Road to Thunderdome 2019

ハードコアを愛するレイバーたちの楽園

 

 

2019年10月26日、オランダ・ユトレヒトにて世界最大級のハードコアフェス〈Thunderdome〉が開催された。ハードコアテクノ発祥の地であるオランダに、世界中から約5万人ものレイバーが集い、轟音と感動に心を震わせた。ほとばしるハードコアの饗宴を捉えたレポートを写真とともにお届けする。

 

Text & Photo by yukinoise

 

 

本フェスは1992年から始まり、20年目となる2012年を区切りに一度活動を休止した。その後、25年目にあたる2017年に活動を再開し、今もなおハードコアの歴史に名を残し続けている。27年目となるこの日は、ハードコア界のレジェンドたちが集結したメインフロアから、オールドスクールへのリスペクトを掲げたフロア、インダストリアルな楽曲が流れるフロア、スピードと強さだけを極めたフロアなど多彩なフロアが用意された。各フロアのテーマや詳細に関しては、YouTube上にて事前に公開されている。

 

 

会場内には歴代のフライヤー、レイバーのユニフォームともされるトラックスーツの数々が展示された。その他にもタトゥーや理髪ブース、華やかにきらめくスリルライドなど多彩なアトラクションが設けられている。飲食や物販はもちろん、これらのアトラクションはThunderdome専用のトークンで利用可能。トークンは会場内の専用ブースで現金と引き換えられる。ここはもはやフェスではなく、テーマパークというべきだろう。豪華絢爛に彩られた会場は、ハードコアを愛するレイバーたちの楽園と化していた。

 

 

 

従来のフェスともっとも異なる点は、とにかく踊りやすさに特化しているという点だ。通常、にぎわいを見せるフェスであると、観客同士がおしくらまんじゅうのように身を寄せあわざるを得ないことがある。どれだけ盛り上がっても、高揚感や情熱を最大限に表現できるほどのスペースを確保するのは難しい。一方、今回のThunderdomeでは巨大なコンベンションホールを貸し切っており、レイバーそれぞれがのびのびと踊ることができるほどのスペースがしっかりと確保されていた。Angerfistなどの名だなるアーティストが並ぶメインフロアには大量のレイバーが押し寄せたが、それでもある程度の踊れる余裕があったのは衝撃的だった。

 

 

また、入場前には入念なボディチェックが行われた。スタッフに不必要と判断されたカバンや大きめの上着は備え付けのロッカーにしまうよう指示される。これも踊りやすさのひとつだ。ハードコアの祭典で余計な荷物を背負う必要はない。

 

 

Milenium Hardcoreを中心としたフロア・ HEROES OF HARDCOREでは、往年のハードコアファンからフレッシュなレイバーまで老若男女が熱狂した。三連符が続く力強いサウンドと、レイバーたちのHakkenによる振動がフロア全体を奮い立たせる。午前2時、Endymionのプレイでは、多くのレイバーたちが汗ばんだ身体を寄せ合いながら四肢を振り上げた。ステージ裏でキックとともに燃え盛る炎にも負けぬほど、フロアの盛り上がりは最高潮に達していた。

 

 

 

ちょうどそのとき、熱が立ち込めるフロアの最前列で狂ったように踊り続ける青年のそばに、ドラッグを求め話しかけようとするジャンキーが現れた。彼女は物欲しそうに青年を見つめながら踊る。そんな彼女に目も向けず、ドラッグではたどり着けないレベルの絶頂を全身で表現するように踊り続ける青年。そのパワーにうろたえたジャンキーは、話しかけるのを諦め、踊りながら引き下がっていった。ガバキックが鳴り響く中、それぞれのコアが無数に交差していく。こんな映画のワンシーンのような光景が見られるのもレイヴの醍醐味のひとつかもしれない。

 

 

中でも一番の熱気を感じたのは、およそbpm200〜2000ほどの楽曲をテーマとしたフロア・Tunnel of Terror。朝6時にもかかわらず、武骨なテントのような作りのフロアに、変態すぎるほど速い音を求める熱狂的なレイバーたちが集結した。

 

 

早朝の疲れも眠気も吹っ飛ばす勢いのプレイでフロアを沸かせたのは、オランダ・ルーワルデン出身のDJ・Noisekick。エルフを模したマスクを被り、スピード感溢れるプレイする姿はまさにモンスターそのもの。速すぎるがゆえ踊ることすらできず、苦渋の表情を浮かべる者や、呆然と立ち尽くしてしまう者もいた。スモークと光のヴェールに包まれ、妖しげに揺らめくNoisekickの影は、彼を悪魔にも神様のようにも見せた。

 

 

 

朝8時。大量のゴミが散らばるフロアの中、興奮さめやらぬレイバーたちはまだ踊り続けていた。会場からユトレヒト中央駅まで繋がる道なりですら、祭りの後の静けさを感じさせぬほどの盛り上がりを見せている。強烈な余韻に浸るかのように踊り続ける姿は、レイヴとしてのあるべき姿を示しているようだ。オランダの冷たい風と燦々と降り注ぐ朝日が痛いほど染みる中「Never Ending Thunderdome‼︎」と笑い合うレイバーたちの瞳は、あの夜見た無数に飛び交うレーザーよりも光輝いていた。

 

 

 

 

今回のThunderdomeの様子は、公式ホームページとInstagram上にて公開されている。現在、アンセムを手かげたDitherのライブ映像もYouTubeにアップされているので要チェックだ。

 

 

また、これまでのThunderdomeの歴史を振り返るドキュメンタリー映画の上映も決定している。残念なことに、日本での上映はないようだが、トレーラー映像はYouTubeにて視聴可能。ハードコアの生きる伝説を、しかとその目に焼き付けてほしい。

 

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