OGRE YOU ASSHOLE interview

聴かれることを想定していないアルバム

 

 

OGRE YOU ASSHOLEにとっては前作『ハンドルを放す前に』以来3年ぶりとなるオリジナル・アルバム『新しい人』。本作の捉えどころのなさをどのように言語化するべきか、数日間頭を悩ませた。これまでバンドを特徴づけてきたクラウトロック的なミニマル・グルーヴや浮遊感のあるアレンジ、ヴォーカル/ギター担当の出戸学による独特の言語感覚はそのままに、明らかにバンド的なダイナミズムが削ぎ落とされ、奇妙な静けさが全体を覆っている。炎で例えるならば、青白くてゆらゆらと揺れる炎。この得体の知れない世界観は一体なんなのだろうか。新レーベルとなる花瓶の初リリース・アルバムであり、これまでのOGRE YOU ASSHOLEのディスコグラフィーのなかでももっとも謎に満ち溢れたアルバムともいえる『新しい人』について、出戸に話を聞いた。

 

text & interview by Hajime Oishi

photo by Norihito Hiraide

 

 

OGRE YOU ASSHOLEは原村(長野県諏訪郡)を拠点に活動されているわけですが、今日も原村からいらっしゃったんですか。

 

出戸 – そうですね。ここ(東京)までだいたい2、3時間ぐらいかかりました。今はプロモーション時期なので毎週のように来てますけど、ふだんは月に1、2回来るぐらいかな。

 

– よく聞かれる質問だと思うんですが、原村を拠点にしていることは、OGRE YOU ASSHOLEの音にどのように反映されていると思いますか。

 

出戸 – うーん、よく分からないんですよね。名古屋に一時期いたんですけど、名古屋といっても山奥の大学にいたので、原村が他の地域と比べてどう違うかよく分からないんです。

 

 

– 原村は八ヶ岳の裾野に広がっている村ですよね。アンデスにせよブラジルのミナス・ジェライスにせよ、周囲を山に囲まれている環境で育ったアーティストの多くには、自身の内側へと向かっていく眼差しがあるように感じるんですよ。出戸さんの音楽にもそういう感覚があるような気がしていて。

 

出戸 – 今回のアルバムでいえば、確かに歌詞についてはそういうことが言えると思います。内側へ掘っていくような感覚というか。ただ、メビウスの輪じゃないけど、結果として自分の内側に何もなくて、外に戻っていくような感じがあった。そういう感覚は今までのアルバムにはなかったと思います。

 

– なるほど。では、今のOGREにとってアルバムはどういう表現をやる場所なんでしょうか。OGREのライヴはむしろ外側へと発散していくようなエネルギーを感じるんですよ。

 

出戸 – ライヴはお客さんという存在をどこかで意識した演奏になるわけですけど、今回のアルバムに関していえば、誰に聞かれるかまったくといっていいほど想定していなかった。前のアルバムまでは多少聞かれることを想定していた部分もあったと思うけど、今回は意図的に排除したんです。

 

 

– どうして排除しようと思ったんですか。

 

出戸 – なんででしょうね……(笑)。曲の作り方自体変わらないんですよ。ギターの馬渕(啓)とそれぞれ自宅でトラックを作ってきて、ドラムの勝浦(隆嗣)さんにかなり完コピに近い感じで叩いてもらうという。ひとついえるのは、今回はアルバムの全体像のことをまったく意識していなかったということかな。1曲1曲のなかで具体的なイメージはあっても、それをまとめたときにどういうものにするかという全体像に関する話をずっと避けてきたんです。今回はヘタをしたらオムニバスみたいなものになってもいいかなと考えてたんですよ。アルバムとしてまとまりのないものになってもいい、と。

 

– 聞かれることを前提としていないことが関係しているのかわかりませんが、今回のアルバムは独特の質感がありますよね。全体的にテンションと体温が低くて、前作『ハンドルを放す前に』とはまるで違う。

 

出戸 – めちゃくちゃ地味なアルバムですよね(笑)。前回のアルバムを聴き直してみたら、思っていた以上にロックバンド色があって、力強い感じがしちゃったんですよ。たぶん前回からの3年間で自分たちの音の感覚が変わっちゃったんでしょうね。今まで同様、今回も中村宗一郎さんにミックスしてもらったんですけど、最初のラフ・ミックスを作ってもらったら、今までと同じ作り方なのにパキッとしていて強いものに聞こえちゃって。中村さんに「もっと地味にしてください」とお願いして、今の感じになりました。

 

 

– ロック的なダイナミズムを削ぎ落とす方向になってきたわけですね。

 

出戸 – ライヴでは相変わらずそういうことをやってるわけですけど、自分たちの心地いいものを優先していったら削ぎ落とす方向に向かっていったんですよね。ちゃんとレコーディングして、ちゃんとミックスすると、今まで通りのちゃんとしたものになっちゃうので……って当たり前ですけど(笑)。でも、そういうものにグッとこなくなってしまった。

 

– 「もっと地味にしてください」とお願いしたとき、中村さんはどう言ってました?

 

出戸 – 「本当にこれでいいんですか?」と言ってました(笑)。

 

– でも、なんで音の感覚が変わってきたんでしょうね。日常的に聞く音楽が変わってきた?

 

出戸 – 以前から聞いていたんですけど、過去の発掘音源がやたらと響くようになったということはありますね。ナイジェリアのウィリアム・オニーバーの70~80年代音源であるとか、ジョー・トッシーニというシチリアの人が作ったプライヴェート盤であるとか。どこに向けて作ったのかよく分からないものが持つ質感に惹かれるようになってきたところはあると思います。

 

 

– それはさっきの「聴かれることを想定していないアルバム」という話に繋がってきますね。

 

出戸 – ああ、そうか。そういえばそうですね(笑)。

 

– 出戸さんの歌い方も変わってきましたよね。

 

出戸 – そうですね。「(声を)張って歌わない」ということは今回意識していました。ライヴみたいに歌うと、他の楽器と距離が出ちゃって、ひとりだけちゃんとやってる感じが出ちゃうんです。それで全体のキーを下げてもらって、声を張らなくても歌えるようにしたんですよ。

 

– キーも下げ、テンポも落とし、テンションも緩めるという。「動物的/人間的」のシングル・ヴァージョンと今回収録されたアルバム・ヴァージョンの違いは象徴的ですよね。まるで今回のヴァージョンがシングルのデモみたいに聞こえる(笑)。

 

出戸 – 確かに(笑)。このヴァージョンはだいぶそぎ落としてますね。

 

 

– くどいようですが、出戸さんの歌い方についても「聴かれることを想定していないアルバム」らしいな、と思っちゃうわけですよ。でも、大きな声で耳元で歌われるよりも、つぶやくように歌われたほうが聴き手の耳と心が開かれることもあるわけで、必ずしも聴き手とのコミュニケーションを拒絶しているわけでもない。そういう歌い方だと思いました。

 

出戸 – 誰もが何かを発信できる世の中に対する思いもあるのかもしれませんね。いくら派手な表現であっても、そのほうが逆に埋没してしまうという。地味なほうが際立つこともあると思うし。

 

– その一方で、「新しい人」という曲の歌詞にはある意味、強いメッセージ性があるように思えたんですよ。

 

出戸 – メッセージ性? たとえば?

 

– たとえば「かつて人は争いあったり/自ら死んだり/かすかにわかるよ/その涙の/その怒りの/意味が/もうすぐ変わるよ/その怒りの/意味が」という言葉に、争いの先にあるものを見つめようとする意識を感じたんです。

 

出戸 – なるほど。悲しみや憎しみはなくなってほしいと思うけど、そういう感情自体が人間的なものだと思うんですよ。悲しみや憎しみを超えた「新しい人」は感情がほとんどないような、不気味な存在という気もするんですよね。「目指していたはずのユートピアにはそういう人たちがいた」というイメージがこの曲にはあったんです。

 

– 悲しみや憎しみの先にある希望を歌ったものではないわけですね。

 

出戸 – そうですね。ただ、いいものなのか悪いものなのか分からないという感覚。悲しみや憎しみもない世界ってどんな感じ?という。

 

 

– 「さわれないのに」の「さわれないのに/すごくよく見える/さわりたいのに/すでに消えかかってる」という歌詞もすごくおもしろいですよね。触れられそうで触れられない音と言葉という点では、まさにこのアルバムを象徴しているのではないかと。

 

出戸 – 「さわれないのに」については存在の分からなさ・掴みにくさがテーマとしてあったんですけど、それを抽象的に書くことによって、みんなに「この歌、エロいよね」と言われたんですよ(笑)。

 

– ああ、確かに!

 

出戸 – ある特定のテーマを抽象的に書くことによってエロに近づいたというのは、自分にとってすごく発見だったんですよ。なおかつ、それって本質的なことだとも思うんですね。真実や美を求める感覚って、一枚皮をめくったらエロなんじゃないか、そういうことをドラムの勝浦さんとも話してたんですよ。

 

– 新しいアー写にもまさにそういう感覚がありますよね。見えそうで見えないけど、目を凝らせば見えるという……ただの下ネタを話してるみたいだけど(笑)。

 

出戸 – あはは、そうですね(笑)。

 

 

– そういえば、今回のアルバムには「聞こえる」「触れる」「さわる」「見える」「わかる」「感じる」「信じる」という基本的な感覚や身体性に関わるものについての言葉がすごく多いですよね。そこも「さわれないのに」の官能的感覚と繋がっている気がする。

 

出戸 – ここまで「モノ」が歌詞に出てこないアルバムって、自分たちの作品でも今までなかったと思うんですよ。出てきても「過去と未来だけ」に「サイドミラー」という言葉が出てくるぐらい。「さわれないのに」を書いている段階でそのことに気づいて、「モノ」に関わる言葉を排除していったんですね。テーマを表現する構造だけを抽出して、装飾みたいな言葉はそぎ落としていったんです。この感じ、おもしろいなと思って。

 

– シンプルだけど、どうも引っかかる表現があちこちにあるんですよね。たとえば、「わかってないことがない」という曲がありますけど、「すべてをわかっている」と断言したときとは込められているニュアンスがまったく違う。

 

出戸 – 言葉のトーンは今回すごく大事にしました。語尾を「~だ」とするのか、主語を僕にするのか俺にするのか私にするのか。そこで「すべてをわかっている」という表現するよりも、「わかってないことがない」という言葉のほうが今回のアルバムのトーンと合っていたということだと思うんですね。そこはすごく考えました。

 

– SNSで「わかりみが深い」という表現が使われることがあるじゃないですか。あれも意味としては「よくわかる」と同じなんだけど、「よくわかる」と断言する危うさを迂回しつつ、「わかりみが深い」というややこしい表現だからこそ掴み取れるニュアンスがあると思うんですね。「わかってないことがない」という言葉にはそれに近いものを感じました。

 

出戸 – 実際、世の中にはわからないことがあまりに多いですし、僕自身、どうも両義性のある言葉を選んでしまうんですよ。感情の起伏がない人には決断しにくい傾向があるみたいで、自分もそういうところが多少あるのかも。生命の危機に際しないかぎり、「これが正しい」と断言できないというか。一方で断言できる人に対する憧れもあるんですけど。

 

 

– 今後はこのアルバムを引っさげて各地でライヴを行うことになるわけですね。

 

出戸 – そうですね。ライヴでまだ全部の曲をやってるわけじゃないから、これからどうするか考えていかなくちゃいけないんですけどね。今回のアルバムに入れた曲のなかでも「朝」はもうライヴでやっていて、YouTubeにはその動画もアップされています。

 

– あの動画は凄いですよね。10分越えの長尺アレンジになってて、グルーヴもまるで別物になっている。今回のほかの収録曲がライヴでどう生まれ変わるか、すごく楽しみです。

 

出戸 – ありがとうございます。お待ちしてます。

 

 

『新しい人』特設サイトURL: http://ogreyouasshole.com/atarashihito

 

 

 

OGRE YOU ASSHOLE – “新しい人”

1.新しい人

2.朝

3.さわれないのに

4.過去と未来だけ

5.ありがとう

6.わかってないことがない

7.自分ですか?

8.本当みたい

9.動物的/人間的(Album Ver.)

 

 

OGRE YOU ASSHOLE『新しい人』release tour

 

10月22日(火・祝) 名古屋 CLUB QUATTRO 前売 ¥3,900 (ドリンク代別) | JAILHOUSE:052-936-6041

10月26日(土) 札幌 Bessie Hall 前売 ¥3,900 (ドリンク代別) | WESS:011-614-9999

11月4日(月・祝) EX THEATER 六本木 前売 ¥4,200 (ドリンク代別) | HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999

 

◆チケット販売中

http://ogreyouasshole.com/information/2201

 

 

『新しい人』より『さわれないのに 』のライブ動画が公開。また、アルバム特設サイトではオウガの三部作『homely』『100年後』『ペーパークラフト』等をプロデュースした石原 洋と出戸 学の対談が公開。

 

 

 

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