くまちゃんシール interview

夢見るニューエイジ、空中遊泳のポップ

 

 

いうなれば、夢見るニューエイジ、空中遊泳のポップ。大阪発のバンドneco眠る、そしてCASIOトルコ温泉のキーボーディストとしても活動する、おじまさいり。彼女のソロユニット、その名もくまちゃんシールが大阪のエム・レコードよりアルバム『くまちゃんシール』をリリースする。

 

まるで、わらべ歌のようなピュアで伸びやかな、おじまのボーカル/ボイスを軸とした、地に足着かない全11曲38分間。レゲエの文脈でもアンビエントの経由でも計れない、そんな自由型の無重力サウンドである。この不思議な世界観はいったいどこから? このインタビューでは音楽家のTakao、Le Makeupも参加した本作について。そして、そもそもくまちゃんシールとは?についてお聞きしましょう。まずは音楽活動を始めたきっかけから。

 

Text: Yusuke Nakamura

 

一生好き、と思ったことを忘れたくない感じ

 

くまちゃんシールの活動、実はかなり長いですよね。2013年にはSoundCloudに楽曲がアップされています。

 

くまちゃんシール:そうですね。けっこう長い。

 

京都で大学生だった頃にはバンド活動をされていたんですよね?

 

くまちゃんシール:21、22歳の頃にLOVELY SNOOPY LOVEという3人組のバンドを始めたんですね。もともと楽器とかできないけど、ポンとバンドを始めてしまって。

 

担当楽器は?

 

くまちゃんシール:ギター&ボーカルで。そのバンドとほぼ同じメンバーで始めたのがCASIOトルコ温泉。当時はその他にドクロズのキーボードのサポートをやったり。弾けないのに。それにEMERALD FOURも。今、思い出すだけで混乱しますね。

 

いろんなバンドを京都で掛け持ちされていたのは軽音サークルに所属していたということもあって?

 

くまちゃんシール:最初はサークルでも何もしていない人だったんですけどね。途中から(裸の)ラリーズのコピーバンドとかもやってました。からっぽ宇宙というバンドで。それが、のちのEMERALD FOURです。そのサークルにはいろんな人がいましたね。下駄を履いてる人とか。

 

そもそも大学の軽音サークルに入った経緯は?

 

くまちゃんシール:歌を歌いたかったんですよ。私、高校生までガリ勉で、漠然と勉強だけしてたので。小学校の時に合唱団に入ってたということもあり。サークルに置いてあったCASIOトーンを触ってみたら飽きないし、それにZOOMのリズムマシーンも飽きない。自動で鳴る機械が好きかもって。その頃はNEUがすごい好きで、THIS HEATとか。実家が米屋で精米機があるんですよ。

 

ご実家は兵庫県でしたよね?

 

くまちゃんシール:そうです。丹波篠山です。ずっと家に精米機があって、ザーって鳴っている音には親しみがあるので、その影響かもしれません。自動で音が鳴る機材で、好きなイメージを拾っていたことが今に至るような感じです。大学ではガリ勉じゃなくなりました。これまで勉強していたのが水の泡(笑)

 

 

くまちゃんシールとしてのソロ活動はどんなキッカケで?

 

くまちゃんシール:CASIO(トルコ温泉)ではできない曲をやる感じで。京都から大阪に引っ越して来てからなので、25、26歳くらいの頃ですね。その頃もDTMや楽器もできないけど、参加しているバンドがいっぱいあって、しかも働いてるし。もうぐちゃぐちゃ。リあ326(みつる)という名前で地下アイドルもやってたり。(難波のライブハウスの)BEARSで。

 

地下アイドル? 大忙しですね。

 

くまちゃんシール:でも時間があれば(くまちゃんシールを)作ってました。とにかく作りたい気持ちがあったので、ちょっとずつ曲を溜めていて。

 

2017年には1stアルバム『朝昼兼用』をカセットテープとBandcampでリリースされていますね。

 

くまちゃんシール:(カセットテープレーベルの)hoge tapesがデモ音源を募集していたので、気軽な感じで応募してみました。その頃から(KORGのサンプラーで)真空管が入ってる赤いエレクトライブが好きで。それも飽きない機材なんです。それで作り始めて溜まった曲をリリース。ジャケットのイラストを描いたのはmillitsukaさんで、今いろんなところで活躍されていますね。

 

ではあらためて、くまちゃんシールの名前の由来は?

 

くまちゃんシール:昔、シモジマで働いてたんですね。

 

事務用品や包装紙などを扱うお店ですね。

 

くまちゃんシール:船場センタービルの。そこでレターとかカードのコーナーを担当していたことがあって、シールなんかも補充してたんですね。くまちゃんシールは実在してるシールなんです。働いている時に、くまちゃんのシールは一生好き!と思って。その時の気持ちを忘れないように。

 

ずっと好きでいられるであろうシールを活動名に?

 

くまちゃんシール:その時は刹那的かもしれないけど、“一生好き”と、ふと思ったことを忘れたくない感じ。なにも考えずにタトゥー入れてしまうような。今は昔ほど激しく心が動くことはそこまでないけど。今はなぜそう思ったのか?を整理して考えたりしますけど。

 

 

くまちゃんシールとしてライブ活動は?

 

くまちゃんシール:当初は、CASIOトルコ温泉をよくやってた時期だからか、ソロもやってるというのがなんとなく恥ずかしくて。だからそんなにライブはやってないですね。最近やっと、です。

 

くまちゃんシールでの活動はバンドとは違ってどんな醍醐味が?

 

くまちゃんシール:とりあえず、ひとりでコツコツできるのが楽しい。

 

手芸のような?

 

くまちゃんシール:そうですね。それと、今を捉えたい。いいな!って思った気持ちを逃したくないし、残したい気持ちをすぐに曲にできる。ずっと、その“捉えたい!”に囚われてるような感じです。写真じゃもの足りない。

 

日記のような?

 

くまちゃんシール:そうですね。感覚的には日記のような。

 

これまでに日記を書く習慣が?

 

くまちゃんシール:中学3年生の時に、なぜか急に不安定になって毎日がしんどくなって。生きてて恥ずかしい気持ち。それで毎日、単語で日記を書き始めたんです。紅葉とか、夕暮れとか。単語3、4つくらいで。その方が文章の日記よりも自分にとって説得力があったんです。文章になる以前の形で残すような。そのことが頭にあって、あの日記の感じを、くまちゃんシールではやりたくて。だからやっぱりくまちゃんシールの音楽は日記なんですね。

 

いいな、と思った瞬間を日記のように残していく、と。

 

くまちゃんシール:私、メモをずっと付けていて。いいな、と思った字面とか。字に収まってることが好きなんですよ。コンパクトな感じが。音楽では、さかなの『夏』(91年作)ってアルバムがとても好きなんですけど、その感じがあって。短歌のような。重くならない、というか。

 

ではずばり、くまちゃんシールという音の日記で具体的に捉えたいもの、残したいものとは?

 

くまちゃんシール:イメージ的には、ですけど、冬に昼寝しちゃって4時半とかに起きたら周りが暗い。それでお湯沸かすと炎が青いとか。あと、深夜バスのサービスエリアでコーヒーを飲むとか。

 

孤独に浸るような瞬間?

 

くまちゃんシール:ちょっと甘めの孤独というか。中二っぽいですけど。自分に酔ってる感じの孤独。軽い孤独ですね。

 

くまちゃんシールの日記には他にどんなイメージが描かれています?

 

くまちゃんシール:例えば、本を読んでいるときに、ふっと現実に戻ることがあるじゃないですか? そのまたぐ感じ。その瞬間が好きで。それを探って、どう捉えていくか。あと、死ぬって思ってなくて生きてる人が好き。

 

例えば、どんな人です? 無鉄砲な人とか?

 

くまちゃんシール:(neco眠るのメンバーの)伊藤さんのような。いいなぁ、と思って。年相応だと、いろんなことになんとなく帳尻を合わせるじゃないですか? でも、そんな考え方ではない人に出会うと、ハーッと胸が震えます。その気持ちを捉えたい。

 

 

 

瞬間的な感覚を時間をかけて“日記”に

 

今作『くまちゃんシール』をリリースするキッカケはどのようなものでしょう?

 

くまちゃんシール:(リリース元であるエム・レコードの)江村さんに声を掛けてもらって。2019年の夏くらいですね。過去の作品も入れて、と考えてたけど、ちょうどパソコンのデータが飛んでしまって、サルベージもちょっとしかできなくて。だから計画的にアルバムを作るぞ!と。昔作った曲も、ほぼ1から。その頃に引越とかいろいろあって大変でかなり時間がかかってしまいました。

 

今作は元にあった楽曲もかなり趣向を変えて、オーバーダブされているんですよね?

 

くまちゃんシール:ある程度、完成した段階で(Le Makeupの)井入くんに手伝ってもらって。ミックスとかギター、シンセをオーバーダブしてもらいました。だから私だけが作った感じではないところはありますね。もちろん私、発信ではあるけど。(収録曲の)「CHINA珊都異知」はTakaoさんにアレンジとミックスもしてもらって。

 

今、エム・レコードの江村さんが隣にいらっしゃるのでお聞きします。くまちゃんシールの作品をリリースしよう、と声を掛けた理由は?

 

江村幸紀:カセットを買って聴いてみたらピンときて。まず最初は声かな。声は才能だと思うし。それに音楽性もSSWでもロックでもクラブミュージックでもなし。そこに彼女のポテンシャルがあると思って。

 

なるほど。今作『くまちゃんシール』は漂うようなボーカル、ボイスが特徴的でもあります。わらべ歌のようにも聞こえたり。

 

くまちゃんシール:わらべ歌とはよく言われますね。直線的な声だからかな。合唱団に入っていたからかもしれません。ソプラノ、それが残っているのかも。

 

今作をこれまでとは違い、“計画的”に制作されたことで、くまちゃんシールの新しい扉が開いた?

 

くまちゃんシール:かなり時間がかかりましたけどね。自分が瞬間的に捉えた感覚を、これまでとは違って時間をかけて形作っていったこともあって迷ったり、途中で自分が何がしたいのか?分からなくなってきたり。これまで曲を作るプロセスというものを考えたことはなかったんですね。

 

ではなぜ今作は“計画的”に制作されたのでしょう? パソコンのデータが飛んでしまったことだけでない理由とは?

 

くまちゃんシール:日記はその日、読み返しても日記じゃないんですよ。そのことに気が付いて。今までは捉えたい感覚を忘れないために早く音楽にして、すぐ出さないといけない、と思ってたけど。でも例えば、自分が住みたい家を建てているけれど、建てている時にはその家に住めないというか。日記は次の日以降に読んで、やっと“日記”になることに気が付いて。

 

曲で捉えたいイメージを瞬間的に、ではなくコツコツと積み上げて“日記”とするために?

 

くまちゃんシール:そうですね。これまで曲を作る時は、穴が空いて沈んでいく船の水を必死に掻き出している感じだったんですけど、捉えたい瞬間を積み上げていく作り方が分かった。ずっと慌てて作ってたけど、思っていることを落ち着いて形にするやり方が分かったというか。今作でやっと(音楽制作の)スタート地点に来た、という感じです。だいぶ遅いんですけどね。

 

では最後に、ご自身で今作『くまちゃんシール』を聴いてみて、客観的にどんな感想をお持ちでしょうか?

 

くまちゃんシール:まだ自分で客観的に聴くのは照れてしまって(笑)。でもアルバムとして、うまくまとまって良かった。アルバムタイトルもものすごく迷って、時間がかかったんですが、自分のこれまで総集編として『くまちゃんシール』としたんですね。

 

 

 

くまちゃんシール – くまちゃんシール

Label : エム・レコード

Release date : June 23 2023

 

作品仕様:

+ 通常ジュエルケース、8Pブックレット、帯、歌詞掲載

+ D&Mでマスタリング

 

CD版 : https://emrecords.shop-pro.jp/?pid=174761135

LP版 : https://emrecords.shop-pro.jp/?pid=174760040

 

TRACKS:

1. 食む (2:40)

2. 狼の庭 (3:08)

3. ラドナミン (5:17)

4. ペディキュア (3:00)

5. CHINA珊都異知 (3:17)

6. 晩夏 (4:23)

7. 芦毛の馬 (3:42)

8. 生牡蠣 (4:33)

9. カヌーで火を焚く (2:09)

10. 羹 (2:57)

11. TINYCELL (2:00)

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