2020/03/31
新しいペルソナ、心の箱庭、ロンドンの現状、変革期の先の進化に向かって
ロンドンを拠点にするバンドBo NingenのフロントマンTaigen Kawabeが、ソロプロジェクトIll JaponiaとしてデビューEP『Ill』を先月リリース。『Ill』は、同じくロンドンを拠点にするアジアの音楽にフォーカスしたコミュニティ〈Eastern Margins〉のレーベル第一弾リリースとなった。今回はバンド活動10年を超えて、新たなスタートを切ったTaigen KawabeことIll Japoniaにメールインタビューを行なった。
– Bo Ningenとしての活動もある中で、Ill Japoniaをなぜ、どのようにして始めたのでしょうか?
Ill Japonia – 元々バンドを始める前から一人で音楽は作ってはいたのですが、いつもセオリーがない作り方をして毎曲違うジャンルになったり、ライブも即興を基本にしていたのもあってバンドやRemix work以外での作品を中々リリース出来ずにいました。そんな時に釈迦坊主やYamie ZImmerなどの日本の革新的なTrapアーティスト達を聴いてガチ喰らったと同時に、Trapを接着剤にしたらまとまった作品が作れるのではないかと。自分が作っても一般的なTrapにならない確信はあったので、それなら別名義で自分の新しいペルソナを作ってみようかと思ったの始まりです。
– バンドで10年以上活動する中で、初めてのソロデビュー作品となりましたがどのような作品になったでしょうか?
Ill Japonia – 自分の脳内、心の箱庭を形にしたような作品になったかと思います。 ビート組みもラップ録音も全てロンドンの自室で行ったので、必然的にIntimateな、自分と向き合う音/歌詞になりました。
– 共同作業が多いバンドとは異なり、しかも音楽性も違うソロ作品ですが 制作する中でバンドとは違う発見や苦労などはあったでしょうか?
Ill Japonia – 若いTrapアーティストのインタビューなどを読んだり彼らと現場で話していると、良い意味でインスタントというか、Bo Ningenで僕達がやっているプロセスとまるで180度違うなと。右脳と左脳じゃないですけど、バンドで使った事がない神経/エンジンをかなり使いましたし、それをバンドにも還元したいなというのもこのプロジェクトを始めた理由でもありますね。あとは基本的に一人の製作=ジャッジが自分一人になるので、楽曲の構成から曲全体ぼイメージ、ボーカル/ラップのテイクまで自分だけで判断しなくてはいけないのはとても新鮮でした。一人で手探りでまとめていくのは大変でしたが、逆に降りてきたものを全部録音できる強みもあったり、とても新鮮でしたね。
– よろしければ、各曲のリリックについて解説してもらえますか?ほとんどはご自身に向けている内容が多いのでしょうか?
Ill Japonia – たまにBo Ningenの歌詞も説教くさいと言われるのですが、Ill Japoniaとしても自分に向けて歌っている曲が多いです。ただ自分一人の世界とも違くて、聴いてくれている、観てくれている人に繋がる意識は常に持っています。ライブ中に目を瞑らないで絶対客全員の目と心の中を見るぞと、それは一人で部屋でラップを録音している時も同じですね。
[Sauna Mizuburo]
普通何かをテーマに曲を書いたりすると、あまり上手くいかない事が多いのですが、サウナだけは別でした。押し付けがましくなく、スッと自分の一部になるような。サウナについては下のサウナの解答で詳しく書きますが、シラフのサイケ、自己浄化、自分をみつめ直すという意味ではライブしてる時もサウナもまったく変わらないなと。自分はサウナをこう使ってるけどそれが決して正しい答えではないので、とにかく皆サウナに行って、各々感じてみて欲しいなと。
[Social Alien Riot]
完全に日本語、英語の縛りをなくして自分語でしか作れないflowを追求して、歌詞も降りてくるものを何も考えずに録りまくったので、自分で歌詞を書き起こした時も空耳アワーみたいな感じでした。その歌詞をまとめていくと、社会の中のエイリアンが起こすRiot、ロンドンでの生活や音楽業界でアイデンティティを探し続ける自分。というテーマが浮かび上がってきました。作った時に直感でつけた曲名だったんですけど、EPを出すタイミングになって妙に意味が出て来たなと。バースによってマイクリレーをするかのように録音していったので、flowもですが歌詞も不条理というか、僕が一番好きな「ナンセンスなのにMake Sense」(尊敬するヌンチャク、あべともなりのような) 世界観が作れていたら嬉しいです。
[箱庭]
自分の思い出、特に小さい頃住んでいた渋谷区東の情景を、脳内で箱庭を作って再現しました。元々は歌詞の中に闘魂ショップ、オウムのサティアン、本屋など実際に近所にあった場所の名前が多かったのですが、Roller Girlとのデュエットを前提に歌詞を変えていったのもあって段々と外に開けて言ったなと。一人っ子で学校も家から遠かったので小さな時、一人で遊ぶ機会も多くて。そういう時、自分にしか分からないけど大切な、箱庭みたいなものがあったなと。そう考えてたら今、一人で音楽を作るのもそれと同じだなと。大人になって友達が増えたり、恋人ができても、自分のその感覚を大事にしたいし、相手の感覚も尊重したい。そういう意味ではラブソングかもしれないです。この前ロックダウン中に自室からインスタライブで歌った時に、「いつもが変わるのは、いつも突然」とか「何が大事でいらないか決める旅に出る」って、なんか今の世界情勢を自分に言い聞かせてるみたいで、歌いながらドキっとしてしまいました。
[MIZEL]
ソロとしての新しい出発の決意の曲です。自分のオートチューン処女喪失の曲でもあるのですが、歌詞にもある通り33歳の自分が若作りしてTrap作ったらこうなった、でも今だからこそ気づいた事、言いたい事。この歳だからたどり着いた今のアンサーを、これまた人生はじめて使用したであろう”エモエンジン”を爆発させて作りました。数日前、釈迦坊主と歌詞の話をした際に ”聴いている相手は勿論だけど、歌う自分が魂が入る歌詞かどうかが大事だよね”という話になり、その点でいうと「何歳からでもやり直せる、いまの俺だから言える事さ」というラインはこのEPで僕が一番魂を込めれる歌詞かもしれません。
[Lounge Muzak]
他の曲はビートができて直ぐにラップも録っていたのですが、この曲は歌詞やテーマを決めないうちからライブで即興で演奏しすぎて録音する時にどんなテーマ、歌詞にするかで悩み、もの凄く時間がかかりました。結果的に出て来た歌詞は、他の4曲でのテーマを紡いで今回のEPのテーマそのものになりました。過去と今と未来を線で繋ぐと共に、Trapを始めるきっかけになった釈迦坊主、後に共演して刺激を貰ったTohjiや若いTrapのラッパー達、そして聴いてくれているリスナーへの感謝を込めて。
– Bo Ningenとは音楽性は異なりますが、ご自身の中で活動の棲み分けはどのような感じですか?食品さんとのKISEKIの活動もありますよね。
Ill Japonia – Bo NingenのTaigen Kawabe、Ill Japonia、ステージを降りた時の川辺 大元、全て自分です。決して活動の際にキャラクターを使い分けるとかではなく、Bo Ningenの中でしか出せない感情や表現があるのと同じで、Ill JaponiaでしかOutput出来ないものを今回のEPにはたくさん詰めました。又それらはお互いに干渉しあって、両方の活動、さらには人として生きてく上でも良い効果を産むと信じています。他にmp食品さんとのKISEKI、河端さん(Acid Mothers Temple)とのMainliner、本名名義の即興ベース弾き語りなど音楽性、そして現場のジャンルやコミュニティーが全く違うところに関われるのは本当に幸せなことですし、現にIll Japonia名義でのライブを始めてからさらに人、音楽との出会いが広がりました。自分はコミュ症ながら、基本的に色々なところに顔を出したい人間で、Bo Ningenを初めたばかりの時、出るイベント全てがアウェーだった感覚が今この歳になっても再び味わえるのは、大変でもありますが非常にありがたい事だなと。最近ではIll Japoniaとして会ってから、Bo Ningenの事を知ってくれた人も増えてきたのでそれも嬉しいですね。気づかない内にバンドのイメージとかに縛られたり、ぬるま湯になっちゃったり言い訳になったりするんで、Ill Japoniaの時は丸裸の人間力が試される感じがします。落ち込む時もありますが、自分の伸び代が見えるので刺激的で楽しいです。
– 食品さん同様にEPの冒頭曲でサウナと水風呂についてフォーカスしています。Taigenさんにとってサウナと水風呂とはどんな存在なんでしょうか?リリックでも”まるで精神と時の部屋”とも例えていますが。
Ill Japonia – サウナはハイにもなれるので快楽的な側面も大きく、食品さんの言う通り新しいサイケデリックカルチャーとして捉える事もできると思います。それこそドラッグとダンスミュージックの密接な関わりと同じなのですが、自分は”シラフのサイケ”が自分の長所/特異点だとも思っているため、サウナとの相性がとても良いのかもしれません。普通、サイコアクティブで得た体験は作品にも色濃く出る事も多く、逆にジャンルや枠にハマりやすい危険性もあるかと思うのですが、サウナの場合ジャンルを超えた幅広い運用/活用が可能といいますか。。。後はなによりも、自分を見つめ直す場所として最適です。Sauna Mizuburoの歌詞にもある通り、サウナ内では良い事なかりでなく、自分の嫌なところに直面する場になり得ます。それも全部汗と一緒に出して、涙は水風呂に返そうよ(でもかけ湯で汗は水風呂前に流しましょう)といった曲ですね。 実際ノルウェーで食品まつりとサウナでライブした際、4日間の滞在中毎日サウナに入って、バカな話から真面目な話までしていた際、3日目ぐらいに音楽で生きていく事の覚悟を語りあいながら、はじめてサウナ内で泣いてしまいました。
– EPの中でも特にメロディアスな「箱庭」でフィーチャーしているRoller Girlとはどのような人物なのでしょうか?
Ill Japonia – リアル3区、ex-禁断の多数決など多数のバンドで歌ってきた方です。一昨年の日本ツアー中にサウナ帰りの居酒屋で出会ったのですが、めちゃヤバいバイブスの子だな。という第一印象で。音楽の趣味、交友関係、考え方から酒の呑み方まで自分とは全く違ったからこそ意気投合しました。「箱庭」では彼女の声が入る事で僕一人の箱庭ではなく、外に向かうエネルギーが広がって聴いている人と繋がりやすくなったなと思うので、彼女にもとても感謝しています。
– 本作はロンドンのコレクティブEastern Marginsのレーベル第一弾となりますが、リリースに至った経緯を教えてください。
Ill Japonia – ロンドンでアジアの実験/前衛的、特に電子音楽のカテゴリーでイベントを打つ唯一無二のコレクティヴとして非常に気になっていて、去年自分からIGで連絡をとりました。元々彼らもBo Ningenの事を知っていてくれたのもあり、昨年6月にIll Japonia名義でのブッキングをして貰って以来Gaika、Kamixlo、Tohji等が出演したSound Crash、今月頭のKeep Hush x Eastern Margins (再びTohjiが出演)等、ライブだけでなくロンドンでBo Ningen以外の、もう一つの居場所を作ってくれたのがEastern Marginsです。今回のEPも最初は自分でSelf Releaseするつもりで動いていたのですが、彼らがレーベルとして動き始めるタイミングと合致し、ボスのDavid (a.k.a Lumi)と話し合いの結果、最終的にサウナでミーティングして決まりました。
– 現在様々な立場の人が大変な状況ですが、コロナウィルスの影響は周りの音楽関係者やタイゲンさん自身にどのように変化をもたらしていますか?ロンドンの現状を知りたいです。
Ill Japonia – ロンドンではちょうど1週間前の月曜日からロックダウンが始まりました。数週間前までは日本と少し状況が似ていて、先にロックダウンを開始したヨーロッパ諸国とは当初こそ温度差があったのですが、段々イギリス内でも僕自身を含め「自分だけでなく周りの命を救うために家を出ない、例え家族でも、同居している人以外に会わない」という意識が強くなってきているのを感じます。それと同時に健康、衛生面を気をつけるのは勿論のこと、先が見えない状況/収入/更新されていくニュースから産まれる不安やパニック、さらには感染者、感染疑いの人、特定の人種や主義が違う人に対する差別などの二次被害にも合わないよう、又自分が気づかないうちに加害者にならないように。なるべく冷静に、精神面を含めた健康を意識しています。 音楽面では、一番身近なところでは、3月27日にTohjiと釈迦坊主を迎えてロンドンで行う予定だった自分のEP Launchがキャンセルになりました。その代わりに企画したCafe Otoという会場からの無観客ライブ配信もロックダウンにより公共の場で二人以上集まることが禁止になり中止に。Bo NingenとしてもUKは勿論、今決まっているライブはほぼ全てキャンセルになりました。
僕自身、表現方法、そして勿論生活するための収入としてライブがかなりの割合をしめています。バンドは特にライブは勿論の事、スタジオに数人で集まって音を出すこともできない現状では曲作りのプロセスも変わってきます。
こう書くとマイナス面ばかり目につきますが、これを期に自宅スタジオに篭って製作に集中し始めるミュージシャン仲間が増え始めています。僕もソロとしては勿論の事、Bo Ningenの過去音源/ライブ音源のミックス/マスタリング等もはじめました。今の自分、そして過去の自分とも向き合って学ぶ、良い機会になっています。今出来ること、今の状況でしか気づけない事をプラスに捉えて進化する時期だなと。
中止になってしまったEP Launchですが、結果的に自室から一人でIGライブにてライブ放送しました。その時に、日本で入院している友人が病院の携帯からでも観れて、とても嬉しかったとメッセージをくれました。僕自身、盲腸になってライブ会場にいけない際、部屋からライブハウスに繋いでのSkypeライブ中継を経験して以来部屋からのライブ配信には可能性を感じていますし、これからもっと従来の型に捉われない色々な表現方法が増えてくると思います。中々見通しが立たないからこそ収束した際には、以前の状況に戻るだけでなく、お互い進化していよう。というのが、最近のミュージシャン仲間との共通認識となっています。
– Ill Japoniaとしての活動の展望を教えてください。
Ill Japonia – 今年はBo Ningenとしても6年ぶりのリリースを控えているのですが、Ill Japoniaとしても定期的にリリースを重ね、バンドで繋がれないシーン、アーティストの人たちとももっと知り合いたいし、知らない世界線、知らない景色をもっと見たいです。今世界が大変な変革期にきているので、本当に色々な事が変わっていくと思うんです。それについていく、逆に先回りするぐらいの意識をもって、さらに自分に向き合って進化を続けていきます。
Ill Japonia – “Ill”
Label : Eastern Margins
link : https://easternmargins.fanlink.to/EM001
Tracklist
1. Sauna Mizuburo
2. Social Alien Riot
3. 箱庭 (feat. Roller Girl)
4. MIZEL
5. Lounge Muzak
category:FEATURE
tags:Ill Japonia
2020/01/27
2月7日リリース ロンドンを拠点にするサイケデリック / ノイズ / カオティックバンドBo Ningenのフロントマンであり、食品まつり a.k.a foodmanとのユニットKISEKIとしても活動するTaigen KawabeがIll JaponiaとしてデビューEP『Ill』を発表。 本作『Ill』は、同じくロンドンを拠点にするアジアの音楽にフォーカスしたコミュニティ〈Eastern Margins〉のレーベル第一弾リリース。〈Eastern Margins〉はTohjiをロンドンに招聘したことをきっかけに昨年10月にはWWWβにて〈Mall Boyz〉とのコラボレーションパーティー「6 pac」も開催している。 英語と日本語を織り交ぜ、Taigen Kawabeとしてのアイデンティティーが詰め込まれた本作をレーベルはミュータント・シューゲイズ・ラップと称している。Roller Girlが参加した「箱庭」や、盟友である食品まつりのようにサウナと水風呂にフォーカスした「Sauna Mizuburo」を含む全5曲。タイポグラフィーはbod [包家巷]が手がけているようだ。 Ill Japonia – “Ill” 1. Sauna Mizuburo 2. Social Alien Riot 3. 箱庭 (feat. Roller Girl) 4. MIZEL 5. Lounge Muzak Pre-Order : https://easternmargins.bandcamp.com/album/ill
2022/01/12
ソウル、東京、ロンドンを行き来する物語 PianWoooが、昨年〈Eastern Margins〉からリリースした最新EP『Bird’s Eye View』からIll Japoniaをフィーチャーした「Kawasaki」のミュージックビデオを公開。 ロンドンの工業地帯で撮影されたこのミュージックビデオでは、PianWoooとIll Japoniaが街の忘れられた空間に映し出される。WAV collectiveとEastern Marginsのクルーに見守られながら、2人は英語、日本語、韓国語を融合したリリックを披露。Lu Xiao Weiの指揮のもと、東アジアと東南アジアのコミュニティによる映像に仕上がった。 PianWooo – Bird’s Eye View Label : Eastern Margins Release date : 2nd December 2021 Buy : pianwooo.bandcamp.com/album/birds-eye-view Tracklist 1. Yamang 2. Bird’s Eye View (ft. Renaqami) 3. Kawasaki (ft. Ill Japonia) 4. Only (ft. Renaqami) 5. I Don’t Know
2019/09/10
これまでの自分や環境からの”解放” 2018年11月、EP『Femm』でデビューしたDoveが、待望の2nd EP『Irrational』を発表。9月20日に〈PURE VOYAGE〉からリリースされる新作から先行でタイトル曲が本日公開された。今回は、過去から現在と未来について、また新作『Irrational』について伺った。Doveは9月28日にWWWで開催される「AVYSS 1st Anniversary」が東京での初ライブとなる。 Photo by motoki nakatni – Doveとしての活動はどのように始まったのでしょうか? Dove – Doveはそもそも音楽活動とは関係なく、たまたま入ったリサイクルショップの鏡にタイ語でダヴと発音する文字が貼られていて調べてもそれに意味はなかったんですがダヴを英語表記にした時に「平和の象徴の白い鳩…なりたいなぁ」という単純な理由で名乗り始めたんです。Doveとしてまだ本格的に音楽活動をしていなかった最初の頃は友達の映像を作ったり、ヘアショーのミックスを作ったり、前の形のペフの際にオペラの企画をさせてもらったりと活動に満たない事をいろいろしました。確か、Doveと名乗る少し前にLe Makeupの音楽をイベントで初めて聴き感動して私も音楽を作りたくなったんです。その事を本人に伝えて、好きな音楽の話をしたら盛り上がって「きっと音楽出来ますよ!やりましょう!」と言ってくれたのが音楽を始めるきっかけでした。 – それまで音楽制作は全くされてなかったのですか? Dove – Le Makeupに出会うまでは本格的に音楽活動や制作はした事がなかったです。幼少期の話になるんですが、歌う事は大好きでイーカラを買ってもらって歌っていました。でもそれより自分のアカペラをカセットテープに録音して聴くのが好きでしたね。その頃、合唱団に入っていたんですけどそれは全然楽しくなくて「これを歌いましょう」って言われる事が「歌いたい!」に繋がらなくて通うのが本当に嫌でした(^_^;)学生時代はお母さんがもらってきてくれたキーボードを雰囲気で弾くだけで思うように弾けなくて2、3ヶ月で押入れに入れてしまいました。誘われてバンドもしましたがそれもすぐ消沈してしまって…それ以降も音楽をしたいなと思ってもしようと行動に移すことはなく、ネットサーフィンばかりしてそれまで身近にいた人達が知らないような音楽を探して聴いて時々一人でライブへ行くぐらいしかしていませんでした。 – 改めて1st EP『Femm』について聞かせてくだい。ご自身にとってどのような作品になったでしょうか? Dove – 『Femm』の全曲プロデュースがLe Makeupで一緒に作っていく過程で、曲が育っていくのを感じて私も自分で曲を作ろうとなれた作品です。 形になりリリース出来たことはもちろん嬉しかったんですが、今まで沢山の音楽を聴いてても曲ができる過程に触れたことはなかったのでこの制作がきっかけで音楽の存在がより近いものになったことにも喜びを感じました。 – どのようなプロセスで制作されていったのでしょうか?また、タイトルの意味や、歌詞はどんな内容を表現しているのでしょうか? Dove – 『Femm』の2曲目「Lies」はLe Makeupと出会って一週間とかでデモが出来きました。そこから私も体調を崩したりでタイミングが合わず、半年くらいたった頃イベントの帰りにPHOTON POETRYと電車で一緒になって話してたら仲良くなり、デモを送りつけたら主催イベントに誘ってくれました。それをキッカケに本格的に音楽活動がスタートし、「Femm」や「Nanette」が出来た段階で5曲ほどあったのでEPリリースを決めました。タイトル曲の「Femm」は音が雄大で母性みたいなものに感じたのでFemmeからとりました。「Lies」は浮遊感とか時間が嘘みたいに感じる時があってそれには形がないから感覚を言葉にしました。「Nanette」はLe Makeupがハンナギャツビーのnannetという線引きを性別でするのではなく、人間の多様性と自分のあり方にフューチャーしたスタンダップコメディに感化されて考えたらしいです。私も大好きなショーです。 – 今作『Irrational』は『Femm』をさらに拡張させた世界を展開しているように聴こえました。 Dove – 今作の制作中に起こった自分や周りの環境の様々な出来事に困惑し、そんな中で人に心配や迷惑をかけてしまう自分の存在にも疲れてしまって音楽を作れない状況になっていました。いろんな悲しさが一つの塊だと思っていましたが「たまたま重なってしまった」と消化できてからは一つ一つの問題に自分の感情をまず優先しようと思えて、これからを考えることができました。それから程なくしてLe Makeupとの共作「Angel Diaries」を制作している時に音楽をする事は私の消化方法の一つでそれが生活だと感じ今作の制作をまた進め始めることが出来ました。『Irrational』はこれまでの自分や環境からの”解放”がテーマです。今作はセルフプロデュースをしていて、前作から得たものが自分の中で形にできたという部分では佐久間さんが言われている通り拡張された世界で、『Femm』が壮大だったり捉える部分が大きなイメージだった分『Irrational』は自分の内面に焦点を当てているので違う雰囲気を感じられる作品になったんじゃないかなと思います。 – 理想の未来はどのような世界でしょうか。 Dove – 「怖い、辛い、違う、嫌だ」と伝えるとある人からはネガティブに捉えられる事でも、自分自身はそのままを感じとって認めるということが重要だなと思います。誰もが評価する側、評価される側の時代とかは関係なく、いつの時代もそれぞれの私が私の気持ちを大切に出来てからそこにいられる未来が理想です。
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