2020/01/27
今の感覚のカップルが作り上げた孤独な墓碑
2019年春、アンスティテュフランセにて映画/批評月間~フランス映画の現在を巡って~にて先行上映されたキャロリーヌ・ポギ&ジョナタン・ヴィネルによる映画『ジェシカ』(原題:JESSICA FOREVER)が現在開催中のヒューマントラストシネマ渋谷「未体験ゾーンの映画たち2020」で公開されている。本作の上映は開催中のマイ・フレンチフィルム・フェスティバルの一環として企画されたもの。
2019年初頭に開催されていたICCでの企画「イン・ア・ゲームスケープ ヴィデオ・ゲームの風景,リアリティ,物語,自我」 で展示上映されていたジョナタン・ヴィネルの作品「マルタンは咆哮する」を観た方も多くいるでしょう。この映画はゲーム「Grand Theft Auto V」の映像を使用したマシニマ(全編に渡ってゲームの映像を用いて制作した映像作品)だったが、内容もさることながらエンドロールで流れた曲がCroatian Amorの「Love Means Taking Action」だった。監督自身が1988年生まれであり、私と同い年であることからも、音楽的な趣味趣向が近くなることはあるとは思う、が、その衝撃のあまり監督本人のSNSに感想を送ってしまった。そして実際に監督はフランスの音楽文化とも親しく〈Casual Gabberz〉からもリリースしているAamouroceanのビデオもキャロリーヌ・ポギと共にディレクションしている。
このビデオからもわかるように、彼らの作品は演者と一定の距離を置き、フィックスしたカメラでの撮影をしている。『ジェシカ」でもその撮影方法が多用され、映像にある一定の温度感を与えている。近年、インディペンデントな映画作品では手持ちカメラやステディカムを用いた躍動感ある映像が多いものの、フィックスショットを多用する彼らの作品にはどこか冷めた眼差しを感じる。
「謎の女戦士”ジェシカ”率いる社会不適合者となってしまった“はぐれ者”たる孤児たちと、彼らを抹殺するため無慈悲な特殊部隊を送り込む管理社会との熾烈な戦いを描いた異色の近未来SFスリラー」(青山シアターHPより抜粋)という設定の映画なのだが、その“はぐれ者”たる孤児たちというのは、やはり現代社会に生まれた若者たちを投影しているように思う。何をするにも不器用な彼らがジェシカと出会い心を開いていく感動のSFと言いたいところだが、そんな簡単な映画でもない。そこに何を感じるかは観た人が考えて話すことなのだと思うのだが、この映画は若者の為の映画であることは間違いない。
初めてオリヴィエ・アサイヤスの『デーモン・ラヴァー』を学生時代に観たときのなんだかわからないけど最高という感覚が蘇った。本作がアンスティテュフランセでの上映された際に登壇したリベラシオン紙の方が話していた「全く過去に結びつかない映画」という表現は正しいと思う。この映画は今の感覚のカップルが作り上げた孤独な墓碑なのかもしれない。海外の映画批評サイトの評価を見ればすぐわかることだが、簡単に批判することができる映画だろう。この映画は文脈や前の時代に囚われるあまり、若い世代をがんじがらめにしているこの世界そのものに対するジェシカとはぐれ者たちの逃走の記録なのではないか。そして今回も「マルタンは咆哮する」と同様に使われている音楽は監督がリアルタイムに聴いている音楽だと思う。自身が聞いていた音楽をそのまま同時代の映画に使用するというのは本当に素晴らしい。80sに毒された”新作の青春映画”なんていらないですからね。
本作はヒューマントラストシネマ渋谷での上映の後、1/31より青山シアター内にて期間限定配信上映されるようです。関西での上映もアナウンスされています。
詳しくはこちらから:https://aoyama-theater.jp/feature/mitaiken2020
TEXT:Kenji Komine / LSTNGT
category:FEATURE
tags:JESSICA FOREVER
2024/06/04
safmusicと宮川玄によるメディア「庭 niwa」より suLがデビューEP『ivy』から「shoegaze」のMVが「庭 niwa」から公開。「shoegaze」はsuLが映画「君の名前で僕を呼んで」やFrank Ocean、BROCKHAMPTONから影響を受け制作した楽曲。監督はsuLがsaf music、One Boiling Pointと共にコラボリリースした楽曲「August in the water」のMVを手掛けた映像作家の宮川玄(Gen Miyakawa)が担当。 「存在しない映画の断片」をテーマに制作した本MVは、A24などでの青春映画の持ち味を、日本の風土に落とし込むことに挑戦した作品、とのこと。若気に感じ得る独特の「解放感」や「疾走感」あるいは「哀愁」など、誰もが一度は感じた事のあるであろう感情の機微を描写し、鑑賞者の体験と映像が共鳴することを試みる事で、映画的奥行きをMVという短い時間の中に落とし込もうとした。 本作が公開された自主メディア「庭 niwa」は、今年5月にリリースされた、safmusic、浅井杜人の2人の新ユニット「与謝野」のファーストシングル『ミヤザワ・ケンジ』を皮切りにローンチしたニューメディア。今後もOne Boiling Pointなどのリリースも控えており、国内外問わずオルタナティブシーンをリードしていく存在を目指していくという。 suL – ivy Release date : Feb 28 2024 Stream : https://friendship.lnk.to/ivy Tracklist 1. ivy 2. boyhood 3. skin (Sped Up) 4. Therapist 5. Sociopath
2023/10/16
友情と繋がりのポップハーモニー 韓国はソウルを拠点に活動しているレフトフィールド・アンビエント・デュオ、Salamandaが、FactaとK-LONEが運営するレーベル〈Wisdom Teeth〉と契約し、ニューアルバム『In Parallel』を完成。日本盤のリリースも11月3日に決定。新曲「Sun Tickles」が公開。 『In Parallel』は、彼らの持ち味であるサイケデリックで広がりのあるアプローチに、新たなレベルの明快さをもたらした、鮮やかな質感と没入感がある魅力的な作品。友人であるUman Therma(別名Sala)とYetsuby(別名Manda)で構成されるこの2人組は、2019年の登場以来、精巧で夢のような音世界を描き出し、これまでに4枚のアルバムと10枚以上のシングルでサウンドを磨き上げてきた。 すでに膨大なディスコグラフィーの中で、2人はいくつかの重要な特徴を確立している。マレット楽器とチューニングされたドラムが遊び心のあるオルゴールのようなメロディーを奏で、濃厚なガス状のアンビエンスが異世界や古代のサウンドスケープを呼び起こす。ファウンド・サウンドや操作されたヴォーカルの埋もれた断片がレイヤーされ、合成音であるはずの彼らのコンポジションに、一人称の物語のような温かい感覚を与えている。アンビエントとライヒ・スクール・ミニマリズムは、この音楽の最も明白なサウンドの試金石であるが、現代のクラブ・ミュージックやポップ・ミュージックの鼓動が完全に聴こえない訳ではない。 しかし、「In Parallel」はSalamandaのこれまでの作品から一歩踏み出したことを示している。2022年の前作『ashbalkum』(Wisdom Teethからも作品をリリースし、Asa ToneのメンバーでもあるTristan ArpとSimiseaによるのレーベル、Human Pitchからリリース)以来、デュオはロンドンのKings Placeのようなクラシカルな施設からマンチェスターのWhite HotelのようなDIYクラブまで、またMutek、Nachti、Dekmantelのような世界的に有名なフェスティバルを経て、幅広いツアーを行ってきた。彼らのクリエイティヴなセットアップは、新しいマシン、プロセス、視点を取り入れることで着実に成長し、その過程で彼らの音楽を大胆な新しい方向へと導いている。 ここでの最も明確な進展は、デュオのヴォーカル使用である。この変化は過去数枚のアルバムでゆっくりと起こっていたが、『In Parallel』ではそれが一気に顕著になった。アルバムのリードシングル「Homemade Jam」は、このデュオ史上最もポップな曲であり、その軽快なビートとオートチューンされたヴォーカルは、SOPHIEとCharli XCXが特に強力なマッシュルームティーを飲んだ後に書いたもののようである。これは、Salamandaの広大で制限のない創造的なエネルギーが、濃縮され洗練されたものにまで蒸留されたときに何が起こるかを提供する、オルタナティヴ・ポップの非常に鋭いスライスである。 また、リズムに対するアプローチをより前面に押し出し、これまで以上にダンスフロアに近づいている。「Paper Labyrinth」の蛇行するドラムとヴォーカルは、4×4のしっかりとしたパルスに支えられており、「Tonal, Fluid」のデンボー・グルーヴは、Nick LeónやDJ Pleadのセットにもぴったりだろう。 『In Parallel』は、繋がりについてのアルバムであり、友情の暖かさとノスタルジックな素朴さが、全体を通して鮮やかに感じられる。このアルバムのタイトルは、デュオが友人として、また共同作業者として見つけたハーモニーを意味しており、それを証明するように、アルバム全体を通して音の平行線が辿られている。例えば、「Sun Tickles」を支えるメロディーは、アルバムのクローズである「Mysterious Wedding」ではキーとテンポを変えて戻ってくる。各アーティスト間、そして彼らの音楽を通して、平行線が辿られ、過去へと遡り、未来を指し示している。これらが次に私たちをどこへ導くかは、Salamandaだけが知っている。 Salamanda – In Parallel Label: PLANCHA / Wisdom Teeth Release Date: Nov 3 2023 https://8salamanda8.bandcamp.com/album/in-parallel Tracklist 1. Nostalgia 2. Homemade Jam 3. Sun Tickles 4. Purple Punch 5. Paper Labyrinth 6. Tonal, Fluid 7. Sending Ritual 8. Full of Mushrooms 9. In Parallel 10. Mysterious Wedding 〈ライブ情報〉 MILLION DOLLAR
2021/02/11
監督はBradley&Pablo 以前から発表されていたCharli XCX主演の、”隔離”ドキュメンタリー長編映画のプレミア上映が今年のバーチャルSXSWで行われることが発表された。 映画『Alone Together』はイギリスのロックダウン中、ファンも参加し、5週間で制作されたアルバム『how i’m feeling now』のメイキングや、世界的なパンデミックの時に起こる感情を記録した映画であるとのこと。監督は同アーティストの楽曲「2099」のMVも手掛けたBradley & Pabloが務めている。一般公開は未定だが、バーチャルSXSWでは3月18日に公開。 「このプロジェクトは暗い時代に光を放ち、コミュニティをまとめ、多くの人に希望を与えてくれました。このプロセスを遠くから記録しましたが、そこから生まれたものは、私たちが予想していた以上に美しく、人間的で、人生を肯定するものでした。」と監督を務めたBradley & Pabloは語っている。 詳細:https://www.sxsw.com/festivals/film/lineup/
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