1500日の旅路|Minna-no-kimochi at SONICMANIA Live Report

〈SONICMANIA〉Official Repost by AVYSS

 

©SONICMANIA All Rights Reserved

 

千葉・幕張メッセにて〈SUMMER SONIC 2025〉の前夜祭として今年も開催された〈SONICMANIA〉。前夜祭、とは言いつつも、国内最大級の音楽フェスが提供することだけあってラインナップは多岐にわたり、世界的アーティストから国民的ポップスター、アンダーグラウンドから飛び出した新星までと、今年もバラエティに富んだ内容だった。

 

そんなビッグルーム・フェスのクロージング・アクトに抜擢されたのは、パンデミックの最中DIYのトランス・レイヴクルーとして発足、地下からオーバーグラウンドへと飛躍を遂げた〈みんなのきもち / Minna-no-kimochi〉。彼らの70分にわたるDJセットの模様を、AVYSSとしては初となるオフィシャル・レポートとしてお届けする。

 

Text: NordOst / 松島広人

Photo: ©SONICMANIA All Rights Reserved

 


 

〈みんなのきもち / Minna-no-kimochi〉が発足されたのは、今から4年ほど前のこと。神奈川・真鶴半島某所にて完全なDIY形式で創り上げたトランス・レイヴの開催からおよそ1500日以上の月日を巡り、いつしか世界を駆け巡る存在へと進化していった。

 

まず最初にきっぱりと断言しておくと、数多くの(想像もつかない)体験を経て、今でこそかつてのスタイルから随分と遠いところにたどり着いたとはいえ、彼らの思想の根幹は変わっていない。

 

レイヴという催しは、いわゆる音楽フェス的な枠組みを大きく越えた「集会」という性質を持つ。そこに付随する困難や障壁を乗り越えて集まり、夜の闇に深く潜ったのち日の出とともに浮上することに真意がある。みんなのきもちは、一貫してそうしたメッセージをあらゆる現場に届けるべく暗躍を続けていて、それは〈Glastonbury〉のような巨大なステージから〈FORESTLIMIT〉のような地下室のクラブまで不変である。

 

 

根幹を変えず、それ以外のすべてに漸進的な変化を加え続けているのがみんなのきもちという集団であり、それはもちろん音楽性にも強く投影されている。今回の〈SONICMANIA〉で披露された70分のDJセットは、トランス・ミュージック(とそれにまつわるトランス体験)の伝達という軸は不変のまま、彼らのパブリック・イメージを大きく拡張するものだった。

 

みんなのきもちといえば、当初はトランスのサブジャンルのなかでもメロディアスな旋律やハードな音像が特徴的な、高揚感に満ちたトラックを中心にプレイするイメージが強く、あるいはレーベルラインである〈Mizuha 罔象〉が提示するような前衛的なアンビエント色の強いサウンドを基調とした静謐な雰囲気のプレイを展開することが多い印象だった。

 

が、彼らはすでにその地点には留まっておらず、全体を通してよりディープ・テクノ的な方面でのサイケデリックな音像に接近し、時にはハウス的なグルーヴを持つトラックをも積極的にプレイしていたことが印象的だった。

 

©SONICMANIA All Rights Reserved

 

砂原良徳、SAMO、ShioriyBradshawと3人の日本のDJたちが形成した熱量を一旦クールダウンさせつつ引き継ぐ形で、サード・フロアの「MANIAC LAB STAGE」でのプレイが数分押しでスタート。自分を含む現行世代には馴染みのないキーワードだが、おそらく”MANIAC LAB”とは90年代の黎明期に日本のアンダーグラウンド・テクノシーンを支えた伝説のクラブ「MANIAC LOVE」の名前を借りたものであり、ここでのクロージングをみんなのきもちが担う、という時点でまず不思議な感慨がある。

 

オープンからしばらくは、プログレッシブ・テクノとでも捉えればよいだろうか、ディープ・テクノ的でありつつその軸はトランスであるような質感のトラックで堅実に立ち上がる。ほどなくして、徐々にハウシーなベースラインのうねりやパーカッションが加えられ、かと思えばふたたびミニマルな展開へと立ち返る。日本を飛び出したIchiro TanimotoとShu Tamiyaの変化と成長を感じさせる堂々たるプレイで、次第にフロアの期待感は高まっていく。

 

©SONICMANIA All Rights Reserved

 

まるで飛行機のフライトのようにゆっくりと加速を続け、荒々しく高度を上げていき、安定飛行に入り、そしてまた……という展開の作り方には目を見張るものがあった。なにより、こうして余計な考え事をしながらでも、そんな野暮に走らずとも等しく踊りやすい、という点において一級品のプレイであると強く思える。そうした展開と併走するように増減する光量やトリッピーなライティング演出なども素晴らしい。

 

みんなのきもちの2025年現在のDJスタイルにおいて、ジャンルや音像は一定的ではない。安定感を見せつつも、時にはスリリングにフロアの空気をつぶさに汲み取り、決して変化をやめない。それでも軸のブレた印象は感じさせない。〈SONICMANIA〉のスケール感に応答しつつ、環境に対するエクスキューズを常に緩めないスタイルを確立しているユース層のプレイヤーは稀有であり、とくに数千、数万人規模の大舞台をも難なく乗りこなせるとなると、さらに一握りとなる。みんなのきもちは、パンデミック以降のフロアに新しいオーセンティシティを確立しようとしているのかもしれない。

 

©SONICMANIA All Rights Reserved

 

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とくに印象的だったのは、ビッグルーム的なシステムで一際輝く立体的な音の配置ぶり。みんなのきもちは最早、単なるDJプレイというよりは最良のセッティングでトランスを体感する空間設計をライブ的に披露するパフォーマンスを目指しているように見えた。スタート時から一貫してDIYでレイヴという環境・空間の構築を続けてきた彼らならではのスタジアムクラスの場の乗りこなし方には、人工的な都市空間のような造形美さえ感じた。

 

そしてセットが深まってくるにつれ、ジャーマン・トランスを主とした硬質なサウンドはさらに多様化していく。世界一のトランスDJ・Tiëstoがかつてアテネ五輪に際して書き上げたアルバム『Parade of the Athletes』(04)から、汎アジア的なインナー・トリップを想起させるトラック「Ancient History」がプレイされたときには、「海外から見つめた日本」をメタ的に再演しているかのような気配すらした。

 

 

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70分弱の旅路が終わり、最後の着陸時に流れたのは直近での来日公演も話題となったFred again.. & Obongjayar「adore u」。本編のセットとは直接的な関係を持たず、映画のエンドロールやアルバムのボーナストラックのような雰囲気をもってイントロが流れた瞬間の多幸感は書き表しきれないものがあった。あえて分類するならハウス・ミュージックに該当するこの曲にかすかに漂うトランスの香りを引き出し、大きな納得と幸福を多くの人に与える、という手腕こそ、まさしくDJそのものと言えるだろう。スムースでポップなこの楽曲にすらトランス的な変換処理を施すのが、1500日間で確立されたみんなのきもちのスタイルなのだ。

 

(追記:みんなのきもち側に確認したところ、ラストは「adore u」単体ではなくEmily Glassのとある未発表曲とのマッシュアップとして披露されたそう! この楽曲に普段と違った感動を与えるための細やかな気遣いを感じる。)

 

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そして、「adore u」のアウトロとともにクロージング・セットは慎ましやかに終幕。周囲は明るくなり、ビッグ・フェスの夢は幸せな思い出とともに醒めていった。巨大な会場をあとにして眺めた海浜幕張周辺の人工的な街並みと曇り空は、ここが現実であるとともに、過酷な現実においても小さな夢は消えず、夜の闇に隠れていることを伝えてくるようだった。

 

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千葉・幕張メッセにて〈SUMMER SONIC 2025〉の前夜祭として今年も開催された〈SONICMANIA〉。前夜祭、とは言いつつも、国内最大級の音楽フェスが提供することだけあってラインナップは多岐にわたり、世界的アーティストから国民的ポップスター、アンダーグラウンドから飛び出した新星までと、今年もバラエティに富んだ内容だった。

 

そんなビッグルーム・フェスのクロージング・アクトに抜擢されたのは、パンデミックの最中DIYのトランス・レイヴクルーとして発足、地下からオーバーグラウンドへと飛躍を遂げた〈みんなのきもち / Minna-no-kimochi〉。彼らの70分にわたるDJセットの模様を、AVYSSとしては初となるオフィシャル・レポートとしてお届けする。

 

Text: NordOst / 松島広人

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〈みんなのきもち / Minna-no-kimochi〉が発足されたのは、今から4年ほど前のこと。神奈川・真鶴半島某所にて完全なDIY形式で創り上げたトランス・レイヴの開催からおよそ1500日以上の月日を巡り、いつしか世界を駆け巡る存在へと進化していった。

 

まず最初にきっぱりと断言しておくと、数多くの(想像もつかない)体験を経て、今でこそかつてのスタイルから随分と遠いところにたどり着いたとはいえ、彼らの思想の根幹は変わっていない。

 

レイヴという催しは、いわゆる音楽フェス的な枠組みを大きく越えた「集会」という性質を持つ。そこに付随する困難や障壁を乗り越えて集まり、夜の闇に深く潜ったのち日の出とともに浮上することに真意がある。みんなのきもちは、一貫してそうしたメッセージをあらゆる現場に届けるべく暗躍を続けていて、それは〈Glastonbury〉のような巨大なステージから〈FORESTLIMIT〉のような地下室のクラブまで不変である。

 

 

根幹を変えず、それ以外のすべてに漸進的な変化を加え続けているのがみんなのきもちという集団であり、それはもちろん音楽性にも強く投影されている。今回の〈SONICMANIA〉で披露された70分のDJセットは、トランス・ミュージック(とそれにまつわるトランス体験)の伝達という軸は不変のまま、彼らのパブリック・イメージを大きく拡張するものだった。

 

みんなのきもちといえば、当初はトランスのサブジャンルのなかでもメロディアスな旋律やハードな音像が特徴的な、高揚感に満ちたトラックを中心にプレイするイメージが強く、あるいはレーベルラインである〈Mizuha 罔象〉が提示するような前衛的なアンビエント色の強いサウンドを基調とした静謐な雰囲気のプレイを展開することが多い印象だった。

 

が、彼らはすでにその地点には留まっておらず、全体を通してよりディープ・テクノ的な方面でのサイケデリックな音像に接近し、時にはハウス的なグルーヴを持つトラックをも積極的にプレイしていたことが印象的だった。

 

©SONICMANIA All Rights Reserved

 

砂原良徳、SAMO、ShioriyBradshawと3人の日本のDJたちが形成した熱量を一旦クールダウンさせつつ引き継ぐ形で、サード・フロアの「MANIAC LAB STAGE」でのプレイが数分押しでスタート。自分を含む現行世代には馴染みのないキーワードだが、おそらく”MANIAC LAB”とは90年代の黎明期に日本のアンダーグラウンド・テクノシーンを支えた伝説のクラブ「MANIAC LOVE」の名前を借りたものであり、ここでのクロージングをみんなのきもちが担う、という時点でまず不思議な感慨がある。

 

オープンからしばらくは、プログレッシブ・テクノとでも捉えればよいだろうか、ディープ・テクノ的でありつつその軸はトランスであるような質感のトラックで堅実に立ち上がる。ほどなくして、徐々にハウシーなベースラインのうねりやパーカッションが加えられ、かと思えばふたたびミニマルな展開へと立ち返る。日本を飛び出したIchiro TanimotoとShu Tamiyaの変化と成長を感じさせる堂々たるプレイで、次第にフロアの期待感は高まっていく。

 

©SONICMANIA All Rights Reserved

 

まるで飛行機のフライトのようにゆっくりと加速を続け、荒々しく高度を上げていき、安定飛行に入り、そしてまた……という展開の作り方には目を見張るものがあった。なにより、こうして余計な考え事をしながらでも、そんな野暮に走らずとも等しく踊りやすい、という点において一級品のプレイであると強く思える。そうした展開と併走するように増減する光量やトリッピーなライティング演出なども素晴らしい。

 

みんなのきもちの2025年現在のDJスタイルにおいて、ジャンルや音像は一定的ではない。安定感を見せつつも、時にはスリリングにフロアの空気をつぶさに汲み取り、決して変化をやめない。それでも軸のブレた印象は感じさせない。〈SONICMANIA〉のスケール感に応答しつつ、環境に対するエクスキューズを常に緩めないスタイルを確立しているユース層のプレイヤーは稀有であり、とくに数千、数万人規模の大舞台をも難なく乗りこなせるとなると、さらに一握りとなる。みんなのきもちは、パンデミック以降のフロアに新しいオーセンティシティを確立しようとしているのかもしれない。

 

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とくに印象的だったのは、ビッグルーム的なシステムで一際輝く立体的な音の配置ぶり。みんなのきもちは最早、単なるDJプレイというよりは最良のセッティングでトランスを体感する空間設計をライブ的に披露するパフォーマンスを目指しているように見えた。スタート時から一貫してDIYでレイヴという環境・空間の構築を続けてきた彼らならではのスタジアムクラスの場の乗りこなし方には、人工的な都市空間のような造形美さえ感じた。

 

そしてセットが深まってくるにつれ、ジャーマン・トランスを主とした硬質なサウンドはさらに多様化していく。世界一のトランスDJ・Tiëstoがかつてアテネ五輪に際して書き上げたアルバム『Parade of the Athletes』(04)から、汎アジア的なインナー・トリップを想起させるトラック「Ancient History」がプレイされたときには、「海外から見つめた日本」をメタ的に再演しているかのような気配すらした。

 

 

©SONICMANIA All Rights Reserved

 

70分弱の旅路が終わり、最後の着陸時に流れたのは直近での来日公演も話題となったFred again.. & Obongjayar「adore u」。本編のセットとは直接的な関係を持たず、映画のエンドロールやアルバムのボーナストラックのような雰囲気をもってイントロが流れた瞬間の多幸感は書き表しきれないものがあった。あえて分類するならハウス・ミュージックに該当するこの曲にかすかに漂うトランスの香りを引き出し、大きな納得と幸福を多くの人に与える、という手腕こそ、まさしくDJそのものと言えるだろう。スムースでポップなこの楽曲にすらトランス的な変換処理を施すのが、1500日間で確立されたみんなのきもちのスタイルなのだ。

 

(追記:みんなのきもち側に確認したところ、ラストは「adore u」単体ではなくEmily Glassのとある未発表曲とのマッシュアップとして披露されたそう! この楽曲に普段と違った感動を与えるための細やかな気遣いを感じる。)

 

©SONICMANIA All Rights Reserved

 

そして、「adore u」のアウトロとともにクロージング・セットは慎ましやかに終幕。周囲は明るくなり、ビッグ・フェスの夢は幸せな思い出とともに醒めていった。巨大な会場をあとにして眺めた海浜幕張周辺の人工的な街並みと曇り空は、ここが現実であるとともに、過酷な現実においても小さな夢は消えず、夜の闇に隠れていることを伝えてくるようだった。

 

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