2023/02/23
EP『no†alone』リリース
SoundCloud、Instagram、TikTokとスクリーンを横断しながら、同世代からのラブコールを浴びるLilniina。2020年より本格的な活動を始めた彼女は、国内のhyperpop / digicoreシーンと並びつつも、どこか私的な領域に潜んでいるように思える。
今回は2年越しのEP『no † alone』のリリースを機に、そのルーツや音楽性、また「共感」を呼ぶリリックの筆跡を辿るべくインタビューを行った。そう、「共感」こそが重要だと彼女は言う。うっすらと隔てられた自室で、ひとりでいないために。
text: namahoge
居場所だった音楽の世界
―まずは音楽体験の原点から伺えますか?
Lilniina:両親がロックバンド全般が好きで、幼稚園の送り迎えの車の中でLinkin ParkやMETALLICAなどを無意識で聞いていました。その中でも記憶に残ったのは、パパが流したNirvanaの「Smells Like Teen Spirits」で。なにこれ、かっこいいってなって、自分から音楽を探すようになるきっかけになりました。
―結構ハードめなロック一家だったんですね。
Lilniina:その頃は親も若かったので(笑)。でも当時の曲を聴くと、食べていたお菓子とか思い出せます。
―Lilniinaさんは『AVYSS ENCOUNTERS 2022』の企画でも、My Chemical RomanceやELLEGARDEN、Red Hot Chili Peppersなどをあげていました。
Lilniina:ELLEGARDENはお母さんがすごく好きで、小学生の時に初めてコピバンで演ったのが「ジターパグ」でした。思い出の曲です。
―小学生の頃にコピバンを?
Lilniina:学校に行きたくない時期があって、その時にママから「学校以外の世界があった方がいい」と、ギターのスクールに通わせてもらったんです。そのスクールの生徒や友達でバンドをやっていて。居場所を作ってもらったんですよね。
―それから高校生の頃までバンド活動を続けて、「自分が社会人になって就職してる未来が見えない」から「音楽で生きていく決意を固めて」いたと、PRKS9のインタビューで仰られてたのが印象的でした。
Lilniina:根拠もなく当たり前のように、「普通に働くのはないかな」って思っていたんです。漠然と。当時やっていたバイトも全然続けられずに飛びまくったりして……ママからも「社会の迷惑になるからバイトとか応募するな」って言われて(笑)。社会不適合者です。
―(笑)。ちなみにバンド時代はご自身で歌っていたんですか?
Lilniina:いや、その頃は歌うという選択肢が自分になくて。リードギターだったんですけど、曲もそんなに作ったことはありませんでした。でもLogicを触るようになって、適当に作っていたら曲になっていたので、歌ってくれる人もいないし自分で録音してみて。それを友達に聞かせてみたら「SoundCloudっていうのがあるからそこに載せてみたら」って。その友達というのがyingyangAranくんとBainくんで、ラップをやっている名古屋の友達ですね。ひとりで作った方が早いし好きにできるからという理由もあって、バンドをやめて活動するようになりました。
Lilniina:当時、友達に教えてもらったりサンクラで探したりして、JojiやLil PeepとかXXX Tentacionとか、国内だったらSleet MageくんやGokou Kuytさんをめちゃめちゃ聴いていました。その時のサンクラのいいねを遡ってみると、暗い曲ばっかりで。病んでいたんですかね……(笑)。
―それからネットを中心に活動していますが、名古屋のシーンとはどのような距離感でしたか?
Lilniina:名古屋のヒップホップシーンって硬派な方が多いというか、世代も違っていて、ほとんど交流はなかったですね。でも、今もどこかのシーンに入っている感覚はなくて。私はコラボ曲も少ないんですけど、バンドが続けられなかった理由も他の人と音楽を作れなかったからだし、ひとりで作るほうが性にあっているからで。だからサンクラ出身で頑張っている人たちを見て、すごいなって外から眺めてる、みたいな感覚で。
―特定の場所に属さないというのは望んでのことなんでしょうか?
Lilniina:属せなかったし、属さなくてもいいやと思っています。謎なくらいがかっこいいので、謎でいいです(笑)。
〈ぼく〉がいるからひとりじゃない
―Lilniinaさんの制作で最も時間をかけているのは何ですか?
Lilniina:リリックを書くことですね。
―その工程を教えてもらえますか?
Lilniina:日頃から歌詞に入れたい単語や言い回しをノートにぐちゃぐちゃっていっぱい書いていて。それからビートに合うように、テーマにしたい単語をピックアップしていって、物語を作っていって、という感じです。早ければ2日3日でワッて書いちゃう時もありますけど、本当にその時の気分というか、調子によります。波に乗って書き上げた時の方がよくなるんですけどね。
―歌詞に使いたい単語や言い回しというのは、何から得ることが多いですか?
Lilniina:映画がすごく多いですね。映画オタクなので。
―そういえば、Filmarksをめちゃくちゃ活用されていますよね。
Lilniina:そうです(笑)。家でやることないし、あんまり出かけることもないし。私にとって何か感情が動くものって映画なんです。映画って、「今日一日なにもやれてないな」って時にも、一日の最後に一本見ておけば「学びを得た」気分で寝れるので(笑)。いっぱい見ています。
https://filmarks.com/users/LilZzz27
―最近よかった映画はありましたか?
Lilniina:『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』はめっちゃ泣きました。すごく悲しい展開があるんですよね。それでまんまと泣いて。お母さんと二人でマスクがベトベトになって大変でした。
―(笑)。歌詞を書く時にも、感情が動かされることを重要に考えているのですか?
Lilniina:リスナーの感情が動いてくれたら嬉しいですね。私が「うわ、この曲めっちゃ好き」ってなる時は、「私もそうなんだよ」とか「やっぱこの人わかってるな」って思う時で。自分の感情を代弁してくれるような歌詞には心が動きます。だから自分がやりたいことは共感できるものを作ること。「共感なんてどうでもいいから、おれはこうだ!」みたいな曲もすごくパワーを感じていいんですけど、みんなが曲の主人公の視点に立ってほしいというのはよく考えています。
―先のインタビューではジェンダーに規定されない表現をされていることにも触れられていました。
Lilniina:なるべく誰が聴いても自分のこととして捉えられる歌詞を書ければな、と思って意識しています。曲によってはめっちゃ女の子って感じの時もあるんですけど。
―それこそ1stEP『Loveis0nline』は「二次元への恋」という現代的なテーマで、共感を集めたのだと思います。
Lilniina:そうですね。私のリスナーは色んな意味でオタクの子が多いと思うんですけど、その子たちに届くように書きました。
―その歌詞はLilniinaさんの経験を反映しているのか、それとも想像力をはたらかせて書くのか、どちらに比重がかかっていますか?
Lilniina : 私、あんまり「推し」がいたことないんです。このEPは参加してくれたアオイチヒロくんがナードでアニメ大好きで、私も電子音っぽい音楽が好きだったから「二次元への恋」というテーマが決まったんですけど、物語を作るような感覚で書いていたと思います。ハロウィンにリリースした「akumachan †」という曲も、テーマや世界観を先に決めてから書いています。
―Lilniinaさんはある種、ストーリーテラーのようなアーティストだと思うのですが、3rdEP『no † alone』のリリックを見ていて、普通に聴いていればスイートな甘い歌詞なのに、ところどころシニカルな視点が入っているように感じて。たとえば「SWEET SADTASTE」の〈吐き捨てたガム〉というワードチョイスとか、「akumachan †」の〈ふたりだけでいたい 痛い〉とか、単に視野狭窄なひとり語りではない、メタで切れ味のある言葉が入っている点に、Lilniinaさんの歌詞の面白さが現れているように思いました。
Lilniina : ありがとうございます。リスナーの子にもよく言われるんですけど、「声も曲調もかわいい感じなのに、歌詞よくみると怖い」って(笑)。でも本当に、それを目指していて。かわいいだけじゃつまんないし、歌詞に強い言葉を入れようとすることが多いです。
―3曲目の「Pretty or Die」も、「かわいいと言うか、死ぬか」と究極を迫っていて、強いですよね(笑)。
Lilniina : これは外見至上主義みたいな、完璧じゃないとダメ、かわいくないとダメっていう心情を書いていて。最近、苦しくなるまで「かわいい」に執着しちゃうような子も多いと思うんです。私もそういうふうな考えを持っちゃうことがあるからすごく気持ちはわかって。でもそれって生きづらいですよね。だから、1曲目の「SWEET SADTASTE」の〈不完全なぼくを愛したいと思うんだ〉という歌詞は自分への言葉でもあるし、みんなへの言葉でもあります。かわいいとかだけじゃなくてアイコニックな強い存在になりたい、完璧じゃなくても許していい、という思いを込めています。
―そういったメッセージ性、エンパワメント性というのも歌詞を書く上で重視しているのですか?
Lilniina : さっきお話しした学校に行きたくない時は、もう死にたいと思って目の前が真っ暗になっていたんですけど、支えてくれたり寄り添ってくれたのが、誰かの作った音楽や歌詞で。だから次は自分の番だなって。その頃から、私の音楽で誰かを支えられるようなことをしたいと思っていました。
―そのために共感できる物語を書いていると。
Lilniina : そうですね。でも、EPに入る「nothing」は私自身のエモーショナルな部分で書いていて。弱気で悲しげでちょっと病んでるのかな、みたいな感じなんですけど、根暗な時に書く歌詞は、自分が出ているかもしれません(笑)。「nothing」はリスナーの子から「歌詞がすごく刺さりました」って言われることも多くて、そういう時は受け入れられた感じがして嬉しいです。今回のEP自体、私の感情を含めいろんな物語が入っていて、いろんな感情に寄り添えるような作品になっていると思います。そういう意味で『no † alone』というタイトルにしました。
私がおばあちゃんになっても
―2020年に2枚のEPをリリースして以降、3rdEP『no † alone』は約2年の期間を経ています。
Lilniina : あんまり作ってない期間ですね……もう記憶がないですね、2021年の……。「Lonely Cat」(2022年)から「いきなりいっぱい作り始めたな」って、たぶん、みんな思っています(笑)。今年は頑張って月イチで新譜を出して、いっぱいライブもしたいです。
―その時期は不調だったということなんですか?
Lilniina : そうですね、スランプで普通に作っていませんでした。「Lonely Cat」をリリースしてから、こうすればいいんだっていう音楽性が固まってきた感じがして。そうすると楽しくなってきて、たくさん作るようになりました。
―音楽性というと、どのようなことですか?
Lilniina : バンドサウンドのルーツに戻ろうということですね。2枚目のEPがかなりハイパーポップのサウンドで、それから何もリリースしない時期が続いていて。ギターを入れてみたら楽しかったというのが大きいです。
―それこそ初期はご自身でトラックも作られていたんですよね。
Lilniina : そうですね。今はクオリティのことを考えても、他の人のトラックの方が上手だし、たまたま理想のサウンドを作る方がいるので、私はギターを足したり、構成をいじったりというくらいでやっています。
―ギターはご自身で足されているんですね。そもそも、ロックやエモラップがルーツにあって、どうしてハイパーポップのサウンドを作っていたのでしょう?
Lilniina : 当時一緒にいた友達がBladee(周辺、Drain Gang)にハマっていたので、遊んでいる間ずーっと流れているのをよく聴いていて、私もやってみたくなって。電子っぽい音はそれまで聴いてきた音楽にはなかったけど、選択肢が増えたというか、自分の声と相性いいじゃん、っていうので挑戦してみたんですよね。私、「絶対この人!」みたいなアーティストがあんまりいなくて。昔からいろんな音楽を聴いてきて、少しずつ吸収したものがオリジナルになって私の音楽になっているんだと思います。
―なるほど。むしろLilniinaというアーティストのコアにあるものって、ロックと同じくらい、もしかしたらサンリオのキャラクターなどなんじゃないかと思ったのですが、どうでしょう?
Lilniina : (笑)。バンドを好きになったのと同じくらい昔から、可愛い子のぬいぐるみとか人形が好きで。中学生ぐらいになってお小遣いをもらい始めると収集癖みたいなものが出てきて、リビングデッド・ドールズっていう怖い人形にハマっちゃって、わーっと集めて壁一面に飾ったり、サンリオも買いだしたら止まらなくなっちゃって……。かわいいものはこれからも、おばあちゃんになっても買い続けます(笑)。
―(笑)。好きなものに素直なところもLilniinaさんの魅力なんだろうと思います。本日はありがとうございました!
Lilniina – no†alone
Release date : February 22 2023
Stream : https://lilniina.lnk.to/notalone
Tracklist
1. SWEET SADTASTE (Prod. by Kukyo Icey)
2. My Problem (Prod. by Fantom)
3. Pretty or Die (Prod. by Darrick)
4. akumachan † (Prod. by Fantom)
5. CRUSH (Prod. by Daitana)
6. nothing (Prod. by Daitana)
category:FEATURE
tags:Lilniina
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