たるゲストヴォーカルらをもサウンドを構成する一部として飲み込んでしまうのがOPNだ。肉体を捨てた機械的な声は電子音の洪水に溶け込み、混沌の中でキャッチーさを醸し出しながらも彼の壮大なインナースペースへと誘う無数の音のひとつに成り果ててしまう。 アンビエント、ニューエイジやヒーリングミュージックとも言い難い脱構築的なサウンドは、OPNの手によってそれら特有のスピリチュアルな質感を失い、代わりにざらついたノイズと共に消え去った幻想を見せるかのようなメロディーを奏で続ける。耳馴染みの良いヒーリングミュージック、ときにはギターやチェロにも似た弦楽器が生む甘美なメロディーにゲームの効果音や何かしらのシグナルを発する電子音、鳥のさえずりのような私たちの日常に潜むノイズたちの雑踏。これらが入り乱れるトラックはすべてサンプリングとプログラミングで構成されているだけあってか、新鮮でありながらもどこかノスタルジックでもあり、デジャヴのような感覚をも引き起こす。初めて耳にしたはずなのになんだかずっと前から知ってもいたような。所詮後付けでしかないとわかってはいるけど、この奇妙な旋律のあちらこちらに散りばめられたノイズの刺激に思わず脳が反応してしまう。音に関する記憶の断片でつぎはぎしたまがいものの郷愁を道標に、OPNの実体を辿ろうと思いを巡らせるたびにこんな疑問を投げかけられたような気がした。音と音楽の違いとは一体? 時計の秒針が繰り返す一定のリズム、古びた室外機のモーター音、窓の外に響く雨のしたたり、金属が擦れ合う音に重なる電車の振動。世で一般的に”音楽”と評されるものを享受するだけでなく、自ら耳にした音のかけらをつなぎ合わせたハーモニーに楽しさを覚えはじめたのはいつのことだったのだろう。自分の中で音が音楽に変わっていった、あのときめきの瞬間。かつて自分にも、誰しもにあった音楽の原体験がOPNが紡ぐ音の連なりを伝って甦ってくる。音を楽しむという字を書くように、たとえ雑音であろうともそこに楽しさや面白さを見出したのなら、もうそれはすでに音楽なのかもしれない。OPNが音楽の原体験を自身の美学で再解釈した本作は、彼自身はもちろんのこと聴き手にも原点回帰を試みさせ、これまで無意識的にあった音楽への価値観に問いかけながらそれぞれのアンサーへと導く、新たな音楽体験の機会を与えているようにも思えた。 OPN自らがヴォーカルを務める〈Lost But Never Alone〉で、ノイズが漂う甘美なソフトロックサウンドの中で歌う彼はこう繰り返す。” I’m lost but never alone. ” – 迷子でももうひとりぼっちじゃない、と。内向的な性格で孤独だった自分と外の世界をつないでいた音楽やラジオというツールを題材に、現在の彼はこれまでの自身を築き上げてきた内なる世界へとつなげていった。架空のラジオを模した楽曲群を介し展開されるOPNの実体、そこには彼ひとりだけなく、OPNそして聴き手たちにある数々の豊かな音楽の原体験が広がっていたのだった。 Oneohtrix Point Never – “Magic Oneohtrix Point Never” Label : Warp Release date : October 30 2020 Tracklist 01. Cross Talk I 02. Auto
2023/08/23
数量限定セット発売 Oneohtrix Point Never (以下OPN) ことダニエル・ロパティンが最新アルバム『Again』を〈Warp〉からリリースすることを発表。ダニエル本人の言葉を借りれば、このアルバムは「観念的自伝」であり、メッセージであり、デジタル言語と音響的パラノイア、記憶されたものと忘れ去られたものの呪術的な逆流であり、そのすべてがOPNのトレードマークであるメロディックなタッチで表現されている。2015年の『Garden of Delete』がそうだったように、『Again』のプロジェクトは、ダニエルによる現在の自分と若い自分とのコラボレーションとしてスタートした。そこからアルバムは、当初のコンセプトには固執することなく、記憶と空想がまったく新しいものを形成するために収束する「非論理的時代物」へと成長した。このアルバムでは、音楽家ダニエル・ロパティンが時空を超えて音楽を作り、あったかもしれない世界を想像している。どのような決断がいくつの現実を閉ざしたのだろうか?そのような別世界ではどのような音が生まれただろうか? キャリアを通して、芸術性の高いアートワークに定評があるOPNだが、今作ではダニエルと共に考えたコンセプトをもとにマティアス・ファルドバッケンが制作した彫刻作品がフィーチャーされ、ヴェガード・クリーヴンが撮影した写真がカバージャケットに採用されている。パッケージと全体のデザインは、ダニエル・ロパティンとアパレル・ブランドのOnline Ceramics (Elijah Funk & Alix Ross) によって新たに立ち上げられたコラボレーション・プロジェクト、Memoryが手掛けている。 OPNの最新アルバム『Again』は、9月29日 (金) にCD、LP、デジタル/ストリーミング配信で世界同時リリース。国内盤CDにはボーナストラックが追加収録され、解説書と歌詞対訳が封入される。LPは通常盤(ブラック・ヴァイナル)に加え、限定盤(ブルー・ヴァイナル)、日本語帯付き仕様盤(ブルー・ヴァイナル/歌詞対訳・解説書付)の3形態となる。さらに、国内盤CDと日本語帯付き仕様盤LPは、Tシャツ付きセットの発売も決定。 2020年の『Magic Oneohtrix Point Never』では、激動の時代に新たな平穏さと精神を発見する手段として、OPNの原点に立ち返り、自身の内なる周波数に向けてダイヤルを合わせた。そのリリース以来、ダニエルは音楽カルチャーのあらゆる分野で引く手あまたとなり、2021年にはザ・ウィークエンドによるスーパーボウル・ハーフタイムショーの音楽監督を務め、シャネル 2021/22年 メティエダールコレクションショーでも音楽とパフォーマンスを担当。世界チャート1位を獲得したザ・ウィークエンドの『Dawn FM』では、エグゼクティブ・プロデューサーを務め、アルバム収録曲の大半で演奏も行っている。その他、ジェイムス・ブレイク、イシュマエル・バトラー、チャーリ・XCX、ケルシー・ルー、イギー・ポップ、ロザリアともコラボーレートし、アノーニ、FKAツイッグス、デヴィッド・バーン、坂本龍一、モーゼス・サムニー、ナイン・インチ・ネイルズなど錚々たるアーティストの作品に参加している。 OPNは、2023年の海外ツアーで『Rebuilds』と題した新しいソロ・ライヴを行った。このライヴでは新たな音源に調和するように代表曲を再構築し、長年のコラボレーターであるネイト・ボイスがヴィジュアルを担当。ネイトは、新しいリアルタイム・アニメーション・システムを開発し、10年以上前の初期のコラボレーションにまで遡ってグラフィックを更新した。2024年には、ビデオ・アーティストのフリーカ・テットとのコラボレーションによる全く新しいライヴ・ショーが計画されており、世界各地で公演が予定されている。 Oneohtrix Point Never – Again Label : Warp Records / Beat Records Release date : September 29 2023 https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13613 Tracklist 01. Elseware 02. Again 03. World Outside 04. Krumville 05. Locrian Midwest 06. Plastic Antique 07. Gray Subviolet 08. The Body Trail 09. Nightmare Paint 10. Memories Of
2020/10/27
アルバムにはThe Weeknd、Arcaが参加 作品ごとに刺激的なヴィジョンとサウンドを提示するだけでなく、様々なアーティストの転機作や代表作、はたまた気鋭の映画作品への貢献を経て、現代もっとも重要なプロデューサーのひとりとなったOneohtrix Point Never(以下OPN) ことダニエル・ロパティン。9月に最新作『Magic Oneohtrix Point Never』の完成を発表した際には、シングル・パッケージ『Drive Time Suite』を通して、いきなり3曲を解禁し、続いて公開された「Long Road Home」のミュージックビデオも大きな話題となっていたが、アルバムのリリースをいよいよ今週金曜に控え、第2弾シングル・パッケージ『Midday Suite』を新たに公開し、「Cross Talk II」「I Don’t Love Me Anymore」「Bow Ecco」「The Whether Channel」「No Nightmares」の5曲を一挙解禁した。また、参加ゲストも明らかとなり、The Weekndとして「No Nightmares」で歌声を披露しているエイベル・テスファイが、アルバム全体の共同エグゼクティブ・プロデューサーを務め、Arcaもアルバムに参加しているとのこと。 ミニマルなモータリック・ビートが印象的な「I Don’t Love Me Anymore」では、ポップ・パンクの要素も組み込み(だが、普通にはいかない)、OPN自身の歌声をフィーチャー。「The Whether Channel」では、本アルバム制作のきっかけでもある自己啓発テープをサンプリングし、眠りを誘うような中盤まで展開から、突然力強いビートによって叩き起こされ、気鋭ラッパー、ノランベローリン (Nolanberollin) の歌声に導かれるように、一気にクライマックスへと向かう。続く「No Nightmares」は、ロパティンの未来的なサウンド演出とアレンジを軸に、The Weekndが美しい歌声を披露する極上のバラード。二人は、The Weekndが本人役で出演した気鋭監督サフディ兄弟の映画『アンカット・ダイヤモンド (原題:Uncut Gems)』で、ロパティンが音楽を手掛けたことをきっかけに親交を深め、世界中でヒットしたThe Weekndの最新作『After Hours』では、ロパティンがプロデューサーとして参加。架空のラジオ局というコンセプトのもと、インタールード的な機能を果たしている「Cross Talk II」「Bow Ecco」といった楽曲からも、エクスペリメンタルなものから過去最高にポップなサウンドまで、ありとあらゆる音楽要素を一つの作品として美しく纏め上げるロパティンの飛び抜けた才能を証明している。 ニューエイジを脱構築したサンプル・コラージュの傑作『Replica』のような展開、〈Warp〉での初作にしてOPNの名前を広く知らしめた『R Plus Seven』における静謐な旋律、『Returnal』の強力なノイズ、『Garden Of Delete』や『Age Of』でのポップ・ミュージックへの意識的な接近、あるいは映画音楽の仕事を思わせる交響曲的な構築といったこれまでのOPNの音楽的要素を自在に行き来しながら、架空のラジオ局というコンセプトのもとそれらすべてが奇妙なほど見事に統合された本作『Magic Oneohtrix Point Never』は、OPNの原点の振り返りであり、集大成であり、同時に最新型である。 『Magic Oneohtrix Point Never』は、10月30日 (金)
受け手の自由に寄り添う作品
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