だけど人生1人かもしれないし、1人じゃないかもしれない|CVN interview

AVYSSの5年、ミニ反省と修正と実験と更新

 

 

2018年のローンチから早5年、ディレクターのCVNこと佐久間が個人ブログ的に始めたウェブマガジン・AVYSSは今や音楽をはじめとした多様なカルチャーに「光」を当てるプラットフォームへと進化した。個性がきらめくトピックを独自の視点でキュレーションし、インターネットを経由して創造的なコンテキストを探りながら新たな風景の広がりを見せるAVYSSだが、いかにして比類のない道筋辿ってきたのだろうか。ということで、AVYSSのはじまりから現在までの5年間を振り返るよもやま話を、5周年記念を祝してアーカイブ的に語ってもらいました。

 

Text by yukinoise & NordOst

Photo by マ

 

ー AVYSS Xお疲れ様でした。AVYSS誕生5周年を無事迎えた今の心境は?

 

CVN(佐久間):ひとつのイベントが終わっただけなので、って感じです。関わってくれたみなさんに感謝です。

 

ー1周年からAVYSSのイベントに足を運んでいる身としては、この5年間を駆け抜けて音楽やオーディエンスの反応も多種多様なものになったなと思っていて。”AVYSS系”なんてワードも生まれたりしましたが、自身の中でAVYSSらしさが確立された実感はありますか?

 

CVN:あるけど、ないみたいな。AVYSS系という言葉については僕も意味を知りたいです。

 

ー 当初インディーロックや脱構築的な領域から始まり、今は自然といろんなジャンルが網羅的に共存している状態がAVYSS系ってイメージを作り出しているような。しかも佐久間さん(CVN)の独自視点から多方面を包括的に交えていますよね。

 

CVN:初期の頃はジャンルを網羅するぞ、というより、個人のキュレーションでやってくぞってところで。だから偏りも出るし、これはあるけど、あれはないみたいな個人のレコード棚を見る感覚のようにそれを良しとしてやっていて。結果、メディアように見える個人ブログライクなプラットフォームに落ち着いています。軸の何かがあればスタイルは流動的であってもいいと思うので、今後はわかりませんが。1周年記念(2019/09/28 at WWW / WWWβ)のヒップホップと電子音楽の組み合わせが中心になったのもあのときのAVYSSのメディア的側面の可能性を探求してみたって感じでした。

 

 

ー 個人ブログ的なキュレーションだからこそ実現した面白い組み合わせでしたね。今ではひとつのメディアとしても認知されるようになったAVYSSですが、根底には常にインディペンデント性を保持されているかと思います。そういったスタンスが生まれたきっかけについて、佐久間さんがCVNとして音楽活動を始めるまでの物語から教えてもらえますか?

 

CVN:物語、ですね。僕は三重県四日市市出身で、鍼灸師の資格を取るために(たぶん)2006年頃に上京しました。上京してすぐのころだと、KLAXONSやLarrikin Loveの来日公演とか行きましたね(遠い目)。ダイジェスト的に話していくと、ESCALATOR RECORDS(現・BIG LOVE RECORDS)で毎週のようにレコードを買いに行くようになったりして、そこで出会った仲間たちと〈Cuz Me Pain〉というレーベル兼パーティーを始め、僕のDJを見た松田“CHABE”岳二さんに「お前は音楽を作れる感じのDJだから作曲した方がいいよ」って言われて、MacbookのガレージバンドでDTMを始めて、そこからなんだかんだあり、、Jesse Ruinsという名義を作り、バンドスタイルでライブするようになり。世界はいわゆる10年代インディーブログ全盛期で、無数にある海外のブログ(現在はほとんどが閉鎖)を見てMP3をダウンロードしたり、チルウェイブやウィッチハウスが誕生して盛り上がっていく中で、僕もそれらに影響を受けていって。当時Pitchforkと同じぐらい大きな影響力があったGORILLA VS. BEARってブログにJesse Ruinsが掲載されたのをきっかけに、アメリカのレーベル〈Captured Tracks〉(Beach FossilsやDIIVが所属していたレーベル)と契約することになりました。契約のときも色々ありましたけど、ここではあれなので、またどこかで会ったとき聞いてください。

 

 

 

ー たしか同時期に契約したアーティストにMac DeMarcoがいましたよね。その当時、日本のインディーアーティストが海外レーベルと契約するって今に比べてかなり大きな出来事だったんじゃないですか?

 

CVN:Mac DeMarcoはほぼ同期でした。曲を作り始めたばかりでDTMの技術も知識もない状態の頃なのに、自分自身がよくレコードを買っていた大好きなレーベルからのお誘いだったので、(天変地異的に)何かが起きてしまうんじゃないかと信じられないぐらい動揺しました。与えられてた側なのに与える側になるの!?、みたいな困惑の世界線?、その後予定通りデビューしたのですが、(最初は)逆輸入的に日本国内に広がっていくこともなく、想像以上に狭い世界であることも含め、現実を理解させられたというか。まぁ見えない誰かに期待しすぎた反動なのですが、音楽活動に対する(美)意識は一度リセットされ、自分のやれることを続けていこうスタンスに、少しづつ冷静を取り戻していく感じで。

 

ー なるほど。今でこそ半歩引いた広い視点を持っているような佐久間さんでも、昔はもっとインディー的な美学が強かったんですかね。

 

CVN:美学というか思い込みというか、今も根底にあるものはあまり変わらないと思います。Cuz Me PainやJesse Ruinsの頃の10年代にその心持ちを構築していって、そこをベースに修正とアップデートの繰り返しで今の自分がいると思います。過度に期待しないとか、自分ができることとできないことも少しづつ理解していって、そのスタイルで更新していくしかないし、まぁ精神的にニュートラルでいることはそもそも得意だったのかもしれませんが。

 

ー AVYSSを通じて、そういった野心的にならずあくまで背伸びをしない自然体であることを大事にするというスタンスを伝えたいという思いはありますか?

 

CVN:伝えたいという気持ちはないです。僕自身がその感じで過ごしてるというだけであって。かつてイギリスのThe GuardianにJesse Ruinsが取り上げられた際、一つの楽曲の中に暗さと明るさが同時に存在すると書かれたように、僕にも野心はあり、それと隣り合わせで、諦めもあって。2つが付かず離れずでいて自分のバランスをとっている感じです。AVYSSで言い換えれるかわからないけど、会社の中での事業として存続させていくために、規模や動員のことを考えないといけないときはあります。一方で小箱の中で起きることも信じ続けたい。AVYSS BOXのような実験はやめずに進みたいです。

 

 

 

ー 実はAVYSSがひとつの事業だということ意外と知られてませんよね。どういった経緯でAVYSSが事業として発足したんですか?

 

CVN:AVYSSの運営会社は、僕が所属している株式会社シーエムバーです。名古屋にあります。僕も名古屋に住んでて。主にはウェブやデザインを制作している会社なんですけど、5年前に新規事業を立ち上げる会議があって、そこで僕個人ができることや知ってること、あと会社ができることを組み合わせて考えてみて、音楽を中心にしたメディアの側面を持つプラットフォームみたいなものを事業として提案してみたという流れです。僕は音楽ライターや編集者を目指してたわけじゃないし、今も興味はなくて、自分の周りにいる人や、僕の見える範囲で、ですが新しく音楽とか何かを始める人、新しい生まれるコミュニティなどに(出来る限りで)フォーカスすること、彼らにとって前向きな還元ができればいいなって思いつつ、というか自分1人きりで実務的な運営を続けていかなければならないというのもあって、まずは自分の知っていることしか無理だよなと。無理をせずに無理もするというか。

 

ー AVYSSを本格始動させていく過程はやはり大変でしたか?数ある音楽系Webメディアの中でも登場した際は類を見ないアンダーグラウンド、インディーさが心を掴んだと思うのですが前例がない分かなり試行錯誤されたのではないかと思います。

 

CVN:当初は、僕の音楽活動や「CVN」を通して始まった部分もあって、最初は僕がリリースさせてもらってるレーベル・Orange Milkのオーナーのインタビューを掲載したり、サイトの公開もたまたま同時期に企画されていたOrange Milkのジャパンツアーに合わせたり。以前インタビューしてもらったことがあったele-kingの野田さんに相談してみたり。もうずっとそうかもですが、ミニ反省と修正の繰り返しです。

 

ー 2018年にメディアがローンチされた翌年には1周年記念のイベントをやってましたよね。実際に1周年に足を運んだ身からすると電子音楽とヒップホップが共鳴する当時では先鋭なラインナップだったこと、AVYSSがリアルな空間に実在することを体感した衝撃的なイベントでした。今や恒例のアニバーサリーをはじめ、メディアの枠を飛び越えてAVYSSならではのコミュニティがあの日を起点に広がっていったように感じますが、オフラインでの展開は佐久間さんにとって思い切った試みだったのでしょうか?

 

CVN:お世話になってるメディアの方々もたくさんいらっしゃるのであれですが、僕個人は所謂オンラインだけの音楽メディア(ウェブマガジン)というものに心の底からは寄り添えなくて信じれなかった自分が以前はいました。誰が見てるのだろうとか、その人たちの顔が見たかったというか、みんなって誰やねん、という感じでイベントを始めました。そもそも収益もウェブ広告は難しいだろうというところで、オフラインでの接点や、できることを探したくて、何かしらヒントがもらえるかなと。インターネットやアカウントの向こう側にはメカじゃなくて人間がいることが多いじゃないですか。AVYSSは僕が1人でやってて、記事あげて、毎週プレイリスト作って、ショップの在庫発注から梱包と発送をやって、タグ付け間違えたり、記事あげてから誤字見つけて修正したり、転がりながらやってますけど、それこそ二人(yukinoiseとNordOst)ともオフラインでの接点で繋がりが強くなっていき、そこから色んなプロジェクトが生まれていったわけで。オンラインで完結してたらこの関係性もなかったと思うし。

 

 

ー CVN=佐久間さんという生身の人間がやってるからこそ、キュレーションに偏りが出ることもあれば客観性もちゃんと含まれてることもあってAVYSSの味が出ているのに、その実態をあまり知らない人からするとAVYSSの中にも人間がいると伝わってないこともありそうですね。実は編集部もないし、ライター陣もあくまでサポートメンバーなのになんだか巨大な事業として捉えられることもありそう。

 

CVN:アビスAIがいてバーチャル佐久間がやってるみたいなことはなくて、実際は家では小さなテーブルの上で、会社では窓際で、記事の予約投稿に失敗したりしてます。

 

ー バーチャル佐久間と言えば、メタバース領域にいち早くチャレンジした2年目もAVYSSのターニングポイントでしたよね。

 

CVN:やはりキーになったのがJACKSON kakiで、彼はAVYSSにとって大きなきっかけを作ってくれました。それがバーチャルパーティーを模索したAVYSS GAZEです。DOMUNNEとのコラボはそれまでの実験を推し進めた内容で、DOMUNNEのスタジオを使って国外のアーティストやクリエイターと繋がりながらバーチャルプラットフォームも用意して複数の入口と方法で参加できるイベントを作りました。全てがスムーズに機能したわけじゃなかったけどそれも実験であり、コロナ禍真っ只中の時期にあれを開催できた意義は大きかったと思います。

 

 

 

ー 国外アーティストの来日どころか音楽イベントそのもの自体が境地に追い込まれた時期でしたが、バーチャル空間や配信だからこそ国内外問わず新たにアーティストを発見したり掬い上げられたんじゃないでしょうか。2020年という年じゃなきゃ成立しないことでしたし、何よりもパーティーバラモンのJACKSON Kakiをバーチャルバラモンに仕立てあげたのも佐久間さんの功績だと思います。

 

CVN:バーチャルバラモンと名付けただけで、kakiは自分の足で成長していったし、それを見ているのは頼もしいし嬉しい気持ちになりました。

 

ー さらにその後は、ippaida strageが現れたり、コロナ禍でローカルにやっていくしかない時にも映像出演でyeuleやDorian Electraが映像出演したりと、コロナ禍でいろんな人の道が閉ざされた中で新たな提案をしていきました。

 

CVN:それはAVYSS GAZEやってきたからできたことなのかなと思います。あれで培ってきた経験や肌で感じてきたことがあったから、映像出演というものに対して僕もkakiも価値を見出せることができるようになってきてて。

 

 

ー コロナ禍が徐々に明け始めた3周年イベントではyeuleとLil Marikoが映像出演してましたが、映像なのにメインフロアがすごい盛り上がってて驚きました。コロナ禍で配信コンテンツを楽しむ習慣がカジュアルに根付いてきた時期なのもあり、AVYSSならではの映像表現がリアルな現場と噛み合った奇跡的な音楽体験だったと思います。その翌年は先述のAVYSS Imaginaly line、AVYSS Cup、AVYSS Circleと多くのイベントを駆け抜けてましたね。

 

CVN:結果として残った数字だけにとらわれすぎず、自分の熱量がどこに向かっているのかを把握しつつ、自分なりの遊びを面白がっていきたいです。コミュニティを意識的に作ろうとしてはいませんが、何かしらの大切な気持ちを共有できるぐらいに近くなった友達?仲間?とは一緒に仕事をしたいと思ってます。

 

ー それって身内ノリや仲間だけを大事にするということじゃなく、とてもインディーな姿勢だと思います。誰かにできるだけ期待せず虚無と隣り合わせに生きてる以上、心の繋がりや美意識の共有があってこそ折り合いがつけられるとこもあるというか。

 

CVN:虚無は影のようでいて共存してます。どっか行ってほしいとも思ってないし、一緒にいるからこそ虚無が引き止めてくれて自分を見失わずにいられています。

 

 

ー ある程度長くメディアが続いている中で時代が変化しようとも大きく振り回されず、AVYSSに一定の温度感や独特の美意識がずっと残り続けているのも、そういった最初からちょっと引いた目線が根っこにあるからかもしれませんね。時には大胆な一歩も必要だと思いますけど、それがAVYSS史上最大規模の回遊型イベント・AVYSS Circleだったのでは?

 

CVN:ですね、1周年記念のイベントからAVYSSのイベントを手伝ってくれてるWWWの解放さんと2人で約7ヶ月の準備期間を経て開催しました。下北沢って小中規模のライブハウスやクラブが往来しやすい距離感で点在していたり、会場間も飲食店などが賑わっていたりと(サーキットイベントが)やりやすい環境や土地で、昔からインディーバンドを集結させるようなサーキットイベントがけっこうあったりして。街中で同じリストバンドしてる人とすれ違ったり、タイムテーブルを見ながら次の会場に向かってる移動の時間も町のお祭りのような雰囲気も相まって楽しめたりと、開かれた楽しさもあったと思います。もちろん反省点もあるけどやって本当に良かったし、来年2回目やりたいです。

 

 

ー 各会場は小規模なのに大きな催しに参加してる気分で、なんだかフェス感もあり面白かったですね。反省点というとILLASの混雑やあの伝説級にスベったというBBBBBBB×CVNの「UTSUKUSHII」のライブですか?

 

CVN:当日昼から準備始めて翌日の朝に終わって、7ヶ月かけて準備したものが1日をかけて終わるカタルシスというか、安堵感というか、呪縛から解かれた瞬間というか、味わったことのない解放感、とんでもなかったです。スタッフで参加してくれた皆様も大変だったと思いますし、感謝です。「UTSUKUSHII」は、Bの2人はどう思ってるかわからないけど、僕は今となってはネタにしてるぐらいだし、またハートが強くなれたなって思ってます。

 

ー あれからあっという間に1年以上が経ち、先日はAVYSSの5周年イベントがありましたが今年はどのようなコンセプトを意識しましたか?

 

CVN:ジャンル的な意味でのインディーが自分の中で強くなってきてる感じします。

 

ー ゲストアーティストのMeth MathがBBBBBBBのライブやtomdachi100のDJを楽しんでいたり、誕生日のYoyouにバースデーケーキをサプライズでプレゼントしたりと出演者がフロアでしっかり遊んでいた様子を振り返るとインディーというコンセプトが回収されたように感じます。

 

CVN:XのトリだったBBBBBBBのライブ後、WANDSの「世界が終るまでは…」の第5期バージョンをかけたら、お客さんの捌けるスピードが凄まじくて衝撃でした。オリジナルバージョンのが良かったのかもしれません。

 

ー 伝説の捌けミュージックでしたね。さて、軌跡を振り返る5周年記念インタビューもいよいよ終盤に差し掛かり最後の質問になるのですが、AVYSSの読者の方々へのメッセージはありますか?

 

CVN:特にはないです。

 

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