2018/08/06
井入啓介がLe Makeupになるまで。そして現在と未来。
井入啓介ことLe Makeupは関西学院大学に通う現役大学生のプロデューサーである。大学に入ってから本格的に曲作りを始めてすぐにKenji Yamamoto(Wasabi Tapes)の審美眼によって見出され2016年6月にEP『Diegese』でデビューを果たす。その後もAshida ParkやDark Jinjaからリリースが続いたところで、ギターと歌という自分の武器を徐々に導入し、元々チラついていたメロディセンスにより普遍性がクリアになり始める。その後もドラマ『電影少女』の劇伴(tofubeatsディレクション)の仕事を経て、日本においてはあまり他にない立ち位置を確立しつつあるLe Makeup。地獄のような暑さの日に天王寺で話をした。
– 1番最初に買ったCD覚えてる?
Le Makeup – Limp Bizkitのベストやったと思います。僕、5歳上のお兄ちゃんがおって、お兄ちゃんが最初に音楽好きになったんですよ。で、小学生の間、お父さんにお兄ちゃんと2人毎週TSUTAYAに連れてってもらって、CD4枚で1000円で借りれるってやつでずっとCD借りてたんです。時には8枚だったり、それで洋楽コーナーをほとんど借りきったといっても良いくらいとにかく毎週借りてもらって(笑)だから最初は「買う」とかなかったんですけど、なんでかわからないですけど、Limpのベストを小学校高学年のときに自分で買ったんです。それずっと聴いてましたね。
– 当時はそういうジャンルに興味があったの?
Le Makeup – そうですね、他にもSlipknotとかMudvayneとかそういうの聴いてましたね。あと筋肉少女帯とか(笑)最初はお兄ちゃんが聴かせてくれたレッチリから入ったと思います。最初は自分で好きな音楽を探すというよりはお兄ちゃんが好きなものを聴いてた感じですね。そこから段々自分で探すようになって、中学のときには普通ですけど、Sonic YouthとかDinosaur Jr.とかPavementとか好きで聴いてました。そこからThe CureとかThe Smithsとか大好きになってみたいな。お兄ちゃんはギターが好きで、テクい人とか好きやったんですけど、僕は最初からフロントマンとか作曲してる人が好きで、ギターも練習するのが嫌いやったんで、コード調べて自分で歌ってましたね。ギター自体は小学4、5年生から始めましたけど、今も速弾きとかは出来ないです。
– 曲を作るようになったのはもっと後だよね?
Le Makeup – (曲を作ることに対して)ずっと憧れはあったんですよ。携帯のボイスメモに録って1人で聞いて恥ずかしくなるみたいなことはしてて。高校入ってガレージバンドでギター録ってみたりはしたんですけど、そのときはDAWが難しく感じたんですよね。宅録はできるんですけど、MIDI打ち込むとかが意味わからんわってなって、けっこう諦めてたんですよ。
– バンドはやらなかったの?
Le Makeup – バンドはすごいやりたかったんですけど、やっぱ中高のときって「俺は違うぞ」みたいなのあるじゃないですか(笑)周りにもバンドやってる人はおったんすよ。おったんですけど、「なんかちゃうな」みたいな。「俺がしたいのはこういうので・・」みたいなのがあって、バンド組むのすらしなかったです。最初からコピーとかは興味なかったんで、みんなとやるのは意味ないなと思って。音楽の話できる人もいなかったですし。ただフリースタイルダンジョンが始まる何年か前に高校でヒップホップが流行ってた時期があって、高校生ラップ選手権とか、ああいうのが流行ってたんです。で、僕はその頃Simi Labの1stとかOdd Futureとかを聞いてヒップホップが好きになってて、高校で音楽の話するならヒップホップの話みたいになったんです。逆に高校のときはロックみたいなのはそんなに聴いてなかったですね。ほとんどロックだった中学生の頃はSonic YouthやDinosaur Jr.とかと並行してKlaxonsとかMGMTとかも好きやったんですよ。その流れでJusticeとかも聴くじゃないですか?そういうのもいいなぁとはって思ってて、高校入ってから聴きだしたヒップホップもクラブミュージックとして興味湧いて聴いて、大学入るまでにギリNight Slugsを認知してくらいの感じやったんです。Jam Cityのクラブコンストラクションズ聞いて、「なにこれー!」って思って。(笑)
– 大学に入ってWasabi Tapesからリリースするけど、どういう流れであの音楽性に近づいたの?
Le Makeup – 最初ほんとNight Slugs大好きで、そこからFade To Mindを聴くようになって、Fatima Al Qadiriが好きになったんです。その時期がちょうどAbletonを買った時期と同じで、最初Fatimaのコピーみたいな感じで始めて曲作りを覚えていったという感じです。Fatimaのメロディを聴いて作って、「あ、似てる似てる」みたいな、それをサンクラにアップしてたんです。出来上がった曲とFatimaのやつは全然違うものやったと思うんですけど、それをひたすらずっとサンクラにあげてて、ほんま再生回数10回ぐらいの時からKenjiくんがlike付けてくれてて。
– まじか。すごいな。
Le Makeup – 最初、この人は何者なんやろって、わからなかったんです。でもなんかめっちゃフォロワーおるなと思って(笑)色々調べて、この人か〜みたいになった頃にリリースの話がきたんです。SIMをやる前にKenjiくんが僕の事を周りの人に紹介してくれてたみたいで、Hikawaさんからもlike来るようになって、また僕はこの人誰なんやろってなって。ほんと2、3日に1回ぐらいのペースで大量に曲をアップしてたんですよ。作ったやつ全部あげるみたいな感じで。すぐ消したりとかもしてましたけど。それを3ヶ月くらい続けてたらKenjiくんがlikeつけてくれるようになって、あと大学の先輩のAnalskiとGirlyBoyが褒めてくれて、ほとんど誰も聴いてないけど、この3人が聴いてるし続けようみたいになって。(笑)
– Wasabi Tapesのあと、コンスタントにリリースしてるよね。
Le Makeup – Ashida ParkのやつはたぶんWasabiのを聴いてオファーもらったんですよ。Wasabiからリリースして、反響があるって思ってなかったですし、実際あったかどうかわからないですけど。今あの作品を聴くと全然わからなかった割にちゃんとやったなと思います。ただ、原案みたいな感じでサクッと作った感じで、クォンタイズもバラバラなんで、本当に初心者が勢いで作ったって感じがしますね。(笑)
– サンプリングはしない方?
Le Makeup – 『Hyper Earthy』ってEPがあるんですけど、それだけめっちゃしてますね。それ以外はほぼしてないです。
– ギターを導入し始めたのはいつぐらい?
Le Makeup – Ashida Parkから出したとき、レーベルの2作品目やって、けっこうリリースに力入れてくれたんです。Galtierのリミックスとか入れてくれたり、StaycoreとかNAAFIあたりの皆んなに送ってくれてたり、けっこうガチやなって伝わってきてて、しっかりやらなと思って気合い入れて作ったんですよ。でも、それが自分的にスベった感じして。なんていうか、向こうの感じとか世間のモードに合わせすぎたかなと。だからリリースして、1ヶ月後には曲が古く感じたんですよ。それで同じことやってても全然楽しくないなと思ったんです。クラブトラックって消費される音楽じゃないですか?そういうトラックを作った感覚があったんです。リリースされたときにインターネットラジオとかでももともと一方的に知ってたDJの人たちがかけてくれたりしててすごく嬉しかったんですけど、リリースされて1ヶ月経ったらもう終わりかなって感覚あって。あ、もう死んだなって。そんときに別にクラブ行ってたわけじゃなくて、Wasabiから出して、ライブ呼んでもらえるようになってからクラブ行き始めたんです。だから自分が作ったものが身近にある音楽じゃないなと感じたんです。音楽ってもっと生活の一部なんじゃないかなって思い直して、次は誰も聴かんでいいからもっと自分に近いものを作ろうと。で、『Unaccustomed Earth』からギターを入れてみたんですけど、ギター使い始めたのもずっと部屋にギターあって、そういえば弾けたよなみたいな感じで弾きだしたらしっくりきたんですよ。『Unaccustomed Earth』はミックスとかあんま気に入ってないし、ビルドアップ的な部分もひどいんですけど、曲的には割と良かったなって自分でも思ってます。
– それ以前の作品よりオリジナリティがあるね。
Le Makeup – ですね、自分でもそう思います。最初の方は正直自分でもヒップやと思ってやってたんですけど、でも全然後追いやんって思って。それが悪いかどうかはわからないですけど、別に海外のレーベルからリリースしたいとかじゃなくて単純に良い作品を作りたいだけやねんみたいな。だから今みたいな作風にしたわけじゃないですけど、客観的に見てそう思ったし、『Unaccustomed Earth』作ったときに手応えあって、こっちのがいいやんって自分で思えたんです。かといって、別にこういう風に作ろうとか考えて作ったんじゃなくて、逆に何も考えずに作ったら出来たみたいな感じですね。あとこれって自分でリリースしたんで、それも大きかったかもです。レーベルからリリースすると自然と音が寄ってしまう部分もあるので。だから自分で通学中とかに聴くのはこれ以降の作品ですね。『Hyper Earthy』は地味な曲多いですけど、けっこう聴いてもらえたかなって思ってます。前のでもさりげなく歌ってるんですけど、これの2曲目(『Purity』)でしっかりめに歌い始めたんです。『Purity』出来たときはけっこう手応えありましたね。『Hyper Earthy』は全曲サンプリングしてて、サンプリング使ったのも初めてだったんですけど、人のやつ使うとうまくいくなぁって思いました。(笑)これに関してはほんとけっこう考えて作ったんですよ。Hyper Earthyって思いついたときは「あ、絶対コレ」って思ったし。(笑)
https://youtu.be/M3QzI8Kvlak
– Earthyってどういう意味?
Le Makeup – 思いついたときは意味知らなかったんですけど、Earthyって土っぽいとかダサいみたいな意味らしいっすね。この頃、スーパー銭湯が好きで通ってて、いつも露天風呂入りながら、そっから土が見えるんすよ。で、「Earthyやな〜」って。(笑)それでEarthyに付けるならHyperかなって思って。よくわかんないですけど。地面から湧き出た温泉に浸かりながら空見てて、「あー全部繋がってるな」HyperにEarthyだなみたいな。Ashida Parkから出したEPから『Hyper Earthy』も繋がってるし、何事にもストーリーがあるんだぞっていうことです。
– では、『電影少女』の劇伴はどういう経緯だったの?
Le Makeup – 僕、tofubeatsさんの大学の後輩で、曲を聴いてもらってたってのが大きいと思います。tofuさんがメンバーをディレクションしてて、関西出身の若手でやりたいみたいなのがあったと思うんですけど、普通の感覚ならあそこの中に僕入ってるのはおかしいんですよ。カラー的にというか、マルチネ的人選だと思うし。でも関西はシーン狭いんで繋がるんですよね。最初、僕抜きのメンバーで話進んでたらしいんですけど、シリアスなシーンに使う暗い曲足りひんってなって、そこで呼んでくれて。だから暗いの担当してました。(笑)使われたのは数曲ですけど、2、3週間で7曲ぐらい作りました。
– 反響はあった?
Le Makeup – そこまで広がったとは思わないですけど、でもやっぱ知ってくれてる人は増えたかなって思います。クラブとかで知らない人と話したときの「あ、知ってます」みたいな感じが変わりました。今はもう「ルですけど、知ってるっしょ?」ぐらいの感じですね。(笑)関わってくれている人全てに感謝です!
– 時系列が遡るけど、Le Makeupって名前はどうやって付けたの?
Le Makeup – 曲作り始めたときにFatima Al QadiriとかARCAとか好きやったんで、LOTICとかセクシャルマイノリティだったり、そういうフェミニンなニュアンスがかっこいいなって純粋に思ってて。ほんま何も考えんとMakeupかなって。そしたら語感でLe付けよかなって。今はなんか名前だけが残ったって感じですね。
– 話戻るけど、最近だとJeormeからのリリース以外は自分のBandcampからだよね。レーベルからよりも自分でサクサクとリリースするスタンスなのかなって思ってたけど、実際どうなのかな?
Le Makeup – 最初はそういう考えだったんですけど、自分で出し続けても前聴いてくれた人がまた聴いてくれるだけで。いや、それはめっちゃ嬉しいんですけど。やっぱ僕、ここで止まりたくないなって思ってて。レーベルから出したらそのレーベルのファンの人も聴いてくれるじゃないですか。今でも海外で認知されてるのが、自分でもあんま納得してないAshida Parkのやつなんですよ。プロモーションとかあんまり得意じゃないので、ちゃんとしたリリースはレーベルからしようって今はなってます。『電影少女』の仕事とかあったし、ライブとか呼んでもらえるようになって日本での状況は良くなったなとは思ってます。
– ここで止まりたくないってのは今後こういう感じになりたいって理想があるの?
Le Makeup – 芸能人になりたいわけじゃないし、ただ音楽がやりたいんですけど。なんていうか、スターになりたい訳じゃないけど、売れたいみたいな感じっすね。売れるために何かをしたいわけではないし、売れるって僕もどういうことかわからないですけど、自分がかっこいいなって普段思ってるようなトップのプロデューサーになりたいです。今後、他人のプロデュースとかもしたいですね。今、友達のดบ『Doveちゃんに歌ってもらって作ってるところで、それ結構自信あります。今のJ-POPってシティ感とか捉われがちじゃないですか?変に捻って洗練されてないものが多いと思うし、自分の好みとしてあんま好きじゃなくて、もっとソリッドなの作りたいなって思いますね。
– 自分の曲で一番気に入ってる曲はどれ?
Le Makeup – 『Life Intonation』に入ってる『Red tinged Memories』ですね。これ出来たときは俺やるやんって思いました。 今は最近作ってるやつの方が好きで、もうそんなですけど。
– これからも歌モノやっていくのかな?
Le Makeup – 歌モノ作る方が楽になってきましたね。別に歌メインじゃないし、ジャンルでいうと歌モノではないかもしれないですけど。最近作ったのは全部歌入ってますし、もっとちゃんと歌ってます。日本語で。次、Eternal Dragonzからリリースされるやつは意識して全部歌モノにしました。気合い入れました。最近コラボも増えてて、元Gang Fataleのメンバーで、最近PERMALNKからリリースしたBasile3とか、ベルリンのblastahとかとやってますね。あとAshida Parkからまたリリースするんですけど、それも好きな人達と出来そうで、上手くいけばいいなーと思ってます。
category:FEATURE
tags:Le Makeup / Pure Voyage
2018/11/12
2018年ベスト。 Le MakeupことKeisuke Iiriが作詞作曲/トータルプロデュースで、シンガーDoveのデビューEP『Femm』が11月14日に〈PURE VOYAGE RECORDS〉からリリースされる。 10月にEternal DragonzからリリースされたLe MakeupのEP『Matra』以降のエレクトロニックR&BとDoveの声が奇跡的な相性をもって新しい時代のポップミュージックに昇華。2018年のベストの一つ。 Dove 『Femm』 1.Femm 2.Lies 3.Nanette all tracks written & composed by Le Makeup. co-written with dove.
2019/11/28
1月4日、club STOMPの詳細が公開 Le Makeup、Doveを中心に新たな広がりを見せているコミュニティ / レーベル〈Pure Voyage〉が2020年に、大阪、東京、京都の3都市でショーケースを開催。 1月4日大阪 club STOMP、1月15日東京 K/A/T/O MASSACRE at Forestlimit、1月31日京都 BnA Alter Museumで開催される本イベントの大阪公演の詳細がまず公開された。Le Makeup、Doveに加えて、Baby Bae、pootee、Ψυχή、Ooshima Shigeruが出演。 Pure Voyage pr. 「Beauty Spot」 2020.01.04 OPEN 23:00 VENUE club STOMP 2000yen+1D Baby Bae pootee Ψυχή Ooshima Shigeru Le Makeup Dove
2019/05/27
6月16日、STOMPにて開催。 CORINもプロデュースで参加したデビューアルバム『PRINCI』を、昨年リリースしたシドニーを拠点にするシンガーPRINCIの来日が決定。 Le Makeup主宰のレーベル/ショップ〈Pure Voyage〉の初のパーティー「Beauty Spot」にPRINCIの出演。Le Makeup、Dove、BabyBae、DISTEST、kawatalu、Kazumichi Komatsu、salakona at lastが共演。 「Beauty Spot feat.PRINCI」 DATE 6/16 (Sun) VENUE club STOMP OPEN 16:00- ADV 1500yen DOOR 2000yen (+1D) -Live- PRINCI Dove Le Makeup -DJ- BabyBae DISTEST kawatalu Kazumichi Komatsu salakona at last
第1弾収録アーティスト発表 more
レーベル第一弾作品は後日発表
more
受け手の自由に寄り添う作品
more