10年分の時間が鳴りはじめるとき|Blume popo interview

遅れてきた大器、10年をかけて『obscure object』へ

 

 

2015年結成のバンド・Blume popoが12月5日に発表した1stアルバム『obscure object』が話題だ。長きにわたって議論されるべき強度の高い作品であると同時に、本作が注目を集めているのは、結成から10年を経て作り上げられた“待ちに待った”ファーストアルバムだという点も大きい。

 

 

2017年の〈RO JACK〉優勝、過密なライブ活動、2019年の活動休止、そしてコロナ禍を挟んだ再始動──山あり谷ありの時間のなかで、彼らは急ぐことも、時代に迎合することもなく、自分たちの速度で音楽と向き合い続けてきた。

 

結果として生まれた本作は、ジャンルやシーンを越えて、メロディ、言葉、音の手触り、関係性そのものが静かに結晶化した一枚だ。ポップであることと、深くあること。その両立を本気で志向する〈ポスト・ポップス〉の現在地として、『obscure object』は、まさに待望のデビュー作と言えるだろう。今回はそんな“遅れてきた大器”へインタビューを試みた。

 

Text / Interview : つやちゃん

Edit : NordOst / 松島広人

 


 

──まずは、Blume popoの成り立ちについて訊きたいです。そもそも、バンド自体は中学時代にすでに結成されてて、ギターの横田さんが最後に入られたんですよね。

 

 

今西(龍斗、以下今西):そう。でも、バンドでオリジナル曲をやろうって最初に提案したのは(横田)檀だったんですよ。提案というか、「俺作ってみたんだけど」みたいな。

 

横田(檀、以下横田):僕だけがギターやドラムの楽器経験があったんですよ。だから、今西は逆に未経験者だけでやりたいって言って最初は俺以外の三人でバンドを組んだんですよね。

 

今西:そうそう、経験者を入れるのはずるいなって思って(笑)。僕が(野村)美こと(水谷)航大に結成を持ちかけたのは中学2年くらいだったんですけど、その前に小6の時点で檀と航大と脱退したドラムのこやまが仲良しグループで、バンドをやってたんです。僕はそれを、すごいなぁと思って見てましたね。

 

──そのときは、皆さんはどんな音楽を聴いていたんですか?

 

横田:そもそも「自分から音楽を聴く」という文化を持ち込んだのが僕で。僕がおすすめしたのを皆が聴いていたかな。

 

野村(美こ、以下野村):私は、父親がバンド好きだったからその影響もあったかな。BARBEE BOYSとかのCDがズラっと家にあって。で、小6か中1くらいのときに、檀がオススメのCD-Rを作って配ってた。

 

横田:痛い奴やってんな(笑)。

 

今西:そこに入ってたのは、マキシマム・ザ・ホルモン、RADWIMPS、クリープハイプ、andymori、サカナクション、ONE OK ROCKとか。あと、滋賀県のバンドも入ってた。climbgrowとかRocket of the Bulldogs、WOMCADOLEとかね。

 

水谷(航大、以下水谷):それ、もらったなぁ。

 

今西:皆もらってるやん! もう聖書やん。

 

一同:(笑)

 

今西:そのCD-Rでバンドというものを知って。でも、なんかちょっと怖かったんですよね。RADWIMPSとかって下ネタ系のワードも歌詞に入ってるじゃないですか。そんなの聴いたことなかったから、何これ? みたいな。でもそのCDしかなかったから、ずっと流してて。そしたら少しずつ慣れてきた。

 

横田:嬉しいなぁ。めっちゃ洗脳成功してるやん。

 

──そういえば、最近RADWIMPSのトリビュート(『Dear Jubilee -RADWIMPS TRIBUTE-』)が出ましたよね。

 

 

横田:出ましたね。うちら男三人は今一緒に住んでるんですけど、リビングで試聴会しました。

 

野村:いいなぁ。私はひとりで聴いた。

 

──そこから、高校生のときにロッキング・オンが主催するコンテスト〈RO JACK〉で優勝して頭角を現すわけですよね。順風満帆かと思いきや、バンドは2019年に活動休止に入ります。

 

 

今西:檀が爆発した。ひとりで全部やってくれてたから。運営、作曲、ブッキング、メール対応など全部。

 

野村:3日に1回はライブしてた時期だったから、とにかく忙しかったしね。

 

横田:1か月で3回くらい滋賀から東京に行ってたときもあったくらい。

 

──業務を分担しよう、みたいな話にはならず?

 

横田:そういう精神状態になったら、もう冷静な判断ってできないじゃないですか。爆発して、僕が辞めたいって言ったんですよ。でも皆が「いつまでも待つから活動休止にしよう」って言ってくれて。

 

今西:それを檀が言い出したのが東京遠征の前日で。なんちゅうタイミングで言ってくるんや、って思ったのをめっちゃ覚えてる。

 

横田:それで(今西)龍斗から電話来て、めっちゃ泣いてたな。

 

今西:東京遠征に行く車の中で6時間、その話をして。活動休止にしようって。

 

──それだけライブをたくさんやる中で、当時バンド内はどういう感じのモチベーションだったんですか?

 

横田:正直、バンドとして頭打ちな感じは否めなかったと思う。

 

今西:僕は何も考えてなかったな。とにかくライブが習慣になってて、ひたすらやるだけっていう。これが生活だと思ってた。このまま行ったら売れるだろうっていう気配もまったくなかった。でも、このままいったらあかんっていう感覚もなかった。ボーっとしてたんかな。

 

横田:アホすぎるやろ(笑)。

 

水谷:いや、それだけ業務が檀に集中してたってこと。だからこそ3人はただただ演奏に集中してた。苦しいことを檀がしてくれてたので、上澄みの楽しいところだけをボーッとやってた感じ。

 

横田:僕だけなん? 頭打ち感を感じてたのって。

 

野村:うーん、頭打ちな感じはなかった。というか、何も考えてなかったかな。

 

今西:そうそう、本当に3人は何も考えずただただ楽しくライブやってただけ(笑)。

 

横田:2017年に〈RO JACK〉で優勝して、地方からもライブ呼ばれるようになって、EPもたくさんのお客さんが買ってくれて。そのころはいい感じやったけど、2019年くらいにはもう低空飛行だった気がする。僕は悲観的になりつつあった。

 

──2019年頃のいわゆる邦楽ロックシーンって、今とはまた全然違いますよね。シューゲイザーも盛り上がる前で。

 

横田:そうですね。シューゲイザーはまだ全然盛り上がってなくて、当時は揺らぎ一強だった気がする。クレナズムもいた。あとはCody・Lee(李)とかが注目の的っていう感じが2019年頃の印象。羊文学がメジャーデビューしたのが2020年。

 

──今と全然違う。やっぱり、コロナって大きかったんですね。

 

横田:たぶんサブスクも、まだインディーズのバンドは全然やってなかった。何それ? って。とにかくライブやってナンボって感じだったから。

 

──活動休止中は、どうやって過ごしてたんですか?

 

今西:まず、活動休止ライブを2020年の3月に企画してたんですけど、コロナでできなくなって。

 

横田:ようやくできたのが、2021年の11月。

 

今西:その頃にはもう檀が「バンドやろうぜ」って感じで(笑)。

 

横田:いやいや(笑)。そこまではないけど、でもストレスはなくなってたね。久しぶりに会えて嬉しい! ってなってた。

 

水谷:結局それが始動ライブになったね(笑)。

 

横田:コロナ期間のころ、暇だったから曲を作ってたんですよ。一旦クールダウンの期間を設けたことで、そんなにガチで曲を作らなくていいんじゃないか? ってなったんです。生活に合わせて、もうちょっと肩の力を抜いてやったらいいんじゃないかと。だから、今もライブはほぼ自主企画くらいしかやってなくて。

 

──ということは、実質活動休止してたのは、2019年から2021年の一年半くらいだったということですね。

 

横田:そう。その期間はメンバーともまったく会ってなかった。美こと地元の駅で偶然会ったとき、緊張して膝が笑ったもんね。いろんな感情が湧いてきて……。

 

今西:僕はその活動休止期間を通して、あんなにアーティストぶってた自分が「作曲する人がいなかったら音楽すらできない」ってことに気づいたんですよ。それで自分をめちゃくちゃ恥じて。曲を作れるようになろう、と思ってやりはじめたのが、ボーカロイド(合成音声)。2021年からイマニシ名義でソロ活動もはじめました。

 

 

──再結成後は従来のスタイルから、役割や関係性も変わりましたか?

 

横田:活動休止前は自分のワンマンバンド状態だったので、今はだいぶ変わりましたね。演奏監督やライブ制作は今西がやってるし、グッズ管理は美こがやって、リリース管理は航大がやってる。僕は作曲とディレクションに集中できるようになりました。いいバランスです。

 

──ライブのパフォーマンスも変わりましたか?

 

今西:なぁなぁにしてしまってたキメとかを、もっとガッツリ合わせるようになった。あと、熱を入れるところと抜くところも指示するようになった。檀は無視するんやけど(笑)。

 

野村:熱量を演出するのは恥ずかしくないぞ、というスタンスになったよね。ここはグルーヴがあるようにする、ここは職人の風を吹かす、といった演出をちゃんとするようになった。

 

 

──曲作りのアプローチも変わりましたか?

 

横田:活動休止以前は、全部僕の方で作曲してメロディまで作ったうえで、それに合わせて作詞をしてもらってました。活動休止以降は歌詞作るのが楽しくなっちゃって、僕が歌詞先行で曲を作るみたいな。今はそれが半々くらい。今では美この作曲もあるし。今回のアルバムでは、そうした変化の片鱗が見えてると思います。

 

──今回のアルバム曲は、いつごろ作ったものなんでしょうか。

 

横田:かなりバラバラですね。「画家」は高校生のときだから2017年くらいだし、「遠い国」は2019年。その後が「二月」「月夜銀河へ」かな。逆に、「in your mind」「あなたおやすみ」は2025年の5月くらい。単純に自分のDTMスキルが上がったし、歌詞を書いてそこにハマるメロディを考えることで、以前は作れなかった曲が作れるようになった。

 

──アルバムを作る過程で、2024年にEP『Test for Texture of Text』をリリースしたじゃないですか。母音を縛って歌詞を書くという挑戦的なアプローチの作品でしたが、個人的にはあのEPがけっこう重要だった気もして。

 

 

横田:でも、あれはBlume popoというバンドのキャリアの中にアーカイブされる作品というよりは、僕が勝手にこっそり遊びで作ったような作品ですよ。

 

今西:そういうつもりでいたのに、思ってたよりたくさん聴かれてしまった(笑)。

 

野村:檀の作る曲も時期によって変化があって、最近は小難しいことを一切やめた気がする。

 

今西:そうそう、素直な曲が増えたよね。

 

水谷:変拍子をやめて、素直になった。

 

横田:コロナ禍にバンドシーンから離れて、フォークとかを聴いてたんですよ。そこで「歌詞とメロディが良ければもういいでしょ」って気になった。今西は自分の凝ったアレンジを評価してたから、そういうのがなくなった時期で、ちょっと不満もあったんかな。

 

今西:『Test for Texture of Text』の「彼方高さから躰放ったあなた」「日々凜々しい君に」「底」の3曲、本当に大丈夫なんかな? って思ってたんですよ。編曲にあまり工夫がないというか。でも結果的に、今ではEPの中では一番「底」が好きなんですけどね。

 

水谷:僕も、変拍子を好んで聴いてたところから、君島大空さんの作品などに触れてバンドだけじゃなくフォークもカッコいいなって思うようになって、弾き語りなんかも聴くようになった。楽器というよりも、コードの鳴りやメロにグッとくるようになったのかな。変拍子をやってる自分に対して、冷笑するようになってしまったのかも(笑)。

 

野村:自分は海外のアーティストしか聴かなくなりました。日本語がしんどくなって。ギアを上げてバンドをやってた時期は、周りのバンドの音源を聴いてそういった音を取り入れたりもしていたけれど、そうじゃなくなったら一気に聴かなくなって。逆に、民謡とかも聴くようになった。

 

──なるほど。コロナ禍を経て、皆さんそれぞれかなり変化があったんですね。そうなると、今メンバーそれぞれがカッコいいと思うものって同じ方向を向いているのか、てんでバラバラなのか、どっちなんでしょう。

 

今西:どうなんだろう……。じゃあさ、今一番カッコいいと思うバンドを「せーの」で挙げてみようよ。

 

一同:え~!難しい!

 

横田:カッコいいにも色々あるからな。

 

今西:純粋に、曲として。あとアティチュード。活動休止を経て、今うちらがそれぞれ何をカッコいいと思ってるのかは気になる。

 

横田:知名度関係なく、ってことやんな。

 

今西:そう。俺は決まった。

 

一同:決まりました。

 

──じゃあ、せーので皆さん同時に言ってくださいね。せーの!

 

横田・今西・野村:サカナクション。

 

水谷:きのこ帝国。

 

一同:おぉ~!

 

横田:こうなるんだよね。

 

今西:なるほどね。

 

──3人がサカナクション!

 

水谷:きのこ帝国って言っちゃった。どこまでもルーツすぎて。

 

──サカナクションをカッコいいと思う理由は?

 

 

横田:曲、アートワーク、ライブ演出、全部カッコいい。どのバンドも「ジャンルの境界を壊したい」って言うじゃないですか。でも、それを本当にできてるのってサカナクションしかいない。

 

今西:そうやな。それはほんまにそう。

 

野村:ロールモデル的な側面もあると思う。今後こういう団体になっていきたいっていう。

 

横田:ポピュラーでありつつ、ハードコアな部分がある。

 

水谷:自分だけ外して恥ずかしいな(笑)。でも、佐藤千亜妃さんをきっかけに女性ボーカルのバンドが好きだって自分の中で定まったので。きのこ帝国は高校生のときにコピーしてたのも含めて好きですね、今も聴いてるし。もちろんサカナクションも好きです。

 

 

──ちなみに、もうちょっとアンダーグラウンドな領域に絞るとしたら、誰の名前が挙がりますか?

 

横田:Cwondoさん(No Buses / 近藤大彗)。

 

 

──それはすごく納得がいきます。サカナクション的なものも感じる。

 

横田:そう。ポピュラーでありながらハードコアだし、ダンスミュージックやエレクトロとバンドサウンドをうまくミックスしてますよね。

 

水谷:やっぱり君島大空かな。LOSTAGEもカッコいいなと思います。作品を作って残すという熱量がカッコいい。People In The Boxとのツーマンを観たんですけど、波多野さんがMCで「LOSTAGEは物販で古いフィジカルCDも必ず売るところがリスペクト」ってことを言ってましたね。

 

今西:檀は、売れるということ以上に、音楽シーンで影響を与えるバンドを目指してるところがあると思う。People In The Boxとかは、それに近いポジションなんじゃないかな。Blume popoは今後そういう立ち位置を目指していきたい。

 

水谷:アーティストにも支持されるバンドになりたいよね。

 

今西:インディーズで音楽シーンにちゃんと影響を与えるバンドになりたい。一方で僕はボカロもやってるのでそっちでも功績を残したいし、Vaundyやキタニタツヤみたいなソロアーティストにもなっていきたい。その3つを両立させたいんですよ(笑)。

 

横田:なるほどな。米津玄師と、ハチと、米津が他にバンドもやってるみたいな(笑)。

 

──それは凄いですね(笑)。横田さんはBlume popoの進む道をどう考えてますか?

 

横田:人類の根源的な欲求って、不死だと思うんです。比喩的な意味での、不死。それに対して、たとえば子どもを産むようなことで可能性を残していくわけじゃないですか。そういう感覚に近いんですよね。Blume popoも、後続のアーティストやリスナーに何かしらの影響を与えたいし、それができたら嬉しい。「Blume popoがいたからこういう歴史的な文脈が生まれたよね」と認識されるような存在になりたい。

 

水谷:そのためにポピュラーな存在になる道もあるよね。

 

横田:そうそう。ポピュラーになるということは、目的というより手段だから。

 

──今作を聴いて、私はメロディというものについて考えてしまったんですよね。というのも、Blume popoの醸し出すメロディがとても好きで。ここで言うメロディとは、歌メロに限らず、演奏やムードも含めた断片すべてが醸し出す旋律のことで、ちょっと入るギターのフレーズなども含めた広い意味でのメロディ。メンバー全員に漂う美意識みたいなものが、そのすべてに出ていると思うんですよ。そこにはちょっと懐かしさもあって。

 

横田:あぁ……それは難しい問いですね……うーん……絶対的にいいメロディってたぶんなくて。人それぞれ違う感じ方をすると思うんです。

 

今西:分かる分かる。

 

横田:その点、編曲ってニン*が出ないというか。再現性が高いし、勉強したら高度なことってできるんですよ。

(*注:主に漫才や落語で使われる、その人にしかないキャラクターや個性を指す語)

 

今西:そうそう、めっちゃそうやんな。

 

横田:一方で、メロディにはめっちゃニンが出る。だからそこを褒められるのは嬉しい。編曲を褒められても「頑張ったから当たり前やん」って思うから。逆に言うと、メロディは頑張ってないというか、そのまんま出たもので。

 

──そこがBlume popoのオリジナリティだと思います。他のバンドがカバーしても、こうはならない。このアルバムには、共通のaesthetics(美学)があるから。でも、なぜそれができるんだろう? って考えると難しくて。やっぱり皆が幼馴染というのが大きいんでしょうか。

 

横田:不思議ですよね。

 

──間違いなく、そこにBlume popoっぽさがある。もっと言うと、サウンドや音楽性はバラバラでも、音の断片から共通の風景が見える。

 

水谷:檀はまだそこに気づいてないのかも。

 

横田:何なんやろ……。

 

水谷:意外に、外側の話に聞こえるけど、田村(雄平)さんのエンジニアリングによる力はかなりあると思う。

 

横田:それはめちゃくちゃある!

 

今西:うちのエンジニアって、ミキシングもマスタリングもけっこう変なんですよ。

 

横田:ちょっと編曲の域まで入ってるんじゃないか? という能動的なエンジニアリングをしてもらってて。それは、信頼関係があるからできることですけど。

 

今西:自分の話ばかりして申し訳ないですけど、自分のイマニシ名義の作品も同じく田村さんで。エンジニアリングにもBlume popoっぽい香りがすると思うんですよね。

 

一同:あー!

 

横田:田村さんは、最初にお仕事しはじめたときに当時エンジニアとして独立されたばかりで、まだ全然若くて。当時は僕らも15歳とかで、そのときからの付き合いなんですよ。お互いが完成し切る前からずっと一緒に歩んできている。

 

──それは大きいかもしれないですね。エンジニアも含めて、ずっと昔から一緒にやってきていると。

 

横田:逆に、うちらはエンジニアリングにも介入しますね。曲によっても違ってて、「画家」「ふわふわ」とかは今西が主導でディレクションしてるんだけど、エンジニアリングにだいぶ入ったよな。コンプとかEQみたいな基盤のところはさすがに田村さんにお任せしてるけど。

 

今西:さっきの話で言うと、景色が見えるっていうのは僕もけっこう感じてます。

 

横田:歌詞でも小説でも、その作品が持つ言葉遣いのコードというのがあると思うんです。People In The BoxにはPeopleらしい言葉遣いがあるし、村上春樹には村上春樹らしい言葉遣いがあるじゃないですか。単語の選び方一つひとつが、その手触りによって作品のムードを決めていると思う。単語の意味とは別に単語それ自体が持つ印象。たとえば四象限で考えると、「遠さ‐近さ」、「固さ‐柔らかさ」という二軸で分類できるかもしれない。それがメンバーでも微妙に違っていて、僕は、遠くて柔らかい言葉が好き。美こは、遠くて固い。今西は近くて固い気がする。

 

今西:分かる分かる! 美こは遠くて固いな。

 

横田:たとえば、「たぶん」みたいなことを意味したい場合、「きっと」とかって言うと近くて柔らかいけど、「おそらく」は近くて硬い。「あるいは」は僕的には遠くて柔らかい気がする。「蓋(けだ)し」は遠くて固い、みたいな。この例で出した言葉はそれぞれ意味も少しずつ違うからややこしいんですけど。その中からどれを選んじゃうかっていうのも、ニンの話でもあると思う。

 

 

今西:その言葉選びによって、美こは上品さが出て、檀は懐かしさが出る気がする。譜割りでメロディも決まってくるから、歌詞は凄く大事ですよね。だって、「23」はメロディないんやけど、めっちゃ懐かしいやん。「月夜銀河へ」はめっちゃ上品やし。

 

横田:突き詰めると、やっぱり僕たちメンバーは人格形成期に同じような経験をしてきてる分、懐かしさにしろ上品さにしろ、共通のコードというのがある気がする。

 

野村:誰かひとりでも気に食わないメロディって、絶対に最後まで通らへんやんな。リリースまで絶対に通せない。

 

──気に食わないメロディっていうのは、具体的にはどういうところが?

 

今西:たとえば「画家」って曲は、自分がメロディと歌詞を作ったんですけど、檀が書いたメロがどうしても気に入らなくて。それで自分が作るって言った。

 

横田:「画家」に関しては、若い頃に作った曲で、僕も気に入ってなかったんですよ。メロディが全然良くないなって思って。

 

野村:メロディとして、「上がりたい」ときと「下がりたい」ときは身体が決めてる。檀は上がりたい身体をしてるけど、私は下がりたい身体をしてるから喧嘩するみたいなことがよくあるなぁ。

 

横田:たとえば「二月」のサビ前は龍斗は上がりたいって言ってたけど、美こは下がりたいって言ってたな。それは、たぶん身体が決めるので。

 

──その気に入らないメロディは「生理的に好き/気に入らない」なのか、Blume popoっぽさとして「合う/合わない」なのか、どちらですか?

 

今西:基本的には生理的に好きか嫌いかだと思います。

 

野村:でも、「Blume popoぽさ」の議論って昔はけっこうしてた。そうやって基盤を作れたから、今は阿吽の呼吸で制作できてるんだと思う。

 

今西:あとね、当たり前の話だけど、やっぱりボーカルの声色はめちゃくちゃ大事。美この才能があるからこそ、うちらは自由にやれる。

 

横田:僕らは、オルタナをやるぞとかシューゲをやるぞとか、ジャンルを目指してやってないんですよね。それも大きい。そういうのを突き詰めていくと、Blume popoっていうニン……というか人間性が出ちゃってるのかもしれないですね。

 

──横田さんが中学生のときに作ったCD-Rを皆が聴いていたという、そういった前提がメンバー共通の原体験としてあるからなんでしょうね。今の時代における音楽の在り方や作り方という点で、とても示唆に富んだお話のように思います。ありがとうございました!

 

 

Blume popo – obscure object

Release Date : December 5, 2025

Label : Post Pops Production

Stream : https://friendship.lnk.to/obscureobject_Blumepopo

 

[Tracklist]

M1. in your mind

M2. 遠い国

M3. 画家

M4. よく眠れるように

M5. ふわふわ

M6. 猛眠

M7. 子宮

M8. 二月

M9. 23

M10. 月夜銀河へ

M11. きらきら

M12. 抱擁

M13.あなたおやすみ

 

作編曲:横田檀

作詞:横田檀・野村美こ

ミックス/マスタリング/サウンドエンジニアリング:田村雄平

ジャケットデザイン:矢野恵司

ボーカル:野村美こ

ギター:今西龍斗,  横田檀

ベース:水谷航大

ドラム:杉江慶悟 (fr. The Over Sensation)

ピアノ:ノ上

 

 

タイトル:essais vol.6 大阪編

日時:2025年1月12日(月・祝)

会場:難波Yogibo Holy Mountain

出演:Blume popo / 揺らぎ

18:00 open / 19:00 start

adv¥3800 / door¥4000

U18¥2500

 

チケットプレオーダー受付中

https://eplus.jp/sf/detail/4424640001-P0030001

★【受付期間】:11月11日(火)19:00~11月16日(日)23:59

★【結果確認】:11月18日(火)13:00~11月19日(水)18:00

★【入金期間】:11月18日(火)13:00~11月20日(木)21:00

 

タイトル:essais vol.6 東京編

日時:2025年1月17日(土)

会場:TOKIO TOKYO

出演:Blume popo / cephalo

18:00 open / 19:00 start

adv¥3800 / door¥4000

U18¥2500

 

チケットプレオーダー受付中

https://w.pia.jp/t/essaisvol6-t/

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2025/12/22

10年分の時間が鳴りはじめるとき|Blume popo interview

遅れてきた大器、10年をかけて『obscure object』へ

 

 

2015年結成のバンド・Blume popoが12月5日に発表した1stアルバム『obscure object』が話題だ。長きにわたって議論されるべき強度の高い作品であると同時に、本作が注目を集めているのは、結成から10年を経て作り上げられた“待ちに待った”ファーストアルバムだという点も大きい。

 

 

2017年の〈RO JACK〉優勝、過密なライブ活動、2019年の活動休止、そしてコロナ禍を挟んだ再始動──山あり谷ありの時間のなかで、彼らは急ぐことも、時代に迎合することもなく、自分たちの速度で音楽と向き合い続けてきた。

 

結果として生まれた本作は、ジャンルやシーンを越えて、メロディ、言葉、音の手触り、関係性そのものが静かに結晶化した一枚だ。ポップであることと、深くあること。その両立を本気で志向する〈ポスト・ポップス〉の現在地として、『obscure object』は、まさに待望のデビュー作と言えるだろう。今回はそんな“遅れてきた大器”へインタビューを試みた。

 

Text / Interview : つやちゃん

Edit : NordOst / 松島広人

 


 

──まずは、Blume popoの成り立ちについて訊きたいです。そもそも、バンド自体は中学時代にすでに結成されてて、ギターの横田さんが最後に入られたんですよね。

 

 

今西(龍斗、以下今西):そう。でも、バンドでオリジナル曲をやろうって最初に提案したのは(横田)檀だったんですよ。提案というか、「俺作ってみたんだけど」みたいな。

 

横田(檀、以下横田):僕だけがギターやドラムの楽器経験があったんですよ。だから、今西は逆に未経験者だけでやりたいって言って最初は俺以外の三人でバンドを組んだんですよね。

 

今西:そうそう、経験者を入れるのはずるいなって思って(笑)。僕が(野村)美こと(水谷)航大に結成を持ちかけたのは中学2年くらいだったんですけど、その前に小6の時点で檀と航大と脱退したドラムのこやまが仲良しグループで、バンドをやってたんです。僕はそれを、すごいなぁと思って見てましたね。

 

──そのときは、皆さんはどんな音楽を聴いていたんですか?

 

横田:そもそも「自分から音楽を聴く」という文化を持ち込んだのが僕で。僕がおすすめしたのを皆が聴いていたかな。

 

野村(美こ、以下野村):私は、父親がバンド好きだったからその影響もあったかな。BARBEE BOYSとかのCDがズラっと家にあって。で、小6か中1くらいのときに、檀がオススメのCD-Rを作って配ってた。

 

横田:痛い奴やってんな(笑)。

 

今西:そこに入ってたのは、マキシマム・ザ・ホルモン、RADWIMPS、クリープハイプ、andymori、サカナクション、ONE OK ROCKとか。あと、滋賀県のバンドも入ってた。climbgrowとかRocket of the Bulldogs、WOMCADOLEとかね。

 

水谷(航大、以下水谷):それ、もらったなぁ。

 

今西:皆もらってるやん! もう聖書やん。

 

一同:(笑)

 

今西:そのCD-Rでバンドというものを知って。でも、なんかちょっと怖かったんですよね。RADWIMPSとかって下ネタ系のワードも歌詞に入ってるじゃないですか。そんなの聴いたことなかったから、何これ? みたいな。でもそのCDしかなかったから、ずっと流してて。そしたら少しずつ慣れてきた。

 

横田:嬉しいなぁ。めっちゃ洗脳成功してるやん。

 

──そういえば、最近RADWIMPSのトリビュート(『Dear Jubilee -RADWIMPS TRIBUTE-』)が出ましたよね。

 

 

横田:出ましたね。うちら男三人は今一緒に住んでるんですけど、リビングで試聴会しました。

 

野村:いいなぁ。私はひとりで聴いた。

 

──そこから、高校生のときにロッキング・オンが主催するコンテスト〈RO JACK〉で優勝して頭角を現すわけですよね。順風満帆かと思いきや、バンドは2019年に活動休止に入ります。

 

 

今西:檀が爆発した。ひとりで全部やってくれてたから。運営、作曲、ブッキング、メール対応など全部。

 

野村:3日に1回はライブしてた時期だったから、とにかく忙しかったしね。

 

横田:1か月で3回くらい滋賀から東京に行ってたときもあったくらい。

 

──業務を分担しよう、みたいな話にはならず?

 

横田:そういう精神状態になったら、もう冷静な判断ってできないじゃないですか。爆発して、僕が辞めたいって言ったんですよ。でも皆が「いつまでも待つから活動休止にしよう」って言ってくれて。

 

今西:それを檀が言い出したのが東京遠征の前日で。なんちゅうタイミングで言ってくるんや、って思ったのをめっちゃ覚えてる。

 

横田:それで(今西)龍斗から電話来て、めっちゃ泣いてたな。

 

今西:東京遠征に行く車の中で6時間、その話をして。活動休止にしようって。

 

──それだけライブをたくさんやる中で、当時バンド内はどういう感じのモチベーションだったんですか?

 

横田:正直、バンドとして頭打ちな感じは否めなかったと思う。

 

今西:僕は何も考えてなかったな。とにかくライブが習慣になってて、ひたすらやるだけっていう。これが生活だと思ってた。このまま行ったら売れるだろうっていう気配もまったくなかった。でも、このままいったらあかんっていう感覚もなかった。ボーっとしてたんかな。

 

横田:アホすぎるやろ(笑)。

 

水谷:いや、それだけ業務が檀に集中してたってこと。だからこそ3人はただただ演奏に集中してた。苦しいことを檀がしてくれてたので、上澄みの楽しいところだけをボーッとやってた感じ。

 

横田:僕だけなん? 頭打ち感を感じてたのって。

 

野村:うーん、頭打ちな感じはなかった。というか、何も考えてなかったかな。

 

今西:そうそう、本当に3人は何も考えずただただ楽しくライブやってただけ(笑)。

 

横田:2017年に〈RO JACK〉で優勝して、地方からもライブ呼ばれるようになって、EPもたくさんのお客さんが買ってくれて。そのころはいい感じやったけど、2019年くらいにはもう低空飛行だった気がする。僕は悲観的になりつつあった。

 

──2019年頃のいわゆる邦楽ロックシーンって、今とはまた全然違いますよね。シューゲイザーも盛り上がる前で。

 

横田:そうですね。シューゲイザーはまだ全然盛り上がってなくて、当時は揺らぎ一強だった気がする。クレナズムもいた。あとはCody・Lee(李)とかが注目の的っていう感じが2019年頃の印象。羊文学がメジャーデビューしたのが2020年。

 

──今と全然違う。やっぱり、コロナって大きかったんですね。

 

横田:たぶんサブスクも、まだインディーズのバンドは全然やってなかった。何それ? って。とにかくライブやってナンボって感じだったから。

 

──活動休止中は、どうやって過ごしてたんですか?

 

今西:まず、活動休止ライブを2020年の3月に企画してたんですけど、コロナでできなくなって。

 

横田:ようやくできたのが、2021年の11月。

 

今西:その頃にはもう檀が「バンドやろうぜ」って感じで(笑)。

 

横田:いやいや(笑)。そこまではないけど、でもストレスはなくなってたね。久しぶりに会えて嬉しい! ってなってた。

 

水谷:結局それが始動ライブになったね(笑)。

 

横田:コロナ期間のころ、暇だったから曲を作ってたんですよ。一旦クールダウンの期間を設けたことで、そんなにガチで曲を作らなくていいんじゃないか? ってなったんです。生活に合わせて、もうちょっと肩の力を抜いてやったらいいんじゃないかと。だから、今もライブはほぼ自主企画くらいしかやってなくて。

 

──ということは、実質活動休止してたのは、2019年から2021年の一年半くらいだったということですね。

 

横田:そう。その期間はメンバーともまったく会ってなかった。美こと地元の駅で偶然会ったとき、緊張して膝が笑ったもんね。いろんな感情が湧いてきて……。

 

今西:僕はその活動休止期間を通して、あんなにアーティストぶってた自分が「作曲する人がいなかったら音楽すらできない」ってことに気づいたんですよ。それで自分をめちゃくちゃ恥じて。曲を作れるようになろう、と思ってやりはじめたのが、ボーカロイド(合成音声)。2021年からイマニシ名義でソロ活動もはじめました。

 

 

──再結成後は従来のスタイルから、役割や関係性も変わりましたか?

 

横田:活動休止前は自分のワンマンバンド状態だったので、今はだいぶ変わりましたね。演奏監督やライブ制作は今西がやってるし、グッズ管理は美こがやって、リリース管理は航大がやってる。僕は作曲とディレクションに集中できるようになりました。いいバランスです。

 

──ライブのパフォーマンスも変わりましたか?

 

今西:なぁなぁにしてしまってたキメとかを、もっとガッツリ合わせるようになった。あと、熱を入れるところと抜くところも指示するようになった。檀は無視するんやけど(笑)。

 

野村:熱量を演出するのは恥ずかしくないぞ、というスタンスになったよね。ここはグルーヴがあるようにする、ここは職人の風を吹かす、といった演出をちゃんとするようになった。

 

 

──曲作りのアプローチも変わりましたか?

 

横田:活動休止以前は、全部僕の方で作曲してメロディまで作ったうえで、それに合わせて作詞をしてもらってました。活動休止以降は歌詞作るのが楽しくなっちゃって、僕が歌詞先行で曲を作るみたいな。今はそれが半々くらい。今では美この作曲もあるし。今回のアルバムでは、そうした変化の片鱗が見えてると思います。

 

──今回のアルバム曲は、いつごろ作ったものなんでしょうか。

 

横田:かなりバラバラですね。「画家」は高校生のときだから2017年くらいだし、「遠い国」は2019年。その後が「二月」「月夜銀河へ」かな。逆に、「in your mind」「あなたおやすみ」は2025年の5月くらい。単純に自分のDTMスキルが上がったし、歌詞を書いてそこにハマるメロディを考えることで、以前は作れなかった曲が作れるようになった。

 

──アルバムを作る過程で、2024年にEP『Test for Texture of Text』をリリースしたじゃないですか。母音を縛って歌詞を書くという挑戦的なアプローチの作品でしたが、個人的にはあのEPがけっこう重要だった気もして。

 

 

横田:でも、あれはBlume popoというバンドのキャリアの中にアーカイブされる作品というよりは、僕が勝手にこっそり遊びで作ったような作品ですよ。

 

今西:そういうつもりでいたのに、思ってたよりたくさん聴かれてしまった(笑)。

 

野村:檀の作る曲も時期によって変化があって、最近は小難しいことを一切やめた気がする。

 

今西:そうそう、素直な曲が増えたよね。

 

水谷:変拍子をやめて、素直になった。

 

横田:コロナ禍にバンドシーンから離れて、フォークとかを聴いてたんですよ。そこで「歌詞とメロディが良ければもういいでしょ」って気になった。今西は自分の凝ったアレンジを評価してたから、そういうのがなくなった時期で、ちょっと不満もあったんかな。

 

今西:『Test for Texture of Text』の「彼方高さから躰放ったあなた」「日々凜々しい君に」「底」の3曲、本当に大丈夫なんかな? って思ってたんですよ。編曲にあまり工夫がないというか。でも結果的に、今ではEPの中では一番「底」が好きなんですけどね。

 

水谷:僕も、変拍子を好んで聴いてたところから、君島大空さんの作品などに触れてバンドだけじゃなくフォークもカッコいいなって思うようになって、弾き語りなんかも聴くようになった。楽器というよりも、コードの鳴りやメロにグッとくるようになったのかな。変拍子をやってる自分に対して、冷笑するようになってしまったのかも(笑)。

 

野村:自分は海外のアーティストしか聴かなくなりました。日本語がしんどくなって。ギアを上げてバンドをやってた時期は、周りのバンドの音源を聴いてそういった音を取り入れたりもしていたけれど、そうじゃなくなったら一気に聴かなくなって。逆に、民謡とかも聴くようになった。

 

──なるほど。コロナ禍を経て、皆さんそれぞれかなり変化があったんですね。そうなると、今メンバーそれぞれがカッコいいと思うものって同じ方向を向いているのか、てんでバラバラなのか、どっちなんでしょう。

 

今西:どうなんだろう……。じゃあさ、今一番カッコいいと思うバンドを「せーの」で挙げてみようよ。

 

一同:え~!難しい!

 

横田:カッコいいにも色々あるからな。

 

今西:純粋に、曲として。あとアティチュード。活動休止を経て、今うちらがそれぞれ何をカッコいいと思ってるのかは気になる。

 

横田:知名度関係なく、ってことやんな。

 

今西:そう。俺は決まった。

 

一同:決まりました。

 

──じゃあ、せーので皆さん同時に言ってくださいね。せーの!

 

横田・今西・野村:サカナクション。

 

水谷:きのこ帝国。

 

一同:おぉ~!

 

横田:こうなるんだよね。

 

今西:なるほどね。

 

──3人がサカナクション!

 

水谷:きのこ帝国って言っちゃった。どこまでもルーツすぎて。

 

──サカナクションをカッコいいと思う理由は?

 

 

横田:曲、アートワーク、ライブ演出、全部カッコいい。どのバンドも「ジャンルの境界を壊したい」って言うじゃないですか。でも、それを本当にできてるのってサカナクションしかいない。

 

今西:そうやな。それはほんまにそう。

 

野村:ロールモデル的な側面もあると思う。今後こういう団体になっていきたいっていう。

 

横田:ポピュラーでありつつ、ハードコアな部分がある。

 

水谷:自分だけ外して恥ずかしいな(笑)。でも、佐藤千亜妃さんをきっかけに女性ボーカルのバンドが好きだって自分の中で定まったので。きのこ帝国は高校生のときにコピーしてたのも含めて好きですね、今も聴いてるし。もちろんサカナクションも好きです。

 

 

──ちなみに、もうちょっとアンダーグラウンドな領域に絞るとしたら、誰の名前が挙がりますか?

 

横田:Cwondoさん(No Buses / 近藤大彗)。

 

 

──それはすごく納得がいきます。サカナクション的なものも感じる。

 

横田:そう。ポピュラーでありながらハードコアだし、ダンスミュージックやエレクトロとバンドサウンドをうまくミックスしてますよね。

 

水谷:やっぱり君島大空かな。LOSTAGEもカッコいいなと思います。作品を作って残すという熱量がカッコいい。People In The Boxとのツーマンを観たんですけど、波多野さんがMCで「LOSTAGEは物販で古いフィジカルCDも必ず売るところがリスペクト」ってことを言ってましたね。

 

今西:檀は、売れるということ以上に、音楽シーンで影響を与えるバンドを目指してるところがあると思う。People In The Boxとかは、それに近いポジションなんじゃないかな。Blume popoは今後そういう立ち位置を目指していきたい。

 

水谷:アーティストにも支持されるバンドになりたいよね。

 

今西:インディーズで音楽シーンにちゃんと影響を与えるバンドになりたい。一方で僕はボカロもやってるのでそっちでも功績を残したいし、Vaundyやキタニタツヤみたいなソロアーティストにもなっていきたい。その3つを両立させたいんですよ(笑)。

 

横田:なるほどな。米津玄師と、ハチと、米津が他にバンドもやってるみたいな(笑)。

 

──それは凄いですね(笑)。横田さんはBlume popoの進む道をどう考えてますか?

 

横田:人類の根源的な欲求って、不死だと思うんです。比喩的な意味での、不死。それに対して、たとえば子どもを産むようなことで可能性を残していくわけじゃないですか。そういう感覚に近いんですよね。Blume popoも、後続のアーティストやリスナーに何かしらの影響を与えたいし、それができたら嬉しい。「Blume popoがいたからこういう歴史的な文脈が生まれたよね」と認識されるような存在になりたい。

 

水谷:そのためにポピュラーな存在になる道もあるよね。

 

横田:そうそう。ポピュラーになるということは、目的というより手段だから。

 

──今作を聴いて、私はメロディというものについて考えてしまったんですよね。というのも、Blume popoの醸し出すメロディがとても好きで。ここで言うメロディとは、歌メロに限らず、演奏やムードも含めた断片すべてが醸し出す旋律のことで、ちょっと入るギターのフレーズなども含めた広い意味でのメロディ。メンバー全員に漂う美意識みたいなものが、そのすべてに出ていると思うんですよ。そこにはちょっと懐かしさもあって。

 

横田:あぁ……それは難しい問いですね……うーん……絶対的にいいメロディってたぶんなくて。人それぞれ違う感じ方をすると思うんです。

 

今西:分かる分かる。

 

横田:その点、編曲ってニン*が出ないというか。再現性が高いし、勉強したら高度なことってできるんですよ。

(*注:主に漫才や落語で使われる、その人にしかないキャラクターや個性を指す語)

 

今西:そうそう、めっちゃそうやんな。

 

横田:一方で、メロディにはめっちゃニンが出る。だからそこを褒められるのは嬉しい。編曲を褒められても「頑張ったから当たり前やん」って思うから。逆に言うと、メロディは頑張ってないというか、そのまんま出たもので。

 

──そこがBlume popoのオリジナリティだと思います。他のバンドがカバーしても、こうはならない。このアルバムには、共通のaesthetics(美学)があるから。でも、なぜそれができるんだろう? って考えると難しくて。やっぱり皆が幼馴染というのが大きいんでしょうか。

 

横田:不思議ですよね。

 

──間違いなく、そこにBlume popoっぽさがある。もっと言うと、サウンドや音楽性はバラバラでも、音の断片から共通の風景が見える。

 

水谷:檀はまだそこに気づいてないのかも。

 

横田:何なんやろ……。

 

水谷:意外に、外側の話に聞こえるけど、田村(雄平)さんのエンジニアリングによる力はかなりあると思う。

 

横田:それはめちゃくちゃある!

 

今西:うちのエンジニアって、ミキシングもマスタリングもけっこう変なんですよ。

 

横田:ちょっと編曲の域まで入ってるんじゃないか? という能動的なエンジニアリングをしてもらってて。それは、信頼関係があるからできることですけど。

 

今西:自分の話ばかりして申し訳ないですけど、自分のイマニシ名義の作品も同じく田村さんで。エンジニアリングにもBlume popoっぽい香りがすると思うんですよね。

 

一同:あー!

 

横田:田村さんは、最初にお仕事しはじめたときに当時エンジニアとして独立されたばかりで、まだ全然若くて。当時は僕らも15歳とかで、そのときからの付き合いなんですよ。お互いが完成し切る前からずっと一緒に歩んできている。

 

──それは大きいかもしれないですね。エンジニアも含めて、ずっと昔から一緒にやってきていると。

 

横田:逆に、うちらはエンジニアリングにも介入しますね。曲によっても違ってて、「画家」「ふわふわ」とかは今西が主導でディレクションしてるんだけど、エンジニアリングにだいぶ入ったよな。コンプとかEQみたいな基盤のところはさすがに田村さんにお任せしてるけど。

 

今西:さっきの話で言うと、景色が見えるっていうのは僕もけっこう感じてます。

 

横田:歌詞でも小説でも、その作品が持つ言葉遣いのコードというのがあると思うんです。People In The BoxにはPeopleらしい言葉遣いがあるし、村上春樹には村上春樹らしい言葉遣いがあるじゃないですか。単語の選び方一つひとつが、その手触りによって作品のムードを決めていると思う。単語の意味とは別に単語それ自体が持つ印象。たとえば四象限で考えると、「遠さ‐近さ」、「固さ‐柔らかさ」という二軸で分類できるかもしれない。それがメンバーでも微妙に違っていて、僕は、遠くて柔らかい言葉が好き。美こは、遠くて固い。今西は近くて固い気がする。

 

今西:分かる分かる! 美こは遠くて固いな。

 

横田:たとえば、「たぶん」みたいなことを意味したい場合、「きっと」とかって言うと近くて柔らかいけど、「おそらく」は近くて硬い。「あるいは」は僕的には遠くて柔らかい気がする。「蓋(けだ)し」は遠くて固い、みたいな。この例で出した言葉はそれぞれ意味も少しずつ違うからややこしいんですけど。その中からどれを選んじゃうかっていうのも、ニンの話でもあると思う。

 

 

今西:その言葉選びによって、美こは上品さが出て、檀は懐かしさが出る気がする。譜割りでメロディも決まってくるから、歌詞は凄く大事ですよね。だって、「23」はメロディないんやけど、めっちゃ懐かしいやん。「月夜銀河へ」はめっちゃ上品やし。

 

横田:突き詰めると、やっぱり僕たちメンバーは人格形成期に同じような経験をしてきてる分、懐かしさにしろ上品さにしろ、共通のコードというのがある気がする。

 

野村:誰かひとりでも気に食わないメロディって、絶対に最後まで通らへんやんな。リリースまで絶対に通せない。

 

──気に食わないメロディっていうのは、具体的にはどういうところが?

 

今西:たとえば「画家」って曲は、自分がメロディと歌詞を作ったんですけど、檀が書いたメロがどうしても気に入らなくて。それで自分が作るって言った。

 

横田:「画家」に関しては、若い頃に作った曲で、僕も気に入ってなかったんですよ。メロディが全然良くないなって思って。

 

野村:メロディとして、「上がりたい」ときと「下がりたい」ときは身体が決めてる。檀は上がりたい身体をしてるけど、私は下がりたい身体をしてるから喧嘩するみたいなことがよくあるなぁ。

 

横田:たとえば「二月」のサビ前は龍斗は上がりたいって言ってたけど、美こは下がりたいって言ってたな。それは、たぶん身体が決めるので。

 

──その気に入らないメロディは「生理的に好き/気に入らない」なのか、Blume popoっぽさとして「合う/合わない」なのか、どちらですか?

 

今西:基本的には生理的に好きか嫌いかだと思います。

 

野村:でも、「Blume popoぽさ」の議論って昔はけっこうしてた。そうやって基盤を作れたから、今は阿吽の呼吸で制作できてるんだと思う。

 

今西:あとね、当たり前の話だけど、やっぱりボーカルの声色はめちゃくちゃ大事。美この才能があるからこそ、うちらは自由にやれる。

 

横田:僕らは、オルタナをやるぞとかシューゲをやるぞとか、ジャンルを目指してやってないんですよね。それも大きい。そういうのを突き詰めていくと、Blume popoっていうニン……というか人間性が出ちゃってるのかもしれないですね。

 

──横田さんが中学生のときに作ったCD-Rを皆が聴いていたという、そういった前提がメンバー共通の原体験としてあるからなんでしょうね。今の時代における音楽の在り方や作り方という点で、とても示唆に富んだお話のように思います。ありがとうございました!

 

 

Blume popo – obscure object

Release Date : December 5, 2025

Label : Post Pops Production

Stream : https://friendship.lnk.to/obscureobject_Blumepopo

 

[Tracklist]

M1. in your mind

M2. 遠い国

M3. 画家

M4. よく眠れるように

M5. ふわふわ

M6. 猛眠

M7. 子宮

M8. 二月

M9. 23

M10. 月夜銀河へ

M11. きらきら

M12. 抱擁

M13.あなたおやすみ

 

作編曲:横田檀

作詞:横田檀・野村美こ

ミックス/マスタリング/サウンドエンジニアリング:田村雄平

ジャケットデザイン:矢野恵司

ボーカル:野村美こ

ギター:今西龍斗,  横田檀

ベース:水谷航大

ドラム:杉江慶悟 (fr. The Over Sensation)

ピアノ:ノ上

 

 

タイトル:essais vol.6 大阪編

日時:2025年1月12日(月・祝)

会場:難波Yogibo Holy Mountain

出演:Blume popo / 揺らぎ

18:00 open / 19:00 start

adv¥3800 / door¥4000

U18¥2500

 

チケットプレオーダー受付中

https://eplus.jp/sf/detail/4424640001-P0030001

★【受付期間】:11月11日(火)19:00~11月16日(日)23:59

★【結果確認】:11月18日(火)13:00~11月19日(水)18:00

★【入金期間】:11月18日(火)13:00~11月20日(木)21:00

 

タイトル:essais vol.6 東京編

日時:2025年1月17日(土)

会場:TOKIO TOKYO

出演:Blume popo / cephalo

18:00 open / 19:00 start

adv¥3800 / door¥4000

U18¥2500

 

チケットプレオーダー受付中

https://w.pia.jp/t/essaisvol6-t/

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